暑かった夏もようやく終わりに向かっているようで、朝晩は涼しくなる日もだいぶ増えてきました。
過ごしやすくなったのはいいのですが、我々呼吸器内科医にとっては、例年これからの季節がホントに忙しくなるシーズンです・・・。
前回のブログでもお話をしたように、この時期は台風の来襲や気候の変化による咳の悪化が増えますし、何より寒くなってくると、様々な感染症が流行りはじめ、またこれがきっかけとなり咳が悪化するケースが増えてしまうのです・・・
とはいえ呼吸器内科としては本来閑散期だったはずの今年の春、夏も、咳や痰などの方がずーっと途切れることなくいらっしゃった当院、今後新たにいらっしゃる咳の方、それに咳が悪化したおかかりつけの方に、本来の呼吸器内科のトップシーズンである秋、冬に向けて、どのように患者様にとってストレスの少ない診療機会をご用意しようか、夜も休みもずーっと考える日々です(そういや最近、夢でもそんな内容をずっと見ています。起きた瞬間に夢で思いついたアイデアを忘れる前にリマインダーアプリに書き込んで、アプリ内のアイデアがどんどん増えていっています。いくつかすでに実行に移しているものも。自分で言うのもなんですが、おいらやっぱ頭ちょっとおかしいかもw)。
以前のブログでもすでにお知らせをさせて頂いておりますが、当院では9月より新しい手数料不要の医療費あと払いシステム「クロンスマートパス」を導入しております。
診察終了後、速やかにお帰り頂ける医療費あと払いシステムに加え、お待ちいただく際にLINEでお呼びするまで外出してお待ちいただける「LINE呼び出しシステム」もご用意して、極力患者様が院内でお待ちいただく必要がないシステムを構築し、一人でも多くの患者様にストレスの少ない来院、診療の機会を提供できるように頑張っております。
とはいえやはり、「症状が悪化しない、皆さん安定している」ことが、もちろん患者様にとっても、そして私たちにとっても一番です。
風邪などの感染症がその悪化の一大要因である以上、やはりこれからの時期、「感染対策」がとっても大事になってくるのです。
2024年の今年は、秋からインフルエンザ、コロナの定期接種が始まります。
当院でも10月中旬から接種を開始する予定です。
当院の接種体制については、こちらのページをご参照ください!
コロナワクチンは、昨年までは主にファイザー社製「コミナティ」、モデルナ社製「スパイクバックス」のmRNAワクチンが用いられてきました(世間では「コミナティ」「スパイクバックス」という名前はあまり知られていないので、ここから先はわかりやすく、世間で呼ばれているように、「ファイザー」「モデルナ」と呼んでしまうことにしましょう)
※mRNAワクチンの仕組みなどについてはこちら!
今年は、扱えるワクチンが増えて、5種類のワクチンが扱えることになりました。
そして当院では今年、従来のファイザーに加え、新たに武田薬品から発売される「ヌバキソビッド」という名前のワクチンを扱うことにいたしました。
今回はその新しい「ヌバキソビッド」について少しお話してみようと思います。
「ヌバキソビッド」ってどんなワクチン?
ってか、またインパクトの強い、覚えにくい名前のワクチンが出てきましたね・・・
いったいこのワクチン、何者なのでしょうか・・・?
「ヌバキソビッド」は、現在日本で使用できるコロナワクチンの中で、唯一「mRNA」を用いないワクチンです。
ワクチンの種類としては「組み換えタンパクワクチン」と呼ばれるものです。
実はこのワクチンは2年前からノババックス社から発売されていたワクチンとして、(細々とですが)すでに使用されていたものです。
今回武田薬品がノババックスから技術移管を受けて、国内で製造したワクチンになります。
接種の方法はファイザー、モデルナと同じく筋肉注射で、過去にコロナワクチン(どの種類でも)を接種されている方は、前回の接種から6ヵ月以上空けて1回、一度もコロナワクチンを接種した事がない方は、1回目の接種後4週間空けて2回目の接種をすることとなっています。
「組み換えタンパクワクチン」とは?
今回用いられている「組み換えタンパクワクチン」というのはどのような仕組みでしょうか?
「組み換えタンパクワクチン」は、ウイルス自体を使用せずに、ウイルスの一部だけを人工的に作り出して、それをワクチンとして利用する方法です。
コロナウイルスは、こちらでもお話をしたように、ウイルスの表面にある「スパイクタンパク」が免疫反応の時の標的になります。
まずこのスパイクタンパクを作るための遺伝子情報を動物の細胞に組み込み(=組み換え)ます。
するとこの細胞が「組み換えた」遺伝子情報を利用して、スパイクタンパクを作り出します(なので「組み換えタンパクワクチン」という名前がついているのです)。
細胞が作ったスパイクタンパクを集め、不純物を取り除き、そこに免疫を起こさせやすくする仕組みを加えて(これを「アジュバント」と言います)ワクチンにしていきます。
「アジュバント」を入れることによって免疫系がより強い反応を起こし、長期的な免疫記憶が作られやすくなります。
「組み換えタンパクワクチン」のメリットは?
ワクチンにはこの「タンパク組み換えワクチン」、従来のコロナワクチンである「mRNAワクチン」のほかに、弱らせた病原体をそのまま使用する「生ワクチン」、病原体そのものを利用するものの、その病原体に感染力や病原性を持たせないように処理をして使用する「不活化ワクチン」などがあります。
そのなかで、「組み換えタンパクワクチン」は、ウイルス自体を使用しないために、非常に安全性が高いというメリットがあります。
また、「mRNAワクチン」は今回のコロナワクチンで初めて実用化された技術ですが、「組み換えタンパクワクチン」は、B型肝炎ワクチン、子宮頸がんワクチンなどですでに以前から実用化されていた技術で、作る際のノウハウがしっかりしている、効果や副反応の傾向が読みやすいというメリットもあります。
副反応も、mRNAワクチンと比べてやや少ないのではと言われています。
直接比較をしたデータではないので参考程度にはなるのですが(カッコ内はファイザー製「コミナティ」のデータ)、注射部位の痛みが61.5%(85.6%)、頭痛50.1%(59.4%),筋肉痛50.7%(39.1%)で発熱は10%未満(16.8%)と、筋肉痛はやや多いものの、発熱などの副作用はやや軽そうな印象を受けます。
海外で2021~2022年に行われた臨床試験(2019nCoV-301試験)では、初回接種の18歳以上の方でワクチン接種がコロナの発症を90%抑え(つまり発症を1/10にし)、日本人の試験でも初回接種(TAK-019-1501試験)、追加接種(TAK-019-3001試験)いずれも中和抗体を大きく増加させるという、有効な結果が出ています。
ただ、追加接種の発症予防効果、重症化予防効果のデータが少ないのは気がかりなのですが・・・。
で、どっちを打ったらいいの?
さて、そうすると今までのファイザー、モデルナのワクチンと、武田のワクチン「ヌバキソビッド」、どっちを打った方がいいのでしょうか?
その差は大きなものではないのですが、やはりデータの多さはファイザー、モデルナに軍配が挙がります。
例えばファイザーでは、昨年のXBB1.5株に対応したワクチン接種をしたことによって、昨年9~11月のXBB株流行期に入院を60%、コロナでの外来受診の頻度を35%減らしたデータが出ています。
また最新データである今年1月のJN.1株(今回のワクチンの基になった株です)流行期(つまりXBB株からすでに変異してしまったタイミングだったですが)でも、入院を35%、コロナの外来受診を25%減らしたというデータも出ています。
このように、ファイザー(それにモデルナ)は、やはり効果、副反応のデータが蓄積されており、豊富であることが、いちばんの強みです。
対して「ヌバキソビッド」も有効なデータはしっかりとあるのですが、実際の予防効果を示すデータの元がやや古く、現在流行している変異株に対するデータが少ないことは多少の弱みかもしれません。
そのような点からは、今までファイザー、モデルナといった「mRNAワクチン」を接種し、大きな問題が起きなかった方は、基本的に今回もファイザー、モデルナを選択されるとよいのかなと思います。
では、ヌバキソビッドを選ぶ場面は?
ただ、「ヌバキソビッド」はファイザー、モデルナよりも総じて副反応の頻度が少ないと考えられています。
また仕組みも全く違うため、ファイザーやモデルナで副反応が出た方も、ヌバキソビッドでは副反応が余り出ない可能性もあり得ます(もちろんその逆もありえますが・・・)
いままでファイザーやモデルナなどで、高熱や激しい倦怠感など、強い副反応が出た方や、接種はしたかったもののそんな話を聞いて不安になり、今まで接種できていなかった方にとっては、「ヌバキソビッド」は良い選択肢になるかもしれません。
また「mRNAワクチン」ではなく、先ほどもお話ししたようにすでに他のワクチンで使われている「組み換えタンパクワクチン」であることから、(その根拠はともかく)何となくmRNAワクチンに不安を抱いている方にも有力な選択肢になるかと思います。
どっちを選んでも決定的な違いはないのですが、これらを判断材料に、納得いかれる方を選んでください!
さいごに・・・
今後の秋からのコロナワクチン接種開始に先立って。
最近はコロナワクチンの話題となると、(だいたいWeb上なのですが)何だか論争めいた雰囲気になることが少なくありません(自分が巻き込まれたわけではないのですが、なんだか見てるだけで疲れます・・・)。
もちろんコロナワクチンを含め、すべての薬剤に100%の安全はなく、コロナワクチンで大変な思いをした方がいらっしゃるのも事実です。
一方こちらはパッと見では見えにくいのですが、実際はコロナワクチンで助かった人が少なからずいることも、客観的にデータを読めば明らかなのです。
ただ今回からは自費接種ともなり、今後のコロナワクチン接種については、その経済的負担も無視はできません。
それらを踏まえて、「打つ」、「打たない」は皆さん一人ひとりがよく考えて、自らの意思で決めて頂きたいのです。
そしてぜひともワクチンを「打つ」と考える方、「打たない」と考える方が、それぞれ相手の立場を尊重して(もちろん大多数の方がすでにそうなのですが)、お互いが不安や嫌な気持ちに陥らないように、みんなが配慮できる世の中であってほしいなと、切に願っています。