医師ブログ

2024.03.03更新

当院では診療と平行し、さまざまなワクチン接種を行っております。

インフルエンザ、コロナのワクチンを除けば、ワクチンといえば子供が受けるものというイメージをお持ちの方も多いようですが、いわゆる「おとなのワクチン」も少なからず存在します。
以前「肺炎球菌ワクチン」についてはブログでご紹介しました(2020.6.7 高齢者で気を付けたい、肺炎について(肺炎球菌ワクチン解説編)が、その他にも皆様に知っておいてほしいワクチンがいくつかあります。
今後それらのワクチンを少しずつご紹介する記事もアップしてみようと思います。

ということで、早速今回は、おとなのワクチンシリーズ1発目です。

今回は「子宮頸がんワクチン」をご紹介してみましょう。

ワクチンって感染症を予防するものですよね?
でも「がん」のワクチンって何ぞや!?
と思われる方も多いかと思います。

そう、「子宮頸がんワクチン」も、実際はウイルスに対してのワクチンなのです。

どういうことでしょうか?

子宮頸がんの原因って、実は「ヒトパピローマウイルス」というウイルスなのです。

「ヒトパピローマウイルス」は、性交渉によって感染します。
このウイルスは、何も特別なウイルスではなく、感染すること自体は珍しくありません。
感染しても大体は自然に排出されてしまうのですが、排出されずに感染が長期に続いてしまったときに、子宮頸がんを引き起こしてしまうことがあるのです。

その発症年齢は早くて20~30代で、40代にピークを迎えます。

現在日本では年間10000人が発症し、年間約2900人(つまり1日約8人)の方が亡くなっていると言われています。

また、20~30代で発症すると、結婚・出産時期と被っていまいます。
この病気は、かかってしまうとその治療により妊娠、出産が難しくなる可能性があるという問題を抱えています。
他にもこの時期は仕事や学業、育児など、ライフプランにも大きな影響を与えてしまうやっかいな病気なのです。

これを予防するために、「ヒトパピローマウイルス」に感染することを抑えるのが、「子宮頸がんワクチン」という訳になります。

 

皆様もマスコミの報道などでご存知だったかとは思いますが、このワクチンには、多様な副作用で接種の推奨が控えられたという歴史があります。
子宮頸がんワクチンを接種後、接種部位以外にも広がる全身の痛みや、手足の動かしにくさ、勝手に体の一部が動いてしまう不随意運動が起きることが報告されました。
これらの因果関係が否定できなかったことから、2013年6月にワクチン接種の推奨が控えられました。
しかしその後の調査で、接種していない方にも同様の症状をきたす方がいることがわかり、その数に明らかな違いは証明されませんでしたFukushima W et al. J Epidemiol. 2022; 32: 34-43
それをふまえて、接種した方、しなかった方約7万人の、各症状での頻度の比較をしたところ、そこにワクチン接種との明らかな関係は統計学的に認められないとの結果がでましたSuzuki S et al. Papillomavirus Res. 2018; 5: 96-103
その結果、国は2021年11月にワクチン接種の推奨差し控えを終了しました。

このワクチンは本来小6~高1の(つまりその年度に12~16歳になる)女の子が対象になるのですが、さっきお話しした接種推奨の差し控えにより、2013年~2021年にこれらの年齢に達した女性は、接種推奨のエアポケットに落ちてしまい、接種の機会を逸してしまいました。

そのためその接種機会を取り戻すため、現在1997年4月2日~2007年4月1日生まれ(つまり今年の4月1日に17歳~26歳)の方に対して、改めて接種の機会を提供することになりました。

これを「キャッチアップ接種」といいます(大事なことで、あとでまた出てきますので、よーく覚えておいてください!)。

それでは、次はそのワクチンについて具体的にご紹介します。

「ヒトパピローマウイルス」は多くの型があるのですが、子宮頸がんを引き起こしやすい「ハイリスク型」のウイルスは「16型」「18型」で、子宮頸がんの原因の60~70%を占めると言われています。

子宮頸がんワクチンは、これらに対する効果を含んでいないといけません。

まずその2つの型をターゲットとした(つまり2価ワクチンである)「サーバリックス」、それにもう2種類の型を加えた(つまり4価ワクチンである)「ガーダシル」というワクチンが存在していました(「ガーダシル」に加えられたもう2種類は、尖圭コンジローマという病気の元になる型で、「ガーダシル」これの発症も抑えることができます)。

その後、4価の「ガーダシル」から、更に子宮頸がんを起こしうる5種類の型への効果を加えた(つまり9価ワクチンである)「シルガード9」が2021年に日本で発売開始されました。

子宮頸がんの発症予防効果は「サーバリックス」「ガーダシル」が60~70%、「シルガード9」90%以上となっており、安全性にも特に大きな差はみられません。
2023年3月までは、公費で受けられるのは「サーバリックス」「ガーダシル」だけでしたが、2023年4月からは「シルガード9」も公費で受けられるようになりました。

価格面での差もなくなったわけですので、公費で受けるなら、現時点でのおすすめは「シルガード9」と言って差し支えないと思います。

とはいっても、過去に「サーバリックス」「ガーダシル」を接種した方も、子宮頸がんの発症を予防するには十分効果がでますので、あまり考えすぎることもないと思います。


また子宮頸がんワクチンは後でお話するように2~3回受けますが、1回目に「サーバリックス」「ガーダシル」を受けた場合でも、2回目以降に「シルガード9」に変更することが認められています(そのように打った場合の有効性のデータは少ないのですが)。
2回目以降に種類の変更を希望される場合は、私たち医師にご相談ください。

次は接種の仕方、接種スケジュールです。

子宮頸がんワクチンは3種類とも「筋肉注射」で行います(コロナワクチンと一緒ですね)。

「サーバリックス」3回の接種で、1回目を打った後、1か月、6か月で2,3回目を接種します。

「ガーダシル」3回の接種で、1回目を打った後、2か月、6か月で2,3回目を接種します。

「シルガード9」は年齢により分かれます。
1回目接種の時に15歳以上の方は3回の接種で、1回目を打った後、2か月、6か月で2,3回目を接種します(「ガーダシル」と一緒です)。
1回目接種の時に14歳以下の方は2回接種となり、1回減らすことができます。1回目を打った後、6か月で2回目です。

これらのスケジュールでどうしても打てないときにも対処方法がありますので、困ったときは医師にご相談ください。

そしてここからが一番大事なことです。

国による「キャッチアップ接種」が、今年の9月で受付を終了します!
正確には2025年3月で公費における接種が終了しますが、上でお話した通り、すべて打ち切るには6か月かかります。

ですので9月までに1回目を打っておかないと、最後の接種が3月に間に合わなくなってしまうのです。

思ったほど時間はありません。
特に今年の4月1日に17~26歳となる女性の方は、できれば早めに接種を開始してください!



さて、3月に入りましたが、相変わらず当院には非常に多くの方にご来院頂いております。

正直、現在はかかりつけの方を診るので精いっぱいの状態が続いており、新患の方の枠を再診の方に振り分けて何とか対応している状態です。
当院おかかり希望の方には、大変ご迷惑をお掛けしております。

以前からお伝えしている通り、4月からは呼吸器診療枠を大幅に拡大し、パワーアップすることになっています。

今回その陣容の詳細が決まりましたので、少しご紹介させて頂きます。

今回、新たに当院で呼吸器診療に当たる医師は4名となります!(現在水曜を担当している平田医師は3月いっぱいとなりました)

まずは、福田勉医師です。
福田医師は現在茅ヶ崎市立病院の内科診療部長、および呼吸器内科部長を務めている医師です。

咳や息苦しさなどの呼吸器症状に40年以上にわたり立ち向むかった、長年の経験に裏打ちされた質の高い診療を提供していただきます。

福田医師火曜午後、土曜の診察を担当致します。

次にご紹介するのは、藤本紗代医師です。
藤本医師は大学病院、総合病院で呼吸器専門医として活躍されています。
また、呼吸器内科医として在宅の場でも医療を提供されており、患者さんと非常に近い距離で接しておられる医師です。
非常に話しやすい雰囲気で、女性ならではの視点できめ細かい医療を提供していだだきます。

藤本医師月曜午前、火曜午前を担当いたします。

またその他にも2名の医師が横浜市立大学から派遣されます。
こちらの医師につきましてはまた後ほどご紹介させて頂くこととしましょう。

金曜午後の飯沼医師による循環器専門外来は4月以降も変更なく行います。
また加藤医師の診療は金曜午前となります(土曜日は福田医師の診察に変更となりますのでご注意ください)。

この陣容で、4月以降は新患の方、再診の方ともに予約が今までよりもずいぶんとお取り頂きやすくなるかと思います。

加藤医院、茅ヶ崎内科と呼吸のクリニックの歴史の中でも大転換点となるような診療体制強化となります。
是非新生茅ヶ崎内科と呼吸のクリニックをよろしくお願いします!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.02.09更新

久しぶりに茅ヶ崎でも雪が降り、冬本番の寒さが続いています。

そういえば、インフルエンザが流行り始めたのが昨年の8月から。
今とは真逆の、うだるような暑さの中で、3年ぶりの、しかも季節外れの流行が始まっていました。

「コロナが終わったと思ったら今度はインフルかよ・・・」と思いつつも、通常インフルエンザの流行は2~3か月で落ち着くので、「次のコロナの流行とはかぶらなそうだな、まあタイミング的には悪くなかったかな」などと、甘い戯言を言っていました。

それが・・・

インフルエンザの流行はダラダラと異例の長期にわたった挙句、半年を経た今になってまさかのピークを迎えつつあり、そうこうしているうちにとうとうコロナの流行までも始まってしまいました・・・

3年間の眠りから目覚めたインフルエンザ、やはりえげつねーっす・・・

茅ヶ崎市のインフル、コロナ流行状況
インフルエンザ、コロナ流行状況

2024年2月8日発表 茅ヶ崎市保健所管内感染症情報

加えて、今年は溶連菌感染症もまだ警報級の流行を見せており、あまつさえやや早くから始まってしまった花粉症、そしてそれらをきっかけに悪化してしまった咳に困っている方も非常に多いようで、当院の新患枠、発熱感染症外来枠は、開けても開けてもすぐに埋まってしまう、阿鼻叫喚の状態です・・・



当院としては、もちろん一番の得意技である咳の診断、治療はできる限り行いたい、咳で困っている方を何とかしてあげたい、その気持ちはあふれるほど持っています。

しかし、限界を突破した更なる限界の状況で、逆立ちしてもどうあがいても今はこれ以上お受入れできないという状態の今、どうしても受診がかなわない、今お困りの患者さんに何とか少しでも罪滅ぼしはできないのだろうか・・・

ということで、今回は、病院にすぐには行けない時にも、何とか自力で咳を抑えこむ方法をお伝えしてみたいと思います。


まずは、普段、咳のあまりしない方で、急に咳がでてしまった方です。

風邪の咳

この場合、上気道炎や気管支炎といった感染症の可能性が高いと思われます。
そして通常、健常な方の場合は、その原因の9割以上がウイルスといわれています(つまり抗生物質は効きません。詳細はこちらのブログ:2019.10.17「かぜ」と「抗生物質」)。
そしてインフルエンザ、コロナを除けば、これらのウイルスを直接やっつける薬は通常ありませんインフルエンザコロナには薬があるので、受診できるのであれば受診、診断を受けて処方をもらうのがベターなのはもちろんです)。

薬のないウイルス感染症である場合は、そのウイルスが自分の免疫で体内から追い出されて、ウイルスに傷つかれた気道が修復されるまで、咳を根本的に止めることはできないというのが実情です。

症状を和らげて時が過ぎ去るのを待ちましょう。

痰を伴わない乾いた咳の場合は、市販の風邪薬の中の成分に「コデイン」が含まれているものは効果があるかと思います。
また我々が時に使用する「デキストロメトルファン(商品名メジコン)という成分も、今はOTC薬がでて、薬局で買えるようになっているようです。
加えて、比較的乾いた咳の場合は、「麦門冬湯」という咳止めがよく効く場合があり、これもドラッグストアで手に入る薬剤なので使用してみてもいいかと思います。


次に、風邪を引いた前後に鼻が悪くなって、鼻水がのどに落ち込む場合です。

鼻炎の咳

この場合は、痰がのどに絡んで、それが刺激となって咳が出るため、痰を取り除くこと、痰のもととなっている鼻水を減らすことが重要になります。

流れ落ちる鼻水や痰がさらさらして、水みたいになっている場合は、アレルギー性鼻炎が起きている可能性があります。
まずは薬局で抗アレルギー薬「アレグラ」とか「アレジオン」とか「クラリチン」とか)を探してみてください。また漢方では「小青竜湯」という薬があっています。

またこちらのブログも参考にして、花粉をなるべく体に取り込ませないようにしてください(2023.2.10 薬だけじゃない!自分でできる、シーズン中に実践したい花粉症対策

また、その鼻水や痰が粘っこい場合は、まずその痰を柔らかくして出しやすくしてあげる必要があります。
「カルボシステイン」「ブロムヘキシン」などの成分が含まれた「鎮咳去痰薬「クールワン」とか「ストナ」とか)」を選ぶといいかと思います。

この時、あまり咳止めの成分は入っていなくてもいいかもしれません。
この時の咳は痰を出すための「エンジン」ですので、それを止めると余計痰がたまってしまい、痰がらみが強く感じてしまう可能性があるからなんです。

どうしても咳がつらい場合に咳止め成分を入れるかどうかは、上記のデメリットも頭に入れて判断してください。

また、副鼻腔炎が原因となっている場合もありますので、この場合は「辛夷清肺湯」を含む薬も使えます(「チクナイン」などが該当します)。


次に、タバコを吸う方で、ふとした時に咳がよく出る方です。

タバコの咳

そりゃもちろん「タバコやめろ」という話ですが、それがすぐには難しいこともよーくわかっています(ただもちろん、時間をかけてでもいいので、これに懲りていただき「いつかは」やめられるようにしましょう。当院禁煙外来のページについてはこちら)。


やはりこの場合は痰が増える場合が多いので、その痰をしっかり出していただくことが大事です。

上記でお話しした「鎮咳去痰薬」をまずは使用してみて下さい。
漢方系では、悪化した肺や気管支の環境を整えることができる「清肺湯」という漢方が効果があることがあります(「ダスモック」とかも清肺湯を含みます)。


胃酸が逆流しても咳が出ることがあります。

逆流性食道炎の咳

やや太り気味の方や、食後や横になると胃酸が上がってきて咳が増える方は、胃酸を抑える「ガスター」も試してみてください。


そして、いわゆる「喘息」っぽい咳が出る方ですが・・・

喘息の咳
とりあえずできることは挙げては行きますが、さすがにこれは医療機関に受診しないと厳しいです・・・

「アストフィリン」とか「アスクロン」とか、無理やり気管支を広げるようなお薬も売ってはいますが、副作用も多く効果も一時しのぎでさほど出ないことが多いため、「急場をしのぐ」以外の用途では、正直あまりお勧めはしません。

あと、いわゆる上で挙げた「デキストロメトルファン」とか「コデイン」の含まれている咳止めは、基本的にはダメです。まず効果はありません(特に「コデイン」は『ダメ、ゼッタイ』です。気管支収縮作用があり、喘息を悪化させます)

咳の種類によって、「麦門冬湯」「小青竜湯」「五虎湯」「麻杏甘石湯」といったあたりの漢方は、多少なりとも効果が期待できるかもしれません(もうここら辺の使い分けはさすがに一般の方には難しいと思うので、ドラッグストアの薬剤師とご相談ください)。

お子さんでは「はちみつ」がこのような咳に効くというデータも出ていますので(1歳未満はボツリヌス菌感染のリスクがあるため、はちみつは『ダメ、ゼッタイ』です)、試していただいてもいいかもしれません。

生活面では、とにかく冷たい空気、乾いた空気が一番の刺激になるので、マスク(夜寝るときもつけて下さい)、マフラー(首元にある気管を冷やさないようにです)、部屋の加湿、しっかり水分補給(できれば気道を冷やさないように温かいもので)などを心がけて、受診できる機会が来るまで何とかやり過ごすしかないです。


ひとまず、医療機関に受診しないできる対策は挙げられるだけ挙げてみましたが、でも結局なかなか症状がおさまらないということも少なくはなく、やはりこの場合は医療機関への受診が必要となります。

なのに・・・
なかなか予約がお取りいただけない状況で・・・


誠に申し訳ないっす。ぴえん。

ぴえん


でもね・・・

 

ようやく!

きらきら

当院は4月から、呼吸器診療を大幅にパワーアップすることになりました!!
2人だった呼吸器内科医が、4月から一気に5人に増えます!

そして、基本的にすべての日で2人以上の医師が対応できるようになります!

この1~2年間は、本当に予約が取りづらい状態でご迷惑をおかけし続けていましたが、4月からは一気に受診していただくことができやすくなるはずです!

詳細は決まり次第、改めてLINE公式アカウントや当院HPで公表いたします。
それまでの間は、何とか今日お話しした対処法も参考にしていただきながらお過ごしいただき、4月をお待ちいただけますと幸いです(もちろん新患枠は準備はしておりますので、予約がお取り頂けたらすぐお越しください!)

また当院おかかりつけの方は、症状悪化時はいつでも受診を受け付けておりますので、遠慮なくお電話やメールでお問い合わせください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.01.22更新

年明けより、当院のご予約が非常に取りにくい状態となっており、皆様には大変ご迷惑をおかけしております。

インフルエンザの規格外の長期流行が収まらぬうちに、コロナも徐々に増えてきているようです。
当院の発熱・感染症外来の肌感覚では、11月はインフル:コロナが9:1くらいだったのが、12月は7:3くらいになり、この1月は5:5くらいになってきている印象です。
またさすがに1月は冷え込む日も多く、気管支にとっては過酷な環境になっています。

大変多くの受診ご希望のお問合せを頂いているにも関わらず、受診まで大変お待たせしてしまい非常に心苦しい状況ですが、不定期ながらも2月から土曜日の呼吸器科医師による呼吸器専門診療を開始する予定としております。
他院からの転院ご希望の方長引く咳の方にも、わずかではありますが当院の受診機会をご提供できるかと思います。

ご希望の方は是非、最新情報を当院LINE公式アカウントやこのホームページなどでご確認頂けますと幸いです!



さて、この時期のコロナ、インフルをはじめとした感染症は、ご存じの通り集団生活をする学校でも爆発的に広がります。
またお子様は外遊びや体育、部活など、屋外での運動の機会が多く、気道がより冷たい、乾燥した空気にさらされがちになります。

そのためこの時期は、咳が止まらなくなるお子様が増えてきます。
その中には、やはり喘息のお子様が少なからずいらっしゃいます。

感染や寒さ、乾燥をきっかけとして、喘息が悪化してしまうお子様が非常に多いのです。


そこで今回は、長引く咳、特にその中でも頻度の多い喘息の、大人と子供で同じこと、そして違うことについて書いてみようかと思います(赤ちゃんなど、乳児の喘息は私は診察できませんので・・・申し訳ありませんが今回は割愛させてもらいます。ぜひ小児科の先生にご相談ください)。


まず、大人と子供で同じことです。

 

喘息が「気道の慢性的な炎症」であるということは、全く同じです。

つまり、子供でも大人でも、「長期的なお付き合いをしていく必要がある病気」ということになります。

 

そして、喘息は大人も子供も、「風邪」一番症状を悪化させやすくする原因です。

今のような感染症が大きく流行る時期は、しっかりと手洗いや手指消毒、換気などの感染対策をとることが重要です。

体内での病原体の量は炎症の強さと比例することも多く、体内での病原体の増加を抑える各種ワクチンの適切な時期の接種も重要である点も、大人と子供で一緒です。

また、大人でも喘息に鼻炎が合併している例は少なくありませんが、小児喘息でも同様です。

むしろお子様はなかなかうまく鼻がかめず、痰もうまく出せないことが多く、鼻水が鼻の奥やのどにたまってしまい、これが咳の原因になったり、鼻症状を余計に悪くして巡り巡って喘息の悪化に影響してしまったりすることもあります。

いずれにせよ、大人でも子供でも、喘息の治療をしっかりするなら、鼻のコントロールをしっかり行うことがめちゃくちゃ重要になります。

 


次に、子供と大人で違うところをあげていきましょう。

まずは症状です。
子供と大人の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」の頻度の違いです。

子供の場合、当然のことながら気管支がもともと細いです。

喘息では、気管支から「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が鳴るというイメージをお持ちの方は多いかと思います。

成人の場合は、喘息であってもこのイメージは必ずしも当てはまらず、むしろ「ゼーゼー」「ヒューヒュー」ならない喘息の方が多い印象ですが、子供の場合は、気管支が、音が鳴るような狭さになりやすいという点から、大人より「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音をきたしやすいです。

ですので、小児喘息の診断では、大人よりも「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえることを重視する傾向があります。

ただし、逆に言うと他の原因、たとえばウイルス感染症による細気管支炎や鼻の炎症などで「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が生じる例も少なくなく、特に3歳までは、喘息もないのに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」としやすい子が少なくありません(これを「一過性初期喘鳴群」と言います)。

「ゼーゼー」「ヒューヒュー」するからと言って喘息と決めつけることできず、診断は気を付けて行うことが大事です。


また、時に検査が難しいのも小児喘息の特徴です。

喘息の検査は、採血だけでなく、息を吸ったり吐いたりする検査が重要な位置を占めています。
この検査は、息の吸い方、吐き方、その力の入れ具合など、決められた方法に従って行わないと、正しい結果がでません。
ですので当たり前なのですが、お子様は大人に比べてうまく検査をできないケースが多くなってしまいます。

なので子供の喘息を診断するときは、検査に頼らずに、症状、今までのヒストリー、家族歴や周辺環境(ペットや運動歴など)から総合的に判断し、とりあえず治療してみてその治療に反応するかを見る「診断的治療」に頼らざるを得ない場合が少なくありません。

 

次に、小児喘息のアレルギー反応の頻度の高さです。

小児喘息は、アレルギー反応が原因として起こる頻度が90%程度ととても高いと言われています。
例えばダニやペット、カビなどが体の中に入って、それを追い出そうとする「おバカ抗体」であるIgEが、気道に炎症を起こしてしまうパターンです。

採血呼気一酸化窒素検査(気道のアレルギー反応の強さを調べる検査です)でも、しっかりアレルギー性炎症のデータが出てくることが多いです(もちろん例外もありますが)。
ですので、子供の喘息では環境調整が大きな効果を示す例が多くあり、またステロイド吸入薬などのアレルギー反応を抑える治療も比較的効果は上がりやすい傾向があります。

一方大人の喘息は、検査をしてもアレルギーの原因がはっきりしないタイプが50%と小児喘息よりは多く、その原因はよりいろいろなパターンがあり複雑です。
その場合は環境調整をしてもなかなか良くならなかったり、吸入薬や抗アレルギー薬の効きも悪かったりする例が少なくありません。


また経過でも違いがあります。

小児喘息は「治る可能性が十分ある病気」です。

 

喘息は主に乳幼児の時に出てきやすいと言われ、成長に伴い徐々に症状が徐々に出にくくなることが多いです。
小児喘息のあるお子様のおおよそ60~80%が大人になったら症状が落ち着くというデータもあります(ただその後、大人になってから再発してしまう方が、その中の半分程度いらっしゃるというデータもあります・・・)。

一方、成人喘息自然に治ってしまうことははっきり言って非常に少ないです(一時的に落ち着いていても治療を中断すると、どこかで悪化をしてしまう、いわゆる「くすぶった状態」にしかならない例が非常に多いです)。

ですので、小児喘息の場合は、長期にわたる治療を止めることのリスクが高い成人喘息と違い、成長とともに将来的に吸入薬などの治療を止められる方が少なくありません。

しかし、とはいってもこの時期にしっかり治療しておかないと、気管支の炎症が固定化してしまい、喘息が治らずにそのまま大人になってしまうことにつながってしまうので、必要な治療はしっかりと指示通り続けないといけないのは成人と同様です。

自分の判断で薬を止めてしまうことは絶対に避けて、必ず主治医の先生と相談しましょう。

 


使うお薬にも多少の違いがあります。

 

まずは大人と子供の「吸入ステロイド」の立ち位置です。

まず大人の喘息では「超基本薬」となっている吸入ステロイドですが、小児喘息でもとても大事な位置づけではあるものの、症状が軽い場合はその後改善、完治の方向に行くことも考慮して、吸入ステロイドを使用せずに治療をするケースがあります。

小児の喘息治療ガイドラインでは、年数回までの症状なら、飲み薬(モンテルカストやプランルカストなど)だけでコントロールすることとされ、週1回以下程度までの症状であっても、ステロイド吸入薬と飲み薬のどちらかを続ければいいということになっており、症状が極々軽い人を除いて基本的に吸入ステロイドを使うことが必要となる大人の喘息よりは、ほんの少しだけその地位が低いかなという印象です。

理由としては、小さい子では吸入治療が大人より難しいという点と、もうひとつ、小児では吸入ステロイドを長期に使用することで、大人になったときの身長が男子で0.8cm、女子で1.8cm程度小さくなってしまうというデータもあってEffect of inhaled glucocorticosteroids in childhood on adult height. N Engl J Med. 2012;367:904-912成人の喘息よりは少し慎重に使用する必要があるからなのです。

ただ、先ほどもお話ししたように、不十分な治療は、喘息が重症化してしまうリスクや、大人になってからも症状を持ち越してしまうリスクの増加につながり、将来の健康を脅かす要素となってしまいます。

ですので必要な時に出されたステロイド吸入薬はやはり大人と同様、しっかり指示通りに続けて頂くことが重要であるというのは、全く揺るぎません。

 

次に、薬の量と種類の違いです。


そして、成人に比べると、小児で使える吸入薬は当たり前ですが、量が少なく設定され、種類も限られています。

小学生低学年程度であればいいのですが、小学生高学年、中学生となると、だんだんと大人の体の大きさに近づき(中には中学生ですでに親より大きく成長している子も少なくないですよね)、より多くの量の薬を必要とするにも関わらず、14歳まではこの量の縛りがあるため、十分な量の薬が使えないジレンマが出てくることもあります。

ただいろいろ工夫して行えば何とかなることも多いので、あきらめずに喘息の治療に詳しい医師と相談しながら症状をしっかりコントロールすることを目指してほしいと思います。


また、ここでも散々お話ししている通り、吸入薬は使い方がめちゃくちゃ重要なのですが、うまく使えるかどうかも年齢によって異なります。

パウダーの吸入薬は吸いこむ力が大事だし、一方スプレーの吸入薬は、押したと同時に吸いこむというタイミングがちゃんと取れるかが大事です。

年齢などに応じた子供の能力に合わせて、子供が使える吸入薬(パウダーなのかスプレーなのか、はたまたネブライザーなのかなど)を選んだり、うまく吸入薬を使うようにできる為の補助具(スペーサーやマスク、スプレー缶を簡単に押せるようにする噴霧補助具など)を、適切に選んで使用し、その使い方を親が理解しておくことも大事です。

 

最後に、周囲の大人の病気への理解の大切さです。


子供の場合は、大人に比べて体育や部活、外遊びなどで運動する機会も多いからか、運動で症状が悪くなるというお悩みで相談される方が多いです。

ですので、大人に比べて特に運動の時の対策を取るという視点が重要になるケースが多くなります。

ですので体育の授業などで症状が出て満足に運動できなくなることが予め予想できる場合、「発作止め」と言われる即効性気管支拡張吸入薬(メプチンとかサルタノールとか)を、症状が出てすぐや、運動前に使っていただくことで劇的な生活の質改善を得られることが多いです(詳しくはこちらも!)。

このことを親だけでなく、学校の先生など、周りの大人も理解してあげることがとても重要です。

子供はなかなか自分の困っていることを正確に表現することができない場合もあるので、喘息という病気やその薬の使い方について、周りの大人がしっかりと理解し、面倒を見てあげる必要があることも、大人とは異なる小児喘息の大事な特徴の一つです。

 


お子様の喘息の悩まれる方は非常に多いのですが、小児喘息はうまく治療をすれば、ほとんど症状をなくすことができる可能性があります。
十分な治療をされずに慢性的に症状が続いていたのであれば、ちょっとした治療のひと工夫で、今までと全く違った生活を得られる可能性のある病気です。

やはりそのひと工夫は、(小児科にせよアレルギー科にせよ)喘息治療にこだわる医師に相談していただくことで得られるものです。

 

症状に悩まれているお子様皆さんが是非そのような先生に巡り会え、快適な呼吸を取り戻して元気に生活ができるようになることを切に願っております!

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.01.02更新

新年早々、北陸地方で非常に大きな地震が発生してしまいました。
現在も救助を待っている人がおられると聞きます。
まずは皆様がご無事であることと切に祈っております。

そして、現在家が被災し、避難所におられる方も多いかと思われます。
その中には、喘息などの呼吸器疾患を抱えておられる方もいらっしゃるかと思います。

特に喘息は、環境の変化や温度の変化、ストレスなどで悪化しやすい病気です。
また、避難所の中で発作などになると、自らも苦しい上に周りからの目も気になるため、非常にお辛いかと思います。

喘息をお持ちの方は、災害時に、どのような事に気を付けておけばいいのか?

今非常時に、喘息をお抱えの方が少しでも無事にお過ごしいただけるように、遠い茅ヶ崎からではありますが、少しでも情報提供ができればと思います。


まず、喘息の治療は、症状が落ち着いているときも継続して続けていくべきものです。

ただ喘息の方の中には、症状が悪化したときのみ治療を行っている方も少なくないのが実情です。

喘息をお持ちで「現在お薬を使っていない方」は、症状がなくても、今日から薬を始めてください。
もちろん「今まで治療を継続していた方」も、そのまま治療をお続けください。

さて、その喘息の治療ですが、治療薬の中では吸入薬が一番大事になります。

吸入薬の一覧を載せておきます。
吸入薬一覧

毎日続けるべき吸入薬は(わかりやすく五十音順にしてあります)

1日1回で使用する薬剤
・アニュイティ
・アノーロ
・ウルティブロ
・エナジア
・エンクラッセ
オルベスコ(1日2回の使用法のこともあり)
・オンブレス
・シーブリ
・スピオルト
・スピリーバ
・テリルジー
・レルベア

1日2回で使用する薬剤
・アズマネックス
・アドエア
・エクリラ
・オーキシス
・キュバール
・シムビコート
(その後発品であるブデホル
・セレベント
・パルミコート
・ビべスピ
・ビレーズトリ
・フルタイド

・フルティフォーム

になります。

青地のものは1回の吸入回数が2吸入赤字のものは1回の吸入回数が症状の強さに変わるものとなっています。
医師から定められた使用方法を知っていたら、その指示通りやりましょう。
ネブライザーで使用されている方も、何とか電源を確保して行うようにして下さい。

一方、症状が悪化した時に使用する「発作止め」の吸入薬は、メプチン、サルタノールなどです。
これらは症状が悪化した時に1回2吸入(小児は1吸入)使用することとなっています。

また、シムビコート(と、その後発品であるブデホル)は、基本的には毎日使いながら、いざというときには発作止めとしても使用できます。
発作時の使用の仕方は、メプチンサルタノールと同様です。



この「発作止めの吸入薬」の使用のポイントは、「できるだけ苦しくなるに使用すること」です。

これらの吸入薬を「症状が我慢できなくなってから使う」と理解されている方が少なくないのですが、そこまで我慢するとすでに効かない状態になっていることが少なくありません。

「呼吸の調子がおかしいな」と、違和感を感じたら、早めに使用してください。



また症状が悪化し、「発作止めの吸入薬」が効かなかった場合は、添付文書上は3時間以上間隔を空けることになっていますが、近くに医療チームがいなく、症状も我慢できない場合は20~30分間隔で使用することもやむを得ないと思います(もちろん医療チームがいたらそちらに頼ってください)
もともと心臓機能が弱っている方や極端な高血圧のある方などは、繰り返しの使用で、心臓の負担や更なる血圧上昇のリスクが出ることがありますが、そうではない場合はそこまで大きな問題にはならないことが多いです(ドキドキや震えは出ることがありますが、1時間程度待てば治まります

吸入の方法が正しくないと、効果が十分に上がらず悪化の原因となります。

環境再生保全機構という団体が、各吸入薬の使用方法のポイントをまとめていますので、ご参考になさってください。

また当ブログでも吸入方法のポイントを過去に掲載しています。
リンクを貼りましたので、よろしかったらこちらもご覧ください。

吸入薬の落とし穴 <エリプタ編>

吸入薬の落とし穴 <タービュヘイラー編>

吸入薬の落とし穴 <ブリーズヘラー編>

吸入薬の落とし穴 <エアゾール編>

また、喘息は冷たい空気、乾燥した空気を吸うことで、気管支が刺激を受けて悪化するケースが少なくないです。

避難所にいたり、家にいても停電などで寒い状態の場合は、気道を守るためにマスクの着用をしてください(これは、粉じんなどの、やはり喘息を悪化させる空気の汚れから気道を守ることにもつながります)。

また避難所などで使用する布団、毛布などはホコリやダニがある可能性もあるので、これらを取り扱う際は、なるべくホコリが立たないように、優しく静かに扱うようにして下さい。
そして空気の悪いところ(がれきの粉じん、焚火の煙、たばこなど)にもなるべく近づかないようにして下さい。

喘息発作の症状が強くなると、命にかかわる可能性も出てきます。

先ほどもお話ししたように、気道は乾燥すると悪化しやすくなります。

普段からよく水分を取るようにしていただき、悪化した時も水分を取って楽な姿勢を取るよう(布団などを重ねて寄りかかれるようにできるといいです)して下さい。
悪化の際には周りの方々に躊躇なく協力を仰げるように(なるべく早く医療チームの診察を受けられるように)、コミュニケーションをとって下さい。

ひとまず情報をいち早くお届けしたいので、書けることを書きました。
殴り書きですので、あとで見直してまた更新します。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.12.28更新

先日、当院に取材がいらっしゃいました。
いらっしゃったのは「Weveryチャンネル」という、YouTubeで医療経営系の情報発信をされているチャンネル。

場末の当院に何を求めたかというと、「事務長がいるのに外部から事務長を導入した奇特なクリニック」というテーマ。

当院はもともとジムチョーがおりますが、私が継承した後に、このクリニックを少しでも患者さんに快適に受診して頂けるように変えていくことを目指し、IQVIA社さんから外部事務長を招聘しました。
現在は当院のジムチョーと外部事務長が、協同でいろいろな仕事を進めてもらっています。

当院は毎月のように新たなシステムを導入していますが、その実現にはこの体制が大きく寄与しています。

おかげさまで当院におかかり頂く患者様がどんどん増え、特に11月からはそれが顕著となる状況で、まだまだ追い付かなくなってしまった部分が多々出てきており皆様には大変ご不便をおかけしてしまっているのですが、今ここにいるスタッフみんなで、さらに知恵を出して少しでも解決していきたいと思っています。
(当院の現況、現時点での対策についてはこちらよりご説明致しております)

医療情報というよりは経営視点の内容にはなりますが、もし興味のある方がいらっしゃいましたら以下から是非!

weveryチャンネル

 

というわけで、今回は一般の皆様には大変申し訳ありませんが、たまには内輪の話を。

とはいえ、まずは一般の皆様にも知っていただきたい内科医のキャリアをご説明します。

医学生は6年間(以上?)かけて医学部を卒業し、初期研修内科外科小児科などさまざまな科数カ月単位で2年間ローテートしたのち、3年目からそれぞれの科で後期研修医としての研修を開始します。
内科を選択した場合、その研修の後に、「内科専門医」という専門医資格を取得することを目指します。
その「内科専門医」を取得する中で、一番のハードルとなるのが、「病歴要約」です。
これは決められた領域(呼吸器、消化器、循環器、内分泌、代謝、腎臓、血液、神経、アレルギー、膠原病、感染症、救急、外科紹介、剖検)のそれぞれで自らが経験した症例を、決められた書式でまとめる課題です。
提出症例は29症例。年単位で決められた範囲の病気を自ら治療し、経験を集めることが求められます。


さて、ここからが業界トークです(興味のない方はこのブログの最後へどうぞ!)。

この病歴要約、J-OSLERになってからさらに厄介になりました。

私の後輩たちも、J-OSLERでの病歴要約作成に苦しむ人が続出しています・・・
症例集めも大変なのですが、その記載をどのようにしたらいいのか、ここでつまずいてしまう人も多いようなのです。

またついてくれる「指導医」の質も、実はいろいろです。
ぶっちゃけ、指導医がイケてないと、この病歴要約を通過することがさらに難しくなってしまいます・・・

私は新内科専門医制度が開始する前の内科認定医、総合内科専門医をそれぞれ病歴要約を書いて通りました(なるべく最短で総合内科専門医を取って、やりたいことをいち早くやりたかったので、病歴要約の免除は待たずに専門医取得の際も22症例書きました。大変すぎて、途中その選択を後悔した時もありましたが・・・)
私の場合は指導医に恵まれたこともあり、両方ともA評価で合格したため、翌年から病歴要約査読委員に任命され、今年で8年目になります。

旧制度(内科認定医&総合内科専門医)の時代はA3の紙で提出する様式でしたので、認定医受験者7~8人分、専門医受験者1~2名分のサマリーが次々と病院に送られ、業務終了後夜遅くまでひたすらペンを入れて評価をしていました(今でいう「自己研鑽www」の時間です)。
サマリー

在りし日の私の医局の机です。
この中に病歴要約が18×7=126枚詰まっています・・・

2018年度から「新内科専門医」制度が開始され、その年から研修を開始した先生方によるJ-OSLERによる病歴要約査読が2020年から開始となり、評価もA,B,C,Fの評価(つまり病歴要約に点数をつける評価)から、accept,revision,reject(つまり病歴要約が合格か不合格かを判定する評価)に代わり、その戦略も少し変わってきています。
以前はより完成度の高い病歴要約の作成を目標とすべきでしたが、現在の制度では、とにかく凡ミスをしない、差し障りのない、無難な病歴要約を作成することが求められます。

しかし、長年(というほどでもないですが)査読に関わる中で、残念ながらこの中で、そのような「無難な病歴要約」という目的にも達しない、基本の形を満たしていない病歴要約、我々査読委員の印象が悪くなるような病歴要約を少なからず目にしました。

医学部受験、そして卒試、国試を突破した皆さんであり、3年も医学部に入るのに時間を要した私と比べてもはるかに優秀であろう皆さんが、病歴要約につまづき試験に通らないことで、キャリアの遠回りを招いてしまうのはとてももったいない・・・

ポイントさえしっかり理解、実践できれば、「無難な病歴要約」は作成できるものなのです!

病歴要約でひっかかり試験を受けられない、そんな悲しいことになってほしくない。
一人でも多くの若き内科医が、病歴要約をつつがなく突破して、羽ばたいてほしい。

そのような願いをこめて、若き先生方の多少の助けになれればと。

そこで今回は「病歴要約査読委員がいい印象をもって、スムーズにacceptをもらえる病歴要約」をどのように作ったらいいのか、査読委員の立場からの視点で、特に皆様に心がけて頂きたいポイント、要点を書いてみようと思います。(私が呼吸器内科ですので、内容がやや呼吸器内科医よりの視点になってしまっている点はご容赦ください・・・)


1.まずはファーストインプレッション!

現在のJ-OSLERでは、先ほどもお話ししたように病歴要約が紙では出なくなったので、評価は全てオンラインで行います。
現在は査読委員は、1年に2名ほどの受験者の評価を行います。
そして1名の受験者につき、29症例もの病歴要約を全て目を通して、評価をしなければならないのです。

そのような状況で、評価する側としては、しっかり書けてそうな人が当たるととてもうれしいのです。
なぜならば、そのような方であれば、おそらく指摘することも少ないだろうから、「それほど気張らずに読んでもいいな」と安心できるからなのです。

一方、しっかり書けてなさそうなら、「いろいろ指摘点が出てきそうでめんどくさ・・・」という心理を持ってしまいます。
すると、読む方も人間ですから、読み方が「アラ探し」の読みになってしまうのです。
こうなると内容にアラが見つかったときに「やっぱり・・・」という気持ちになってしまい、ますますネガティブな感情を持ってしまうのです。
こうなるとなかなか良い評価にはつながりません。

ですので、とにかく大事なこととして、まずはファーストインプレッションで「この人はしっかり書けてそうだな」と思わせることが何よりも大事になるのです。

では、何に気を付けたらいいのでしょうか。

 

2.誤字、脱字、プライバシー配慮には気を付けよう

まずは当たり前ですが、誤字、脱字がないようにすることは基本中の基本です。

読んでいる方の心情を考えると、誤字、脱字があった時点で「そもそもコイツしっかり推敲してねーな」という印象を持ってしまいます。
評価者も人間なので、完成度が低い病歴要約だと思ってしまうと、いろんなアラが見えてしまいます。

逆にしっかり体裁が整っていると、気持ちよく読み進められるので、それだけでもいい印象が残りやすいのは事実です。
カタチを大事にする病歴要約ですので、体裁を整えるという意味では、句読点の形の統一(「、」や「。」なのか、「,」や「.」なのか)を統一することも地味に大事なことです。

次に、これも手引きに目立たせて書かれていますが、患者氏名を消すのは非常に大事です。
これが1か所でも忘れて残ってしまうだけで、rejectにしたくなるのくらいパワーがあります。
また忘れやすいのが紹介元、紹介先の施設名です。流れで見逃してしまうことがありますので、これもしっかり匿名化することが大事です。

 

3.医療用語の使い方に注意!

次に医療用語を正しく使えているかが大事です。

例えば「抗生剤」という用語は(話し言葉なら大した問題ではないのですが、やはり病歴要約としては)医学用語としてあまり適切ではないようです(あえて言うなら「抗生物質」ですが、「抗生物質」という用語も、本来は細菌から産生する物質のことをいうので、レボフロキサシンやST合剤のような合成抗菌薬は本来「抗生物質」ではないはずなのです)。

「抗菌薬」という用語がベストでしょう。

 

また「呼吸苦」「呼吸困難感」という用語も引っかかってしまう査読者は多いです(どちらも呼吸がしにくいという感覚を表す言葉(≠呼吸不全)であり、「呼吸困難」が確実です)。
「熱発」、「グル音」、「リバース」などの俗語、ASTやALTなどの数値上昇だけで「肝機能低下」という用語をつかうこともダメです(「肝酵素値上昇」≠「肝機能低下」です)。
JCSの記載も正しくされていない例が少なくありません(JCSⅢ-100ではなくJCS100です)。

 

4.数字まわりの記載にも気を配ろう!

検査値も、単位間違いや単位が抜けてしまうことは避けましょう(結構見かけます)。
また診断の根拠になる数字の記載がないと、「この先生、しっかり症例を見てねーんだな」と思われ評価が下がってしまいます(例えば呼吸不全症例なのに動脈血液ガスの数値記載がなかったり、好酸球性疾患なのに白血球分画が記載されていなかったりなど)。

 

5.略語にも気を付けるべし!

また略語の使用時は、慎重に取り扱いましょう。

本来は正式名称の記載の後に略称を使用します(「Computed Tomography;以下CTと略す」など)。
今はそこまで厳格ではないかもしれせんが、BT、BP、HRなどの表記や、経過にCKDやHOT、GF、CFなどという用語をいきなり記載すると、突っ込まれる可能性は高いです。

記載に関しては、これを守っているだけで「あっ、この先生はしっかり病歴要約に取り組んでいるな」と思われるので、かなりacceptされる率は高くなると思います(それさえ出来ていない病歴要約が実に多いのです・・・)

さて、その「基本」ができたところで、次は記載の注意点についてです。


6.【病歴】はいつからいつまで?

まずは【病歴】を記載しますが、【病歴】は、原則的には「エピソードの開始から入院決定時まで」です。
時々【病歴】を「来院前までの状態」まで書いて、来院時所見(つまり診察室や救急室での状態)を【入院後経過】に書いてしまっていたりする例があるのですが、これは間違いとなります。

 

7.血液検査所見はしっかりと書式を守る

血液検査結果の記載で、【血液所見】、【血液生化学所見】、【免疫学的所見】はしっかり分けて書きましょう(すべての結果を【血液所見】として記載してしまう間違いを時々見かけます)。
SpO2や血液ガス所見を記載する場合は、必ずその時の条件を入れましょう(酸素投与量だけではないです。投与するためのデバイス、例えばカヌラかマスクか、はたまたNPPV,IPPV,ネーザルハイフローなのか)。


ここで気を付けるべきは、鼻カヌラ、マスクは低流量システムであり(例えリザーバーマスク15L/minでも低流量システムです)、FiO2の算出は不可能なのです。
時々O2 1L/minをFiO2 0.25などと(O2が1L/min増えるごとにFiO2が約0.04ずつ増える傾向にあるという知識から)勝手に決めて書いてしまう例があります。

低流量システムは患者側の換気量によってもFiO2は変わります。
したがって低流量システムの場合はAaDO2の算出も当然できないので、イキって記載しないようにご注意を。

 

8.副病名で登録しないこと

指定された疾患群で、事実上の副病名となる疾患を無理やり当て込むのはおススメしません。
特にJ-OSLERになってからはより厳しくなっている印象があります。

指定された疾患群の【考察】が、その疾患群の内容にあっていないと(例えば症例は血液で、主病名を貧血にしているものの、考察内容が貧血を引き起こした消化管出血に焦点を当ててしまっているなど)「規定を満たしていない」とされ、rejectになる可能性が高くなります(これやられると、評価側としては「偏った研修しかしてねーんだな」と思って、めっちゃくちゃ印象が悪くなります・・・)
書いたら必ずしっかり読み返してみて、その疾患群としての考察が適切になされているか、確認してみてください。

 

9.診断には根拠を

また、すべての記載に整合性があることはかならず確認しましょう。
特に【主病名】での診断、治療は、その診断根拠がしっかりと示されていることが大事です(治療医は【主病名】の診断、治療の根拠が例え仮説であっても考えられていなければ、治療には臨めないはずです)。
例えその病名が他科や他院で診断されたものであったとしても、その後自分が担当医として治療したのであれば、その診断根拠は過不足なく記載する必要があります(これがしっかり記載されていないと、「上級医の治療をただ何となくぼーっと見てただけなんだな」と思われ、これも印象めっちゃ悪いです)。

 

10.治療経過でのパラメータの扱いを誤らないこと

また【治療経過】で病勢評価に使用すべきパラメータはしっかりと記載し、その解釈もしっかり病歴要約内で行わないといけません。

例えば、感染症の経過の記載で時にみかけるのですが、「解熱した」、「CRPが下がった」だけを病状改善の根拠にするような記載は、内科医としては当然ダメです。
感染症では何をパラメータにすべきか、内科研修をされていたなら知っていますよね?
また、起炎菌を検索する姿勢を見せているか、その結果により治療方針を都度再検討しているか、というのも重要です(ここも内科医としての姿勢が見られています。評価者の印象が大きく影響される部分です)。

 

11.薬剤の商品名に注意!

薬剤は一般名が原則ですが、ついつい商品名で書いてしまうミスが結構多いです。
多い例としてはプレドニンワーファリンカロナールロキソニンなどです。
あまりにも商品名が定着しているのでついつい使いたくなる気持ちはわかるのですが、特にそのような薬剤ほど修正漏れには気を付けましょう(一般名、わかりますよね?)。

 

12.剖検例は、症例から学ばせていただく

剖検症例では「剖検からわかること」について考察しましょう。
時々考察で、剖検結果にはさほど触れず、疾患の定義などを羅列するような残念な病歴要約に出会うことがあります。
主治医、担当医として、治療の最後に剖検の機会を下さった患者さん、そのご家族への敬意を持っていれば、真摯に剖検に臨み、そこから何か知見を得られるはずです。

 

13.総合考察は、その症例から受け取れるonly oneを

【総合考察】では、疾患についての知見を並べただけ(つまり教科書から知見を引っ張ってきただけ)の考察は評価が非常に低くなります。

我々査読者は、「受験者はこの症例から何を学び取ろうとしたか」というところを重点的に見ます。
疾患の定義、知見の記載は、あくまで受験者が経験した、その症例を論じるための前提にしか過ぎません。

自らが経験したその症例が、その疾患の一般的な知見と合致するのか、もしくは例外的なのか、そしてそれは何故なのか。
またその自験例だからこそわかったことは何なのか、ということを中心に記載したいところです。

 

14.全人的考察とは?

【総合考察】では「全人的考察」というのが非常に重視されますが、実はここに「全人的考察」を織り込むと、総合考察の質が一気に上がり、13で述べたことは解決してしまいます。
「全人的考察」は「その患者さんや周りの人の考え方、背景などを織り込む作業」であるため、それを考えるだけで、その自験例がonly oneとなるのです。

「全人的考察」と聞くと難しい印象を持つ方も多いのですが、実は通常医師として診療中は必ず考えていることです。

例えば悪性腫瘍の化学療法の適応があり、家族は前向きだが本人は前向きではないな場合。
主治医としては治療適応を考える際に、標準治療のことだけでなく、そもそもその方にどう説明しようか、治療拒否されたらどうしようか、そんな時は家族とどう折り合いをつけていこうか、もし実施したのちに強めの副作用が出たときに、その後治療継続はどうしようかなど、内科医としては当たり前のように「その患者さん、周りの方の考え方や背景」を否応なく考えていますよね。

つまりそれが「全人的考察」です。

難しいことではありません。
むしろ武器として使っていければいいかと思います(とってつけたような「患者さんの気持ちを理解しながら治療した」程度の言葉を付け加えるだけは、「全人的考察」にはなりません)。

ここまで気を付けて頂ければ、今の制度なら病歴要約はほぼ間違いなくacceptされるはずです。
とにかく査読委員にいい印象を持ってもらうことを意識して皆さん取り組んでください!





一般の皆様、ただいま!!

最後は一般の皆様へのご連絡です。

12月27日をもって本年の診療が終了いたしました。
本年も皆様、当院をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。

先ほどもお話しさせていただいたように、当院に受診される方の急増でご予約が非常に取りにくくなっております。
現在当院で診察していただける医師を探しておりますが、それまでの間は、かかりつけの患者様、転院希望の患者様の対応を優先せざるを得ない状況です。
状態が落ち着いている方は加藤医師、平田医師、飯沼医師の枠も是非ご利用ください(いずれの診療枠もすべての方がご利用可能です)!

年明けもしばらくの間、発熱・感染症外来はやや縮小せざるを得ない状態となります。
かかりつけでお調子を崩された方に関しましては、こちらの条件に当てはまる場合は、通常枠がなくてもクローズの臨時枠にてお受け致しておりますので、お電話でご相談ください!

それでは皆様良いお年を!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.12.03更新

この前新年を迎えたと思ったら、あっという間に師走です・・・

年末年始に加え、当院への転院希望の方の急激な増加で、びっくりするくらい年末まで予約が埋まってしまっています・・・
ご予約をお取り頂くのが、今までになく難しくなってしまい大変申し訳ないのですが、おかかりつけの方の急な体調悪化は、当院の規定に従い、必ず受診できるようにご案内をしておりますのでご安心頂けたら幸いです。

さて前回までで、5種類あるうちの喘息の生物学的製剤の3種類をお話ししました。
今回は、残りの2種類についてお話をしてみようと思います。

まずは、もう一度「喘息の炎症の起こり方」の図を載せてみます(この図は1日かけて結構頑張って作ったので、どうせならいっぱい使ってみたいのです(笑))
喘息炎症カスケード

 

そして、5種類の生物学的製剤の一覧ももう一度載せてみましょう。

喘息生物学的製剤一覧

前回は「ゾレア」「ヌーカラ」「ファセンラ」まで説明しました。
今回はその隣、「デュピクセント」から説明をしてみましょう。

デュピクセント

この薬は当院でも比較的良く出している薬です。
「デュピクセント」は、この図の中で、今までよりもやや上流側に位置する「IL-4」「IL-13」を妨害するお薬です。

アレルゲンが体の中に入ってくると、そのアレルゲンの敵情報を樹状細胞が拾って、ヘルパーT細胞に情報提供されます。
このヘルパーT細胞B細胞に抗体を作らせるのですが、その際にヘルパーT細胞が「IL-4」「IL-13」「指示伝達物質」として使って、B細胞により多くのIgEおバカ抗体、でしたね)を作らせます。
デュピクセントはこの指示伝達物質を妨害することで、IgEがつくられないようにしてくれます。

また、ヘルパーT細胞自然リンパ球からも「IL-13」が出され、それが直接、気管支上皮の細胞や、その周りを取り囲む「平滑筋」を収縮させて気道を狭くしてしまいます。
すると気管支が狭くなり空気が通りにくくなることで苦しくなるのですが、デュピクセントはこれを抑えることができます。

喘息に関しては12歳以上の方に対して使用可能で、このデータでないと使えないというのはないのですが、そのメカニズムから、呼気一酸化窒素濃度(当院では「気管支のアレルギー反応の程度を見る検査」というように説明しています)の数値が高い方が比較的効きやすいと考えられています。

またこの薬剤は、「好酸球性副鼻腔炎」「アトピー性皮膚炎」にも使用できます。

特に「好酸球性副鼻腔炎」「喘息」非常に合併する頻度が高いと言われています。
好酸球については前回のブログでもご説明しましたが、好酸球は炎症を引き起こす細胞で、これが鼻に集まると、副鼻腔炎が慢性的におこり、その結果鼻にポリープが出来て、鼻詰まりがひどくなり、より一層副鼻腔炎が悪化します。

鼻と気管支は「1本の管」でつながっている
わけですので、鼻より下流にある気管支でも同じように好酸球が悪さをすることが良く起こり得るわけです。
このような方に「デュピクセント」を使うと、鼻と気管支がいっぺんに良くなるため、ハマる方はめちゃめちゃいい薬です。
同じことは「アトピー性皮膚炎」でも言えます。
アトピーと喘息が合併する方も少なからずいらっしゃるので、両方にお悩みの方に関してはこの薬はハマりやすいですね。

「デュピクセント」2週間おきに注射する薬剤で、「ヌーカラ」と同様、ご自宅で自分でできるペンタイプの注射キットがありますので、頻繁に注射を打ってもらうためにクリニックに通院する必要がないというメリットがあります。
あと「ゾレア」を除けば、他の生物学的製剤よりは多少お安めなのもポイントになるかもしれません。


最後に「テゼスパイア」です。
この薬剤は2022年度に新発売された、まだこの世にでてきて間もない薬剤です。
この薬剤は、喘息の反応でいえば一番上流部分を抑える薬剤になります。
テゼスパイア

 

気管支が、アレルゲン感染症、その他の様々な刺激に暴露された時、気管支の細胞は、その刺激の元となった敵を排除するために、周りに「TSLP」というサイトカイン(お知らせ物質)が放出されます。
その「TSLP」が放出されると、自然リンパ球が目覚め、様々な炎症反応の起点になってしまいますが、「テゼスパイア」「TSLP」を抑えることで、この反応を防ぐことができます。
一方「TSLP」「樹状細胞」に仕事をさせるようにも促しますが、「テゼスパイア」はこれも抑えることで、その後の「ヘルパーT細胞」「B細胞」「好酸球」などが働こうとする力を抑えます。

 

上流で抑える薬のメリットとしては、その下流にある多くの経路をまとめて抑えることができるので、複合的な反応が起きている場合には、複数のポイントを同時に抑えることができるです(一方、症状をもたらす反応がピンポイントで起こっている場合は、そこを局所的に抑える薬がぴったり合えば症状を抑える力は強くなる傾向にあると言われています。「ゾレア」「ヌーカラ」「ファセンラ」は比較的ピンポイントで抑えると言える薬剤です)。

ですので、この「テゼスパイア」という薬の大きなポイントは、「典型的な反応IgEとか、好酸球とか)によらない喘息」に、効果が期待できる面があるというところです(もちろんメカニズムからは喘息に典型的な反応が起こっているようなパターンでも効果は期待できます)。
このようなタイプの喘息は、通常使われる吸入ステロイドや抗アレルギー薬などが効きにくいパターンがあり、今まではなかなか治療のしようがなかったケースも多かったのですが、このタイプの喘息の方に期待できる、稀有な薬剤ともいえるかもしれません。

現時点(2023年12月時点)ではまだ自己注射ができませんが、今後自己注射ができるようになることが予定されています。

というわけで5種類の薬剤について説明をしてみました。
この薬剤、ここまでお話をすると本当に画期的な薬です。

でも皆さんの周りで使っていらっしゃる患者さん、そこまでいらっしゃいませんよね・・・

やはり、この薬剤の一番のネックは「値段」です。

上に挙げたとおり、どうしても1本あたりの値段がとても高い薬剤であり、3割負担でも結構な額になってしまいます。
また1回で終わり、とか、良くなったら終わり、とかという薬剤ではないので、どうしても毎月の支払いが難しいとお考えになる方は少なくありません。

このような状況に、助けになるかもしれない制度がいくつかあります。
皆さんが対象になりえるのが「高額療養費制度」です。

「高額療養費制度」とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月(他の外来医療機関の支払いもまとめて計算することができます)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を国が補助してくれる制度です。
その上限額は、年齢やその方の収入によって変わり(収入が多いほど上限額は上がります)、支払額は世帯でまとめることができます。
またこれらの薬剤は2~8週で定期的に使用する薬ですが、この制度は1年に3回以上この上限を超えた場合に、4回目からはその上限額がさらに下がる(多数回該当といいます)という制度もあり、定期的にこの薬を使用する方は該当できるケースがあります。

他にも、ご加入されている保険組合によっては独自の給付を行っているケースもあります。

また「デュピクセント」を利用できる好酸球性副鼻腔炎や、「ヌーカラ」を使用できる好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は、確定診断できれば難病指定ができるケースがあり、これが通った場合はさらに医療費助成を受けられるケースもあります。
あと、病状が極めて重症で、呼吸不全(在宅酸素を用いるなど)をきたしてしまっているケースでは身体障害者手帳の申請を行えるケースがあり、これもその障害の程度によって医療費助成を受けることができます。

確かにこれらの制度を使用しても高額にはなることが多いのですが、この薬剤を使って生活が劇的に楽になるのであれば、その価値もあるのかもしれません。
ただ何度もお話ししますが、これらの薬剤を使用する前提として、まずは適切な喘息の治療が行えていることが絶対です(ここがおろそかなのにこんなに高い薬を続けなければならなくなるのは本末転倒ですよね・・・)。


しっかりと適切な吸入薬が選択されている、その吸入薬が正しく使われている、その他の薬剤も適切に入っている・・・

ここまではマストで、話はそれからなのです。

ですので、喘息で日常生活を送るのに困ってしまっている方、まずは今の治療が適切かどうか、しっかりと主治医の先生と確認したうえで、それが大丈夫だったら是非一度主治医の先生と生物学的製剤について考えて頂き、導入できる医療機関でのご相談を検討してみてください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.11.16更新

前回のブログで、喘息の「生物学的製剤」の治療を理解するうえで、どうしても必要となる「体の中で起こっている喘息の反応」を説明してみました。

喘息カスケード

前回ブログより再掲


極力理解しやすいように工夫したつもりでしたが、案の定内容が難しいとのご指摘も頂きました。

図をもう少し盛り込んで、もう少しわかりやすいように内容を改良してみましたので、一度お読み頂き、ゲンナリされた方ももう一度トライいただければ幸いです・・・

前回ブログはこちらから!

という訳で今回はその続編、いよいよ各薬剤についての説明に入ろうかと思います。

まず、基本として、これらの薬剤は、「喘息を完治させるもの」ではございません。
また「吸入薬の代わりとなるもの」、でもございません。

生物学的製剤は、あくまで、喘息治療の基本となる、吸入薬と、それに付随する様々な内服などの治療、それに喘息に合併する喘息以外の治療を適切に行ったうえで、それでも症状がコントロールできない場合に追加で使用する薬剤となります。
そのため、基本的には定期的に続けていくことを前提に使っていく薬となるので、まずはこの点をご理解ください。

さて、前回もお話しした通り、喘息の生物学的製剤は現在、5種類が使用できることになっています。

その5種類は、それぞれ前回お示しした体の中で起こる喘息の反応の一部を止める薬となっています。

その5種類は、発売された順に、以下の通りとなっています
(カッコ内は “ 一般名:喘息への使用が認められた年 ” です)。

ゾレア(オマリツマブ:2009年)
ヌーカラ(メポリツマブ:2016年)
ファセンラ(ベンラリツマブ:2018年)
デュピクセント(デュピルマブ:2019年)
テゼスパイア(テゼペルマブ:2022年)

その特徴を一覧にまとめてみました。

生物学的製剤一覧

まず最初に使用されるようになったのが「ゾレア」です。

この薬剤に関しては、一度、9月のこちらの記事「テレビで出ていた「ゾレア(オマリズマブ)」って、いったいどんな薬?」で触れておりますので、今回は簡単に。

ゾレア」は、おバカ抗体である「IgE」を邪魔する薬です。

ゾレア機序
「IgE」マスト細胞にくっつき、その後アレルゲンと結合することでマスト細胞から強いアレルギー症状を起こす「ヒスタミン」「ロイコトリエン」を放出させてしまう抗体でした。
この働きを抑えることで、「ヒスタミン」「ロイコトリエン」の放出が抑えられ、気管支の炎症や収縮を抑えることができるという訳です。

この薬剤の特徴は、その「IgE」の値と体の大きさ(体重)によって、量が細かく決められているということです。
ゾレア価格
量は上の図の通りとなります。
1か月おきに1本から2週間おきに4本までとかなり幅があります。

これはメリットにもデメリットにもなります。

もし本数が少なく済む場合は、他の生物学的製剤に比べ、かなり安く使うことができます。
一方本数が多くなってしまう場合は、他の生物学的製剤と比べてそれほど安くはならない上に、打たなければならない注射の本数がかなり多くなり、肉体的にも精神的にも負担になってしまう可能性があります。
自己注射も一応できるのですが、薬剤に粘り気があり、入れるのにかなり力が必要なため、実際はほとんどのケースが医療機関で医師や看護師により注射されています。

 

次は「ヌーカラ」「ファセンラ」です。
ここは、比較的近いところに作用する薬なので、まずはまとめて説明します。
ヌーカラ機序

ファセンラ機序

前の図で見てみたように、刺激を受けたヘルパーT細胞自然リンパ球は、それぞれ「IL-5」という「お知らせ物質」(=サイトカイン)を出して、それを「好酸球」は、表面にある「IL-5受容体」という受け皿で受け取ります。
すると「好酸球」が刺激されて、活性化してしまいます。
「好酸球」は刺激されると炎症を引き起こしてしまいます。
炎症は気管支にもおよび、気管支の壁がむくんで気管支が狭くなったり、敏感になったり、痰が増えたりして、いわゆる喘息の症状を引き起こします。

「ヌーカラ」は、IL-5を直接妨害する薬剤、「ファセンラ」はIL-5の受け皿である「IL-5受容体」を妨害する薬剤です。

いずれも好酸球」の働きを抑える力を発揮して、好酸球による炎症を食い止めることができます。

また、「受け皿」にくっついてIL-5がくっつかないようにする「ファセンラ」は、逆に好酸球にファセンラがくっついていることで、好酸球が免疫細胞(ナチュラルキラー細胞といいます)から逆に攻撃されてしまい、好酸球をほとんどなくしてしまうという作用もあります(でもこの、本来は体に通常備わっている好酸球を完全になくしてしまうことが、体にとって本当にいいことなのかどうかというのは、まだ議論があるところです。)

「ヌーカラ」は4週間おき、「ファセンラ」は最初の3回は4週間おき、その後は8週間おきの注射となり、「ヌーカラ」は、ご自宅で自分でできるペンタイプの注射キットがあります。
いずれも「好酸球」の働きを抑えるための薬ですので、好酸球」の数がもともと少ない方は効果を期待しにくくなります。

そのため採血検査であらかじめ好酸球の数を調べて、この薬が向いているかどうかを見ておくことが大事になります。


それではあと2つ、「デュピクセント」「テゼスパイア」ですが、話が難しい上に、いっぺんにまとめて長くなりすぎると、皆さんが読むのも、私が書くのも、多分挫折すると思いますので、また次回にしておきましょう。

 

 

さて、お知らせです。

コロナワクチンの接種受付期間を延長、拡大致しました。
12月4日~22日の分を、茅ヶ崎市ワクチン予約システム当院予約システムより新たにご用意しています(茅ヶ崎市外の方は当院予約システムよりご予約下さい)。

主にファイザーのご用意ですが、当院予約システムに若干量のモデルナ枠をご用意しています。
また当院接種の際は、インフルエンザワクチンの同時接種が事前のご予約なく可能です。

インフルエンザが猛威を振るっており、現在コロナは比較的落ちついています。
ただ今までの傾向から、年明けからはおそらくまた広まり始めるでしょう。

当院ではおそらく多くの枠をご用意して行う追加接種は、今回で最後となる見込みです。
ご希望の方はお早めにどうぞ!

 

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.10.29更新

9月まではあんなに暑かったのに、急に季節が進んだような感じです。
半袖シャツ1枚でアチーアチー言っていたのに、たった2週間くらいでブルっと来る日も増えました。

そんな中、私はというと、昔から温度変化には強いのですが、衣替えがとにかく苦手で・・・(雪の日も短パンで過ごしていた小学生でした)

毎年、ギリギリまで冬物は出しません、出せません。
ということで未だにTシャツ1枚で過ごしております(笑)

という訳で、「おまいうw」ではあるのですが、皆さん体調を崩さないように、しっかりと温度変化に応じてしっかりと服装調節をして、体調管理にお気を付けください。

 


さて、やはりこの温度変化で、体調を崩される人も増えています。
特に10月に入ってからは、この急激な温度変化でやられて、ずっと落ち着いていたのに崩れてしまう喘息の方が非常に多いです。
また、秋のアレルギー症状の悪化も相まって、発作治療をしてもなかなか良くならない方もちらほらいらっしゃいます。

通常、喘息の治療はステロイドの吸入薬がベースとなり、そこにアレルギー反応を抑える薬、気管支を広げる薬、痰の分泌を抑える薬などを適宜加えて治療をするというのが基本パターンです。

 

この治療を行って症状が完全になくなっていればOKなのですが、残念ながらそのように簡単にはいかないことが少なくないのも喘息の難しさです。

 

この場合、まずは治療をしっかり欠かさず行っているか治療薬(特に吸入薬)がしっかり正しく使えているかを確認します。
それと合わせて、本当に喘息という診断が正しいのか、喘息の他に何か要因が隠れていないか、(環境や喫煙、仕事などで)喘息を悪化させる要因が残されていないか、を丹念に調べ上げています。

 

ここまですると、大方の方は何かしらの要因が見つかって、改善に導くことができるようになるのですが、やはり中には本物の重症の喘息で、これらの治療をいくら頑張っても症状がコントロールできない方がいらっしゃるのも事実です。

そのような場合、以前なら飲み薬のステロイドという薬剤を使って(吸入ステロイドとは全く別物です!)、体全体で起こっている行き過ぎた免疫反応を抑えるという治療をしていたのですが、この治療はご存じの方も多くいらっしゃる通り、長く続けていると副作用が非常に多く出る治療法でした。

 

そんな中、ここ10年あまりで、新しい喘息の治療法が出てくることになりました。
以前から何度かこのブログでも触れている「生物学的製剤」というやつです。

 

「生物学的製剤」ってまた難しい言葉が出てきてしまいましたが、これは簡単に言うと、化学的に(つまり人工的に)作り出したものではなく、もともと生物が持っている成分をちょっと作り替えたりして、それを増やして薬にしたものです。

喘息で使用する生物学的製剤は、「抗体」という成分を使っています。
「抗体」は、いろんな刺激によって放出され、そのあと体の中のある特定の部分にくっついて、その作用をじゃまする、いわゆる「飛び道具」です。

喘息は、体の中でいろんな反応が起こることで出てきます。
そして、その反応それぞれに作用する「抗体」も体の中には存在します。

喘息の生物学的製剤は、この中で「使える」抗体を特定し、遺伝子組み換え技術などを使ってそのような「抗体」を大量に増やすことで薬にしたものなのです。

 

さて現在、喘息に対して使える生物学的製剤5つあります。

この5つはそれぞれ、先ほど挙げた喘息発症の原因となる反応の、それぞれ特定の部分を抗体を用いてブロックすることで、喘息をコントロールしようとします。

それぞれどのような薬なの?どんなところをブロックするの?ということを理解するには、まずは喘息って体の中でどんな反応が起きてるの?ってことが理解できていないと難しいのです。

ですが、この反応ってのが、また超複雑でややこしい・・・
アレルギー学のことが好きな人でも理解するのには労力がかかり、アレルギー学のことが嫌いな人は、これを見るだけでアレルギーが出る、という難解さです。


そこでこれを、極力端折って、なるべくわかりやすく図にまとめてみました(めちゃめちゃはしょってるので、少し不正確な部分もあるかもしれませんが、このブログでは、あくまでわかりやすさを最優先にしていますので、専門の方々の愛のツッコミは是非ともご容赦ください・・・)。

喘息カスケード 


喘息は、気管支が、アレルゲン感染症、その他の様々な刺激に暴露されることでその反応が始まります。

刺激に暴露された気管支の細胞は、その刺激の元となった敵を排除するために、周りに「お知らせ物質」を放出します。
これを「サイトカイン」と呼びます。

この『お知らせ物質(サイトカイン)』の一つが「TSLP」という物質です。

その「TSLP」が放出されると、自然リンパ球という細胞を目覚めさせて、「好酸球」という細胞を増やすように指示させます。
その指示には「IL(インターロイキン)-5」というサイトカインが使われ、IL-5は、好酸球の上にある「IL-5受容体」にくっついて好酸球を活性化させるように働きます。

「好酸球」炎症を起こす白血球の一種で、これが増えると気管支の壁がむくんで気管支が狭くなったり、敏感になったり、痰が増えたりして、いわゆる喘息の症状を引き起こします。
喘息の起こり方

さて、「TSLP」に話を戻しましょう。
「TSLP」は他にも、全く違うところでも働きます。




『TSLP』樹状細胞」という細胞に仕事をさせるように促します。
「樹状細胞」は、侵入した敵
(ここではアレルギー反応の原因となる「アレルゲン」)の情報を解析する役割が

すると、お尻を叩かれた「樹状細胞」から多くの敵情報を受けた「ヘルパーT細胞」が、「B細胞」に、その敵情報に合った飛び道具(つまり「抗体」です)を作るように指示を送ります。
その指示として使われるサイトカイン「IL-4」「IL-13」という物質です。

「B細胞」は、この指示を受けて、入ってきた敵情報にピッタリ合わせた「IgE」という抗体を作り出します。
抗体
は本来、敵を排除する武器ですが、「IgE」はいわゆる「おバカ抗体」で、この後アレルギー反応を引き起こします(おバカ抗体についてのお話はこちらそのため「IgE」はアレルギーの検査項目としてよく使われます。「スギIgE」とか、「ハウスダストIgE」とかが採血で上がっていると、アレルギーを持っている可能性が高まると言えるわけです。IgE検査について詳しくはこちらからも)。

そして、IgE「マスト細胞」にくっつき、そこにアレルゲンがくっつくと、
マスト細胞の中から「ヒスタミン」とか「ロイコトリエン」とかと言った、アレルギー炎症を引き起こす物質がぶっ放され、喘息の症状を引き起こします。

喘息の起こり方

 

主な反応をかなり端折って話すと以上の通りなのですが、この他にも

ヘルパーT細胞そのものも「IL-5」を出したり、
ヘルパーT細胞自然リンパ球から出される「IL-13」が直接、気管支上皮の細胞や、その周りを取り囲む「平滑筋」という筋肉に働きかけて気道を狭くするなど、喘息の症状を悪くする方向に働いたりと、

まあとにかく免疫細胞と各種のサイトカインは、複雑に絡み合って喘息の反応を起こしているのです。

 喘息の起こり方

この複雑な経路が大体理解できたところで、喘息の生物学的製剤はどこに効いて、どういう特徴を持っているのかを、ようやく説明できるようになりました。

が、もう疲れました。今は1時です。眠いです。
というわけで、今世の中にある、5種類の生物学的製剤のそれぞれの特徴は、またハイになったら書いてみようかと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.09.23更新

これがウィズコロナなのでしょうか?

もう7月からずーっと発熱・感染症外来が朝からすぐにご予約で埋まっている状態で、3か月経った今でも全く減る兆しが見えません。
またニュースでもご覧になった方も少なくないと思いますが、インフルエンザも9月上旬から陽性者が出始めており、下旬になり急増しております。

今は発熱・感染症外来に来られる方のおおよそ5~6割がコロナ陽性2~3割がインフルエンザ陽性といった印象です。


そんな中、先日から秋のコロナワクチン接種が始まりました。
当院でも9月25日から接種を開始します(インフルエンザ接種も同時に開始します!)。

今回のワクチンは、今までの「BA4.5株」対応ワクチンから、「XBB.1.5株」対応ワクチンにアップデートされることになりました。

また訳わかんない文字列の誕生ですね・・・


XBB株は、コロナウイルスのオミクロン株の一種です。

2022年の夏ごろに出現したと考えられていて、9月ごろにインドを中心に流行したことで世界中に広まりました。
その「祖先」のBA2.75株(さらにその前がBA2株で、BA4、BA5はBA2から別方向に派生した株です)と比べて、感染力や免疫逃避力が強くなっているとされている株です。
Nat. Commun. 14: Article number: 2800 (2023) DOI: 10.1038/s41467-023-38435-3

その後最近まで、そのXBB株が主流を占めていましたが、そこからまた派生しやがったEG.5株(いわゆる「エリス」と言われている株ですね)に現在は徐々におきかわりつつあります。

コロナ系統

という訳で、今回のワクチンの元になったXBB株は、つい最近まで主役を張っていた株ということになります。
またその派生株であるEG.5(エリス)株とも非常に距離が近く、その構造も似ているとされ、今回のXBB株対応ワクチンは理論上効果が期待できるはずです。


当院は、高齢者の方と呼吸器系の病気を持っておられる方が多く、当院にかかられている方はワクチン接種の意向が強いかなと感じます。

とはいえ、世間的にはかなり興味が失われつつあるコロナワクチン、やはり打った方がいいのでしょうか?


2023年5月にアメリカから、コロナワクチン接種とオミクロン株での重症化の関係を見たデータが出ました。

アメリカの退役軍人会に属する18歳以上の、2022年1~6月(オミクロン株流行期)にコロナウイルスに感染した約18万人のデータです。
mRNAワクチン接種を2回した人は、ワクチンをしていない人に比べて、入院となった割合が40%、人工呼吸器が必要となった割合が41%、そして死亡する割合が57%減っていたことが分かりました。
また3回接種の人2回接種の人を比較すると、3接種の人は、2回接種の人に比べて、入院となった割合がさらに35%、人工呼吸器が必要となった割合がさらに30%、そして死亡する割合がさらに49%減っていたことも分かりました。
そして、3回接種をした人の中では、最後のワクチン接種から3ヵ月以上経っていた人は、3か月以下の人よりも30%死亡率が高かったこともわかりました。BMJ (Clinical research ed.). 2023 May 23;381;e074521. doi: 10.1136/bmj-2022-074521.

やはりデータ上も、このオミクロン株に対して、ワクチンを接種することの意義はありそうです。

また、私は今でも総合病院の呼吸器内科(つまり入院された方を診察する)の先生と情報交換をする機会が少なくないのですが、先生方によると、この夏に病院では、明らかにコロナ肺炎、呼吸不全の人が増えて、エクモ(ECMO:人工肺と人工ポンプを用いて、血液を体外に送り酸素を体内に供給する治療、つまり肺がどうにも使い物にならなくなった時に機械で時間を稼ぎ、治療により肺の回復を待つ治療法です)導入にまで至ってしまう方、そして治療の甲斐なく命を落とされてしまう方も何名かいらっしゃったようです。

その光景は2年前のデルタ株流行の時とほぼ変わらない、と。

ただ、デルタの時との違いもあります。
このような不幸な経過をたどってしまった方には共通点があり、それはやはりワクチンを全く打ったことのない、もしくは2回で終了してしまっており、最後のワクチン接種から長く時間が経過してしまった、それも高齢の方がほとんどだったとのことでした。

一方、若い方でこのような肺炎に至ってしまう方は、ワクチン未接種でもそれほどはいらっしゃらなかったということです。
ただ再び当院に目を転じると、当院を受診される、コロナ感染後の長期的な後遺症(咳、だるさ、頭が働かないなど)が圧倒的にデルタの時より増えています。
そして、これらの症状でお悩みの方は、ワクチンを全く打っていなかったり、最後のワクチン接種から1年以上経過している方がやはり多い印象です
(もちろんワクチンを打たれている方も長引く咳でいらっしゃる方は少なくないです。しかしそのような方は実は喘息や鼻炎など、他の要因が大きく治療で改善したり、コロナによる直接の症状出ったとしてもわりと早めに良くなられて、長期後遺症の範疇には入らなかった方が多かったかなと思います)。


もちろん、ワクチンによって後遺症をきたしてしまった方がいらっしゃることも事実です。

実際当院にも時々ワクチンの後遺症で相談される方はいらっしゃいますし、かかりつけの方でもワクチン接種後体調がすぐれなくなった方もいらっしゃいます。

副反応が強く出て、2~3日寝込んでしまった方などを含めると、コロナワクチンでネガティブな経験をされた方は少なくありません。


ですので、コロナワクチンを打つべきかどうか、絶対的な正解はありません。
どちらにも、一定の「可能性」は、秘めています。

でも、決めなければいけません。

私は、ワクチンを打った時、そして打たなかった時の「デメリット」を比較すると決めやすいのかな、と思います。
つまり、ワクチンを打った時のデメリットは「副反応」や「ワクチン後遺症」などワクチンを打たなかった時のデメリットは「重症化」や「コロナ後遺症」などということになります。
それを比較して、どちらをより避けたいと思うかで考えると良いのではと考えています。

コロナが騒がれなくなって、メディアでも話題にも上りにくくなった昨今、ワクチンを打たないことによるデメリットは、今までよりもより見えにくくなったのかもしれません。

しかし、少なくても一般の方よりはいろいろなことを見聞きしている、私達のような立場からみると、ワクチンをずっと打たないことのデメリットは、決して軽視できないよなあ、と感じてしまいます。

もちろん自らがワクチンを打ったことによるデメリットを経験してしまった方、それに身近にそのような方がいらっしゃった方は、そのネガティブな心を乗り越えてまで打った方がいいとは思いません(それはそれで悪影響が出る気もします)

ただ巷には、信頼度の低い知識や噂レベルの情報、そしてあえて流されるフェイクニュースが、悪意、時には善意をももとに広がり、そこに更にいろいろな尾ひれがついて、世の中を跋扈しています。

ワクチンをするしないはもちろん皆さんの自由なのですが、その根拠となる情報源にはくれぐれも注意を払っていただきたい、というのが私からのお願いです。


世の中からはだいぶマスクをしている方が減りました。
今回これだけ長い期間コロナ、そしてインフルが流行り続けているのは、多くの方がマスクを取り、大勢で集まり、楽しく過ごしていることも原因でしょう。

でも今の時代、私はそれが悪いとは思いません。
人間が人間らしい社会生活を取り戻すことも大事です(ぶっちゃけ、私も人との距離が近づくところ以外では、例え室内でもマスクは外しています)。
このような世の中では、どれだけ気を付けていても、コロナもインフルもかかるときにはかかります。

これらに対峙するための武器を得た今、かかったときに大ごとにならないようにする、そのための対策を打てる人から打つ。
それがアフターコロナ、ウィズコロナの正しい形なのかなと思っています。


国の方針ではおそらく今回が公費で、つまり無料で打てる最後のコロナワクチンです。

ワクチンを打てる方だけで結構です。打てる方は、今回は是非前向きにワクチン接種を考えていただきたいなと思っています!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.08.29更新

前回お話しした、私が当院に来てから”9か月ぶり通算9回目”の工事が終了しました。

今回は待合室を中心にリニューアルを行いました。

一番の変化は壁の木目から白への色変更で、より明るい雰囲気で、居心地の良い空間と感じていただくようにすることが目的でした。
前回の、壁をぶち抜くなどの大胆なリフォームではありませんが、11日間かけて、結構な大工事となりました。

しかし・・・

前回改装後は「とても明るくなりましたね!」「別のクリニックみたいですね!」との声を多くいただいたのですが、今回はそのようなお声がめちゃくちゃ少ない・・・

長年当院に通い続けてくれているある患者さんからは「で、どこ工事したの?」といわれる始末。

・・・まあそれだけ今までの当院の待合室の雰囲気も自然と馴染んでいた、ということだったんでしょう。

そんな新たな壁には、いくつかリーフパネルを飾ってみて、もう少しインパクトを出してみようかと思います(べっ、別にみんなに「キレイになったね」って言って欲しいわけじゃないんだからね!)

 


さて、まだまだ続くコロナやその他の風邪の流行もあってか、以前喘息で治療をおこなったものの途中でお見えにならなくなってしまった方が、数か月、数年ぶりに症状が悪化して再度いらっしゃるという例が増えております。


喘息が悪化してしまう一番の要因は、感染症だといわれています。
加えて治療が中断されていたために、感染が喘息悪化の引き金になり、症状が大きく悪化してしまったわけです。


もちろん自己判断で(時には医師の間違った指示で)喘息の治療を中断してしまったことが、悪化の大きな要因であることは否めません。

しかし、こちらのブログでもお書きしたように、喘息の治療って、治療効果のつかみどころもないし、よくなったことをデータで出すことも簡単ではないという面もあり、なかなか続けてもらうのが難しいという側面があるのも、まぎれもない事実です。

確かに喘息の治療の主役は吸入薬があり、飲み薬に比べたらめんどくさいかもしれません。
最初に「治療は続けてね!」と言われたにも関わらず、それでも喘息治療がめんどくさくなって、ついつい治療をやめてしまった方の気持ちもよーくわかります。

でも、いったん悪くなると、そこから薬を戻してもすぐには良くならないことも少なくありません。
また改善→中止→悪化というサイクルを繰り返すことで、徐々に薬を使っても治りにくくなっていってしまう方も実際にはいらっしゃいます。

こうなってしまうと患者さんも、我々医療者も、ほんと大変です。

ですのでやっぱり患者の皆さんが後のち大変な思いをしないように、やはり喘息の治療は続けていただきたいというメッセージは、ずっと、確実にお伝えしたい、と思っています・・・

でもそしたら、そのメッセージを一人でも多くの方に届けるには、どのようにお伝えしたらいいんだろ・・・?


日々悩んでおりましたが、最近考えついたこの方法ならわかっていただけるかな?
そう思って今回その考え方をお見せしてみようと思います。



それではまず、皆さんにお尋ねしてみたいと思います。

まず、「風邪」という病気は、「治る」病気でしょうか?

もちろんほとんどの方が「治る」病気であると答えます。

それでは、「風邪が治る」とは、どういうことなのでしょう?

風邪をひくとき、体の中には病原菌やウイルスが入ってきます。
これらが体の中で暴れて症状を引き起こすのですが、薬や免疫をつかって病原菌を「排除」できれば、症状は改善するわけです。

悪いものが体から「追い出せ」れば、「治る」ということなのです。

それでは、一方「花粉症は治る」と思っている方、いらっしゃいますか?

花粉症が「そりゃ完治するっしょ!」と考えておられる方は、あまり多くないのではと思います。
花粉症シーズンになったら、その症状を「抑える」ために薬を使用すると考えておられる方が多いかと思うのです(もちろん舌下免疫療法がうまくいけば、本当に「治って」しまうことはありえます)。

花粉症は「アレルギー」による病気です。
「アレルギー」とは、人間の免疫機能が、ある環境において過剰に反応してしまい、症状を起こしてしまうことを言います。

つまり、風邪とは異なり、その原因を「追い出す」とができないのです。

「喘息」も同じことなのです。

「喘息」「花粉症」は、「アレルギー」による病気であるとの共通項があります。

別の言い方をすれば、喘息も花粉症も、それは「体質」であるともいえるのです。
その「体質」が出てくるのを抑えるために、治療は続けていく必要があるということなのです。


そして、ここでまたもう一つ難しい問題が出てきます。


「アレルギー」は、季節や環境、本人の体調などで、自然と落ち着いてしまうことが珍しくないということです。

例えば喘息についても、症状が落ち着いたからと言って勝手に薬をやめてしまった場合、やめた翌日からすぐに症状が悪くなってしまうことは正直そんなに多くありません(もちろん不安定な状態や重症度が高い場合は、すぐに悪化することもあります)

やめてもしばらく何も変わらないことは珍しくないのです。

すると、これを「治った」ととらえてしまう人は少なくありません。

でも、さっきもお話ししたように、アレルギーはそもそも「治る」ものではありません。
たとえ症状がなくなったとしても、それは季節や環境、本人の体調などが、再度の症状を引き起こさせない状況であっただけなのです。

となると当然、季節や環境、本人の体調が悪化すれば、またぶり返してしまいます。

これが、喘息の治療を続けていると、「体質」としてのアレルギー症状は、当然出にくくなります。
季節や環境、本人の体調の悪化など、不利な状況においても、被害は小さくて済むわけです。


つまり私は、喘息やアレルギーの治療は「医療保険」みたいなものだと考えています。


元気な時は、一見「医療保険」はムダなもののように思えます。ただお金を払っているだけの存在。
しかし、一度体に異変が生じたときに、「医療保険」の存在は大きな助けになります。
いざというときに支えてくれる存在となるわけです。


喘息の治療も同じようなものです。

症状がなにもなくて落ち着いている時、本当にこの治療は意味があるのか?ムダなんじゃないのか?と思われがちです。

しかしひとたび季節、環境、本人の体調の悪化など、よくない状況になった際、それによる症状悪化の振れ幅を最小限にしてくれるのです。

治療をしっかり続けていたことがこの時、大きな助けとなるわけです。


ある報告では、喘息の治療をしっかりと指示通りに続けられる人は40%に満たないといわれています。Tamura G, et al : Respir Med 101(9);1895-1902,2007
そして、高血圧や高コレステロール、糖尿病などの治療と比べて、明らかに続けてもらいにくいという実態も報告されています。lnternational Review of Asthma&COPD vol13 No4 2011

喘息の治療をして、「この治療意味あるのかな?」と考えられるくらい安定していることは、つまり治療がうまくいっているという意味で幸せなことなのです。
その幸せを実感しつつ、上のことを思い出してもらい、ぜひその安定している状態を維持してほしいと思います。

 

一方、ついつい治療をやめてしまった方、おめでとうございます!
皆さんは決して「少数派」ではなく、むしろ「多数派」です!

当院ではもちろん治療を中断したからと言っても怒らないので(しっかり指導はさせて頂きますよ)調子が悪くなったら遠慮なくご相談ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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