医師ブログ

2024.07.10更新

前回のブログはこちら!

 

さて、前回はステロイドというお薬の説明を行ってみました。


おさらいをすると、ステロイド薬とは、副腎皮質という臓器が作る「コルチゾール」というホルモンを人工的にまねて作られた薬剤で、働きとしては体の中で起こっている炎症を強制終了させる役割を持っています。
そのため、体の中で不要な炎症が起こっている場合に、とても効果を発揮する薬です。

ただ、とても有用な「ステロイド薬」は、皆さんご存じの通り、その裏に危険をはらんでいます。

そんな一見万能薬とも見える「ステロイド薬」の、負の側面と、それに対してどのように有効に使用していけばいいかということを、今回はお話してみようと思います。

まず、ステロイド薬飲み薬、および注射など、長期にわたり全身に効く形、つまり「全身投与」で使い続けた場合、いったい何が起こるのでしょうか?

ステロイド薬の原型である「コルチゾール」というホルモンは、副腎皮質で作られます。

通常、体の中にはホルモンの量を調節する機構が備わっています。

「コルチゾール」は体の中に少なくなると、脳から副腎皮質に働きかけて、副腎皮質を頑張らせる「副腎皮質刺激ホルモン」というホルモン出てきて、減ったコルチゾールを増やそうとします。
逆に、「コルチゾール」がだぶついてくると、今度は脳から出る「副腎皮質刺激ホルモン」量が少なくなり、副腎はコルチゾールの産生を減らすのです(これをフィードバック機構と呼びます)。

ところがステロイド薬をずっと体に取り込んでいると、体は「コルチゾール」が常に満たされていると判断してしまい、脳から「副腎皮質刺激ホルモン」を出さなくなってしまいます。
でも実際は副腎皮質で「コルチゾール」を作っているわけはないので(体の外からステロイド薬が入ってきているだけなので)この状態が長ーく続くと、副腎皮質はコルチゾールを作らずに徐々に小さくなってしまいます。

そんな時、急に「ステロイド」薬をやめてしまうとどうなるでしょうか?


もちろん脳からは副腎皮質刺激ホルモンが出てきます。
しかし、小さくなってしまった副腎皮質はすぐにはその命令に従うことができず、「コルチゾール」を増やすことができません。

すると、体の中から「コルチゾール」も「ステロイド薬」も、どっちもない状態になってしまいます。

「コルチゾール」は、電解質のバランスを整えたり、糖や脂質、タンパク質の代謝を制御したりして、生命維持を行うホルモンだと説明しました。
体から急にこのホルモンがなくなると、体からのエネルギーを作ることができないので、全身倦怠感が現れ、血圧が下がってしまいます。
また電解質バランスが崩れて、血糖が低下してしまい、生命が危機的状況に陥るのです(この状態を「副腎クリーゼ」と呼びます)。

フィードバック

これを避けるためには、「ステロイド薬」を、副腎皮質が小さくなるまでにやめる必要があります。
また、やむなく長期に続けなくてはならない場合は、副腎皮質の機能が徐々に戻ってくるのとバランスを取りながら、「ステロイド薬」をゆっくりと時間をかけて徐々に減らしていきながらやめていくという必要が出てくるのです。

だいたい間以上ステロイド薬と続けていくと、副腎は小さくなってしまうと言われています。

そのため、2週間以上ステロイド全身投与が必要な場合は、薬をやめるときに急に止めずに、徐々に減らしていくという作業が必要になります(逆を言うと、2週間以内であれば副腎皮質はすぐにホルモンを再産生することができるので、バツっとやめて大丈夫です)。

そして、この作業は「ステロイド全身投与」以外、つまり、吸入薬、点鼻薬、点眼薬、塗布薬など、飲み薬や点滴以外ではあまり考える必要がありません。
これはまた項を改めて説明しましょう。

 

このように、ステロイド薬の全身投与は長く続けた場合、急にはやめられなくなります。
また、体の中の炎症が持続しておこっている場合、その病気を抑えるためにステロイド薬を長期間続けていかざるを得ないケースも少なくありません。

すると、長期に全身投与を続けた場合に起こりうる副作用について、注意をしていく必要があります。
ここからはその点について簡潔にお話をしてみます。

まずは感染症についてです。

ステロイド薬の主な狙いは、炎症をおさえることでした。

炎症はもちろん病気の症状を抑えるのに役立ちますが、一方外界から異物が入ってきたときに、異物を追い出すため、つまり免疫反応にも炎症は起こります。

ステロイド薬が長く続くと、この免疫反応が落ちてしまいますので、感染症にかかりやすくなり、普段は免疫の力でめったに発症しないような菌やウイルス、カビなどにも負けてしまうことがあります。
また結核菌やヘルペスなどは、一度かかると、症状が治った後も菌が体の中に潜んでいることがあります。
免疫が弱くなると、潜んでいた病原菌が再度活性化し、結核や帯状疱疹になることもあるのです。

次に胃腸症状です。

「コルチゾール」は、胃酸を減らす反応を抑えてしまい、胃酸を増やす作用を持ちます。
またたんぱく分解作用があるので、たんぱくを主成分とする胃粘膜が弱くなります。

ステロイド薬が続いた場合、これらの影響で胃潰瘍、十二指腸潰瘍が起こりやすくなります(そのためステロイド薬が長期にわたるときは、必ず胃酸を抑える薬を併用します)。

そして、血糖値の上昇です。


「コルチゾール」は、臓器から糖を取り出し、エネルギーとする働きがありました。
ですので、ステロイド薬が長く続くと、血糖値の上昇を招き、糖尿病の発症、糖尿病の悪化を引き起こす可能性があります。

これに合わせて、ステロイド薬は血圧上昇を引き起こします(これはステロイド薬が糖質コルチコイド作用の他に、多少のミネラルコルチコイド作用も併せ持つからです。ミネラルコルチコイドは血圧の上昇にとても大きな役割を果たしています)。

血糖だけでなく、血圧を上げてしまうことで、動脈硬化は進みやすくなります。
心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症のリスクが上がるのです。


更には、ステロイド薬は骨粗しょう症も引き起こします。


ステロイド薬は腸からのカルシウムの吸収を抑える作用があり、その補充として骨からカルシウムを取り出して補おうとしてしまいます。
そのためカルシウムを抜かれてスカスカになってしまった骨は、脆くなってしまい、骨粗しょう症になってしまいやすくなります(ですので、長期でステロイド薬を使用する場合は、骨の分解を抑える薬を併用します)。


他にも、ステロイド薬を長期に続けると、緑内障、白内障、筋肉の減少、うつ、不眠症、むくみ、顔面や肩、お腹まわりの脂肪沈着などなど、いろいろな不都合を起こします。



しかし、やはり「ステロイド薬」は、いろんな症状を抑えることができる凄い薬でもあります。
私たちは、ステロイド薬の飲み薬や点滴を用いるときは、これらを常に頭に入れながら、細心の注意を払って使用しています。

ステロイドと聞くだけで怖いイメージを持たれる方もいらっしゃいますが、是非主治医に聞いて、しっかり納得、理解した上で、最大限の効果を引き出して頂ければと思います。

 

それでは次のブログでは、吸入をはじめとする、飲み薬でない「ステロイド」の注意点をお話ししようと思います。

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.07.03更新

なんだか発熱患者、増えてます。
そして、コロナ感染も、じわじわ増えています(実はインフルエンザ感染も、まだぽつぽつと出ております)・・・

当院の発熱・感染症外来は、6月初旬ごろまでは落ちついていたのですが、6月中旬からにわかに殺気立ち、7月に入ってからかなりの勢いで増えている印象です(昨日は18名もの方が当院の発熱・感染症外来に受診されました)。

そして、そういえば最近は、コロナワクチンを打っていない方の初感染の方を時々見るようになりました。

若い方を中心に、昨年のコロナワクチンを打っていない方は結構いらっしゃり、ここ2年程度ワクチンを打っていない人は多い印象なのですが、それでも未接種の方と、2年前にオミクロンワクチンを打っている方とで、なんだか症状の重みに差があるような気がするのです・・・


「コロナは風邪」というのは、すでにあながち間違いではないとは思うのですが、それはやはりワクチンを打ってこそ。

接種されている方のコロナ感染は「コロナ=風邪、ときどき+α」なのですがまったく未接種の方は「コロナ≧風邪(つまり、未接種でも風邪と同じくらいで済んでしまう方は少なくないのですが、咳などの後遺症の頻度も含め、そうじゃない方が割合としては少なからずいらっしゃるという意味です)」といった印象をもっています。

おそらく例年の傾向だと、この先1か月はコロナがだいぶ増えてしまいそうです。

体調の思わしくない時は是非マスクを(これ、本当にマナーだと思います)、そして無理をして出社、登校したり、遊びに行ったりしないなど、基本的な感染対策は皆さん守るようにしましょ!

そして、実は今年になって、ファイザーとモデルナ以外のワクチンも続々使用できるようになってきました。
(ワクチンについてはあまり報道されなくなってしまいましたが)純国産のワクチンや、(mRNAワクチンではない)組み換えタンパクワクチンなども登場しており、当初から少しずつ環境が変わってきているのです。

本格的な接種開始は秋になると思いますが、もう少し情報が出そろったら、(最近玉石混交の、根拠の薄い「石」の情報が活気づいている印象なので・・・)客観的な情報を皆さんに提供すべく、ワクチン最新情報もまた記事にしようかなと思っております。

さて、ここから今回の本題です。


当院は非常に多くの喘息の方がいらっしゃるのですが、やはり喘息の方にとって、感染症にかかった後に一番困るのが「喘息増悪」(一昔前は「喘息発作」っていってました)です。

喘息が急に悪くなった時は、まずは気管支を広げる吸入薬(サルタノールとか、メプチンとか)を使います。
そして、その炎症反応をいち早く落ち着かせるために、吸入薬を一時的に強くしたり、アレルギーの薬を加えたりすることもあります。
症状を和らげるのに、痰切れ漢方薬を使用することもあります(いわゆる咳止めを使うことはあまり多くありません。喘息が悪化すると痰が多くなるのですが、咳止めは痰を出そうとする咳を止めてしまい、余計に悪くさせてしまうこともあるからです。乾いた咳が続くときだけ考えます)。

そして、それらのお薬でもコントロールできないときは、「ステロイド」という薬を飲んだり、場合によっては点滴をしたりすることがあります。

でも皆さん、「ステロイド」って聞くと、なんだかすごい怖い薬のように思われません?

そこで今回からは、喘息の方がいつかは使う必要が出てくるかもしれない「ステロイド」について、少し詳しく掘り下げてみて、正しく理解しながら使っていただく手助けをしてみようかなと思います。


そもそも「ステロイド」って、いったい何なんでしょうか?

ステロイドは、正確には「ステロイドホルモン」のことを指すことが多く、これは生物の体内で「コレステロール」を原材料に作られるホルモンの総称です。

その中で、医療で良く用いられる「ステロイド薬」とは、「糖質コルチコイド」という、腎臓の上にある、ちっこい「副腎皮質」という臓器から作られるホルモンを元に、人工的にまねて作られた薬のことを言います(「糖質」という名前は、このホルモンが糖の代謝に関与していることが由来です)。

人間の場合、「糖質コルチコイド」の代表として「コルチゾール」というホルモンが副腎で作られます。

副腎

ステロイドホルモンは他にも、同じく副腎で作られる「ミネラルコルチコイド(ミネラルの一種であるナトリウムの調節に関わっていることが命名の由来です)」、卵巣や精巣で作られる「性ホルモン」があります。

 

ステロイド


ちなみに「性ホルモン」である「アンドロゲン」の一種、「テストステロン」に似せて作られたのが「アナボリックステロイド」で、筋肉増強剤として知られます。
これを競技者が使用するとドーピングになります。

治療で使用する「糖質コルチコイド」のステロイド薬とは全く異なるものです(良く勘違いされたり、質問されたりする点です)。


さて、話を「糖質コルチコイド」に戻します。

「糖質コルチコイド」肝臓から糖を取り出したり脂肪を分解して脂肪酸を、タンパク質(筋肉や骨、皮膚など)を分解してアミノ酸を取り出すことで、エネルギー源を供給します。
またほかのいろいろなホルモンの制御にも関わっていたりと、生命維持には欠かせないホルモンです。

そして、「糖質コルチコイド」は、炎症によって起きる反応を抑えるという働きがあります。
つまり体の中で起きている「炎症」を鎮めることができるのです。

また、体の中でストレスが起こったときに、そのストレスに対峙できる「ストレスホルモン」の役割も果たし、体にストレスがかかると交感神経を刺激したりして、体の活動性を上げることでストレスに対峙するのですが、このような「炎症」を強力に抑える作用も、ストレス対峙には大いに役に立っているのです。

そして、その「炎症を抑える作用」を期待して使われるのが「ステロイド薬」ということになります。


そんな「ステロイド薬」は、体のなかで起きる、望まれざるやっかいな「炎症」を抑えるために、本当に多くの用途で使われます。

例えばリウマチなどの膠原病をはじめとした自己免疫の病気アレルギーの病気がん、そして、コロナをはじめとする感染症が重症化した時、などなど・・・

そして、そこには喘息も含まれます。

こちらでもご説明しているように、喘息は気管支が炎症を引き起こし、気管支の壁がむくんで狭くなったり、分泌液=痰が増える病気です。
ですので、その炎症を抑えるステロイドを使用することで、気道の状態は改善するのです。

約30年前から、喘息の治療にステロイドの吸入薬が普及し始め、喘息の症状コントロールは劇的に良くなりました。
そして今でも喘息治療の主役は吸入ステロイド薬です。

しかし、喘息が一度悪くなってしまうと、全身で炎症反応が雪崩式に次々と起こるため、吸入ステロイド薬だけでは太刀打ちできなくなってしまいます。

そんな時は、この「ステロイド薬」を、飲み薬や注射という形で、血管の中に届かせて全身を巡らせる必要があるのです。

すると、全身で激しい炎症が起こっている「喘息増悪」の状態を「強制終了」、ピンチから切り抜けられるということなのです(以前お書きしたこちらのブログ「炎症」「火事」に例えてみましたが、この「火事」に大量の水をぶっかけて「強制終了」させるのが、ステロイド内服、ステロイド注射ということになります)。

 

炎症


じゃあ、だったら喘息なんて、わかりにくい「吸入薬」じゃなくって、はじめから使いやすい「飲み薬」で飲んでおけばいいじゃん、と思いますよね?

でも、それじゃ、まずいのです。

一見「万能薬」とも見えるステロイド、しかし、その存在は「諸刃の剣」でもあるのです。

ステロイドって何が怖いの?
安全に使うにはどうしたらいい?
じゃあ吸入、点鼻とか、飲まないステロイドは怖くないの?

そんな話を、次回からお話してみようかと思います。

続編はこちら!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.06.16更新

先日、桂ざこば師匠がお亡くなりになりました。

我々関東の人間は、お正月の笑点や探偵ナイトスクープなどでお見掛けしておりました。
普段はあまり見られない、上方落語の重鎮と笑点の噺家さんとのやり取りは、さながらオールスター戦のようでとても楽しかったのを覚えています。
一方ナイトスクープで見せられた、涙もろい一面もざこば師匠の人情味あふれる魅力の一つでした。

謹んで、ご冥福をお祈りいたします。

さて、そのざこば師匠の死因が「喘息」だったと発表されました

生前のVTRでも「喘息がしんどいねん」とのお話をされており、かなりおつらい状態だったのではと思います。

喘息って、すべての人口の約5~10%、つまり10~20人に1人が持っているといわれ、かなりありふれた病気です。

そんな喘息で、死んでしまうということがあるのかと、今回ご不安になられた方も少なくないのではと思います。

喘息って、本当に死んでしまう病気なのでしょうか?

 

 

結論、しっかり治療すればその可能性は非常に低い。ただし、治療が不十分な場合や、ほかの合併症がある場合はその限りではない。

喘息は、以前はなかなか有効な治療法がなく、年間7000人以上が死亡する、非常に怖い病気でした。

そう、喘息は、治療のない状態では、死んでしまうことがある病気なのです。

喘息では、気管支の筋肉が縮んだり、中の粘膜が炎症が起こることでむくんだりし、空気の通り道が狭くなってしまいます(これによって喘息ではゼーゼーします)。

喘息の病態

とても強い喘息発作が起こると、この空気の通り道が非常に細くなり、最終的にはふさがれてしまいます。
こうなってしまうと肺に酸素が届かなくなるので、全身が酸欠状態に陥ります。

この状態になった時には、速やかに「エピネフリン(以前はアドレナリンとも言っていました)」を筋肉注射することで、緊急的に気管支を広げてあげる必要があります。
場合によっては人工呼吸器で空気を送り込む必要もあるでしょう。

この状態になったら一刻も早く救急車を呼ぶ必要があります。


また、それと同時に、炎症が起こることで気管支の分泌細胞から、粘り気の非常に強い痰が分泌されます。

通常、これらの痰は咳によって外に出されるので、喘息では咳、痰が強くなるのですが、あまりに痰の量が多すぎたり、気管支が狭くなりすぎたりすると、気管支にこれらの痰がはまってしまって、抜けなくなってしまいます。(これを「粘液栓」と呼びます)。

粘液栓

気管支に詰まった「粘液栓」です。気色悪いと思われる方もいるかもしれませんので、モザイク処理をしています。ご覧になりたい方は画像をクリックしてください。


すると、はまってしまった痰の先には空気が全く届かなくなってしまい、「窒息」状態になってしまいます。
この状態になるといくら人工呼吸器を入れても、その先には空気が届かないので助からなくなってしまいます。
エピネフリンを使用しても痰が抜けてこなければそこでおしまいです。

しかも、これらの症状は、常に重症な喘息の方で起こるとは限りません。

あるデータでは、喘息で亡くなった人のうちの約40%の方が、いわゆる「中等症」以下の症状で、そこには「軽症」だった方の約7%も含まれているというデータもありますSuissa S, Ernst P : Use of anti-inflammatory therapy and asthma mortality in Japan. Eur Respi J 21 : 101―104, 2003

喘息は、突然このような大変な状態に陥る可能性があるという点で、非常に怖い病気とも言えます。


ただ一方、今の喘息治療の主役である「吸入ステロイド」治療が本格的に広まり始めた25年前から、死亡された方の人数は実に7分の1に減少しており、今では全国でも年間1000人を切るかどうかというところまで来ています。

吸入ステロイドは、この「喘息死亡死」を予防する、「最強の方法」ということになります。

ただ、喘息は今までも何度かお話をしているように、治療をやめずに続けて頂くことがとても難しい病気でもあります。

当院でも、喘息の診断で治療をするととてもよくなり、その後しばらくいらっしゃらなくなった後に再度悪化していらっしゃる方は少なくありません。
以前なぜ喘息の治療は続けてもらいにくいか、以下でお話したことがありますので、もしよろしければお読みください。

2021.10.13 喘息の吸入薬は続けるべき?
2021.11.1 で、喘息の治療は、いつまで続けたらいい?

 

おそらく、喘息死がなくならない一つの原因が、喘息の治療の不適切な中断ということになるでしょう。

また、喘息の吸入薬は、使い方が非常に大事になる薬です。

飲み薬や貼り薬は通常大きく間違うことはなく、ほぼすべての方が正確に使うことができます。
注射や座薬、点眼などの薬も使うのが難しいこともありますが、うまく使えなかった時は通常本人が気づきます。

ところが吸入薬は器具をうまく使えないと、全く肺に入ってこないこともありえます。つまり、やっていないというのと変わらないという状態になる危険性もあるのです。

しかも、吸入薬はうまく使えているかそうでないかを本人がなかなか気づくことができないという欠点も持ち合わせており、「薬を正しく使って、正しく効果を出す」ということがとびぬけてハードルの高い治療法でもあるのです。

そのため、吸入のやり方をしっかり教えてもらう「吸入指導」がめちゃくちゃ大事になるのですが(2020.1.12 吸入薬をもらったときは・・・)、この吸入指導も地域差があり、熱心ではない地域ではあまり教えてもらえていないのが実情です(今はこちらの産業再生保全機構のサイトなど、正しいやり方を教えてくれるところもありますので、あまり教えてもらったことのない方は一度参考にされてもいいと思います)。

またそれでもコントロールのつかない重症喘息の方には、「生物学的製剤」という治療法があるので、この選択肢もしっかり考えるべきでしょう(つまり、この選択肢を使える先生、もしくはコントロールできないときに速やかに専門医に引き継いでくれる先生に診てもらう必要があるとも言えます)。

★生物学的製剤についてはこちら!

2023.10.29 なかなか治らない喘息の切り札「生物学的製剤」って何だ? 〜まずは喘息の反応についてから〜
2023.11.16 喘息の反応を理解したところで・・・各生物学的製剤について解説!(1)
2023.12.2  喘息の反応を理解したところで・・・各生物学的製剤について解説!(2)

 

ここまでしっかりと治療をしていれば、よほどのことがない限り、ほぼ喘息で死ぬことはないと言っていいと思います。
逆に言うと、このうちのどれかが不十分であるならば、リスクはあると思っていただいてよいと思います。

ただし、これは「喘息」だけであった場合です。

もう一つ、喘息で死んでしまうリスクとして、喘息以外の「合併症」があるケースは挙げておけなければなりません。

たとえば、ざこば師匠は生前、かなりのヘビースモーカーだったようです。
もしかしたら、「COPD」という病気も併発していたんじゃないかとも思われます。

「COPD」は、主にタバコをずっと吸い続けたことで、慢性的な気管支の炎症を引き起こし、やはり気管支が狭くなったり、気管支内の分泌が増えてしまったりする病気です。
喘息とは炎症の形が違うので、喘息とは異なる治療を行います(詳しくはコチラ!)。

残念ながら喘息とは異なり、高齢化にも伴って、COPDの死亡数はずっと増加傾向にあります。
年間約18,000人の方がCOPDで亡くなっているという統計も出ていますが、COPDという病気は気づかれないことが多く、いわゆる「隠れ患者」が非常に多いので、気づいた時にはかなり進んでいたということも多い病気なのです(2020.7.14 人にも自分にも気づかれにくい病、COPD)。

喘息とCOPDが合併してしまうと、ただでさえCOPDで気管支が狭いところに喘息の気管支の狭さ、痰の増加が加わり、命にかかわる事態になってしまうリスクが非常に上がってしまいます。

また、喘息もCOPDも、感染症によって悪くなります。
インフルエンザ、コロナ、肺炎球菌
(今後はここにRSウイルスが加わるかもしれません)のワクチンをしっかり接種しておき、いざ感染したときに症状が重くならないように予防していくことが重要になります。

喘息とCOPDが合併すると、治療や管理もかなり複雑になってくるので、ともかくこの病気で死なないようにするためには、できるだけ呼吸器専門医など呼吸器に詳しい医療機関でしっかりと治療と管理を受けたほうがいいと思います。

他にも慢性の肺感染症(非結核性抗酸菌症や気管支拡張症など)や間質性肺炎、それに慢性心不全、さらには睡眠時無呼吸症候群など、もともと心肺機能が弱りやすい病気は、喘息悪化が呼吸不全の最後の一押しになってしまうため、喘息の治療とともに、合併している病気をしっかりコントロールすることが大事になってくるのです。

今日は、喘息の方にとって、少し心配になったであろうニュースについて触れてみました。

確かに喘息は「怖い」一面を持った病気ですが、正しい情報によって、その「怖さ」はほとんど遠ざけることができます。

喘息の方には、ぜひ喘息を正しく恐れ、正しく対処していただき、快適な生活を送っていただきたいと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.06.01更新

当院の「お正月」は6月1日です。

私がこのクリニックを正式に引き継いだのが2020年6月1日でした。
そこから丸4年が経過し、今日から5年目が始まりました。

引き継いだ時はコロナ真っ只中、初日の午後はたったの4人しか患者さんお越しにならず、真っ暗な嵐の海に一人っきりで投げ出されたような気持ちだったものでしたが、おかげ様でその後はご来院頂く皆様のご愛顧に預かり、スタッフの仲間にも支えられて、ここまで頑張ることができています。

皆様、本当にありがとうございます。


この4年間の間に、他に先んじて発熱・感染症外来を積極的に開き、「今」の時代にあったクリニックにするための大改装を決行し、またコロナなどのワクチン接種も行いながら、当院の根幹である、咳などの呼吸器症状にお困りの患者さんのお受け入れを続けてきました。

時代は変わりアフターコロナとなりましたが、それでもコロナ後遺症の咳の方は増え続けています。
今は市外に限らず、県外から、時には新幹線や飛行機でお越しになる患者さんもいらっしゃるなど、患者さんのご期待にプレッシャーを感じつつも、自分たちが必要とされることのやりがいを大いに感じる仕事をさせてもらっています。

当院には今も様々な新たな構想があります。今年もいろいろな動きを予定しています。


また今後ともよろしくお願い致します!

という訳で、今回は前回の続き、当院を皆様にお知り頂いている一番の原動力である「医師ブログ」の閲覧者数ランキング2023-2024の後半をお送りしたいと思います。

それではLet's get it on!

第5位(ユーザー数 56,818人)
コロナと喘息について、今わかってきたこと(2021年1月版)

コロナが始まって1年くらいたったころの記事です。
2020年4月に「新型コロナウイルス流行期に、喘息の方に知っておいてほしいこと」という記事を書きましたが、いろいろなことがその後明らかになり、それをお出しした「アップデート版」の位置づけになります。

ここでの重要ポイントは「喘息が“コロナの重症因子“にはならない」が、「コロナが”喘息の悪化因子“にはなりえる」ということです。

この見解は3年たった現在でもあまり変わりはないようですが、この記事を載せてから3年以上たった今でも、5万人以上の方にこの記事をお読みいただいていること、今でもコロナ感染をきっかけとした喘息悪化の方が非常に多くいらっしゃり、そして症状がなかなか治らずにお困りの方からお問い合わせを頂くケースも絶える気配が全くないこともあり、そろそろ最新の再アップデート版でも書いてみようかなと思っています。


第4位(ユーザー数 62,294人)
吸入薬の落とし穴 <エリプタ編>

当院は半数以上の方が気管支喘息です。

喘息の基本薬はステロイドの吸入薬ですが、その中でも1日1回で済むお薬は非常に続けやすく、当院でも重宝しています。

1日1回で済むステロイドを含む吸入薬の中で、レルベア、テリルジー、アニュイティなどというお薬が、「エリプタ」という吸入器具を用いて使用する薬剤で、国内でのシェアも非常に高くなっています。

「開けて→吸って→おしまい」という、一見とても簡単な吸入薬なのですが、世の中そんなに甘くない。

この吸入器具は、私の経験上、しっかりとした正しい指導なく、うまく使いこなすことが、限りなく難しい吸入なのです(うまく吸えたかどうかが自分ではわからないところがこの薬の最大の欠点だと思っています)。

このブログでは、そんな「エリプタ」の落とし穴を執筆したものとなるのですが、おそらく多くの方がこの「エリプタ」を使用していただいているので、皆様の目に留まったのかなと思います。

ただどうしてもブログなど、文章でお伝えするには限界があり、一番は対面でお伝えすることです。
もしお聞きできる環境なら、今の使い方について、是非主治医の先生や薬剤師の先生に相談してみることをお勧めします。
新しい発見があること請け合いです!


第3位(ユーザー数 64,829人)
パルスオキシメータについて ~使用する際の注意点~

第2位(ユーザー数 142,298人)
パルスオキシメータについて ~酸素飽和度ってなに?~

パルスオキシメータの連載記事が2位、3位を占めました。

コロナ禍の前は医療機関にしかなかった、指の爪などに挟んで酸素飽和度を測定するパルスオキシメータ、今ではかなり多くの方が自宅に所有する時代となりました。
(正確性はまだかもしれませんが)スマートウォッチでも酸素飽和度が測れる事態になりました。

5年でとんでもない時代になったものです。

そんな酸素飽和度ですが、血圧や脈拍など、世の中の一般の方に広く定着している数字とは異なり、まだ世に広がって間もない数字でもあるため、詳しく知りたいと思っていらっしゃる方が非常に多い概念です。

また、パルスオキシメータも正しく使わないと正しい数字が出なかったり、世に出回っているパルスオキシメータも質が様々で、正しく測っても数字が低く出てしまったりで、その数字を見た方が驚いて検索されるというパターンも良くあるようです・・・

正しく使用していただくと、病気になったときにとても役に立つ機械ですし、普段の健康管理にも実は有用です。
もしお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非ご一読ください!


第1位(ユーザー数 692,884人)
コロナの後に続く咳・・・なぜ?どうしたらいい??

やはりこの話題が圧倒的でした。
閲覧者数も2位を5倍近く引き離す、圧倒的なユーザー数でした。

当院にも、コロナが治っているのに咳が治まらず、いくつかの医療機関を受診したにもかかわらず良くならないためにお問い合わせを頂くケースがまだまだ非常に多いです。

そしてこのブログを掲載した後は、そのお問い合わせを全国から頂くようになっています。


コロナウイルスは、今までのウイルス性上気道炎、すなわち「風邪」の中でも、特に咳が長引きやすいウイルスです。

コロナの後に咳が続く場合、その半分強は、「コロナによって悪化した“何か”による咳」です。

その“何か”は、喘息であったり、鼻炎であったり、逆流性食道炎であったりと様々なのですが、まずは、真の「コロナ後遺症」なのか、これらのような“何か”が悪化した咳なのかが判別できないと、この咳を治すことは出来ません。

そして、残った半分弱が、真の「コロナ後遺症」による咳ということになりますが、そこにもいろんなパターンがあり、コロナによる肺炎が残ってしまって止まらない咳、コロナウイルスによって神経が侵されている咳、コロナ感染後による不安感や焦燥感から出る咳、これらの「コロナ後遺症」に、先ほど挙げた“何か”が重なって治りにくくなる咳などなど、まあとにかく複雑すぎて、長引く咳の中ではフリーザ並みのラスボス感がある難しさです・・・


世の中ではすっかり過去のものとなったような空気のコロナなのですが、発熱・感染症外来では、今でもまだまだしっかりと陽性者が一定の割合で出ているのが現実です。

おそらく、このブログに対する関心が薄まっていくことはまだまだ先なのかなって思います。
やはり皆さん、かからないに越したことはないですので、せっかく覚えた基本的な対策は、この先も頭の片隅に置いて頂けたらと思います。


という訳で、この1年のブログ閲覧ランキングを2回にわたり発表してみました。

おかげさまでこの1年で、当院ホームページには170万人以上もの方にお越しいただきました(1年で日本人の1.5%の方にお越しいただいたのって、なんだか自分のとこのものじゃないみたいです・・・)。

診療やクリニック運営をおろそかにしない程度に、今後もとんがったホームページ作りにいそしんでいこうと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.05.13更新

当院に新しい呼吸器内科の先生4名が赴任し、完全複数診療体制が始まってから1ヵ月あまりが過ぎました。
なんだか最近は患者さんがニコニコ診察室にお入りいただくことが多い気がします。

「来たらすぐ呼ばれちゃったからかえって焦っちゃった(^^;)」
「血圧を測る前に呼ばれちゃった(*^^*)」
「早すぎて何かの間違いかと思っちゃった(^。^)」

患者さんもニコニコ、私もニコニコ、そしてスタッフもニコニコ(^_^)

とりあえずこの5月までの段階では、3月以前と比べて、(日にもよるのですが)お待ち頂く時間が大幅に減っていることが多くなっています。
これも、多くの方が、曜日や担当医師の変更にご協力いただけたおかげです。誠にありがとうございます!

院内で治療方針をできるだけ統一し、どの診療枠でも質の高い診療を維持するように尽力いたしておりますが、万が一診察内容にご納得いただけなかった場合は、もう一方の医師がなるべく速やかにフォローの診察させて頂くシステムも開始しました(もちろんそのことで患者様が特に不利益を被ることはございません)。

今後も当院におかかりの皆様には、専門医療機関ならではの奥深い、きめ細かい診療を提供致しますので、おカラダのことでご不安なこと、お困りのことがあればどんな些細な事でも外来にてご相談ください!



さて、院長ブログも現院長である私が執筆開始し丸5年が経過し、計117本の記事を掲載いたしました。

実は当院のホームページにいらっしゃる方のおよそ8割が、この医師ブログをご覧になられている方です。

夜な夜な頑張って書いた甲斐があるってもんです。
皆様、本当にありがとうございます・・・

という訳で、今回は少し趣向を変えて、ここ1年で皆様がどんな記事にご興味を持たれたかをランキング形式でご紹介してみたいと思います!

題して「医師ブログ 閲覧者数ランキング2023-2024」!

グーグル・アナリティクス4における2023年5月1日~2024年4月30日における、「ユーザー数(≒閲覧者数)」をもとにランキングしてみたいと思います(1人が2回以上閲覧しても、ユーザー数は1とカウントされます)。
上位10記事を挙げてみますので少し長くなりそうです。
その為、2回に分けて発表してみたいと思います!

それではHere we go!!

第10位(ユーザー数 23,823人)
2023.03.23 アレルギー検査の結果って、どう読んだらいいの?


この記事は、昨年の花粉症真っ只中の時期に執筆しました。

アレルギーのような症状にお悩みなのに、他の医療機関で「検査結果で出てないからアレルギーありません」と言われて途方に暮れている方が多くいらっしゃったので書いてみた記事です(ちょうどWBCで日本が優勝したタイミングでもあり、その時の院内の様子もブログに書き留めていました。何だがもうずいぶん前の事みたいに感じるのは私だけでしょうか・・・)。

アレルギーの採血検査(いわゆる特異的IgE検査)は、確かにアレルギーの有無の可能性を「推定」することは出来るのですが、この検査だけでアレルギーの有無を「確定」することはできない検査です。
医学はどの検査でも、その解釈に注意しないといけないものが多いのですが、このアレルギー検査はその最たるものでもあります。

しっかりした知識がなく検査を解釈しようとすると、あるはずのアレルギーを「ない」と判定されて症状に苦しんだり、またないはずのアレルギーを「ある」と判定されて無駄なアレルギー抗原回避を長期間行ってしまったりと、生活や症状のコントロールに長く影響をしてしまいます。

ぜひ検査の結果は、しっかりとアレルギーに詳しいお医者さんに説明してもらい、正しく理解して日ごろの生活に役立てましょう!


第9位(ユーザー数 26,263人)
2020.01.12 吸入薬をもらったときは・・・


この記事はもうすでに4年前のものになります。まだ「加藤医院」という名前でしたし、今とだいぶ違う院内の模様替えの様子も載せていました。

ただ私が赴任してから5年間、当院では、喘息に対する「吸入薬の使い方」にはめちゃくちゃこだわっており、それは今回新たに赴任された4人の先生方にも受け継いでいただいています。

やはり吸入薬は、飲み薬や貼り薬と違って、その薬の「量」や「使い方」が間違っていると絶望的に効果がなくなります。
また、吸入のやり方の個人差や、患者さん自身の性格や考え方、そしてその方の生活スタイルなどによって、「吸入薬の種類」の適正も人によって全く異なるものなのです。

これは治療ガイドラインにも詳しくは書いていません。
あまりにもパターンが多すぎて、ガイドラインに載せることができないものなのです。

そんな吸入薬を、数多の診療経験を元に適切に選んで、その方の吸入のやり方の弱点を見抜きしっかりと吸入薬の力を最大限に引き出すのが、私達専門医の仕事です。


第8位(ユーザー数 34,663人)
2021.06.06 治療してもなかなか咳が治らない時に、考えておきたいこと


この記事も2021年の記事です。
ようやく1回目のコロナワクチンが始まったときでした。
やはり「咳」に対する世間の風当たりが非常に強く、「なかなか止まらない咳」でお悩みの方が県内外から多く当院にいらっしゃっていた時期です。

この状況は今になっても変わっていません。

まだまだ咳でお悩みの方が非常に多く、直近1年のこのランキングでも8位に入りました。
「長引く咳」関連の記事は、他にも多くランクインしており、いかに皆さんが「咳」にお悩みでいらっしゃっているかを如実に表しています・・・


第7位(ユーザー数 35,756人)
2019.10.17 「かぜ」と「抗生物質」


この記事は2019年の「コロナ」以前の記事ですが、今でもまだ多くの方にお読みいただいております。

コロナによって、ウイルスには抗生物質が効かないという事実は、一般の皆さんにも広く知られることになりました(コロナで変わった、「いい面」といってもいいと思います)。

抗生物質は、使いすぎると菌が耐性化して、効かなくなってしまうのです。

が、一昔前はその場しのぎで風邪に抗生物質を使うのは当たり前でした。
一方患者さんからも風邪に抗生物質の希望があることが多かったのも事実です。

しかし、耐性菌で感染症の治療が難しくなる方が増えてきたことに伴い、20年ほど前から、医師教育の場で抗生物質を正しく使おうという機運が広がりました。

今では、風邪の原因をしっかりと推測し、抗生物質が必要なさそうなら出さないと言ってくれる医師もだいぶ増えてきました。
また患者さん側も抗生物質の耐性のことをご存知の方が増えてきて、「大事に使ってほしい」と考えて頂ける方が増えました。

抗生物質は大切な「限りある資源」です。

必要な時はしっかり正しく使い、いらない時には使わないという(それを判断するためには「攻めた問診」「攻めた診察」が必要になるので、診察の「質」が問われます)正しい抗生物質の使い方が、更に広まるといいなと思っています。


第6位(ユーザー数 51,561人)
2023.08.04 喘息の人って、解熱剤、鎮痛剤のんでも大丈夫??


この記事は2023年8月の記事なので、実質9か月間の集計になります。
今現在の実際の順位はもう少し上なのかもしれず、最近伸びてきた記事です。

多くの方が喘息や喘息気味と診断をされていますが、その中で解熱鎮痛剤の使用を全面禁止されてしまう方が後を絶ちません。

頭痛持ち、腰痛持ちの方は、これが何気に大きく堪え、生活の質を大きく落としてしまうことも珍しくないのです・・・

もちろん、「アスピリン喘息」と診断をされた方は、絶対にNSAIDsとよばれる解熱鎮痛剤は使用してはいけません。

ただ、多くの喘息の方は「アスピリン喘息」ではありません。

もちろん、だからといって全く心配しないで使っていいという訳ではないのですが、その見極めは時には専門医でも簡単ではありません。

でも、しっかりと状況をお聞きしたり、万が一起こったときの対処方法をお伝えしたり、時には長く様子を見させていただくことで、「アスピリン喘息」でなはいとの確証を得て、鎮痛剤が使用できるようになることも少なくないのです。

是非痛み止めについてお悩みの方は、呼吸器やアレルギーの専門医にご相談してみてください!

今回は10~6位までご紹介いたしました。
次回は5位から紹介しようと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.04.03更新

先日、どのような風の吹き回しか、ニッポン放送さんから番組出演のオファーを頂きました。

元テレビ朝日アナウンサーの竹内由恵さんがMCを務められる「竹内由恵のT-times」という番組で、中小企業の経営者と竹内さんがフリートークをするという企画でした。

竹内由恵のT-times

 大学受験浪人生だった私は、ニッポン放送のリスナーでした(とは言っても、昼に受験勉強を頑張ってから夜のリラックスタイムにオールナイトニッポンを聞くような典型的な受験生リスナーではなく、受験勉強は早々に昼前に飽きてしまい、午後は鉛筆を持ちつつもお昼下がりのテリー伊藤さんや笑福亭鶴光師匠の番組をだらだら聞いているような、なかなか不真面目な浪人生リスナーでした・・・)ので、少しニッポン放送には思い入れもあり、オファーを受けることにしました。

のってけラジオ、噂のゴールデンアワー


昔はちょっと憧れたラジオブースでのお仕事でもあり、当日やや浮かれながら有楽町のニッポン放送へ。

「あのテリーさん、うえちゃん、鶴光師匠、お美和子様が使っていたのと同じ本物のスタジオ、本物の機材だぁ」とちょっとだけ興奮しつつ、竹内さんとお会いし、番組収録開始。

竹内由恵のT-times

自分が今、院長、医療者としてライフワークとしてやっていきたいことなどを中心にお話しをさせて頂きました。

以下よりpodcastで放送をお聞きいただけますので、ご興味のある方は是非どうぞ!(私の登場場面は4:24頃からです)

文字起こしはこちらから!

テレビでもご活躍された竹内さんですが、高飛車なところは全くなくとっても気さくな方で、収録後もいろいろな話をさせていただきました。

 

その収録後のお話しの中で、竹内さんがどうも数日前にお子さんから風邪をもらって、咳が止まらないと。
どうも喘息があるとのことですが、処方されている吸入薬、やりなさいといわれているのになかなか続けられないんですよねと・・・(OAでもこのお話しをされていらっしゃいました)

喘息の病態を説明し、吸入治療の継続の重要性をご説明し、そして吸入薬の使い方、吸入手技を説明し・・・

ん、夢のニッポン放送のスタジオで、いつもの仕事だ(笑)

 

 

さて、今回はそんな竹内さんも含め、多くの方がお困りの「咳」に対し、その原因を突き止めるための「さまざまな検査」について、一気に書き上げてみようかと思います。
ニッポン放送出演記念、気も大きくなり、今回はかなりの長文、大作になりそうです。

 

当院には、日々咳が止まらないことにお困りの方が数多くいらっしゃいます。
その中でも、数週間以上長い期間症状が良くならない方も少なからずいらっしゃいます。

咳は出てすぐの場合と、長引く場合でその原因が異なることが多いものです。

例えば咳が出始めてからすぐの場合は「感染症」からきているケースが多い一方、出始めてから時間が経っているケースでは、「感染症ではないもの」が原因の多くを占めるという傾向があります。

でも、本来は長く続くような「感染症ではない」咳が、出始めてすぐに当院にいらっしゃる方もいますし、一方、中には「感染症」なのに何カ月も治まらないタイプの病原菌(有名どころでは「結核」とか「百日咳」とか)もあって、これだけでは判断はできません。

それにいくつかの原因が重なることも実は珍しくありません(例えば鼻とか目とかのアレルギーである花粉症は、気管支のアレルギーである喘息としばしば重なりますし、花粉症や喘息などで咳が出るとおなかに圧力がかかって胃液が食道に飛び出す「逆流性食道炎」を起こして、それがまた咳の原因になったり・・・)。

とまあ、とにもかくにも、「咳」の原因を高い精度で診断するということは、本当に手間と労力のかかる作業なのです。

そんな時、診断のお助けになるのが「検査」です!

一つだけ検査についての注意点を挙げましょう。
医学の検査には「絶対」という概念がありません。
検査はその病気の診断の確率を「上げたり」、「下げたり」するものです(100%にしたり、0%にしたりするものではないということです)。

具体的には、まずお話の内容や診察で、その病気の可能性(つまりだいたいの確率)を考えることから始まります。
その結果、「この病気と診断したい!」と思ったら、その病気である「確率を上げるため」に検査をします(逆もあり、「その病気じゃないと診断をしたい!」と思った時に、その「確率をさらに下げるための」検査をすることもあります)。

検査の結果が陽性だったら、その病気の可能性が高まり、確定診断に大きく近づくことができます。
一方、「たぶんその病気だろうな」と思っていたにもかかわらず、検査の結果が思わず陰性だった場合は、確かにその病気である確率は最初より落ちます。
でも最初のお話しの内容や診察によって当初導き出された確率を、100%ひっくり返すことは通常ありません。

確率は低くなっても、最初の確率が高ければ、その病気の可能性はまだまだ残るのです。
(このことは2020.2.29 医師ブログ 「検査」を正しく理解するには ~難しいけどなるべくわかりやすくしてみます~ にくわしく書いたことがありますので、お時間のある方はぜひお読みください)

とまあ、いろいろと難しいことを述べましたが、言いたいことは「検査だけでは診断は決まらない」ということです。
あくまで「問診の内容、診察の情報が大事だよ」ということで、「検査は絶対ではない」んだよということは、皆さまにも知っておいてもらいたいと思います。


ということで、咳を診断するために必要な検査を、まずは簡単に挙げていこうと思います。

まずは皆さまの多くが思いつくであろう、「胸部レントゲン」検査です。

肺炎

胸部レントゲン検査についてはこちらに詳しく説明をしています(2022.3.24 医師ブログ 祝!最新式レントゲン装置導入記念ブログ レントゲン写真ってどんなもの?)。

咳の原因としては、3週間以内の咳ならば感染症の可能性が高く、それ以上続く咳なら、感染症の可能性が減り、そのほかの多岐にわたる原因の可能性が上がります。

 

肺炎であれば、レントゲンで肺の中に影が見えます。
肺炎にもいろんなタイプがあり、種々の細菌、ウイルスによる肺炎、結核やカビなど、やや特殊な病原菌による肺炎から、間質性肺炎、免疫異常による肺炎などがあり、これらはそれぞれ特徴的な影の形をとります。
その形をみると、だいたい(もちろん完璧にではないのですが)どのようなタイプの肺炎かを推測することもできます。

また肺がんであれば、肺の中に固まりが見えたり、その影響で肺が縮んでしまったり、水が溜まってしまったりするのをとらえることができます。

他にも心不全だったら、心臓が大きくなって左右双方に水が溜まる、気胸だったら肺がパンクして縮む様子が見られるなど、たった数秒で撮影できる検査で、様々な情報が得られることがあります。

 いろいろなレントゲン

ただ残念ながら、風邪や気管支炎、喘息、鼻炎、逆流性食道炎など、咳の原因として頻度の高い病気では、胸部レントゲンでは何も映りません・・・

確かにいい検査ではあるのですが、万能ではないのです。

 

そこで他の検査を組み合わせることになります。

咳の診断にまずは使える呼吸器系の検査は、主に3つあります。

 

最初にご紹介するのが肺機能検査(スパイロメトリー)です。

スパイロメトリー

この検査では、肺の膨らみやすさ(肺活量)や、気管支の空気の通りやすさ(1秒量)がわかります。

この検査は2通りの検査方法があり、息をゆっくり最大限に吸ってゆっくり最大限に吐き出す「肺活量測定」と、息を思いっきり吸ってできる限りの速さで吐き出す「努力性肺活量測定」の両方の検査を行います。
「肺活量測定」では、肺活量(肺活量は息を最大限吸った状態から、何リットル吐けるか)がわかり、「努力性肺活量測定」では、1秒量(息を最大限吸った状態から一気に吐き出した時に、最初の1秒間で何リットル吐き出せるか →息を思いっきり吐いた時の気管支の空気の通りやすさ)を知ることができます。

例えば気管支の狭くなる病気、例えば喘息やCOPD(いわゆるタバコ肺)などでは、肺の膨らみやすさ(肺活量)はあまり変わりませんが、気管支の空気の通りやすさ(1秒量)が悪化します(空気の通り道である気管支が狭くなると、肺の中の空気が気管支を通って出ていけなくなり、最初の1秒間に吐ききれなくなるからです)。
また肺が硬くなる病気(間質性肺炎など)では、肺が膨らみにくくなるので肺活量は落ちますが、気管支は狭くないので1秒量は変わりません。

またこの検査をもとに、「肺年齢」というのも計算できます(当院に来られる方は、最初の時点で多くが実年齢より20~30歳年上になっていることが少なくありません。その年齢のインパクトに皆さん愕然とされるのが呼吸器外来あるあるです)。

今の肺の状態を知ることができるいい検査なのですが、正しい検査の結果を得るためには、検査のやり方を正しく行う必要があり、これが簡単でないのが欠点です(検査中にせき込んでしまったり、思い切って吸ったり吐いたりするときに、つい奥ゆかしく加減をしてしまったり、など)。

うまく検査ができないと、「肺年齢」がめちゃめちゃ上がり、皆さんを絶望の淵に追いやってしまいます。

ですので、検査をお手伝いする医療スタッフの声掛けなどがとっても大事な検査です(当院の看護師は患者の皆さんがこの検査をうまくしていただけるように、かなーりの絶叫で声掛けをさせてもらっています。びっくりされるかもしれませんが、うまく検査をしていただくためですし、当院の看護師は本当はみんな優しい白衣の天使ですので、どうかビビらないでください・・・)。

 

次行きましょう。
2つ目は呼気一酸化窒素検査です。

呼気NO

こんな機械なのですが、患者さんはこの機械に一定の強さで10秒程度息を吹き込みます(ゲームみたいに画面のアニメをみながら行うと、うまく検査ができるように工夫されています)。

気管支の中でアレルギー反応が起こると、気管支の中に「一酸化窒素」という気体が出てきます。
この検査では、その吐く息の中に含まれる「一酸化窒素」の濃度を調べることで、気管支の中で起きているアレルギー反応を知ることができます。

気管支の中でアレルギー反応が起きる病気、それは気管支喘息です。
正常の方の一酸化窒素濃度は20ppb以下のことが多いのですが、気管支喘息だとこの濃度が上昇し、37ppb以上の方では、喘息の確率が99%と(つまりほぼ喘息と)判断できます。

先ほどの肺機能検査では、気管支の狭さはわかるのですが、それが「何で狭いのか」がわかりませんでした。
この検査では、その狭くなっている原因が、「アレルギーによるものか、そうでないか」がわかります。
つまり、肺機能検査で気管支が狭く、かつ呼気一酸化窒素が増えていたら、それは「喘息」といっていいことになります(逆に、この検査が上がってなければ、アレルギー出ない原因で気管支が狭くなる病気、たとえばCOPDかもしれないということがわかるわけです)

呼気一酸化窒素濃度は鼻炎でも多少上がったりしますし、もともと高い方もいる一方、この数値が上がらない喘息の方もいらっしゃったりと、解釈はそんなに単純ではないのですが、気軽に行えてわかりやすく診断がしやすいこの呼気一酸化窒素検査は、今では咳の診断には不可欠な検査です。


そして最後に、モストグラフ検査です。

モストグラフ

この検査は、機械についた管に向かって普通の呼吸をすると気管支の空気の通りづらさを測ることができる検査です。
検査を受ける方は口に管をくわえて呼吸をするだけなのですが、その際に機械から管を通じて一定の弱い衝撃波が出てきます(吹っ飛ばされたりするような衝撃波ではないのでご安心を)。

衝撃波が機械から管、口を通じて気管支に伝わると、呼吸をしていた時の気管支の空気抵抗(つまり空気の通りづらさ=空気の通り道の狭さ)がわかるという仕組みです。

肺機能検査では、思い切って吸う、思い切って吐くなど、検査の際に普通の呼吸と違う呼吸の仕方をする必要があるのですが、このモストグラフ検査では、できる限り力を抜いて、心を無にして普段通りの呼吸で検査をするようにします。

気管支の狭さを知るという点では肺機能検査と同じなのですが、この検査では肺機能検査ではわからない、気管支のどこら辺(手前側なのか、奥深くの部分なのか)が狭くなっているのか、気管支の狭さが、吸うときと吐くときでどのように変化しているのか(肺機能検査では吐いているときの状態しかわかりません)など、実際の呼吸の状態をリアルタイムに反映した評価ができるのが特徴です。

このデータを活用すると、そもそも気管支が狭くなる病気なのかどうなのか(肺機能検査では拾えない気管支の狭さを拾い上げられるケースがあります)、もし気管支が狭くなっていたら、その狭くなるパターンは喘息やCOPD(タバコ肺)、そのほかの原因で気管支が狭くなる病気なのか、その見極めにとても有効に使えます。

 


あとは、心臓が悪くて咳が出ることもあるので、その場合には心電図の検査が役に立つことがありますし、採血による血液検査では、炎症の度合いやアレルギー体質の有無、どんなアレルギーがあるかをはじめ、他の臓器の影響など、様々な情報がわかります(が、咳に関しては血液検査が決め手にならないことが少なくないのが、咳の診断の難しいところの一つでもあります)。


まずはこれらの検査であたりをつけていき、さらに詳しく掘り下げる必要があるときには痰や尿の検査、肺や副鼻腔のCT(当院では今はまだCTの機械がないため、近隣の病院で撮影してもらって当院で説明をしております。CT、欲しいなぁ・・・)、気管支鏡検査(これは当院にあります!)などを行っていくこともあります。

問診内容や診察をベースに、これらの検査の結果を加味して、その原因を診断し、治療しながら診断の再検討や薬の微調整を行っていくというのが、咳の治療の流れになるわけです。

 

とまあ、さすがに字数オーバーか・・・(このブログ初の5000字超えです)

長すぎるとさすがに皆さん読む気をなくすかと思うので、これらの検査については、いつかまたの機会に、それぞれもう少し掘り下げて書いてみようかなと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.03.13更新

今回、久しぶりに雑誌からの取材をお受けしました。


今回は週刊大衆さんから、「花粉症を市販薬で治すには?」というお題目の中で、内服、点鼻薬、そして漢方薬を使う際のコツや注意点についてお話してきました。

 

そして先日、記事が掲載された雑誌を双葉社さんより当院にお届け頂きました。

待合室において、皆さんにお読みいただこうかなと思ったのですが・・・

週刊大衆

うーん・・・

週刊大衆


というわけで、とりあえず記事の部分だけは、こちらにお載せ致すことに致しました・・・(拡大してどうぞ)

週刊大衆
(他の記事も気になる方は、書店へGO!)

 


さて、今回はおとなのワクチンシリーズ第2弾、帯状疱疹ワクチンについてです。

帯状疱疹ワクチン、最近よくテレビCMなどでも見かけることがあるかと思います。

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そもそも帯状疱疹ってどんな病気なのでしょうか?

 

帯状疱疹は、その名の通り、「体に帯状に水ぶくれが出る病気」です。


この病気は、ご多分に漏れず、ウイルスによって起こります。
その名も「水痘・帯状疱疹ウイルス」といいます。

皆さんお気づきの通り、「帯状疱疹ウイルス」だけじゃないんですね。

その前に書いてある「水痘」とは、いわゆる「水ぼうそう」のことです。

 

「水痘・帯状疱疹ウイルス」は、初めてかかる「水ぼうそう」として発症します。


このウイルスは感染力が非常に強く感染者のまわりから空気中をただよい、他の人に感染することができます(これを「空気感染」とよび、この形の感染を起こすものは非常に感染力が高いです。空気感染を起こすのは、ほかには「麻しん」「結核」などがあげられます)。

そのため「水ぼうそう」は通常、子供の集まる幼稚園や小学校で流行することが多く、「子供に多い感染症」とされています。

ただ通常は症状は軽いことが多く、通常はまずかゆみの伴う発疹から始まり、これと同時に熱が出て、数日後には発疹が周囲が赤い水ぶくれとなり、最終的にかさぶたとなって治ります


ちなみに、子供の水ぼうそうを減らすために、2014年から1~2歳の子に水痘ワクチンが定期接種化され、その後から子供の水ぼうそうの患者数は激減しています。

水痘患者数

国立感染症研究所HPより

 

一方、このワクチンを受けてない世代の感染者の割合が相対的に上がっています。

もし、「水ぼうそう」を子供のうちにかからなかった上に、ワクチンも接種していない「抗体未保有」の状態のまま大人になった後に、初めてこのウイルスに感染してしまうと、肺炎をきたしたり、皮膚もただれたりしてしまうなど、子供よりもずっと重くなってしまいやすくなるといわれています。

加えて、妊婦さんにこれが起こってしまうと、流産や、先天性水痘症候群という先天性障害、それに妊婦さん自体も重症水痘肺炎になりやすくなるなどのリスクが出てきます。


自身にワクチン接種歴がなく、水ぼうそうにもなったことのない方は、検査で確認することなく「水痘ワクチン」を接種することが可能ですので、気づいたら早めに接種していただくことをお勧めします!

 


さて話を戻します。


先ほど「水痘・帯状疱疹ウイルス」に初めてかかった場合は、「水ぼうそう」になるといいました。

一般的に「水ぼうそう」は、体の免疫がウイルスを抑え込み、自然と治ります。

 

しかし、残念ながら、体はウイルスを完全に除去することができません。

免疫による攻撃を受けたウイルスは、体の中の「知覚神経節(神経節とは神経細胞が集まってこぶ状になっているところ)」という部分に逃げ込みます。

 

そしてそこで体の免疫力に抑え込まれ、長い眠りにつくのです・・・

 

さて、ウイルスを持った子供は大人になり、年齢を重ねていきます。

そして年を取ってくると、徐々にウイルスを抑え込んでいた免疫が弱まってきます。


すると長い間抑え込まれて眠っていたウイルスが、徐々に目を覚まして、活動を始めていきます。


この時、ウイルスは「初めて感染した」時と違い、眠っていた時にいた「知覚神経節」から、知覚神経に沿って進んでいきます。

この時、ウイルスは知覚神経を傷つけながら進んでいくため、それによってとても強い痛みをきたしてしまいます。

そしてそのウイルスが皮膚に顔を出すと、神経の通り道に沿った皮膚に水ぶくれをきたしてしまうのです。

 

そして、この病気の非常にやっかいなところが、後遺症の存在です。


一番頻度が多くて、やっかいな後遺症が「帯状疱疹後神経痛」です。

 

帯状疱疹は神経を傷つけ、神経に炎症を引き起こします。

炎症をおこした神経は、その傷がずっと残ってしまうことがあります。

すると水ぶくれがなおっても、神経が傷ついたことによって、その神経からは常に痛みを感じるようになってしまいます。

 


神経そのものが傷ついた痛みですので「刺すような」「電気がびりっと走るような」「焼けるような」とても不快な痛みとして出ます。

また、軽く触れただけでもびりっと痛くなる「アロディニア」という症状を引き起こすことがあり、こうなってしまうと体が冷えたり、服に触れただけでも痛みが出たり、まともに体も洗えなくなったりと、日常生活に多大なる影響を与えてしまいます。


また一度傷ついた神経はなかなか治りません。

3か月程度は続いてしまうことが多く、状況がよくないと数年以上かけてもよくならないという状態に陥ることも稀ではありません。

その治療も特効薬はなく、なかなか難しいのが実情です。


そのほかにも、帯状疱疹が頭部で発症した場合は、顔面神経麻痺や耳鳴り、めまい、難聴を生じる「ラムゼイ・ハント症候群」や、ウイルスによる角膜、結膜、ぶどう膜炎によって視力低下、失明を生じるなどの重大な後遺症を引き起こすこともあるのです。

 

ほんと、とても厄介な病気、それが「帯状疱疹」なのです。

 

なので、この病気には本当に極力かからないほうがいいわけです。


そのために、できる対策はないものでしょうか?

 

そうです、そこで「ワクチン」なのです!

 

「水痘・帯状疱疹ウイルス」に対するワクチンを接種すれば、免疫力のてこ入れによってこのウイルスの目覚めを大幅に抑制することができるのです。

先ほど挙げた「水痘ウイルス」も、帯状疱疹の発症予防に役立ちます。

このワクチンは、ウイルスを弱めて作ったワクチンで、「生ワクチン」というカテゴリーのワクチンです。

このワクチンによる帯状疱疹の発症予防効果は約50%帯状疱疹後神経痛の予防効果は約65%といわれています。

 

一方、この「水痘・帯状疱疹ウイルス」表面のタンパク質を攻撃するようにデザインされた不活化ワクチン「シングリックス」が、2020年に発売されました。

「シングリックス」は、今までの生ワクチンに比べて段違いの効果を示します。

 

現時点のデータでは、このワクチンを接種することで、接種後10年間での帯状疱疹の発症予防効果が約90%に達し、帯状疱疹後神経痛の予防効果に至っては、85~ほぼ100%と、とんでもなく高い効果を示しています。

 

帯状疱疹の発症、帯状疱疹後神経痛は、50歳を過ぎると発症するリスクが飛躍的に上がることがわかっており、80歳までに日本人の3人に1人がかかるといわれています。


そのため、50歳以上のすべての方に、ワクチン接種がおすすめされています。

 

「シングリックス」2か月以上あけて2回接種することになっています(水痘ワクチンは1回接種です)。


「シングリックス」確かに費用は少しお高めです(当院では1回税込22,000円×2回となります)が、基本的に効果は一生もので、一回接種したらそれでおしまいですので、そう考えると将来の健康に対するそんなに高くない投資なんじゃないかなと思います。

 

 

先ほどもお話ししたように、帯状疱疹は全くまれな病気ではなく、みんなが等しくなる可能性のある病気です。

そしてたぶん、発症しちゃったら、「あの時打ってよけばよかったな」と思うワクチンです。

そうなる前に、50歳以上の方は、ぜひ一度、帯状疱疹ワクチンについて接種を考えてみてください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.03.03更新

当院では診療と平行し、さまざまなワクチン接種を行っております。

インフルエンザ、コロナのワクチンを除けば、ワクチンといえば子供が受けるものというイメージをお持ちの方も多いようですが、いわゆる「おとなのワクチン」も少なからず存在します。
以前「肺炎球菌ワクチン」についてはブログでご紹介しました(2020.6.7 高齢者で気を付けたい、肺炎について(肺炎球菌ワクチン解説編)が、その他にも皆様に知っておいてほしいワクチンがいくつかあります。
今後それらのワクチンを少しずつご紹介する記事もアップしてみようと思います。

ということで、早速今回は、おとなのワクチンシリーズ1発目です。

今回は「子宮頸がんワクチン」をご紹介してみましょう。

ワクチンって感染症を予防するものですよね?
でも「がん」のワクチンって何ぞや!?
と思われる方も多いかと思います。

そう、「子宮頸がんワクチン」も、実際はウイルスに対してのワクチンなのです。

どういうことでしょうか?

子宮頸がんの原因って、実は「ヒトパピローマウイルス」というウイルスなのです。

「ヒトパピローマウイルス」は、性交渉によって感染します。
このウイルスは、何も特別なウイルスではなく、感染すること自体は珍しくありません。
感染しても大体は自然に排出されてしまうのですが、排出されずに感染が長期に続いてしまったときに、子宮頸がんを引き起こしてしまうことがあるのです。

その発症年齢は早くて20~30代で、40代にピークを迎えます。

子宮頸がん罹患者数

厚生労働省リーフレットより

現在日本では年間10000人が発症し、年間約2900人(つまり1日約8人)の方が亡くなっていると言われています。

下の絵にあるように、決してまれな病気じゃない、ということです

子宮頸がん罹患者数

厚生労働省リーフレットより

また、20~30代で発症すると、結婚・出産時期と被っていまいます。
この病気は、かかってしまうとその治療により妊娠、出産が難しくなる可能性があるという問題を抱えています。
他にもこの時期は仕事や学業、育児など、ライフプランにも大きな影響を与えてしまうやっかいな病気なのです。

これを予防するために、「ヒトパピローマウイルス」に感染することを抑えるのが、「子宮頸がんワクチン」という訳になります。

 

皆様もマスコミの報道などでご存知だったかとは思いますが、このワクチンには、多様な副作用で接種の推奨が控えられたという歴史があります。
子宮頸がんワクチンを接種後、接種部位以外にも広がる全身の痛みや、手足の動かしにくさ、勝手に体の一部が動いてしまう不随意運動が起きることが報告されました。
これらの因果関係が否定できなかったことから、2013年6月にワクチン接種の推奨が控えられました。
しかしその後の調査で、接種していない方にも同様の症状をきたす方がいることがわかり、その数に明らかな違いは証明されませんでしたFukushima W et al. J Epidemiol. 2022; 32: 34-43
それをふまえて、接種した方、しなかった方約7万人の、各症状での頻度の比較をしたところ、そこにワクチン接種との明らかな関係は統計学的に認められないとの結果がでましたSuzuki S et al. Papillomavirus Res. 2018; 5: 96-103
その結果、国は2021年11月にワクチン接種の推奨差し控えを終了しました。

このワクチンは本来小6~高1の(つまりその年度に12~16歳になる)女の子が対象になるのですが、さっきお話しした接種推奨の差し控えにより、2013年~2021年にこれらの年齢に達した女性は、接種推奨のエアポケットに落ちてしまい、接種の機会を逸してしまいました。

そのためその接種機会を取り戻すため、現在1997年4月2日~2007年4月1日生まれ(つまり今年の4月1日に17歳~26歳)の方に対して、改めて接種の機会を提供することになりました。

これを「キャッチアップ接種」といいます(大事なことで、あとでまた出てきますので、よーく覚えておいてください!)。

それでは、次はそのワクチンについて具体的にご紹介します。

「ヒトパピローマウイルス」は多くの型があるのですが、子宮頸がんを引き起こしやすい「ハイリスク型」のウイルスは「16型」「18型」で、子宮頸がんの原因の60~70%を占めると言われています。

子宮頸がんワクチンは、これらに対する効果を含んでいないといけません。

まずその2つの型をターゲットとした(つまり2価ワクチンである)「サーバリックス」、それにもう2種類の型を加えた(つまり4価ワクチンである)「ガーダシル」というワクチンが存在していました(「ガーダシル」に加えられたもう2種類は、尖圭コンジローマという病気の元になる型で、これの発症も抑えることができます)。

その後、4価の「ガーダシル」から、更に子宮頸がんを起こしうる5種類の型への効果を加えた(つまり9価ワクチンである)「シルガード9」が2021年に日本で発売開始されました。

子宮頸がんワクチンの種類

子宮頸がんの発症予防効果は「サーバリックス」「ガーダシル」が60~70%、「シルガード9」90%以上となっており、安全性にも特に大きな差はみられません。
2023年3月までは、公費で受けられるのは「サーバリックス」「ガーダシル」だけでしたが、2023年4月からは「シルガード9」も公費で受けられるようになりました。

価格面での差もなくなったわけですので、公費で受けるなら、現時点でのおすすめは「シルガード9」と言って差し支えないと思います。

とはいっても、過去に「サーバリックス」「ガーダシル」を接種した方も、子宮頸がんの発症を予防するには十分効果がでますので、あまり考えすぎることもないと思います。


また子宮頸がんワクチンは後でお話するように2~3回受けますが、1回目に「サーバリックス」「ガーダシル」を受けた場合でも、2回目以降に「シルガード9」に変更することが認められています(そのように打った場合の有効性のデータは少ないのですが)。
2回目以降に種類の変更を希望される場合は、私たち医師にご相談ください。

次は接種の仕方、接種スケジュールです。

子宮頸がんワクチンは3種類とも「筋肉注射」で行います(コロナワクチンと一緒ですね)。

「サーバリックス」3回の接種で、1回目を打った後、1か月、6か月で2,3回目を接種します。

サーバリックス

「ガーダシル」3回の接種で、1回目を打った後、2か月、6か月で2,3回目を接種します。

ガーダシル

「シルガード9」は年齢により分かれます。
1回目接種の時に15歳以上の方は3回の接種で、1回目を打った後、2か月、6か月で2,3回目を接種します(「ガーダシル」と一緒です)。

シルガード
1回目接種の時に14歳以下の方は2回接種となり、1回減らすことができます。1回目を打った後、6か月で2回目です。

シルガード

これらのスケジュールでどうしても打てないときにも対処方法がありますので、困ったときは医師にご相談ください。


そしてここからが一番大事なことです。

国による「キャッチアップ接種」が、今年の9月で受付を終了します!
正確には2025年3月で公費における接種が終了しますが、上でお話した通り、すべて打ち切るには通常6か月かかります。

ですので9月までに1回目を打っておかないと、最後の接種が3月に間に合わなくなってしまうのです。

思ったほど時間はありません。
特に今年の4月1日に17~26歳となる女性の方は、できれば早めに接種を開始してください!



さて、3月に入りましたが、相変わらず当院には非常に多くの方にご来院頂いております。

正直、現在はかかりつけの方を診るので精いっぱいの状態が続いており、新患の方の枠を再診の方に振り分けて何とか対応している状態です。
当院おかかり希望の方には、大変ご迷惑をお掛けしております。

以前からお伝えしている通り、4月からは呼吸器診療枠を大幅に拡大し、パワーアップすることになっています。

今回その陣容の詳細が決まりましたので、少しご紹介させて頂きます。

今回、新たに当院で呼吸器診療に当たる医師は4名となります!(現在水曜を担当している平田医師は3月いっぱいとなりました)

まずは、福田勉医師です。
福田医師は現在茅ヶ崎市立病院の内科診療部長、および呼吸器内科部長を務めている医師です。

咳や息苦しさなどの呼吸器症状に40年以上にわたり立ち向むかった、長年の経験に裏打ちされた質の高い診療を提供していただきます。

福田医師火曜午後、土曜の診察を担当致します。

次にご紹介するのは、藤本紗代医師です。
藤本医師は大学病院、総合病院で呼吸器専門医として活躍されています。
また、呼吸器内科医として在宅の場でも医療を提供されており、患者さんと非常に近い距離で接しておられる医師です。
非常に話しやすい雰囲気で、女性ならではの視点できめ細かい医療を提供していだだきます。

藤本医師月曜午前、火曜午前を担当いたします。

またその他にも2名の医師が横浜市立大学から派遣されます。
こちらの医師につきましてはまた後ほどご紹介させて頂くこととしましょう。

金曜午後の飯沼医師による循環器専門外来は4月以降も変更なく行います。
また加藤医師の診療は金曜午前となります(土曜日は福田医師の診察に変更となりますのでご注意ください)。

この陣容で、4月以降は新患の方、再診の方ともに予約が今までよりもずいぶんとお取り頂きやすくなるかと思います。

加藤医院、茅ヶ崎内科と呼吸のクリニックの歴史の中でも大転換点となるような診療体制強化となります。
是非新生茅ヶ崎内科と呼吸のクリニックをよろしくお願いします!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.02.09更新

久しぶりに茅ヶ崎でも雪が降り、冬本番の寒さが続いています。

そういえば、インフルエンザが流行り始めたのが昨年の8月から。
今とは真逆の、うだるような暑さの中で、3年ぶりの、しかも季節外れの流行が始まっていました。

「コロナが終わったと思ったら今度はインフルかよ・・・」と思いつつも、通常インフルエンザの流行は2~3か月で落ち着くので、「次のコロナの流行とはかぶらなそうだな、まあタイミング的には悪くなかったかな」などと、甘い戯言を言っていました。

それが・・・

インフルエンザの流行はダラダラと異例の長期にわたった挙句、半年を経た今になってまさかのピークを迎えつつあり、そうこうしているうちにとうとうコロナの流行までも始まってしまいました・・・

3年間の眠りから目覚めたインフルエンザ、やはりえげつねーっす・・・

茅ヶ崎市のインフル、コロナ流行状況
インフルエンザ、コロナ流行状況

2024年2月8日発表 茅ヶ崎市保健所管内感染症情報

加えて、今年は溶連菌感染症もまだ警報級の流行を見せており、あまつさえやや早くから始まってしまった花粉症、そしてそれらをきっかけに悪化してしまった咳に困っている方も非常に多いようで、当院の新患枠、発熱感染症外来枠は、開けても開けてもすぐに埋まってしまう、阿鼻叫喚の状態です・・・



当院としては、もちろん一番の得意技である咳の診断、治療はできる限り行いたい、咳で困っている方を何とかしてあげたい、その気持ちはあふれるほど持っています。

しかし、限界を突破した更なる限界の状況で、逆立ちしてもどうあがいても今はこれ以上お受入れできないという状態の今、どうしても受診がかなわない、今お困りの患者さんに何とか少しでも罪滅ぼしはできないのだろうか・・・

ということで、今回は、病院にすぐには行けない時にも、何とか自力で咳を抑えこむ方法をお伝えしてみたいと思います。


まずは、普段、咳のあまりしない方で、急に咳がでてしまった方です。

風邪の咳

この場合、上気道炎や気管支炎といった感染症の可能性が高いと思われます。
そして通常、健常な方の場合は、その原因の9割以上がウイルスといわれています(つまり抗生物質は効きません。詳細はこちらのブログ:2019.10.17「かぜ」と「抗生物質」)。
そしてインフルエンザ、コロナを除けば、これらのウイルスを直接やっつける薬は通常ありませんインフルエンザコロナには薬があるので、受診できるのであれば受診、診断を受けて処方をもらうのがベターなのはもちろんです)。

薬のないウイルス感染症である場合は、そのウイルスが自分の免疫で体内から追い出されて、ウイルスに傷つかれた気道が修復されるまで、咳を根本的に止めることはできないというのが実情です。

症状を和らげて時が過ぎ去るのを待ちましょう。

痰を伴わない乾いた咳の場合は、市販の風邪薬の中の成分に「コデイン」が含まれているものは効果があるかと思います。
また我々が時に使用する「デキストロメトルファン(商品名メジコン)という成分も、今はOTC薬がでて、薬局で買えるようになっているようです。
加えて、比較的乾いた咳の場合は、「麦門冬湯」という咳止めがよく効く場合があり、これもドラッグストアで手に入る薬剤なので使用してみてもいいかと思います。


次に、風邪を引いた前後に鼻が悪くなって、鼻水がのどに落ち込む場合です。

鼻炎の咳

この場合は、痰がのどに絡んで、それが刺激となって咳が出るため、痰を取り除くこと、痰のもととなっている鼻水を減らすことが重要になります。

流れ落ちる鼻水や痰がさらさらして、水みたいになっている場合は、アレルギー性鼻炎が起きている可能性があります。
まずは薬局で抗アレルギー薬「アレグラ」とか「アレジオン」とか「クラリチン」とか)を探してみてください。また漢方では「小青竜湯」という薬があっています。

またこちらのブログも参考にして、花粉をなるべく体に取り込ませないようにしてください(2023.2.10 薬だけじゃない!自分でできる、シーズン中に実践したい花粉症対策

また、その鼻水や痰が粘っこい場合は、まずその痰を柔らかくして出しやすくしてあげる必要があります。
「カルボシステイン」「ブロムヘキシン」などの成分が含まれた「鎮咳去痰薬「クールワン」とか「ストナ」とか)」を選ぶといいかと思います。

この時、あまり咳止めの成分は入っていなくてもいいかもしれません。
この時の咳は痰を出すための「エンジン」ですので、それを止めると余計痰がたまってしまい、痰がらみが強く感じてしまう可能性があるからなんです。

どうしても咳がつらい場合に咳止め成分を入れるかどうかは、上記のデメリットも頭に入れて判断してください。

また、副鼻腔炎が原因となっている場合もありますので、この場合は「辛夷清肺湯」を含む薬も使えます(「チクナイン」などが該当します)。


次に、タバコを吸う方で、ふとした時に咳がよく出る方です。

タバコの咳

そりゃもちろん「タバコやめろ」という話ですが、それがすぐには難しいこともよーくわかっています(ただもちろん、時間をかけてでもいいので、これに懲りていただき「いつかは」やめられるようにしましょう。当院禁煙外来のページについてはこちら)。


やはりこの場合は痰が増える場合が多いので、その痰をしっかり出していただくことが大事です。

上記でお話しした「鎮咳去痰薬」をまずは使用してみて下さい。
漢方系では、悪化した肺や気管支の環境を整えることができる「清肺湯」という漢方が効果があることがあります(「ダスモック」とかも清肺湯を含みます)。


胃酸が逆流しても咳が出ることがあります。

逆流性食道炎の咳

やや太り気味の方や、食後や横になると胃酸が上がってきて咳が増える方は、胃酸を抑える「ガスター」も試してみてください。


そして、いわゆる「喘息」っぽい咳が出る方ですが・・・

喘息の咳
とりあえずできることは挙げては行きますが、さすがにこれは医療機関に受診しないと厳しいです・・・

「アストフィリン」とか「アスクロン」とか、無理やり気管支を広げるようなお薬も売ってはいますが、副作用も多く効果も一時しのぎでさほど出ないことが多いため、「急場をしのぐ」以外の用途では、正直あまりお勧めはしません。

あと、いわゆる上で挙げた「デキストロメトルファン」とか「コデイン」の含まれている咳止めは、基本的にはダメです。まず効果はありません(特に「コデイン」は『ダメ、ゼッタイ』です。気管支収縮作用があり、喘息を悪化させます)

咳の種類によって、「麦門冬湯」「小青竜湯」「五虎湯」「麻杏甘石湯」といったあたりの漢方は、多少なりとも効果が期待できるかもしれません(もうここら辺の使い分けはさすがに一般の方には難しいと思うので、ドラッグストアの薬剤師とご相談ください)。

お子さんでは「はちみつ」がこのような咳に効くというデータも出ていますので(1歳未満はボツリヌス菌感染のリスクがあるため、はちみつは『ダメ、ゼッタイ』です)、試していただいてもいいかもしれません。

生活面では、とにかく冷たい空気、乾いた空気が一番の刺激になるので、マスク(夜寝るときもつけて下さい)、マフラー(首元にある気管を冷やさないようにです)、部屋の加湿、しっかり水分補給(できれば気道を冷やさないように温かいもので)などを心がけて、受診できる機会が来るまで何とかやり過ごすしかないです。


ひとまず、医療機関に受診しないできる対策は挙げられるだけ挙げてみましたが、でも結局なかなか症状がおさまらないということも少なくはなく、やはりこの場合は医療機関への受診が必要となります。

なのに・・・
なかなか予約がお取りいただけない状況で・・・


誠に申し訳ないっす。ぴえん。

ぴえん


でもね・・・

 

ようやく!

きらきら

当院は4月から、呼吸器診療を大幅にパワーアップすることになりました!!
2人だった呼吸器内科医が、4月から一気に5人に増えます!

そして、基本的にすべての日で2人以上の医師が対応できるようになります!

この1~2年間は、本当に予約が取りづらい状態でご迷惑をおかけし続けていましたが、4月からは一気に受診していただくことができやすくなるはずです!

詳細は決まり次第、改めてLINE公式アカウントや当院HPで公表いたします。
それまでの間は、何とか今日お話しした対処法も参考にしていただきながらお過ごしいただき、4月をお待ちいただけますと幸いです(もちろん新患枠は準備はしておりますので、予約がお取り頂けたらすぐお越しください!)

また当院おかかりつけの方は、症状悪化時はいつでも受診を受け付けておりますので、遠慮なくお電話やメールでお問い合わせください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.01.22更新

年明けより、当院のご予約が非常に取りにくい状態となっており、皆様には大変ご迷惑をおかけしております。

インフルエンザの規格外の長期流行が収まらぬうちに、コロナも徐々に増えてきているようです。
当院の発熱・感染症外来の肌感覚では、11月はインフル:コロナが9:1くらいだったのが、12月は7:3くらいになり、この1月は5:5くらいになってきている印象です。
またさすがに1月は冷え込む日も多く、気管支にとっては過酷な環境になっています。

大変多くの受診ご希望のお問合せを頂いているにも関わらず、受診まで大変お待たせしてしまい非常に心苦しい状況ですが、不定期ながらも2月から土曜日の呼吸器科医師による呼吸器専門診療を開始する予定としております。
他院からの転院ご希望の方長引く咳の方にも、わずかではありますが当院の受診機会をご提供できるかと思います。

ご希望の方は是非、最新情報を当院LINE公式アカウントやこのホームページなどでご確認頂けますと幸いです!



さて、この時期のコロナ、インフルをはじめとした感染症は、ご存じの通り集団生活をする学校でも爆発的に広がります。
またお子様は外遊びや体育、部活など、屋外での運動の機会が多く、気道がより冷たい、乾燥した空気にさらされがちになります。

そのためこの時期は、咳が止まらなくなるお子様が増えてきます。
その中には、やはり喘息のお子様が少なからずいらっしゃいます。

感染や寒さ、乾燥をきっかけとして、喘息が悪化してしまうお子様が非常に多いのです。


そこで今回は、長引く咳、特にその中でも頻度の多い喘息の、大人と子供で同じこと、そして違うことについて書いてみようかと思います(赤ちゃんなど、乳児の喘息は私は診察できませんので・・・申し訳ありませんが今回は割愛させてもらいます。ぜひ小児科の先生にご相談ください)。


まず、大人と子供で同じことです。

 

喘息が「気道の慢性的な炎症」であるということは、全く同じです。

つまり、子供でも大人でも、「長期的なお付き合いをしていく必要がある病気」ということになります。

 

そして、喘息は大人も子供も、「風邪」一番症状を悪化させやすくする原因です。

今のような感染症が大きく流行る時期は、しっかりと手洗いや手指消毒、換気などの感染対策をとることが重要です。

体内での病原体の量は炎症の強さと比例することも多く、体内での病原体の増加を抑える各種ワクチンの適切な時期の接種も重要である点も、大人と子供で一緒です。

また、大人でも喘息に鼻炎が合併している例は少なくありませんが、小児喘息でも同様です。

むしろお子様はなかなかうまく鼻がかめず、痰もうまく出せないことが多く、鼻水が鼻の奥やのどにたまってしまい、これが咳の原因になったり、鼻症状を余計に悪くして巡り巡って喘息の悪化に影響してしまったりすることもあります。

いずれにせよ、大人でも子供でも、喘息の治療をしっかりするなら、鼻のコントロールをしっかり行うことがめちゃくちゃ重要になります。

 


次に、子供と大人で違うところをあげていきましょう。

まずは症状です。
子供と大人の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」の頻度の違いです。

子供の場合、当然のことながら気管支がもともと細いです。

喘息では、気管支から「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が鳴るというイメージをお持ちの方は多いかと思います。

成人の場合は、喘息であってもこのイメージは必ずしも当てはまらず、むしろ「ゼーゼー」「ヒューヒュー」ならない喘息の方が多い印象ですが、子供の場合は、気管支が、音が鳴るような狭さになりやすいという点から、大人より「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音をきたしやすいです。

ですので、小児喘息の診断では、大人よりも「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえることを重視する傾向があります。

ただし、逆に言うと他の原因、たとえばウイルス感染症による細気管支炎や鼻の炎症などで「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が生じる例も少なくなく、特に3歳までは、喘息もないのに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」としやすい子が少なくありません(これを「一過性初期喘鳴群」と言います)。

「ゼーゼー」「ヒューヒュー」するからと言って喘息と決めつけることできず、診断は気を付けて行うことが大事です。


また、時に検査が難しいのも小児喘息の特徴です。

喘息の検査は、採血だけでなく、息を吸ったり吐いたりする検査が重要な位置を占めています。
この検査は、息の吸い方、吐き方、その力の入れ具合など、決められた方法に従って行わないと、正しい結果がでません。
ですので当たり前なのですが、お子様は大人に比べてうまく検査をできないケースが多くなってしまいます。

なので子供の喘息を診断するときは、検査に頼らずに、症状、今までのヒストリー、家族歴や周辺環境(ペットや運動歴など)から総合的に判断し、とりあえず治療してみてその治療に反応するかを見る「診断的治療」に頼らざるを得ない場合が少なくありません。

 

次に、小児喘息のアレルギー反応の頻度の高さです。

小児喘息は、アレルギー反応が原因として起こる頻度が90%程度ととても高いと言われています。
例えばダニやペット、カビなどが体の中に入って、それを追い出そうとする「おバカ抗体」であるIgEが、気道に炎症を起こしてしまうパターンです。

採血呼気一酸化窒素検査(気道のアレルギー反応の強さを調べる検査です)でも、しっかりアレルギー性炎症のデータが出てくることが多いです(もちろん例外もありますが)。
ですので、子供の喘息では環境調整が大きな効果を示す例が多くあり、またステロイド吸入薬などのアレルギー反応を抑える治療も比較的効果は上がりやすい傾向があります。

一方大人の喘息は、検査をしてもアレルギーの原因がはっきりしないタイプが50%と小児喘息よりは多く、その原因はよりいろいろなパターンがあり複雑です。
その場合は環境調整をしてもなかなか良くならなかったり、吸入薬や抗アレルギー薬の効きも悪かったりする例が少なくありません。


また経過でも違いがあります。

小児喘息は「治る可能性が十分ある病気」です。

 

喘息は主に乳幼児の時に出てきやすいと言われ、成長に伴い徐々に症状が徐々に出にくくなることが多いです。
小児喘息のあるお子様のおおよそ60~80%が大人になったら症状が落ち着くというデータもあります(ただその後、大人になってから再発してしまう方が、その中の半分程度いらっしゃるというデータもあります・・・)。

一方、成人喘息自然に治ってしまうことははっきり言って非常に少ないです(一時的に落ち着いていても治療を中断すると、どこかで悪化をしてしまう、いわゆる「くすぶった状態」にしかならない例が非常に多いです)。

ですので、小児喘息の場合は、長期にわたる治療を止めることのリスクが高い成人喘息と違い、成長とともに将来的に吸入薬などの治療を止められる方が少なくありません。

しかし、とはいってもこの時期にしっかり治療しておかないと、気管支の炎症が固定化してしまい、喘息が治らずにそのまま大人になってしまうことにつながってしまうので、必要な治療はしっかりと指示通り続けないといけないのは成人と同様です。

自分の判断で薬を止めてしまうことは絶対に避けて、必ず主治医の先生と相談しましょう。

 


使うお薬にも多少の違いがあります。

 

まずは大人と子供の「吸入ステロイド」の立ち位置です。

まず大人の喘息では「超基本薬」となっている吸入ステロイドですが、小児喘息でもとても大事な位置づけではあるものの、症状が軽い場合はその後改善、完治の方向に行くことも考慮して、吸入ステロイドを使用せずに治療をするケースがあります。

小児の喘息治療ガイドラインでは、年数回までの症状なら、飲み薬(モンテルカストやプランルカストなど)だけでコントロールすることとされ、週1回以下程度までの症状であっても、ステロイド吸入薬と飲み薬のどちらかを続ければいいということになっており、症状が極々軽い人を除いて基本的に吸入ステロイドを使うことが必要となる大人の喘息よりは、ほんの少しだけその地位が低いかなという印象です。

理由としては、小さい子では吸入治療が大人より難しいという点と、もうひとつ、小児では吸入ステロイドを長期に使用することで、大人になったときの身長が男子で0.8cm、女子で1.8cm程度小さくなってしまうというデータもあってEffect of inhaled glucocorticosteroids in childhood on adult height. N Engl J Med. 2012;367:904-912成人の喘息よりは少し慎重に使用する必要があるからなのです。

ただ、先ほどもお話ししたように、不十分な治療は、喘息が重症化してしまうリスクや、大人になってからも症状を持ち越してしまうリスクの増加につながり、将来の健康を脅かす要素となってしまいます。

ですので必要な時に出されたステロイド吸入薬はやはり大人と同様、しっかり指示通りに続けて頂くことが重要であるというのは、全く揺るぎません。

 

次に、薬の量と種類の違いです。


そして、成人に比べると、小児で使える吸入薬は当たり前ですが、量が少なく設定され、種類も限られています。

小学生低学年程度であればいいのですが、小学生高学年、中学生となると、だんだんと大人の体の大きさに近づき(中には中学生ですでに親より大きく成長している子も少なくないですよね)、より多くの量の薬を必要とするにも関わらず、14歳まではこの量の縛りがあるため、十分な量の薬が使えないジレンマが出てくることもあります。

ただいろいろ工夫して行えば何とかなることも多いので、あきらめずに喘息の治療に詳しい医師と相談しながら症状をしっかりコントロールすることを目指してほしいと思います。


また、ここでも散々お話ししている通り、吸入薬は使い方がめちゃくちゃ重要なのですが、うまく使えるかどうかも年齢によって異なります。

パウダーの吸入薬は吸いこむ力が大事だし、一方スプレーの吸入薬は、押したと同時に吸いこむというタイミングがちゃんと取れるかが大事です。

年齢などに応じた子供の能力に合わせて、子供が使える吸入薬(パウダーなのかスプレーなのか、はたまたネブライザーなのかなど)を選んだり、うまく吸入薬を使うようにできる為の補助具(スペーサーやマスク、スプレー缶を簡単に押せるようにする噴霧補助具など)を、適切に選んで使用し、その使い方を親が理解しておくことも大事です。

 

最後に、周囲の大人の病気への理解の大切さです。


子供の場合は、大人に比べて体育や部活、外遊びなどで運動する機会も多いからか、運動で症状が悪くなるというお悩みで相談される方が多いです。

ですので、大人に比べて特に運動の時の対策を取るという視点が重要になるケースが多くなります。

ですので体育の授業などで症状が出て満足に運動できなくなることが予め予想できる場合、「発作止め」と言われる即効性気管支拡張吸入薬(メプチンとかサルタノールとか)を、症状が出てすぐや、運動前に使っていただくことで劇的な生活の質改善を得られることが多いです(詳しくはこちらも!)。

このことを親だけでなく、学校の先生など、周りの大人も理解してあげることがとても重要です。

子供はなかなか自分の困っていることを正確に表現することができない場合もあるので、喘息という病気やその薬の使い方について、周りの大人がしっかりと理解し、面倒を見てあげる必要があることも、大人とは異なる小児喘息の大事な特徴の一つです。

 


お子様の喘息の悩まれる方は非常に多いのですが、小児喘息はうまく治療をすれば、ほとんど症状をなくすことができる可能性があります。
十分な治療をされずに慢性的に症状が続いていたのであれば、ちょっとした治療のひと工夫で、今までと全く違った生活を得られる可能性のある病気です。

やはりそのひと工夫は、(小児科にせよアレルギー科にせよ)喘息治療にこだわる医師に相談していただくことで得られるものです。

 

症状に悩まれているお子様皆さんが是非そのような先生に巡り会え、快適な呼吸を取り戻して元気に生活ができるようになることを切に願っております!

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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