医師ブログ

2021.11.01更新

前編はこちら!
2021.10.13 喘息の吸入薬は続けるべき?

 

ようやくコロナも落ち着き、ここ加藤医院のある茅ヶ崎、そして雄三通りにも活気が少しずつ戻ってきています。

ただ、ありがたいことなのですが、その活気は当院院内にも及んでいます。

この時期は季節の変わり目で、咳など呼吸器症状でご来院いただく患者さんも非常に多く、数日前からずっと予約枠が埋まってしまう状態が続くなどご利用いただく患者さん方にご迷惑をお掛けしてしまっています・・・

先週からまたスタッフを増員するなどできるだけの対策は打ってはいます。
が、やはり当院は主に咳という判断の難しい症状を主に診察している手前、どうしても患者さんからお話を伺う時間が長くなったり、また症状が悪化してしまった方にも細かく状況をお伺いしたり対処法をお話しさせていただいたりと、診察にお時間が必要となるクリニックです。

現在スタッフの増員の他にも、システムやフローの抜本的見直し、新しいシステムへの設備投資などを可及的速やかに行っており、まだ道半ばの状態です。

まだしばらくはご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんが、少しずつ改善の兆しも出ています。今しばらくお待ちいただけるようお願い致します。

なお受診枠が埋まってしまい、なお早急な受診をご希望される際は、可能な範囲でなるべく早めに診察できるようにスタッフが受診調整をさせて頂いておりますので、遠慮なくお電話でご相談ください。


というわけで、私も多忙を極めていましたのでなかなかブログの更新ができませんでした・・・
ようやく時間を作った今午前0時、何だか目もギラギラしてるので、執筆に取り掛かろうと思います。


さて、前回は喘息という病気を続けることの難しさについて書いてみました。

今回は、じゃあ喘息の人はどうしたらいいの?ということについて、少し考えを書いてみたいと思います。

まずは喘息の治療をしている方が、この治療をいつまで続けたらいいかの判断についてです。

まずその根拠として考えるのは、その方の喘息という診断が本当に正しいかどうかの確認です。

以前もお話しした通り、喘息には「数字」がありません。
ですので、通常は症状や背景、歴史などから総合的に判断するしかないのが現状です。

そして、これが結構難しいのです。

私の外来にもいままで喘息と言われて治療をしていたものの、いろいろ診察してみたら実は喘息でなかった方という方が時々いらっしゃいます。
その場合、真の原因の治療を行うことで症状が出なくなれば、治療の終了は当然可能となります(ただ真の原因があっても、そこに喘息が合併していたという可能性は常に考える必要がありますが)。

次にやはり症状の原因が喘息であった場合、その症状の原因が明らかになっている場合は、その原因の除去にトライしてみます。
例えば長く使用していた家具や寝具などにアレルギーの原因であるダニが多くいたりペットを飼っていることで症状が起こっていたりなどという場合です。
その原因を除去したら全く症状が出なくなるケースがあるので、その場合は治療中止が可能かもしれません(ペットを手放すことはなかなか難しいのですが・・・)

しかし、原因を完全に除去できることは、正直あまり多くはありません。
また取り除けない原因(花粉やカビ、自宅や職場の環境、温度差や湿度の変化など)も多くありますし、そもそも原因がはっきりしない、もしくは全くない場合も少なからずあります。

このような場合は、やはり簡単には治療を中止できません。

前回も書いたように、喘息は、患者さん自身が症状が落ち着いていると感じていても、実際には気道に炎症が残っており夜だけの咳とか、天気の変化による咳とかといった多少の症状が残っていることが少なからずあります。
この場合は、何かをきっかけとして症状の悪化をきたすリスクがあります。そしてこの状態を繰り返すと、炎症はだんだんと治まりにくくなってしまいます。

炎症が続いている場合は、しっかり治療を続けることに異論の余地はありません。


一方、しっかりと吸入を続け、症状を完全にコントロール(24時間まったく咳がないのが続く状態です)し続けられている場合を考えてみます。
その場合、ずっとその吸入を続けなさいというのは簡単なのですが、患者さんには「とは言っても、症状もないのにいつまで続ければいいんだろう・・・?」という疑問が必ずわきます。

症状がなくなったら、治療はいつまで続ければいいものなのでしょうか?

これに対する正解は、実はまだありません(先月出された最新の「喘息予防・管理ガイドライン2021」でも、その中止の基準はないとはっきり明記されています)。

そこは患者さんの状況や考え方と、我々医師の考え方のすり合わせで決まっていくものなのです。


そこでここからは私個人の考え、やり方を書いてみます。

私は、まずしっかりと正しい治療を行い、症状がなくなっていることを2-3か月確認したら、少しずつ治療レベルを下げてみます(吸入薬のレベルを下げたり、内服薬をやめてみたりします)。
またしばらく見て大丈夫そうなら更に治療レベルを下げ、できるだけ低い治療レベルまでもっていきます。

その状態でどのシーズンも悪化してないことを確認したら、やめてみることはできるかもしれないと考えています。


また近年、新しいデータも出てきました。


吸入薬である「シムビコート(吸入ステロイドと気管支拡張薬のハイブリッドの薬です)」は現在、1日2回の定期的な吸入に加え、症状が悪くなった時にも追加で吸入できるという使用法(SMART “スマート” 療法)ができます。
シムビコート

これを、軽症の喘息の人に対し「定期的な吸入をせずに、症状が悪化した時だけ吸入をする」という使い方をさせたところ、通常の「毎日吸入ステロイドを使い、悪化時に発作治療薬を使う」使い方と比べて、悪化の頻度を変えなかったという研究結果がでました。N Engl J Med. 2018:378(20):1877-87.  N. Engl J Med. 2019;380:2020-30.
実際、喘息の国際ガイドライン(Global Initiative for Asthma;GINA)では、軽症の喘息の患者さんにはこの治療法が一番勧められている治療法になっています。

ただこれにも問題点があります。

まずはこの治療法が、今のところ日本では保険上認められていないということです。

実はこの研究には日本人が含まれていませんでした。
治療というのは人種差がでることがあり、確かに日本人で同じ結果になるという保証はなく、まだ大っぴらにはこの治療をおすすめすることはできないのが実情です。

二つ目が、前にも述べたように、どう「軽症な」喘息であるということを判断するかということです。

症状が軽くても、たびたび出てしまうような方では、「軽症」とは言い切れないのでやはりこの治療法は好ましくありません。

また、この治療法を行っているときに、本当に患者さんの状態が安定しているかどうかは大事な点です。
本当はもっと悪い状態なのに、本人にその自覚がない場合は、それを患者さんとのお話だけで見抜くのは簡単ではありません。

とはいえこの治療法も、患者さんの状況によっては有力な選択肢となるかもしれません。
少なくとも患者さんにとって、「症状があるときだけ使えばいいよ」と言われること、将来的にはそのような状態になりうる期待ができうることは、精神的にはずいぶん楽になるのではと思います。
「将来的には」ひとつの良い選択肢にはなり得るかもしれませんね。(「現在は」保険適応はありませんが、うまくやれば・・・なにをすめr

ちなみに症状があるときだけ発作治療薬(メプチンやサルタノール)のみを使う治療に関しては、気管支の炎症を悪化させること、悪化、入院の頻度を増やしてしまうことから、最新の国際ガイドラインで否定されています。
このような治療法は、今はよほどの軽症でない限り、基本的にはおすすめできないと思います。

とにかく、喘息の治療はいろんな面で主治医とのコミュニケーションが大事な病気です。
よーく主治医と話し合って、お互いが納得できる治療法を選択していきましょう。


というわけで、午前3時半になりました。ギラギラです。ランナーズハイです(笑)

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.10.13更新

ようやくコロナも落ち着いてきて、緊急事態宣言も解除されました。

10月に入り、当院でもほとんどコロナ陽性の方を見ることはなくなっています。
ワクチンも行き渡りつつあり、重症者も大幅に減っているようです。

ウイルスの動きはまだわからないことも多くあり、日本よりワクチン接種が先行している他国でも、患者数が一旦極端に減った後にまた増加に転じてしまった国が多くあるようですので、やはり油断はできません。

とはいえ、ゼロリスクが必ずしも正しい戦略ではありません。
今だからこそ、羽目を外しすぎず、ちょうどいいくらいの感染対策をしながら、少しずつ経済を回すべき時期に来ているのかもしれませんね。


というわけで今回は、久しぶりに落ち着いてきたコロナから少し外れて、当院が診療しているメインターゲットの一つである、喘息について触れてみます。
なかでも、外来でよくあるご質問に「喘息の治療って、いつまで続けるんですか?」というのがあります。
今回はそのことについて考えてみたいと思います。

まずは喘息とはどんな病気か、考えてみたいと思います。

喘息は、ここにも書いた通り、慢性的に気管支に炎症が起きてしまうという病気です。
そして様々な悪化要因(花粉やダニなどのアレルギーや、天候、寒暖差、ストレスなどなど・・・)によって悪化します。
この炎症に対しては、基本的には吸入ステロイド薬を用い火消しにかかります。

ただ一方、それらの悪化要因がなくなると、薬がなくても症状が自然に軽くなることも少なくありません。
実際には「喘息が治った」わけではないのですが、この時患者さんはしばしば「喘息が治った」と思ってしまいます。

喘息は治ったわけではないので、ここで治療を止めてしまうと次に悪化要因にさらされたときに、当然また症状が悪化してしまいます。
ですので、悪化要因にさらされたときにも悪くならないように、治療を続けて悪化を防ぐ必要があるわけです。

そしてこれは、喘息になってしまう「体質」のために起きます。
「体質」というのはそう簡単には変えられないものです。
喘息「体質」が変わらない以上、喘息という病気は、基本的には一生付き合っていかなければならないものとなります。ですので、治療は基本的には続けて頂くのが「正解」です。

よく考えるとこれは、治療を続けることで悪化を食い止めている高血圧や糖尿病などの病気と、本質的には同じな訳です。


ところが喘息は、高血圧、糖尿病などと比べ、患者さんが途中で治療を止めてしまいやすい病気でもあります。
どちらも、治療を続けることで悪化を食い止める「慢性疾患」であるのに、です。

血圧の薬に比べ、喘息の薬は実際に服用されている率が半分以下になってしまうデータもあります。
薬剤アドヒアランス
つまり喘息の患者さんは、同じ慢性疾患である高血圧や糖尿病の患者さんと比べ、治療を続けてくれる割合が非常に低いということになります。

 

ここで喘息治療でよくある日常の外来風景を、それぞれの心の中を代弁しながら見てみたいと思います(うちの外来の話、というわけではなく、あくまで一例です。こうじゃない展開も実際はたくさんありますので悪しからず)。

患者さん「最近咳がとまらないんです、以前から風邪ひくと咳が長引くんです」(また風邪ひいちゃったな、風邪ひくといつも厄介になるから早めに薬もらおう
医師「なるほど、咳がとまらないんですね」(咳も長いし何度も繰り返してるから、風邪だけじゃないっぽいなあ

 診察、検査後

医師「喘息だと思います、吸入治療を始めてみましょう」(やっぱり、風邪の咳がこんなに長く続くはずないもんな
患者さん「私、喘息なんですか。わかりました」(風邪だと思ってたのに・・・聞いてないよぉー

 治療後

患者さん「咳がだいぶ止まってきました」(やっと治ってきたよ。でも吸入治療って薬飲むのと違ってメンドくさいな・・・
医師「良かったですね。喘息は治療を続けることが大事ですから、良くなってもやめないでくださいね」
患者さん「わかりました」(えっ、もう症状ないのにまだ止めちゃダメなの!?)「いつまで続ければいいんですか?」
医師「基本的にはずっと続けてください」
患者さん「・・・わかりました」(風邪かと思ってたのに喘息って言われて、症状何にもないのにこんなメンドくさいことずっと続けるなんて、やってられないよぉ・・・

とまあ、こんな感じで患者さんの胸の内はもやもやしたまま、何度か通院した後に治療を止めてしまうパターンは少なくありません。

 

では、それって全部喘息の患者さんが悪いのでしょうか?

 

私は、喘息には特有の、治療を続けにくい病気としての特徴があるからではないかと思っています。

その原因を挙げてみます。

・吸入がいろいろとメンドくさい

やはり、吸入治療の煩わしさがまず挙げられます。
飲み薬と違い、アクションが多かったり、うがいを必要としたりと、まずは手数が多いことはデメリットです。
それでもしっかり使用して効果があれば使おうと思えるのですが、吸入はコツがいることが多く、このコツを知らないとうまく薬が気管支に届かないため効きません(そして、そのコツを教えてくれるところが非常に少ないのも問題です・・・)。
また、声がれ口内炎なども問題となりますが、これも避けるためのコツを教わったり、声がれのしにくい薬の種類に変えてもらったりしないと、吸入薬を使用している限り続いてしまいます。

症状が(正しい使い方ができずに)十分に改善しないにも関わらず、声がれや口内炎によって日常生活に支障が生じると、患者さんは当然吸入治療を止めようと考えてしまいます。

 

・喘息がいろいろとわかりにくい

風邪と喘息は全く異なる病気です。
しかし、どちらも咳をきたします。
また、喘息は風邪がきっかけで起こることも非常に多いです。
すると、喘息は「風邪がこじれてなるもの」と考えられてしまうことがあります。
風邪は治ったらそれで終わりなので、喘息も同様に治ったら終わりと考えられてしまうことがあるのです。

また幸か不幸か、治療を自己判断で止めてしまった後も、症状が悪化しないこともしばしばあります(悪化要因がなくなっていたり、治療による効果がしばらく続いたりするためです)。
それでもしばらく経ってから(場合によっては数年経ってから)、またその悪化要因にさらされることで症状が再発することもあります。
でも患者さんには、一旦治療を止めても(一時的にですが)悪くならなかったという成功体験が残っています。

すると悪くなったらまた治療をはじめて、良くなったら止めればいいやいう考え方になりやすくなってしまうのです。

・喘息には数字がない

高血圧や糖尿病などは、その時の状態が数字で出てき、患者さんもその数値を気にしてしっかりと治療を続けていこうとする意志が働きやすくなります。
一方、喘息にはそのような簡便な数値がありません(ピークフローという器具もありますが、患者さんによって適切な数値が違ったり、器具の使い方の巧拙で数値が変わったりと、うまく活用することはなかなか簡単ではありません)。
上のわかりにくさともつながりますが、患者さんが客観的に「良くなった」と感じる目安がなく、自分に起きた症状からのみでしか判断できなくなり、良くなったらやめてもいいかなと思ってしまいがちなのです。




と、このように喘息とは、どうしても患者さんが治療を続けにくい要素を多く抱えた病気なのです。
決して患者さんばかりが悪いわけではないと私は思います(医療者の関わりが非常に重要な病気ともいえます)。


それではいっそのこと、症状のないときは治療せずに、症状のある時だけ治療するという考え方はどうでしょうか。

でも、これに対する答えは、やはり基本的には「NO」です。

やはり「体質」で起こっている病気である以上、一見症状がないときにも気管支に軽い炎症は起こっている場合があります。
また小さな症状が起こっても、通院していない場合、多くは治療再開に至ることはありません(喘息は患者さんが自分の症状を過小評価しやすい病気です)が、その時には気管支の炎症はしっかり起きている状態になります。

そしてそのような状態が続くと、だんだんと炎症が固定化してしまい、症状が治りにくくなってしまいます(リモデリングと言います)。
またさらに悪いことにこの変化は遅いので、患者さんが症状が治りにくく悪くなっていくことに気づかずにいつのまにか進行し、治しにくくなってしまうことも起こります。

ですので、基本的にはできれば吸入治療を続けたほうがいいということの正しさは揺らぎません。

とは言っても現実問題、先ほど述べた声がかれる、口が荒れる、金がかかる、メンドくさいなど、吸入治療を続けることによるデメリットは確かにあります。

臨床家としてはここにも目を向けなければなりません。


「正解」だけ振りかざしても、実際の診療はうまくいかないのです。

となると、どこかで落としどころを探る必要が出てきます。

この落としどころに正解はなく、答えを出すのには悩ましいところなのですが、近年そのヒントとなる面白いデータも出てきています。
じらすようで申し訳ありませんが、長くなりましたのでそれに対する答えは、次回探っていこうかと思います。

後編はこちら!
2021.11.01 で、喘息の治療は、いつまで続けたらいい?

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.06.27更新

世の中は高齢者の方へのワクチン接種が佳境に入ってきており、当院でも1日最大42人のペースで接種を続けております。
とりあえず当院で接種予定の高齢者の方は、7月第3週までには何とか1回目が終わりそうです。また集団接種で接種されている方もちらほらいらっしゃり、少なくても当院の周りでは接種は順調に進んでいるようです。

また若い方からも、職域接種などによる接種の予定のお話を多く伺うようになりました。
これに合わせ、接種についての不安点、疑問点をお聞きいただく方も増えてきております。
こちらのブログも参考にされつつ、少しでもわからないこと、不安なことがありましたら、お気軽にお聞きいただければと思います。


2021.2.21 いよいよ新型コロナワクチン接種開始! ~ところでコロナワクチンってどんなもの?~

2021.4.18 「私、ワクチン打っていいの?」にお答えします。


当院の若年者へのワクチン接種も、茅ヶ崎市や医師会からのゴーサインが出たら速やかに予約を開始しますので、ご希望の方は以下のページを随時ご確認いただきます様よろしくお願い致します。

一般の64歳未満の方への新型コロナワクチン接種について

このようなご時世で世の中はまだまだコロナだらけですが、我々はコロナ以外の病気もおろそかにはできません。
当院には咳が続いて、風邪なのかそうでないのかを心配される方が多く来院されます。

日本においては慢性咳嗽の原因の最多は喘息(咳喘息を含む)とされています(欧米では後鼻漏逆流性食道炎の頻度が日本よりは多いようです)。ともかく喘息は、実に多くの方が持っている病気ですので、当院だけでなく多くのクリニックで適格に診断、治療する必要性が高い病気です。
ですので少しでもそのお手伝いをすべく、先日一般クリニックの医師向け講演会の座長をして参りました。
岐阜県で、全国に吸入指導の啓発活動をされている大林浩幸先生を(リモートで)お迎えし、吸入薬の使い方に関する講演をお手伝いさせていただきました(この界隈ではかなり有名な先生です)。
講演会

その中でもやはり患者さんご本人が思いのほかうまく吸入薬を使えていないことが少なくないとのことであり、その実例を多くご紹介いただきました。
その中には、私の診療中にも出会ったうまく使えていない方の例と類似のケースも多く、やはり患者さんが間違えやすいポイントを我々医療者がしっかりとお伝えしないと、せっかくの薬剤が患者さんのためにならないんだなあと改めて実感しました。

というわけで、おそらく半年以上ぶりの吸入薬の落とし穴シリーズ第4弾、エアゾール製剤について今回は書いてみましょう。


エアゾール製剤と言いましたが、簡単に言うといわゆる「スプレー」のタイプの吸入剤です。
現在吸入薬にはパウダーを自分で吸う「ドライパウダー」タイプの吸入薬が多くありますが、それと一線を画するものとなります。

スプレータイプの吸入薬は、まず何よりもわかりやすいことがメリットです。
押せば霧が出てきますし、それを吸えば吸入したこともわかりやすいので(何となく吸入薬のイメージというとこれを想像される方は多いのではないでしょうか)、この点が使いやすいポイントの一つです。

ただ、やはりこの吸入薬にも落とし穴があるのです。

まず吸入薬については、ボンベの中が分離する薬剤があるので、これらは使用前に振らないといけません。以下のものが振るべきものとされていますが、わからなければ何でも振っちゃって大丈夫です(笑)
吸入器を振るべきかどうか
そして次は持ち方です。
先日の講演でも例があり、私も出会ったことがあるものですが、ボンベを逆さまに持ってはいけません。

とはいってもどっちが逆さまか・・・

ヘアスプレーや殺虫剤は噴射口が上に来ますが、吸入薬は噴射口が下です。噴射口が上、つまりヘアスプレーや殺虫剤と同じ向きにすると逆さまになってしまいます。
このことは大林先生の講演にもありましたが、結構違いやすいポイントなのかもしれません・・・

次は吸入の仕方です。
このタイプの吸入薬は、パウダータイプのものと比べて、それほど吸入をするのに強い力はいりません。
ただ、粒子径が比較的小さいため、奥まで深く吸い込み、それを沈着させることが必要になります。
ですのでこのタイプの吸入薬は、ゆっくり、深く大きく吸って最低5秒程度、息止めをする必要があります。浅いと吸いきれないですし、小さく吸ってすぐ吐くと、薬が肺に沈着しないでそのまま外に出て行ってしまうと考えられています。

次に、このタイプの吸入薬は、吸入力はあまり必要ないものの、タイミングを合わせる必要があります。
タイミングは押してから直後に吸い始める、です。これが合わないと、口からスプレーのミストが漏れ出てくるのが分かります。
こうなっていないか、周りの方や、おひとりの時は鏡などで確認されるとよろしいかと思います。

最後に、当然ボンベは押さないと出てこないのですが、握力が弱かったり、手を痛めていたりしていると、ボンベが固くて押せないケースが時々あります。
その場合は写真のような補助器具が無料で使え、力が半分ぐらいで済みます。
通常の調剤薬局なら準備があるはずなので、処方薬をもらう際に薬剤師にご相談ください。

吸入補助具
以上、今回はスプレー剤であるエアゾールについて書いてみました。
あと吸入薬のメジャー処では、COPDや比較的重症の喘息に使われているレスピマットが残っています。
コロナに関しては旬なネタがいろいろ出てきますが、コロナの話題ばかりだといささか食傷気味にもなるので、コロナの話題の合間にまた書いてみようと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.11.03更新

ここ1か月ほどブログがご無沙汰になってしまいました。

理由は2つ。一つはインフルエンザワクチン接種で多くの方にご来院いただき、非常に多忙となってしまったためです。
今年はワクチンの入荷が早く、また早期から接種を希望される方が非常に多かったため、10月のワクチンの接種数が例年よりもかなり多くなりました(当院でも10月は、昨年の約5倍の方にワクチン接種を行いました)。
大変申し訳ありませんが、当院のワクチン在庫も例年とは傾向が異なっているため皆様のご希望に沿えない場合もあるかもしれませんが、最新情報は逐一こちらのページで発信致しますのでご参照ください。


もう一つが講演会の準備でした。10月30日に茅ヶ崎寒川薬剤師会とコラボをして、吸入指導連携セミナーの講演をしてまいりました。少数の医師、薬剤師の先生方に現地でご来場いただいた上で、その他の多くの先生にはオンラインでご視聴いただきました。

茅ヶ崎寒川吸入指導連携セミナー

今回は新しい試みとして、いろんな種類の吸入器具を大量に現地に持ち込み、吸入薬の使い方のコツ、患者さんがミスしやすいところを実演し、それをオンラインで配信するという方法でやってみました。回線速度に限界がありやはりやや見にくい面はあるようでしたが、予想以上の人数の先生方にご視聴いただき、また講演後はありがたくもご評価の声を多く頂くことができました。
現地にご参加いただいた先生方、オンラインでご視聴いただいた先生方、この場を借りて御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

講演1

講演2

 

さて、今回はその吸入薬の中で、ブリーズヘラーについて取り上げてみましょう。吸入薬の落とし穴シリーズ第三弾です。

ブリーズヘラーは、今までは主にCOPDの治療に用いられている「ウルティブロ」「オンブレス」「シーブリ」に用いられる器具です。ここにこの8月、喘息に用いられる薬剤として「エナジア」「アテキュラ」が加わり、全5種類となりました。
特に「エナジア」は、ステロイドと、β2刺激薬という気管支拡張薬の配合に加え、新たに抗コリン薬というタイプの気管支拡張薬も一緒に配合された、本邦初めての3種配合の喘息治療薬となります(他にも3種配合の吸入薬はすでにありますが、現時点ではCOPDのみに使える薬剤です)。
1日1回の吸入で済むこともあり、今後なかなか症状のコントロールが難しい重症喘息の方に良い選択肢になるのかなって思います。

ただ、やはり何度もこちらで触れている通り、吸入薬は使い方が大変重要です。間違って使ったらどんなにいい薬でも効きません。
さて、この吸入器具にはどんな落とし穴が待っているのでしょうか。

この薬剤は下のような器具にカプセルを入れて、横のボタンを押すと出てくる針でカプセルに穴をあけ、それを吸い口から吸うという薬剤になっています。

ブリーズヘラー

まずはカプセルを取り出すときの注意点です。実は上の5種類の薬剤で、「オンブレス」という薬剤だけは通常のフィルムと同様、押し出してカプセルを取り出します。そしてその他の薬剤は、フィルムを剥いて取り出します。このカプセルの取り出し方を間違うとカプセルが潰れてしまい、使えなくなってしまうので、よく説明を確認して取り出しましょう。

ブリーズヘラー

また器具の中にセットした後、横のボタンを押して、それによって出てくる針でカプセルに穴を開けるわけですが、穴を開けずに吸ってしまったら全く薬は出てきません。
それと、ボタンは左右ともあるので、両方とも押すことでカプセルの左右両方から針が出てきて穴を開けられます。しかしか片方しか押さないと穴も片方しか開かず、中の粉がうまく出てこなくなります。
一方吸入するときにはボタンを離さなければなりませんが、ボタンを押したまま吸入すると、当然カプセルは串刺しのままになるので全く薬は出なくなってしまいます(実際に時々見かける落とし穴です)。

ブリーズヘラー

あとは、この器具は、吸うとカプセルが中でカラカラ音を立てて回りながら中の粉末が気道に吸われていくので、そのカラカラカプセルが回る音が鳴ることがうまく吸えた合図になりますが、その音が鳴らないまま吸入を終えてしまうと粉が出てきません。
うまく吸うには少しコツがいる場合がありますので、うまくいかない場合は、処方した医師や薬剤師に相談しましょう。

ブリーズヘラー


最後に、このカプセルは当たり前ですが飲んではいけません。他の内服薬とつい一緒に飲んでしまわないよう、間違わないようにしましょう。

いままでご紹介した他の器具に比べ、吸えていることが自分で確認できるなど、わかりやすさを追求した吸入器ですが、やはり落とし穴はいろんなところに散りばめられています。
わからないことは何でも遠慮なく聞いて使用するようにして下さい!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.10.07更新

10月からインフルエンザの予防接種を開始しております。
今年のインフルエンザ予防接種はいつもの年とは運用が変わっております。
昨年と大きく変わっていることでいろいろとご不便をおかけしているとは思いますが、なるべく院内での密を回避し、安心してご受診いただけるようにとの策です。どうかご理解いただきますようよろしくお願い致します。

さて今回は吸入薬の落とし穴シリーズ第二弾、タービュヘイラー編をお送りします。

タービュヘイラーは、主に喘息の治療薬であるシムビコート、パルミコート、COPDに対するオーキシスに使われている器具です(シムビコートの後発品であるブデホルという薬剤も、タービュヘイラーに近い器具ですが、厳密には異なるもののようです)。
ここではおそらく一番使っている方が多いであろうシムビコートに焦点を絞ってお話ししてみます。

シムビコート

まずタービュヘイラーの使い方です。

この器具もエリプタと同様、パウダーを吸うタイプの薬剤です。
下の丸い円盤を一度半回転させ、それを戻すことで(クルッカチッ)1回分の薬が充填されます。充填された薬剤を勢いよく吸い込むことで薬剤が肺へ届きます。

この吸い方のコツ、落とし穴はエリプタと共通しています。すなわち吸入する力が弱かったり、吸入時間が短いと、しっかりと肺に薬剤が届きません(シムビコートはパウダーの粒が比較的小さく、一度吸い込むと肺の末梢まで行き渡りやすいといわれているので、すべての方の息止めは必須ではないようです)。

次に円盤の回し方です。
円盤の回し方
この薬剤は円盤を回すと上のタンクから薬剤が1回分落ちてくる仕組みなのですが、しばしば図のように傾けて回してしまうことが少なくありません(これ、自分でもやってみたのですが、立てて回すのって結構意識しないとできないもので、無意識にやると誰もが傾けたり倒したりしながら回すだろうなあと思いました)。

傾ける
傾けると当然1回分の薬剤が充填されない可能性があるので、治療不足に陥ってしまうリスクが出てきます。

またシムビコートはステロイドと気管支拡張薬のパウダーが配合された薬剤です。
同じものに前回お書きしたレルベアやアドエアなどがあります。レルベア、アドエアは症状の強さによって、それぞれ強さの異なる剤型が用意されています。
一方シムビコートは1種類しかありません、ではどのように症状の強弱によって調整するのかというと、1回の吸入の回数を増減することによって行っています。

そこでときどき起こる勘違いです。
例えば1回に2吸入してくださいと指示があった場合、正しくは一度円盤を充填してから(クルッ、カチッしてから)吸入するという動作を2回繰り返すのですが、クルッ、カチッを2度続けてから吸入する方がいらっしゃいます。
2度クルッ、カチッとやると、1回目に充填された薬剤はキャンセルされてしまうので、治療不足に陥ってしまいます。

また、タービュヘイラーには上下部に吸気口があります。

吸気口位置
吸ったときにここから外気を取り入れることで空気の流れを作るのですが、吸うときに指で下部吸気口を塞いでしまうとうまく薬が流れません。

吸気口塞ぐ
一方吸うときに唇を浅く加えると、十分な吸気になりませんが、逆に深く加えすぎると、今度は上部にある吸気口を唇で押さえてしまうことがあり、この場合も薬が出なくなってしまいます。

くわえ方


最後に、この器具、振るとシャカシャカ音がします。
これは薬の音ではありません。中に乾燥剤が入っているためです。
ですので薬を使い切って空になってもシャカシャカ音がしますので、これを「薬が残っている」と勘違いしないように気を付けましょう。

この器具は吸入が一見簡単そうに見える器具なのですが、落とし穴も少なからずちりばめられています。不安な場合はぜひ処方医や薬剤師にお聞きください。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.09.11更新

8月26日に、新しい気管支喘息の吸入治療薬である「エナジア」「アテキュラ」が発売されました。
これらは、気管支喘息の治療の基本である「吸入ステロイド」に「吸入気管支拡張薬」が配合されたお薬です。特に「エナジア」は喘息に対する吸入薬としては、3種類の薬剤を1つにまとめた初めてのお薬ということで、今後の治療の幅が拡がる可能性があり注目されています。

これで喘息の吸入治療薬のラインナップは以下の通りとなりましたCOPDのみに使用できる吸入薬はここには掲載していません)。

喘息治療薬一覧
ご覧のように、今は本当に多くの薬剤があります。
吸入による喘息症状の予防治療が本格的に行われるようになってからおよそ20年、当初はスプレータイプのお薬だけでしたが、その後パウダータイプ、ミストタイプのお薬が発売され、その形、方法もどんどん増えてきています。

それはより治療効果を上げるための製薬会社の努力があってのことなのですが、治療選択肢が増えることにより、患者さんにとっては薬の使い方がどんどん複雑になってきているという側面もあります


このブログを読まれている方でも、これらの吸入薬をすでに使われている方が少なからずいらっしゃると思います。
本来であれば、これらの薬の正しい使い方、コツなどは対面でお話しし、実際に器具を使ってみないとなかなか伝わりづらいことです。
しかし、なかなか皆さん全員がアドバイスを受けられる環境にいらっしゃるとも限りませんので、今回から不定期になると思いますが、各吸入薬のいわゆる「落とし穴」を書いてみようかと思います(すべてを書くスペースは到底なさそうなので、代表的な落とし穴を挙げてみたいと思います)。

まず今回は、レルベアやアニュイティという薬剤で使用される「エリプタ」という器具について取り上げます。

この吸入薬はフタを開けると、その動作でパウダーの薬剤が充填されるので、あとは吸うだけという非常にわかりやすい吸入器具です。
症状のよく出る、比較的重い喘息の方に対しては吸入薬を多く使う必要があるのですが、この器具は、多い量の薬でも1日1回1吸入で済ませることができるので、簡便性は群を抜いています。
そのため多くの喘息の方に使われているお薬です。

ただこの吸入薬にも「落とし穴」があります。

元来パウダータイプのお薬は、吸っている感触があまりありません。
ですので、正しい使い方をしないまま使っていると、気づかないで正しく吸えていないということが起こってしまいます。

この薬剤は、先ほども書いたようにフタを開けることで薬剤が充填されますが、これはフタを最後までしっかり開けないと起こりません。中途半端に開ける状態では薬が充填されていません。
この状態で使用しても全く薬が体内に入らないので、意味がなくなってしまいます。
これに気づかないまま時間が経過していると、しっかり薬を使っているのになかなか良くならないという事態がおきることが少なくありません。
(一方、逆に何度もフタを開け閉めしてしまうと、吸入しなかった薬が破棄されてムダになってしまうという落とし穴もあります)。

また、吸入薬はしっかりと気管支の奥まで薬剤を届ける必要があります。そのためにはある程度強い吸入力が必要となります。しかもしっかりと薬を吸いきるにはある程度の長い時間吸い続ける必要があり、さらに吸った薬を気管支の奥まで充満させるために、吸入後に息止めをする必要があります。

しかしこれができていない方が非常に多いのが実情です。

当院にいらっしゃる方で以前からエリプタを使用されていた方に、エリプタを診察室で実際使用していただくと、吸入力が非常に弱かったり、吸入の持続時間が短かったり、息止めができていないケースが少なくありません。
これによって症状が十分に取れないことが多いのです。

エリプタの正しい使い方は「しっかりした強さで」「男性なら3-4秒、女性なら2-3秒、胸がしっかり膨らむまで吸い」「その後5秒間息止めをする」が基本になります。

これらは教わらない限り、正しく行うことはほぼ不可能ですし、一度教わっても時間が経つと徐々にできなくなっていることも少なくありません。

他にもいろいろポイントがありますが、すべての手順を正しく使用するというのはなかなか難しいことです。
せっかくの吸入薬です、安くもない薬剤なので、使用する方には最大限の効果を得てほしいものです。ほかの器具でもそうですが、吸入薬を使用する際はぜひ医師や薬剤師などからしっかりサポートを受けられる環境で使用していただきたいと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信