医師ブログ

2020.06.22更新

世間はだいぶコロナの雰囲気から遠ざかっているようで、この週末も街や観光地はにぎわったそうです。茅ヶ崎駅から当院の面する雄三通りにかけても、ずいぶん行き交う方が増えた印象で、どこか私もホッとした気分になります
しかし東京も神奈川もまだまだコロナの陽性患者は継続的に出ており、まだまだ収束とまでは呼べないのが実情です。

先日週刊誌に掲載させていただきましたが、今回は糖尿病の方向けの情報誌に1ページ頂いて寄稿させていただきました。

糖尿病情報誌

詳しくはこちらをクリック!


内容は2月に当ブログに掲載した内容に若干手を加えたものです。
当時はこれからヤマが来るという時期であり、皆さん興味を持って読んでいただいたブログでしたが、やや気が緩みやすくなっている今、改めて皆さんにお読みいただきたい内容です。今一度、振り返ってご確認いただければ幸いです。

今回私にとってはやや畑違いの糖尿病の情報誌というメディアへの掲載となりましたが、これは言わずもがな、糖尿病の方には新型コロナの重症化リスクが高いとのことで、糖尿病患者の方に知っていただくべく出版社からご依頼を頂いたものでした。

やはりこの時期においても、特に糖尿病、高血圧、COPDなど、基礎疾患をお持ちの方は気を付ける必要があります。
そして何より一番怖いのはこれらの病気があるにもかかわらず治療していない(もしくは不十分な)方、これらの病気の傾向があるにも関わらず未治療の方、そして何よりこれらの病気の傾向がありながらも気づいていない方です。

やはりどんな元気な方でも1年に1回は健診を受けたほうがいいのです。
職場などで健診を受けているならいいのですが、そのような機会がない方は特定健診を活用してください。

健診を受けていただくことで自分の今の状態を知っておくことができ、早期に対策を打つことができればこれがコロナ第2波以降の非常に有効な対策となります。

茅ヶ崎市、寒川町では本来毎年6月~8月に行われていますが、今年はコロナ禍の影響で6月が実施されず、7月、8月と2ヶ月に短縮して行われることになっています。

 

当院では待合の座席はお互い距離を取れるように設定し、感染症が少しでも疑われる方との動線も分離しております。
先ほど挙げた寄稿のように、大事なのは飛沫を浴びないこと、手のひらを守り、顔面からウイルスが侵入してこないようにすることです。
基本的対策がなされていれば、飛沫感染、接触感染は必要以上に恐れる必要はありません。例年通り是非安心して健診を受診していただければと思います。

昨今コロナを必要以上に恐れ、慢性疾患の治療を中断する(幸い当院の患者さんはほとんど全ての方がしっかり治療を継続していただいておりますが)、健診を受けない、予防接種を受けないなど、必要な受診までもしなくなってしまっている例が多く報道されています。
自分のため、周りの方のため、コロナは正しく恐れ、是非必要な行動はしていきましょう!

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.06.07更新

緊急事態宣言が解除され、茅ヶ崎市内も人通りが戻ってきているようです。
加藤医院のある茅ヶ崎駅周囲もお店が開き始めて活気が戻ってきていますが、3密っぽい環境もちらほら見かけるようです。
引き続き感染予防を続けていただくことが大事です。少しずつ日常を楽しみながらも、依然油断しないように過ごしていきましょう。

前回は高齢者の肺炎の原因、対策までお書きしました。
今回は肺炎の対策で、大きな役割を占める「予防接種」についてお話しします。どうしても長くなってしまうので、途中難しかったらそこは飛ばしてお読みください。

肺炎はその20-30%が肺炎球菌という菌が原因となることが分かっています。

肺炎球菌は、莢膜という厚い膜に覆われている菌で、攻撃性の強い菌と言われています。
この菌はその名の通り、肺炎を引き起こすことが多い菌で、特に小さな子供と高齢者にとって重症肺炎をおこるリスクが高い菌です。
また喘息、COPD、糖尿病、慢性的な心臓、腎臓、肝臓の病気を持っている方など、抵抗力の弱い方はより重症化しやすいとのデータも出ています。Shea, K. M. et al.:Open Forum Infect Dis 1(1)
加えて、肺炎球菌という名前にも関わらず、この菌は脳炎や髄膜炎、中耳炎なども引き起こすことがあり、命にかかわることも少なくありません。

これらに対し、肺炎球菌ワクチンというワクチンが存在し、上記のような方には接種をしたほうがいいと言われています。

成人の方が接種できる肺炎球菌ワクチンには、23価肺炎球菌ワクチン(ニューモバックスNP)と、13価肺炎球菌結合型ワクチン(プレベナー13)という2種類があります。(ちなみにプレベナー13は以前加山雄三がCMキャラクターを演じていました。雄三通りにある当院との相性はバッチシです(笑))

これらのワクチンは高齢者の重症肺炎球菌性感染症の発症率を減らすという報告がされています。
ここからはワクチンと免疫のちょっと難しい話をするので、説明不要な方は読み流してください。

 

「23価」肺炎球菌ワクチン「13価」肺炎球菌結合型ワクチンの「価」とは、肺炎球菌の莢膜がもっている型のことです。この型が違うと、毒性や感染性などの性質が少しずつ変わるとされており、この型は現在90種類以上あると言われています。ただこの中で我々人間に対し強い影響を示す型はいくつかに限られています。
で、23価のワクチンというのは23種類の型を、13価のワクチンというのは13種類の型をカバーするというわけです。13価ワクチンでカバーする型は、ほぼ23価ワクチンでカバーできています。

そしたら、「23価だけでいいじゃん」ということになるわけですが、ここで13価「結合型」ワクチンという「結合型」という言葉の出番です。

体の中には「B細胞」という、リンパ球の一種があり、このB細胞は外からの刺激を受けると、敵を排除するための「抗体」を作れるようになります。一つのB細胞は1種類の抗体しか作れません。
23価ワクチンは、このB細胞を直接刺激して、23種類の肺炎球菌の型の抗体を作ることを促すワクチンです。

一方、体の中にはもう一つ、「T細胞」といわれるリンパ球もあります。

T細胞にもいろいろありますが、この中のヘルパーT細胞はいわゆる「免疫の司令官」と言われており、T細胞が敵の情報を受けると、B細胞にその敵の性質、弱点などの情報を詳しく提示することができます。
するとB細胞はより的確に敵を排除するための抗体を作れるようになります。
また一度情報を教えてもらったB細胞のうちの一部は、その情報を一生記憶して体内に残り続けます(これをメモリーB細胞といいます)。これがあると次に肺炎球菌が侵入してきたときに、より早く、より多く必要なB細胞を作ることができ、すぐに抗体を大量に作ることができるようになります(これを「免疫応答」といいます)。

13価結合型ワクチンは、この「T細胞」が認識できる成分が「結合」されており、これにより「免疫応答」を導くことが出来るワクチンです(一方23価ワクチンには残念ながらこの「免疫応答」を導くことができず、時間が経つと効果がなくなってしまいます)。

肺炎球菌ワクチンの機序


簡単にまとめると、23価肺炎球菌ワクチンであるニューモバックスNPは、肺炎球菌を広くカバーできるものの効果が長続きしない特性があり、13価肺炎球菌結合型ワクチンであるプレベナー13は、カバーはそこまで広くない(それでも主要なものは大体カバーできています)ものの、その戦い方を覚えこませることで、一生効果を持続させることができるという特性があると言っていいでしょう。

で、これらはどちらかを選びましょうというわけではありません。どちらも接種したほうがいいとされています。それぞれ働きが違うので、両方を接種することで肺炎球菌に対する対策を万全にすることができます。

ただしこれらのワクチンは同時に接種することができず、一定期間開ける必要があります。
またニューモバックスNPは上記のように効果が長続きしないため、1回目接種後5年経過したら再接種することが推奨されています。
そして現在各自治体では肺炎球菌ワクチンに対する助成があり、茅ヶ崎市ではその年に満65,70,75,80,85,90,95歳、そして100歳以上になる方に対し、生涯1回目のニューモバックスNP接種時のみ助成が出て、4000円で接種可能です。
一方プレベナー13この5月に接種できる対象が広がり、対象となる方がニューモバックスNPと多少の違いがあります。

このように状況は人それぞれですので、どちらから接種したほうがいいのか、どのようなスケジュールで行ったほうがいいかは、当院など、肺炎球菌ワクチンに詳しい医師にご相談ください。

肺炎球菌ワクチン

またもう一つ、インフルエンザワクチンは肺炎球菌ワクチンと併用することで、肺炎全体の発症、肺炎球菌性肺炎の発症、侵襲性肺炎球菌感染症による入院、死亡を減らす効果が認められており、必ず毎年接種していただきたいワクチンです。
これはインフルエンザに罹患することで気管支がダメージを受けると肺炎球菌がその後から付きやすくなることで、重複感染しやすくなるためと考えられているからです。

新型コロナもおそらく同様であろうと私は思っています。新型コロナも気管支粘膜に対して作用を示しやすいウイルスです。まだ併用効果を示すデータはありませんが、接種することで新型コロナの肺炎重症化を防止できる可能性は十分にあると考えています。

 

2種類の肺炎球菌ワクチン接種を完了させるには時間が必要です。新型コロナの第2波が訪れる前に、早めに肺炎球菌ワクチンについての行動を取っていただくことを強くお勧めします!

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.06.01更新

本日6月1日をもって、私浅井偉信が正式に加藤浩平先生より医療法人社団 加藤医院を継承いたしました。
今後も引き続き茅ヶ崎の、そして湘南地域の内科、呼吸器、アレルギー専門医として、今まで以上にお越しいただく患者さん一人一人のために頑張って参りたいと思います。
引き続き加藤医院をご愛顧賜ります様、宜しくお願い致します。

とはいっても特に本日から診療体制が変わることはございません。いつもの加藤医院です。いつも通り気兼ねなくご来院いただければ幸いです。

というわけでブログも通常運転です。
前回は高齢者に気を付けるべき、「肺炎」について、なぜかかりやすくなるかというお話をしました。今回はその対策についてです。

前回もお話ししたように、高齢者の肺炎では誤嚥性肺炎が多くを占めます。

1.誤嚥の予防

ですのでまずは誤嚥をしないことです。誤嚥は体力が落ち、筋力が落ちると起きやすくなります。
バランスのいい食事(特に高齢者では他の病気による問題がなければ、筋力維持のため、肉や魚を含めた「たんぱく質」をしっかり取ることが重要になります)、適度な運動(特に下半身強化)が重要です。

2.嚥下機能の確認

あとは嚥下機能が落ちているかどうかを確かめることが大切です。
よく食事中にむせていると誤嚥の可能性が高いと言われます。
確かにその通りなのですが、むせとは、間違って気管に入った異物を外に出す、正常な人間の反射です。
体の機能が落ちると、この反射も弱くなることがあります。するとむせてはないのに誤嚥してしまうことがあるのです。
食事が遅くしばしば食べきれない食事中に声がよく枯れるという点も見逃さないようにすることが重要です。

嚥下機能を自宅で簡単にチェックする方法として、30秒間に何回つばが飲み込めるかというテストがあります。これが30秒間に2回以下だと嚥下機能が落ちている可能性があるとされています。
落ちているようであれば一度耳鼻科でファイバー検査などの詳しい検査をしてもらったほうがいいでしょう。

3.食事形態の工夫

嚥下機能が落ちている場合は食事形態の工夫が必要となります。これは嚥下機能のレベルによって適する形態もさまざまなので、状態に応じた形態を選ぶ必要があります。
気を付けて頂きたいのが、食べにくいと言ってもご飯を汁物に混ぜて食べたり、水分で口の中のものを押し込んでしまったりすることはできるだけ避けてほしいということです(食べにくいためにこれをして誤嚥されてしまうケースを多く見てきました)。
水分は飲み込むことが難しい形態で、しばしば気管に入りやすいです(若い人でも飲み物でむせること、ありますよね)。
あと固さが均一でないものは飲み込みが難しいと言われています。ですのでおかゆのように均一の固さにすることが正解です雑炊はご飯が固く、液体部分と固さが不均一なので誤嚥するリスクが高まります)。
その他、口の中で固さを均一にしやすくするには、焼き魚より煮魚、生野菜サラダより温野菜、せんべいよりぬれおかきがベターでしょう。

4.禁煙

その他の対策もお話ししましょう。何度かお話ししているように、タバコは気管支や肺の機能を弱めますCOPDになると肺炎の発症、悪化リスクは跳ね上がるので、禁煙は絶対必要です。そしてCOPDは診断されていない方が非常に多い病気ですしっかりと医師に診断してもらって、適切に治療を行いましょう。

5.基礎疾患の治療をしっかり続ける

またかくれ脳梗塞は誤嚥の大きな原因になります。これを予防するには血管を守ることです。高血圧や糖尿病、高コレステロール血症(そして喫煙)は動脈硬化の大きなリスク因子です。しっかりと医師の指示通りに治療を続けることが大事です。

6.感染予防の順守

風邪をひくと、それに続いて肺炎を引き起こすことが少なくありません。
風邪とはすなわちウイルス性の気道感染です。ということは、予防策はコロナと一緒です。
手洗いと周囲の人のマスク、十分な休息による体力維持です。

最後に、肺炎のリスクを確実に減らす方法として、肺炎球菌ワクチンの接種があります。これに関してはまた次回詳しくお話ししましょう。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.05.29更新

このブログの更新を私が開始し、約1年が経過しました。

徐々にこのブログをお読みになられている方が増えており、茅ヶ崎界隈のみならず、全国から反響を頂くことも少なくなくなりました。皆様に興味をお持ちいただいて大変うれしい限りです。ありがとうございます。
そのおかげか、先日講談社さんの週刊誌「週刊現代」の取材を受ける機会がありました。テーマは「コロナで再確認したい、高齢者が気を付けたい肺の病気」ということでお話しをさせて頂きました。
お話しした内容がこれだけセンセーショナルな文体になるのはさすが週刊誌・・・(笑)まあでも呼吸器疾患のことが分かりやすく書いてあります。
よろしければ下の画像をクリックして記事をご覧いただき、よろしければ書店、コンビニでもお手に取ってみて下さい。


週刊現代
こちらをクリック!


というわけで今回は私の担当した、高齢者の肺炎について書いてみます。

肺は直接外の世界とつながっている臓器であり、また雑菌が非常に多い口の中ともつながっており、常にあらゆる微生物にさらされています。ですので肺は、鼻腔とともに全身で最も感染症にかかりやすい臓器と言われています。
しかし肺には、異物を包み込む粘液の分泌(=痰)や、痰を外に送り出す気管支の線毛運動、それにこれらのような異物を外に飛ばす咳反射など、自浄を促す作用があります。
そしてこの咳反射は異物が入った刺激を、脳にある咳中枢が感知することで起こります。
ですので、通常の元気な肺は感染を起こす前に微生物を排除します。

 

異物排除

しかし、高齢になるとこれらの能力が低下し、肺に微生物が到達しやすくなります。

また高齢者では誤嚥をすることが増えてきます。
ものを飲み込むという行為は、咀嚼を行いながら食べ物を口の奥へと送り込み、飲み込むときには喉頭蓋(こうとうがい)というドアが絶妙のタイミングで気道にふたをして、その瞬間のどにある筋肉が瞬時に連携をとりながら食べ物を喉から食道に送り込むことでおこります。これは意識的に行っているものではなく、脳の嚥下中枢という部分がつかさどる反射により起こります。
ところがこれが年を取ると、この連携のタイミングが微妙にずれてきます。また脳梗塞(症状の目立たない、いわゆるかくれ脳梗塞を含みます)などがおこると、この反射がうまく行かなくなり、嚥下の機能が低下します。すると気管に食物や唾液などの異物が入り込んでも排除できなくなってしまい、微生物が肺に到達しやすくなってしまうわけです。
加えて上でお話しした咳中枢の機能も落ちています。すると肺に到達した微生物は、肺から排除されることなく肺の中で増殖してしまいます。
そのため高齢になると肺炎を引き起こす頻度が増加します。

誤嚥性肺炎
また抵抗力が弱りなかなか異物を追い出せない状況で、しばしば重症化し治るのに時間がかかってしまいます。
しかも高齢者はもともと筋力も加齢によって低下しており、肺炎をひとたび起こしてベッド上での療養が長くなると、全身の筋力が容易に低下します。嚥下に要する筋力も低下してしまうため、肺炎を治療できたとしても体力の低下や嚥下機能の低下が元の状態までには戻らなくなり、次の肺炎を引き起こしやすくなってしまいます。
これを繰り返すことで最終的に命にかかわってしまうことが少なくないのです。

ではこれを防止するにはどのようにしたらいいのでしょうか。長くなりそうなので、また近々続きをお話ししましょう。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.05.21更新

ここ茅ヶ崎を含む神奈川県ではまだ緊急事態宣言が解かれていませんが、それでも今週に入り徐々に発熱などでご相談いただく方は減っては来ているようで、ようやく当院もやや落ち着きを取り戻しつつあります。
ただ油断はできない状況でもあり、今一度皆さんには感染対策の継続をお願いします。

今日は今回の新型コロナウイルスと喫煙の関係についてです。

今回の新型コロナウイルス感染症では、肺の慢性的な病気により、肺の機能が低下していることが悪化の大きなリスクとなると考えられています。
この状態を引き起こす原因としては、喫煙そのものと、長期に喫煙をしていた人に起こりうるCOPDという病気の発症が挙げられています(COPDについてはこちらの記事をどうぞ)。

いくつかの論文をまとめたメタ解析という手法でまとめたデータによると、喫煙をしている場合は、していない場合と比べ新型コロナウイルス感染が重症化するリスクが約2倍高い可能性があるという見解が出ています(ただそこからこのうちの一つの論文データを除いて再解析すると、傾向は維持されるものの有意差はなくなったとのことです)。
そしてCOPDである場合は、その重症化するリスクが有していない場合に比べ約4倍程度高くなるのではというデータが発表されています。J Med Virol. 2020 Apr 15. doi: 10.1002/jmv.25889

この原因としてはまだはっきりとはわかっていませんが、以下の仮説も考えられています。

新型コロナウイルスは、気道や肺胞の粘膜の上にあるACE2受容体という部分にくっつくことで、細胞の粘膜とウイルスの外膜が融合し、ウイルス内部のRNAが細胞に取り込まれることで感染が成立することがわかっています。

ACE2受容体

先日カナダから発表された論文によると、検査で採取した肺組織を調べてみたところ、ACE2受容体が、喫煙をしたことがない人、過去に喫煙をしていてその後禁煙した人、今でも喫煙をしている人の順に多くなる傾向が示されました。
また肺機能の側面から見てみても、喫煙によって肺機能が低下しているCOPD患者さんの場合、そうでない場合に比べて肺組織にACE2受容体が多く現れていることが分かりました。Eur Respir J. 2020 May; 55(5): 2000688
動物実験ではたばこによる煙に気道がさらされるとACE2受容体が増加することも分かっています。Burns. 2015 Nov; 41(7): 1468–1477


また別の要因も考えられます。

肺には異物を包み込む粘液の分泌(=痰)や、痰を外に送り出す繊毛運動、それにこれらのような異物を外に飛ばす咳反射など、自浄を促す作用があります。
しかし高齢になるとこれらの能力が低下します。
これに加えて喫煙による煙は肺の繊毛の働きをさらに低下させてしまいます。
そのためウイルスがより肺の奥に入り込んでしまう可能性がより高まってしまいます。

さらにそもそも喫煙するときには、手で持ったタバコを口に向けるので、手のウイルスが口から侵入しやすいことも示唆されています。

これらにより、喫煙者やCOPDの患者さんではコロナウイルスに感染しやすく、それが悪化しやすい原因になる可能性があると考えられるのです。

一方フランスからの報告で、コロナウイルスの感染者に喫煙者の割合が低いというデータも発表されているようです。https://doi.org/10.32388/WPP19W.4
ただこの研究は一つの病院のデータを集めただけであり、さまざまな偏りがあるのではという指摘もあります(院内感染も発生したようであり患者の多くが喫煙率の低い医療従事者であったことや、あくまで自己申告によるデータなので信頼性に欠けるなど)。
まだこのデータに関してはいいも悪いも言えないと思うので追試を待ちたいですが、いずれにせよ重症化を抑えることが重要との観点では、現時点での禁煙の重要性は動かないでしょう。

禁煙は早く始めたほうが肺機能低下を予防できるので、なるべくこの今の機会に禁煙に取り掛かっていただくことをお勧めします。

禁煙

環境再生保全機構HPより


またCOPDは長引く咳や痰、息苦しさで出てくることが多いのですが、しばしば「いつも風邪が長引く」と解釈してしまって医療機関にかかる機会が遅れたり、医療機関でも病気の存在に気づかれずに適切な治療がなされないことも少なくなく、発見がしばしば遅れます。

たばこを吸っている方、最近風邪が長引くなあと思っている方、駅の階段で息が切れるようになったという方、そしてタバコやめてみようかなとちょっとでも思った方は、一度肺や呼吸に詳しい医師に聞いてみましょう!

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.05.11更新

おかげさまで、最近はこのブログを全国の多くの方にご覧頂いているようで、さまざまなご意見、ご感想を頂くようになってきました。
多少なりとも皆さんの疑問や不安の解消の一助になっているとのお応えを多くいただいており、ありがたい限りです。今後も診療の合間に、できる範囲でわかりやすい情報発信を続けていきたいと思います。


ただこのブログの記事が引用されている某掲示板などでは、やや誤った解釈などもされてしまったようでもあり、今回はそのことについて触れようかと思います。
3月29日の記事「新型コロナウイルスによる肺炎とは?他の肺炎と何が違うの?」が引用されている書き込みで、この肺炎が間質に起こりやすいだろうということを書きましたが、「間質性肺炎は致死率100%の病気である」などという記載が付け加えられてしまっている記事が散見されています。
確かに「間質性肺疾患」というのは非常に複雑でわかりにくい病気であり、専門家の間でも数年に一度は定義が変わっているほどです。
今回はこれを少しかみ砕きながら説明してみようと思います。

まず「間質性肺疾患」という病気ですが、これは当時の記事で述べた通り、肺の間質(肺胞の壁や肺胞と肺胞のスキマにある構造物、そこを走る血管の壁など)に炎症が起こり、肺胞から血管への酸素の移動に障害が生じるという病気をひとくくりにしたものです。

 

正常な肺の状態

正常肺

 

間質性肺炎の状態

間質性肺炎

(いずれも3/29記事より再掲)

これはいろいろな分け方がありますが、その分け方の一つとして原因がはっきりわかっているものと、原因がはっきりとわからないものに分ける方法があります。

原因がはっきりわかっているものとしては、感染によるもの(今回の新型コロナウイルスの他に、サイトメガロウイルス、インフルエンザ、麻疹、水痘などのウイルスや、マイコプラズマなどの一部の細菌が原因になることもあります)の他に、薬剤の副作用による「薬剤性肺炎」、膠原病によって起こる「膠原病肺」、特定のアレルゲンを吸い込むことで起こる「過敏性肺炎」、粉塵などを吸い込んで起こる肺炎(例としては職業性肺疾患)、癌が間質にあるリンパ管を進んで起こる「癌性リンパ管症」、それに肺を始めとして全身に「肉芽腫」という組織が出来てしまう「サルコイドーシス」などが挙げられます。

一方原因がはっきりとはわからないものは、「特発性」間質性肺炎といわれます(よく間違えられますが「突発性」ではありません)。
この中には肺胞の破壊が年単位で進み、肺が強く線維に置き換わってしまうために治療が難しい「特発性肺線維症」、肺胞に慢性的な炎症が起こりフィブリンという物質が肺胞にたまりつつ、隣り合う間質にも炎症を引き起こす「特発性器質化肺炎」、原因不明ながらも急速に間質に炎症が起こり多くは救命困難な「急性間質性肺炎」、そのどれにも分類できない一群である「非特異性間質性肺炎」など、現時点では合わせて9個の疾患群が含まれています。

で、当然のことながら「間質性肺疾患」にはいろいろとあるため、これらの予後というのも原因や病型によって様々です。

たとえば間質性肺炎の代表として語られることの多い「特発性肺線維症」は、致死率は確かに低くない病気です(しかし現在では肺の線維化を抑える抗線維化薬が出ており、以前と比べて治療方法が出てきてはいます)。一方「特発性器質化肺炎」は治療(内服や点滴のステロイド薬)の効果が高く、致命的になることはあまりありません。

一方原因がわかる間質性肺疾患では、例外はあるにせよその原因が取り除かれることで改善できることも多いものです(膠原病肺であれば膠原病の治療により小康状態となるケースは多いですし、急性過敏性肺炎はそのアレルゲンから離れるだけで改善するとされています)。

一般的に肺の炎症が長期化し線維組織に置き換わってしまうケースでは、元の正常な肺組織に戻ることはないため、間質性肺疾患の予後は悪くなるとされています。
しかし今回の新型コロナウイルスによる間質性肺炎も軽症の場合は自然に改善する場合が多いと報告されており、いわゆる肺が線維化を起こしやすいとまでは言えない病気ではないかと思っています(ただ重症化、長期化することで肺が線維に置き換わってしまうケースはあると思います。その場合は慢性呼吸不全などの後遺症が残る可能性はあるかもしれません)。

というわけで、決して「コロナは間質性肺炎だから致死率が100%である」という事実はありません。

玉石混交のさまざまな情報が飛び交う今の世の中ですが、是非とも常日頃「デマ」には振り回されず、お気を付けて頂ければ幸いです。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.04.30更新

新型コロナウイルスの感染者の増加はようやくやや頭打ちになってきたようです。
ただ相変わらず収束にはほど遠い状況で、接触を減らすstay homeが必要な状況です(我が家も先日の休みの日に、息子主催の家族ゲーム大会を開催し、パパはビリでしたが大いに盛り上がりました)。
game

 

国内、県内ではPCR検査を増やすように舵を切っています。茅ヶ崎市でも先週より、医師会と市が連携し、ドライブスルー方式の検査センターを立ち上げ、今までよりも検査数を増やせる体制を整えました。

なぜ今まで検査を絞り、今になって拡大しているのでしょうか。

以前検査の解釈、意義についてお話ししました。そこではやみくもな検査には弊害が伴う可能性があることを述べました。
ただ現在は前回執筆時点(2月)からの状況変化があります。

まずは新型コロナウイルスの蔓延状況です。
現在首都圏では累計患者数が6000人を上回っていますが、実際の累計患者数はおそらく数倍以上ある可能性があります(今後抗体検査が始まると、より実態に近づいた数字がわかるかもしれません)。

初期段階より有病率が上がっていると考えられます。

もう一つは、2か月前と比べて少しずつですが新型コロナウイルス感染症の症状の知見が積み重なり、曲がりなりにもコロナ感染症であるかの見立てが以前よりもしやすくなっています。

つまり、医師の診察により、以前よりもだいぶ検査前確率を上げられるようになってきたということです。
有病率が上がったうえに検査前確率を上げることができると、以前のブログでいう「読書好きを見つける」検査に近づけられているということが言えます。

またPCRの検査の感度(病気の人を正しく拾い上げられる確率)は70%程度とやはり低めなのですが、特異度(病気じゃない人を正しく否定できる確率)は99%かそれ以上とかなり正確であることがわかってきました。

これらより、以前よりも、病気じゃないのに陽性と出る確率はかなり下がっており、陽性と出れば、その人はかなり高い確率で本当に感染していると言える状況になってしました(ただ依然陰性と出てもその人が本当に感染していないということは言い切れない状況に変わりはありません。陰性でも症状が残っている場合は絶対に他人とは接触しないで下さい!)。
少なくとも病気ではない人が病院のベッドを占有する可能性は以前より低くなりました。
検査を多く行ってもそれ自体が医療崩壊につながるという図式ではなくなり、むしろできるだけ多くの感染患者さんを隔離でき、蔓延を防止するメリットがもたらされる状況になっています。

ですので蔓延期である今、積極的にPCR検査を増やすというのは理にかなっています(蔓延期にいつから突入したかということの判断時期が正しかったかどうか、今の検査数が十分なのかという評価は、ここでは行いません)。

 

なのですが、このような状況の中で今私が非常に心配しているのが、楽天株式会社さんが発売したPCR検査キットの存在です。

 

このPCR検査キットは通常の医療用と大きく精度が変わらないそうです。でもやはり問題があるのです。
では何が問題なのでしょうか。

まず、このキットは医療機器ではないとのことで、医師の診察なしに使用するもののため、医師による新型コロナ感染症であるかどうかの診察をしていません。
すると検査前確率を上げる作業をしないこととなります(つまりゴキブリ好きを見つける検査に近づきます)。

楽天キット

次に検査をするときの手技の問題です。PCR検体は鼻粘膜の奥をしっかりとこする必要がありますが、綿棒を挿入するとき、鼻中隔が曲がっていたりするとうまく挿入できないことがあります。慣れている医療者は微妙に角度を調整し挿入するのですが、経験のない非医療者には難しいと思います。またかなり奥まで挿入することなるのですが、非医療者ではどこまで挿入すればいいのかが不安で、手前で引き返してしまう例が増えるのでないかと思います(実際初期研修医でも最初のうちはかなりビビってしまう人が少なくなく、研修医にとってこの手技は、しばらくの間は上級医の指導を要するものなのです)。

これで感度が下がります(また手技が未熟なことにより検査をする人の感染リスクも上がってしまいます)。

楽天キット

そして取った検体を正しく扱わないと、不純物が検体についてしまう可能性があります。するとこれがコロナウイルスの遺伝子と誤って検出される可能性があります。
特異度が下がる可能性が出てきます。

楽天キット

これら得られる検査結果は、例えキットが医療で用いられるものと同様の精度があったとしても信頼性がかなり下がってしまいます。
加えてこの検査キットは診断には使用しないこととなりますので、不正確に行った検査結果に基づき、結局陽性と出た人が診察を求めて医療機関に殺到します。これによりクラスター、院内感染が発生する可能性が高まります。

当然陰性だから安心していい訳でもありません。先ほども書いたように、もともと感度は高くない検査なのですから。

PCR検査は確かに増やさなければならない時期です。しかし正しく運用される検査である必要があります。決して不安を解消するための検査であってはなりません。
例えキットの精度が保たれていたとしても、なぜこのような検査方法をやるべきではないのか、今回は皆さんに知ってもらいたくてあえてやや辛口で書いてみました。

パンデミックの戦いはチーム戦です。皆さん一人一人が様々な局面で賢明な判断をしていただき、これ以上の医療崩壊を抑える手助けをしていただけることを願っています。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.04.16更新

当院には喘息の患者さんが多数お見えになります。

喘息の患者さんが今心配されていることは、喘息で新型コロナウイルスにかかりやすくなるのか?重症化するのか?といったことだと思います。
現時点(2020年4月16日時点)では、喘息があることで、または喘息の治療をしていることで新型コロナウイルスにかかりやすくなるというデータはありません。また感染した場合に重症な新型コロナウイルス肺炎になりやすくなるということに関しては否定的な論文が1本出ており、それ以外にはデータがありません。(Clinical characteristics of 140 patients infected with SARS-CoV-2 in Wuhan, ChinaAllergy. 2020 Feb 19.)
つまり現時点では、通常の喘息が新型コロナウイルスの感染や増悪に関与するとは言えないとは言えると思います。

ただし喘息の調子が悪くなる原因として一番に挙げられるのは風邪を始めとする感染症です。
そして喘息の増悪は治療が不十分だとより起こりやすくなり、その増悪もより重症となりやすいことは以前からわかっています。新型コロナウイルスに感染し呼吸状態が悪化した時、同時に喘息発作を起こしてしまうと更なる呼吸状態の悪化につながるリスクはあり得ると思います。
ですので、喘息の方にとって、今回のことで一番のリスクになりうることは、治療が不十分であったり、中断されていたりで(一見症状がないとしても)しっかりとコントロールされていないこと、ということになります。

 では「喘息がコントロールされている」、とはどのような状態をいうのでしょうか。

よく「時々咳が出たりヒューヒューしたりすることがあるけど、我慢できるから大丈夫」とか、「苦しくなることがあるけど発作止めを使えば治まるから大丈夫」などという方がいらっしゃいます。
また「吸入薬を使ったら治ったから吸入を止めた」というようにお話しになる方も実に多くいらっしゃいます(喘息は基本的に治る病気ではなく、見えなくても気道の炎症は常に起きており、常に炎症を抑え続ける必要がある病気です)

これらはすべて治療が不十分な状態であり、今回の新型コロナ禍でも十分ハイリスクになりうる状態です。

喘息のコントロールを簡単に把握する質問票として「喘息コントロールテスト(ACT)」というものがあります。これは普段の症状や生活状況に関する5項目の質問票に答えることで判断できるものです。
25点満点で評価しますが、基本は一年中25点であることが必要です(1点でも減点があると完全なコントロールとは言えず、増悪のリスクは高まります)。

 喘息コントロールテスト(ACT:アクト)

喘息コントロールテスト(ACT)

こちらから環境再生保全機構のACTチェックのページに飛ぶことができます

また喘息の治療の基本薬は吸入ステロイド薬です。
これに関しても時々「ステロイド」との響きで怖がる方がいらっしゃいますが、ステロイド薬の副作用は主に体内のホルモンバランスを崩すことで起こるものであり、これは全身投与(内服や注射)を長期に(約2週間以上)続けることで出てくるものです。
吸入薬ではステロイドの量が内服に比べて非常に少ない上に、薬剤は肺でとどまりほとんど血中には届かないため、通常の使用でまず問題になることはありません。指示通りにしっかりと吸入治療を続けましょう。

なお、吸入ステロイドの中で、シクレソニド(商品名:オルベスコ)という薬剤が新型コロナ肺炎3例に対して有効であったという報告が日本から出されており、これを確認する臨床試験が日本と韓国で始まっております。

ただこの薬剤に予防の効果は検討も検証もされていません。
この薬剤は粒子径が非常に小さく、肺の末梢に喘息の炎症が強い方や声枯れの出やすい方に非常に有用な選択肢として使用されています。
しかしもともとそれほど流通量のある薬剤ではなく、需要が高まると容易に供給不足に陥り、本来必要とされる患者さんに届かなくなる危険性が高くなると考えられるため、医療側も患者側も安易な薬剤選択は厳に慎むべきです。

 

他に注意すべき点としては、現在ネブライザー治療はエアロゾルを広げるリスクがあるため、感染が蔓延している現在ではやや感染の危険度が上がります。
ご自宅でネブライザーを使用されており多少でも感染が否定できない場合は、可能なら薬剤を変更するか、どうしても症状をコントロールするために使用しなければならないときは窓を開け換気をよくしてなるべく空気の流れを作り、使用する方以外はできるだけ離れていたほうがいいでしょう。

また重症な喘息の方で、内服のステロイドを連日使用している方は免疫力の低下を来すので、感染を起こすリスクは高くなるかもしれません(数日など短期の使用はそこまでリスクにはならないと思います)。
吸入など通常の治療を「正しく」治療を行っていても症状がコントロールできていない場合は、生物学的製剤や気管支鏡を用いた治療もあるので、ステロイド連日内服の前に検討すべきかもしれません。専門医に相談しましょう。

喘息の治療はここ数年も常に進化を続けており、新しい治療も多く出ております。また他の疾患と違い、薬の使用法のコツをつかむことが治療結果に大きく影響します。
ACTが常に25点でない方は、現状の治療のままでも、何かしらの改善点を知り実行することで状態が良くなることが少なくありません。

少しでも気になる方は主治医の先生や、より喘息に詳しい呼吸器、アレルギー専門医に相談してみましょう。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.04.07更新

本日にも緊急事態宣言が出される見込みであり、皆さんも不安な日々を送られていると思います。当院にも感染したかどうかのご不安でお問い合わせ、ご受診いただくケースが増えております。
まず今まで申し上げている通り、このケースに当てはまる場合は帰国者接触者相談センターにご連絡いただき、指示を仰いでいただくようにお願い致します。

ただその前に,これからは皆さん一人一人がしっかりと普段からの健康管理をしていただくことが大事となってきます。

新型コロナウイルス感染症の症状として、2019月12月から2020年2月までに中国で発症した1994人のメタ解析(いろんな論文を組み入れたもの)データが出ました。
その中では以下の症状の頻度が報告されています(ただし、おそらくここには極めて軽症や無症状の人はあまり入っていないと思われるので、そこに注意して解釈する必要があります)。
 発熱:88.5%
 咳:68.6%
 筋肉痛・筋疲労:35.8%
 喀痰:28.2%
 呼吸困難:21.9%
 頭痛・めまい:12.1%
 下痢:4.8%
 吐き気・嘔吐:3.9%
COVID-19 patients' clinical characteristics, discharge rate, and fatality rate of meta-analysis. Li LQ et al. J Med Virol. (2020)


ということで、やはり発熱の頻度が多くなっていたのは以前お話しした通りです。これが現在の相談基準の一つである「4日間の37.5℃以上の発熱」の根拠にもなっていると思われます。
ですので、まずは自分の体温を把握することは体調管理上大事になってきます。


しかしこの「自分の体温を知るためには,注意しなければならない点がいくつかあります」というのが今回のテーマです。


10代~50歳前後までの日本人の健康な人の腋窩体温の平均値は36.89℃で、36.6~37.2℃に約7割の方が入るというデータがあります(日新医学44:12,1957;635-638)

また、65歳以上の高齢者においてでも、午後1時から4時までに測った体温の平均値は36.66℃で、36.2~37.1℃に約7割の人が入るとされています(日老医誌 12:3,1975;172-177)

平均体温

 

ところが患者さんにアンケートを取ると、平均36.2℃と回答したという報告があり、実際の体温より低く把握しているケースが多いことが考えられています(臨床体温23:1,2005;35-38)
外来でも「平熱が34℃台や35℃台前半だから、36℃台でも自分にとっては熱が高くて心配だ」という方が少なからず見えます。この方たちの全てが間違っているわけではないと思いますが、やはりこの機会ですので、正しく自分の体温を把握するきっかけにしていただければと思います。

 

まず体温には1日のリズムがあり午前3時から7時頃までが一番低くそこから徐々に上昇し、午後2時から6時ごろが一番高く、その変動差は最大0.8℃程度あることが報告されています(J appi physiol.65(1988),1840-1846)食事後や運動後、入浴後も体温は上昇します。
加えて女性では、月経周期で排卵が起こる前(月経が始まる2週間ほど前)からは高温期に移行し、低温期より0.3~0.5℃上昇します。

体温変動


このように体温は1日の中でも、数日の周期でも、変動するものなのです。


なので自分の体温を知っておくためには、1日数回(理想的には起床時、昼食前、夕食前、就寝前の4回)、日をおいて数回測ってみて記録してみることが役立ちます。また外気温にも影響されるので(高齢者では特に影響されやすいです)、気温や季節も考慮しておくといいでしょう。

 

次は体温の測り方についてです。

体温は基本的に腋窩で測って頂ければよいですが、体温計の先端の位置が重要です。

腋窩で一番温度が高いのが、腋窩のくぼみの真ん中です。ここに体温計をしっかり差し込むためには、斜め下30~45度くらいの角度でしっかりとくぼみに差し込むことが重要です。
真横からや、斜め上から差し込むと、センサー部はくぼみの下側に達し、体温が低く出てしまいます。
わき汗をかいていると十分密着しないので、汗は拭きとってから測りましょう。

体温の測定方法

また本来腋窩の体温は10分間密着しないと測れませんが、現在の体温計は「予測式」といって、温度の上昇するスピードから実際の体温の予測値を計算して出す機種が主流です。
このタイプは15~30秒で体温が測れるため便利なのですが、気を付けないといけないのは、2回測るときは、体温計がしっかりと冷えていること(測り始めが35℃以下になっていること)を確認しないと間違った値が出るということです。

 

以上を把握できると、より正しい自分の体温を知ることができます。
体温だけで自分の体調をすべて知ることはできませんが(食欲,だるさ,息苦しさなど全体的な視点も大事です)、体温は一番わかりやすい指標でもあるので、ご自身の体調管理の一つのツールとして活用しましょう。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.03.29更新

新型コロナウイルスについての話題でほぼ占められている昨今、メディアには様々な情報が伝えられています。
特に最近は、世間がよく知っている有名人の方が罹患したというニュースが次々と取り上げられるようになっており、その症状について皆さんの関心が寄せられているようです。
私の外来でも肺炎についてお聞きになる方が非常に多くいらっしゃいますので、本日は現時点(3月29日)でわかっている新型コロナウイルスの肺炎について、わかっている範囲でお話しします(実際私はまだ新型コロナウイルス肺炎と確定した患者を診察しておらず、あくまで今日お話しする内容は論文で報告されている内容と私の知識、それと私が今まで経験した事例を織り交ぜてお話ししようと思います)。

肺というのは、気管、気管支につながる「肺胞」と呼ばれる袋が3億個ほど集まってできている臓器です。そしてその袋と袋のすきまには、血管やリンパ管、それらを支える組織である「間質」という領域があります。
肺では通常呼吸をすることで、空気中の酸素が気管、気管支を通じて袋である「肺胞」に入ってきます。この酸素が「間質」の中にある血管から吸収されることで取り込まれ、心臓に集まったのちに全身に運ばれます。
新型コロナ 肺炎
通常「肺炎」と呼ばれるもので多いのは「細菌性」肺炎です。
これらは、鼻や口から気管支に細菌が入り込み、袋である「肺胞」まで到達して悪さをします。体の中の白血球はこれらの細菌を退治しようと戦い、その結果浸出液という液体が出てきて、袋の中が水浸しになってしまいます。
例えるならば、お互いがカラダを張って直接戦っている「合戦」のようなものです。
すると空気を吸っても肺胞の液体に邪魔されてしまい、血管内に酸素が入らなくなることで息苦しくなります。また肺胞の液体は痰として現れます。
細菌性肺炎

一方、「ウイルス性」肺炎は、上記のような直接的に戦うことによって起こる反応(合戦タイプ)もあるのですが、それだけではなく、これらを排除しようとして自分のカラダの免疫が暴走することによって起きる炎症も大きく影響するとされています(ちょっと正確かどうかはわかりませんが、言うならばデマや恐怖などを与えることで、相手の社会を混乱に陥れる「情報戦」に近いのかもしれません)。これをサイトカインストームと呼び、これらは「間質」そのものや、間質にある「血管」に炎症を起こし傷つけてしまいます。
新型コロナウイルス肺炎に関しても、調べたところ死亡した方の血管、間質からはウイルスが検出されなかったという報告が出されており、これもこのウイルスの肺炎が、ウイルスによる肺の直接的な傷害よりもサイトカインストームが要素として大きいだろうということを示しています(Ann Intern Med. 2020.DOI: 10.7326/M20-0533)。

すると袋である肺胞は傷ついて固くなった間質に邪魔されて膨らみにくくなり、空気が入りづらくなります。加えて肺に届いた空気中の酸素も、固くなった間質や血管の壁に阻まれて取り込まれづらくなり、血中の酸素が不足し、呼吸不全の状態になってしまいます(これは「間質性肺疾患」の状態です)。細菌性肺炎とCTでの見え方もやや異なるため、CTの画像もこのウイルスによる肺炎と診断できる手掛かりであることが多いようです。
間質性肺炎
このような肺炎に至ると、治療は非常に難しいであろうと思われます。理由としては、全身のサイトカインストームが原因なので、両肺同時に肺炎をきたすケースが多くなるため(その分正常な肺が少なくなる)、細菌とは違いウイルスには(インフルエンザやヘルペスなど一部のウイルスを除いて)直接退治する薬がなく、これらを退治するには体の免疫反応に頼るしかないため、それに一般的にウイルス性肺炎では、これらで弱った肺にさらに細菌がついてしまうことが少なくなく、こうなると本当に厳しくなるためです(そのような意味でも、ご高齢の方に今一番できる対策は、肺炎球菌ワクチンの接種なのかもしれません)。
治療には酸素投与、人工呼吸器、人工心肺(ECMO)なども用いられますが、これらはウイルスを排除するためのものではなく、免疫によってウイルスを排除できるまでの時間稼ぎのためのものです。これらの時間稼ぎの結果、免疫によってウイルスが排除されてサイトカインストームが収まれば症状は改善しますが、どこまでもサイトカインストームが進んでしまうと死に至ってしまうというわけです。


高齢者や持病を持っている方が重症化しやすい理由はまだ明らかではないですが、持病があり免疫が弱っていると正しい反応が出来なくなり、サイトカインストームが起こりやすくなってしまうのかもしれません。
また無症状の方のCTでも間質の炎症像が見られることが少なくないとされており、肺炎の起こしやすさという点では通常のウイルスにはない脅威を持っていると言わざるを得ないでしょう。

現在行われている試みは、さまざまな抗ウイルス薬(ウイルスの遺伝子に働きかけて増殖を抑制するなどをする薬剤)や、他の用途で使用していた薬が転用できないかどうかの試み(吸入薬であるシクレソニドなど)と、このウイルスに対応する免疫をつけるワクチンの開発という試みになります(いくつも治験はすすんでいますが、実用化は少なくとも数ヶ月はかかりそうです)。

とにかくこれらが開発されるまで、社会がしっかりと時間稼ぎをするということが大事になるでしょう。

 

ですので、改めてのお願いです。
医療機関に受診される際は必ずマスクをつけ、手指の衛生をお願いします(当院にもアルコールがありますので遠慮なくご使用ください)。
診察室でもマスクは外さなくて結構です。
また少しでも新型コロナウイルス感染症が否定できない要素をお持ちの方は(現在の基準はこちら)、必ず保健所への一報をよろしくお願い致します(当院に直接ご来院いただいてもご連絡をお願いすることもございますのでご了承下さい)。

皆さん一人一人と我々の意識が大事になってくる局面です。何卒ご協力の程よろしくお願い致します。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

前へ 前へ
TEL 0467-82-2602 診療時間 8:30~12:00 15:30~18:30