医師ブログ

2025.01.01更新

あけましておめでとうございます!

昨年は、4月から呼吸器科医師を2人→5人と大増員し、より皆様のお悩みにお応えできるような体制づくりを致しました。

その結果、当初はかなり予約枠にも余裕が出てきましたが、その余裕も月を経るごとに徐々に減っていき・・・

調べてみたら、4月から12月にかけ、1日平均でご来院いただく患者様が30人ほど増えていました。

当院をご愛顧いただき、大変ありがたいと思うと同時に、受診される皆さまには、混雑や予約の取りづらさで再びご迷惑をお掛けしていることをお詫びいたします・・・

それでも、「他院でなかなか良くならなかった咳がようやく良くなった」「何年も苦しんでいた症状から解放された」「こんな重要な治療ポイント、今まで聞いたことがなかった」などと、皆さまからのありがたいお言葉を無数に頂いておりますので、できれば患者様の受診制限は行いたくなく、一人でも多くの困っている方の力になりたいとの思いは今年も変わりありません。

そのため、今年もさらに皆様が受診しやすくなるようにすべく、現在鋭意対策を行っております。
公表できる状態になりましたら順次発表いたしますので、それまでお待ちください!!


インフルエンザ、いよいよピークへ・・・

さて、インフルエンザ、前回ブログよりさらに大変なことになっています・・・

インフル202452

やはり今シーズンは接種率が例年より低かったことに加え、流行開始が早く、多くの方が接種未完了の状態で流行が開始してしまったことから、流行が大規模になり、茅ヶ崎の週当たりの定点インフルエンザ感染者数が76.5に達しました。

10を超えると注意報、30を超えると警報となる基準で70越え・・・

案の定、年末の発熱・感染症外来は、Web予約が連日1分以内に埋まり、電話もなかなか繋がらない状況になってしまいました。


それでもワクチン忌避は少なくない・・・


それでも、インフルエンザのワクチンについて、懐疑的な見方をされる方は少なくありません。

例えば「今までインフルエンザに罹ったことがないから必要ないと思っている」とか、「インフルエンザワクチンを打った時にインフルエンザに罹ったので信用していない」とかというご意見です(陰謀論についてはここでは触れません)。

インフルエンザワクチンについて打つ、打たないはその人の自由ではあるのですが、やはり科学的に正しく考えて頂いたうえで、判断はしていただきたいのです。


そこで、今回は、「インフルエンザワクチン」は、本当に有効なのか、そしてそれはどのような根拠から言えるのかということについてお話してみたいと思います。


色んなところで見る「論文」の危なさ

さて今、週刊誌やYoutube、SNSを見ると、玉石混合の様々な情報が載っています。
それらの情報は、どれも一見すると、筋が通っているように見えます。

しかし、それらの情報もよく見てみると、いわゆる「落とし穴」が多く潜んでいることがわかります。

そして、論文に読み慣れていなければ、それには気づかないようにうまーく隠されていることが多いのです。


つまりこれは、「結論ありき」でデータの「見せ方」を変えて、自分の言いたい結論にもっていこうとしている人が書いているケースがあるということなのです。


まさに(ちょっと言葉はキツいですが・・・)「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」ということです。


ですので、これらのワナに引っかからないようにするには、まず「論文」をどうやって解釈していくか、その基本を知っていなければならないのです(専門的に詳しく知る必要はありませんが、昔と比にならない情報量が日々飛び交って、色んな意見がすぐに耳に入ってくるこの時代、自分を守るためにも最低限の知識は世の中のすべての方が持っておかなければならない時代になってしまったと感じています)。

研究の方法によって信頼度は変わってくる!

さて、論文というのは、以下の順で信頼度が上がっていくというルールがあります。

エビデンスレベル
※なお、これは「エビデンスピラミッド」と呼ばれる図を、私がごくごく簡便にまとめ直したものです。
本来はもう少し細かく分類されますし、その研究の性格によってはあえて信頼度の低い手法の方が結果に近づきやすいことも少なくなく、信頼度が低い=間違った研究であるというわけではないということに留意する必要はあります。

この図について、ピラミッドの下から一つずつ、簡単に説明してみようと思います。

信頼度論外:個人の感想

例:「ワクチンは意味がない、なぜならそんな気がするからだ!」

これはそもそも論文ではありません。ガン無視してOK!


信頼度レベル6:専門家の意見、症例報告

例:「〇〇大学の△△教授は、この治療法が一番効果があると言っている」
例:「△△という治療を行ったら〇〇病の症状が改善した」

この「専門家」が、その分野の一般的な「エキスパート」でなければ、信頼度は「論外」に落ちます(SNSや週刊誌では、「その分野のエキスパート」ではなく、「何か意図を持った別の分野の人」が、ただ自分の言いたい意見を述べている「インフルエンサー」にしか過ぎないケースをよく見かけます。つまりこういうのも、ガン無視でOK!)。

また、症例報告は、偶然性や他のバイアスが関わっている可能性も大いに残ります。
ただ同じような症例報告が複数集まってくると、信頼度レベルが4~5まで上がります。


信頼度レベル5:ケースコントロール


病気のある人とない人で、病気になる前には、どんな要因が異なっていたかを後ろ向きに調べる

例:「〇〇病のある人は若いころたばこを吸っていた→だからタバコは〇〇病のリスクになる」

その要因の他にも、「別の要因があるかもしれない」というバイアスがかかることがあり得ます
またこの研究は、あくまで病気になった方へのインタビューで成り立つ研究ですので、その人の記憶力があいまいになったり、思い込みが出たりするケースもあり、これが大きなバイアスにつながることがあります。

信頼度レベル4:コホート研究

ある一定の(似たような)属性の人を前向きに追って、一定期間後に病気になったかどうかをみる
例:「□□市の成人を10年追跡して、その中のたばこを吸わなかった人は、吸った人に比べて〇〇病になる確率が△%下がった」

ケースコントロールは後ろ向きだがコホート研究は前向き。実際にその過程を研究側が追っていける分、ケースコントロールよりはバイアスがかかりにくいのが特徴です。
ただし希少疾患には不向き(長期間追っても、本当に知りたい「病気になる人」はほとんど出てこないから)。


信頼度レベル3:非ランダム化比較試験

治療をする群(治療群)治療をしない群(対照群)に分けて、その差を見ることで治療の効果を調べる。
ただし、その分け方をランダムに行わず、他の基準で分ける。
例:「ある地域でワクチンを打った学校とそうでない学校で、〇〇病の発症率を比べてワクチンの効果を調べる」

※分け方がランダム化されていないので、背景要因(年齢性別、健康状態、生活習慣、病気に対する姿勢など)の影響を受ける可能性がありそこで生じるバイアスを正しく処理するしないと間違った結論を導き出してしまう可能性があります。

信頼度レベル2:ランダム化比較試験

ある集団を集めて、それぞれをランダムに治療をする群(治療群)治療をしない群(対照群)に分けて、その差を見ることで治療の効果を調べる。
例:「ワクチンを打つ群と打たない群に分けて、その感染率や重症化率を調べる」

※患者が自分が治療群と対照群どっちかに入っているのかがわからないのが盲検、医療者もわからないのが二重盲検。
この順番にバイアスは入りづらくなるので、より信頼度は上がります。


信頼度レベル1:システマティックレビュー、メタ解析


質の高い研究を世界中から集めて、データを大きくして解析しなおしたもの。
「システマティックレビュー」は全体の傾向を出し、「メタ解析」はそれを数値化します。
例:「ある抗がん剤〇〇薬が効くかどうか、世界中の研究から質の高い研究10本を選んで、その結論を割り出す」

この研究方法が問答無用、一番信頼度の高い研究
となるわけです。



「ゴールポスト」は動かさない!

そして、ここがデータを読むのに一番重要なところです。

研究はあくまで、最初にルール(何を調べる予定か、こうなったら感染、こうなったら重症化という定義)をあらかじめ決めておくことが超大事です。
そして、そのルール通りに研究を行って、はじめに設定した結論に達したか否かを判定するようにするのです。

調査が終了した後に、最初に決めた結論と別の結論を出そうとさかのぼってデータを解釈しなおす行為は、基本ダメです。

(上での落とし穴の件でお話したように)意図した結果を出したいがために、出された数字に都合の良い解釈を入れてしまうことができるからです。

もちろん調査の結果から、何か別の結論が見えてきそうになることもありますが、その場合はその結論が出るかどうかでデザインし直した、再度の調査が必要です。

 


インフルワクチンは、質の高い情報で感染予防のデータあり!

さて、インフルエンザワクチンの結果では、「ランダム化比較試験を主体にメタ解析」した、信頼度レベル1の(つまり信頼度最高の)論文があります。Efficacy and effectiveness of influenza vaccines: a systematic review and meta-analysis: Lancet Infect Dis. 2012 Jan;12(1):36-44.

ここでは、過去の5700本以上の論文から31本の論文を厳選して、そのデータをまとめて解析し直したもので、「成人ではワクチンを作った株(つまりシーズン前に流行ると予想した株)と、実際の流行株が一致しているシーズンでは、ワクチンを接種することで感染リスクが59%下がることがわかりました。


高齢者では、主にコホート研究の「メタ解析」になり(こちらも「メタ解析」をしているので、信頼度レベルは1~2相当まで上がります)、こちらは60%以上の感染予防効果がありましたが、ランダム化比較試験ではないので、解釈に多少幅はあるかもしれません。

一方、ケースコントロールの「メタ解析」にはなりますが、(おおよそ信頼度レベル3に相当します)重症化予防効果(入院を予防する効果)について、18~65歳の方の予防率は51%、65歳以上の方で37%とのデータが出ていますEffectiveness of influenza vaccines in preventing severe influenza illness among adults: A systematic review and meta-analysis of test-negative design case-control stud18~65歳の方の予防率は51%ies: J Infect. 2017 Nov;75(5):381-394.

そして、これらの結果は、ワクチンの株と流行株が一致しているかどうかで大きく変わる、とのことでした。



今年のワクチンは、今のところ「当たり」!

さて、今年流行っている株はH1N1 pdm09という株で、2009年の新型インフルパンデミックの時に初登場した株です。
この株は感染力が強く、症状も比較的強めにでるといわれています。

今年のインフルエンザワクチンは、しっかりこの株に対応したワクチンになっています。

ということで、インフルエンザワクチンの効果は、信頼できるデータでしっかりと示すことができるのです!(決して陰謀論でも、都市伝説でもありません・・・)


もちろんワクチンは「100%防ぐ訳」ではないけれど・・・

もちろん、ワクチンは、インフルエンザ感染のすべてを予防するわけではありません。

数字上は半分弱の感染リスクは残るわけですし、今年流行っているH1N1 pdm09は、より感染力が高いと言われていますので、ご家族や親しい友達、同僚などが近くにいれば、防ぎきれないこともあるでしょう。

ただ、特に、喘息やCOPDなど、呼吸器系の病気を持っている方は、かかった時の被害の大きさが変わる可能性が高いです(これを具体的に示すデータはありませんが、感染予防効果、重症化予防効果の確かなデータから予想は立てられること、また私の長年の実感からそう考えています。確かに「信頼度レベル6」のエビデンスにはなるのですが・・・それも皆さんが私を「専門家」に入れて頂ければですが・・・

ワクチンは、感染そのものを防ぐ事より、感染後の症状悪化(特に喘息などの悪化)の効果の方が大事と考えて頂きたいのです。

実際当院でも、感染したものの10〜11月に接種を完了しており、助かった」とおっしゃっている患者さんが非常に多くいらっしゃいます。


呼吸器疾患の方は1月でもまだ間に合う!ぜひ接種を!

11月までは接種ご希望がなかった方でも、流行が始まった12月以降、改めてご希望いただく方が増えてきました。

当院ではなるべく皆様に接種機会を提供すべく、入荷があるうちは接種を受け付けようと思っております。

かかりつけの方に関しては、受診当日の接種はご予約なしで可能です。
また比較的ワクチン在庫数、予約枠ともにまだ余裕がありますので、特にかかりつけの方でなくても、当日お越し頂ければ接種は可能です(希望の方が急激に増えたら変更があるかもしれません)。


今からでもまだ意味はあります!
呼吸器疾患をお持ちの方は、ぜひお早目の接種をご検討ください!


(さいごに。ワクチンを打った自治体と打っていない自治体で感染率が変わらなかったためにワクチンの効果が乏しいとの結論を導き出した、本邦の30年位以上前の非ランダム化比較試験(信頼度レベル3)の論文がありますが、こちらはそもそもインフルエンザを診断できなかった時代の論文で、休んだり熱を出したりしたことをインフルエンザ発症とみなさざるを得ず、結果の正確性に乏しかったこと(時代的にしょうがないですけどね)、それにデータの抽出方法に恣意的な点が否定できずに適切とは言えなかったこと(こっちは問題です)など、様々な問題点を指摘され、現在ではその信頼度はかなり低いと見なされるようになりました(実はこの論文の生データを読み込むと、むしろワクチンの有効性が言えちゃいそうですらいます・・・)。にもかかわらず週刊誌やSNSでは、恣意的な結論を導き出したい論者によって、未だに多く引用されているようですので、くれぐれもご注意ください。)

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.12.21更新

インフルエンザ、とんでもないことになっています・・・

今週、茅ヶ崎市でインフルエンザ流行警報が発令されました。
茅ヶ崎市でも、12月9~15日の1医療機関当たりの患者数が33.91となり、警報発令基準である30を超えました。
2024 茅ヶ崎インフル

茅ヶ崎市保健所管内感染症情報HPより


なお、先週は14.27、その前の週は5.82と、急激な増加傾向となっており、市内の小中学校でも、各所で学級、学年閉鎖されております。

おそらく今年はややインフルエンザワクチンの接種率が低い状況の上に、皆さんが打ち終わる前のタイミングで流行が始まってしまったことが急激な感染増加の原因かと思われます。

そんな状況ですので、当院の発熱・感染症外来のお電話も、もうひっきりなしに鳴っています。

電話
当院では一定の条件を満たしたかかりつけの方に、枠が埋まっている際も体調を崩されたときなど、臨時受診が必要な時に受診をご案内できる「かかりつけ臨時受診制度」を設けています。

しかし、約4000人いる当院かかりつけの方皆さんが一斉に来院されると、今の当院の状況では間違いなくパンクします・・・

当院の秩序を守るためにも、かかりつけでいらっしゃっている当院の患者様のためにも、今後の流行状況によってはインフルエンザワクチンを接種しなかった方(何かしらの理由で接種「できない」方は除きます)は、一時的に臨時受診制度の対象外とさせて頂きます(つまり枠が空いていない時に無理やりぶち込むということができなくなるということです。枠が空いていればもちろんご予約は可能です!)

特に呼吸器系の病気を抱えてらっしゃる方で、接種がまだの方は、お早めに接種をしていただくことをお勧めいたします!



さて、妊娠と喘息治療についての第3弾です。

第1弾、第2弾はこちら!
妊娠と喘息について その1 ~妊娠しているときに喘息が悪化すると、何が起こる?~
妊娠と喘息について その2 ~吸入薬は何をつかったらいい?~

今回は、吸入薬以外のものについて挙げていきましょう。

まずは抗アレルギー薬です。

抗アレルギー薬も、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬などに分かれます。

主に使われるのは前者2つなので、これについて詳しく見ていこうと思います。


ジルテック、クラリチン、アレグラは使いやすい!

主にOTCについてですが、抗ヒスタミン薬についてはこちらのブログで詳しく触れているので、一度読んでみてください。

抗ヒスタミン薬は、現在よく使われる第2世代抗ヒスタミン薬と、その前から使われていた第1世代抗ヒスタミン薬があり、第2世代の方が全体的に眠気、口渇などの副作用が少なめです。

この中で、比較的欧米でのデータが多いのが、セチリジン商品名:「ジルテック」ロラタジン「クラリチン」です。

これらは海外を中心に妊婦への使用データが比較的蓄積されており、催奇形性に関する大きな懸念は示されていません。
実際、世界的にも妊娠中に使用を推奨されることが多い薬剤です。

また、フェキソフェナジン「アレグラ」も比較的欧米でデータが多い薬の一つで、催奇形性を示唆する明確な報告はありません。
ただしやや効果がマイルドであり、人によっては物足りないかもしれません。


ザイザル、デザレックスも多分大丈夫そう・・・

また、レボセチリジン「ザイザル」セチリジン光学異性体(分子構造を左右対称に入れ替えた物質、こちらの方がより作用が強い)と、デスロラタジン「デザレックス」は、ロラタジンの活性代謝物(ロラタジンが肝臓で代謝された結果できた物質で、こちらの方が眠気、効果の持続性で有利です)で、それぞれ元の物質とだいたい同じ挙動をすると言われているので、比較的安全かもしれません(が、どちらも比較的新しい薬ですので、薬そのもののデータは限られます)。


他の抗ヒスタミン薬はデータが少ない・・・

また、オロパタジン(アレロック)、エピナスチン(アレジオン)、ベポタスチン(タリオン)は、日本を含めたアジアで多く使われ欧米でのデータが少ないです。
ビラスチン(ビラノア)、ルパタジン(ルパフィン)はそもそも新しい薬でまだ十分なデータがありません。

また「ディレグラ配合錠」は、フェキソフェナジンアレグラの主成分ですね)に塩酸プソイドエフェドリンという鼻粘膜の血管を収縮させることで鼻粘膜のむくみを取って鼻詰まりを改善させる成分を配合していますが、こちらは一部の報告で先天異常との関連が示唆されたことがありました。
データとしてはごく少ないので、これも十分なデータとは言えませんが、変更できるのならば変更を考えてもいいと思います(ただ婦さんはむしろ鼻づまり、悪くなりやすいんですよね・・・、この薬、鼻づまりにはよく効きますし、慢性的に鼻症状が続くことも喘息の経過に悪影響を及ぼす場合もあるので、一概に使うべきではないともいえない薬です)。


第1世代はデータはあるも副作用が・・・

次に第一世代抗ヒスタミン薬です。

クロルフェニラミン(ポララミン)、ジフェンヒドラミン(レスタミン)などがそれにあたります。

これらは古い薬で、特にクロルフェニラミンは、妊娠初期から比較的長い臨床使用実績があるため、第一世代のなかでも比較的「安全性の高い」薬として位置づけられています。
海外の研究でも、催奇形性のリスク増加との関連は示されていません。

ただどちらにしても、眠気や口渇などが強く出る可能性があり(その副作用が困るので開発されたのが第2世代抗ヒスタミン薬です)、こちらを最初に使うというケースは限られるかと思います。

キプレスはできれば続けたい!

次に、ロイコトリエン受容体拮抗薬です。

こちらはモンテルカスト(キプレス)、プランルカスト(オノン)などが当てはまります。

大体似たような作用を持った薬ですが、モンテルカストの方が比較的症例報告や観察研究のデータは多いようです。
どちらも先天奇形などの有意な増加を示すデータは現時点で十分に確認されていません。

そして、これらの薬はより喘息による気道炎症にダイレクトに影響する薬です。
この薬を中止することで喘息が悪化するケースも少なくありません。
必要な状態であれば、投与継続を考えるべき薬かと思います。

最後にTh2サイトカイン拮抗薬であるスプラタストトシル(アイピーディ)は、評価に用いることのできるデータがほとんどありません。
やめても大丈夫なのであればいったん中止で良いと思います。


ホクナリンテープはちょっと気を付けたい

次によく使われるツロブテロールテープ「ホクナリンテープ」です。

これは吸入編でも紹介した「長期間作用型β2刺激薬」を貼り薬にしたものです。
ただこちらは吸入ではなく、血中に取り込まれて効果を発揮する薬剤のため、多少の違いがあることに注意が必要です。

また、こちらも実は主に日本で使用されている薬剤であり、世界的に見るとデータは非常に少ないです。
動物実験では、高用量のツロブテロールを妊娠動物に投与した場合に胎児に影響したという報告はあるものの、人間に対して通常用量で使用した時にどの程度当てはめられるかはわかりません。

当院では、よほどの理由がない限り、よりエビデンスが多く、血流への流入も少ない吸入薬で投与することにしています(吸入による動悸や震えなどの副作用が非常に強いときに限り、減量して貼り薬にするケースはあります)が、喘息のコントロール状態や代替薬の存在などを主治医の先生と相談しながら続けるかどうかを考えるべき薬かなと思います。


テオフィリンは安全性は高いけど・・・

次にテオフィリン薬(テオドール、テオロングなど)になります。
こちらは現在欧米では喘息に対してほとんど使われなくなっていますが、日本ではまだ使用されることの多い薬剤です(当院では非常に限られたシチュエーションで使用しています)。

テオフィリンそのものには、催奇形性のリスクを明確に増やすという、大規模な研究データは現時点ではありませんが、動物実験で高用量投与で悪影響が見られたとの報告はあります。

ただこの薬の難しいところは、胎盤を通じ、お腹の赤ちゃんに移行しやすいことにあります。
くわえて、適切な治療に使われる「治療域」と呼ばれる薬剤濃度と、有害作用を起こす「中毒域」と呼ばれる薬剤濃度が非常に近いという点もあります。
このように、薬の濃度管理が難しいことで、十分に管理できないと赤ちゃんにも有害作用(頻脈、興奮)を起こす濃度の薬が流れてしまうリスクがあります。

今は適切に吸入薬を選択し、吸入方法などの改善でより高い効果をもたらす工夫をすることで十分にコントロールできる喘息が多いので、本当にテオフィリンが必要なケースは非常に少ないと思います。

しっかりと吸入薬の効能を「活かし切る」ことで、中止を考えても良い薬だと思います。


「生物学的製剤」はデータがないけど・・・

次に、重症喘息に用いられる「生物学的製剤」です。
こちらは現在、5種類の薬が使えますが(詳しくはこちらこちらからどうぞ)、喘息の中で使用している方は非常に少なく、また新しい薬でもあることより、データはほとんどありません。
現在それぞれの薬剤で催奇形性を示唆したデータはなく、明らかな危険性は示されていません。

この薬剤は、重症喘息の方に対して使用する薬であり、重症喘息のコントロールには不可欠です。
喘息悪化のリスクの方がはるかに大きいため、必要なら継続すべきでしょう。

 

「ステロイド」は、必要時には躊躇するな!

最後に飲み薬や点滴など、血中内に直接入れる「全身ステロイド」です(吸入ステロイドではありません)。

基本的に喘息における全身ステロイドは、短期間で使用するケースがほとんどです。
早産や低出生体重児となるリスクがわずかにあがるか、そうでないかという議論がありはしますが、この薬剤は基本的に喘息が非常に悪くなった時に、その炎症を「強制終了」させるために使用されるもので、放置して悪化するとお母さん、赤ちゃんの命そのものに重大な影響及ぼすため、使わないデメリットの方がはるかに大きいです。

どんなことがあろうと、まずは喘息悪化のコントロールが優先される状況ですので、使用を躊躇すべき薬ではありません。


喘息の妊婦さんに、快適なマタニティライフを!

以上、駆け足で妊娠と喘息の治療薬についてお話をしてみました。
いずれにせよ、妊娠時の喘息のコントロールは薬剤を正しい知識で適切に考える必要があること、悪化した時に速やかに適切に対応できるようにすること、喘息そのものが妊娠で変化しやすいために産婦人科の先生との連携も必要となることから、喘息により詳しい専門医にお任せすべきものです。

喘息の方でも、しっかりコントロールすれば、元気な赤ちゃんを産むことはもちろんできます。
妊婦
是非快適なマタニティライフを!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.12.15更新

前回はこちら!
2024.11.21 妊娠と喘息について その1 ~妊娠しているときに喘息が悪化すると、何が起こる?~


少し前回から時間が空いちゃいましたね・・・
前回は「妊娠した方が喘息をしっかり治療することの大事さ」のお話をしました。

喘息の方は、妊娠すると約1/3の方が悪化してしまいます。
また1/3の方は症状の変化がないと言われており、多くの方が喘息悪化のリスクをかかえながらお腹の赤ちゃんを育てることとなります。

喘息は一見落ち着いていてても、感染症や気候、環境の変化などで急激に悪化してしまう、やっかいな病気の一つです。

そのため、急な環境の変化に対しても持ちこたえられるように、喘息をずっと治療しつづけることが大事なのです。

でも、やっぱり妊娠中の薬って不安・・・

妊娠不安

 

しかし、やはり薬がおなかの赤ちゃんに与える影響を心配される方が多く、少なくない方が、その心配から吸入などの喘息治療薬を止めてしまっています。

ただ、薬を止めてしまうことで、この前もお話ししたように、急な喘息の悪化をきたす可能性が上がってしまいます・・・
すると、お母さんの血液から酸素をもらっている赤ちゃんは酸素をもらいにくくなり、赤ちゃんの低酸素のリスクが上がってしまいますし、それ以外にも様々な悪影響が生じ、妊娠に大きな問題が出てしまう可能性がグッと上がってしまうのでした。

使うも不安、使わないも不安・・・いったいどうしたらいいのでしょう??


妊婦さんへの薬の安全性って、どう考えたらいいんだろう?

妊娠の時に使える薬って、「これなら絶対大丈夫!」と証明された薬は本来ほとんどありません。

本来、薬の安全性評価をする場合は、あらかじめ被験者を集めたうえで、他の城乾をなるべく均一にしたうえで、その薬と偽薬(プラセボ)を患者さん、医師両方が分からない状態で投与し、副作用のデータを取って判断をします。
しかし、潜在的にどんな副作用が起こるかわからない薬を、妊娠中の方を集めて投与して、流産や奇形が増えるかデータを集めるなんて、絶対に許されませんよね。

妊婦さんに対してそのような試験は、倫理的にやることができないのです。


しかも、妊娠というのは、必ずしもすべてのケースで正常に進むというわけではありません。

薬を使わなくても、残念ながら一定の確率で流産、早産などを起こしたり、赤ちゃんに障害や病気発症などのトラブルが起こってしまいます。

ですので、薬を使ったときに異常が起きた場合、それが薬のせいだったかは、厳密にはわかりません。

「やむを得ず妊娠中に薬を使った妊婦さんと、使わなかった妊婦さんとで、結果的に結果に差が出たかどうか」で比較するしかなく、データとしてはどうしても不十分になってしまうのです(この比較方法だと、その薬を使った背景、例えばそもそも喘息があるかどうかというのも、結果に影響するかもしれませんし、薬を使ったかどうか以外の条件がバラバラなのでデータとしての信頼度は低くなってしまうのです)。

ですので、「妊娠に対して安全とは言い切れるというデータがある薬は、ほとんど存在しない」というのは、事実です・・・

 

しかし一方、通常使用する喘息の薬で「妊婦や赤ちゃんに明らかに有害である」と証明された薬はありません。

そして「吸入をやめると妊娠に危険が及ぶ」というのもまた、事実です。

ですので、限られた情報の中では、妊娠中に薬を使うかどうかは、薬を使ったときと使わなかった時の、「デメリット」で比較をした方が判断をしやすいのです(薬を使った方がいいの?使わない方がいいの?という「メリット」で比較すると、よくわからなくなってしまうのです)。

ではそれを踏まえて、喘息の妊婦さんはどの様な治療をすればいいのか、次から具体的にみていきましょう。


まずは吸入薬の種類をおさらい!

まずは喘息治療の総本山、吸入薬です。
喘息の薬でどのようなものがあるのか、今ではかなり種類も分類も複雑になってきたので、まずは以下の表で整理してみましょう。

 喘息吸入薬

基本的には、毎日使う吸入は「吸入ステロイド」「長期間作用型β2刺激薬」「抗コリン薬」とこれらの組み合わせ、悪化した時に使うのが「短時間作用型β2刺激薬」というカテゴリーになっています。


いちばんデータが多いのは「パルミコート」

それではまず「吸入ステロイド」についてみていきましょう。

まずはブデソニドです。

ブデソニド
ブデソニドは、単体では「パルミコート」という吸入薬に含まれており、妊娠中の使用データが最も多く、比較的安全性が高いとされています。
また、β2刺激薬との合剤として「シムビコート」「ビレーズトリ」にも使われています(ですのでこちらはステロイドのデータは多いのですが、β2刺激薬、抗コリン薬のデータがやや少なくなります。あとでまたお話しします)

動物実験ではリスクがないことが示されており、人でも先ほど書いたように十分なデータは取れないものの、特に問題を生じたデータもありません。
スウェーデンの医薬品登録データによる比較的大規模なデータでも、赤ちゃんの先天異常が発生するリスク増加は認められなかったと報告されています。

そのため、国際的な喘息治療ガイドライン(GINA)でも、妊娠中の吸入ステロイドとして優先的に推奨されています。

ただ薬の強さとしてはややマイルドで、喘息の症状によっては症状を抑えきれずに悪化させてしまう可能性もあります。


他のステロイド剤も基本的には大丈夫

次にその他の吸入ステロイドです。
吸入ステロイド
フルチカゾン(商品名「フルタイド」「アニュイティ」)、モメタゾン(商品名「アズマネックス」)、ベクロメタゾン(商品名「キュバール」)、シクレソニド(商品名「オルベスコ」)は、いずれもブデソニドほどデータが多くないのが実情ですが、現時点で明らかな先天異常や胎児発育へ、重大な影響を示すデータはありません。

また、これらの薬剤は、他の以下のクラスと合わさった「合剤」としても多く使われています(フルチカゾン・・・「アドエア」「フルティフォーム」「レルベア」「テリルジー」、モメタゾン・・・「アテキュラ」「エナジア」


動物実験では、これらのステロイド薬を「大量」に投与すると、動物に有害事象が起こったとの報告がありますが、通常人が喘息に使う量では、妊婦や赤ちゃんへの大きなリスク増加は示されていません。

先ほどお話ししたようにパルミコートが確かにいちばんデータは多いのですが、パルミコートの作用がやや弱く治療が不足する可能性があるため、そのような場合は、これらのより強い他のステロイド吸入薬を使用したほうが、総合的にリスクを減らせると判断できる場合も少なからずあるのです。

いずれにせよ、吸入ステロイドは全体的に安全性を示すデータが多く、できる限り薬を続けたほうがいいとされる薬剤と言えます。


吸入薬のもう一つの柱、β2刺激薬について

では次に、長時間作用性β2刺激薬です。
LABA
これらはサルメテロール、ホルモテロール、ビランテロール、インダカテロールが当てはまり、それぞれ以下の薬剤に含まれています。

サルメテロール・・・「アドエア」
ホルモテロール・・・「シムビコート」「フルティフォーム」「ビレーズトリ」
ビランテロール・・・「レルベア」「テリルジー」
インダカテロール・・・「アテキュラ」「エナジア」

これらの薬は、ほとんどが先ほど触れた「吸入ステロイド」との合剤として使われています。

ですので、妊娠中に単独で使ったときのデータはあまりないのですが、吸入ステロイドと併用して長期的に使用されたことで得られた多くのデータからは明らかな赤ちゃんの先天異常増加や、妊婦の有害事象のリスクの増加は認められていません。

特にサルメテロールホルモテロール(「アドエア」「シムビコート」「フルティフォーム」「ビレーズトリ」は、比較的古くから使用されており、その長い期間のなかでも大きな問題は報告されていませんので、必要な状態なら吸入ステロイドと同様、しっかりと続けた方がいい薬剤です。

一方、ビランテロールインダカテロール(「レルベア」「テリルジー」「アテキュラ」「エナジア」比較的最近になって出てきた薬であり、サルメテロールやホルモテロールほどデータが多くないという点があります。
ただ、いずれにしてもこちらも「危険性が高い」というデータは出ていません。


やや治療の難しい喘息に使われる薬「抗コリン薬」は?

次に抗コリン薬です。
LAMA
こちらはチオトロピウム「スピリーバ」「スピオルト」に含まれます)、ウメクリジニウム「テリルジー」に含まれます)、グリコプロニウム「エナジア」「ビレーズトリ」に含まれます)という薬剤になり、これらはここ数年で喘息治療に登場した薬ですので、正直あまりデータは多くありません。

動物実験では、大量投与で何らかの副作用が報告されたことはありますが、人における普通の使用量で、明らかに赤ちゃんへの奇形や、流産のリスクが上昇したというデータは確認されていません。

どうしても必要な場合はもちろん継続をすべきなのですが、安全性のデータがまだまだ足りないことから、喘息で安定していた時は、一度お休みを考えてもいい薬剤と言えるかもしれません。


とはいえ、このクラスの薬を使用するような喘息とは、気道の炎症が非常に強い状態でもあるとも言えるので、勝手に吸入を止めてしまったり、リスクが高い状態で吸入を休んでしまったりすることで、喘息の悪化というより大きなデメリットを生んでしまう可能性があります。


やはり喘息に詳しい医師に相談すべき薬剤だと言えます。


発作止めは基本的に大丈夫!

最後に発作治療薬である「短時間作用型β2刺激薬」であるサルブタモール(商品名「サルタノール」)と、プロカテロール(商品名「メプチン」)です。
SABA

これらの薬は、基本的に喘息の調子が悪くなった時に使います。

その為、これ以上悪くならないために緊急的に使用される位置づけの薬であり、薬の使用をためらってはいけません。

サルブタモール(「サルタノール」は、以前より世界で長く使われている薬剤であり、多くの妊娠時の使用データは非常に多く、先天異常や流産リスクの大きな増加はないとされています。

一方、プロカテロール(「メプチン」明らかなリスクのデータは示されていませんが、この薬剤は主に日本のみで使用されており、海外のデータが少ない傾向にあります。

サルブタモールより作用が強く、強力に喘息増悪を抑えられる薬ですので、この薬でないとダメという方もいらっしゃいます。
ですので必要な場合はしっかりと使用する必要がありますが、もし落ち着いているのでしたら、サルブタモールに切り替えてもいいかもしれません。


結局、「ダメ」な薬はない!!

以上のように、データの多い少ないはあれど、基本的に「使っちゃダメ」な吸入薬は存在しません。

「喘息が悪くならない」というのも非常に大事な要素ですので、必要な場合は全て使用して差支えはないと思います。

もちろん安定していれば、よりデータの多い、信頼度の高い薬に置き換える必要はあると思いますので、いずれにせよ喘息に詳しい医師としっかり治療方法を話し合うことが大事だと思います。


さて次回は残りの「飲み薬」「貼り薬」など、「吸入薬」以外のものに触れてみようかと思います。

次回作、是非お待ちください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.11.21更新

つい数日前までは半袖でも暑かった気温が、ジェットコースターのように急降下・・・

秋の急激な気温の変化は体調の変調、特に喘息などの咳の悪化につながりやすいことは以前もお話ししましたが、余りにも急激な変化過ぎて、とにかく当院の電話は鳴りっぱなしです(T_T)

ところで、当院は20~40代の比較的若い方も多くいらっしゃるクリニックですので、妊娠されて出産を控えられている方が少なくありません。
ですので、ここ最近の急激な気候の変化で、喘息が悪化してしまった妊婦の方のお問い合わせが急増しています。

はじめに一番言いたいことから言います!

妊娠した際こそ、喘息の治療は決して中断することなく、確実に、慎重に行ってください!


妊娠中はどうしてもおなかの赤ちゃんへの影響を考え、薬について慎重になられる方が多いです(当然の事ですよね)。
特に気管支喘息を持つ方は、妊娠中の吸入薬、内服薬の使用をどうしようかと悩まれる方が少なくありません。

「薬を使い続けることで赤ちゃんに悪影響があるのでは?」という不安から、妊娠を機に自己判断で薬を中止してしまう方も実際にはいらっしゃいます。


しかし、実際には喘息治療を中断することでお母さんと赤ちゃんの健康が危険にさらされることがあります。

今回は、喘息の方が妊娠をするとどうなるのか、妊娠中に喘息が悪化したらどのようなリスクが生じてしまうのかということについてお話をしたのち、次回に治療薬についての具体的なお話をしてみたいと思います。

妊娠すると喘息は悪化する?

気管支喘息の方が妊娠すると、その症状が変化することがあります。
ある統計によれば、妊娠した喘息の方の約1/3が症状が悪化傾向となるといわれています(約1/3は逆に改善し、そして残りの約1/3は変化しないとも報告されています)。
この変化には個人差がありますが、特に中等度から重度の喘息の方で悪化するリスクが高いとされています。


女性ホルモンが与える喘息への影響

妊娠中の喘息の悪化には、ホルモンや体の機能の変化が深く関与しています。
まずはホルモンの変化の側面から見ていきましょう。


妊娠中は、エストロゲンプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌量が増加しますが、これらのホルモンは、気道や肺にさまざまな影響を及ぼします。


たとえばプロゲステロンは、呼吸中枢を刺激して換気を増加させる(つまり呼吸が早く、強くなるとされています。
喘息の方の気道は乾いた空気に弱いため、気道の過敏がある喘息の方では、悪化が誘発されやすくなることがあります。


また、エストロゲン血管からいろいろな成分が漏れ出しやすくする作用(血管透過性といいます)を高めます。
気管支喘息では気道に炎症が起こっているのですが、血管から白血球が漏れ出しやすくなると、気道の炎症部位に白血球が集まり、炎症を助長してしまいます。
これにより、喘息の炎症が悪化することがあるのです。


免疫機能の変化も影響します

妊娠中、お母さんの免疫系はお腹の赤ちゃんを保護するために変化することがあります免疫寛容状態といいます)。
この中で、炎症性のサイトカイン(炎症に関与する物質)が過剰に分泌し、これによって気道の炎症を悪化させるとがあります。

また妊娠中は体が特定の刺激に対して敏感になることがあり、アレルゲンや大気汚染物質、ストレスなどの影響を受けやすくなります。
これが喘息症状を悪化させる要因になることもあります。


お腹が大きくなると呼吸はしづらい

おなかの赤ちゃんが成長すると、徐々に横隔膜が押し上げられ、肺が十分に膨らみにくくなります。
すると肺活量が減ってきてしまうのですが、喘息の方はもともと肺機能がやや低いことが多く、これによるダブルパンチで息苦しさが助長されてしまうことがあります。


肺への血流量の変化の影響

また、妊娠により体全体の血液量は増加します。
すると肺への血流が増えます。

横隔膜が押し上げられたことによる肺活量の低下は、肺に入ってくる空気の減少(つまり酸素の減少)を招きますが、その一方、肺への血流が増えることで、酸素と血流のバランスが大きく偏ってしまうことになります換気血流不均衡といいます)。

肺でどのように酸素を取り込んでいるのかということについて詳しくは、過去のこちらの記事を参考にしてもらいたいのですが、簡単にまとめると肺に届いた酸素は、肺胞付近に流れる血流にのって体内に取り込まれるわけです。

そのバランスが崩れると、肺胞における酸素の取り込み能力が悪化してしまうのです。


そんな時に、妊娠により薬の使用を止めてしまった場合、喘息のコントロールが悪化するリスクがさらに高まってしまう訳です。

それでは妊娠中に喘息が悪化してしまうと、お母さん、赤ちゃんにはどんなリスクが起こってしまうのでしょうか?


赤ちゃんの酸素不足

まず、喘息発作が起きると、お母さんの呼吸が妨げられ、血液中の酸素濃度が低下してしまいます。
赤ちゃんの酸素は母体の血液を通じて供給されているため、お母さんの血液中の酸素濃度が下がると、直接的に赤ちゃんの酸素不足につながり、赤ちゃんの発育に悪影響が及ぶ可能性があります。

またお母さんの低酸素状態は、お母さん自身の体にストレスをもたらすことで血圧の上昇(妊娠高血圧症候群)を招いてしまいます。


すると赤ちゃんへの血流が減少してしまい、更なる悪影響をもらたしてしまう
のです。


赤ちゃんの発育不全のリスク

また喘息がしっかりコントロールされていない場合、胎盤への血流が減少することがあります。

胎盤は、赤ちゃんに酸素や栄養を供給する重要な器官ですが、その機能が低下すると、胎児の成長が遅れることがあり、低出生体重児となってしまうリスクが高まります。


早産のリスク

さらには、喘息の悪化による様々な母体へのストレスは、子宮収縮を引き起こしやすくしてしまい、早産の原因となってしまいます。

早産になると赤ちゃんの臓器発達が不完全な状態で出産するため、出生後の赤ちゃんの呼吸状態の悪化や免疫力の低下のリスクが増加し、赤ちゃんの呼吸困難になりやすくなったり、感染症にかかりやすくなったりしてしまうのです。


妊娠中の喘息治療は、特に慎重に!

このような影響を防ぐためには、妊娠中にしっかりと喘息の管理を行うことが極めて重要になります。
自己判断で薬を中止することは、お母さんと赤ちゃんの両方にとって危険を伴います。

一方、お母さんの酸素供給が安定していれば、胎児への影響も最小限に抑えられるので、妊娠した時こそ、私たち呼吸器専門医に、喘息の治療を委ねて頂きたいと思います。


それでは、妊娠中にはどのように喘息の治療を行うのか、どの薬がより使いやすいのか、これらについては長くなりそうなので、また次回お話ししてみようと思います。



続きはこちら!
2024.12.15 妊娠と喘息について その2 ~吸入薬は何をつかったらいい?~

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.10.27更新

先日、福岡に行ってきました。

行楽の秋、九州の観光を楽しむ・・・わけではなく「長引く咳」、「治らない咳」の治療をどうするべきかという呼吸器専門医の集うシンポジウムにお呼びいただいて、「咳」の治療についていろいろと話し合ってきたのでした(久しぶりの飛行機は楽しかったけどね)。

呼吸器講演会
やはり、そのシンポジウムの中でも、なかなか治らない、長引く咳に対しての治療の難しさというのが大いに話し合われました。

そして、「呼吸器専門医」としての、長引く咳の関わり方も大きな議論の対象となりました。

ところで「専門医」って言葉は皆さんもご存知だと思うのですが、「専門医」が具体的にどういうものかを詳しくご存知の方は多くないようです。

「専門医」って、いったい何なんでしょうか?
そして「専門医」って、どのように使ったらいいのでしょうか?

今日はそんな「専門医」について、お話してみようかと思います。

そのクリニックは何が「専門」?

ところで、内科系のクリニックの診療科をみると、通常「内科」「消化器科」「呼吸器科」「循環器科」などと、そのクリニックが診察できる科目が並べられています。
このようなクリニックでは、これらをすべて専門的に診れると思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、一人の医師がそのすべての専門研修を行うことは基本的には(制度上)できません(複数の異なる科の専門医が在籍していれば、それぞれの専門治療をそのクリニックで受けられる可能性はあります)

そして、だいたいは「内科」の後ろに掲載している科目が、そのクリニックの専門であることが多いです(でもあとでお話しをしますが、内科医なら、自分の専門以外の科も「ある程度」は診れますので、表記が誤っているとは言いきれません)。

そのクリニックが何を「専門で診れる」かを確実に判断するには、その先生がどんな専門医を持っている(持っていた)かを見てみるのが一番確実です。


ちなみに「専門医」の有無は、ホームページなどで公表されている先生とそうでない先生がいらっしゃいます(ひっそりと、仕事に追われることなく自分のやりたい医療だけを突き詰めたいとお仕事をされる先生方も少なくないのです)。

ホームページでわからない場合は、その「専門医」を運営している学会のホームページに行けば、専門医名簿が載っています(例えば呼吸器専門医の名簿は日本呼吸器学会のホームページに掲載されています)。
こちらで検索していただけると、どこに専門医がいるのかがわかるのです。


最近は、本当の自分の専門の科だけに絞って載せるクリニックも増えてきました(当院でも私の専門である「内科」「呼吸器内科」「アレルギー科」しか掲載していません)ので、患者さんにはどこのクリニックがどんな特徴を持っているのか、わかりやすい時代になってきました。

 

一方、新し目のクリニックでも、患者さんを集めたいが故に、医師の経験の少ない科(あるいは全く経験のない科)を表記してしまう医療機関も一部には存在しているようです(例えば「内科」「小児科」「皮膚科」などは、基本的には両立し得ません)。

専門研修どころか、ろくに経験もしていないのに患者集めのために掲げてしまうような医師も残念ながら存在します(現行の制度では、それは違法にはならないのです)。

そして、そんな医療機関では、小手先の事しかできず、結局患者さんが治らずに困ってしまうことが多いようです(当院にも残念ながらそのような相談が非常に多いです)・・・

医療機関を探される際に心がけておいていただきたい重要な点です。



内科医のキャリア

さて、ここで、我々「内科医」がどのようにして「専門医」にまでたどり着くのか、すこしお話ししてみようと思います。

まず、我々は「専門医」の前に「内科医」です。
現在の日本では、すべての科を経験する2年間の初期研修が終了した若き医師は、内科や外科、小児科などなど、どの領域を自分の専門にするかを決めて、その科に進んでいきます。

「内科」を選択した場合は、通常「内科」の中でもどの領域の内科を専門にするかを決めるのが一般的です(外科も内科に似ているようです)。

例えば我々の「呼吸器」のほかに、「消化器」「循環器」「脳神経」「腎臓」「糖尿病・内分泌」「膠原病」といった具合です。

もちろん「内科医」ですので、自分が選択する科以外の領域も、すべて一通り経験します(例えば夜間の救急外来などで、一人の医師が、独力で救急車も含めすべての科に対応しなければならない業務のある病院は少なくないので、そのような夜間当直業務は肉体的にだけでなく精神的にも大変なプレッシャーなのですが、この経験が内科医としての懐を深くするとも言えます)。

そしてその研鑽の結果、「内科認定医」「内科専門医」が取得でき(これらは制度の変更で名称が後者に変更になったのですが、どちらかはほぼすべての内科医がもっているはずです)、さらに高度に網羅的な知識を得た場合は「総合内科専門医」の資格を得ることができます(こちらは「内科専門医」よりも一段難易度が高い資格で、持っている内科医は多くはありません)。

内科クリニックの中には外科から内科に鞍替えされている先生もいらっしゃり、その場合は「外科専門医」をお持ちのことが多いです。

その他の科から内科に鞍替えする例は非常に少ないので、おそらくどこの内科クリニックの院長先生でも、このどちらかはお持ち(もしくはかつて持っていた)のはずです。


専門医取得までの道のり

そしてその上で、自分の選択した専門科に所属し、その専門科についてより多く経験し、より深く学んでいくことになります。

そして、おおよそこれらの修業を最低7~8年程度経験すると、専門科の専門医を受験できる資格が得られます(自らの興味が変わったため「転科」をする先生も時々いらっしゃいます。ただ、一つの科の体系的な知識を得るには1-2年では短すぎ、これでは十分な診療力がつかないので、科を転々をするような医師はあまりいません。現在は内科にとどまらず、小児科や耳鼻科までも含め横断的にいろんな科をみる「総合診療専門医」というのもあり、総合的に知識を網羅したい先生は「総合診療科」などに進み、横断的に診察できる専門能力を身に着け、この資格を取得されるケースも増えています)。

しかるべき施設に規定期間在籍して修練したこと、定められた疾患を主治医として診療していた経験を有すること(その証明として症例レポートを提出させる学会が多いです)、そして筆記試験(科によっては口述試験があるところも)に合格することで、初めて「専門医」の資格を得ることができます。

というわけで通常「内科医」は、内科認定医、内科専門医、総合内科専門医の他に、より細分化された「○○専門医」という資格を持っていることが多いのです(取得するには先ほどお話したように時間と手間がかかるため、病院勤務の若い先生ではこれから取得するという方もいらっしゃいますし、一方で資格を維持することにも手間と時間がかかりますので、過去に取得したものの、すでに資格を返上されているベテランの先生もいらっしゃいます)。

 

ガイドラインって何?

今の治療には、どの病気にも「ガイドライン」と呼ばれる、病気に対する治療の「教科書」みたいなものがあります。

「ガイドライン」は、データが集まることで治療の根拠となった「エビデンス」に基づいて作られており、新しい「エビデンス」が出てきたり、既存の「エビデンス」がより強固になったりすると定期的に改訂され、「標準的治療」(=その時点で医者が行うべき治療)が記載されます。

そしてこの「ガイドライン」に従うと、ある程度の質を担保した診療を行うことができます。
現在の医療には欠かせないものです。

ですので、「ガイドライン」があると、その科の専門家でなくても、ある程度の治療は行うことができます。

例えば、私のような「呼吸器内科医」というのは、呼吸器疾患以外の病気は(もちろんある程度の知識、経験はあるのですが)専門的な訓練を受けていないので、呼吸器の病気ではない「関節リウマチ」を徹底的に学びこむということはしてないわけです。

そんな我々でも、「関節リウマチ」の治療ガイドラインというものを参照すれば、そこには最新の知見を散りばめた治療法が書いてありますので、大間違いをせずに治療ができるという訳なのです(もちろんその「ガイドライン」を正しく理解するには、内科の基本的知識が必要です)。


では、「専門医」の役割は?

じゃあ、「ガイドライン」さえあればいいのでは・・・?

いやいや、人体はそんなに甘くない。

そもそも、人間の体は、誰一人同じ造りの人はいません。
そして、その症状の経過、バックグラウンドなども、当然すべての人で異なります。


病気は、「ガイドライン」だけで完全に治療することは出来ないのです。

もちろん、「ガイドライン」に全く意味がないわけでもありません。

典型的な症状、経過であれば、もちろん「ガイドライン」通りに治療してうまくいくケースは多いですし、典型的じゃない症状、経過でも「何となくガイドラインのここの記述に近いな・・・」というのはもちろんあるので、どんな疾患も、まずは「ガイドライン」を参考にしながら、治療をはじめてみるわけです(根拠を持ってあえてガイドラインから外れる治療を選択することもありますが、ガイドラインを知らずにテキトーに治療するのは論外です。だから我々医師は一生勉強を求められる責任を負っているのです。好きじゃなきゃやってられません・・・

そして、ガイドライン通り治療してもなかなかうまくいかない方や、そもそもガイドラインに載るような典型例に全く当てはまらないような方などが、「長引く咳」の方として残ってきます。

専門医は、そのような方々の治療を行って症状の改善につなげなければならないという使命を負っているのです。

つまり、私たち「呼吸器専門医」のもとには、他の医療機関で残念ながら改善が得られなかった「長引く咳」のような方が多くいらっしゃるのですが、そのような方はすでに「ガイドライン」通りに治療したものの良くならなかった方、そしてそもそも「ガイドライン」に当てはめることができずに、治療がなかなかうまくいかないという方が多くいらっしゃいます(そもそも今まで「ガイドライン」に従った治療をされていなかった場合は、もちろんそこからやり直しですが)。

つまり、「ガイドライン」がすでこれ以上使いにくい状態で、どうにか対処するというのが、「長引く咳」に対しての「呼吸器専門医」の役割、という訳です。


「専門医」ってみんな一緒?

で、そんなときに他の専門医の先生はどのように症状に対峙しているのか、福岡ではその意見交換をしてきたのですが、まあ病気の考え方、検査の組み立て方、治療の組み立て方は医師によって本当にそれぞれでした。


私たち呼吸器専門医は、ガイドラインにまだ反映されないような新しい論文も常に勉強しています。

ただ世界中の論文は星の数ほどあり、ひとつの分野だとしても全てを読むのは物理的に不可能です。
日々の診療の中で未知の事柄に触れたら、そのことを調べる、その積み重ねが私たちの知識になります。

また、診察を通じて得た経験も私たちの「経験知」となって蓄積していきます。

専門医のところには、当たり前ですがその専門領域の病気(しかも結構込み入った、我々にしてみたら「難易度の高い」状態の方も多い)の方が多く集まり、その分野の診療機会が多くなります。

ですので、当然専門領域の「経験知」もどんどん蓄積されていきます。

その「経験知」が、対応力を向上させるツールになるわけです(これは他の職業の方も同じだと思います)。

その経験は医師によりさまざまで、それぞれが持っているスキルも少しずつ変わってくるわけです(ですのでこのような専門医同士の経験の共有は、とても大事な機会になるわけです)。


「ガイドライン」は万能じゃないの?

ここでもうすこし「ガイドライン」の話をしてみましょう。

例えば、長引く咳では、ガイドラインには「咳喘息」「気管支喘息」「後鼻漏」「逆流性食道炎」「肺がん」「結核」などなど、いろいろな病気を見極めるように定めています。

そして(ここではごく簡単に書きますが)「今までも同じような症状があって、夜間に症状の出やすいときは喘息」「アレルギー性鼻炎を合併するときは後鼻漏」「胸焼けやげっぷがあって、食後や横になった時に咳が出るときは逆流性食道炎」の可能性が高いので、その病気について良く調べるよう書かれています。

ところが際の世界は、それほど簡単ではありません。

例えば「昼に症状の出やすい、今回初めて出た喘息」「アレルギー性鼻炎はあるけど、後鼻漏がない長引く咳」「胸焼けやげっぷはないけど、咳でこみ上げる胃酸の逆流」など、典型的ではない例は少なからず存在し、そのバリエーションにはキリがないのです。

さらには、これらが合併することも少なくありません。

以前も書いたように喘息とアレルギー性鼻炎は合併しやすいですし、もともとある咳のせいで胃酸が逆流しやすくなる場合もあります。
組み合わせはほかにも様々考えられ、それが2つでなく3つ以上が合併している場合も・・・


ここからが「専門医」の本領発揮です

そして、これらは患者さんがすべて自分から教えてくれるわけはありませんし、ましてや患者さんが「タグ」を下げてやってくるわけでもありません。

 

ここで「経験知」を用いて、こちらが患者さんの年齢、症状、問診内容から、体形、話し方、雰囲気などの、言語化できない「勘」みたいなものまでもフル活用して、探っていくのです。
つまり、問診で「何を聞くか」検査で「何を調べるか」というのが精度高く出来るかというのが、正確な診断をつけるための大きなスキルになるわけです。

そして何よりそれを、非常に短い時間で行わなければなりません(最近の当院の状況では特にそうです・・・)
場数」「慣れ」も、大事な要素となるのです。


その上、これらがしっかりとはまっても、なかなか治療がうまくいかない人もいるわけです。

住環境や職場環境が悪い、吸入薬があっていない、うまく吸えていないという、比較的メジャーな落とし穴から、仕事内容が咳を悪化させている(コールセンター勤務の方、学校や幼稚園、保育園勤務の方は声の出しすぎで症状が悪化しやすいです)、声がれを避けたいために、意図的に浅めに吸入薬を吸っていたなど、「経験知」がないとなかなか気づけない落とし穴もあります。


さらには、これらを解決しても、それでもなかなか咳がなくならない場合さえあります。

今まではそれが謎でしたが、ここ最近になって、知覚神経の過敏症が起きると、通常の治療をしっかり行っても症状が残ることがあることがわかってきました(「咳過敏症症候群」という病態で、こちらのブログで詳しく説明しています)。
まだ専門医以外ではほとんど知られていない病態で、これを知らなければ当然治療はできません(新しい概念ですので、「ガイドライン」にも詳しくはまだほとんど載っていないのです)。

ここら辺も、やはり「専門医」ならではの、「ガイドラインより深い知識」が必要になってくるわけです。


困ったときには専門医に頼ってみてください

先ほどもお話ししたように、一般の内科医(内科認定医や内科専門医)であれば、一通りの治療を一定レベルで行うことは出来ます。
近くに都合よく自分の症状を診るのが得意な専門医がいる可能性は高くはありません。

ですので、どんな症状でもひとまずお近くの医療機関にかかっていただくことは全然問題はありません。

しかし、ある程度の治療をしたものの症状がなかなか改善しない、状態がなかなか良くならないということは起き得ます。

そんな時は、「ガイドライン」の例外が起きている可能性が少なくありません。

やはりそんな場合は、「専門医」にかかって頂き、「専門医」の持っている経験、勘などに頼っていただきたいのです。




呼吸器以外にもいろんな専門医がいらっしゃいます

「長引く咳」など、呼吸器の難しい複雑な病態を解明し、早期に適切な治療を選択できることは、呼吸器専門クリニックである我々の強みです。

一方、消化器、循環器、糖尿病、腎臓、脳神経、膠原病などなど、それぞれの専門医の先生方は、それぞれの領域で「ガイドライン」より深い治療を展開してくれています。
茅ヶ崎にはこれらの領域の先生がバランスよくいらっしゃいます。

私どもも、呼吸器以外の疾患で「ガイドライン」レベルの治療で十分な効果が得られない場合は、積極的にその科の専門医の先生に治療をお願いし、どのような症状でも皆さんが速やかによくなれるように連携しています(当院には循環器専門医、消化器専門医は在籍しておりますので、これらの病気の場合は院内で「専門診療」を行うことが可能です)。


専門医を受診される場合は、かかりつけの先生に相談をされて、紹介状をもらってきていただくと、今までの経過や、それまでのかかりつけの先生がどう考えて治療していたかがわかり、非常に引き継ぎやすくなります。

是非(その先生が優しく相談に応じてくれるキャラなら)かかりつけの先生に相談されてから、「専門医」の受診を考えてみてください!(相談が難しそうな雰囲気の場合は、もちろん無理をしていただかなくても結構ですよ!)

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.09.29更新

暑かった夏もようやく終わりに向かっているようで、朝晩は涼しくなる日もだいぶ増えてきました。

過ごしやすくなったのはいいのですが、我々呼吸器内科医にとっては、例年これからの季節がホントに忙しくなるシーズンです・・・。

前回のブログでもお話をしたように、この時期は台風の来襲や気候の変化による咳の悪化が増えますし、何より寒くなってくると、様々な感染症が流行りはじめ、またこれがきっかけとなり咳が悪化するケースが増えてしまうのです・・・

とはいえ呼吸器内科としては本来閑散期だったはずの今年の春、夏も、咳や痰などの方がずーっと途切れることなくいらっしゃった当院、今後新たにいらっしゃる咳の方、それに咳が悪化したおかかりつけの方に、本来の呼吸器内科のトップシーズンである秋、冬に向けて、どのように患者様にとってストレスの少ない診療機会をご用意しようか、夜も休みもずーっと考える日々です(そういや最近、夢でもそんな内容をずっと見ています。起きた瞬間に夢で思いついたアイデアを忘れる前にリマインダーアプリに書き込んで、アプリ内のアイデアがどんどん増えていっています。いくつかすでに実行に移しているものも。自分で言うのもなんですが、おいらやっぱ頭ちょっとおかしいかもw)


以前のブログでもすでにお知らせをさせて頂いておりますが、当院では9月より新しい手数料不要の医療費あと払いシステム「クロンスマートパス」を導入しております。

診察終了後、速やかにお帰り頂ける医療費あと払いシステムに加え、お待ちいただく際にLINEでお呼びするまで外出してお待ちいただける「LINE呼び出しシステム」もご用意して、極力患者様が院内でお待ちいただく必要がないシステムを構築し、一人でも多くの患者様にストレスの少ない来院、診療の機会を提供できるように頑張っております。


とはいえやはり、「症状が悪化しない、皆さん安定している」ことが、もちろん患者様にとっても、そして私たちにとっても一番です。

風邪などの感染症がその悪化の一大要因である以上、やはりこれからの時期、「感染対策」がとっても大事になってくるのです。


2024年の今年は、秋からインフルエンザ、コロナの定期接種が始まります。

当院でも10月中旬から接種を開始する予定です。
当院の接種体制については、こちらのページをご参照ください!

コロナワクチンは、昨年までは主にファイザー社製「コミナティ」、モデルナ社製「スパイクバックス」mRNAワクチンが用いられてきました(世間では「コミナティ」「スパイクバックス」という名前はあまり知られていないので、ここから先はわかりやすく、世間で呼ばれているように、「ファイザー」「モデルナ」と呼んでしまうことにしましょう

※mRNAワクチンの仕組みなどについてはこちら!

今年は、扱えるワクチンが増えて、5種類のワクチンが扱えることになりました。

そして当院では今年、従来のファイザーに加え、新たに武田薬品から発売される「ヌバキソビッド」という名前のワクチンを扱うことにいたしました。

今回はその新しい「ヌバキソビッド」について少しお話してみようと思います。


「ヌバキソビッド」ってどんなワクチン?

ってか、またインパクトの強い、覚えにくい名前のワクチンが出てきましたね・・・
いったいこのワクチン、何者なのでしょうか・・・?


「ヌバキソビッド」は、現在日本で使用できるコロナワクチンの中で、唯一「mRNA」を用いないワクチンです。

ワクチンの種類としては「組み換えタンパクワクチン」と呼ばれるものです。

実はこのワクチンは2年前からノババックス社から発売されていたワクチンとして、(細々とですが)すでに使用されていたものです。

今回武田薬品がノババックスから技術移管を受けて、国内で製造したワクチンになります。

接種の方法はファイザー、モデルナと同じく筋肉注射で、過去にコロナワクチン(どの種類でも)を接種されている方は、前回の接種から6ヵ月以上空けて1回、一度もコロナワクチンを接種した事がない方は、1回目の接種後4週間空けて2回目の接種をすることとなっています。

 

「組み換えタンパクワクチン」とは?

今回用いられている「組み換えタンパクワクチン」というのはどのような仕組みでしょうか?

「組み換えタンパクワクチン」は、ウイルス自体を使用せずに、ウイルスの一部だけを人工的に作り出して、それをワクチンとして利用する方法です。

コロナウイルスは、こちらでもお話をしたように、ウイルスの表面にある「スパイクタンパク」が免疫反応の時の標的になります。

まずこのスパイクタンパクを作るための遺伝子情報を動物の細胞に組み込み(=組み換え)ます。
するとこの細胞が「組み換えた」遺伝子情報を利用して、スパイクタンパクを作り出します(なので「組み換えタンパクワクチン」という名前がついているのです)。

細胞が作ったスパイクタンパクを集め、不純物を取り除き、そこに免疫を起こさせやすくする仕組みを加えて(これをアジュバント」と言います)ワクチンにしていきます。

「アジュバント」を入れることによって免疫系がより強い反応を起こし、長期的な免疫記憶が作られやすくなります。

組み換えタンパクワクチン


「組み換えタンパクワクチン」のメリットは?

ワクチンにはこの「タンパク組み換えワクチン」、従来のコロナワクチンである「mRNAワクチン」のほかに、弱らせた病原体をそのまま使用する「生ワクチン」病原体そのものを利用するものの、その病原体に感染力や病原性を持たせないように処理をして使用する「不活化ワクチン」などがあります。

そのなかで、「組み換えタンパクワクチン」は、ウイルス自体を使用しないために、非常に安全性が高いというメリットがあります。

また、「mRNAワクチン」は今回のコロナワクチンで初めて実用化された技術ですが、「組み換えタンパクワクチン」は、B型肝炎ワクチン、子宮頸がんワクチンなどですでに以前から実用化されていた技術で、作る際のノウハウがしっかりしている、効果や副反応の傾向が読みやすいというメリットもあります。


副反応も、mRNAワクチンと比べてやや少ないのではと言われています。

直接比較をしたデータではないので参考程度にはなるのですが(カッコ内はファイザー製「コミナティ」のデータ)、注射部位の痛みが61.5%(85.6%)、頭痛50.1%(59.4%),筋肉痛50.7%(39.1%)で発熱は10%未満(16.8%)と、筋肉痛はやや多いものの、発熱などの副作用はやや軽そうな印象を受けます。

海外で2021~2022年に行われた臨床試験(2019nCoV-301試験)では、初回接種の18歳以上の方でワクチン接種がコロナの発症を90%抑え(つまり発症を1/10にし)、日本人の試験でも初回接種(TAK-019-1501試験)、追加接種(TAK-019-3001試験)いずれも中和抗体を大きく増加させるという、有効な結果が出ています。

ただ、追加接種の発症予防効果、重症化予防効果のデータが少ないのは気がかりなのですが・・・。


で、どっちを打ったらいいの?

さて、そうすると今までのファイザー、モデルナのワクチンと、武田のワクチン「ヌバキソビッド」、どっちを打った方がいいのでしょうか?

その差は大きなものではないのですが、やはりデータの多さはファイザー、モデルナに軍配が挙がります。

例えばファイザーでは、昨年のXBB1.5株に対応したワクチン接種をしたことによって、昨年9~11月のXBB株流行期入院を60%、コロナでの外来受診の頻度を35%減らしたデータが出ています。
また最新データである今年1月のJN.1株(今回のワクチンの基になった株です)流行期(つまりXBB株からすでに変異してしまったタイミングだったですが)でも、入院を35%、コロナの外来受診を25%減らしたというデータも出ています。

このように、ファイザー(それにモデルナ)は、やはり効果、副反応のデータが蓄積されており、豊富であることが、いちばんの強みです。


対して「ヌバキソビッド」も有効なデータはしっかりとあるのですが、実際の予防効果を示すデータの元がやや古く、現在流行している変異株に対するデータが少ないことは多少の弱みかもしれません。

そのような点からは、今までファイザー、モデルナといった「mRNAワクチン」を接種し、大きな問題が起きなかった方は、基本的に今回もファイザー、モデルナを選択されるとよいのかなと思います。


では、ヌバキソビッドを選ぶ場面は?

ただ、「ヌバキソビッド」はファイザー、モデルナよりも総じて副反応の頻度が少ないと考えられています。

また仕組みも全く違うため、ファイザーやモデルナで副反応が出た方も、ヌバキソビッドでは副反応が余り出ない可能性もあり得ます(もちろんその逆もありえますが・・・)


いままでファイザーモデルナなどで、高熱や激しい倦怠感など、強い副反応が出た方や、接種はしたかったもののそんな話を聞いて不安になり、今まで接種できていなかった方にとっては、「ヌバキソビッド」は良い選択肢になるかもしれません。

また「mRNAワクチン」ではなく、先ほどもお話ししたようにすでに他のワクチンで使われている「組み換えタンパクワクチン」であることから、(その根拠はともかく)何となくmRNAワクチンに不安を抱いている方にも有力な選択肢になるかと思います。


どっちを選んでも決定的な違いはないのですが、これらを判断材料に、納得いかれる方を選んでください!


さいごに・・・

今後の秋からのコロナワクチン接種開始に先立って。

最近はコロナワクチンの話題となると、(だいたいWeb上なのですが)何だか論争めいた雰囲気になることが少なくありません(自分が巻き込まれたわけではないのですが、なんだか見てるだけで疲れます・・・)。


もちろんコロナワクチンを含め、すべての薬剤に100%の安全はなく、コロナワクチンで大変な思いをした方がいらっしゃるのも事実です。

一方こちらはパッと見では見えにくいのですが、実際はコロナワクチンで助かった人が少なからずいることも、客観的にデータを読めば明らかなのです。

ただ今回からは自費接種ともなり、今後のコロナワクチン接種については、その経済的負担も無視はできません。


それらを踏まえて、「打つ」、「打たない」は皆さん一人ひとりがよく考えて、自らの意思で決めて頂きたいのです。

そしてぜひともワクチンを「打つ」と考える方、「打たない」と考える方が、それぞれ相手の立場を尊重して(もちろん大多数の方がすでにそうなのですが)、お互いが不安や嫌な気持ちに陥らないように、みんなが配慮できる世の中であってほしいなと、切に願っています。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.09.16更新

この夏も日本列島には台風が近づいてきました。

8月にやってきた台風10号のゆっくり、そして定まらない進路に、やきもきされた方も少なくなかったかと思います。

台風

そして、やはりと言うか、その10号が過ぎ去った頃から、「台風のタイミングで咳が止まらなくなった・・・」「喘息が悪化してしまった・・・」という方の問い合わせが、目に見えて増えてきました。

喘息
そして、本当の意味での台風シーズンは9月、10月のこれからです・・・

「台風が来ると、喘息が悪くなるんだよ・・・(ToT)」という方、実に多いです。
このような方には、これからしばらくは試練のシーズンとなります・・・


では、なんで台風が近づくと喘息の調子って悪くなるの?
そして、今からどんな対策をとったらいいの?

そんな疑問にお答えするべく、今回は、来たるべき台風シーズンに向けて「台風と喘息の関係」について、少し深く考えてみようかなと思います!

 


ところで、そもそも、台風が近づくと、本当に喘息は悪化するのでしょうか?それとも気のせい??

これに関しての答えは、「確かに台風で悪化はするが、この時期の喘息悪化は、それ以外の要素もあるかもしれない」と言えるかと思います。


そもそも、喘息は9月から10月にかけての秋口に悪化するというのは良く知られています。
その原因としては、以下の要因が考えられています。

気温の変化

寒い

喘息は、気管支が急な環境の変化にさらされると悪化してしまう病気です。
そして、気管支は温度の変化に対してとても敏感です。

喘息が悪化して病院を受診した方たちのデータで、前の日に比べて3℃以上温度が低下したり、過去5時間で3℃以上温度が低下したりすると症状が悪化しやすくなるということがわかっています。村山貢司. 気象の動態と気管支喘息症状 アレルギーの領域. 1998; 5: 574-580.

急激な気温の変化は、自律神経の変化をきたしたり、冷気そのものが気管支の刺激になったりして、気管支を狭めて炎症を起こしてしまうのです。


湿度の低下

乾燥

秋になると夏のジメジメした空気から、徐々に秋のカラっとした乾燥した空気に入れ替わってきます。
気持ちいい空気なのですが、喘息の気管支は乾燥した空気がニガテです・・・

乾燥した空気を吸うと、気管支の細胞の中から水分が引っ張り出され、そのことが刺激になり炎症が起きてしまうのです。


ダニの影響

ハウスダスト

 

ダニは春から夏にかけてどんどん増殖しますが、秋になると徐々に死んでしまいます。
ダニが死んでしまうとその死骸は乾燥して軽くなり、空気中に舞い上がりやすくなってしまいます。
ダニのアレルギーは、その死骸を吸うことで症状が起きてしまうので、秋はダニのアレルギー症状が起きやすくなってしまうのです。

秋のウイルス

ウイルス

他にも秋から流行し始めるライノウイルス、その後流行るRSウイルス秋の流行ウイルスと知られており、この感染をきっかけに喘息が悪化するケースも増えてしまいます。

 

というわけで、そもそも台風が多くやってくる秋は、もともと喘息が悪くなりやすい季節でもあるのです。


では一方、台風との直接の関係はないのでしょうか?

 

気圧の低下と喘息は関係ない?

まずよく言われるのが、「気圧」との関係です。
気圧が下がると喘息が悪化するとよく言われています。

ただ気圧の低下だけでは、喘息の悪化はうまく説明できません。

例えば、高度が100m上がると、気圧は10ヘクトパスカル程度低下すると言われています。
横浜のランドマークタワーは高さ300mなので、上の展望台に登ると気圧が30ヘクトパスカル低下します。
地上の気圧が1010ヘクトパスカルだと、ランドマークタワーの展望室は980ヘクトパスカルになります。

そして、高尾山(標高約600m)に登ろうものなら、その頂上の気圧は950ヘクトパスカルです。

山登り

それってすでに強烈な台風の中心気圧ですよね。

それでもランドマークタワーで展望台にエレベーターで行った人、高尾山に登山をした人たちが喘息でバタバタ倒れるという話は聞きません。

気圧の低下そのもの「だけ」が原因となっているというのは、やや説明しにくいのです。

実際、喘息増悪で救急受診をした方の数と、その時の気象の状況の関係をしらべたデータでは、温度と湿度はやはり大きな影響があったものの、気圧の低下による影響は大きくなく、むしろ気圧の上昇の方が影響が大きかったというデータも出ているのですThe Journal of the Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine 1978; 42:1-13.


では、本当に喘息と台風は本当に関係ないのか?

でも、実際現場で診療に当たっていても、明らかに台風で喘息が悪化する方は少なくありません。
それはこの前の台風10号の時も同様でした。

この時はまだまだ空気は暑く、ジンメリとしており、とてもとても秋の空気ではありませんでした。
台風が近づいたり、やってきたその間も気温は急に下がることなく、ずーっと蒸し暑い状態でした。

まあ、ダニはいるでしょうが、それは台風より前とそう大きく状況は変わりませんね。


ということで、やはり「秋」というだけでは、説明がつかないのです。

そして、実際に「やはり台風と喘息の関係はある!」ということを示すことができる知見もあるのです。


台風で花粉症が悪化する!?

例えば、ある大学で定期的に診察を受けていた喘息患者58人のうち、17人が台風シーズンに悪化しました。
その人たちのスギ、ヒノキのIgE(いわゆる「アレルギー反応を起こす“バカ抗体”」)の数値が、その間悪化しなかった人よりも高かったことがわかりました。Association between typhoon and asthma symptoms in Japan. Respir Investig. 54: 216-9, 2016

スギ、ヒノキアレルギーのある人が台風で喘息が悪化しやすいのです。

でも、なぜ、台風と花粉が関係するのでしょうか?

実は、台風などによる嵐が起こると、湿度と雨風の衝撃によって花粉が膨張、破裂し、細かくなって「マイクロ花粉」となってしまうことで、より細い気管支の奥まで吸い込みやすくなってしまって喘息が悪化してしまうことが知られています(最近はこれらを「雷雨喘息」と呼ぶようです)。
「マイクロ花粉」は嵐のあとにも残っており台風一過の天気回復、吹き返しの風などでより空気中に飛び散りやすくなることで台風通過後にさらに暴露されるリスクが高まります。

台風喘息

台風の通過時、通過した後に喘息が悪化する理由の一つがこの「雷雨喘息」であると言えそうです。


台風になるとカビが舞う

台風喘息

また、2022年の報告では、台風による洪水と呼吸器症状の悪化の関係も指摘されており、都市部に水があふれることで下水道や排水溝に氾濫が起き、その結果そこにいるカビが増殖、まき散らされる可能性が指摘されました。Alexandra M. Peirce, et al. Climate Change Related Catastrophic Rainfall Events and Non-Communicable Respiratory Disease: A Systematic Review of the Literature. Climate 2022, 10(7), 101


また同時に、高温多湿の部屋の環境は、カビの増殖にとって好都合となり、Rorie, A.; Poole, J.A. The Role of Extreme Weather and Climate-Related Events on Asthma Outcomes. Immunol. Allergy Clin. N. Am. 2021, 41, 73–84. 台風による温かくて湿った空気の入り込みがカビの増殖を促し、喘息を悪化させるシナリオも考えられます。

 

「気象病」からも考えてみる

気象病

また「気象病」の観点からも考えなくてはなりません。

台風や低気圧は、喘息だけでなく、「頭痛」や「肩こり」、「めまい」、「関節痛」、「気分の落ち込み」など、様々な症状を引き起こします。

この原因は正直まだよくわかってはいないところも多いのですが、気温や気圧による自律神経のバランスが崩れるときに起きやすいと言われています。

その中でも、気圧の「変動のタイミング」が、ひとつの要因になっているのではという報告があります。

通常大気は、昼間に暖められたり、月の潮汐力によったりして、1日2回気圧の上下を繰り返しています(これを「大気潮汐」と呼びます)。
そして、低気圧が近づくと、この「大気潮汐」が大きくなるのです。

一方、低気圧が近づくと、気圧が数分から数十分の波で変化することが分かっています(これを「微気圧変動」といいます)。
低気圧が近づくと、これが1日に数回起こります。

人間は気圧の一定の変化に常に対応しながら生きているのですが、どうもこの「大気潮汐」「微気圧変動」が重なって、いつもの気圧変動との「ズレ」が起こったときに、体調の悪化を訴える方が増えるようなのです。日本医事新報 (5172): 34-39, 2023. 

そして、この気圧の敏感さは人それぞれで、そのために低気圧による影響も、やはり人それぞれになるのです。


台風が来ることの不安感も悪化の要因

台風喘息

また、喘息はメンタルも影響されると言われています。
不安やストレスが喘息の悪化に影響することは、良く知られた事実です。

台風のタイミングで喘息が悪化した経験をお持ちの方は、はるかかなたに台風が発生した時も、その事実によって不安な気持ちが大きくなり、喘息が悪くなってしまうことも当然ながら起きてしまうのです。



台風に負けないためには、結局は普段からのコントロール!

という訳で、「台風が喘息を悪化させる要因」を考えると、思いのほか複雑な要因があるんだなというのがお分かりいただけたかと思います。

ただ、共通して言えるのが「普段から喘息の調子が思わしくない方」「症状が不安定な方」が、やはり台風で喘息が悪化しやすくなってしまうということです。

普段、症状が良いからと、治療を止めてしまったり(残念ながら「症状が落ち着いたら治療を止めてください」と医師に言われてしまって、医師に言われた通りにしたがために悪化してしまう例も少なくないようなのですが・・・)、治療が弱すぎたり、また吸入薬がうまく使えずに十分に薬が届かないために不安定になったりすることで、台風、低気圧によって喘息が悪化してしまうリスクは残念ながら大きくなってしまいます。

喘息は一度悪化すると、改善するにも時間と労力、忍耐が必要となってしまうことも少なくありません。

喘息をお持ちの方は、ぜひ台風が襲ってくる前に、しっかりと喘息に詳しい医師のアドバイスのもとで万全の備えをしておきましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.09.01更新

昨日は茅ヶ崎でも豪雨が降り、至る所で冠水していました。

いろんな仕事が全く終わらず、私は夜までクリニックに残って残業でしたが、豪雨の時間帯は排水口からコポコポ音が止まらず、いつ大逆流を起こすか、ヒヤヒヤでした・・・
幸いその後雨が弱くなり、音も収まったのでホッとしましたが、いつ起こるかわからない災害、いつ起きても対応できるように備えておくことは必要ですね。


さて、最近も発熱・感染症外来は残念ながら大盛況です・・・

コロナ、インフルエンザは落ち着きつつありますが、今年の夏は溶連菌やRSウイルス、手足口病など、いろいろな感染症が見られるのが特徴なようです。

そして、最近急激に増えているのがマイコプラズマ感染症です。

そういやなんか「マイコプラズマ」ってすごい名前じゃないですか?
何となく「プラズマ」が「ビビビッ」って出てきそうな・・・(笑)
プラズマ

肺炎なのに体力がそれほど落ちず、マスコミでも最近「歩く肺炎」として話題になっていますが、やはり世の中の皆さんに詳しく知られているものではないようです。

そこで今回は、マイコプラズマについて、そしてその対策について、少し詳しくお話ししてみようと思います。


マイコプラズマはいったい何者?

マイコプラズマは、細菌の一種でありながら、他の細菌とは異なる特徴を持っている菌です。

例えば、一般的な細菌には「細胞壁」という構造があるのですが、マイコプラズマにはそれがありません。

細菌をやっつけるのには通常「抗菌薬」を使います(巷では「抗生物質」とか、「抗生剤」とかと言われやすいものですが、厳密には正確ではない言葉ですので、ここでは「抗菌薬」で統一します)。
「抗菌薬」にはいろいろな種類があるのですが、この中で「細菌の細胞壁を壊す」ことで、細菌を殺す薬剤があります。
これらの薬剤は「ペニシリン系」とか「セフェム系」と呼ばれる薬剤で、臨床の場では非常に多く使われています。

ということは、細胞壁をもたないマイコプラズマにはそのような抗菌薬が全く効果がないということになります。

マイコプラズマ

抗菌薬は本来、しっかり診察、検査をして、その結果導き出された(もしくは予想された)病原体に対し、適切な種類のものを使っていくことが必要なものです。
しかし残念ながら、「とりあえず抗生物質」という、あまり深く考えられずに抗菌薬が使用されているケースは少なくないというのが実情です(突き詰めると、感染症はめちゃめちゃ複雑であるということ、抗菌薬の種類も非常に多いこと、そしてそもそも感染症自体が薬による治療効果で良くなったのか、時間が経って勝手に治ったのかが結局良くわからず、治療している医師側にもフィードバックが非常に難しいという側面があることが、あまり興味を持ってもらえない原因なのかなって思っています)。
「とりあえず抗生物質」として出される抗菌薬がマイコプラズマに効果のないものだった場合、症状が治らず長引いてしまうことが少なくなく、治療の失敗が起きやすい肺炎であると言えるでしょう。

また、顕微鏡でも通常の細菌を観察する方法ではみることができないという特徴もあります。

「グラム染色」という、通常細菌を観察するために使う方法が使えないのです。
なぜならば「グラム染色」は細胞壁を染める方法だからです。

通常の細菌検査(痰の培養検査など)をしても、マイコプラズマは見えず、診断が簡単ではないのです。

加えて、マイコプラズマは「寄生をする菌」という点でも特徴的です。
つまり、人間の細胞に寄生し、その細胞から栄養を吸収して生き続けるため、マイコプラズマ感染症はしばしば慢性化しやすく、治療が長引くことがあるのです。

さらに、マイコプラズマは増殖が遅いという特徴もあります。
これにより、感染の初期段階では症状が現れにくく、診断が遅れることがあるのです(ただこの病状の進行の遅さが、マイコプラズマ感染症を他の急性細菌感染症と区別する一つのポイントにもなります)。


マイコプラズマはどんな症状?
咳

症状も他の肺炎、気管支炎とは少し異なる特徴を持っています。

マイコプラズマの初期の症状は風邪に似ており、咳や喉の痛み、鼻水などが見られます。
しかし、普通の風邪と異なり、マイコプラズマ感染症の咳はその後徐々に悪化し、そしてしつこく続くことが多く、時には数週間にわたることもあります。
また、子どもたちの間では高熱が出ることが一般的ですが、大人ではあまり熱が上がらないことも少なくありません。

一方、他の肺炎、気管支炎に見られるような「痰」は少ないという特徴もあります。

その理由をお話ししましょう。

マイコプラズマは気管支に入り込むと、気道の上皮(表面)に感染し、上皮で増殖します。
そしてあまり奥深くまでは入り込みません。

上皮の奥に、痰を出す粘液腺があるのですが、通常の肺炎と異なり、マイコプラズマはここまで届きません。
ですので、あまり痰がでないということなります。

しかし一方、マイコプラズマが気道のより表面側で増殖することが、咳を悪化させやすい原因になります。

気道の表面には線毛という細かい毛がびっしりと生えており、異物が入ると、この線毛が異物を追い出そうと動きます。
しかし線毛の動きが弱くなると異物は気道にとどまってしまいます。
すると異物は気管支に刺激を与え続け、咳が止まらなくなります。

さらには、刺激による炎症が続くと、今度は気管支の上皮が傷ついて剥がれ落ちてしまいます。
すると、中から神経線維が露出してしまい、今度は異物が神経を直接刺激するようになってしまいます。

さらに先ほど書いたように、マイコプラズマは寄生性をもっているので、なかなか息絶えることがありません。
長い期間体内にとどまることで、咳の影響が長期化してしまうのです。

 


マイコプラズマは診断が難しい・・・

では、そんなマイコプラズマ、どのように診断するのでしょうか?


実はそれがなかなか難しいのです。

悩む

先ほどお話をした症状の特徴乾いた咳が多い、痰が少ない、そして痰が少ない影響で聴診器から聴こえる呼吸の音がきれい)が判断材料となります。

またマイコプラズマはどちらかというと子供や若い方に広まりやすいと言われている感染症です。
子供や若い方で、病気を持っていないようなもともと元気な方が、上のような症状をきたしていたら、その可能性は高くなります。

またレントゲンやCTでもすこし他の肺炎とは違う特徴があるのですが、あまりにも専門的なので、ここでは飛ばしましょう(その都度医師に聞いてみてください)。

痰の検査など、培養検査では、先ほどお話をしたように通常の観察方法では見えないので、基本的には診断できません。

喉の粘液からDNAの解析を行う(コロナのPCR検査みたいなやつですね)検査もあるのですが、そもそも痰の少ないマイコプラズマは、菌が喉まで上がってこられず、偽陰性(感染しているのにマイナスと出てしまう確率)となりやすいとされています。

インフルやコロナみたいな迅速検査もあるにはあるのですが、特に大人ではやはり偽陰性となってしまうこと少なくなく、やはり決め手にはなっていないのが実情です。

採血で抗体検査をすることもできるのですが、結果がその日には出ないこと、感染したてだと数値が上がらないことがあることから、どちらかというと事後確認に使う検査です。

ということで、マイコプラズマの診断は、未だに医師の知識、経験とカンに頼る要素が大きいと言わざるを得ないのです。



どうやって治療するの?

先ほどお話をしたように、よく使われる「ペニシリン系」「セフェム系」の抗菌薬は、マイコプラズマには全く効果がありません。
まず使われるのは「マクロライド系」の抗菌薬です(一般名で言うと「クラリスロマイシン」「アジスロマイシン」、商品名で言うと「クラリス」「クラリシッド」「ジスロマック」などです)。

ただ「マクロライド系」の抗菌薬はどちらかというと、「細菌の増殖を抑える」という、ややマイルドな効き方をするので、効果が出るのにやや時間がかかることがあります。
また粘膜が傷ついて上皮がはがれてしまっている状態の場合は、菌が除去できても上皮が再生されるまで咳が残ってしまうこともあり、状況によっては症状が良くなると実感できるまでに結構時間がかかることもあります。

この他にも「マクロライド系」が使いづらい場合(副作用が出る場合や、一度使ってみたものの効きが悪い場合など)は「テトラサイクリン系「ミノマイシン」など)」や「キノロン系「クラビット」「ジェニナック」など)も使用することがあります(が、これらの抗菌薬をやたらと使ってしまうことは好ましくありません。その理由はこちら


どうやって予防するの?

マイコプラズマ飛沫感染、つまり、感染者が咳やくしゃみをすることで、周りの人に菌を広めます。
特に学校や会社など、人が集まる場所は、感染が急速に広がりやすい環境です。

しかし、先ほどお話をしたように、症状が急には悪くならないので、最初は軽い風邪のような症状のことも多いのです。
そのような状態で「これくらいなら大丈夫だろう」少し無理をして学校や会社に行ってしまう人がいると、その周りの人にどんどん広がってしまうという危険性があるのです。

また、咳エチケットとして、咳やくしゃみがある際には、マスクをしっかりとつけることを守りましょう。
マイコプラズマ私達医師が検査を駆使しても診断は簡単ではありません。
素人の方の症状からの判断ではまず無理です。

咳が出たら「マイコプラズマかもしれない」との認識をもって、周りへ気をつかっていただくようお願いします。

そして感染が少しでも疑われる場合には、無理に学校や仕事に行かず、自宅で休養を取り、感染を広げないようにすることが大切です。
咳の診断をつけるためにも、咳に詳しい医療機関に早めにかかることも大切でしょう。

そして予防としては、手洗いやうがいが基本で、これはあくまで一般的な風邪やコロナ、インフルエンザなどの対策と同様です。


ということで少し長くなってしまいましたが、マイコプラズマに関して少し詳しめに書いてみました。

咳がなかなか良くならない、だんだんひどくなってきた、というときは、是非こじらせる前に咳に詳しい医療機関にご相談ください!


最後に!

当院では9月から新しい料金あと払いシステム「クロンスマートパス」を導入します。

新システムでは、従来必要だった患者様の手数料負担がなくなります!

今まで、診察終了後のお待ち時間について多くのご意見を頂いておりましたが、ご登録いただくクレジットカードで支払いが完了しますので、お帰りまでのお待ち時間が大幅に短くなります!

もう当院では、皆さんへのアピール準備はばっちりです!

クロンスマートパス

もう一度言います、
「手数料タダです!」

是非ご利用ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.08.19更新

当院は1週間の夏期休診を経て、本日から診療を再開しました。

私もこの1週間は温泉でリフレッシュしてきました(リフレッシュしすぎて今日職場に戻るのが非常に大変なメンタルでした・・・)

温泉でゆっくりしながら子供たちとプールではしゃいだりしてきました。

吹きガラス体験で、迷わずビールグラスを作ることを選択し、早速堪能しています。あー、うめぇ~

xxx


さて、そんな今年の夏は、ご存知の通り7月からずーーーっと猛暑です・・・

きわめて熱中症になりやすい状況に加え、コロナ、溶連菌、RSウイルス、そしてマイコプラズマと、発熱をきたす方が非常に多い状態で、発熱・感染症外来は阿鼻叫喚の状態です・・・


そんな状況の中、熱が出た際、それが熱中症によるものなのか、感染症によるものなのか、悩まれる方も少なくないようです。

ですので、今回は今、誰にでも起きうる熱中症にフォーカスを当てて、どうして起こるのか?、感染症との違いは?という点をお話ししてみようかと思います。

 

熱中症は「脱水」から・・・


それでは、まずは熱中症のメカニズムについてお話ししてみましょう。

私たちの体は常に一定の温度、だいたい36.5℃から37℃の間を保つように調整されています。
これは、体内の化学反応が最適に進むために必要な温度だからです。


そして暑い環境になると、私たちの体はこの温度を維持するために、過剰な熱を冷やそうと一生懸命になります。

その最も一般的な方法が「汗をかくこと」です。
発汗によって体表面から水分が蒸発し、その時に生じる「気化熱」で体内の熱が逃げていきます。

このプロセスは非常に効果的で、私たちが暑い環境で長時間過ごすときに体温を保つためには欠かせないものです。


しかし、この「汗をかく」という行為は、体内の水分を大量に消費してしまうという側面もあります。

しかも汗には水分だけでなく、ナトリウムなどの電解質も含まれています。
汗を大量にかくことによって水分、電解質が体外に出てしまうと、体の中ではそれらのバランスが崩れてしまいます。

とても暑い環境で大量に汗をかくと、水分、電解質がどんどん失われ、やがて体が脱水状態に陥ってしまうのです。


そして脱水状態は、体の中で以下のような変化を引き起こします。

血液が濃縮してドロドロに・・・

まず、血液の量が減少します。
血液は体内の水分が重要な構成要素の一つであり、水分が失われると血液が濃縮されてしまいます。
これにより、血液がドロドロになり、血液循環が悪くなります。

さらに、心臓はこの濃縮された血液を体全体に送り出すために、より強く、より速く働かなければならなくなりますが、これが体にとって大きな負担となります。

また、脱水が進むと、体は汗をかく量を減らそうとしますが、これがさらに体温の上昇を引き起こしてしまいます。
汗をかけないと、体は熱を逃がすことができず、体温がどんどん上がってしまいます。


この状態が熱中症です。

そして最終的には、体が水分を保持しようとするあまり、尿の量も減少し、体内に老廃物が溜まってしまうという悪循環に陥ってしまうのです。


更なる体温上昇が脳に異変を起こす

加えて、暑い中で長時間活動したり、運動したりすると、筋肉が活動することで体内に熱が生まれます。
の熱も体温上昇に寄与し、体がますます熱を持ってしまいます。

ここで問題が発生するのが、脳の視床下部という部分にある「体温調節中枢」です。

ここは、体温を一定に保つための司令塔のような役割を果たしていて、暑いときには汗をかかせたり、寒いときには震えを起こさせたりして、体温を調節しています。
視床下部は、体内からのさまざまな信号を受け取り、それに応じて体温を適切に保つよう指示を出しているのです。

しかし、体温が極端に上昇すると、この視床下部自体が熱の影響を受け始めます。

例えば、暑さで体温が上がりすぎた場合、本来であれば視床下部が「もっと汗をかいて体を冷やさなければいけない」と指示を出すはずです。

しかし、視床下部は非常にデリケートな組織で、体温が上がりすぎると、その働きが鈍くなったり、誤作動を起こしたりすることがあります。
脳の神経細胞が過熱により正常に機能しなくなると、視床下部が指示が正確に出せなくなり、汗の分泌が減ってしまったり、逆に適切な体温調節のための行動が取れなくなったりするのです。

さらに体温が上がり続けると、体全体の代謝が異常に活発化し、内臓や脳などの重要な臓器にも負担がかかります。
この時点で、視床下部はすでに正常に働けなくなっているため、体は自分を冷やす手段をほとんど失ってしまいます。

これは非常に危険な状態で、熱中症の重篤な症状、例えば意識障害や痙攣などが引き起こされる原因となります。


要するに、体温が上昇しすぎると、体温を管理する視床下部自体が熱によってダメージを受け、正確に体温をコントロールできなくなってしまうのです。

熱中症になってしまったら?

では、熱中症になってしまった場合は、どのようにすればよいのでしょうか?

まず、熱中症の兆候を感じたら、できるだけ早く涼しい場所に移動することが大切です。

例えば、エアコンの効いた部屋や日陰に移ることで、体がこれ以上熱を持たないようにすることができます。
外にいる場合は、木陰や建物の陰など、直射日光を避けられる場所が理想です。
このとき、できるだけ身体を冷やす方法を探しましょう。
服を緩めたり、風通しを良くしたりすると、体が熱を放散しやすくなります。


次に、水分補給が非常に重要です。

熱中症になると、体内の水分と電解質が大量に失われるため、これを補う必要があります。

できれば、スポーツドリンクや経口補水液など、電解質を含んだ飲み物が効果的です。
水だけではなく、塩分も一緒に補給することで、体のバランスが早く回復します。

しかし、一度に大量の水を飲むと胃腸に負担がかかるため、少しずつ頻繁に飲むことが望ましいです。

もし、体温がかなり高く、意識がはっきりしない場合は、すぐに医療機関に連絡する必要があります。
病院では、点滴での水分補給や、氷水での冷却が行われることがあります。
これらの処置により、体温を急速に下げ、体内の水分と電解質のバランスを回復させることができます。

また、意識がある場合は、冷たいタオルや氷嚢を使って首や脇の下、太ももの付け根など、大きな血管が通っている場所を冷やすと効果的です。
これにより、体の中心部分の熱を効率よく下げることができます。

無理は禁物!

一方で無理に水を飲ませたり、体温を急激に下げるような行為は避けるべきです。

例えば、氷水に入れるなどの方法は、かえって血管が収縮してしまい、体の中心部分の熱がこもる原因になることがあります。
また、意識が朦朧としている場合に無理に水を飲ませると、誤嚥のリスクがあるため、慎重に対応する必要があります。


熱中症と感染症の見分け方

では最後に、このような熱中症と、同じく熱が出る感染症、どの様に見分けたらいいのでしょうか、ポイントをいくつか挙げてみましょう。

 

熱中症はいきなり来る


まず重要なポイントの一つ目は、症状が現れるまでの状況と経過です。

例えば、暑い日や運動後に、比較的速やかに体調が悪くなり、高熱が出た場合は、熱中症の可能性が高いです。

一方、感染症の場合は、その熱は体内に侵入してきたウイルスや細菌が体内で戦いを繰り広げ、その結果炎症を起こすために生じるものですので、通常は徐々に症状が現れ、熱もそれにつれて高くなってきます。

 

感染症は症状が多彩


また症状にも違いがあります。

感染症の場合、先ほど述べた、「炎症」が原因となるので、発熱に加えて、炎症の症状、つまり咳や喉の痛み、鼻水、関節痛や筋肉痛などを伴うことが多くなります。
また、感染症ではしばしばリンパ節が腫れることがありますが、これも体が病原体と戦っているサインでであることが多いです。

一方熱中症では、このような炎症の症状がみられることは少ないです。


熱の出方も見分けるポイント

また発熱の仕方にも違いが現れます。

熱中症では、急激に体温が上がり、皮膚が熱くて乾燥していることが多くなります。

一方感染症では、通常は体温が徐々に上がり、むしろ汗をかいて体温を下げようとする体の反応が見られるので、皮膚は湿っていることが多くなります。

また、感染症の場合、発熱に伴って寒気や震えを感じることが多いですが、これは熱中症ではあまり見られない特徴です。


こまったらすぐ相談を!

ただ、とはいえこれらの見極めがカンタンではないことも少なくありません。

最終的に、熱中症と感染症の鑑別は我々医師による診断が必要となります。
ただ、すぐに受診できる状況でないこともありえますし、特に重症の熱中症は手当が遅れると脳障害が残るなど大変なこととなってしまうことがあり、周りにいる皆さんの早期の処置が大きな効果を生むこともあるのです。

どちらか疑わしいときは、まずはすぐに涼しい場所に移動して水分、塩分を補給し、早めに医療機関を受診してただくことで、重症化を食い止めて頂くことを是非ともお願いしたいと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.08.01更新

「ステロイド」に関するブログ、前回まではこちら!

1.2024.7.3 増えるコロナ、喘息悪化・・・そんな時の切り札、「ステロイド」って何?
2.2024.7.10 ステロイド、長く「飲み」続けると何が起こる? 

2024年が始まったと思ったら、もう8月ですね・・・

開催前は周りでそれほど話題にはなっていなかったオリンピックも、いざ始まると皆さんテレビの前に釘付けのようで、当院にも眠い目をこすりつついらっしゃる患者さんが少なからずいらっしゃるようです。

私も4年に1回の大イベントを堪能したいと思ってはいるのですが、何せ7月は当院に2700人以上の患者様にお越しいただきました・・・。

連日開始から終了までのノンストップ診察を終え、帰宅後食事、風呂を速攻済ませ、子供の寝付かせを終えた後に気合を入れてテレビ前に鎮座するも、連日30分で寝落ちknock out・・・
結局翌日朝のyahooニュースに一喜一憂する日々です・・・(笑)


さて、前回は飲み薬や注射、つまり「全身ステロイド投与」について、長く続けているとどういう問題が起こるのかということを書きました。

「ステロイド」は、副腎皮質で作る「コルチゾール」という、生きていくのに不可欠なホルモンをまねられて作られており、ステロイドが血流にのって全身を巡ってしまうと、脳や副腎皮質にも届いてしまい、「コルチゾール」の分泌に影響を与えてしまうことが問題だったのでした。


さて、「ステロイド」には、ほかにも「塗り薬」「目薬」「点鼻薬」などの「外用剤」という剤型もあります。

そして、呼吸器、アレルギー疾患の方によく使われるわれらが「吸入薬」も、これらの「外用薬」に含まれます。


今回は、この「吸入薬」としてのステロイド、長く使って大丈夫なの??という疑問にお答えしようと思います。

で、最初から結論!

吸入ステロイド薬は、通常の使い方ならずっと使ってて大丈夫です!!


気管支喘息は、気管支に炎症が起きて、気管支の壁がむくむことで内腔が狭くなってしまう病気です。

今から30~40年以上前までは、気管支喘息の治療は、狭くなった気管支を広げる吸入薬や飲み薬などを使うことが中心で、そもそも狭くなる原因となった気管支の炎症に対してはほぼ手つかずでした。
「ステロイド」が炎症に効くことはわかってはいたのですが、まだステロイドは飲み薬や注射薬でしか使用できない時代だったのです。


おいそれと全身ステロイド投与を簡単にするわけにもいかず、そのため今よりも喘息はずっと悪化しやすく、また悪化したときもその状態を改善させるのが大変難しい時代でした。

症状がコントロールできずに、結局やむを得ず飲み薬や注射のステロイド薬を長期で使うことも多々ありましたが、そうすると前回書いたような副作用の問題が起きてしまい、実際これらの副作用に苦しんだ喘息の方が少なからずいらっしゃったのです(私はこの時代の治療を見てはいないのですが・・・)。


そんな喘息に効くステロイドを、どうにかして副作用なく喘息の治療に使うことができないものか・・・そんな中で開発されたのが「吸入ステロイド」でした。
そして1993年に吸入ステロイド薬が治療ガイドラインに掲載されたことで、喘息の治療は大転換点を迎えました。


吸入ステロイド薬の普及に伴い、喘息の症状は著しくコントロールできるようになりました。
喘息の死亡者数も90年代の7000人台から、2020年代には1000人を切るかどうかというところまで治療が進化しました。

更には、飲み薬のステロイドを使用するケースも以前と比べて大きく減ったため、これらの副作用に苦しむ人も大幅に少なくなったのです。


吸入と飲み薬で違うポイント

では、なぜ吸入ステロイドはそんなに喘息に対して効果的なのでしょうか?

それは、吸入薬が炎症を起こしている気管支にダイレクトに届くように設計された方です。


吸入薬は全身に巡らない

ステロイドを飲み薬で「内服」した場合、その成分は一旦血液に乗り、全身を巡った後に肺に到達して気道の炎症を鎮めます。

ただその経路は非常に長く、またもちろん他の部分にも広がってしまうために、非効率な面もありました(ただ現在でも、喘息が悪化したときや、最重症の喘息の方の治療では、飲み薬や点滴のステロイドを使うことがあります。喘息の悪化時や、非常に症状が重い場合は、気管支以外でも全身のあらゆる部位に炎症が起きているため、ステロイドを全身に巡らせることが有効な面があるからです)。

一方、吸入ステロイドは、ステロイドを効率よく直接気管支に届けることができます。
そのため、使用するステロイドの量を、内服の1/10の量まで減らすことができるようになりました。

また、これらのステロイドは気管支にさえ効いてしまえば、その後全身に巡る必要がない成分となります。
そのため、これらのステロイドが気管支から吸収されて、役割を終えて血液に乗っかった後に、その成分の90%が肝臓で分解されて、全身に巡らないようになるよう設計されました(考えた人、すごいですよね!)。


そうすると計算上、吸入ステロイドは内服ステロイドの1/10 × 1/10 =1/100 しか全身に巡らないことになります。

これくらいでは通常、副腎皮質も大した影響をうけません。
ルチゾールの産生、分泌への影響も非常に小さくなるので、前回お書きした「全身ステロイドを長期に使用した場合の副作用」が非常に起きにくくなるというわけなのです。


とは言えど、何も副作用がない夢の薬は存在しません。

吸入ステロイド薬にも気を付けるべき点はありますので、それとその対処方法について書いてみようと思います。


声がれ

まずは一番多い副作用、声がれです。

これは吸入したステロイドが喉頭の筋肉に付いて、筋肉の力が落ちてしまう(ステロイド筋症)現象や、声帯に吸入ステロイド薬がついてしまい、声帯にカンジダというカビが生えてしまったりすることが原因と言われています。

よく「吸入をした後はうがいをしてください」と指導しますが、残念ながらうがいの水は声帯や喉頭の筋肉まで届かないため、声がれに対してはうがいの効果は大きくないと考えられています。岡田 章,他:吸入ステロイド薬の副作用である嗄声発現の要因解析.医療薬学40:716-725, 2014
ただうがいは非常に大事です。その理由は後で出てきます。

声がれが起きてしまったときには

使用する「前」にうがいをする(粘膜が湿っていると薬が付きづらくなります)
吸入薬を変更する(パウダーよりスプレー剤のほうが、粒子径が大きいより小さい方が、薬が付着しにくい傾向があるといわれています。また個々の吸入のやり方や、口、喉の形の違いでも、吸入薬によっての向き不向きもあるのです)
スペーサー(スプレー剤の吸入薬を、筒を挟んで使用する)を用いる
・吸入するときに舌の位置を下げる「ホー吸入」といって、吸入前に「ホー」と言ったまま吸入すると舌の位置が下がります)
・少し上を向いて吸入する(下を向いて吸入すると喉の角度がつきすぎて吸入薬がのどの奥にぶつかってしまう)

などの対処方法があります(だた実際はもっと複雑で、実際に吸入しているところを見させて頂かないと声がれの原因は正確には突き止められないため、こちらでご紹介した方法が必ずしも改善にはつながらないかもしれません。お困りの際は、処方した医師や薬剤師にお早めにご相談頂くことが大事です)。


口内炎、口腔/食道カンジダ症

また、吸入薬が口の中に付着して残ると、口の中にカンジダが生えたり、口内炎が起こりやすくなったりします。

これを防ぐのにうがいは非常に大事になります。

完全に口の中から薬を取り除くにはうがいを4回行うことが必要とされていますが、正直めんどくさいものです。

 

水などの飲み物を少し口に含んだあとに飲んでしまうのでも有効ですし、吸入した後に食事をして食べ物と一緒に薬を粘膜から落としてしまうのも効果的です。

カンジダはしばしば食道にも付着しますが、吸入の後の食事はこれにも有効に働きます。

 


身長の伸びがやや遅れることがある

子供では、長期にステロイド吸入薬を使用することで、1年後の身長の伸びが1~2cm小さくなることが報告されています。

ただ成人になった時にはその差はなくなっているとされていますし、それを避けるために喘息をコントロールしないことのほうがはるかにリスクが高いですので、このことを理由に吸入をやめるべきではないと思います。

 

肺炎のリスクが増える(?)

吸入ステロイド薬がわずかながら肺炎のリスクを増やすとの意見もありますが、最近ではそれを否定する報告も出ています。Tuberc Respir Dis. 2023 Jul;86(3):151-157
肺炎のリスクが増えるとの報告の中でも、そのリスクはわずかで、かつ重症な肺炎にはならないとされているので、大きく心配をすることもないかとは思います。

 

時に軽いながらも、全身性の副作用も

病状によって吸入ステロイドの量は使い分ける必要があるのですが、多い量を使い続けると、さすがに少しずつ「コルチゾール」の分泌に影響を与えたり、全身へのステロイドの副作用がおこる可能性は多少出てきます。
ですので、状態や環境、季節によって適切に薬を減らしていくことが必要になってきます。


でもやっぱり、吸入ステロイドは大事!

一方不適切な薬の減量、中止はもちろん喘息の悪化を招き、結局吸入ステロイドを増やしたり、全身ステロイド投与をせざるを得なくなったりします。


先ほどもお話ししたように全身を巡る吸入ステロイドは微量なので、例え副作用が起こったとしても軽いものです。
喘息が悪化するよりはよっぽどましですので、しっかりと経験、知識を持っている医師のもとで適切に薬をうまくコントロールして、指示通りに治療を続けてもらうことが大事なことは言うまでもありません。


というわけで吸入ステロイド、「ステロイド」という名前が付くだけにどうしても不安を抱かせやすいことが多いのですが、その不安や誤解を少しでも解消していただければうれしいです!

私のことは嫌いでも、吸入ステロイドのことは嫌いにならないでください!(もうだいぶ古くね)

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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