先日、どのような風の吹き回しか、ニッポン放送さんから番組出演のオファーを頂きました。
元テレビ朝日アナウンサーの竹内由恵さんがMCを務められる「竹内由恵のT-times」という番組で、中小企業の経営者と竹内さんがフリートークをするという企画でした。
大学受験浪人生だった私は、ニッポン放送のリスナーでした(とは言っても、昼に受験勉強を頑張ってから夜のリラックスタイムにオールナイトニッポンを聞くような典型的な受験生リスナーではなく、受験勉強は早々に昼前に飽きてしまい、午後は鉛筆を持ちつつもお昼下がりのテリー伊藤さんや笑福亭鶴光師匠の番組をだらだら聞いているような、なかなか不真面目な浪人生リスナーでした・・・)ので、少しニッポン放送には思い入れもあり、オファーを受けることにしました。
昔はちょっと憧れたラジオブースでのお仕事でもあり、当日やや浮かれながら有楽町のニッポン放送へ。
「あのテリーさん、うえちゃん、鶴光師匠、お美和子様が使っていたのと同じ本物のスタジオ、本物の機材だぁ」とちょっとだけ興奮しつつ、竹内さんとお会いし、番組収録開始。
自分が今、院長、医療者としてライフワークとしてやっていきたいことなどを中心にお話しをさせて頂きました。
以下よりpodcastで放送をお聞きいただけますので、ご興味のある方は是非どうぞ!(私の登場場面は4:24頃からです)
文字起こしはこちらから!
テレビでもご活躍された竹内さんですが、高飛車なところは全くなくとっても気さくな方で、収録後もいろいろな話をさせていただきました。
その収録後のお話しの中で、竹内さんがどうも数日前にお子さんから風邪をもらって、咳が止まらないと。
どうも喘息があるとのことですが、処方されている吸入薬、やりなさいといわれているのになかなか続けられないんですよねと・・・(OAでもこのお話しをされていらっしゃいました)
喘息の病態を説明し、吸入治療の継続の重要性をご説明し、そして吸入薬の使い方、吸入手技を説明し・・・
ん、夢のニッポン放送のスタジオで、いつもの仕事だ(笑)
さて、今回はそんな竹内さんも含め、多くの方がお困りの「咳」に対し、その原因を突き止めるための「さまざまな検査」について、一気に書き上げてみようかと思います。
ニッポン放送出演記念、気も大きくなり、今回はかなりの長文、大作になりそうです。
当院には、日々咳が止まらないことにお困りの方が数多くいらっしゃいます。
その中でも、数週間以上長い期間症状が良くならない方も少なからずいらっしゃいます。
咳は出てすぐの場合と、長引く場合でその原因が異なることが多いものです。
例えば咳が出始めてからすぐの場合は「感染症」からきているケースが多い一方、出始めてから時間が経っているケースでは、「感染症ではないもの」が原因の多くを占めるという傾向があります。
でも、本来は長く続くような「感染症ではない」咳が、出始めてすぐに当院にいらっしゃる方もいますし、一方、中には「感染症」なのに何カ月も治まらないタイプの病原菌(有名どころでは「結核」とか「百日咳」とか)もあって、これだけでは判断はできません。
それにいくつかの原因が重なることも実は珍しくありません(例えば鼻とか目とかのアレルギーである花粉症は、気管支のアレルギーである喘息としばしば重なりますし、花粉症や喘息などで咳が出るとおなかに圧力がかかって胃液が食道に飛び出す「逆流性食道炎」を起こして、それがまた咳の原因になったり・・・)。
とまあ、とにもかくにも、「咳」の原因を高い精度で診断するということは、本当に手間と労力のかかる作業なのです。
そんな時、診断のお助けになるのが「検査」です!
一つだけ検査についての注意点を挙げましょう。
医学の検査には「絶対」という概念がありません。
検査はその病気の診断の確率を「上げたり」、「下げたり」するものです(100%にしたり、0%にしたりするものではないということです)。
具体的には、まずお話の内容や診察で、その病気の可能性(つまりだいたいの確率)を考えることから始まります。
その結果、「この病気と診断したい!」と思ったら、その病気である「確率を上げるため」に検査をします(逆もあり、「その病気じゃないと診断をしたい!」と思った時に、その「確率をさらに下げるための」検査をすることもあります)。
検査の結果が陽性だったら、その病気の可能性が高まり、確定診断に大きく近づくことができます。
一方、「たぶんその病気だろうな」と思っていたにもかかわらず、検査の結果が思わず陰性だった場合は、確かにその病気である確率は最初より落ちます。
でも最初のお話しの内容や診察によって当初導き出された確率を、100%ひっくり返すことは通常ありません。
確率は低くなっても、最初の確率が高ければ、その病気の可能性はまだまだ残るのです。
(このことは2020.2.29 医師ブログ 「検査」を正しく理解するには ~難しいけどなるべくわかりやすくしてみます~ にくわしく書いたことがありますので、お時間のある方はぜひお読みください)
とまあ、いろいろと難しいことを述べましたが、言いたいことは「検査だけでは診断は決まらない」ということです。
あくまで「問診の内容、診察の情報が大事だよ」ということで、「検査は絶対ではない」んだよということは、皆さまにも知っておいてもらいたいと思います。
ということで、咳を診断するために必要な検査を、まずは簡単に挙げていこうと思います。
まずは皆さまの多くが思いつくであろう、「胸部レントゲン」検査です。
胸部レントゲン検査についてはこちらに詳しく説明をしています(2022.3.24 医師ブログ 祝!最新式レントゲン装置導入記念ブログ レントゲン写真ってどんなもの?)。
咳の原因としては、3週間以内の咳ならば感染症の可能性が高く、それ以上続く咳なら、感染症の可能性が減り、そのほかの多岐にわたる原因の可能性が上がります。
肺炎であれば、レントゲンで肺の中に影が見えます。
肺炎にもいろんなタイプがあり、種々の細菌、ウイルスによる肺炎、結核やカビなど、やや特殊な病原菌による肺炎から、間質性肺炎、免疫異常による肺炎などがあり、これらはそれぞれ特徴的な影の形をとります。
その形をみると、だいたい(もちろん完璧にではないのですが)どのようなタイプの肺炎かを推測することもできます。
また肺がんであれば、肺の中に固まりが見えたり、その影響で肺が縮んでしまったり、水が溜まってしまったりするのをとらえることができます。
他にも心不全だったら、心臓が大きくなって左右双方に水が溜まる、気胸だったら肺がパンクして縮む様子が見られるなど、たった数秒で撮影できる検査で、様々な情報が得られることがあります。
ただ残念ながら、風邪や気管支炎、喘息、鼻炎、逆流性食道炎など、咳の原因として頻度の高い病気では、胸部レントゲンでは何も映りません・・・
確かにいい検査ではあるのですが、万能ではないのです。
そこで他の検査を組み合わせることになります。
咳の診断にまずは使える呼吸器系の検査は、主に3つあります。
最初にご紹介するのが肺機能検査(スパイロメトリー)です。
この検査では、肺の膨らみやすさ(肺活量)や、気管支の空気の通りやすさ(1秒量)がわかります。
この検査は2通りの検査方法があり、息をゆっくり最大限に吸ってゆっくり最大限に吐き出す「肺活量測定」と、息を思いっきり吸ってできる限りの速さで吐き出す「努力性肺活量測定」の両方の検査を行います。
「肺活量測定」では、肺活量(肺活量は息を最大限吸った状態から、何リットル吐けるか)がわかり、「努力性肺活量測定」では、1秒量(息を最大限吸った状態から一気に吐き出した時に、最初の1秒間で何リットル吐き出せるか →息を思いっきり吐いた時の気管支の空気の通りやすさ)を知ることができます。
例えば気管支の狭くなる病気、例えば喘息やCOPD(いわゆるタバコ肺)などでは、肺の膨らみやすさ(肺活量)はあまり変わりませんが、気管支の空気の通りやすさ(1秒量)が悪化します(空気の通り道である気管支が狭くなると、肺の中の空気が気管支を通って出ていけなくなり、最初の1秒間に吐ききれなくなるからです)。
また肺が硬くなる病気(間質性肺炎など)では、肺が膨らみにくくなるので肺活量は落ちますが、気管支は狭くないので1秒量は変わりません。
またこの検査をもとに、「肺年齢」というのも計算できます(当院に来られる方は、最初の時点で多くが実年齢より20~30歳年上になっていることが少なくありません。その年齢のインパクトに皆さん愕然とされるのが呼吸器外来あるあるです)。
今の肺の状態を知ることができるいい検査なのですが、正しい検査の結果を得るためには、検査のやり方を正しく行う必要があり、これが簡単でないのが欠点です(検査中にせき込んでしまったり、思い切って吸ったり吐いたりするときに、つい奥ゆかしく加減をしてしまったり、など)。
うまく検査ができないと、「肺年齢」がめちゃめちゃ上がり、皆さんを絶望の淵に追いやってしまいます。
ですので、検査をお手伝いする医療スタッフの声掛けなどがとっても大事な検査です(当院の看護師は患者の皆さんがこの検査をうまくしていただけるように、かなーりの絶叫で声掛けをさせてもらっています。びっくりされるかもしれませんが、うまく検査をしていただくためですし、当院の看護師は本当はみんな優しい白衣の天使ですので、どうかビビらないでください・・・)。
次行きましょう。
2つ目は呼気一酸化窒素検査です。
こんな機械なのですが、患者さんはこの機械に一定の強さで10秒程度息を吹き込みます(ゲームみたいに画面のアニメをみながら行うと、うまく検査ができるように工夫されています)。
気管支の中でアレルギー反応が起こると、気管支の中に「一酸化窒素」という気体が出てきます。
この検査では、その吐く息の中に含まれる「一酸化窒素」の濃度を調べることで、気管支の中で起きているアレルギー反応を知ることができます。
気管支の中でアレルギー反応が起きる病気、それは気管支喘息です。
正常の方の一酸化窒素濃度は20ppb以下のことが多いのですが、気管支喘息だとこの濃度が上昇し、37ppb以上の方では、喘息の確率が99%と(つまりほぼ喘息と)判断できます。
先ほどの肺機能検査では、気管支の狭さはわかるのですが、それが「何で狭いのか」がわかりませんでした。
この検査では、その狭くなっている原因が、「アレルギーによるものか、そうでないか」がわかります。
つまり、肺機能検査で気管支が狭く、かつ呼気一酸化窒素が増えていたら、それは「喘息」といっていいことになります(逆に、この検査が上がってなければ、アレルギー出ない原因で気管支が狭くなる病気、たとえばCOPDかもしれないということがわかるわけです)
呼気一酸化窒素濃度は鼻炎でも多少上がったりしますし、もともと高い方もいる一方、この数値が上がらない喘息の方もいらっしゃったりと、解釈はそんなに単純ではないのですが、気軽に行えてわかりやすく診断がしやすいこの呼気一酸化窒素検査は、今では咳の診断には不可欠な検査です。
そして最後に、モストグラフ検査です。
この検査は、機械についた管に向かって普通の呼吸をすると、気管支の空気の通りづらさを測ることができる検査です。
検査を受ける方は口に管をくわえて呼吸をするだけなのですが、その際に機械から管を通じて一定の弱い衝撃波が出てきます(吹っ飛ばされたりするような衝撃波ではないのでご安心を)。
衝撃波が機械から管、口を通じて気管支に伝わると、呼吸をしていた時の気管支の空気抵抗(つまり空気の通りづらさ=空気の通り道の狭さ)がわかるという仕組みです。
肺機能検査では、思い切って吸う、思い切って吐くなど、検査の際に普通の呼吸と違う呼吸の仕方をする必要があるのですが、このモストグラフ検査では、できる限り力を抜いて、心を無にして普段通りの呼吸で検査をするようにします。
気管支の狭さを知るという点では肺機能検査と同じなのですが、この検査では肺機能検査ではわからない、気管支のどこら辺(手前側なのか、奥深くの部分なのか)が狭くなっているのか、気管支の狭さが、吸うときと吐くときでどのように変化しているのか(肺機能検査では吐いているときの状態しかわかりません)など、実際の呼吸の状態をリアルタイムに反映した評価ができるのが特徴です。
このデータを活用すると、そもそも気管支が狭くなる病気なのかどうなのか(肺機能検査では拾えない気管支の狭さを拾い上げられるケースがあります)、もし気管支が狭くなっていたら、その狭くなるパターンは喘息やCOPD(タバコ肺)、そのほかの原因で気管支が狭くなる病気なのか、その見極めにとても有効に使えます。
あとは、心臓が悪くて咳が出ることもあるので、その場合には心電図の検査が役に立つことがありますし、採血による血液検査では、炎症の度合いやアレルギー体質の有無、どんなアレルギーがあるかをはじめ、他の臓器の影響など、様々な情報がわかります(が、咳に関しては血液検査が決め手にならないことが少なくないのが、咳の診断の難しいところの一つでもあります)。
まずはこれらの検査であたりをつけていき、さらに詳しく掘り下げる必要があるときには痰や尿の検査、肺や副鼻腔のCT(当院では今はまだCTの機械がないため、近隣の病院で撮影してもらって当院で説明をしております。CT、欲しいなぁ・・・)、気管支鏡検査(これは当院にあります!)などを行っていくこともあります。
問診内容や診察をベースに、これらの検査の結果を加味して、その原因を診断し、治療しながら診断の再検討や薬の微調整を行っていくというのが、咳の治療の流れになるわけです。
とまあ、さすがに字数オーバーか・・・(このブログ初の5000字超えです)
長すぎるとさすがに皆さん読む気をなくすかと思うので、これらの検査については、いつかまたの機会に、それぞれもう少し掘り下げて書いてみようかなと思います!