なんだか発熱患者、増えてます。
そして、コロナ感染も、じわじわ増えています(実はインフルエンザ感染も、まだぽつぽつと出ております)・・・
当院の発熱・感染症外来は、6月初旬ごろまでは落ちついていたのですが、6月中旬からにわかに殺気立ち、7月に入ってからかなりの勢いで増えている印象です(昨日は18名もの方が当院の発熱・感染症外来に受診されました)。
そして、そういえば最近は、コロナワクチンを打っていない方の初感染の方を時々見るようになりました。
若い方を中心に、昨年のコロナワクチンを打っていない方は結構いらっしゃり、ここ2年程度ワクチンを打っていない人は多い印象なのですが、それでも未接種の方と、2年前にオミクロンワクチンを打っている方とで、なんだか症状の重みに差があるような気がするのです・・・
「コロナは風邪」というのは、すでにあながち間違いではないとは思うのですが、それはやはりワクチンを打ってこそ。
接種されている方のコロナ感染は「コロナ=風邪、ときどき+α」なのですが、まったく未接種の方は「コロナ≧風邪(つまり、未接種でも風邪と同じくらいで済んでしまう方は少なくないのですが、咳などの後遺症の頻度も含め、そうじゃない方が割合としては少なからずいらっしゃるという意味です)」といった印象をもっています。
おそらく例年の傾向だと、この先1か月はコロナがだいぶ増えてしまいそうです。
体調の思わしくない時は是非マスクを(これ、本当にマナーだと思います)、そして無理をして出社、登校したり、遊びに行ったりしないなど、基本的な感染対策は皆さん守るようにしましょ!
そして、実は今年になって、ファイザーとモデルナ以外のワクチンも続々使用できるようになってきました。
(ワクチンについてはあまり報道されなくなってしまいましたが)純国産のワクチンや、(mRNAワクチンではない)組み換えタンパクワクチンなども登場しており、当初から少しずつ環境が変わってきているのです。
本格的な接種開始は秋になると思いますが、もう少し情報が出そろったら、(最近玉石混交の、根拠の薄い「石」の情報が活気づいている印象なので・・・)客観的な情報を皆さんに提供すべく、ワクチン最新情報もまた記事にしようかなと思っております。
さて、ここから今回の本題です。
当院は非常に多くの喘息の方がいらっしゃるのですが、やはり喘息の方にとって、感染症にかかった後に一番困るのが「喘息増悪」(一昔前は「喘息発作」っていってました)です。
喘息が急に悪くなった時は、まずは気管支を広げる吸入薬(サルタノールとか、メプチンとか)を使います。
そして、その炎症反応をいち早く落ち着かせるために、吸入薬を一時的に強くしたり、アレルギーの薬を加えたりすることもあります。
症状を和らげるのに、痰切れや漢方薬を使用することもあります(いわゆる咳止めを使うことはあまり多くありません。喘息が悪化すると痰が多くなるのですが、咳止めは痰を出そうとする咳を止めてしまい、余計に悪くさせてしまうこともあるからです。乾いた咳が続くときだけ考えます)。
そして、それらのお薬でもコントロールできないときは、「ステロイド」という薬を飲んだり、場合によっては点滴をしたりすることがあります。
でも皆さん、「ステロイド」って聞くと、なんだかすごい怖い薬のように思われません?
そこで今回からは、喘息の方がいつかは使う必要が出てくるかもしれない「ステロイド」について、少し詳しく掘り下げてみて、正しく理解しながら使っていただく手助けをしてみようかなと思います。
そもそも「ステロイド」って、いったい何なんでしょうか?
ステロイドは、正確には「ステロイドホルモン」のことを指すことが多く、これは生物の体内で「コレステロール」を原材料に作られるホルモンの総称です。
その中で、医療で良く用いられる「ステロイド薬」とは、「糖質コルチコイド」という、腎臓の上にある、ちっこい「副腎皮質」という臓器から作られるホルモンを元に、人工的にまねて作られた薬のことを言います(「糖質」という名前は、このホルモンが糖の代謝に関与していることが由来です)。
人間の場合、「糖質コルチコイド」の代表として「コルチゾール」というホルモンが副腎で作られます。
ステロイドホルモンは他にも、同じく副腎で作られる「ミネラルコルチコイド(ミネラルの一種であるナトリウムの調節に関わっていることが命名の由来です)」、卵巣や精巣で作られる「性ホルモン」があります。
ちなみに「性ホルモン」である「アンドロゲン」の一種、「テストステロン」に似せて作られたのが「アナボリックステロイド」で、筋肉増強剤として知られます。
これを競技者が使用するとドーピングになります。
治療で使用する「糖質コルチコイド」のステロイド薬とは全く異なるものです(良く勘違いされたり、質問されたりする点です)。
さて、話を「糖質コルチコイド」に戻します。
「糖質コルチコイド」は肝臓から糖を取り出したり、脂肪を分解して脂肪酸を、タンパク質(筋肉や骨、皮膚など)を分解してアミノ酸を取り出すことで、エネルギー源を供給します。
またほかのいろいろなホルモンの制御にも関わっていたりと、生命維持には欠かせないホルモンです。
そして、「糖質コルチコイド」は、炎症によって起きる反応を抑えるという働きがあります。
つまり体の中で起きている「炎症」を鎮めることができるのです。
また、体の中でストレスが起こったときに、そのストレスに対峙できる「ストレスホルモン」の役割も果たし、体にストレスがかかると交感神経を刺激したりして、体の活動性を上げることでストレスに対峙するのですが、このような「炎症」を強力に抑える作用も、ストレス対峙には大いに役に立っているのです。
そして、その「炎症を抑える作用」を期待して使われるのが「ステロイド薬」ということになります。
そんな「ステロイド薬」は、体のなかで起きる、望まれざるやっかいな「炎症」を抑えるために、本当に多くの用途で使われます。
例えばリウマチなどの膠原病をはじめとした自己免疫の病気、アレルギーの病気、がん、そして、コロナをはじめとする感染症が重症化した時、などなど・・・
そして、そこには喘息も含まれます。
こちらでもご説明しているように、喘息は気管支が炎症を引き起こし、気管支の壁がむくんで狭くなったり、分泌液=痰が増える病気です。
ですので、その炎症を抑えるステロイドを使用することで、気道の状態は改善するのです。
約30年前から、喘息の治療にステロイドの吸入薬が普及し始め、喘息の症状コントロールは劇的に良くなりました。
そして今でも喘息治療の主役は吸入ステロイド薬です。
しかし、喘息が一度悪くなってしまうと、全身で炎症反応が雪崩式に次々と起こるため、吸入ステロイド薬だけでは太刀打ちできなくなってしまいます。
そんな時は、この「ステロイド薬」を、飲み薬や注射という形で、血管の中に届かせて全身を巡らせる必要があるのです。
すると、全身で激しい炎症が起こっている「喘息増悪」の状態を「強制終了」し、ピンチから切り抜けられるということなのです(以前お書きしたこちらのブログで「炎症」を「火事」に例えてみましたが、この「火事」に大量の水をぶっかけて「強制終了」させるのが、ステロイド内服、ステロイド注射ということになります)。
じゃあ、だったら喘息なんて、わかりにくい「吸入薬」じゃなくって、はじめから使いやすい「飲み薬」で飲んでおけばいいじゃん、と思いますよね?
でも、それじゃ、まずいのです。
一見「万能薬」とも見えるステロイド、しかし、その存在は「諸刃の剣」でもあるのです。
ステロイドって何が怖いの?
安全に使うにはどうしたらいい?
じゃあ吸入、点鼻とか、飲まないステロイドは怖くないの?
そんな話を、次回からお話してみようかと思います。
→続編はこちら!
2024.7.10 ステロイド、長く「飲み」続けると何が起こる?
2024.8.1 ステロイドの飲み薬の問題点はよーくわかった。「じゃあ、吸入薬は??」