医師ブログ

2020.05.21更新

ここ茅ヶ崎を含む神奈川県ではまだ緊急事態宣言が解かれていませんが、それでも今週に入り徐々に発熱などでご相談いただく方は減っては来ているようで、ようやく当院もやや落ち着きを取り戻しつつあります。
ただ油断はできない状況でもあり、今一度皆さんには感染対策の継続をお願いします。

今日は今回の新型コロナウイルスと喫煙の関係についてです。

今回の新型コロナウイルス感染症では、肺の慢性的な病気により、肺の機能が低下していることが悪化の大きなリスクとなると考えられています。
この状態を引き起こす原因としては、喫煙そのものと、長期に喫煙をしていた人に起こりうるCOPDという病気の発症が挙げられています(COPDについてはこちらの記事をどうぞ)。

いくつかの論文をまとめたメタ解析という手法でまとめたデータによると、喫煙をしている場合は、していない場合と比べ新型コロナウイルス感染が重症化するリスクが約2倍高い可能性があるという見解が出ています(ただそこからこのうちの一つの論文データを除いて再解析すると、傾向は維持されるものの有意差はなくなったとのことです)。
そしてCOPDである場合は、その重症化するリスクが有していない場合に比べ約4倍程度高くなるのではというデータが発表されています。J Med Virol. 2020 Apr 15. doi: 10.1002/jmv.25889

この原因としてはまだはっきりとはわかっていませんが、以下の仮説も考えられています。

新型コロナウイルスは、気道や肺胞の粘膜の上にあるACE2受容体という部分にくっつくことで、細胞の粘膜とウイルスの外膜が融合し、ウイルス内部のRNAが細胞に取り込まれることで感染が成立することがわかっています。

ACE2受容体

先日カナダから発表された論文によると、検査で採取した肺組織を調べてみたところ、ACE2受容体が、喫煙をしたことがない人、過去に喫煙をしていてその後禁煙した人、今でも喫煙をしている人の順に多くなる傾向が示されました。
また肺機能の側面から見てみても、喫煙によって肺機能が低下しているCOPD患者さんの場合、そうでない場合に比べて肺組織にACE2受容体が多く現れていることが分かりました。Eur Respir J. 2020 May; 55(5): 2000688
動物実験ではたばこによる煙に気道がさらされるとACE2受容体が増加することも分かっています。Burns. 2015 Nov; 41(7): 1468–1477


また別の要因も考えられます。

肺には異物を包み込む粘液の分泌(=痰)や、痰を外に送り出す繊毛運動、それにこれらのような異物を外に飛ばす咳反射など、自浄を促す作用があります。
しかし高齢になるとこれらの能力が低下します。
これに加えて喫煙による煙は肺の繊毛の働きをさらに低下させてしまいます。
そのためウイルスがより肺の奥に入り込んでしまう可能性がより高まってしまいます。

さらにそもそも喫煙するときには、手で持ったタバコを口に向けるので、手のウイルスが口から侵入しやすいことも示唆されています。

これらにより、喫煙者やCOPDの患者さんではコロナウイルスに感染しやすく、それが悪化しやすい原因になる可能性があると考えられるのです。

一方フランスからの報告で、コロナウイルスの感染者に喫煙者の割合が低いというデータも発表されているようです。https://doi.org/10.32388/WPP19W.4
ただこの研究は一つの病院のデータを集めただけであり、さまざまな偏りがあるのではという指摘もあります(院内感染も発生したようであり患者の多くが喫煙率の低い医療従事者であったことや、あくまで自己申告によるデータなので信頼性に欠けるなど)。
まだこのデータに関してはいいも悪いも言えないと思うので追試を待ちたいですが、いずれにせよ重症化を抑えることが重要との観点では、現時点での禁煙の重要性は動かないでしょう。

禁煙は早く始めたほうが肺機能低下を予防できるので、なるべくこの今の機会に禁煙に取り掛かっていただくことをお勧めします。

禁煙

環境再生保全機構HPより


またCOPDは長引く咳や痰、息苦しさで出てくることが多いのですが、しばしば「いつも風邪が長引く」と解釈してしまって医療機関にかかる機会が遅れたり、医療機関でも病気の存在に気づかれずに適切な治療がなされないことも少なくなく、発見がしばしば遅れます。

たばこを吸っている方、最近風邪が長引くなあと思っている方、駅の階段で息が切れるようになったという方、そしてタバコやめてみようかなとちょっとでも思った方は、一度肺や呼吸に詳しい医師に聞いてみましょう!

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.05.11更新

おかげさまで、最近はこのブログを全国の多くの方にご覧頂いているようで、さまざまなご意見、ご感想を頂くようになってきました。
多少なりとも皆さんの疑問や不安の解消の一助になっているとのお応えを多くいただいており、ありがたい限りです。今後も診療の合間に、できる範囲でわかりやすい情報発信を続けていきたいと思います。


ただこのブログの記事が引用されている某掲示板などでは、やや誤った解釈などもされてしまったようでもあり、今回はそのことについて触れようかと思います。
3月29日の記事「新型コロナウイルスによる肺炎とは?他の肺炎と何が違うの?」が引用されている書き込みで、この肺炎が間質に起こりやすいだろうということを書きましたが、「間質性肺炎は致死率100%の病気である」などという記載が付け加えられてしまっている記事が散見されています。
確かに「間質性肺疾患」というのは非常に複雑でわかりにくい病気であり、専門家の間でも数年に一度は定義が変わっているほどです。
今回はこれを少しかみ砕きながら説明してみようと思います。

まず「間質性肺疾患」という病気ですが、これは当時の記事で述べた通り、肺の間質(肺胞の壁や肺胞と肺胞のスキマにある構造物、そこを走る血管の壁など)に炎症が起こり、肺胞から血管への酸素の移動に障害が生じるという病気をひとくくりにしたものです。

 

正常な肺の状態

正常肺

 

間質性肺炎の状態

間質性肺炎

(いずれも3/29記事より再掲)

これはいろいろな分け方がありますが、その分け方の一つとして原因がはっきりわかっているものと、原因がはっきりとわからないものに分ける方法があります。

原因がはっきりわかっているものとしては、感染によるもの(今回の新型コロナウイルスの他に、サイトメガロウイルス、インフルエンザ、麻疹、水痘などのウイルスや、マイコプラズマなどの一部の細菌が原因になることもあります)の他に、薬剤の副作用による「薬剤性肺炎」、膠原病によって起こる「膠原病肺」、特定のアレルゲンを吸い込むことで起こる「過敏性肺炎」、粉塵などを吸い込んで起こる肺炎(例としては職業性肺疾患)、癌が間質にあるリンパ管を進んで起こる「癌性リンパ管症」、それに肺を始めとして全身に「肉芽腫」という組織が出来てしまう「サルコイドーシス」などが挙げられます。

一方原因がはっきりとはわからないものは、「特発性」間質性肺炎といわれます(よく間違えられますが「突発性」ではありません)。
この中には肺胞の破壊が年単位で進み、肺が強く線維に置き換わってしまうために治療が難しい「特発性肺線維症」、肺胞に慢性的な炎症が起こりフィブリンという物質が肺胞にたまりつつ、隣り合う間質にも炎症を引き起こす「特発性器質化肺炎」、原因不明ながらも急速に間質に炎症が起こり多くは救命困難な「急性間質性肺炎」、そのどれにも分類できない一群である「非特異性間質性肺炎」など、現時点では合わせて9個の疾患群が含まれています。

で、当然のことながら「間質性肺疾患」にはいろいろとあるため、これらの予後というのも原因や病型によって様々です。

たとえば間質性肺炎の代表として語られることの多い「特発性肺線維症」は、致死率は確かに低くない病気です(しかし現在では肺の線維化を抑える抗線維化薬が出ており、以前と比べて治療方法が出てきてはいます)。一方「特発性器質化肺炎」は治療(内服や点滴のステロイド薬)の効果が高く、致命的になることはあまりありません。

一方原因がわかる間質性肺疾患では、例外はあるにせよその原因が取り除かれることで改善できることも多いものです(膠原病肺であれば膠原病の治療により小康状態となるケースは多いですし、急性過敏性肺炎はそのアレルゲンから離れるだけで改善するとされています)。

一般的に肺の炎症が長期化し線維組織に置き換わってしまうケースでは、元の正常な肺組織に戻ることはないため、間質性肺疾患の予後は悪くなるとされています。
しかし今回の新型コロナウイルスによる間質性肺炎も軽症の場合は自然に改善する場合が多いと報告されており、いわゆる肺が線維化を起こしやすいとまでは言えない病気ではないかと思っています(ただ重症化、長期化することで肺が線維に置き換わってしまうケースはあると思います。その場合は慢性呼吸不全などの後遺症が残る可能性はあるかもしれません)。

というわけで、決して「コロナは間質性肺炎だから致死率が100%である」という事実はありません。

玉石混交のさまざまな情報が飛び交う今の世の中ですが、是非とも常日頃「デマ」には振り回されず、お気を付けて頂ければ幸いです。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.04.30更新

新型コロナウイルスの感染者の増加はようやくやや頭打ちになってきたようです。
ただ相変わらず収束にはほど遠い状況で、接触を減らすstay homeが必要な状況です(我が家も先日の休みの日に、息子主催の家族ゲーム大会を開催し、パパはビリでしたが大いに盛り上がりました)。
game

 

国内、県内ではPCR検査を増やすように舵を切っています。茅ヶ崎市でも先週より、医師会と市が連携し、ドライブスルー方式の検査センターを立ち上げ、今までよりも検査数を増やせる体制を整えました。

なぜ今まで検査を絞り、今になって拡大しているのでしょうか。

以前検査の解釈、意義についてお話ししました。そこではやみくもな検査には弊害が伴う可能性があることを述べました。
ただ現在は前回執筆時点(2月)からの状況変化があります。

まずは新型コロナウイルスの蔓延状況です。
現在首都圏では累計患者数が6000人を上回っていますが、実際の累計患者数はおそらく数倍以上ある可能性があります(今後抗体検査が始まると、より実態に近づいた数字がわかるかもしれません)。

初期段階より有病率が上がっていると考えられます。

もう一つは、2か月前と比べて少しずつですが新型コロナウイルス感染症の症状の知見が積み重なり、曲がりなりにもコロナ感染症であるかの見立てが以前よりもしやすくなっています。

つまり、医師の診察により、以前よりもだいぶ検査前確率を上げられるようになってきたということです。
有病率が上がったうえに検査前確率を上げることができると、以前のブログでいう「読書好きを見つける」検査に近づけられているということが言えます。

またPCRの検査の感度(病気の人を正しく拾い上げられる確率)は70%程度とやはり低めなのですが、特異度(病気じゃない人を正しく否定できる確率)は99%かそれ以上とかなり正確であることがわかってきました。

これらより、以前よりも、病気じゃないのに陽性と出る確率はかなり下がっており、陽性と出れば、その人はかなり高い確率で本当に感染していると言える状況になってしました(ただ依然陰性と出てもその人が本当に感染していないということは言い切れない状況に変わりはありません。陰性でも症状が残っている場合は絶対に他人とは接触しないで下さい!)。
少なくとも病気ではない人が病院のベッドを占有する可能性は以前より低くなりました。
検査を多く行ってもそれ自体が医療崩壊につながるという図式ではなくなり、むしろできるだけ多くの感染患者さんを隔離でき、蔓延を防止するメリットがもたらされる状況になっています。

ですので蔓延期である今、積極的にPCR検査を増やすというのは理にかなっています(蔓延期にいつから突入したかということの判断時期が正しかったかどうか、今の検査数が十分なのかという評価は、ここでは行いません)。

 

なのですが、このような状況の中で今私が非常に心配しているのが、楽天株式会社さんが発売したPCR検査キットの存在です。

 

このPCR検査キットは通常の医療用と大きく精度が変わらないそうです。でもやはり問題があるのです。
では何が問題なのでしょうか。

まず、このキットは医療機器ではないとのことで、医師の診察なしに使用するもののため、医師による新型コロナ感染症であるかどうかの診察をしていません。
すると検査前確率を上げる作業をしないこととなります(つまりゴキブリ好きを見つける検査に近づきます)。

楽天キット

次に検査をするときの手技の問題です。PCR検体は鼻粘膜の奥をしっかりとこする必要がありますが、綿棒を挿入するとき、鼻中隔が曲がっていたりするとうまく挿入できないことがあります。慣れている医療者は微妙に角度を調整し挿入するのですが、経験のない非医療者には難しいと思います。またかなり奥まで挿入することなるのですが、非医療者ではどこまで挿入すればいいのかが不安で、手前で引き返してしまう例が増えるのでないかと思います(実際初期研修医でも最初のうちはかなりビビってしまう人が少なくなく、研修医にとってこの手技は、しばらくの間は上級医の指導を要するものなのです)。

これで感度が下がります(また手技が未熟なことにより検査をする人の感染リスクも上がってしまいます)。

楽天キット

そして取った検体を正しく扱わないと、不純物が検体についてしまう可能性があります。するとこれがコロナウイルスの遺伝子と誤って検出される可能性があります。
特異度が下がる可能性が出てきます。

楽天キット

これら得られる検査結果は、例えキットが医療で用いられるものと同様の精度があったとしても信頼性がかなり下がってしまいます。
加えてこの検査キットは診断には使用しないこととなりますので、不正確に行った検査結果に基づき、結局陽性と出た人が診察を求めて医療機関に殺到します。これによりクラスター、院内感染が発生する可能性が高まります。

当然陰性だから安心していい訳でもありません。先ほども書いたように、もともと感度は高くない検査なのですから。

PCR検査は確かに増やさなければならない時期です。しかし正しく運用される検査である必要があります。決して不安を解消するための検査であってはなりません。
例えキットの精度が保たれていたとしても、なぜこのような検査方法をやるべきではないのか、今回は皆さんに知ってもらいたくてあえてやや辛口で書いてみました。

パンデミックの戦いはチーム戦です。皆さん一人一人が様々な局面で賢明な判断をしていただき、これ以上の医療崩壊を抑える手助けをしていただけることを願っています。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.04.16更新

当院には喘息の患者さんが多数お見えになります。

喘息の患者さんが今心配されていることは、喘息で新型コロナウイルスにかかりやすくなるのか?重症化するのか?といったことだと思います。
現時点(2020年4月16日時点)では、喘息があることで、または喘息の治療をしていることで新型コロナウイルスにかかりやすくなるというデータはありません。また感染した場合に重症な新型コロナウイルス肺炎になりやすくなるということに関しては否定的な論文が1本出ており、それ以外にはデータがありません。(Clinical characteristics of 140 patients infected with SARS-CoV-2 in Wuhan, ChinaAllergy. 2020 Feb 19.)
つまり現時点では、通常の喘息が新型コロナウイルスの感染や増悪に関与するとは言えないとは言えると思います。

ただし喘息の調子が悪くなる原因として一番に挙げられるのは風邪を始めとする感染症です。
そして喘息の増悪は治療が不十分だとより起こりやすくなり、その増悪もより重症となりやすいことは以前からわかっています。新型コロナウイルスに感染し呼吸状態が悪化した時、同時に喘息発作を起こしてしまうと更なる呼吸状態の悪化につながるリスクはあり得ると思います。
ですので、喘息の方にとって、今回のことで一番のリスクになりうることは、治療が不十分であったり、中断されていたりで(一見症状がないとしても)しっかりとコントロールされていないこと、ということになります。

 では「喘息がコントロールされている」、とはどのような状態をいうのでしょうか。

よく「時々咳が出たりヒューヒューしたりすることがあるけど、我慢できるから大丈夫」とか、「苦しくなることがあるけど発作止めを使えば治まるから大丈夫」などという方がいらっしゃいます。
また「吸入薬を使ったら治ったから吸入を止めた」というようにお話しになる方も実に多くいらっしゃいます(喘息は基本的に治る病気ではなく、見えなくても気道の炎症は常に起きており、常に炎症を抑え続ける必要がある病気です)

これらはすべて治療が不十分な状態であり、今回の新型コロナ禍でも十分ハイリスクになりうる状態です。

喘息のコントロールを簡単に把握する質問票として「喘息コントロールテスト(ACT)」というものがあります。これは普段の症状や生活状況に関する5項目の質問票に答えることで判断できるものです。
25点満点で評価しますが、基本は一年中25点であることが必要です(1点でも減点があると完全なコントロールとは言えず、増悪のリスクは高まります)。

 喘息コントロールテスト(ACT:アクト)

喘息コントロールテスト(ACT)

こちらから環境再生保全機構のACTチェックのページに飛ぶことができます

また喘息の治療の基本薬は吸入ステロイド薬です。
これに関しても時々「ステロイド」との響きで怖がる方がいらっしゃいますが、ステロイド薬の副作用は主に体内のホルモンバランスを崩すことで起こるものであり、これは全身投与(内服や注射)を長期に(約2週間以上)続けることで出てくるものです。
吸入薬ではステロイドの量が内服に比べて非常に少ない上に、薬剤は肺でとどまりほとんど血中には届かないため、通常の使用でまず問題になることはありません。指示通りにしっかりと吸入治療を続けましょう。

なお、吸入ステロイドの中で、シクレソニド(商品名:オルベスコ)という薬剤が新型コロナ肺炎3例に対して有効であったという報告が日本から出されており、これを確認する臨床試験が日本と韓国で始まっております。

ただこの薬剤に予防の効果は検討も検証もされていません。
この薬剤は粒子径が非常に小さく、肺の末梢に喘息の炎症が強い方や声枯れの出やすい方に非常に有用な選択肢として使用されています。
しかしもともとそれほど流通量のある薬剤ではなく、需要が高まると容易に供給不足に陥り、本来必要とされる患者さんに届かなくなる危険性が高くなると考えられるため、医療側も患者側も安易な薬剤選択は厳に慎むべきです。

 

他に注意すべき点としては、現在ネブライザー治療はエアロゾルを広げるリスクがあるため、感染が蔓延している現在ではやや感染の危険度が上がります。
ご自宅でネブライザーを使用されており多少でも感染が否定できない場合は、可能なら薬剤を変更するか、どうしても症状をコントロールするために使用しなければならないときは窓を開け換気をよくしてなるべく空気の流れを作り、使用する方以外はできるだけ離れていたほうがいいでしょう。

また重症な喘息の方で、内服のステロイドを連日使用している方は免疫力の低下を来すので、感染を起こすリスクは高くなるかもしれません(数日など短期の使用はそこまでリスクにはならないと思います)。
吸入など通常の治療を「正しく」治療を行っていても症状がコントロールできていない場合は、生物学的製剤や気管支鏡を用いた治療もあるので、ステロイド連日内服の前に検討すべきかもしれません。専門医に相談しましょう。

喘息の治療はここ数年も常に進化を続けており、新しい治療も多く出ております。また他の疾患と違い、薬の使用法のコツをつかむことが治療結果に大きく影響します。
ACTが常に25点でない方は、現状の治療のままでも、何かしらの改善点を知り実行することで状態が良くなることが少なくありません。

少しでも気になる方は主治医の先生や、より喘息に詳しい呼吸器、アレルギー専門医に相談してみましょう。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.04.07更新

本日にも緊急事態宣言が出される見込みであり、皆さんも不安な日々を送られていると思います。当院にも感染したかどうかのご不安でお問い合わせ、ご受診いただくケースが増えております。
まず今まで申し上げている通り、このケースに当てはまる場合は帰国者接触者相談センターにご連絡いただき、指示を仰いでいただくようにお願い致します。

ただその前に,これからは皆さん一人一人がしっかりと普段からの健康管理をしていただくことが大事となってきます。

新型コロナウイルス感染症の症状として、2019月12月から2020年2月までに中国で発症した1994人のメタ解析(いろんな論文を組み入れたもの)データが出ました。
その中では以下の症状の頻度が報告されています(ただし、おそらくここには極めて軽症や無症状の人はあまり入っていないと思われるので、そこに注意して解釈する必要があります)。
 発熱:88.5%
 咳:68.6%
 筋肉痛・筋疲労:35.8%
 喀痰:28.2%
 呼吸困難:21.9%
 頭痛・めまい:12.1%
 下痢:4.8%
 吐き気・嘔吐:3.9%
COVID-19 patients' clinical characteristics, discharge rate, and fatality rate of meta-analysis. Li LQ et al. J Med Virol. (2020)


ということで、やはり発熱の頻度が多くなっていたのは以前お話しした通りです。これが現在の相談基準の一つである「4日間の37.5℃以上の発熱」の根拠にもなっていると思われます。
ですので、まずは自分の体温を把握することは体調管理上大事になってきます。


しかしこの「自分の体温を知るためには,注意しなければならない点がいくつかあります」というのが今回のテーマです。


10代~50歳前後までの日本人の健康な人の腋窩体温の平均値は36.89℃で、36.6~37.2℃に約7割の方が入るというデータがあります(日新医学44:12,1957;635-638)

また、65歳以上の高齢者においてでも、午後1時から4時までに測った体温の平均値は36.66℃で、36.2~37.1℃に約7割の人が入るとされています(日老医誌 12:3,1975;172-177)

平均体温

 

ところが患者さんにアンケートを取ると、平均36.2℃と回答したという報告があり、実際の体温より低く把握しているケースが多いことが考えられています(臨床体温23:1,2005;35-38)
外来でも「平熱が34℃台や35℃台前半だから、36℃台でも自分にとっては熱が高くて心配だ」という方が少なからず見えます。この方たちの全てが間違っているわけではないと思いますが、やはりこの機会ですので、正しく自分の体温を把握するきっかけにしていただければと思います。

 

まず体温には1日のリズムがあり午前3時から7時頃までが一番低くそこから徐々に上昇し、午後2時から6時ごろが一番高く、その変動差は最大0.8℃程度あることが報告されています(J appi physiol.65(1988),1840-1846)食事後や運動後、入浴後も体温は上昇します。
加えて女性では、月経周期で排卵が起こる前(月経が始まる2週間ほど前)からは高温期に移行し、低温期より0.3~0.5℃上昇します。

体温変動


このように体温は1日の中でも、数日の周期でも、変動するものなのです。


なので自分の体温を知っておくためには、1日数回(理想的には起床時、昼食前、夕食前、就寝前の4回)、日をおいて数回測ってみて記録してみることが役立ちます。また外気温にも影響されるので(高齢者では特に影響されやすいです)、気温や季節も考慮しておくといいでしょう。

 

次は体温の測り方についてです。

体温は基本的に腋窩で測って頂ければよいですが、体温計の先端の位置が重要です。

腋窩で一番温度が高いのが、腋窩のくぼみの真ん中です。ここに体温計をしっかり差し込むためには、斜め下30~45度くらいの角度でしっかりとくぼみに差し込むことが重要です。
真横からや、斜め上から差し込むと、センサー部はくぼみの下側に達し、体温が低く出てしまいます。
わき汗をかいていると十分密着しないので、汗は拭きとってから測りましょう。

体温の測定方法

また本来腋窩の体温は10分間密着しないと測れませんが、現在の体温計は「予測式」といって、温度の上昇するスピードから実際の体温の予測値を計算して出す機種が主流です。
このタイプは15~30秒で体温が測れるため便利なのですが、気を付けないといけないのは、2回測るときは、体温計がしっかりと冷えていること(測り始めが35℃以下になっていること)を確認しないと間違った値が出るということです。

 

以上を把握できると、より正しい自分の体温を知ることができます。
体温だけで自分の体調をすべて知ることはできませんが(食欲,だるさ,息苦しさなど全体的な視点も大事です)、体温は一番わかりやすい指標でもあるので、ご自身の体調管理の一つのツールとして活用しましょう。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.03.29更新

新型コロナウイルスについての話題でほぼ占められている昨今、メディアには様々な情報が伝えられています。
特に最近は、世間がよく知っている有名人の方が罹患したというニュースが次々と取り上げられるようになっており、その症状について皆さんの関心が寄せられているようです。
私の外来でも肺炎についてお聞きになる方が非常に多くいらっしゃいますので、本日は現時点(3月29日)でわかっている新型コロナウイルスの肺炎について、わかっている範囲でお話しします(実際私はまだ新型コロナウイルス肺炎と確定した患者を診察しておらず、あくまで今日お話しする内容は論文で報告されている内容と私の知識、それと私が今まで経験した事例を織り交ぜてお話ししようと思います)。

肺というのは、気管、気管支につながる「肺胞」と呼ばれる袋が3億個ほど集まってできている臓器です。そしてその袋と袋のすきまには、血管やリンパ管、それらを支える組織である「間質」という領域があります。
肺では通常呼吸をすることで、空気中の酸素が気管、気管支を通じて袋である「肺胞」に入ってきます。この酸素が「間質」の中にある血管から吸収されることで取り込まれ、心臓に集まったのちに全身に運ばれます。
新型コロナ 肺炎
通常「肺炎」と呼ばれるもので多いのは「細菌性」肺炎です。
これらは、鼻や口から気管支に細菌が入り込み、袋である「肺胞」まで到達して悪さをします。体の中の白血球はこれらの細菌を退治しようと戦い、その結果浸出液という液体が出てきて、袋の中が水浸しになってしまいます。
例えるならば、お互いがカラダを張って直接戦っている「合戦」のようなものです。
すると空気を吸っても肺胞の液体に邪魔されてしまい、血管内に酸素が入らなくなることで息苦しくなります。また肺胞の液体は痰として現れます。
細菌性肺炎

一方、「ウイルス性」肺炎は、上記のような直接的に戦うことによって起こる反応(合戦タイプ)もあるのですが、それだけではなく、これらを排除しようとして自分のカラダの免疫が暴走することによって起きる炎症も大きく影響するとされています(ちょっと正確かどうかはわかりませんが、言うならばデマや恐怖などを与えることで、相手の社会を混乱に陥れる「情報戦」に近いのかもしれません)。これをサイトカインストームと呼び、これらは「間質」そのものや、間質にある「血管」に炎症を起こし傷つけてしまいます。
新型コロナウイルス肺炎に関しても、調べたところ死亡した方の血管、間質からはウイルスが検出されなかったという報告が出されており、これもこのウイルスの肺炎が、ウイルスによる肺の直接的な傷害よりもサイトカインストームが要素として大きいだろうということを示しています(Ann Intern Med. 2020.DOI: 10.7326/M20-0533)。

すると袋である肺胞は傷ついて固くなった間質に邪魔されて膨らみにくくなり、空気が入りづらくなります。加えて肺に届いた空気中の酸素も、固くなった間質や血管の壁に阻まれて取り込まれづらくなり、血中の酸素が不足し、呼吸不全の状態になってしまいます(これは「間質性肺疾患」の状態です)。細菌性肺炎とCTでの見え方もやや異なるため、CTの画像もこのウイルスによる肺炎と診断できる手掛かりであることが多いようです。
間質性肺炎
このような肺炎に至ると、治療は非常に難しいであろうと思われます。理由としては、全身のサイトカインストームが原因なので、両肺同時に肺炎をきたすケースが多くなるため(その分正常な肺が少なくなる)、細菌とは違いウイルスには(インフルエンザやヘルペスなど一部のウイルスを除いて)直接退治する薬がなく、これらを退治するには体の免疫反応に頼るしかないため、それに一般的にウイルス性肺炎では、これらで弱った肺にさらに細菌がついてしまうことが少なくなく、こうなると本当に厳しくなるためです(そのような意味でも、ご高齢の方に今一番できる対策は、肺炎球菌ワクチンの接種なのかもしれません)。
治療には酸素投与、人工呼吸器、人工心肺(ECMO)なども用いられますが、これらはウイルスを排除するためのものではなく、免疫によってウイルスを排除できるまでの時間稼ぎのためのものです。これらの時間稼ぎの結果、免疫によってウイルスが排除されてサイトカインストームが収まれば症状は改善しますが、どこまでもサイトカインストームが進んでしまうと死に至ってしまうというわけです。


高齢者や持病を持っている方が重症化しやすい理由はまだ明らかではないですが、持病があり免疫が弱っていると正しい反応が出来なくなり、サイトカインストームが起こりやすくなってしまうのかもしれません。
また無症状の方のCTでも間質の炎症像が見られることが少なくないとされており、肺炎の起こしやすさという点では通常のウイルスにはない脅威を持っていると言わざるを得ないでしょう。

現在行われている試みは、さまざまな抗ウイルス薬(ウイルスの遺伝子に働きかけて増殖を抑制するなどをする薬剤)や、他の用途で使用していた薬が転用できないかどうかの試み(吸入薬であるシクレソニドなど)と、このウイルスに対応する免疫をつけるワクチンの開発という試みになります(いくつも治験はすすんでいますが、実用化は少なくとも数ヶ月はかかりそうです)。

とにかくこれらが開発されるまで、社会がしっかりと時間稼ぎをするということが大事になるでしょう。

 

ですので、改めてのお願いです。
医療機関に受診される際は必ずマスクをつけ、手指の衛生をお願いします(当院にもアルコールがありますので遠慮なくご使用ください)。
診察室でもマスクは外さなくて結構です。
また少しでも新型コロナウイルス感染症が否定できない要素をお持ちの方は(現在の基準はこちら)、必ず保健所への一報をよろしくお願い致します(当院に直接ご来院いただいてもご連絡をお願いすることもございますのでご了承下さい)。

皆さん一人一人と我々の意識が大事になってくる局面です。何卒ご協力の程よろしくお願い致します。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.03.18更新

まだまだ新型コロナウイルスの騒ぎが止む気配がありません。
当院にも連日風邪症状で新型コロナウイルス感染症を心配される方がいらっしゃいます。
呼吸器専門医としては、一見風邪の症状をきたす様々な病気をしっかりと見極めて治療することが存在意義であり、正直全力で診断、治療をしたい気持ちに駆られます。しかしインフェクションコントロールドクターとしての立ち位置に立ち返ると、やはり病院と比べて感染対策が十分には取れない「クリニック」という環境でやみくもに診療をしてしまうと、周囲の他の患者さんや私たちスタッフに感染をするリスクが高まり、皆さまにご迷惑をお掛けしてしまうことになることもあります。

というわけで現状では、患者の皆様にもご協力を仰がねばならない状態と考えています。


現在国からは「帰国者・接触者相談センター」が設置されており、以下の方はまず帰国者・接触者相談センターに相談をお願いします。

・風邪の症状が4日以上続いている方
・37.5℃以上の発熱が4日以上続いている方、もしくは解熱剤が4日以上必要な方
・強いだるさがある方
・息苦しさがある方
65歳以上の高齢者、糖尿病・心不全・COPDをお持ちの方、抗癌剤、免疫抑制薬(内服ステロイドなどを含む)内服中の方は、4日を2日に読み替える必要があります。また妊婦の方も早めの相談が勧められています。


こちらに相談の上で、当院にかかってもよいとされた場合は、必ずマスクをしたうえで受付でその旨をお話しください。
当院は現在呼吸器感染症が疑われる方に対し、通常とは別ルートでのご案内をいたしております(詳しくはこちら)。他の患者さんと極力動線が交わらないようにするための処置ですので、ご理解いただけますようよろしくお願い致します。

 

なお、現時点で考えられている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の特徴を、私の備忘録も兼ねて記しておきます(これらは2020年3月18日時点で私がpubmedから発表論文を引っ張ってきて得たものです。知見が蓄積されていくにつれ、今後変わっていくことがあることをご理解ください)。

疫学

・現時点では接触感染、飛沫感染が主であり、空気感染は通常起こりがたい(つまり同じ空間にいるだけではうつらない。咳エチケットと手指の衛生管理がとっても大事)
・感染者の約8割は他人に感染させておらず、感染を広げているのは感染者のうち2割であり、その多くは換気の行き届いていない閉鎖空間(客船、バス、ライブハウス、スポーツジムなど)(新型コロナウイルス厚生労働省対策本部クラスター対策班の調査)
・重症化率は50代から増加し、年齢が高くなるにしたがって重症化率は高くなる一方、若い方には感染しても症状を示さない例が少なくない。*
・しかし無症候例から感染したという報告も出ている。N Engl J Med, 382 (10), 970-971
・また無症状の患者でも、CTで肺炎が見られるケースが報告されている。Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet Infect Dis. 2020.

症状

感染後平均4-7日程度の潜伏期間を経て発症する。Early Transmission Dynamics in Wuhan, China, of Novel Coronavirus-Infected Pneumonia. N Engl J Med. 2020.
・発症すると発熱が90%以上、咳が70%程度と頻度は比較的高いが、SARSに比べると発熱を呈さない例が比較的多いと言われ(SARSは98%程度)、発熱の有無だけで判断すると見逃す可能性がある。また発症初期は発熱の程度も軽い例が多い(38℃未満が約8割)。*
・軽症で済む場合は約1週間で改善し、重症化する場合は発病から1週間から10日経ってからが多い。*
・咳は空咳が起きやすい傾向があり、痰は比較的多くない。*
・鼻水、鼻づまりなど、鼻の症状はあまり多くなさそう。*
・リンパ節もほとんど腫れることはない。*
・下痢の頻度は3%程度と低い。*
糖尿病、高血圧、COPD、慢性心不全を持っている患者は発症した場合、重症化するリスクが高い可能性がある。*
・一方喘息が新型コロナウイルスによる肺炎の重症化因子となっている報告は今のところない(もちろん感染によって喘息の悪化につながるリスクは十分にあると思われます)。Clinical characteristics of 140 patients infected with SARS-CoV-2 in Wuhan, ChinaAllergy. 2020 Feb 19.

検査所見

・発症例ではCTで86%に異常が認められるが、レントゲンでの異常は59%にとどまり、レントゲンでは一定数見逃してしまう可能性がある。
CTでは当初は両側の肺の下葉に淡い影(すりガラス影)をきたす例が多い。重症化すると影は濃くなり(浸潤影)、肺全体に広がってくる。A Systematic Review of Imaging Findings in 919 Patients. AJR Am J Roentgenol.
白血球はあまり上がらず、発症者の平均は4700/μl程度。10000/μl以上に増加しているのはわずか6%の一方、4000/μl未満に低下しているのが33%とむしろ白血球は低下傾向を示す。*
CRPは40%で1mg/dl未満。*

・AST、ALT、CKなどの肝酵素が上昇する例は少ない。*

治療

・現時点で有効性が証明された薬剤はない。ただいくつかの薬剤で有効である可能性は示唆されており、いろいろと試されている段階。この中で比較的手近にあるのが喘息吸入薬であるシクレソニド(オルベスコ)だが、治療効果はともかく新型コロナウイルスの予防効果についてはまったく検討されていない(もちろん喘息予防薬としては効果は証明されています)。

* Clinical characteristics of coronavirus disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020.

今後も大きな変化があれば、またこちらに書いてみたいと思います。

 

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.03.09更新

新型コロナウイルスの影響でマスクなどの入手が困難となっており,今年は花粉症の方にはつらい年になってしまいました.
また咳などの症状にも敏感になっている世の中なので,なおのこと肩身の狭い思いをされている花粉症の方も多いのではと思います.


前回花粉症に代表されるようなアレルギー性鼻炎と呼吸器系疾患の関係についてお話ししました.
花粉症の対策,治療をしているにもかかわらず症状が残ってしまうような方は,まずは今の環境の改善に合わせて,よりご自身に合う薬に変更したり,咳などの合併症を同時にしたりとの治療法の再検討をする対策があげられるかと思います(もちろん本当にその症状が花粉症かどうかを考え直してみることが必要なこともあります).
その結果適切な治療を行っているにも関わらず症状が改善しなかったときに挙げられる方法として,今回は生物学的製剤による治療法を取り上げたいと思います(その他手術療法などもありますが,これに関しては耳鼻咽喉科にご相談ください).

生物学的製剤というのは,体に有害な反応を起こしている体内の物質の働きをブロックするために作られた,「人工的な抗体」という物質のことです.
この系統の薬剤は重症な喘息の方で多く使われていますが,今年から重症花粉症に対し「オマリズマブ」商品名:ゾレアという薬剤が使えることになりました.

体内に入った際に,体は異物を排除しようとして抗体という物質を作ります.
主にはIgMやIgG,IgAといったタイプの抗体を作って排除しようとしますが,特定の物質が入ってきたときにIgEという形の抗体を作ってしまうことがあります.
このIgEは我々人体にとってはあまり異物排除の方法がお上手ではなく,これによって様々なアレルギー症状が出てきてしまいます(このようなアレルギーを1型アレルギーと呼び,その人に対しIgEを作りやすい異物をアレルゲンと呼びます).

ゾレアはこのIgEをブロックする注射薬で,今でもIgEの関わる喘息で使われておりますが,今回IgEがかかわることの多いスギによるアレルギー性鼻炎でも使えるようになったというわけです.喘息と違い,花粉症ではゾレアをシーズンの時だけ使えばいいとのことになっています.

現在のところゾレアを花粉症で使う場合は,その前にしっかりと内服や点鼻などで治療を行っていること,血液検査でスギに対するIgEが高いことが使用の条件になっています.
また投与する量も血液中のIgEと体の大きさによって決まり,3割負担で8000円から120000円と幅はありますが比較的高額です.もちろんある程度以上の負担が生じた時は国からの高額医療制度に加え,様々な健康保険組合,医療保険などで使用できる補助,給付などがあり,ご自身の状況を詳しく調べていただければ思いのほか手頃に治療できる可能性もあります.


花粉症の症状が強いことによって起きる様々な不利益を天秤にかけていただき,既存の治療でも生活に支障が出てしまう場合には有力な選択肢になるかもしれませんね.

なおかつて注射1本で花粉症を治せるという触れ込みで行われていた,ステロイドの筋肉注射薬による治療が行われていたこともありましたが,この治療はこれとは全く異なるものです.
この治療はステロイド薬が体内に1か月以上残る薬剤であるため,ステロイドによる副作用のリスクも高く,アレルギー学会や耳鼻咽喉科学会でもできるだけ避けるように勧告されています(なお吸入ステロイド治療,点鼻ステロイド治療とは薬の量,生じるリスクなども全く異なりますので,混同しないようにしてください).

そして重症花粉症に対しては,ゾレア以外にも免疫療法というものがあり,特に舌下免疫療法が注目を集めています.今回も長くなってしまいたので,これについてはまた次回.

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.03.01更新

さて、2月11日のブログの続きをようやく書こうと思います。


前回お話ししたように、花粉症はIgEと呼ばれるちょっと困った免疫グロブリンが、体にとって起こってほしくない反応を引き起こすために症状を引き起こします。
またこのIgEの他に、同じような経路から「好酸球」という白血球も増加し、これも体にとって好ましくない反応を起こします。

実はこれらの困ったちゃん、ある病気の時に肺に出てくることが多いのです。
それが「喘息(ぜんそく)」です。

喘息は気管支に炎症が起こり、咳が出やすくなったり気管支が狭くなったりする病気ですが、その炎症はこれらの困ったちゃんが引き起こしていることが少なくないのです。
事実、喘息患者さんの約7割にアレルギー性鼻炎が合併し、アレルギー性鼻炎患者さんの約3割に喘息が合併しているというデータもあり、これらの患者さんの症状悪化時期は両方の症状とも春と秋に多い傾向があります。アレルギー性鼻炎と喘息の合併率

いろいろ調べてみると、アレルギー性鼻炎の患者さんの肺の機能は低下しやすいことが言われていること、また喘息患者さんにアレルギーの元となる物質を吸わせると、(気管支だけではなく)鼻の粘膜に炎症細胞が増える(その逆もある)ことが明らかになっており、これらは実はつながっている病気であると現在は考えられています。
ですので、花粉症の人に咳を伴う場合、この咳が喘息の症状である場合が少なくないのです。
この場合、どちらかの治療が欠けてしまうと、もう一方の病気もあまりよくならないという状態になることがあり、両方を同時に治療することが症状改善の近道になるとされているのです。

花粉症の咳

 

また花粉症の方の咳は喘息以外でも出ることがあります。
例えばのどにアレルギー反応が起きると「アレルギー性喉頭炎」中枢にある気管にアレルギー反応が起こると「アトピー咳嗽」という状態となります。
また花粉症で鼻水が多いと、この鼻水が後ろに流れ込み、のどから気管にたまってくるために咳がでる「後鼻漏」による咳という病態もあり、この場合は鼻炎を抑えることが大事です。この場合は内服に加え点鼻薬を使用したり、吸入薬をちょっと工夫をした使い方で使用したりすることで改善が望めることがあります。

これらの治療法は喘息の場合と似た治療法になることも多いのですが、一番の違いは治療をするべき期間です。
これらの病気は咳感受性(刺激で咳が出やすい状態)が上がっている一方、気道過敏性(気管支が収縮しやすい状態)はあまり上がらないため、気管支へのダメージがあまりありません。なので基本的に症状がなくなったら治療をやめて大丈夫とされています(再発は少なくないですが、再治療で元に戻ります)。
一方喘息は気道過敏性が上がっているため気管支へのダメージがあり、治療を続けないと気管支に継続的なダメージを与えることになり、治りにくい喘息、重い喘息となってしまって元に戻らなくなる危険性があるため、基本的には長期で治療をしていただく必要があります。

ですので、当院ではこれらの見極めに力を注ぎ、治療の必要な期間をなるべくはっきりさせ、可能な範囲でお示しでするようにしています。

とりあえず大方の人の、花粉症やこれに伴う咳の症状はこれらの治療で改善することが多いです。
しかし、残念ながら中には非常に重症で、これらの治療でも症状が重く日常生活に支障をきたす方もいらっしゃいます。
これらの方々に対して、症状を強力に抑える新しい治療が今年から使えるようになりました。また症状が今後起きにくくする「免疫療法」も注目されています。これらはまた次回お話ししようと思います。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.02.29更新

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、色々とマスコミでも大騒ぎになっています。その中で、「PCR」というウイルスの有無を調べる検査をするべきかどうかということが多くのメディアで議論の対象になっています。
新型コロナウイルスのPCRを今どの程度行うべきかということの議論に関してはここでは述べません。が、「検査」というのは本来どのような性質を持ったもので、どのように解釈すべきなのかということを知らないと、誤った議論になってしまう危険性があります。

このことを一部のメディアは説明をしてくれてはいますが、やはりなかなか一般の方には理解が難しいのではないでしょうか。
そこで今回は、よりなじみやすい形で説明してみることにチャレンジしてみたいと思いますのでお付き合いください(あくまでここに出している数字は説明のためのものであり、架空の数字になります)。
この考えは今回の新型コロナに限らず、インフルエンザの検査や腫瘍マーカーの検査など、すべての検査に応用ができる知識です。

まず前提として、検査というものは、数値などの連続性のあるものを、一番都合のいいところで区切ってそれより大きい(もしくは小さい)ものを異常としようとするものです。
100%完璧に異常とそうでないものを見分けられる検査は存在しません(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症など、人為的に値を区切ることで決める病気は別です)。
そして、陽性者を取り逃さないような設定をすると,陰性者を多く拾ってしまうし、陰性者をなるべく除外できるように設定をすると,陽性者を多く取り逃してしまうという、お互いトレードオフの関係があります。

検査1

今回は検査を調査に置き換えて考えてみます。
「1000人の学校の中で読書が好きな人を見つける」調査をしてみましょう。
いろいろな方法が考えられますが、今回は「所有している本の冊数を調べる」という調査方法にしてみましょう。
ここでは「読書が好きな人」が「病気を持っている人」の例え、「所有してる本」が「検査データ」の例えです(決して読書好きが病気だと言っているわけではありません、念のため)。

おそらく本好きな人は本をより多く持っているでしょう。となれば何冊以上持っていたら読書好きの可能性が高いかを決めます。
まずはそのラインを300冊にしてみましょう。結構多い冊数ですよね。読書好きじゃない人を確実に外せる可能性は高まりますが、読書好きの人を見逃す可能性が高くなります。
また10冊にするとどうでしょう。今度は読書好きの人をカウントできる可能性は極端に高まりますが、読書好きじゃない人もカウントしてしまう可能性もが同時に高まります。
ということで、間をとって50冊にするとバランスがよくなりそうなので、ここをボーダーラインとして設定することとしてみましょう。

さて、学校の中で読書が好きな人の割合はそれほど少なくないでしょう。それを60%としてみましょう。
50冊をボーダーラインと置くと、読書好きを70%の割合でカウントでき(感度70%)、読書好きじゃない人を90%の割合でカウントから外せる(特異度90%)とします。
読書好きは600人のうち、50冊の本を持っているのは420人持っていないのは180人です。また読書好きじゃない400人のうち、50冊持っていないのは360人50冊以上持っているのが40人です。
すると、50冊以上持っている460人の中で本物の読書好きは420人(正しく選べた率:陽性的中率91.3%)50冊未満しか持っていない540人の中で本当に読書好きじゃない人は360人(正しく選べた率:陰性的中率66.7%)との結果が出ました。
逆に言うと、読書好きじゃないのに本をいっぱい持っている人(=病気じゃないのに検査で陽性 → つまり偽陽性)が8.6%読書好きなのに本をあまり持っていない人(=病気なのに検査で陰性 → つまり偽陰性)が33.3%いたことになります。

偽陽性、偽陰性
陰性だと読書好きではないというにはやや不安ですが、陽性なら読書好きといえる可能性はまずまず高いとは言えそうです。

ところが、これを「ゴキブリ好きな人を見つけるために、家にいるゴキブリの数を数える」としたらどうでしょう(気分を害した方、すみません・・・)
ゴキブリが好きな人って相当珍しいですよね。家にゴキブリが多くても好きで飼っている人なんてほとんどいないでしょう。でも1%くらいはそのようなマニアがいて、見つけても退治せずに共生している、むしろ集めている(?!)と仮定しましょう。
同様に例えば50匹をボーダーラインとすると、ゴキブリ好きの70%をカウントでき、ゴキブリ嫌いを90%カウントから外すことができるとしましょう(感度70%、特異度90%であり、読書好きを見つける検査と精度は同様です)。
50匹以上家にゴキブリがいる106人中、本当にゴキブリが好きな人はたった7人でした。正解率(陽性的中率)はたった6.6%であり、実に93.4%の人をカウントし間違えました(=病気じゃないのに検査で陽性 → つまり偽陽性)。一方50匹以下しか家にゴキブリがいない993人のうち99.6%である990人は本当にゴキブリ嫌い(=陰性的中率99.6%)で、ゴキブリマニアなのにゴキブリが家にあまりいない人(=病気なのに検査で陰性 → つまり偽陰性)はわずか0.3%です。こちらはとても正確に調べられたようです。

偽陽性、偽陰性

 

でもやっぱり数字が羅列して難しくなってしまいます・・・
なので、もう少しビジュアルに訴える絵も作ってみました。

確率2

というわけで何が言いたいかというと、その集団での有病率が極端に低いとき、つまり検査前から確率が非常に低いと予想されるときは、同じ精度の検査をしても、病気のない人を間違って陽性と出してしまう可能性が極めて高くなるのです。
ですので、その患者さんの検査前に考えられる確率によって検査結果の解釈は変えなければなりません。
例えば新型コロナの話でいえば、武漢、ダイヤモンドプリンセス、今の日本の街中で、PCR検査の考え方、検査の解釈はそれぞれ変えないといけないわけです。今の日本の街中は「ゴキブリマニア発見検査」に近い状況であると考えられ、コロナじゃないのに検査陽性となる人が多く出る危険性があります(もちろんダイヤモンドプリンセス同様、ある町や学校、会社などで特に流行しているなど特定の集団で有病率が変わる場合があれば、それは考慮しなければなりませんし、今後全体の有病率が高くなってくると当然状況は変わってきます)。

またより正しい検査の解釈に近づけるには、対象の人が病気である確率を高めることが出来れば、「ゴキブリマニア発見検査」の例から「読書好き発見検査」の例に近づけることが出来るようになります(これを「検査前確率」を高めるといいます)。
逆に無症状であったり、コロナウイルスとの接点がないなどの状態では「検査前確率」は低くなり、ますます偽陽性が増えてしまいます(裏を返せば、このように検査前確率を低めていけば、検査が陰性と出た場合にコロナではないと言い切ることはしやすくなります)。
この検査前確率を高めたり、低めたりする手法が「問診」であり、「診察」であり、「他の検査」であるというわけです。
検査の解釈は「検査前確率」の高さ、「感度」、「特異度」によって変えなくてはならず、上に書いた通り、いくらかの情報は必ず犠牲になります。犠牲になるはずの情報を取り入れてしまうと、解釈を誤り、かえって混乱を招く可能性をあげさえしてしまうかもしれないというわけです。

長い・・・

やはり私の能力でこれ以上この話をまとめてわかりやすくお伝えするのは難しい・・・ですが、多少の理解にでもつながるきっかけになっていただければ嬉しいです。

(2020.3.13追記 文章、図中に一部誤っている箇所がありました。お詫びして訂正いたします)

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

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