医師ブログ

2022.03.24更新

3月中旬を過ぎて、発熱・感染症外来にお見えになる方はピークと比べても半分かそれ以下になってきました。世間もマンボウがようやく解除され、報道でも(ウクライナ、北朝鮮の報道に追いやられているのかも知れませんが・・・)コロナ一色では無くなってきたようです。
当院にとっても少しホッとする一面ではありますが、依然花粉症や長引く咳、そしてワクチン接種にて多くの方に受診いただき、混雑や予約の取りづらさで皆様にはご迷惑をおかけしております。


以前のブログでお話しした通り、当院は4月から「医療法人社団加藤医院 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック」へとバージョンアップをします。


これと共に、4月から循環器専門医である高倉美登里先生が仲間に入り、診察枠が増やせることになりました。


高倉先生は、専門である循環器専門診療に加え、生活習慣病や風邪などの急性期疾患などを含めた一般内科診療も担当いたします。
一般的な現在のところ曜日限定ではありますが、診察枠増枠による混雑の緩和も期待できるかと思います。

現在はほぼ3日先までの診療枠が埋まってしまっている状態で、直近でのご予約がなかなか取れないとのお声も多くいただいておりますが、この状態の解消まで今しばらくお待ちいただければ幸いです。

 

そして本日、当院で使用するレントゲン装置の刷新を行いました。


やはり呼吸器専門診療をするにあたり、そのキモとなるレントゲン装置は妥協できません。ましてやこれからは循環器専門診療も始まり、心臓や血管もなるべくわかりやすい画像でより正確に診断したいものです。


ですので当院で今まで使用していたレントゲン装置と比べ、圧倒的な解像度の違いを誇る、最新式の「いいヤツ」を導入しました(お陰でけっこういい高級外車を購入できるくらいの諭吉さん達がめでたく旅立って行きました(^^)/~~~)

新しいレントゲン装置
(新旧の比較写真を載せてみましたが、外見はほとんど一緒でしたね・・・)


というわけで、今回は祝!最新式レントゲン装置導入記念ブログということで、レントゲンって一体どんなものなの?ということを書いてみようと思います。

 

レントゲン写真は、正式にはX線写真と言います。
X線を見つけたのがレントゲン先生だったので、今でもその名前が残っているのです。

ご存知の通り、レントゲン撮影には放射線を用います。

放射線を浴びるのは心配だとお考えの方も多いのですが、人間が普通に生活して受ける1年間の放射線量がおおよそ2.1ミリシーベルト、健康に影響が出る放射線量が年間100ミリシーベルト以上とされる中、一度の胸部レントゲン検査で浴びる放射線量は、けた違いの0.06ミリシーベルト程度です(ちなみに放射線は宇宙から多く届くため、飛行機で空を飛ぶと放射線を受けやすくなります。東京からニューヨークまで飛行機で往復すると、胸部レントゲン撮影3〜4回分に相当する0.2ミリシーベルトを浴びるそうです)。

少なくとも胸部レントゲンの放射線量は常識の範囲内であれば複数回取ってもほとんど問題ない程度と言っていいと思います。

さて、できあがった胸部レントゲン写真を見てみましょう。まずは正常なレントゲンを。

正常胸部レントゲン


このレントゲン写真ですが、皆さんの中には、この中に肺や心臓しか映っていないように思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、このレントゲン写真は、後ろから照射したX線が背中の皮膚から胸の皮膚まで貫通し、そのデータをすべて前方のカセッテという板に焼き付けることで作る画像です。

ですので、その写真には肺や心臓だけでなく、肺の中の気管支、血管、リンパ節、心臓へつながる血管、胃や食道に加えてその中に含まれる空気、それに肺の外側である骨、筋肉、脂肪組織、乳房、皮膚など、そこに存在する臓器すべてが1枚の写真の中に重なり合って映っています。

胸部レントゲン正常像の解説

だいたいの概要を描いています。専門的な線の解説は全て省いています。


これがレントゲン検査の奥深く、難しい所です。

たった1枚の写真なのですが、これらが重なり合うことで、偶然肺の中の影のように見えてしまう場合、それに偶然他のものに隠されて病変が見えにくくなってしまう場合が常に起こりえることになるのです(ですので、当院ではなるべく見落としを防ぐ方法として、基本的に横からのレントゲン撮影も同時に行っています)。

例えばこんな画像。どこかに2か所、異常があるのですがわかるでしょうか?

胸部レントゲン

答えはここです。

胸部レントゲン

CTで見るとこんな感じ。赤い矢印が病変です。これは肺がんでした。

肺がん胸部CT

特に肺のてっぺんのあたりは、鎖骨、肋骨、肩甲骨などが重なり合って映る場所で、非常に見にくいところです。

 

次はこの写真です。これはかなり難易度高いです(我ながらよく見つけられたなって思います)。

胸部レントゲン

答えはここでした。

胸部レントゲン

CTでみるとわかりやすいのですが、レントゲンでは完全に横隔膜の裏に隠れちゃってます。

胸部CT肺がん

実際、矢印のところが肺がんで、この方は手術して助かりました。
実は横隔膜の裏や心臓の裏にも肺があり、こんなところに病気が隠れている場合もあるのです。

ですので、私たちは少しでも怪しいと思ったらCT検査などで確認するようにしています(2次元の画像であるレントゲン検査で前後に重なる影も、3次元の画像であるCT検査では分けて見ることが可能なのです)。
CT検査は1回で5~20ミリシーベルトと、胸部レントゲンに比べると多くの被ばくがあるため、簡単に何度も撮ることは避けるべきですが、数回程度ならまず健康被害は出ないので安心して撮影していただいて大丈夫です。

レントゲン検査の一番のメリットは、なんといってもその手軽さ、被爆の少なさです。
確かにそれをしっかりと読み切るのは医師の技量を必要としますし、どうしてもその検査の特性上、「読みすぎ」、もしくは「見落とし」は(例えどんなに優れた読影医、それにAIが読んだとしても)必ず起こり得ます。

しかしこの簡単な検査で病気が見つかることも非常に多いのも事実です。


是非必要な時は、信頼できる医療機関でレントゲン検査、受けてみてください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.11.20更新

コロナワクチンもひと段落付いたと思ったら今度はインフルエンザのワクチンでてんてこまいです・・・

かかりつけの方がおかげさまで以前より増えたため、今年は相対的にワクチンの数が足りません・・・。
何とかかき集めていますが、やはりかかりつけの方の接種のご希望には最優先で応える必要があるので、インフル専用枠のご用意がわずかしかできていないのが実情です。
かかりつけの方の接種は10月11日から開始しており、ある程度行き渡りつつあります。
これがひと段落すると枠のご準備ができるようになると思いますので、ご希望の方はもう少々お待ちいただければと思います。
最新情報もできるだけLINEアカウントに掲載しますので、フォローしていただけると幸いです。

友だち追加

さて、当院には呼吸器の疾患をお持ちの方が多くいらっしゃいますが、もちろん一般的な内科診療もしっかりと行っております。
ですので、血圧上昇、コレステロール値や中性脂肪値の上昇(脂質異常症)、糖尿病と言った生活習慣病の方が数多くご来院されます。
その中でも高血圧や血圧が高めの方は非常に多く、呼吸器疾患など他の疾患でかかられていても、同時に血圧も高くて気にされている方は少なくありません。

そりゃそうです。

現在の診断基準で、わが国で高血圧に当てはまる方は4300万人と言われています。
日本人全体に占める割合としてはちょうど3人に1人ということになりますが、この分母は、子供や病院に全く通っていない若い方を含めた数値となるので、当院にいらっしゃる方の中で見ると割合は当然もっと上がり、むしろ「血圧が高めでない」人の方が少ない印象です。
ですので、当院にいらっしゃる血圧が高めの方、つまり大部分の方は、当院の中で血圧を測定する機会があります(もちろん強制ではありませんが)。

ここで良く言われるのが「私、病院に来るといっつも血圧高くなるの。家ではいつも低いのよ」というお言葉です。

確かに、血圧記録を持ってきていただくと理想的な血圧なのに、当院の血圧計での血圧では30も40も高い方がいらっしゃいます。

医学的にはこの状態を「白衣高血圧」といいます。

白衣を見ると緊張して血圧が上がってしまうことから名づけられましたが、クリニックの中で測ることそのものも緊張するでしょうし、必ず白衣を見ることだけが要因ではありません。
この「白衣高血圧」、統計的には診察室血圧が正常な方と比べて脳や心臓の血管トラブルのリスクが高く、また白衣高血圧から持続性の高血圧に移行する例も多く注意すべきとされています。

ということで「白衣高血圧」を見抜くことは大事なのですが、本当に院内で血圧が高く出た方は皆さん「白衣高血圧」、なのでしょうか?
そこで今回は、クリニックで血圧を測るときの、本当に正しい血圧の測り方とはどうなのか、ということについて考えてみたいと思います(写真のモデルは当院のエースブロガー、深田です)。

 

まずは血圧を測るタイミングからです。

当院にいらっしゃったときに、すぐに血圧計で測ってしまうと血圧は高めに出ます。
欧米では5分以上安静にしてから測定するように定められていますが、簡便性を考慮し、日本では1~2分以上安静にするようにされています。
とはいえ、混雑もあるし、後ろがつまるとドキドキで血圧がかえって上がってしまいそうです。

最低1分(激しく動いてきた場合は2分)待ってから測るようにしましょう。

あと、健康診断や診察などで来院され、尿を検査で出す場合があり、尿を我慢して来院されることもあるかと思います。
この場合は先に尿を検査に出してしまいましょう。
満タンの膀胱から排尿を済ませると血圧は10mmHg程度下がります。
この間に体を休めることもできるので、最低1分の休息の点に関しても満たすことができます。

次に測るときの衣服です。

もちろん理想は半袖で、皮膚にカフを直接巻くことですが、薄手の長袖ならそのまま上から巻いてしまっても問題ありません。
複数の報告では2mmの薄手のニット程度までの服では、ほぼ測定する血圧に影響はなく、4mmのやや厚手の服になると約3mmHg、7mmの厚手の服になると約5mmHg血圧が高く出る傾向があるようです。


血圧測定時の注意

当院の血圧計に掲示してある注意書きです


また無理に袖をまくって上腕が締め付けられると、血圧がやや高く出る原因となりますので、できれば簡単に薄着になれる服でご来院ください。

次に測る姿勢についてです。

やはり正しい姿勢にならないと血圧は高く(もしくは低く)出てしまう可能性があります。

まずは腕の高さです。

台に腕を置き、カフをまいた時にそのカフが心臓の高さに来る必要があります、と言ってもわかりにくいので、カフの高さを男性は乳首の高さ、女性は乳房の高さに合わせてもらうといった方が分かりやすいかもしれません。

血圧測定

その位置に椅子の高さを合わせてください。
ちなみにこの位置よりカフが5cm低いと3~4mmHg血圧が高く出ます。

 

次に測る姿勢です。

座る椅子ですが、これは背もたれにもたれかかれることが重要です。

背もたれによりかからないで測るだけで6~10mmHg程度上がると言われ、前かがみの姿勢だとさらに血圧は上がりやすくなります。

血圧測定

実は当院でも以前は回転式スツールを使用していたため、この姿勢になってしまっていました。
このことに気づき、当院では以下の写真のような配置とすることにしました(ミソは血圧計の「横」に背もたれ付きの椅子を置いてあることです。このようにすればアームイン式でも前かがみにはならず、背もたれに背を付けながら血圧を測れます)。

血圧測定

 

当院では腕を入れるアームイン式の血圧計を置いていますが、この血圧計、工夫しないと上の図のように、前のめりの姿勢でないと腕が入りません。

ですので、当院では血圧計の後ろではなく、横にいすを置くこととしており、また左、右どちらでも測れるように椅子を二つ設置することとしました。

血圧計

(足をがっちり固定したので動かないようにしたはずしたが、私達の周知不足でやはり皆さん椅子を動かそうとされる方が多く、すでに椅子が1つ壊れました・・・
でもそりゃそうですよね、今までと全然違う配置だもの。
うちのブロガー深田もスタッフブログで一生懸命お知らせしてくれてます。わからないことがあったらお気軽にスタッフにお聞きください!!)

また、足を組まない、足を地面につけてブラブラしないということも大事です。
足を組むと血圧は2~8mmHg上がる可能性があります。

血圧測定

また測っている間ですが、この時にはお話をしないようにしましょう。
お話ししながら測ると5~10mmHg程度上がってしまうことがあります。心を無に。

測る回数ですが、2回以上測ると体、ココロともに慣れた2回目以降の方が下がる方が多いです。この場合は2回の平均を取ってください。


というわけで、このようなことを周知してから当院で血圧を測定した時に、以前より下がったというお声を頂くことが増えてきました。

ただこれを守ってもなお血圧の高い方はやはり要注意です。
その場合、家でも血圧を正しく測り、自分の血圧を知っていただくことが重要となってきます。

その家での測り方についても、次回以降また時間見つけて書いてみようかな?と思ってます。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.02.07更新

結局緊急事態宣言が延長された2月、当院ではここしばらくコロナ陽性例はいらっしゃいません。
が、減ったとはいえまだ茅ヶ崎でも1日10名程度は報告されており、まだまだ気を緩めることはできません。
私もまだまだステイホームということで、今日は息子が学校の図書に載っていた「おひさまパン」を作ろうと朝からパン生地をこねこねして焼きました。人生初の自家製パンでしたが出来上がったら直径25cmと予想外の大きさとなってしまい、4人で食べても腹パンパンです(いやダジャレのつもりじゃなかったのですが、ホントに・・・)

おひさまパン

というわけで、今回は前回の続き、パルスオキシメータについてです。今回はパルスオキシメータを扱う際の注意点について書いてみようかと思います。

今アマ〇ンや楽〇などで検索すると、本当にいろいろな価格帯のパルスオキシメータが発売されているようです。
中には1000~2000円で買えるものもあり、私もびっくりしました(コロナ前は検索しても出てこなかった価格帯です。それだけ需要も増えたのでしょう)。
ただ前回もお書きした通り、酸素飽和度(SpO2)は95%を下回ると、その数字の扱いについては慎重にならないといけなくなります。98%と96%ならその違いはあまり気になりませんが、94%と92%ならかなり意味合いは変わってきます。
またパルスオキシメータはその指先の血流をとらえます。特に寒い冬のこの時期、指先が冷えている方は少なくありません。すると指先の血流は少なくなっている状態になります。また病態が悪化し血圧が下がってしまったときも同様です。
この血流を正しく捉えられるかはそのセンサーの精度にもよります。いざというときのモニタリングですので、もし家庭に常備しておくからにはやはりここが信頼できる機器でないとあまり好ましいとは言えないかもしれません。
やはりベストは医療機器認証を受けたものだとは思いますが、やはりやや高価ではあるので、極端に安価なものに手を出さないようにすればまずはいいのかなと思います。

次にパルスオキシメータで実際に測定する際の注意点です。

まずはマニキュアなどを塗っていると当然正しい血液の色が測定できません。使用するときはマニキュアを落とします(爪が特に濁っていなければ足の指で測ることは可能です)。

そして指を差し込むときにはしっかり奥まで差し込みます。センサー部分が爪にあたっていないと正確な脈波が拾えません。

上述の通り、寒かったり血の巡りが悪く指先が冷たいときは測定が不正確になることがあります。
通常パルスオキシメータには脈波も同時に表示されますが、これの表示が弱い場合は指を温めたり、血流の良い他の指で測定するなどの工夫をしましょう。

また指を動かしていると正しい測定ができません。
その理由は、指を動かすとセンサーの発光部と受光部の間にある指が動くことで、拍動のノイズになってしまうことがあるからです。
測定するときはパルスオキシメータを装着した指を机などに固定していただくといいです(できれば心臓と同じ高さであるとベストであり、日本呼吸器学会はできれば胸の前で固定することを推奨しています)。

測定すると数秒で値が出てきますが、20-30秒間は値が安定しません。しばらく時間が経ってからの値を読み取るといいと思います。

前回の記事で、SpO2の原理を説明しました。全体のヘモグロビンのうち、酸素と結合したヘモグロビンの割合を測ることで測定しますが、もともと貧血があると、そのヘモグロビンの量が減ります。
するとそもそも酸素の乗っているヘモグロビンも少なくなるので、SpO2が保たれていても酸素が足りないということがあり得るので注意が必要です。

また一部の薬剤で測定値に影響が出ることがあります。狭心症発作で使われるニトロや、一部の不整脈の薬を内服するとSpO2が低くでることがあります。

またSpO2が正常範囲でも絶対に大丈夫とは言えません。
人間は通常、体内の酸素が少なくなると、呼吸の回数や量を増やすことで対応しようとします。この時酸素の取り入れと引き換えに二酸化炭素を外に出します。
通常、人間の体は十分な量の酸素とある程度の量の二酸化炭素を擁することでバランスを保ちますが、つまり酸素が少なくなった状態では、二酸化炭素を引き換えに酸素を得るのです。
この状態はもうひと崩れするとあっという間に酸素不足に陥る状態ですが、この時点ではSpO2には反映されません。SpO2が95%程度でも呼吸が非常に荒いときは要注意です。

このように一見手軽なパルスオキシメータですが、やはり医療機器ですのでいくつかの注意点はあります。
このことをしっかり知っておけば有用な機器ですので、お手元にある方はぜひ正しくご使用いただけると幸いです。

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.01.30更新

ややコロナも山を越えてきたのでしょうか。
日々報じられる感染者数も一時期よりは少なくなってきました。
当院でも冬なので発熱や咳で来られる患者さんは相変わらず多いのですが、コロナを強く疑う患者さんの数は減ったように思います。また当院で実際にコロナと診断される患者も、年明けに比べればだいぶ減ってきているようであり、現場の実感としても落ち着きつつあるのかなという印象はあります。

しかし、コロナはやはり重症化が怖い病気です。
新規感染者の数が減ってもまだまだ重症者の数は多いようで、感染が判明してしばらく経ってから重症化するというコロナの恐ろしい面が反映されています。

このコロナに関しては、呼吸困難の自覚のないまま呼吸状態が悪化する「幸せな低酸素血症」“happy hypoxia”という状態が起こることが知られており、感染からしばらく経った後、気づいたときにはかなり呼吸状態が悪くなっていることがあるようです。
この原因としてはまだはっきりとは解明されていませんが、コロナが悪化しやすい高齢者や糖尿病の方は、もともと呼吸調節を行う調節機能が落ちている、呼吸困難を感じる体内のセンサー(頸動脈小体)にコロナウイルスが感染しやすく、そこのセンサーの機能が落ちることで呼吸困難を感じにくくなる、などの理由が考えられているようです。Martin J Tobin, et al. Why COVID-19 Silent Hypoxemia Is Baffling to Physicians. Am J Respir Crit Care Med. 2020;202:356-60.
現在軽症感染者さんの主な療養場所も自宅やホテルとなっており、ただの風邪症状の方もコロナである可能性が否定できない以上、家でも早期に呼吸状態の悪化を見落とさないようにする必要があると思われます。

そこで最近注目されているのがパルスオキシメータです(当院も今後の診療能力向上のために、今年からちょっとイイやつを新たに導入しました)。


これは日本語で「経皮的動脈血酸素飽和度測定器」といって、皮膚の上から光を当て、動脈血の「赤み」を測定する機械です(ちなみにこの機械が開発されたのは日本なんです!)。


使い方は、クリップになっている部分を開き、指を挟み、爪の部分が発光部にあたるように奥まで差し込むだけです。

パルスオキシメータの使用方法

血液が赤いのは、赤血球に含まれている「ヘモグロビン」という色素のためです。このヘモグロビンは酸素とくっつく性質を持っています。

肺で取り込んだ酸素は、肺に流れこんでくる血液の中のヘモグロビンとくっついて心臓に戻り、そして全身へと運ばれます(血液の液体の中にも溶け込みますが、溶け込んだ酸素はほぼ組織には運ばれず、液体の中にただよったままです)。
このヘモグロビン、酸素とくっつくと赤くなり酸素から離れると黒くなるという性質を持っています。
すると、肺で酸素をため込み心臓から飛び出したばかりの新鮮な血液(つまり動脈血)は色が赤々としていますが全身に酸素を配り終えた後の血液(つまり静脈血)は黒めの色となります
皆さんが血液検査で血を採られると、意外に血が黒いと思われる人が多いですが、これはすでに全身に血液を配り終えた静脈血を採取しているからです。

そして、パルスオキシメータは先ほどお話ししたように動脈血の赤みを測定するため、肺から酸素をしっかり取り込めているかを測ることができるというわけです。
パルスオキシメータで測る数値を、動脈血酸素飽和度(SpO2)と呼びます。
これは血中のヘモグロビンのうち、何%のヘモグロビンが酸素と結合しているかを示しています。ですので最大値は100%になります。

パルスオキシメータの原理
そして血液中に含まれている酸素(これを酸素分圧と呼びます)と、酸素飽和度(SpO2)の関係は以下のグラフのようになります(これを酸素解離曲線と呼びます)。

酸素解離曲線

上の表でもわかる通り、通常若い方の血液中の酸素分圧は95mmHg程度で、これは酸素飽和度(SpO2)でいうと98%に相当します。
また高齢者では酸素分圧80mmHg程度で、これはSpO2 95%に相当します。
機械の誤差を含め、95~99%であればあまり大きな問題はありません(100%だと時によっては過呼吸など、呼吸が多すぎることを疑います)。
そして、我々医師は通常、肺や心臓に慢性的な病気がない方の場合、SpO2が93%程度になると焦り始め90%を切ると慌てます。これは酸素分圧60mmHgに相当し、これを下回ると呼吸不全とされます。
グラフもここを下回ると急になり、急激にSpO2が低下していき、いろんな臓器が十分な酸素を受け取れなくなってくるため危険な状態へとなっていきます。通常の場合では呼吸不全、つまり酸素分圧60mmHg、つまりSpO2 90%を下回る場合には、酸素療法や、場合によっては人工呼吸器療法によって酸素分圧を上げる必要がでてきます。
この治療の目安が指に機械を挟むだけでわかってしまうのです。

というわけで、痛みなく簡単に体内の酸素の状態が分かってしまうスゴい機械、パルスオキシメータですが、使うには実はいろいろな注意点があり、使用を安易に考えると、時に問題を生じることが出てきます。長くなりそうなのでこの続きはまた次回。

 

追記:続編はいつ出すんだ!?というご指摘を受け・・・
続編はこちらになります

→2021.2.7 パルスオキシメータについて ~使用する際の注意点~  

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.12.09更新

2020年も12月に入り、間もなく悪夢の1年が終わろうとしていますが、相変わらず年の瀬までコロナ、コロナの世の中です。ここ茅ヶ崎でも、都会ほどではないですが連日陽性者の報告が上がっています。

海外ではワクチンの接種が始まり、わが国でも来年には始まるでしょう。ワクチン接種がどのような結果を生むのかは誰にもわかりませんが、1日も早く通常の世界に戻ることを切に願っています(あー、忘年会、やりたかったなあ・・・)

さてまだまだ落ち着かないコロナ禍の中、市中では自由診療におけるPCR検査が注目されているようです。安価で提供できるPCRセンターが街中にでき、予約が殺到しているとの報道もありました。

検査に関しての結果の確からしさという点では、以前にもこちらのブログで触れています。
まずはPCR検査の結果は絶対ではありません。とはいえ、現時点でコロナの診断のゴールドスタンダードはやはりPCRですあくまで医療機関、検査機関で正しく検体を扱い、精度の高い検査機関で行ったものに限ります。安くてもこの部分がいい加減な検査は論外です)。

では自費でのPCR、これってやはり「あり」、なのでしょうか。
テレビや雑誌では相変わらずPCRの議論が喧しいですが、ここらでもう一度冷静に検査の原理を復習しながら、その意義と問題点を考えてみたいと思います。

以前の記事で感度、特異度の説明をした際、特異度を90%と仮定し、偽陽性が多く出る可能性があると書きましたが、実際PCR検査の特異度(=病気でない人を正しく陰性と判断できる確率)はもっと高いようです(つまり病気がないのに陽性となる確率が低い=陽性と出たら病気である可能性が高いということ)。
基本的に微量の遺伝子を増幅して検出するので、ごくごく少量のウイルス遺伝子でもしっかりと拾い上げることができるためです。

それでも100%ということはあり得ないと思います(特異度が100%なら偽陽性は存在しないことになりますが、実際に体操の内村選手など、偽陽性のケースが実際に報告されていることがその証拠です)。これは検体の中に他の検体のウイルスが混入する可能性もあるためと言われています(クロスコンタミネーションと呼ばれ、他の感染症検査でも珍しくない要素です。今の検査の現場はおそらく検査数も多く非常に忙しいため、どんなに対策をしていたとしても混入を完全に防ぎきれない可能性はありえるでしょう)。

とはいえ、特異度は99%かそれ以上はあるとのことですので、ひとまず偽陽性のケースは(ありえることではありますが多くはないと考え)、ここでは置いておきましょう。

自費PCRを受ける方の受診動機は何でしょうか。
おそらく出社や会合に出るために必要である、出社や会合に出るために必要である帰省するために確認したい、高齢者や病気の方と会うときにリスクを排除しておきたい、などではないでしょうか。
となるとやはり自費PCRを受ける方の目的は、多くの場合「自分が陽性であったらどうしよう」ではなく、「自分が陰性であることを確認しよう」というのがほとんどなんだと思います(もちろん例外はあるでしょう)。

検査の動機

しかし、この検査は陽性に出ることに意味がある検査なんだと思っています。

その理由をご説明します。

この検査は特異度が高い一方、感度はそれほど高くありません。

特異度が極めて高ければ、前に書いた通り、陽性と出れば、その人がコロナである可能性はかなり高いといえるわけです(本当にそう言い切れるかどうかはまだ議論の余地があります。さきほどのクロスコンタミネーションの可能性もありますし)

一方感度(=病気の人を正しく陽性と判断できる確率)はそれほど高くない検査でもあります。
例えば感度が70%とすると、病気の人を陽性と出せる確率が70%ということです。つまりコロナの人のうち、30%は見逃すということです。

図で表しましたが、この場合、検査前の確率が高い場合、「陰性だけどコロナである可能性」は上がります一方検査前の確率が低い場合は「陰性だけどコロナである可能性」は非常に少なくなります。

検査前確率

ということは、その人の検査前の感染確率によって解釈を変えなければならないわけです。

ところが検査前の確率はその人その人によって大きく変わります。
例えば濃厚接触者は当然検査前確率が上がります(が、このケースではそもそも「行政検査」となり、費用は公費負担になります)が、毎日飲み屋で感染対策をせずに飲み歩いている人も検査前の確率は高くなるでしょう。
一方買い物以外では出歩かず、常に感染対策を怠らず、周りに風邪をひいた人がいない場合は検査前の確率は低くなるはずです。
当然その中間の人も多くいるでしょう。

これらの人は、それぞれ検査結果の解釈に違いが生まれるはずなのです。
検査前確率が高い人は、結果が陰性でも結構な確率で偽陰性があり得るということです。この状態で陰性だからと安心してしまうのは危険です。
一方検査前確率が低い人は、結果が陰性がでればまあ確からしいのですが、それは検査をしなくても大きな変化はないともいえるのです(検査前確率が低い人が検査でひっくり返る可能性は極めて低いわけですから)。

となると、やはりPCR検査は、「陽性がでてなんぼ」の検査というわけです。
陰性はコロナじゃないことの証明にはならないわけです。ただ陰性の結果を欲しい人にはあまり向いていない検査なのです。

あまり出歩かない検査前確率が低い人は、そもそも検査を受ける必要性が低いわけですし、検査前確率が高い人は、陰性でもコロナである可能性が他の人より高くなるので、その解釈に気を付けなければならないわけです(検査前確率を自ら高める行動をとっている人が、この原理を理解せずに陰性で喜んでしまう事態が一番怖いとも言えます。厳しいこと言うようですが、このような行動をとってしまっている人は自費PCRを受けるべきではないといってもいいのかもしれません・・・)。

この検査前確率はやはり第三者である我々医療機関が保険診療で問診、診察で判断して、陽性の可能性を高めたうえで行うべきだと考えます(検査を絞ろうという意味ではないです。もちろん必要な検査はどんどん出しますよ)。
やっぱり一般の方が自由に受けられてしまう自費PCR検査は、このような面から何かと問題がある気がして、もやもやしている今日この頃です。

というわけで、当院では現在保険診療でPCRを行えるように準備を行っています。従来通り抗原検査もコロナ、インフルエンザ双方とも準備をしており、状況に応じて使い分けるように計画しています。困ったらお気軽にお電話にてご相談ください。

あと、上記の理由にて当分自費PCRは行わない予定ですが、医学は一昔前の常識が非常識となる分野です。今後も柔軟に、その時のベストを考えられる加藤医院でありたいなと思っています。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信