医師ブログ

2020.08.04更新

今日の午後、いつものように診療をおこなっていたところ、数名の患者さんから「イソジンってコロナに効くんですか?」という質問を立て続けにお受けしました。
そんな話は聞いたこともなかったので、頭の中が「???」となりました。
でも何故にみなさん聞く??

後になりニュースを見て納得。
どうも大阪府の吉村知事が「ポピヨンヨードによるうがいがコロナのPCR陽性率を減らす。ポピヨンヨードによるうがいを励行する」といった内容の記者会見を行ったようです。

診療終了後家に帰り、その会見を詳しく見てみました。
曰く、“コロナ陽性の軽症患者さんにポピヨンヨードで1日4回うがいをしたところ、うがい前の唾液で行ったPCRで陽性率が40%から9%に大幅に減った。もしかしたら重症化も抑えられる「かもしれない」のではないか“とのこと。

私が最初に思ったこと。「そりゃ陽性率は減るだろうね。んで?」

ポピヨンヨードは抗微生物作用があります。抗ウイルス効果もおそらくはあるでしょう。
今回は唾液でPCRを行った研究とのことで、うがいにより口腔内のウイルス量は減る可能性があることは十分にありえるとは思います。その結果PCRも陰性になりやすくはなるでしょう。

ただし、これが何を意味しているかということを冷静に考える必要があります。

前回のブログでも書いたように、ウイルス感染症は基本的には全身感染症です。
鼻や気道、口、もしくは目などの粘膜から細胞内に侵入し、そこから全身に広がっていきます。
ですので、症状はもともとの侵入経路の部位だけでなく、全身倦怠感、関節痛、肺炎など全身に、多種多様にわたることが多いのです。

ですので、うがいにより口の中のウイルス量は減るかもしれませんが、全身のウイルス量が減ることとは当然イコールになりません。

また例え全身のウイルス量が減ったとしても、それが病気の予後を改善するとイコールであるとの確証も全くありません(今回はうがいにより重症患者が減ったという研究結果ではなく、重症化予防との因果関係はまだ何もわかっていません)。

ここまでで、現時点で言えることは

・イソジンは、軽症コロナ患者の唾液によるPCRの陰性化を促すことはできるかもしれない
・イソジンが、コロナの重症化を抑える根拠は何もない

ということです。

次に、今回の会見では「飛沫感染の頻度の低下の可能性」についても述べられていました。

感染者に関しては、確かに唾液内のウイルス量が減ることで「他者へ感染させる危険性」が減る可能性はあるかもしれません(しかしこれもあくまで推論です。裏付けるデータは何も出ていません)。
ただ、うがいをすることにより、「他者からの感染の可能性」を減らせるかということに関しては、今回の情報からは何もわかりません(というよりも何も検討されていません)。
また、ポピドンヨードのうがいによる感染予防に関しては、いままで否定的なデータも出ています。
水によるうがいに比べて、ポピドンヨードによるうがいでは風邪を防ぐことができなかったというデータがあります。Am J Prev Med 2005;29(4)

口の中は常に細菌が大量にいます。
これらはすべてが有害ではなく、無害な菌も多いのです。体の中はこのような場所が多くあり、有害な菌、無害な菌がバランスよく存在することで均衡を保ち(これを正常細菌叢「せいじょうさいきんそう」といいます)、粘膜の防御機能を保っています。
ポピドンヨードはこれらを一気に排除します。
一時的には菌もウイルスも減るでしょうが、そのような環境では正常な粘膜の抵抗力が失われてしまうケースがあり、これがむしろウイルスの侵入経路となってしまう可能性があるのです。
殺菌、殺ウイルス効果が、粘膜機能低下よりも強く出るとは示せなかったというのが、この試験の結果だったということになるわけです(今回の会見で知事が「決してうがいは害になるものではない」と何度も言及していましたが、必ずしもそうとは限らない、ということですね)。

ここから考えると、

・イソジンは、他者への感染を減らす効果はあるかもしれないが、まだわからない
・イソジンは、感染予防効果があるかどうかは全くわからない(むしろ不利になる可能性も否定できない)

ということが言えると思います。

あわせて、気を付けなければならないのが、このうがい薬を使わないほうがいい人もいることです。
まずは甲状腺機能低下症の方。この状態の方は、ヨードの過剰摂取でホルモン産生が減ってしまい、症状を悪化する可能性があります。
また妊娠中の方も、ヨードを過剰摂取することにより、ヨードが胎児に移行することで赤ちゃんの甲状腺機能低下症をおこし得るため、頻繁には使用しないほうがいいでしょう。
これについても触れられている報道はほとんどなかったため、該当する方は注意が必要です。

・イソジンは甲状腺機能低下症の方、妊娠中の方はあまり使用しないほうがいい

というのも押さえておきましょう。

会見を全て見ると、同席した医師により、これらのうちいくつかは言及されているようです。
ただほとんどの報道は(時間、紙面の制約もあるのでしょうが)これらを全てカットしており、かなりミスリードされやすい状況であったことは否めないかと思います。実際ドラッグストアでは、報道の数時間後にはすでに売り切れていたようですし、当院でも夕方に薬局から「ポピドンヨードの仕入れができなくなり、新たに仕入れるメドも立たない」との連絡が来ています。コロナに関係なく普段から使用している患者さんの処方箋も受けられなくなってしまったとのことです(というわけで当院でもしばらくは出せないかと思われますのでご了承ください)。
今後研究が進み、さらにいろいろなことが分かると、もしかしたら新型コロナ蔓延抑制の突破口になるのかもしれません。是非そうなってほしいのですが、この段階でのこの形式の発表は、社会の影響を考えると(知事のはやる気持ちはわかるのですが)やはりやや不用意、拙速であったかもしれません。

コロナ禍で様々な報道が飛び交う昨今、皆さんも、あらゆる報道に振り回されることなく、常に一つ一つの情報が信頼に足るものかを考えて、行動していただけるとうれしいです。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.07.24更新

新型コロナ感染者増加の勢いがさらに加速しています。
東京での増加に続き、隣接する川崎横浜、そしてここ茅ヶ崎へと、日に日に東海道線を下るように感染の輪が広がっています。

そしてこのコロナ禍は、我々内科医に大きな挑戦状を突き付けています。

コロナ感染が蔓延する状態となると、いわゆる「風邪」症状の中に新型コロナ感染症が隠れているという現実に向き合わなくてはならなくなります。
withコロナのこの時代、我々内科医は「風邪」に対して、持っている能力を最大限用い、全力で取り組む技量が求められるようになりました。

そこで、我々が普段どのように「風邪」と対峙しているか、少し手の内をお見せしつつ、そして自戒を込めながら、withコロナ下における今後の診療の課題を考えてみます。
今回はちょっと長くなる気がしますが、それでもスペース上到底すべてを書き切れるわけはなく、お示しする内容は診察時の私の思考のごく一部でしかないこと、それにあくまでこれは私個人の方法、見解であることはご了解ください。

さて、以前もお書きしたように、「風邪」とは、鼻腔からのどまで、つまり上気道に、病原体による急性の炎症を引き起こす病態を言います。
この病原体の大半がウイルスとされており、基本的には「ウイルス性急性上気道炎」を「風邪」として考えてよいと思います。

では診察をはじめましょう。

まず「風邪を引いた」という方がいらっしゃった時には、まず診察室に入るその方の様子を見て、何か局所の症状がないかどうかを気にかけます。そして顔色や歩き方を見ながら、何となくその重症度を測っていきます(例えば上気道炎にとどまらず気管支や肺に炎症が及んでいる場合は、咳の程度が強くなったり、息遣いが荒くなったりしているので、そのサインを見逃さないようにします)。
「風邪」は重症になることはまれなので、重症感が漂う場合は何か別の病気がないかどうか、考え直す必要が出てきます。

次にお話をお伺いします。症状が「風邪」として矛盾しないかどうかを考えていきます。
「風邪」=「ウイルス性急性上気道炎」は、その感染部位から、起こりやすい症状としては鼻の症状、のどの症状、軽い咳、そして軽い発熱があります(もちろんすべてが揃わないこともあります)。
これらのうち、何か一つの症状が突出している場合は、その部分の細菌感染症も可能性として考えなければなりません細菌感染症は、原則として感染した部位のみに強い炎症を引き起こすため、一つの症状が強い代わりに症状のバラエティさに欠ける傾向があります。その場合は抗菌薬が必要となる場合があり、抗菌薬治療の適応のない一般的な風邪の治療法とは異なってきます)。

そしてその症状の出方も鑑別には重要です。

基本的には「風邪」=「ウイルス性急性上気道炎」の場合、これらの症状はそれほど大きなタイムラグがなく現れる場合が多いですが、感染症の種類によっては特徴的なパターンを示す場合があり、これにあてはまるものがあるかどうかを考えます。
またその症状が想定よりも長く続いている場合は、感染以外の原因も考えなければいけません(一例として咳を考えたとき、風邪の咳は長くてもせいぜい1~2週間です。これ以上続く場合や、良く繰り返している場合は、結核などを含めた様々な病原体の、気管支や肺への炎症の波及や、喘息、COPD、それに癌などの可能性も考えなければいけません)。
これを鑑別するために、その症状が続いている期間や出やすいシチュエーション、今までの既往歴や、何か他に特徴的な他の症状が伴っていないかなど、いろいろ推測しながら当たりを付けていきます。

一方、患者さん自身は「風邪」とおっしゃいながらも、「急性上気道炎」の症状が伴わないケース(例えば熱はあるがのど、鼻、咳の症状がないなど)も少なくなく、この場合はより全身に目を向けながら、何か他に見逃している病気がないか、質問を重ねていくことなります。

次に診察を行っていきます。
まず口の中を見て、のどを見ていきます。
例えば周りの人に極めて移しやすいはしかは、口の中に特徴的な発疹ができるので見逃してはいけません。のどの奥に白い膿がついていたら溶連菌感染症やウイルスによる伝染性単核球症の可能性が考えられるので、これらで治療法も変わってきます。

次に胸の音で呼吸の音、心臓の音を聞きますが、呼吸の音で肺炎、喘息などが見つかることは少なくありません。
また熱の原因が心臓の弁の感染症のことがあり、これは見逃してはいけない疾患ですがこれも音でわかることがあります。
またこの時に皮膚も一緒に見て、訴えられている症状と結び付く特徴的な所見がないかどうかも考えながら見ていきます。

そしてここまでの診察で、何かピンと来た場合はリンパ節を探ったり、おなかを触ったり、背中をたたいてみたり、手や足を見るなどしていき、疑っている病気を肯定、もしくは否定しながら、検査をすべきかどうか、するならどんな検査を出すかということを決めていき、そして最後に治療法を決めるという手順になります。

ただ、正直に告白すると、全ての「風邪」患者さんにこの手順を完璧に踏んでいたかというと、私の場合は必ずしもそうではなかったというのが現実でした。

やはり他の患者さんのお待ち時間ともにらめっこしながら、ある程度は妥協せざるを得なかったという事情はありました。
現実的な落としどころとしては、患者さんの入室時の様子が大丈夫そうで、お話になる症状が風邪として典型的なケースでは、万が一他の病気だったとしてもほぼ手遅れになることはないので、その時点で風邪として対処をするというところでした(もちろん「風邪」ではないかもと考えた場合は深く追求していきますが)。

ところが新型コロナは、皆さんご存知の通り症状のバリエーションが非常に広いこと、そして「典型的な風邪の症状」をきたすことも少なくないことから、他の「風邪」と見分けることが簡単ではありません。
であるにも関わらず見逃すと患者さん本人だけでなくその周囲や社会全体にも大きな影響を与えてしまう病気であり、しっかりと他の「風邪」と見極めなければなりません。
これからのwithコロナの時代、我々はしばらくの間、すべての「風邪」患者さんにもれなくこの手順を確実に踏まなくてはならなくなったと言えるのです。

やはり本来「風邪」の診断、治療というのは、上にお話ししたように他の病気と見極めるための知っておくべき知識が非常に多く、多くの判断も求められるので奥が深く、私は内科医の本当の力量が試される領域だと思います。

診療に携わる我々医師はwithコロナの時代、医師としての基本に立ち返り、今まで培った知識、技量を最大限使い、改めて心して病気と真剣に向き合う姿勢が求められているのでしょう。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.07.14更新

残念ながら、一度落ち着いたと見えたコロナ禍がまたぶり返してしまったのでしょうか。
茅ヶ崎でも先週約1か月ぶりに感染者が検出された後、本日までに3例の感染事例が報告されているようです。
街を歩いているとクラスターになりかねない屋内の密集も少なからず見かけます。
頭の片隅には常に感染防御を意識してもらいたいと、医療機関として切に願っております。

さて、ここ最近疲れやすいとおっしゃる患者さんが増えてきた印象があります。
だいぶ暑くなり、雨も多く湿度も増したことでバテやすい陽気になってきたことがあるようです。

ただ、この疲れやすさの中に気を付けなければいけないものが混じっているケースが少なくないようです。

それはこのブログにも何度か登場している「COPD」による疲れやすさです。

COPDは主にタバコを長年吸っていた(以前吸っていたけどやめた人を含む)ことにより、肺の機能が低下してしまう病気のことです。ここら辺のブログ記事このページで詳しく解説しているのでご覧ください。
で、このCOPDという病気は、本人がなかなか気づくことができない、厄介な一面を持っています(実際このコロナ禍で、いつもあった呼吸器症状が気になるようになり、受診していただいたおかげで診断、治療に結び付いた方が少なからずいらっしゃいます)。
喘息は若いのに息苦しくなったり、突然激しい咳が続いたりするケースが多いので割と本人が気づきやすい一面を持っています
一方COPDは中高年の方に多く発症し、症状が徐々に進むので、息切れが強くなっても年のせいだと片付けてしまうケースが少なくありません。
また咳、痰も続くのですが、タバコを吸っている方はある意味咳、痰に慣れてしまっている側面があり、この症状も仕方がないといってやり過ごしてしまう方が非常に多いのです。

日本には現在500万人以上のCOPD患者さんがいるのではと推定されています。
しかし診断、治療をされているのはその中のわずか5%、26万人程度しかいません。

COPD患者数

ある一つの都市の検診の結果をまとめた研究があります。40歳以上の人のうち、1割の人に呼吸機能低下が見つかりましたが、その割合は女性より男性の方が、そして40代、50代、60代、70代と年齢を経るに従いその割合は増えました。
70代の男性の実に3割弱が肺機能が病的に低下していることがわかったのです。

高畠研究

そしてCOPDは、ただたばこで肺が壊れるだけの病気じゃないこともわかってきまhiた。
肺が壊れる原因としては、肺に起きる慢性的な炎症が原因といわれています。
この炎症は肺だけでなく全身で起きるようです。すると病気は肺だけでなく、他の臓器の病気も引き起こしやすくなります。
心臓病、糖尿病、骨粗鬆症、うつ病など様々な病気がCOPDに合併しやすくなることがわかっており、これらが放置されると、将来の生活の質や、場合によっては命にかかわることも少なくありません。

ですので、COPDはご自身で一日も早く気づいて、しっかりと診断をしてもらって、治療が遅れないようにすることが大切になるのです。

ではどのような状態になったら気を付けたらいいのでしょうか。

簡単に確認してみましょう。以下にいくつか当てはまる場合は相談して頂いたほうがいいと思います(実際臨床で使用されている、いくつかのCOPD診断のセルフチェックツールも参考に作ってみました)。

  普段から普段から1日の中で何回か痰が絡んで咳をする。
 毎年1年に数回は風邪をひく。
  駅の階段を上がりきったら一度休憩したい。
  それがいやだから、いつも上るときはエスカレーターやエレベーター。
 □ 同年代の方(夫、妻や友人など)と歩いたら置いて行かれる。もしくが相手が合わせてくれている。
 □ 重い荷物を運ぶのがしんどい。
 □ ゆるい坂道を休みなしで上るのがしんどい。
  10年以上タバコをすっていた。

肺が壊れる原因としては、先ほども挙げたように、タバコの煙によって起きる、肺の慢性的な炎症です。
人によってこの炎症が起きやすいか、起きにくいかで、タバコを吸っていてもCOPDになりやすいか、なりにくいかが左右される面があります。
それにもともと生まれつき肺が小さい人がCOPDになりやすいことも最近わかってきました。

COPDになりやすいか、そうでないかは人それぞれです。
あなたの知り合いがタバコを吸い続けて元気だったとしても、それがあなたに当てはまるとは限りません。

そして、今は特定健診の時期です。今までタバコを吸われていたことがある方は、健康診断でぜひ肺機能の検査も行ってみて下さい。

 

この時期、一生に二つしか持つことのできない大事な自分の肺、一度向き合ってみてみませんか?

 

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.07.02更新

当院には引き続き、茅ヶ崎市内から近隣市町村、遠方の方々まで、長引く咳でお困りの多くの患者さんにご受診いただいております。
やはりコロナのこともあり、感染を心配されてご相談に見える方が多くいらっしゃいますが、咳が3週間以上続く場合や、咳が繰り返して出る場合は、その原因がウイルスや細菌などの感染よりも、他のものによる咳の可能性が増えます。

当院にお見えになる、これらの長引く咳、繰り返す咳の方のうち(正確に統計を取ったわけではありませんが私の感覚的には)5~6割が喘息によるという印象です(その他多いものとしては後鼻漏、喉頭アレルギーやアトピー咳嗽、逆流性食道炎が比較的多いように思われます)。

長引く咳は、その原因を明確な見極めることが難しい症状なのですが、喘息は基本的に気道の炎症を鎮める吸入ステロイドがよく効きます(効果がない場合は診断が間違ってたり他の疾患が合併したりする他に、吸い方が正しくない、環境が悪い、それに重症例でさらに強い治療が必要などの理由があります)。
問診や診察、検査によって喘息を強く疑った場合は吸入ステロイド薬を使用し、これの効果があればほぼ診断が確定できるというわけです。

ということで正しく診断、治療ができると症状は劇的によくなることも少なくありません。

よかったよかった・・・と言いたいところなのですが、実は喘息の治療の難しさがここに隠されています。

喘息は、慢性的な気道の炎症を吸入ステロイドで抑え続ける事が大事です。
この治療を続けていかないと気道には慢性的な炎症が残ってしまい、長期的にはますます症状のコントロールが難しくなってしまいます。

これは高血圧の方が薬を飲み続けて血圧を下げることを続けたり、コレステロールの高い方が薬を飲み続けて数値を下げることを続けたりすることにより、将来の脳梗塞、心筋梗塞などが起こるリスクを下げることと本質的には変わりがありません。

ところが喘息はしばしば症状がよくなると治療をご自身でやめてしまうことが多い代表的な疾患と言われています。

ある報告によると、喘息の患者さんで吸入ステロイド薬をしっかりと正しく継続できている方は全体の4割程度しかいなかったとされています。Tamura G, et al : Respir Med 101(9);1895-1902 
また高血圧、高脂血症の患者さんは薬を10日に平均6~7日程度は飲んでおられるのに対し、喘息の方は10日に平均2~3日程度しか使ってもらえていないという、我々からしたら何とも恐ろしいデータもあります。lnternational Review of Asthma&COPD vol13 No4 2011

なんでこうなってしまうのでしょうか。

一つには喘息の患者さんはご自身の状態を過剰評価してしまう傾向があるからとされています。
日本で行われたある電話調査では、喘息治療状態に満足している患者のうち、医師も十分に喘息症状がコントロールできていると判断した人は30%程度しかいなかったという報告がされています。アレルギー59(6)676-687.2010

一番悪かった状態よりも少し良くなると、それで満足してしまうことが多いようなのです。

また高血圧、高脂血症などのように、数字による治療目安が一般的でないことも自己管理を難しくしてしまうようです(喘息の数値による自己管理としてはピークフローという器具もあるにはあり、必要な方には当院でも導入、使用しております)。

やはり大事なのは症状が落ち着いているときにいかにしっかりと治療が続けられるか、に尽きると思います。

ただ残念ながら呼吸器科の非専門である医師の中にも、この治療の継続が重要であるという考えが浸透しているとは言えないのが現状です。
是非皆さんにはこのブログで正しい情報を知って頂ければと思います。

治療をいつまで続けるべきか、明確なお答えは現時点ではないのが現状ですが、当院では喘息の場合、吸入薬を最小限まで減らしてから1年間(すべての季節)無症状で乗り越えられたら、吸入薬の中止にトライしてみましょうとお話ししています。
また軽度の喘息の方は、シムビコートを症状のあるときだけ使用するという治療が従来の治療に遜色ないことが海外よりここ1-2年で相次いで報告されており、月に1-2回程度しか症状の生じない喘息の方にはこの治療をおすすめすることもあります(ただし、しっかりした根拠なく安易に軽症と判断しないよう、気を付けなければなりません)。

 

いずれにしてもご自身の判断で治療を止めてしまうことは避けて頂きたいと思います。

 

そしてご自身の判断で治療を止めてしまって症状が出てしまった方、遠慮なくいつでも当院にご相談ください。決して叱ったりはしませんのでご安心を(笑)

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.06.22更新

世間はだいぶコロナの雰囲気から遠ざかっているようで、この週末も街や観光地はにぎわったそうです。茅ヶ崎駅から当院の面する雄三通りにかけても、ずいぶん行き交う方が増えた印象で、どこか私もホッとした気分になります
しかし東京も神奈川もまだまだコロナの陽性患者は継続的に出ており、まだまだ収束とまでは呼べないのが実情です。

先日週刊誌に掲載させていただきましたが、今回は糖尿病の方向けの情報誌に1ページ頂いて寄稿させていただきました。

糖尿病情報誌

詳しくはこちらをクリック!


内容は2月に当ブログに掲載した内容に若干手を加えたものです。
当時はこれからヤマが来るという時期であり、皆さん興味を持って読んでいただいたブログでしたが、やや気が緩みやすくなっている今、改めて皆さんにお読みいただきたい内容です。今一度、振り返ってご確認いただければ幸いです。

今回私にとってはやや畑違いの糖尿病の情報誌というメディアへの掲載となりましたが、これは言わずもがな、糖尿病の方には新型コロナの重症化リスクが高いとのことで、糖尿病患者の方に知っていただくべく出版社からご依頼を頂いたものでした。

やはりこの時期においても、特に糖尿病、高血圧、COPDなど、基礎疾患をお持ちの方は気を付ける必要があります。
そして何より一番怖いのはこれらの病気があるにもかかわらず治療していない(もしくは不十分な)方、これらの病気の傾向があるにも関わらず未治療の方、そして何よりこれらの病気の傾向がありながらも気づいていない方です。

やはりどんな元気な方でも1年に1回は健診を受けたほうがいいのです。
職場などで健診を受けているならいいのですが、そのような機会がない方は特定健診を活用してください。

健診を受けていただくことで自分の今の状態を知っておくことができ、早期に対策を打つことができればこれがコロナ第2波以降の非常に有効な対策となります。

茅ヶ崎市、寒川町では本来毎年6月~8月に行われていますが、今年はコロナ禍の影響で6月が実施されず、7月、8月と2ヶ月に短縮して行われることになっています。

 

当院では待合の座席はお互い距離を取れるように設定し、感染症が少しでも疑われる方との動線も分離しております。
先ほど挙げた寄稿のように、大事なのは飛沫を浴びないこと、手のひらを守り、顔面からウイルスが侵入してこないようにすることです。
基本的対策がなされていれば、飛沫感染、接触感染は必要以上に恐れる必要はありません。例年通り是非安心して健診を受診していただければと思います。

昨今コロナを必要以上に恐れ、慢性疾患の治療を中断する(幸い当院の患者さんはほとんど全ての方がしっかり治療を継続していただいておりますが)、健診を受けない、予防接種を受けないなど、必要な受診までもしなくなってしまっている例が多く報道されています。
自分のため、周りの方のため、コロナは正しく恐れ、是非必要な行動はしていきましょう!

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.06.07更新

緊急事態宣言が解除され、茅ヶ崎市内も人通りが戻ってきているようです。
加藤医院のある茅ヶ崎駅周囲もお店が開き始めて活気が戻ってきていますが、3密っぽい環境もちらほら見かけるようです。
引き続き感染予防を続けていただくことが大事です。少しずつ日常を楽しみながらも、依然油断しないように過ごしていきましょう。

前回は高齢者の肺炎の原因、対策までお書きしました。
今回は肺炎の対策で、大きな役割を占める「予防接種」についてお話しします。どうしても長くなってしまうので、途中難しかったらそこは飛ばしてお読みください。

肺炎はその20-30%が肺炎球菌という菌が原因となることが分かっています。

肺炎球菌は、莢膜という厚い膜に覆われている菌で、攻撃性の強い菌と言われています。
この菌はその名の通り、肺炎を引き起こすことが多い菌で、特に小さな子供と高齢者にとって重症肺炎をおこるリスクが高い菌です。
また喘息、COPD、糖尿病、慢性的な心臓、腎臓、肝臓の病気を持っている方など、抵抗力の弱い方はより重症化しやすいとのデータも出ています。Shea, K. M. et al.:Open Forum Infect Dis 1(1)
加えて、肺炎球菌という名前にも関わらず、この菌は脳炎や髄膜炎、中耳炎なども引き起こすことがあり、命にかかわることも少なくありません。

これらに対し、肺炎球菌ワクチンというワクチンが存在し、上記のような方には接種をしたほうがいいと言われています。

成人の方が接種できる肺炎球菌ワクチンには、23価肺炎球菌ワクチン(ニューモバックスNP)と、13価肺炎球菌結合型ワクチン(プレベナー13)という2種類があります。(ちなみにプレベナー13は以前加山雄三がCMキャラクターを演じていました。雄三通りにある当院との相性はバッチシです(笑))

これらのワクチンは高齢者の重症肺炎球菌性感染症の発症率を減らすという報告がされています。
ここからはワクチンと免疫のちょっと難しい話をするので、説明不要な方は読み流してください。

 

「23価」肺炎球菌ワクチン「13価」肺炎球菌結合型ワクチンの「価」とは、肺炎球菌の莢膜がもっている型のことです。この型が違うと、毒性や感染性などの性質が少しずつ変わるとされており、この型は現在90種類以上あると言われています。ただこの中で我々人間に対し強い影響を示す型はいくつかに限られています。
で、23価のワクチンというのは23種類の型を、13価のワクチンというのは13種類の型をカバーするというわけです。13価ワクチンでカバーする型は、ほぼ23価ワクチンでカバーできています。

そしたら、「23価だけでいいじゃん」ということになるわけですが、ここで13価「結合型」ワクチンという「結合型」という言葉の出番です。

体の中には「B細胞」という、リンパ球の一種があり、このB細胞は外からの刺激を受けると、敵を排除するための「抗体」を作れるようになります。一つのB細胞は1種類の抗体しか作れません。
23価ワクチンは、このB細胞を直接刺激して、23種類の肺炎球菌の型の抗体を作ることを促すワクチンです。

一方、体の中にはもう一つ、「T細胞」といわれるリンパ球もあります。

T細胞にもいろいろありますが、この中のヘルパーT細胞はいわゆる「免疫の司令官」と言われており、T細胞が敵の情報を受けると、B細胞にその敵の性質、弱点などの情報を詳しく提示することができます。
するとB細胞はより的確に敵を排除するための抗体を作れるようになります。
また一度情報を教えてもらったB細胞のうちの一部は、その情報を一生記憶して体内に残り続けます(これをメモリーB細胞といいます)。これがあると次に肺炎球菌が侵入してきたときに、より早く、より多く必要なB細胞を作ることができ、すぐに抗体を大量に作ることができるようになります(これを「免疫応答」といいます)。

13価結合型ワクチンは、この「T細胞」が認識できる成分が「結合」されており、これにより「免疫応答」を導くことが出来るワクチンです(一方23価ワクチンには残念ながらこの「免疫応答」を導くことができず、時間が経つと効果がなくなってしまいます)。

肺炎球菌ワクチンの機序


簡単にまとめると、23価肺炎球菌ワクチンであるニューモバックスNPは、肺炎球菌を広くカバーできるものの効果が長続きしない特性があり、13価肺炎球菌結合型ワクチンであるプレベナー13は、カバーはそこまで広くない(それでも主要なものは大体カバーできています)ものの、その戦い方を覚えこませることで、一生効果を持続させることができるという特性があると言っていいでしょう。

で、これらはどちらかを選びましょうというわけではありません。どちらも接種したほうがいいとされています。それぞれ働きが違うので、両方を接種することで肺炎球菌に対する対策を万全にすることができます。

ただしこれらのワクチンは同時に接種することができず、一定期間開ける必要があります。
またニューモバックスNPは上記のように効果が長続きしないため、1回目接種後5年経過したら再接種することが推奨されています。
そして現在各自治体では肺炎球菌ワクチンに対する助成があり、茅ヶ崎市ではその年に満65,70,75,80,85,90,95歳、そして100歳以上になる方に対し、生涯1回目のニューモバックスNP接種時のみ助成が出て、4000円で接種可能です。
一方プレベナー13この5月に接種できる対象が広がり、対象となる方がニューモバックスNPと多少の違いがあります。

このように状況は人それぞれですので、どちらから接種したほうがいいのか、どのようなスケジュールで行ったほうがいいかは、当院など、肺炎球菌ワクチンに詳しい医師にご相談ください。

肺炎球菌ワクチン

またもう一つ、インフルエンザワクチンは肺炎球菌ワクチンと併用することで、肺炎全体の発症、肺炎球菌性肺炎の発症、侵襲性肺炎球菌感染症による入院、死亡を減らす効果が認められており、必ず毎年接種していただきたいワクチンです。
これはインフルエンザに罹患することで気管支がダメージを受けると肺炎球菌がその後から付きやすくなることで、重複感染しやすくなるためと考えられているからです。

新型コロナもおそらく同様であろうと私は思っています。新型コロナも気管支粘膜に対して作用を示しやすいウイルスです。まだ併用効果を示すデータはありませんが、接種することで新型コロナの肺炎重症化を防止できる可能性は十分にあると考えています。

 

2種類の肺炎球菌ワクチン接種を完了させるには時間が必要です。新型コロナの第2波が訪れる前に、早めに肺炎球菌ワクチンについての行動を取っていただくことを強くお勧めします!

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.06.01更新

本日6月1日をもって、私浅井偉信が正式に加藤浩平先生より医療法人社団 加藤医院を継承いたしました。
今後も引き続き茅ヶ崎の、そして湘南地域の内科、呼吸器、アレルギー専門医として、今まで以上にお越しいただく患者さん一人一人のために頑張って参りたいと思います。
引き続き加藤医院をご愛顧賜ります様、宜しくお願い致します。

とはいっても特に本日から診療体制が変わることはございません。いつもの加藤医院です。いつも通り気兼ねなくご来院いただければ幸いです。

というわけでブログも通常運転です。
前回は高齢者に気を付けるべき、「肺炎」について、なぜかかりやすくなるかというお話をしました。今回はその対策についてです。

前回もお話ししたように、高齢者の肺炎では誤嚥性肺炎が多くを占めます。

1.誤嚥の予防

ですのでまずは誤嚥をしないことです。誤嚥は体力が落ち、筋力が落ちると起きやすくなります。
バランスのいい食事(特に高齢者では他の病気による問題がなければ、筋力維持のため、肉や魚を含めた「たんぱく質」をしっかり取ることが重要になります)、適度な運動(特に下半身強化)が重要です。

2.嚥下機能の確認

あとは嚥下機能が落ちているかどうかを確かめることが大切です。
よく食事中にむせていると誤嚥の可能性が高いと言われます。
確かにその通りなのですが、むせとは、間違って気管に入った異物を外に出す、正常な人間の反射です。
体の機能が落ちると、この反射も弱くなることがあります。するとむせてはないのに誤嚥してしまうことがあるのです。
食事が遅くしばしば食べきれない食事中に声がよく枯れるという点も見逃さないようにすることが重要です。

嚥下機能を自宅で簡単にチェックする方法として、30秒間に何回つばが飲み込めるかというテストがあります。これが30秒間に2回以下だと嚥下機能が落ちている可能性があるとされています。
落ちているようであれば一度耳鼻科でファイバー検査などの詳しい検査をしてもらったほうがいいでしょう。

3.食事形態の工夫

嚥下機能が落ちている場合は食事形態の工夫が必要となります。これは嚥下機能のレベルによって適する形態もさまざまなので、状態に応じた形態を選ぶ必要があります。
気を付けて頂きたいのが、食べにくいと言ってもご飯を汁物に混ぜて食べたり、水分で口の中のものを押し込んでしまったりすることはできるだけ避けてほしいということです(食べにくいためにこれをして誤嚥されてしまうケースを多く見てきました)。
水分は飲み込むことが難しい形態で、しばしば気管に入りやすいです(若い人でも飲み物でむせること、ありますよね)。
あと固さが均一でないものは飲み込みが難しいと言われています。ですのでおかゆのように均一の固さにすることが正解です雑炊はご飯が固く、液体部分と固さが不均一なので誤嚥するリスクが高まります)。
その他、口の中で固さを均一にしやすくするには、焼き魚より煮魚、生野菜サラダより温野菜、せんべいよりぬれおかきがベターでしょう。

4.禁煙

その他の対策もお話ししましょう。何度かお話ししているように、タバコは気管支や肺の機能を弱めますCOPDになると肺炎の発症、悪化リスクは跳ね上がるので、禁煙は絶対必要です。そしてCOPDは診断されていない方が非常に多い病気ですしっかりと医師に診断してもらって、適切に治療を行いましょう。

5.基礎疾患の治療をしっかり続ける

またかくれ脳梗塞は誤嚥の大きな原因になります。これを予防するには血管を守ることです。高血圧や糖尿病、高コレステロール血症(そして喫煙)は動脈硬化の大きなリスク因子です。しっかりと医師の指示通りに治療を続けることが大事です。

6.感染予防の順守

風邪をひくと、それに続いて肺炎を引き起こすことが少なくありません。
風邪とはすなわちウイルス性の気道感染です。ということは、予防策はコロナと一緒です。
手洗いと周囲の人のマスク、十分な休息による体力維持です。

最後に、肺炎のリスクを確実に減らす方法として、肺炎球菌ワクチンの接種があります。これに関してはまた次回詳しくお話ししましょう。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.05.29更新

このブログの更新を私が開始し、約1年が経過しました。

徐々にこのブログをお読みになられている方が増えており、茅ヶ崎界隈のみならず、全国から反響を頂くことも少なくなくなりました。皆様に興味をお持ちいただいて大変うれしい限りです。ありがとうございます。
そのおかげか、先日講談社さんの週刊誌「週刊現代」の取材を受ける機会がありました。テーマは「コロナで再確認したい、高齢者が気を付けたい肺の病気」ということでお話しをさせて頂きました。
お話しした内容がこれだけセンセーショナルな文体になるのはさすが週刊誌・・・(笑)まあでも呼吸器疾患のことが分かりやすく書いてあります。
よろしければ下の画像をクリックして記事をご覧いただき、よろしければ書店、コンビニでもお手に取ってみて下さい。


週刊現代
こちらをクリック!


というわけで今回は私の担当した、高齢者の肺炎について書いてみます。

肺は直接外の世界とつながっている臓器であり、また雑菌が非常に多い口の中ともつながっており、常にあらゆる微生物にさらされています。ですので肺は、鼻腔とともに全身で最も感染症にかかりやすい臓器と言われています。
しかし肺には、異物を包み込む粘液の分泌(=痰)や、痰を外に送り出す気管支の線毛運動、それにこれらのような異物を外に飛ばす咳反射など、自浄を促す作用があります。
そしてこの咳反射は異物が入った刺激を、脳にある咳中枢が感知することで起こります。
ですので、通常の元気な肺は感染を起こす前に微生物を排除します。

 

異物排除

しかし、高齢になるとこれらの能力が低下し、肺に微生物が到達しやすくなります。

また高齢者では誤嚥をすることが増えてきます。
ものを飲み込むという行為は、咀嚼を行いながら食べ物を口の奥へと送り込み、飲み込むときには喉頭蓋(こうとうがい)というドアが絶妙のタイミングで気道にふたをして、その瞬間のどにある筋肉が瞬時に連携をとりながら食べ物を喉から食道に送り込むことでおこります。これは意識的に行っているものではなく、脳の嚥下中枢という部分がつかさどる反射により起こります。
ところがこれが年を取ると、この連携のタイミングが微妙にずれてきます。また脳梗塞(症状の目立たない、いわゆるかくれ脳梗塞を含みます)などがおこると、この反射がうまく行かなくなり、嚥下の機能が低下します。すると気管に食物や唾液などの異物が入り込んでも排除できなくなってしまい、微生物が肺に到達しやすくなってしまうわけです。
加えて上でお話しした咳中枢の機能も落ちています。すると肺に到達した微生物は、肺から排除されることなく肺の中で増殖してしまいます。
そのため高齢になると肺炎を引き起こす頻度が増加します。

誤嚥性肺炎
また抵抗力が弱りなかなか異物を追い出せない状況で、しばしば重症化し治るのに時間がかかってしまいます。
しかも高齢者はもともと筋力も加齢によって低下しており、肺炎をひとたび起こしてベッド上での療養が長くなると、全身の筋力が容易に低下します。嚥下に要する筋力も低下してしまうため、肺炎を治療できたとしても体力の低下や嚥下機能の低下が元の状態までには戻らなくなり、次の肺炎を引き起こしやすくなってしまいます。
これを繰り返すことで最終的に命にかかわってしまうことが少なくないのです。

ではこれを防止するにはどのようにしたらいいのでしょうか。長くなりそうなので、また近々続きをお話ししましょう。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.05.21更新

ここ茅ヶ崎を含む神奈川県ではまだ緊急事態宣言が解かれていませんが、それでも今週に入り徐々に発熱などでご相談いただく方は減っては来ているようで、ようやく当院もやや落ち着きを取り戻しつつあります。
ただ油断はできない状況でもあり、今一度皆さんには感染対策の継続をお願いします。

今日は今回の新型コロナウイルスと喫煙の関係についてです。

今回の新型コロナウイルス感染症では、肺の慢性的な病気により、肺の機能が低下していることが悪化の大きなリスクとなると考えられています。
この状態を引き起こす原因としては、喫煙そのものと、長期に喫煙をしていた人に起こりうるCOPDという病気の発症が挙げられています(COPDについてはこちらの記事をどうぞ)。

いくつかの論文をまとめたメタ解析という手法でまとめたデータによると、喫煙をしている場合は、していない場合と比べ新型コロナウイルス感染が重症化するリスクが約2倍高い可能性があるという見解が出ています(ただそこからこのうちの一つの論文データを除いて再解析すると、傾向は維持されるものの有意差はなくなったとのことです)。
そしてCOPDである場合は、その重症化するリスクが有していない場合に比べ約4倍程度高くなるのではというデータが発表されています。J Med Virol. 2020 Apr 15. doi: 10.1002/jmv.25889

この原因としてはまだはっきりとはわかっていませんが、以下の仮説も考えられています。

新型コロナウイルスは、気道や肺胞の粘膜の上にあるACE2受容体という部分にくっつくことで、細胞の粘膜とウイルスの外膜が融合し、ウイルス内部のRNAが細胞に取り込まれることで感染が成立することがわかっています。

ACE2受容体

先日カナダから発表された論文によると、検査で採取した肺組織を調べてみたところ、ACE2受容体が、喫煙をしたことがない人、過去に喫煙をしていてその後禁煙した人、今でも喫煙をしている人の順に多くなる傾向が示されました。
また肺機能の側面から見てみても、喫煙によって肺機能が低下しているCOPD患者さんの場合、そうでない場合に比べて肺組織にACE2受容体が多く現れていることが分かりました。Eur Respir J. 2020 May; 55(5): 2000688
動物実験ではたばこによる煙に気道がさらされるとACE2受容体が増加することも分かっています。Burns. 2015 Nov; 41(7): 1468–1477


また別の要因も考えられます。

肺には異物を包み込む粘液の分泌(=痰)や、痰を外に送り出す繊毛運動、それにこれらのような異物を外に飛ばす咳反射など、自浄を促す作用があります。
しかし高齢になるとこれらの能力が低下します。
これに加えて喫煙による煙は肺の繊毛の働きをさらに低下させてしまいます。
そのためウイルスがより肺の奥に入り込んでしまう可能性がより高まってしまいます。

さらにそもそも喫煙するときには、手で持ったタバコを口に向けるので、手のウイルスが口から侵入しやすいことも示唆されています。

これらにより、喫煙者やCOPDの患者さんではコロナウイルスに感染しやすく、それが悪化しやすい原因になる可能性があると考えられるのです。

一方フランスからの報告で、コロナウイルスの感染者に喫煙者の割合が低いというデータも発表されているようです。https://doi.org/10.32388/WPP19W.4
ただこの研究は一つの病院のデータを集めただけであり、さまざまな偏りがあるのではという指摘もあります(院内感染も発生したようであり患者の多くが喫煙率の低い医療従事者であったことや、あくまで自己申告によるデータなので信頼性に欠けるなど)。
まだこのデータに関してはいいも悪いも言えないと思うので追試を待ちたいですが、いずれにせよ重症化を抑えることが重要との観点では、現時点での禁煙の重要性は動かないでしょう。

禁煙は早く始めたほうが肺機能低下を予防できるので、なるべくこの今の機会に禁煙に取り掛かっていただくことをお勧めします。

禁煙

環境再生保全機構HPより


またCOPDは長引く咳や痰、息苦しさで出てくることが多いのですが、しばしば「いつも風邪が長引く」と解釈してしまって医療機関にかかる機会が遅れたり、医療機関でも病気の存在に気づかれずに適切な治療がなされないことも少なくなく、発見がしばしば遅れます。

たばこを吸っている方、最近風邪が長引くなあと思っている方、駅の階段で息が切れるようになったという方、そしてタバコやめてみようかなとちょっとでも思った方は、一度肺や呼吸に詳しい医師に聞いてみましょう!

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2020.05.11更新

おかげさまで、最近はこのブログを全国の多くの方にご覧頂いているようで、さまざまなご意見、ご感想を頂くようになってきました。
多少なりとも皆さんの疑問や不安の解消の一助になっているとのお応えを多くいただいており、ありがたい限りです。今後も診療の合間に、できる範囲でわかりやすい情報発信を続けていきたいと思います。


ただこのブログの記事が引用されている某掲示板などでは、やや誤った解釈などもされてしまったようでもあり、今回はそのことについて触れようかと思います。
3月29日の記事「新型コロナウイルスによる肺炎とは?他の肺炎と何が違うの?」が引用されている書き込みで、この肺炎が間質に起こりやすいだろうということを書きましたが、「間質性肺炎は致死率100%の病気である」などという記載が付け加えられてしまっている記事が散見されています。
確かに「間質性肺疾患」というのは非常に複雑でわかりにくい病気であり、専門家の間でも数年に一度は定義が変わっているほどです。
今回はこれを少しかみ砕きながら説明してみようと思います。

まず「間質性肺疾患」という病気ですが、これは当時の記事で述べた通り、肺の間質(肺胞の壁や肺胞と肺胞のスキマにある構造物、そこを走る血管の壁など)に炎症が起こり、肺胞から血管への酸素の移動に障害が生じるという病気をひとくくりにしたものです。

 

正常な肺の状態

正常肺

 

間質性肺炎の状態

間質性肺炎

(いずれも3/29記事より再掲)

これはいろいろな分け方がありますが、その分け方の一つとして原因がはっきりわかっているものと、原因がはっきりとわからないものに分ける方法があります。

原因がはっきりわかっているものとしては、感染によるもの(今回の新型コロナウイルスの他に、サイトメガロウイルス、インフルエンザ、麻疹、水痘などのウイルスや、マイコプラズマなどの一部の細菌が原因になることもあります)の他に、薬剤の副作用による「薬剤性肺炎」、膠原病によって起こる「膠原病肺」、特定のアレルゲンを吸い込むことで起こる「過敏性肺炎」、粉塵などを吸い込んで起こる肺炎(例としては職業性肺疾患)、癌が間質にあるリンパ管を進んで起こる「癌性リンパ管症」、それに肺を始めとして全身に「肉芽腫」という組織が出来てしまう「サルコイドーシス」などが挙げられます。

一方原因がはっきりとはわからないものは、「特発性」間質性肺炎といわれます(よく間違えられますが「突発性」ではありません)。
この中には肺胞の破壊が年単位で進み、肺が強く線維に置き換わってしまうために治療が難しい「特発性肺線維症」、肺胞に慢性的な炎症が起こりフィブリンという物質が肺胞にたまりつつ、隣り合う間質にも炎症を引き起こす「特発性器質化肺炎」、原因不明ながらも急速に間質に炎症が起こり多くは救命困難な「急性間質性肺炎」、そのどれにも分類できない一群である「非特異性間質性肺炎」など、現時点では合わせて9個の疾患群が含まれています。

で、当然のことながら「間質性肺疾患」にはいろいろとあるため、これらの予後というのも原因や病型によって様々です。

たとえば間質性肺炎の代表として語られることの多い「特発性肺線維症」は、致死率は確かに低くない病気です(しかし現在では肺の線維化を抑える抗線維化薬が出ており、以前と比べて治療方法が出てきてはいます)。一方「特発性器質化肺炎」は治療(内服や点滴のステロイド薬)の効果が高く、致命的になることはあまりありません。

一方原因がわかる間質性肺疾患では、例外はあるにせよその原因が取り除かれることで改善できることも多いものです(膠原病肺であれば膠原病の治療により小康状態となるケースは多いですし、急性過敏性肺炎はそのアレルゲンから離れるだけで改善するとされています)。

一般的に肺の炎症が長期化し線維組織に置き換わってしまうケースでは、元の正常な肺組織に戻ることはないため、間質性肺疾患の予後は悪くなるとされています。
しかし今回の新型コロナウイルスによる間質性肺炎も軽症の場合は自然に改善する場合が多いと報告されており、いわゆる肺が線維化を起こしやすいとまでは言えない病気ではないかと思っています(ただ重症化、長期化することで肺が線維に置き換わってしまうケースはあると思います。その場合は慢性呼吸不全などの後遺症が残る可能性はあるかもしれません)。

というわけで、決して「コロナは間質性肺炎だから致死率が100%である」という事実はありません。

玉石混交のさまざまな情報が飛び交う今の世の中ですが、是非とも常日頃「デマ」には振り回されず、お気を付けて頂ければ幸いです。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

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