医師ブログ

2024.09.29更新

暑かった夏もようやく終わりに向かっているようで、朝晩は涼しくなる日もだいぶ増えてきました。

過ごしやすくなったのはいいのですが、我々呼吸器内科医にとっては、例年これからの季節がホントに忙しくなるシーズンです・・・。

前回のブログでもお話をしたように、この時期は台風の来襲や気候の変化による咳の悪化が増えますし、何より寒くなってくると、様々な感染症が流行りはじめ、またこれがきっかけとなり咳が悪化するケースが増えてしまうのです・・・

とはいえ呼吸器内科としては本来閑散期だったはずの今年の春、夏も、咳や痰などの方がずーっと途切れることなくいらっしゃった当院、今後新たにいらっしゃる咳の方、それに咳が悪化したおかかりつけの方に、本来の呼吸器内科のトップシーズンである秋、冬に向けて、どのように患者様にとってストレスの少ない診療機会をご用意しようか、夜も休みもずーっと考える日々です(そういや最近、夢でもそんな内容をずっと見ています。起きた瞬間に夢で思いついたアイデアを忘れる前にリマインダーアプリに書き込んで、アプリ内のアイデアがどんどん増えていっています。いくつかすでに実行に移しているものも。自分で言うのもなんですが、おいらやっぱ頭ちょっとおかしいかもw)


以前のブログでもすでにお知らせをさせて頂いておりますが、当院では9月より新しい手数料不要の医療費あと払いシステム「クロンスマートパス」を導入しております。

診察終了後、速やかにお帰り頂ける医療費あと払いシステムに加え、お待ちいただく際にLINEでお呼びするまで外出してお待ちいただける「LINE呼び出しシステム」もご用意して、極力患者様が院内でお待ちいただく必要がないシステムを構築し、一人でも多くの患者様にストレスの少ない来院、診療の機会を提供できるように頑張っております。


とはいえやはり、「症状が悪化しない、皆さん安定している」ことが、もちろん患者様にとっても、そして私たちにとっても一番です。

風邪などの感染症がその悪化の一大要因である以上、やはりこれからの時期、「感染対策」がとっても大事になってくるのです。


2024年の今年は、秋からインフルエンザ、コロナの定期接種が始まります。

当院でも10月中旬から接種を開始する予定です。
当院の接種体制については、こちらのページをご参照ください!

コロナワクチンは、昨年までは主にファイザー社製「コミナティ」、モデルナ社製「スパイクバックス」mRNAワクチンが用いられてきました(世間では「コミナティ」「スパイクバックス」という名前はあまり知られていないので、ここから先はわかりやすく、世間で呼ばれているように、「ファイザー」「モデルナ」と呼んでしまうことにしましょう

※mRNAワクチンの仕組みなどについてはこちら!

今年は、扱えるワクチンが増えて、5種類のワクチンが扱えることになりました。

そして当院では今年、従来のファイザーに加え、新たに武田薬品から発売される「ヌバキソビッド」という名前のワクチンを扱うことにいたしました。

今回はその新しい「ヌバキソビッド」について少しお話してみようと思います。


「ヌバキソビッド」ってどんなワクチン?

ってか、またインパクトの強い、覚えにくい名前のワクチンが出てきましたね・・・
いったいこのワクチン、何者なのでしょうか・・・?


「ヌバキソビッド」は、現在日本で使用できるコロナワクチンの中で、唯一「mRNA」を用いないワクチンです。

ワクチンの種類としては「組み換えタンパクワクチン」と呼ばれるものです。

実はこのワクチンは2年前からノババックス社から発売されていたワクチンとして、(細々とですが)すでに使用されていたものです。

今回武田薬品がノババックスから技術移管を受けて、国内で製造したワクチンになります。

接種の方法はファイザー、モデルナと同じく筋肉注射で、過去にコロナワクチン(どの種類でも)を接種されている方は、前回の接種から6ヵ月以上空けて1回、一度もコロナワクチンを接種した事がない方は、1回目の接種後4週間空けて2回目の接種をすることとなっています。

 

「組み換えタンパクワクチン」とは?

今回用いられている「組み換えタンパクワクチン」というのはどのような仕組みでしょうか?

「組み換えタンパクワクチン」は、ウイルス自体を使用せずに、ウイルスの一部だけを人工的に作り出して、それをワクチンとして利用する方法です。

コロナウイルスは、こちらでもお話をしたように、ウイルスの表面にある「スパイクタンパク」が免疫反応の時の標的になります。

まずこのスパイクタンパクを作るための遺伝子情報を動物の細胞に組み込み(=組み換え)ます。
するとこの細胞が「組み換えた」遺伝子情報を利用して、スパイクタンパクを作り出します(なので「組み換えタンパクワクチン」という名前がついているのです)。

細胞が作ったスパイクタンパクを集め、不純物を取り除き、そこに免疫を起こさせやすくする仕組みを加えて(これをアジュバント」と言います)ワクチンにしていきます。

「アジュバント」を入れることによって免疫系がより強い反応を起こし、長期的な免疫記憶が作られやすくなります。

組み換えタンパクワクチン


「組み換えタンパクワクチン」のメリットは?

ワクチンにはこの「タンパク組み換えワクチン」、従来のコロナワクチンである「mRNAワクチン」のほかに、弱らせた病原体をそのまま使用する「生ワクチン」病原体そのものを利用するものの、その病原体に感染力や病原性を持たせないように処理をして使用する「不活化ワクチン」などがあります。

そのなかで、「組み換えタンパクワクチン」は、ウイルス自体を使用しないために、非常に安全性が高いというメリットがあります。

また、「mRNAワクチン」は今回のコロナワクチンで初めて実用化された技術ですが、「組み換えタンパクワクチン」は、B型肝炎ワクチン、子宮頸がんワクチンなどですでに以前から実用化されていた技術で、作る際のノウハウがしっかりしている、効果や副反応の傾向が読みやすいというメリットもあります。


副反応も、mRNAワクチンと比べてやや少ないのではと言われています。

直接比較をしたデータではないので参考程度にはなるのですが(カッコ内はファイザー製「コミナティ」のデータ)、注射部位の痛みが61.5%(85.6%)、頭痛50.1%(59.4%),筋肉痛50.7%(39.1%)で発熱は10%未満(16.8%)と、筋肉痛はやや多いものの、発熱などの副作用はやや軽そうな印象を受けます。

海外で2021~2022年に行われた臨床試験(2019nCoV-301試験)では、初回接種の18歳以上の方でワクチン接種がコロナの発症を90%抑え(つまり発症を1/10にし)、日本人の試験でも初回接種(TAK-019-1501試験)、追加接種(TAK-019-3001試験)いずれも中和抗体を大きく増加させるという、有効な結果が出ています。

ただ、追加接種の発症予防効果、重症化予防効果のデータが少ないのは気がかりなのですが・・・。


で、どっちを打ったらいいの?

さて、そうすると今までのファイザー、モデルナのワクチンと、武田のワクチン「ヌバキソビッド」、どっちを打った方がいいのでしょうか?

その差は大きなものではないのですが、やはりデータの多さはファイザー、モデルナに軍配が挙がります。

例えばファイザーでは、昨年のXBB1.5株に対応したワクチン接種をしたことによって、昨年9~11月のXBB株流行期入院を60%、コロナでの外来受診の頻度を35%減らしたデータが出ています。
また最新データである今年1月のJN.1株(今回のワクチンの基になった株です)流行期(つまりXBB株からすでに変異してしまったタイミングだったですが)でも、入院を35%、コロナの外来受診を25%減らしたというデータも出ています。

このように、ファイザー(それにモデルナ)は、やはり効果、副反応のデータが蓄積されており、豊富であることが、いちばんの強みです。


対して「ヌバキソビッド」も有効なデータはしっかりとあるのですが、実際の予防効果を示すデータの元がやや古く、現在流行している変異株に対するデータが少ないことは多少の弱みかもしれません。

そのような点からは、今までファイザー、モデルナといった「mRNAワクチン」を接種し、大きな問題が起きなかった方は、基本的に今回もファイザー、モデルナを選択されるとよいのかなと思います。


では、ヌバキソビッドを選ぶ場面は?

ただ、「ヌバキソビッド」はファイザー、モデルナよりも総じて副反応の頻度が少ないと考えられています。

また仕組みも全く違うため、ファイザーやモデルナで副反応が出た方も、ヌバキソビッドでは副反応が余り出ない可能性もあり得ます(もちろんその逆もありえますが・・・)


いままでファイザーモデルナなどで、高熱や激しい倦怠感など、強い副反応が出た方や、接種はしたかったもののそんな話を聞いて不安になり、今まで接種できていなかった方にとっては、「ヌバキソビッド」は良い選択肢になるかもしれません。

また「mRNAワクチン」ではなく、先ほどもお話ししたようにすでに他のワクチンで使われている「組み換えタンパクワクチン」であることから、(その根拠はともかく)何となくmRNAワクチンに不安を抱いている方にも有力な選択肢になるかと思います。


どっちを選んでも決定的な違いはないのですが、これらを判断材料に、納得いかれる方を選んでください!


さいごに・・・

今後の秋からのコロナワクチン接種開始に先立って。

最近はコロナワクチンの話題となると、(だいたいWeb上なのですが)何だか論争めいた雰囲気になることが少なくありません(自分が巻き込まれたわけではないのですが、なんだか見てるだけで疲れます・・・)。


もちろんコロナワクチンを含め、すべての薬剤に100%の安全はなく、コロナワクチンで大変な思いをした方がいらっしゃるのも事実です。

一方こちらはパッと見では見えにくいのですが、実際はコロナワクチンで助かった人が少なからずいることも、客観的にデータを読めば明らかなのです。

ただ今回からは自費接種ともなり、今後のコロナワクチン接種については、その経済的負担も無視はできません。


それらを踏まえて、「打つ」、「打たない」は皆さん一人ひとりがよく考えて、自らの意思で決めて頂きたいのです。

そしてぜひともワクチンを「打つ」と考える方、「打たない」と考える方が、それぞれ相手の立場を尊重して(もちろん大多数の方がすでにそうなのですが)、お互いが不安や嫌な気持ちに陥らないように、みんなが配慮できる世の中であってほしいなと、切に願っています。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.09.16更新

この夏も日本列島には台風が近づいてきました。

8月にやってきた台風10号のゆっくり、そして定まらない進路に、やきもきされた方も少なくなかったかと思います。

台風

そして、やはりと言うか、その10号が過ぎ去った頃から、「台風のタイミングで咳が止まらなくなった・・・」「喘息が悪化してしまった・・・」という方の問い合わせが、目に見えて増えてきました。

喘息
そして、本当の意味での台風シーズンは9月、10月のこれからです・・・

「台風が来ると、喘息が悪くなるんだよ・・・(ToT)」という方、実に多いです。
このような方には、これからしばらくは試練のシーズンとなります・・・


では、なんで台風が近づくと喘息の調子って悪くなるの?
そして、今からどんな対策をとったらいいの?

そんな疑問にお答えするべく、今回は、来たるべき台風シーズンに向けて「台風と喘息の関係」について、少し深く考えてみようかなと思います!

 


ところで、そもそも、台風が近づくと、本当に喘息は悪化するのでしょうか?それとも気のせい??

これに関しての答えは、「確かに台風で悪化はするが、この時期の喘息悪化は、それ以外の要素もあるかもしれない」と言えるかと思います。


そもそも、喘息は9月から10月にかけての秋口に悪化するというのは良く知られています。
その原因としては、以下の要因が考えられています。

気温の変化

寒い

喘息は、気管支が急な環境の変化にさらされると悪化してしまう病気です。
そして、気管支は温度の変化に対してとても敏感です。

喘息が悪化して病院を受診した方たちのデータで、前の日に比べて3℃以上温度が低下したり、過去5時間で3℃以上温度が低下したりすると症状が悪化しやすくなるということがわかっています。村山貢司. 気象の動態と気管支喘息症状 アレルギーの領域. 1998; 5: 574-580.

急激な気温の変化は、自律神経の変化をきたしたり、冷気そのものが気管支の刺激になったりして、気管支を狭めて炎症を起こしてしまうのです。


湿度の低下

乾燥

秋になると夏のジメジメした空気から、徐々に秋のカラっとした乾燥した空気に入れ替わってきます。
気持ちいい空気なのですが、喘息の気管支は乾燥した空気がニガテです・・・

乾燥した空気を吸うと、気管支の細胞の中から水分が引っ張り出され、そのことが刺激になり炎症が起きてしまうのです。


ダニの影響

ハウスダスト

 

ダニは春から夏にかけてどんどん増殖しますが、秋になると徐々に死んでしまいます。
ダニが死んでしまうとその死骸は乾燥して軽くなり、空気中に舞い上がりやすくなってしまいます。
ダニのアレルギーは、その死骸を吸うことで症状が起きてしまうので、秋はダニのアレルギー症状が起きやすくなってしまうのです。

秋のウイルス

ウイルス

他にも秋から流行し始めるライノウイルス、その後流行るRSウイルス秋の流行ウイルスと知られており、この感染をきっかけに喘息が悪化するケースも増えてしまいます。

 

というわけで、そもそも台風が多くやってくる秋は、もともと喘息が悪くなりやすい季節でもあるのです。


では一方、台風との直接の関係はないのでしょうか?

 

気圧の低下と喘息は関係ない?

まずよく言われるのが、「気圧」との関係です。
気圧が下がると喘息が悪化するとよく言われています。

ただ気圧の低下だけでは、喘息の悪化はうまく説明できません。

例えば、高度が100m上がると、気圧は10ヘクトパスカル程度低下すると言われています。
横浜のランドマークタワーは高さ300mなので、上の展望台に登ると気圧が30ヘクトパスカル低下します。
地上の気圧が1010ヘクトパスカルだと、ランドマークタワーの展望室は980ヘクトパスカルになります。

そして、高尾山(標高約600m)に登ろうものなら、その頂上の気圧は950ヘクトパスカルです。

山登り

それってすでに強烈な台風の中心気圧ですよね。

それでもランドマークタワーで展望台にエレベーターで行った人、高尾山に登山をした人たちが喘息でバタバタ倒れるという話は聞きません。

気圧の低下そのもの「だけ」が原因となっているというのは、やや説明しにくいのです。

実際、喘息増悪で救急受診をした方の数と、その時の気象の状況の関係をしらべたデータでは、温度と湿度はやはり大きな影響があったものの、気圧の低下による影響は大きくなく、むしろ気圧の上昇の方が影響が大きかったというデータも出ているのですThe Journal of the Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine 1978; 42:1-13.


では、本当に喘息と台風は本当に関係ないのか?

でも、実際現場で診療に当たっていても、明らかに台風で喘息が悪化する方は少なくありません。
それはこの前の台風10号の時も同様でした。

この時はまだまだ空気は暑く、ジンメリとしており、とてもとても秋の空気ではありませんでした。
台風が近づいたり、やってきたその間も気温は急に下がることなく、ずーっと蒸し暑い状態でした。

まあ、ダニはいるでしょうが、それは台風より前とそう大きく状況は変わりませんね。


ということで、やはり「秋」というだけでは、説明がつかないのです。

そして、実際に「やはり台風と喘息の関係はある!」ということを示すことができる知見もあるのです。


台風で花粉症が悪化する!?

例えば、ある大学で定期的に診察を受けていた喘息患者58人のうち、17人が台風シーズンに悪化しました。
その人たちのスギ、ヒノキのIgE(いわゆる「アレルギー反応を起こす“バカ抗体”」)の数値が、その間悪化しなかった人よりも高かったことがわかりました。Association between typhoon and asthma symptoms in Japan. Respir Investig. 54: 216-9, 2016

スギ、ヒノキアレルギーのある人が台風で喘息が悪化しやすいのです。

でも、なぜ、台風と花粉が関係するのでしょうか?

実は、台風などによる嵐が起こると、湿度と雨風の衝撃によって花粉が膨張、破裂し、細かくなって「マイクロ花粉」となってしまうことで、より細い気管支の奥まで吸い込みやすくなってしまって喘息が悪化してしまうことが知られています(最近はこれらを「雷雨喘息」と呼ぶようです)。
「マイクロ花粉」は嵐のあとにも残っており台風一過の天気回復、吹き返しの風などでより空気中に飛び散りやすくなることで台風通過後にさらに暴露されるリスクが高まります。

台風喘息

台風の通過時、通過した後に喘息が悪化する理由の一つがこの「雷雨喘息」であると言えそうです。


台風になるとカビが舞う

台風喘息

また、2022年の報告では、台風による洪水と呼吸器症状の悪化の関係も指摘されており、都市部に水があふれることで下水道や排水溝に氾濫が起き、その結果そこにいるカビが増殖、まき散らされる可能性が指摘されました。Alexandra M. Peirce, et al. Climate Change Related Catastrophic Rainfall Events and Non-Communicable Respiratory Disease: A Systematic Review of the Literature. Climate 2022, 10(7), 101


また同時に、高温多湿の部屋の環境は、カビの増殖にとって好都合となり、Rorie, A.; Poole, J.A. The Role of Extreme Weather and Climate-Related Events on Asthma Outcomes. Immunol. Allergy Clin. N. Am. 2021, 41, 73–84. 台風による温かくて湿った空気の入り込みがカビの増殖を促し、喘息を悪化させるシナリオも考えられます。

 

「気象病」からも考えてみる

気象病

また「気象病」の観点からも考えなくてはなりません。

台風や低気圧は、喘息だけでなく、「頭痛」や「肩こり」、「めまい」、「関節痛」、「気分の落ち込み」など、様々な症状を引き起こします。

この原因は正直まだよくわかってはいないところも多いのですが、気温や気圧による自律神経のバランスが崩れるときに起きやすいと言われています。

その中でも、気圧の「変動のタイミング」が、ひとつの要因になっているのではという報告があります。

通常大気は、昼間に暖められたり、月の潮汐力によったりして、1日2回気圧の上下を繰り返しています(これを「大気潮汐」と呼びます)。
そして、低気圧が近づくと、この「大気潮汐」が大きくなるのです。

一方、低気圧が近づくと、気圧が数分から数十分の波で変化することが分かっています(これを「微気圧変動」といいます)。
低気圧が近づくと、これが1日に数回起こります。

人間は気圧の一定の変化に常に対応しながら生きているのですが、どうもこの「大気潮汐」「微気圧変動」が重なって、いつもの気圧変動との「ズレ」が起こったときに、体調の悪化を訴える方が増えるようなのです。日本医事新報 (5172): 34-39, 2023. 

そして、この気圧の敏感さは人それぞれで、そのために低気圧による影響も、やはり人それぞれになるのです。


台風が来ることの不安感も悪化の要因

台風喘息

また、喘息はメンタルも影響されると言われています。
不安やストレスが喘息の悪化に影響することは、良く知られた事実です。

台風のタイミングで喘息が悪化した経験をお持ちの方は、はるかかなたに台風が発生した時も、その事実によって不安な気持ちが大きくなり、喘息が悪くなってしまうことも当然ながら起きてしまうのです。



台風に負けないためには、結局は普段からのコントロール!

という訳で、「台風が喘息を悪化させる要因」を考えると、思いのほか複雑な要因があるんだなというのがお分かりいただけたかと思います。

ただ、共通して言えるのが「普段から喘息の調子が思わしくない方」「症状が不安定な方」が、やはり台風で喘息が悪化しやすくなってしまうということです。

普段、症状が良いからと、治療を止めてしまったり(残念ながら「症状が落ち着いたら治療を止めてください」と医師に言われてしまって、医師に言われた通りにしたがために悪化してしまう例も少なくないようなのですが・・・)、治療が弱すぎたり、また吸入薬がうまく使えずに十分に薬が届かないために不安定になったりすることで、台風、低気圧によって喘息が悪化してしまうリスクは残念ながら大きくなってしまいます。

喘息は一度悪化すると、改善するにも時間と労力、忍耐が必要となってしまうことも少なくありません。

喘息をお持ちの方は、ぜひ台風が襲ってくる前に、しっかりと喘息に詳しい医師のアドバイスのもとで万全の備えをしておきましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.09.01更新

昨日は茅ヶ崎でも豪雨が降り、至る所で冠水していました。

いろんな仕事が全く終わらず、私は夜までクリニックに残って残業でしたが、豪雨の時間帯は排水口からコポコポ音が止まらず、いつ大逆流を起こすか、ヒヤヒヤでした・・・
幸いその後雨が弱くなり、音も収まったのでホッとしましたが、いつ起こるかわからない災害、いつ起きても対応できるように備えておくことは必要ですね。


さて、最近も発熱・感染症外来は残念ながら大盛況です・・・

コロナ、インフルエンザは落ち着きつつありますが、今年の夏は溶連菌やRSウイルス、手足口病など、いろいろな感染症が見られるのが特徴なようです。

そして、最近急激に増えているのがマイコプラズマ感染症です。

そういやなんか「マイコプラズマ」ってすごい名前じゃないですか?
何となく「プラズマ」が「ビビビッ」って出てきそうな・・・(笑)
プラズマ

肺炎なのに体力がそれほど落ちず、マスコミでも最近「歩く肺炎」として話題になっていますが、やはり世の中の皆さんに詳しく知られているものではないようです。

そこで今回は、マイコプラズマについて、そしてその対策について、少し詳しくお話ししてみようと思います。


マイコプラズマはいったい何者?

マイコプラズマは、細菌の一種でありながら、他の細菌とは異なる特徴を持っている菌です。

例えば、一般的な細菌には「細胞壁」という構造があるのですが、マイコプラズマにはそれがありません。

細菌をやっつけるのには通常「抗菌薬」を使います(巷では「抗生物質」とか、「抗生剤」とかと言われやすいものですが、厳密には正確ではない言葉ですので、ここでは「抗菌薬」で統一します)。
「抗菌薬」にはいろいろな種類があるのですが、この中で「細菌の細胞壁を壊す」ことで、細菌を殺す薬剤があります。
これらの薬剤は「ペニシリン系」とか「セフェム系」と呼ばれる薬剤で、臨床の場では非常に多く使われています。

ということは、細胞壁をもたないマイコプラズマにはそのような抗菌薬が全く効果がないということになります。

マイコプラズマ

抗菌薬は本来、しっかり診察、検査をして、その結果導き出された(もしくは予想された)病原体に対し、適切な種類のものを使っていくことが必要なものです。
しかし残念ながら、「とりあえず抗生物質」という、あまり深く考えられずに抗菌薬が使用されているケースは少なくないというのが実情です(突き詰めると、感染症はめちゃめちゃ複雑であるということ、抗菌薬の種類も非常に多いこと、そしてそもそも感染症自体が薬による治療効果で良くなったのか、時間が経って勝手に治ったのかが結局良くわからず、治療している医師側にもフィードバックが非常に難しいという側面があることが、あまり興味を持ってもらえない原因なのかなって思っています)。
「とりあえず抗生物質」として出される抗菌薬がマイコプラズマに効果のないものだった場合、症状が治らず長引いてしまうことが少なくなく、治療の失敗が起きやすい肺炎であると言えるでしょう。

また、顕微鏡でも通常の細菌を観察する方法ではみることができないという特徴もあります。

「グラム染色」という、通常細菌を観察するために使う方法が使えないのです。
なぜならば「グラム染色」は細胞壁を染める方法だからです。

通常の細菌検査(痰の培養検査など)をしても、マイコプラズマは見えず、診断が簡単ではないのです。

加えて、マイコプラズマは「寄生をする菌」という点でも特徴的です。
つまり、人間の細胞に寄生し、その細胞から栄養を吸収して生き続けるため、マイコプラズマ感染症はしばしば慢性化しやすく、治療が長引くことがあるのです。

さらに、マイコプラズマは増殖が遅いという特徴もあります。
これにより、感染の初期段階では症状が現れにくく、診断が遅れることがあるのです(ただこの病状の進行の遅さが、マイコプラズマ感染症を他の急性細菌感染症と区別する一つのポイントにもなります)。


マイコプラズマはどんな症状?
咳

症状も他の肺炎、気管支炎とは少し異なる特徴を持っています。

マイコプラズマの初期の症状は風邪に似ており、咳や喉の痛み、鼻水などが見られます。
しかし、普通の風邪と異なり、マイコプラズマ感染症の咳はその後徐々に悪化し、そしてしつこく続くことが多く、時には数週間にわたることもあります。
また、子どもたちの間では高熱が出ることが一般的ですが、大人ではあまり熱が上がらないことも少なくありません。

一方、他の肺炎、気管支炎に見られるような「痰」は少ないという特徴もあります。

その理由をお話ししましょう。

マイコプラズマは気管支に入り込むと、気道の上皮(表面)に感染し、上皮で増殖します。
そしてあまり奥深くまでは入り込みません。

上皮の奥に、痰を出す粘液腺があるのですが、通常の肺炎と異なり、マイコプラズマはここまで届きません。
ですので、あまり痰がでないということなります。

しかし一方、マイコプラズマが気道のより表面側で増殖することが、咳を悪化させやすい原因になります。

気道の表面には線毛という細かい毛がびっしりと生えており、異物が入ると、この線毛が異物を追い出そうと動きます。
しかし線毛の動きが弱くなると異物は気道にとどまってしまいます。
すると異物は気管支に刺激を与え続け、咳が止まらなくなります。

さらには、刺激による炎症が続くと、今度は気管支の上皮が傷ついて剥がれ落ちてしまいます。
すると、中から神経線維が露出してしまい、今度は異物が神経を直接刺激するようになってしまいます。

さらに先ほど書いたように、マイコプラズマは寄生性をもっているので、なかなか息絶えることがありません。
長い期間体内にとどまることで、咳の影響が長期化してしまうのです。

 


マイコプラズマは診断が難しい・・・

では、そんなマイコプラズマ、どのように診断するのでしょうか?


実はそれがなかなか難しいのです。

悩む

先ほどお話をした症状の特徴乾いた咳が多い、痰が少ない、そして痰が少ない影響で聴診器から聴こえる呼吸の音がきれい)が判断材料となります。

またマイコプラズマはどちらかというと子供や若い方に広まりやすいと言われている感染症です。
子供や若い方で、病気を持っていないようなもともと元気な方が、上のような症状をきたしていたら、その可能性は高くなります。

またレントゲンやCTでもすこし他の肺炎とは違う特徴があるのですが、あまりにも専門的なので、ここでは飛ばしましょう(その都度医師に聞いてみてください)。

痰の検査など、培養検査では、先ほどお話をしたように通常の観察方法では見えないので、基本的には診断できません。

喉の粘液からDNAの解析を行う(コロナのPCR検査みたいなやつですね)検査もあるのですが、そもそも痰の少ないマイコプラズマは、菌が喉まで上がってこられず、偽陰性(感染しているのにマイナスと出てしまう確率)となりやすいとされています。

インフルやコロナみたいな迅速検査もあるにはあるのですが、特に大人ではやはり偽陰性となってしまうこと少なくなく、やはり決め手にはなっていないのが実情です。

採血で抗体検査をすることもできるのですが、結果がその日には出ないこと、感染したてだと数値が上がらないことがあることから、どちらかというと事後確認に使う検査です。

ということで、マイコプラズマの診断は、未だに医師の知識、経験とカンに頼る要素が大きいと言わざるを得ないのです。



どうやって治療するの?

先ほどお話をしたように、よく使われる「ペニシリン系」「セフェム系」の抗菌薬は、マイコプラズマには全く効果がありません。
まず使われるのは「マクロライド系」の抗菌薬です(一般名で言うと「クラリスロマイシン」「アジスロマイシン」、商品名で言うと「クラリス」「クラリシッド」「ジスロマック」などです)。

ただ「マクロライド系」の抗菌薬はどちらかというと、「細菌の増殖を抑える」という、ややマイルドな効き方をするので、効果が出るのにやや時間がかかることがあります。
また粘膜が傷ついて上皮がはがれてしまっている状態の場合は、菌が除去できても上皮が再生されるまで咳が残ってしまうこともあり、状況によっては症状が良くなると実感できるまでに結構時間がかかることもあります。

この他にも「マクロライド系」が使いづらい場合(副作用が出る場合や、一度使ってみたものの効きが悪い場合など)は「テトラサイクリン系「ミノマイシン」など)」や「キノロン系「クラビット」「ジェニナック」など)も使用することがあります(が、これらの抗菌薬をやたらと使ってしまうことは好ましくありません。その理由はこちら


どうやって予防するの?

マイコプラズマ飛沫感染、つまり、感染者が咳やくしゃみをすることで、周りの人に菌を広めます。
特に学校や会社など、人が集まる場所は、感染が急速に広がりやすい環境です。

しかし、先ほどお話をしたように、症状が急には悪くならないので、最初は軽い風邪のような症状のことも多いのです。
そのような状態で「これくらいなら大丈夫だろう」少し無理をして学校や会社に行ってしまう人がいると、その周りの人にどんどん広がってしまうという危険性があるのです。

また、咳エチケットとして、咳やくしゃみがある際には、マスクをしっかりとつけることを守りましょう。
マイコプラズマ私達医師が検査を駆使しても診断は簡単ではありません。
素人の方の症状からの判断ではまず無理です。

咳が出たら「マイコプラズマかもしれない」との認識をもって、周りへ気をつかっていただくようお願いします。

そして感染が少しでも疑われる場合には、無理に学校や仕事に行かず、自宅で休養を取り、感染を広げないようにすることが大切です。
咳の診断をつけるためにも、咳に詳しい医療機関に早めにかかることも大切でしょう。

そして予防としては、手洗いやうがいが基本で、これはあくまで一般的な風邪やコロナ、インフルエンザなどの対策と同様です。


ということで少し長くなってしまいましたが、マイコプラズマに関して少し詳しめに書いてみました。

咳がなかなか良くならない、だんだんひどくなってきた、というときは、是非こじらせる前に咳に詳しい医療機関にご相談ください!


最後に!

当院では9月から新しい料金あと払いシステム「クロンスマートパス」を導入します。

新システムでは、従来必要だった患者様の手数料負担がなくなります!

今まで、診察終了後のお待ち時間について多くのご意見を頂いておりましたが、ご登録いただくクレジットカードで支払いが完了しますので、お帰りまでのお待ち時間が大幅に短くなります!

もう当院では、皆さんへのアピール準備はばっちりです!

クロンスマートパス

もう一度言います、
「手数料タダです!」

是非ご利用ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.08.19更新

当院は1週間の夏期休診を経て、本日から診療を再開しました。

私もこの1週間は温泉でリフレッシュしてきました(リフレッシュしすぎて今日職場に戻るのが非常に大変なメンタルでした・・・)

温泉でゆっくりしながら子供たちとプールではしゃいだりしてきました。

吹きガラス体験で、迷わずビールグラスを作ることを選択し、早速堪能しています。あー、うめぇ~

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さて、そんな今年の夏は、ご存知の通り7月からずーーーっと猛暑です・・・

きわめて熱中症になりやすい状況に加え、コロナ、溶連菌、RSウイルス、そしてマイコプラズマと、発熱をきたす方が非常に多い状態で、発熱・感染症外来は阿鼻叫喚の状態です・・・


そんな状況の中、熱が出た際、それが熱中症によるものなのか、感染症によるものなのか、悩まれる方も少なくないようです。

ですので、今回は今、誰にでも起きうる熱中症にフォーカスを当てて、どうして起こるのか?、感染症との違いは?という点をお話ししてみようかと思います。


それでは、まずは熱中症のメカニズムについてお話ししてみましょう。

私たちの体は常に一定の温度、だいたい36.5℃から37℃の間を保つように調整されています。
これは、体内の化学反応が最適に進むために必要な温度だからです。


そして暑い環境になると、私たちの体はこの温度を維持するために、過剰な熱を冷やそうと一生懸命になります。

その最も一般的な方法が「汗をかくこと」です。
発汗によって体表面から水分が蒸発し、その時に生じる「気化熱」で体内の熱が逃げていきます。

このプロセスは非常に効果的で、私たちが暑い環境で長時間過ごすときに体温を保つためには欠かせないものです。


しかし、この「汗をかく」という行為は、体内の水分を大量に消費してしまうという側面もあります。

しかも汗には水分だけでなく、ナトリウムなどの電解質も含まれています。
汗を大量にかくことによって水分、電解質が体外に出てしまうと、体の中ではそれらのバランスが崩れてしまいます。

とても暑い環境で大量に汗をかくと、水分、電解質がどんどん失われ、やがて体が脱水状態に陥ってしまうのです。

そして脱水状態は、体の中で以下のような変化を引き起こします。

まず、血液の量が減少します。
血液は体内の水分が重要な構成要素の一つであり、水分が失われると血液が濃縮されてしまいます。
これにより、血液がドロドロになり、血液循環が悪くなります。

さらに、心臓はこの濃縮された血液を体全体に送り出すために、より強く、より速く働かなければならなくなりますが、これが体にとって大きな負担となります。

また、脱水が進むと、体は汗をかく量を減らそうとしますが、これがさらに体温の上昇を引き起こしてしまいます。
汗をかけないと、体は熱を逃がすことができず、体温がどんどん上がってしまいます。


この状態が熱中症です。

そして最終的には、体が水分を保持しようとするあまり、尿の量も減少し、体内に老廃物が溜まってしまうという悪循環に陥ってしまうのです。



加えて、暑い中で長時間活動したり、運動したりすると、筋肉が活動することで体内に熱が生まれます。
の熱も体温上昇に寄与し、体がますます熱を持ってしまいます。

ここで問題が発生するのが、脳の視床下部という部分にある「体温調節中枢」です。

ここは、体温を一定に保つための司令塔のような役割を果たしていて、暑いときには汗をかかせたり、寒いときには震えを起こさせたりして、体温を調節しています。
視床下部は、体内からのさまざまな信号を受け取り、それに応じて体温を適切に保つよう指示を出しているのです。

しかし、体温が極端に上昇すると、この視床下部自体が熱の影響を受け始めます。

例えば、暑さで体温が上がりすぎた場合、本来であれば視床下部が「もっと汗をかいて体を冷やさなければいけない」と指示を出すはずです。

しかし、視床下部は非常にデリケートな組織で、体温が上がりすぎると、その働きが鈍くなったり、誤作動を起こしたりすることがあります。
脳の神経細胞が過熱により正常に機能しなくなると、視床下部が指示が正確に出せなくなり、汗の分泌が減ってしまったり、逆に適切な体温調節のための行動が取れなくなったりするのです。

さらに体温が上がり続けると、体全体の代謝が異常に活発化し、内臓や脳などの重要な臓器にも負担がかかります。
この時点で、視床下部はすでに正常に働けなくなっているため、体は自分を冷やす手段をほとんど失ってしまいます。

これは非常に危険な状態で、熱中症の重篤な症状、例えば意識障害や痙攣などが引き起こされる原因となります。


要するに、体温が上昇しすぎると、体温を管理する視床下部自体が熱によってダメージを受け、正確に体温をコントロールできなくなってしまうのです。


では、熱中症になってしまった場合は、どのようにすればよいのでしょうか?

まず、熱中症の兆候を感じたら、できるだけ早く涼しい場所に移動することが大切です。

例えば、エアコンの効いた部屋や日陰に移ることで、体がこれ以上熱を持たないようにすることができます。
外にいる場合は、木陰や建物の陰など、直射日光を避けられる場所が理想です。
このとき、できるだけ身体を冷やす方法を探しましょう。
服を緩めたり、風通しを良くしたりすると、体が熱を放散しやすくなります。


次に、水分補給が非常に重要です。

熱中症になると、体内の水分と電解質が大量に失われるため、これを補う必要があります。

できれば、スポーツドリンクや経口補水液など、電解質を含んだ飲み物が効果的です。
水だけではなく、塩分も一緒に補給することで、体のバランスが早く回復します。

しかし、一度に大量の水を飲むと胃腸に負担がかかるため、少しずつ頻繁に飲むことが望ましいです。

もし、体温がかなり高く、意識がはっきりしない場合は、すぐに医療機関に連絡する必要があります。
病院では、点滴での水分補給や、氷水での冷却が行われることがあります。
これらの処置により、体温を急速に下げ、体内の水分と電解質のバランスを回復させることができます。

また、意識がある場合は、冷たいタオルや氷嚢を使って首や脇の下、太ももの付け根など、大きな血管が通っている場所を冷やすと効果的です。
これにより、体の中心部分の熱を効率よく下げることができます。

一方で無理に水を飲ませたり、体温を急激に下げるような行為は避けるべきです。

例えば、氷水に入れるなどの方法は、かえって血管が収縮してしまい、体の中心部分の熱がこもる原因になることがあります。
また、意識が朦朧としている場合に無理に水を飲ませると、誤嚥のリスクがあるため、慎重に対応する必要があります。


では最後に、このような熱中症と、同じく熱が出る感染症、どの様に見分けたらいいのでしょうか、ポイントをいくつか挙げてみましょう。


まず重要なポイントの一つ目は、症状が現れるまでの状況と経過です。

例えば、暑い日や運動後に、比較的速やかに体調が悪くなり、高熱が出た場合は、熱中症の可能性が高いです。

一方、感染症の場合は、その熱は体内に侵入してきたウイルスや細菌が体内で戦いを繰り広げ、その結果炎症を起こすために生じるものですので、通常は徐々に症状が現れ、熱もそれにつれて高くなってきます。


また症状にも違いがあります。

感染症の場合、先ほど述べた、「炎症」が原因となるので、発熱に加えて、炎症の症状、つまり咳や喉の痛み、鼻水、関節痛や筋肉痛などを伴うことが多くなります。
また、感染症ではしばしばリンパ節が腫れることがありますが、これも体が病原体と戦っているサインでであることが多いです。

一方熱中症では、このような炎症の症状がみられることは少ないです。


また発熱の仕方にも違いが現れます。

熱中症では、急激に体温が上がり、皮膚が熱くて乾燥していることが多くなります。

一方感染症では、通常は体温が徐々に上がり、むしろ汗をかいて体温を下げようとする体の反応が見られるので、皮膚は湿っていることが多くなります。

また、感染症の場合、発熱に伴って寒気や震えを感じることが多いですが、これは熱中症ではあまり見られない特徴です。


ただ、とはいえこれらの見極めがカンタンではないことも少なくありません。

最終的に、熱中症と感染症の鑑別は我々医師による診断が必要となります。
ただ、すぐに受診できる状況でないこともありえますし、特に重症の熱中症は手当が遅れると脳障害が残るなど大変なこととなってしまうことがあり、周りにいる皆さんの早期の処置が大きな効果を生むこともあるのです。

どちらか疑わしいときは、まずはすぐに涼しい場所に移動して水分、塩分を補給し、早めに医療機関を受診してただくことで、重症化を食い止めて頂くことを是非ともお願いしたいと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.08.01更新

「ステロイド」に関するブログ、前回まではこちら!

1.2024.7.3 増えるコロナ、喘息悪化・・・そんな時の切り札、「ステロイド」って何?
2.2024.7.10 ステロイド、長く「飲み」続けると何が起こる? 

2024年が始まったと思ったら、もう8月ですね・・・

開催前は周りでそれほど話題にはなっていなかったオリンピックも、いざ始まると皆さんテレビの前に釘付けのようで、当院にも眠い目をこすりつついらっしゃる患者さんが少なからずいらっしゃるようです。

私も4年に1回の大イベントを堪能したいと思ってはいるのですが、何せ7月は当院に2700人以上の患者様にお越しいただきました・・・。

連日開始から終了までのノンストップ診察を終え、帰宅後食事、風呂を速攻済ませ、子供の寝付かせを終えた後に気合を入れてテレビ前に鎮座するも、連日30分で寝落ちknock out・・・
結局翌日朝のyahooニュースに一喜一憂する日々です・・・(笑)


さて、前回は飲み薬や注射、つまり「全身ステロイド投与」について、長く続けているとどういう問題が起こるのかということを書きました。

「ステロイド」は、副腎皮質で作る「コルチゾール」という、生きていくのに不可欠なホルモンをまねられて作られており、ステロイドが血流にのって全身を巡ってしまうと、脳や副腎皮質にも届いてしまい、「コルチゾール」の分泌に影響を与えてしまうことが問題だったのでした。


さて、「ステロイド」には、ほかにも「塗り薬」「目薬」「点鼻薬」などの「外用剤」という剤型もあります。

そして、呼吸器、アレルギー疾患の方によく使われるわれらが「吸入薬」も、これらの「外用薬」に含まれます。


今回は、この「吸入薬」としてのステロイド、長く使って大丈夫なの??という疑問にお答えしようと思います。

で、最初から結論!
吸入ステロイド薬は、通常の使い方ならずっと使ってて大丈夫です!!


気管支喘息は、気管支に炎症が起きて、気管支の壁がむくむことで内腔が狭くなってしまう病気です。

今から30~40年以上前までは、気管支喘息の治療は、狭くなった気管支を広げる吸入薬や飲み薬などを使うことが中心で、そもそも狭くなる原因となった気管支の炎症に対してはほぼ手つかずでした。
「ステロイド」が炎症に効くことはわかってはいたのですが、まだステロイドは飲み薬や注射薬でしか使用できない時代だったのです。


おいそれと全身ステロイド投与を簡単にするわけにもいかず、そのため今よりも喘息はずっと悪化しやすく、また悪化したときもその状態を改善させるのが大変難しい時代でした。

症状がコントロールできずに、結局やむを得ず飲み薬や注射のステロイド薬を長期で使うことも多々ありましたが、そうすると前回書いたような副作用の問題が起きてしまい、実際これらの副作用に苦しんだ喘息の方が少なからずいらっしゃったのです(私はこの時代の治療を見てはいないのですが・・・)。


そんな喘息に効くステロイドを、どうにかして副作用なく喘息の治療に使うことができないものか・・・そんな中で開発されたのが「吸入ステロイド」でした。
そして1993年に吸入ステロイド薬が治療ガイドラインに掲載されたことで、喘息の治療は大転換点を迎えました。


吸入ステロイド薬の普及に伴い、喘息の症状は著しくコントロールできるようになりました。
喘息の死亡者数も90年代の7000人台から、2020年代には1000人を切るかどうかというところまで治療が進化しました。

更には、飲み薬のステロイドを使用するケースも以前と比べて大きく減ったため、これらの副作用に苦しむ人も大幅に少なくなったのです。



では、なぜ吸入ステロイドはそんなに喘息に対して効果的なのでしょうか?

それは、吸入薬が炎症を起こしている気管支にダイレクトに届くように設計された方です。


ステロイドを飲み薬で「内服」した場合、その成分は一旦血液に乗り、全身を巡った後に肺に到達して気道の炎症を鎮めます。

ただその経路は非常に長く、またもちろん他の部分にも広がってしまうために、非効率な面もありました(ただ現在でも、喘息が悪化したときや、最重症の喘息の方の治療では、飲み薬や点滴のステロイドを使うことがあります。喘息の悪化時や、非常に症状が重い場合は、気管支以外でも全身のあらゆる部位に炎症が起きているため、ステロイドを全身に巡らせることが有効な面があるからです)。

一方、吸入ステロイドは、ステロイドを効率よく直接気管支に届けることができます。
そのため、使用するステロイドの量を、内服の1/10の量まで減らすことができるようになりました。

また、これらのステロイドは気管支にさえ効いてしまえば、その後全身に巡る必要がない成分となります。
そのため、これらのステロイドが気管支から吸収されて、役割を終えて血液に乗っかった後に、その成分の90%が肝臓で分解されて、全身に巡らないようになるよう設計されました(考えた人、すごいですよね!)。


そうすると計算上、吸入ステロイドは内服ステロイドの1/10 × 1/10 =1/100 しか全身に巡らないことになります。

これくらいでは通常、副腎皮質も大した影響をうけません。
ルチゾールの産生、分泌への影響も非常に小さくなるので、前回お書きした「全身ステロイドを長期に使用した場合の副作用」が非常に起きにくくなるというわけなのです。


とは言えど、何も副作用がない夢の薬は存在しません。

吸入ステロイド薬にも気を付けるべき点はありますので、それとその対処方法について書いてみようと思います。


声がれ

まずは一番多い副作用、声がれです。

これは吸入したステロイドが喉頭の筋肉に付いて、筋肉の力が落ちてしまう(ステロイド筋症)現象や、声帯に吸入ステロイド薬がついてしまい、声帯にカンジダというカビが生えてしまったりすることが原因と言われています。

よく「吸入をした後はうがいをしてください」と指導しますが、残念ながらうがいの水は声帯や喉頭の筋肉まで届かないため、声がれに対してはうがいの効果は大きくないと考えられています。岡田 章,他:吸入ステロイド薬の副作用である嗄声発現の要因解析.医療薬学40:716-725, 2014
ただうがいは非常に大事です。その理由は後で出てきます。

声がれが起きてしまったときには

使用する「前」にうがいをする(粘膜が湿っていると薬が付きづらくなります)
吸入薬を変更する(パウダーよりスプレー剤のほうが、粒子径が大きいより小さい方が、薬が付着しにくい傾向があるといわれています。また個々の吸入のやり方や、口、喉の形の違いでも、吸入薬によっての向き不向きもあるのです)
スペーサー(スプレー剤の吸入薬を、筒を挟んで使用する)を用いる
・吸入するときに舌の位置を下げる「ホー吸入」といって、吸入前に「ホー」と言ったまま吸入すると舌の位置が下がります)
・少し上を向いて吸入する(下を向いて吸入すると喉の角度がつきすぎて吸入薬がのどの奥にぶつかってしまう)

などの対処方法があります(だた実際はもっと複雑で、実際に吸入しているところを見させて頂かないと声がれの原因は正確には突き止められないため、こちらでご紹介した方法が必ずしも改善にはつながらないかもしれません。お困りの際は、処方した医師や薬剤師にお早めにご相談頂くことが大事です)。


口内炎、口腔/食道カンジダ症

また、吸入薬が口の中に付着して残ると、口の中にカンジダが生えたり、口内炎が起こりやすくなったりします。

これを防ぐのにうがいは非常に大事になります。

完全に口の中から薬を取り除くにはうがいを4回行うことが必要とされていますが、正直めんどくさいものです。

 

水などの飲み物を少し口に含んだあとに飲んでしまうのでも有効ですし、吸入した後に食事をして食べ物と一緒に薬を粘膜から落としてしまうのも効果的です。

カンジダはしばしば食道にも付着しますが、吸入の後の食事はこれにも有効に働きます。

 


身長の伸びがやや遅れることがある

子供では、長期にステロイド吸入薬を使用することで、1年後の身長の伸びが1~2cm小さくなることが報告されています。

ただ成人になった時にはその差はなくなっているとされていますし、それを避けるために喘息をコントロールしないことのほうがはるかにリスクが高いですので、このことを理由に吸入をやめるべきではないと思います。

 

肺炎のリスクが増える(?)

吸入ステロイド薬がわずかながら肺炎のリスクを増やすとの意見もありますが、最近ではそれを否定する報告も出ています。Tuberc Respir Dis. 2023 Jul;86(3):151-157
肺炎のリスクが増えるとの報告の中でも、そのリスクはわずかで、かつ重症な肺炎にはならないとされているので、大きく心配をすることもないかとは思います。

 

時に軽いながらも、全身性の副作用も

病状によって吸入ステロイドの量は使い分ける必要があるのですが、多い量を使い続けると、さすがに少しずつ「コルチゾール」の分泌に影響を与えたり、全身へのステロイドの副作用がおこる可能性は多少出てきます。
ですので、状態や環境、季節によって適切に薬を減らしていくことが必要になってきます。

一方不適切な薬の減量、中止はもちろん喘息の悪化を招き、結局吸入ステロイドを増やしたり、全身ステロイド投与をせざるを得なくなったりします。


先ほどもお話ししたように全身を巡る吸入ステロイドは微量なので、例え副作用が起こったとしても軽いものです。
喘息が悪化するよりはよっぽどましですので、しっかりと経験、知識を持っている医師のもとで適切に薬をうまくコントロールして、指示通りに治療を続けてもらうことが大事なことは言うまでもありません。


というわけで吸入ステロイド、「ステロイド」という名前が付くだけにどうしても不安を抱かせやすいことが多いのですが、その不安や誤解を少しでも解消していただければうれしいです!

私のことは嫌いでも、吸入ステロイドのことは嫌いにならないでください!(もうだいぶ古くね)

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.07.10更新

前回のブログはこちら!
2024.7.3 増えるコロナ、喘息悪化・・・そんな時の切り札、「ステロイド」って何?

 

さて、前回はステロイドというお薬の説明を行ってみました。


おさらいをすると、ステロイド薬とは、副腎皮質という臓器が作る「コルチゾール」というホルモンを人工的にまねて作られた薬剤で、働きとしては体の中で起こっている炎症を強制終了させる役割を持っています。
そのため、体の中で不要な炎症が起こっている場合に、とても効果を発揮する薬です。

ただ、とても有用な「ステロイド薬」は、皆さんご存じの通り、その裏に危険をはらんでいます。

そんな一見万能薬とも見える「ステロイド薬」の、負の側面と、それに対してどのように有効に使用していけばいいかということを、今回はお話してみようと思います。


※注 あくまで今回は「飲み薬」、「注射薬」のお話です。
「吸入薬」「点鼻薬」などの話ではないのでお間違えの無いようにお願いします。

まず、ステロイド薬飲み薬、および注射など、長期にわたり全身に効く形、つまり「全身投与」で使い続けた場合、いったい何が起こるのでしょうか?

ステロイド薬の原型である「コルチゾール」というホルモンは、副腎皮質で作られます。

通常、体の中にはホルモンの量を調節する機構が備わっています。

「コルチゾール」は体の中に少なくなると、脳から副腎皮質に働きかけて、副腎皮質を頑張らせる「副腎皮質刺激ホルモン」というホルモン出てきて、減ったコルチゾールを増やそうとします。
逆に、「コルチゾール」がだぶついてくると、今度は脳から出る「副腎皮質刺激ホルモン」量が少なくなり、副腎はコルチゾールの産生を減らすのです(これをフィードバック機構と呼びます)。

ところがステロイド薬をずっと体に取り込んでいると、体は「コルチゾール」が常に満たされていると判断してしまい、脳から「副腎皮質刺激ホルモン」を出さなくなってしまいます。
でも実際は副腎皮質で「コルチゾール」を作っているわけはないので(体の外からステロイド薬が入ってきているだけなので)この状態が長ーく続くと、副腎皮質はコルチゾールを作らずに徐々に小さくなってしまいます。

そんな時、急に「ステロイド」薬をやめてしまうとどうなるでしょうか?


もちろん脳からは副腎皮質刺激ホルモンが出てきます。
しかし、小さくなってしまった副腎皮質はすぐにはその命令に従うことができず、「コルチゾール」を増やすことができません。

すると、体の中から「コルチゾール」も「ステロイド薬」も、どっちもない状態になってしまいます。

「コルチゾール」は、電解質のバランスを整えたり、糖や脂質、タンパク質の代謝を制御したりして、生命維持を行うホルモンだと説明しました。
体から急にこのホルモンがなくなると、体からのエネルギーを作ることができないので、全身倦怠感が現れ、血圧が下がってしまいます。
また電解質バランスが崩れて、血糖が低下してしまい、生命が危機的状況に陥るのです(この状態を「副腎クリーゼ」と呼びます)。

フィードバック

これを避けるためには、「ステロイド薬」を、副腎皮質が小さくなるまでにやめる必要があります。
また、やむなく長期に続けなくてはならない場合は、副腎皮質の機能が徐々に戻ってくるのとバランスを取りながら、「ステロイド薬」をゆっくりと時間をかけて徐々に減らしていきながらやめていくという必要が出てくるのです。

だいたい間以上ステロイド薬と続けていくと、副腎は小さくなってしまうと言われています。

そのため、2週間以上ステロイド全身投与が必要な場合は、薬をやめるときに急に止めずに、徐々に減らしていくという作業が必要になります(逆を言うと、2週間以内であれば副腎皮質はすぐにホルモンを再産生することができるので、バツっとやめて大丈夫です)。

そして、この作業は「ステロイド全身投与」以外、つまり、吸入薬、点鼻薬、点眼薬、塗布薬など、飲み薬や点滴以外ではあまり考える必要がありません。
これはまた項を改めて説明しましょう。

 

このように、ステロイド薬の全身投与は長く続けた場合、急にはやめられなくなります。
また、体の中の炎症が持続しておこっている場合、その病気を抑えるためにステロイド薬を長期間続けていかざるを得ないケースも少なくありません。

すると、長期に全身投与を続けた場合に起こりうる副作用について、注意をしていく必要があります。
ここからはその点について簡潔にお話をしてみます。

まずは感染症についてです。

ステロイド薬の主な狙いは、炎症をおさえることでした。

炎症はもちろん病気の症状を抑えるのに役立ちますが、一方外界から異物が入ってきたときに、異物を追い出すため、つまり免疫反応にも炎症は起こります。

ステロイド薬が長く続くと、この免疫反応が落ちてしまいますので、感染症にかかりやすくなり、普段は免疫の力でめったに発症しないような菌やウイルス、カビなどにも負けてしまうことがあります。
また結核菌やヘルペスなどは、一度かかると、症状が治った後も菌が体の中に潜んでいることがあります。
免疫が弱くなると、潜んでいた病原菌が再度活性化し、結核や帯状疱疹になることもあるのです。

次に胃腸症状です。

「コルチゾール」は、胃酸を減らす反応を抑えてしまい、胃酸を増やす作用を持ちます。
またたんぱく分解作用があるので、たんぱくを主成分とする胃粘膜が弱くなります。

ステロイド薬が続いた場合、これらの影響で胃潰瘍、十二指腸潰瘍が起こりやすくなります(そのためステロイド薬が長期にわたるときは、必ず胃酸を抑える薬を併用します)。

そして、血糖値の上昇です。


「コルチゾール」は、臓器から糖を取り出し、エネルギーとする働きがありました。
ですので、ステロイド薬が長く続くと、血糖値の上昇を招き、糖尿病の発症、糖尿病の悪化を引き起こす可能性があります。

これに合わせて、ステロイド薬は血圧上昇を引き起こします(これはステロイド薬が糖質コルチコイド作用の他に、多少のミネラルコルチコイド作用も併せ持つからです。ミネラルコルチコイドは血圧の上昇にとても大きな役割を果たしています)。

血糖だけでなく、血圧を上げてしまうことで、動脈硬化は進みやすくなります。
心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症のリスクが上がるのです。


更には、ステロイド薬は骨粗しょう症も引き起こします。


ステロイド薬は腸からのカルシウムの吸収を抑える作用があり、その補充として骨からカルシウムを取り出して補おうとしてしまいます。
そのためカルシウムを抜かれてスカスカになってしまった骨は、脆くなってしまい、骨粗しょう症になってしまいやすくなります(ですので、長期でステロイド薬を使用する場合は、骨の分解を抑える薬を併用します)。


他にも、ステロイド薬を長期に続けると、緑内障、白内障、筋肉の減少、うつ、不眠症、むくみ、顔面や肩、お腹まわりの脂肪沈着などなど、いろいろな不都合を起こします。



しかし、やはり「ステロイド薬」は、いろんな症状を抑えることができる凄い薬でもあります。
私たちは、ステロイド薬の飲み薬や点滴を用いるときは、これらを常に頭に入れながら、細心の注意を払って使用しています。

ステロイドと聞くだけで怖いイメージを持たれる方もいらっしゃいますが、是非主治医に聞いて、しっかり納得、理解した上で、最大限の効果を引き出して頂ければと思います。

 

それでは次のブログでは、吸入をはじめとする、飲み薬でない「ステロイド」の注意点をお話ししようと思います。

 

→で、次回記事はこちら!

2024.8.1 ステロイドの飲み薬の問題点はよーくわかった。「じゃあ、吸入薬は??」

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.07.03更新

なんだか発熱患者、増えてます。
そして、コロナ感染も、じわじわ増えています(実はインフルエンザ感染も、まだぽつぽつと出ております)・・・

当院の発熱・感染症外来は、6月初旬ごろまでは落ちついていたのですが、6月中旬からにわかに殺気立ち、7月に入ってからかなりの勢いで増えている印象です(昨日は18名もの方が当院の発熱・感染症外来に受診されました)。

そして、そういえば最近は、コロナワクチンを打っていない方の初感染の方を時々見るようになりました。

若い方を中心に、昨年のコロナワクチンを打っていない方は結構いらっしゃり、ここ2年程度ワクチンを打っていない人は多い印象なのですが、それでも未接種の方と、2年前にオミクロンワクチンを打っている方とで、なんだか症状の重みに差があるような気がするのです・・・


「コロナは風邪」というのは、すでにあながち間違いではないとは思うのですが、それはやはりワクチンを打ってこそ。

接種されている方のコロナ感染は「コロナ=風邪、ときどき+α」なのですがまったく未接種の方は「コロナ≧風邪(つまり、未接種でも風邪と同じくらいで済んでしまう方は少なくないのですが、咳などの後遺症の頻度も含め、そうじゃない方が割合としては少なからずいらっしゃるという意味です)」といった印象をもっています。

おそらく例年の傾向だと、この先1か月はコロナがだいぶ増えてしまいそうです。

体調の思わしくない時は是非マスクを(これ、本当にマナーだと思います)、そして無理をして出社、登校したり、遊びに行ったりしないなど、基本的な感染対策は皆さん守るようにしましょ!

そして、実は今年になって、ファイザーとモデルナ以外のワクチンも続々使用できるようになってきました。
(ワクチンについてはあまり報道されなくなってしまいましたが)純国産のワクチンや、(mRNAワクチンではない)組み換えタンパクワクチンなども登場しており、当初から少しずつ環境が変わってきているのです。

本格的な接種開始は秋になると思いますが、もう少し情報が出そろったら、(最近玉石混交の、根拠の薄い「石」の情報が活気づいている印象なので・・・)客観的な情報を皆さんに提供すべく、ワクチン最新情報もまた記事にしようかなと思っております。

さて、ここから今回の本題です。


当院は非常に多くの喘息の方がいらっしゃるのですが、やはり喘息の方にとって、感染症にかかった後に一番困るのが「喘息増悪」(一昔前は「喘息発作」っていってました)です。

喘息が急に悪くなった時は、まずは気管支を広げる吸入薬(サルタノールとか、メプチンとか)を使います。
そして、その炎症反応をいち早く落ち着かせるために、吸入薬を一時的に強くしたり、アレルギーの薬を加えたりすることもあります。
症状を和らげるのに、痰切れ漢方薬を使用することもあります(いわゆる咳止めを使うことはあまり多くありません。喘息が悪化すると痰が多くなるのですが、咳止めは痰を出そうとする咳を止めてしまい、余計に悪くさせてしまうこともあるからです。乾いた咳が続くときだけ考えます)。

そして、それらのお薬でもコントロールできないときは、「ステロイド」という薬を飲んだり、場合によっては点滴をしたりすることがあります。

でも皆さん、「ステロイド」って聞くと、なんだかすごい怖い薬のように思われません?

そこで今回からは、喘息の方がいつかは使う必要が出てくるかもしれない「ステロイド」について、少し詳しく掘り下げてみて、正しく理解しながら使っていただく手助けをしてみようかなと思います。


そもそも「ステロイド」って、いったい何なんでしょうか?

ステロイドは、正確には「ステロイドホルモン」のことを指すことが多く、これは生物の体内で「コレステロール」を原材料に作られるホルモンの総称です。

その中で、医療で良く用いられる「ステロイド薬」とは、「糖質コルチコイド」という、腎臓の上にある、ちっこい「副腎皮質」という臓器から作られるホルモンを元に、人工的にまねて作られた薬のことを言います(「糖質」という名前は、このホルモンが糖の代謝に関与していることが由来です)。

人間の場合、「糖質コルチコイド」の代表として「コルチゾール」というホルモンが副腎で作られます。

副腎

ステロイドホルモンは他にも、同じく副腎で作られる「ミネラルコルチコイド(ミネラルの一種であるナトリウムの調節に関わっていることが命名の由来です)」、卵巣や精巣で作られる「性ホルモン」があります。

 

ステロイド


ちなみに「性ホルモン」である「アンドロゲン」の一種、「テストステロン」に似せて作られたのが「アナボリックステロイド」で、筋肉増強剤として知られます。
これを競技者が使用するとドーピングになります。

治療で使用する「糖質コルチコイド」のステロイド薬とは全く異なるものです(良く勘違いされたり、質問されたりする点です)。


さて、話を「糖質コルチコイド」に戻します。

「糖質コルチコイド」肝臓から糖を取り出したり脂肪を分解して脂肪酸を、タンパク質(筋肉や骨、皮膚など)を分解してアミノ酸を取り出すことで、エネルギー源を供給します。
またほかのいろいろなホルモンの制御にも関わっていたりと、生命維持には欠かせないホルモンです。

そして、「糖質コルチコイド」は、炎症によって起きる反応を抑えるという働きがあります。
つまり体の中で起きている「炎症」を鎮めることができるのです。

また、体の中でストレスが起こったときに、そのストレスに対峙できる「ストレスホルモン」の役割も果たし、体にストレスがかかると交感神経を刺激したりして、体の活動性を上げることでストレスに対峙するのですが、このような「炎症」を強力に抑える作用も、ストレス対峙には大いに役に立っているのです。

そして、その「炎症を抑える作用」を期待して使われるのが「ステロイド薬」ということになります。


そんな「ステロイド薬」は、体のなかで起きる、望まれざるやっかいな「炎症」を抑えるために、本当に多くの用途で使われます。

例えばリウマチなどの膠原病をはじめとした自己免疫の病気アレルギーの病気がん、そして、コロナをはじめとする感染症が重症化した時、などなど・・・

そして、そこには喘息も含まれます。

こちらでもご説明しているように、喘息は気管支が炎症を引き起こし、気管支の壁がむくんで狭くなったり、分泌液=痰が増える病気です。
ですので、その炎症を抑えるステロイドを使用することで、気道の状態は改善するのです。

約30年前から、喘息の治療にステロイドの吸入薬が普及し始め、喘息の症状コントロールは劇的に良くなりました。
そして今でも喘息治療の主役は吸入ステロイド薬です。

しかし、喘息が一度悪くなってしまうと、全身で炎症反応が雪崩式に次々と起こるため、吸入ステロイド薬だけでは太刀打ちできなくなってしまいます。

そんな時は、この「ステロイド薬」を、飲み薬や注射という形で、血管の中に届かせて全身を巡らせる必要があるのです。

すると、全身で激しい炎症が起こっている「喘息増悪」の状態を「強制終了」、ピンチから切り抜けられるということなのです(以前お書きしたこちらのブログ「炎症」「火事」に例えてみましたが、この「火事」に大量の水をぶっかけて「強制終了」させるのが、ステロイド内服、ステロイド注射ということになります)。

 

炎症


じゃあ、だったら喘息なんて、わかりにくい「吸入薬」じゃなくって、はじめから使いやすい「飲み薬」で飲んでおけばいいじゃん、と思いますよね?

でも、それじゃ、まずいのです。

一見「万能薬」とも見えるステロイド、しかし、その存在は「諸刃の剣」でもあるのです。

ステロイドって何が怖いの?
安全に使うにはどうしたらいい?
じゃあ吸入、点鼻とか、飲まないステロイドは怖くないの?

そんな話を、次回からお話してみようかと思います。

→続編はこちら!

2024.7.10 ステロイド、長く「飲み」続けると何が起こる?
2024.8.1 ステロイドの飲み薬の問題点はよーくわかった。「じゃあ、吸入薬は??」

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.06.16更新

先日、桂ざこば師匠がお亡くなりになりました。

我々関東の人間は、お正月の笑点や探偵ナイトスクープなどでお見掛けしておりました。
普段はあまり見られない、上方落語の重鎮と笑点の噺家さんとのやり取りは、さながらオールスター戦のようでとても楽しかったのを覚えています。
一方ナイトスクープで見せられた、涙もろい一面もざこば師匠の人情味あふれる魅力の一つでした。

謹んで、ご冥福をお祈りいたします。

さて、そのざこば師匠の死因が「喘息」だったと発表されました

生前のVTRでも「喘息がしんどいねん」とのお話をされており、かなりおつらい状態だったのではと思います。

喘息って、すべての人口の約5~10%、つまり10~20人に1人が持っているといわれ、かなりありふれた病気です。

そんな喘息で、死んでしまうということがあるのかと、今回ご不安になられた方も少なくないのではと思います。

喘息って、本当に死んでしまう病気なのでしょうか?

 

 

結論、しっかり治療すればその可能性は非常に低い。ただし、治療が不十分な場合や、ほかの合併症がある場合はその限りではない。

喘息は、以前はなかなか有効な治療法がなく、年間7000人以上が死亡する、非常に怖い病気でした。

そう、喘息は、治療のない状態では、死んでしまうことがある病気なのです。

喘息では、気管支の筋肉が縮んだり、中の粘膜が炎症が起こることでむくんだりし、空気の通り道が狭くなってしまいます(これによって喘息ではゼーゼーします)。

喘息の病態

とても強い喘息発作が起こると、この空気の通り道が非常に細くなり、最終的にはふさがれてしまいます。
こうなってしまうと肺に酸素が届かなくなるので、全身が酸欠状態に陥ります。

この状態になった時には、速やかに「エピネフリン(以前はアドレナリンとも言っていました)」を筋肉注射することで、緊急的に気管支を広げてあげる必要があります。
場合によっては人工呼吸器で空気を送り込む必要もあるでしょう。

この状態になったら一刻も早く救急車を呼ぶ必要があります。


また、それと同時に、炎症が起こることで気管支の分泌細胞から、粘り気の非常に強い痰が分泌されます。

通常、これらの痰は咳によって外に出されるので、喘息では咳、痰が強くなるのですが、あまりに痰の量が多すぎたり、気管支が狭くなりすぎたりすると、気管支にこれらの痰がはまってしまって、抜けなくなってしまいます。(これを「粘液栓」と呼びます)。

粘液栓

気管支に詰まった「粘液栓」です。気色悪いと思われる方もいるかもしれませんので、モザイク処理をしています。ご覧になりたい方は画像をクリックしてください。


すると、はまってしまった痰の先には空気が全く届かなくなってしまい、「窒息」状態になってしまいます。
この状態になるといくら人工呼吸器を入れても、その先には空気が届かないので助からなくなってしまいます。
エピネフリンを使用しても痰が抜けてこなければそこでおしまいです。

しかも、これらの症状は、常に重症な喘息の方で起こるとは限りません。

あるデータでは、喘息で亡くなった人のうちの約40%の方が、いわゆる「中等症」以下の症状で、そこには「軽症」だった方の約7%も含まれているというデータもありますSuissa S, Ernst P : Use of anti-inflammatory therapy and asthma mortality in Japan. Eur Respi J 21 : 101―104, 2003

喘息は、突然このような大変な状態に陥る可能性があるという点で、非常に怖い病気とも言えます。


ただ一方、今の喘息治療の主役である「吸入ステロイド」治療が本格的に広まり始めた25年前から、死亡された方の人数は実に7分の1に減少しており、今では全国でも年間1000人を切るかどうかというところまで来ています。

吸入ステロイドは、この「喘息死亡死」を予防する、「最強の方法」ということになります。

ただ、喘息は今までも何度かお話をしているように、治療をやめずに続けて頂くことがとても難しい病気でもあります。

当院でも、喘息の診断で治療をするととてもよくなり、その後しばらくいらっしゃらなくなった後に再度悪化していらっしゃる方は少なくありません。
以前なぜ喘息の治療は続けてもらいにくいか、以下でお話したことがありますので、もしよろしければお読みください。

2021.10.13 喘息の吸入薬は続けるべき?
2021.11.1 で、喘息の治療は、いつまで続けたらいい?

 

おそらく、喘息死がなくならない一つの原因が、喘息の治療の不適切な中断ということになるでしょう。

また、喘息の吸入薬は、使い方が非常に大事になる薬です。

飲み薬や貼り薬は通常大きく間違うことはなく、ほぼすべての方が正確に使うことができます。
注射や座薬、点眼などの薬も使うのが難しいこともありますが、うまく使えなかった時は通常本人が気づきます。

ところが吸入薬は器具をうまく使えないと、全く肺に入ってこないこともありえます。つまり、やっていないというのと変わらないという状態になる危険性もあるのです。

しかも、吸入薬はうまく使えているかそうでないかを本人がなかなか気づくことができないという欠点も持ち合わせており、「薬を正しく使って、正しく効果を出す」ということがとびぬけてハードルの高い治療法でもあるのです。

そのため、吸入のやり方をしっかり教えてもらう「吸入指導」がめちゃくちゃ大事になるのですが(2020.1.12 吸入薬をもらったときは・・・)、この吸入指導も地域差があり、熱心ではない地域ではあまり教えてもらえていないのが実情です(今はこちらの産業再生保全機構のサイトなど、正しいやり方を教えてくれるところもありますので、あまり教えてもらったことのない方は一度参考にされてもいいと思います)。

またそれでもコントロールのつかない重症喘息の方には、「生物学的製剤」という治療法があるので、この選択肢もしっかり考えるべきでしょう(つまり、この選択肢を使える先生、もしくはコントロールできないときに速やかに専門医に引き継いでくれる先生に診てもらう必要があるとも言えます)。

★生物学的製剤についてはこちら!

2023.10.29 なかなか治らない喘息の切り札「生物学的製剤」って何だ? 〜まずは喘息の反応についてから〜
2023.11.16 喘息の反応を理解したところで・・・各生物学的製剤について解説!(1)
2023.12.2  喘息の反応を理解したところで・・・各生物学的製剤について解説!(2)

 

ここまでしっかりと治療をしていれば、よほどのことがない限り、ほぼ喘息で死ぬことはないと言っていいと思います。
逆に言うと、このうちのどれかが不十分であるならば、リスクはあると思っていただいてよいと思います。

ただし、これは「喘息」だけであった場合です。

もう一つ、喘息で死んでしまうリスクとして、喘息以外の「合併症」があるケースは挙げておけなければなりません。

たとえば、ざこば師匠は生前、かなりのヘビースモーカーだったようです。
もしかしたら、「COPD」という病気も併発していたんじゃないかとも思われます。

「COPD」は、主にタバコをずっと吸い続けたことで、慢性的な気管支の炎症を引き起こし、やはり気管支が狭くなったり、気管支内の分泌が増えてしまったりする病気です。
喘息とは炎症の形が違うので、喘息とは異なる治療を行います(詳しくはコチラ!)。

残念ながら喘息とは異なり、高齢化にも伴って、COPDの死亡数はずっと増加傾向にあります。
年間約18,000人の方がCOPDで亡くなっているという統計も出ていますが、COPDという病気は気づかれないことが多く、いわゆる「隠れ患者」が非常に多いので、気づいた時にはかなり進んでいたということも多い病気なのです(2020.7.14 人にも自分にも気づかれにくい病、COPD)。

喘息とCOPDが合併してしまうと、ただでさえCOPDで気管支が狭いところに喘息の気管支の狭さ、痰の増加が加わり、命にかかわる事態になってしまうリスクが非常に上がってしまいます。

また、喘息もCOPDも、感染症によって悪くなります。
インフルエンザ、コロナ、肺炎球菌
(今後はここにRSウイルスが加わるかもしれません)のワクチンをしっかり接種しておき、いざ感染したときに症状が重くならないように予防していくことが重要になります。

喘息とCOPDが合併すると、治療や管理もかなり複雑になってくるので、ともかくこの病気で死なないようにするためには、できるだけ呼吸器専門医など呼吸器に詳しい医療機関でしっかりと治療と管理を受けたほうがいいと思います。

他にも慢性の肺感染症(非結核性抗酸菌症や気管支拡張症など)や間質性肺炎、それに慢性心不全、さらには睡眠時無呼吸症候群など、もともと心肺機能が弱りやすい病気は、喘息悪化が呼吸不全の最後の一押しになってしまうため、喘息の治療とともに、合併している病気をしっかりコントロールすることが大事になってくるのです。

今日は、喘息の方にとって、少し心配になったであろうニュースについて触れてみました。

確かに喘息は「怖い」一面を持った病気ですが、正しい情報によって、その「怖さ」はほとんど遠ざけることができます。

喘息の方には、ぜひ喘息を正しく恐れ、正しく対処していただき、快適な生活を送っていただきたいと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.06.01更新

当院の「お正月」は6月1日です。

私がこのクリニックを正式に引き継いだのが2020年6月1日でした。
そこから丸4年が経過し、今日から5年目が始まりました。

引き継いだ時はコロナ真っ只中、初日の午後はたったの4人しか患者さんお越しにならず、真っ暗な嵐の海に一人っきりで投げ出されたような気持ちだったものでしたが、おかげ様でその後はご来院頂く皆様のご愛顧に預かり、スタッフの仲間にも支えられて、ここまで頑張ることができています。

皆様、本当にありがとうございます。


この4年間の間に、他に先んじて発熱・感染症外来を積極的に開き、「今」の時代にあったクリニックにするための大改装を決行し、またコロナなどのワクチン接種も行いながら、当院の根幹である、咳などの呼吸器症状にお困りの患者さんのお受け入れを続けてきました。

時代は変わりアフターコロナとなりましたが、それでもコロナ後遺症の咳の方は増え続けています。
今は市外に限らず、県外から、時には新幹線や飛行機でお越しになる患者さんもいらっしゃるなど、患者さんのご期待にプレッシャーを感じつつも、自分たちが必要とされることのやりがいを大いに感じる仕事をさせてもらっています。

当院には今も様々な新たな構想があります。今年もいろいろな動きを予定しています。


また今後ともよろしくお願い致します!

という訳で、今回は前回の続き、当院を皆様にお知り頂いている一番の原動力である「医師ブログ」の閲覧者数ランキング2023-2024の後半をお送りしたいと思います。

それではLet's get it on!

第5位(ユーザー数 56,818人)
コロナと喘息について、今わかってきたこと(2021年1月版)

コロナが始まって1年くらいたったころの記事です。
2020年4月に「新型コロナウイルス流行期に、喘息の方に知っておいてほしいこと」という記事を書きましたが、いろいろなことがその後明らかになり、それをお出しした「アップデート版」の位置づけになります。

ここでの重要ポイントは「喘息が“コロナの重症因子“にはならない」が、「コロナが”喘息の悪化因子“にはなりえる」ということです。

この見解は3年たった現在でもあまり変わりはないようですが、この記事を載せてから3年以上たった今でも、5万人以上の方にこの記事をお読みいただいていること、今でもコロナ感染をきっかけとした喘息悪化の方が非常に多くいらっしゃり、そして症状がなかなか治らずにお困りの方からお問い合わせを頂くケースも絶える気配が全くないこともあり、そろそろ最新の再アップデート版でも書いてみようかなと思っています。


第4位(ユーザー数 62,294人)
吸入薬の落とし穴 <エリプタ編>

当院は半数以上の方が気管支喘息です。

喘息の基本薬はステロイドの吸入薬ですが、その中でも1日1回で済むお薬は非常に続けやすく、当院でも重宝しています。

1日1回で済むステロイドを含む吸入薬の中で、レルベア、テリルジー、アニュイティなどというお薬が、「エリプタ」という吸入器具を用いて使用する薬剤で、国内でのシェアも非常に高くなっています。

「開けて→吸って→おしまい」という、一見とても簡単な吸入薬なのですが、世の中そんなに甘くない。

この吸入器具は、私の経験上、しっかりとした正しい指導なく、うまく使いこなすことが、限りなく難しい吸入なのです(うまく吸えたかどうかが自分ではわからないところがこの薬の最大の欠点だと思っています)。

このブログでは、そんな「エリプタ」の落とし穴を執筆したものとなるのですが、おそらく多くの方がこの「エリプタ」を使用していただいているので、皆様の目に留まったのかなと思います。

ただどうしてもブログなど、文章でお伝えするには限界があり、一番は対面でお伝えすることです。
もしお聞きできる環境なら、今の使い方について、是非主治医の先生や薬剤師の先生に相談してみることをお勧めします。
新しい発見があること請け合いです!


第3位(ユーザー数 64,829人)
パルスオキシメータについて ~使用する際の注意点~

第2位(ユーザー数 142,298人)
パルスオキシメータについて ~酸素飽和度ってなに?~

パルスオキシメータの連載記事が2位、3位を占めました。

コロナ禍の前は医療機関にしかなかった、指の爪などに挟んで酸素飽和度を測定するパルスオキシメータ、今ではかなり多くの方が自宅に所有する時代となりました。
(正確性はまだかもしれませんが)スマートウォッチでも酸素飽和度が測れる事態になりました。

5年でとんでもない時代になったものです。

そんな酸素飽和度ですが、血圧や脈拍など、世の中の一般の方に広く定着している数字とは異なり、まだ世に広がって間もない数字でもあるため、詳しく知りたいと思っていらっしゃる方が非常に多い概念です。

また、パルスオキシメータも正しく使わないと正しい数字が出なかったり、世に出回っているパルスオキシメータも質が様々で、正しく測っても数字が低く出てしまったりで、その数字を見た方が驚いて検索されるというパターンも良くあるようです・・・

正しく使用していただくと、病気になったときにとても役に立つ機械ですし、普段の健康管理にも実は有用です。
もしお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非ご一読ください!


第1位(ユーザー数 692,884人)
コロナの後に続く咳・・・なぜ?どうしたらいい??

やはりこの話題が圧倒的でした。
閲覧者数も2位を5倍近く引き離す、圧倒的なユーザー数でした。

当院にも、コロナが治っているのに咳が治まらず、いくつかの医療機関を受診したにもかかわらず良くならないためにお問い合わせを頂くケースがまだまだ非常に多いです。

そしてこのブログを掲載した後は、そのお問い合わせを全国から頂くようになっています。


コロナウイルスは、今までのウイルス性上気道炎、すなわち「風邪」の中でも、特に咳が長引きやすいウイルスです。

コロナの後に咳が続く場合、その半分強は、「コロナによって悪化した“何か”による咳」です。

その“何か”は、喘息であったり、鼻炎であったり、逆流性食道炎であったりと様々なのですが、まずは、真の「コロナ後遺症」なのか、これらのような“何か”が悪化した咳なのかが判別できないと、この咳を治すことは出来ません。

そして、残った半分弱が、真の「コロナ後遺症」による咳ということになりますが、そこにもいろんなパターンがあり、コロナによる肺炎が残ってしまって止まらない咳、コロナウイルスによって神経が侵されている咳、コロナ感染後による不安感や焦燥感から出る咳、これらの「コロナ後遺症」に、先ほど挙げた“何か”が重なって治りにくくなる咳などなど、まあとにかく複雑すぎて、長引く咳の中ではフリーザ並みのラスボス感がある難しさです・・・


世の中ではすっかり過去のものとなったような空気のコロナなのですが、発熱・感染症外来では、今でもまだまだしっかりと陽性者が一定の割合で出ているのが現実です。

おそらく、このブログに対する関心が薄まっていくことはまだまだ先なのかなって思います。
やはり皆さん、かからないに越したことはないですので、せっかく覚えた基本的な対策は、この先も頭の片隅に置いて頂けたらと思います。


という訳で、この1年のブログ閲覧ランキングを2回にわたり発表してみました。

おかげさまでこの1年で、当院ホームページには170万人以上もの方にお越しいただきました(1年で日本人の1.5%の方にお越しいただいたのって、なんだか自分のとこのものじゃないみたいです・・・)。

診療やクリニック運営をおろそかにしない程度に、今後もとんがったホームページ作りにいそしんでいこうと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.05.13更新

当院に新しい呼吸器内科の先生4名が赴任し、完全複数診療体制が始まってから1ヵ月あまりが過ぎました。
なんだか最近は患者さんがニコニコ診察室にお入りいただくことが多い気がします。

「来たらすぐ呼ばれちゃったからかえって焦っちゃった(^^;)」
「血圧を測る前に呼ばれちゃった(*^^*)」
「早すぎて何かの間違いかと思っちゃった(^。^)」

患者さんもニコニコ、私もニコニコ、そしてスタッフもニコニコ(^_^)

とりあえずこの5月までの段階では、3月以前と比べて、(日にもよるのですが)お待ち頂く時間が大幅に減っていることが多くなっています。
これも、多くの方が、曜日や担当医師の変更にご協力いただけたおかげです。誠にありがとうございます!

院内で治療方針をできるだけ統一し、どの診療枠でも質の高い診療を維持するように尽力いたしておりますが、万が一診察内容にご納得いただけなかった場合は、もう一方の医師がなるべく速やかにフォローの診察させて頂くシステムも開始しました(もちろんそのことで患者様が特に不利益を被ることはございません)。

今後も当院におかかりの皆様には、専門医療機関ならではの奥深い、きめ細かい診療を提供致しますので、おカラダのことでご不安なこと、お困りのことがあればどんな些細な事でも外来にてご相談ください!



さて、院長ブログも現院長である私が執筆開始し丸5年が経過し、計117本の記事を掲載いたしました。

実は当院のホームページにいらっしゃる方のおよそ8割が、この医師ブログをご覧になられている方です。

夜な夜な頑張って書いた甲斐があるってもんです。
皆様、本当にありがとうございます・・・

という訳で、今回は少し趣向を変えて、ここ1年で皆様がどんな記事にご興味を持たれたかをランキング形式でご紹介してみたいと思います!

題して「医師ブログ 閲覧者数ランキング2023-2024」!

グーグル・アナリティクス4における2023年5月1日~2024年4月30日における、「ユーザー数(≒閲覧者数)」をもとにランキングしてみたいと思います(1人が2回以上閲覧しても、ユーザー数は1とカウントされます)。
上位10記事を挙げてみますので少し長くなりそうです。
その為、2回に分けて発表してみたいと思います!

それではHere we go!!

第10位(ユーザー数 23,823人)
2023.03.23 アレルギー検査の結果って、どう読んだらいいの?


この記事は、昨年の花粉症真っ只中の時期に執筆しました。

アレルギーのような症状にお悩みなのに、他の医療機関で「検査結果で出てないからアレルギーありません」と言われて途方に暮れている方が多くいらっしゃったので書いてみた記事です(ちょうどWBCで日本が優勝したタイミングでもあり、その時の院内の様子もブログに書き留めていました。何だがもうずいぶん前の事みたいに感じるのは私だけでしょうか・・・)。

アレルギーの採血検査(いわゆる特異的IgE検査)は、確かにアレルギーの有無の可能性を「推定」することは出来るのですが、この検査だけでアレルギーの有無を「確定」することはできない検査です。
医学はどの検査でも、その解釈に注意しないといけないものが多いのですが、このアレルギー検査はその最たるものでもあります。

しっかりした知識がなく検査を解釈しようとすると、あるはずのアレルギーを「ない」と判定されて症状に苦しんだり、またないはずのアレルギーを「ある」と判定されて無駄なアレルギー抗原回避を長期間行ってしまったりと、生活や症状のコントロールに長く影響をしてしまいます。

ぜひ検査の結果は、しっかりとアレルギーに詳しいお医者さんに説明してもらい、正しく理解して日ごろの生活に役立てましょう!


第9位(ユーザー数 26,263人)
2020.01.12 吸入薬をもらったときは・・・


この記事はもうすでに4年前のものになります。まだ「加藤医院」という名前でしたし、今とだいぶ違う院内の模様替えの様子も載せていました。

ただ私が赴任してから5年間、当院では、喘息に対する「吸入薬の使い方」にはめちゃくちゃこだわっており、それは今回新たに赴任された4人の先生方にも受け継いでいただいています。

やはり吸入薬は、飲み薬や貼り薬と違って、その薬の「量」や「使い方」が間違っていると絶望的に効果がなくなります。
また、吸入のやり方の個人差や、患者さん自身の性格や考え方、そしてその方の生活スタイルなどによって、「吸入薬の種類」の適正も人によって全く異なるものなのです。

これは治療ガイドラインにも詳しくは書いていません。
あまりにもパターンが多すぎて、ガイドラインに載せることができないものなのです。

そんな吸入薬を、数多の診療経験を元に適切に選んで、その方の吸入のやり方の弱点を見抜きしっかりと吸入薬の力を最大限に引き出すのが、私達専門医の仕事です。


第8位(ユーザー数 34,663人)
2021.06.06 治療してもなかなか咳が治らない時に、考えておきたいこと


この記事も2021年の記事です。
ようやく1回目のコロナワクチンが始まったときでした。
やはり「咳」に対する世間の風当たりが非常に強く、「なかなか止まらない咳」でお悩みの方が県内外から多く当院にいらっしゃっていた時期です。

この状況は今になっても変わっていません。

まだまだ咳でお悩みの方が非常に多く、直近1年のこのランキングでも8位に入りました。
「長引く咳」関連の記事は、他にも多くランクインしており、いかに皆さんが「咳」にお悩みでいらっしゃっているかを如実に表しています・・・


第7位(ユーザー数 35,756人)
2019.10.17 「かぜ」と「抗生物質」


この記事は2019年の「コロナ」以前の記事ですが、今でもまだ多くの方にお読みいただいております。

コロナによって、ウイルスには抗生物質が効かないという事実は、一般の皆さんにも広く知られることになりました(コロナで変わった、「いい面」といってもいいと思います)。

抗生物質は、使いすぎると菌が耐性化して、効かなくなってしまうのです。

が、一昔前はその場しのぎで風邪に抗生物質を使うのは当たり前でした。
一方患者さんからも風邪に抗生物質の希望があることが多かったのも事実です。

しかし、耐性菌で感染症の治療が難しくなる方が増えてきたことに伴い、20年ほど前から、医師教育の場で抗生物質を正しく使おうという機運が広がりました。

今では、風邪の原因をしっかりと推測し、抗生物質が必要なさそうなら出さないと言ってくれる医師もだいぶ増えてきました。
また患者さん側も抗生物質の耐性のことをご存知の方が増えてきて、「大事に使ってほしい」と考えて頂ける方が増えました。

抗生物質は大切な「限りある資源」です。

必要な時はしっかり正しく使い、いらない時には使わないという(それを判断するためには「攻めた問診」「攻めた診察」が必要になるので、診察の「質」が問われます)正しい抗生物質の使い方が、更に広まるといいなと思っています。


第6位(ユーザー数 51,561人)
2023.08.04 喘息の人って、解熱剤、鎮痛剤のんでも大丈夫??


この記事は2023年8月の記事なので、実質9か月間の集計になります。
今現在の実際の順位はもう少し上なのかもしれず、最近伸びてきた記事です。

多くの方が喘息や喘息気味と診断をされていますが、その中で解熱鎮痛剤の使用を全面禁止されてしまう方が後を絶ちません。

頭痛持ち、腰痛持ちの方は、これが何気に大きく堪え、生活の質を大きく落としてしまうことも珍しくないのです・・・

もちろん、「アスピリン喘息」と診断をされた方は、絶対にNSAIDsとよばれる解熱鎮痛剤は使用してはいけません。

ただ、多くの喘息の方は「アスピリン喘息」ではありません。

もちろん、だからといって全く心配しないで使っていいという訳ではないのですが、その見極めは時には専門医でも簡単ではありません。

でも、しっかりと状況をお聞きしたり、万が一起こったときの対処方法をお伝えしたり、時には長く様子を見させていただくことで、「アスピリン喘息」でなはいとの確証を得て、鎮痛剤が使用できるようになることも少なくないのです。

是非痛み止めについてお悩みの方は、呼吸器やアレルギーの専門医にご相談してみてください!

今回は10~6位までご紹介いたしました。
次回は5位から紹介しようと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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