医師ブログ

2022.12.27更新

クリスマスも終わり、オミクロンに振り回された2022年もようやく幕を閉じようとしています。

しかし最後の最後まで当院はバタバタです・・・

寒くなってから、空気が乾燥してから、そしてコロナを含めた感染をきっかけとして、当院には日々、県内全域からなかなか治らない咳に悩まれる方からのご相談が絶えません・・・

新患の方のご予約がだいぶ先まで埋まってしまい、受診ご希望の方のご期待にお応えできないことも増えてしまっており、大変心苦しく思います・・・
急な症状にすぐに受診していただくのが難しい状態は、今の当院のキャパでは如何ともしがたく申し訳ないのですが(かかりつけの方の症状悪化はなるべく全て対応いたしますので遠慮なくご連絡ください!!)少しでも多くの患者様を受け入れられるよういろいろとやりくりをしています。

外来受診枠を増設した際の1番早い情報源は当院LINE公式アカウントになりますので、ぜひご登録の上、最新情報をご確認いただければと思います!


そして発熱・感染症外来もここ最近は数十分で枠が埋まってしまう状況です(発熱・感染症外来は毎朝8:30頃にWeb上で枠を開放しています。詳しい運用はこちら)。
12月に入り、やはりコロナも増えてきていることが実感されます。

ただ、7波までとは明らかに違う光景が見られるようになりました。

そう。ここ2年間、来るぞ来るぞといって来なかったインフルエンザが、いよいよ出はじめてきたようなのです・・・

当院でも先週頃からインフルエンザ陽性の方が出てくるようになってきました。
また近隣の教育機関でも、いわゆる「クラスター」の状態となっているところがあるようです。

残念ながら、懸念していたこの状態いよいよ現実のものとなりつつあるようです・・・


そこで今回は「コロナ」と「インフルエンザ」感染症、どこが似ていてどこが違うのか、少し考えてみたいと思います。
今回は皆さんが気になっているであろう、主に症状やその経過についての違いを考えてみましょう。
ここでは公に発表されているデータに、私の主観も織り交ぜてお話ししてみたいと思います。


症状について

やはり発熱、全身の筋肉痛や関節痛、頭痛、喉の痛みなどはどちらでもよく見られます。

ただやはりこちらのブログでもお話ししたように、インフルエンザは、突然発熱をはじめとした上記のような症状がいっぺんにでる典型的なパターンが多い印象です(日本感染症学会からも、インフルエンザの無症状感染は10%しかないとのデータがでています)。

一方コロナは、無症状に近い方からインフルエンザ以上に症状が激烈な方まで、幅広くいらっしゃいます発熱のない方でインフルエンザ抗原が陽性になる例はあまりありませんが、コロナ陽性になる方は大勢いらっしゃいます)。
症状の出方も急な方からゆっくりといろいろな症状が出てくる方まで、やはりいろいろです。

とはいっても、症状で見極めることはやはり難しいです。

当院でも周囲にコロナ患者の方がいて、かつ症状が非常に軽い場合はコロナだけの検査を行うことがありますが、基本的に典型的な症状が出てきた場合は、周りの状況に関わらずインフル、コロナどちらも検査します(家にインフルエンザの方がいても、外からコロナをもらっちゃっていた方、実際にいらっしゃいました・・・)

また喘息やCOPDなど、呼吸器の病気をお持ちでない方にも息切れが出ることがあるのが、コロナの特徴かと思います。
一方インフルエンザも咳は起こしますが、激しい息切れはあまり見ません(喘息、COPDなどが悪くなったり、インフルエンザに続いて最近の二次感染を起こしたときはその限りではありません)。

呼吸器にダメージが大きいのはやはりコロナだと思います(実際私が10年以上病院での呼吸器内科医として勤務していた間、純粋なインフルエンザウイルス肺炎は1人しか担当したことがありませんでしたが、コロナの肺炎はこの2年で少なくても30人は診ていると思います・・・)
オミクロンになって確かに肺炎の方は減りましたが、それでもまだまだいらっしゃるため、インフルエンザとはやはり違う病気なんだなというのが私の印象です。

ですので呼吸器系の重症化リスクコロナの方が断然高いです。
また血栓症などもコロナの方がリスクが高いです。

ただインフルエンザも特に高齢者では命取りになることがあるので、どちらもワクチン、手洗い、必要時のマスクなどの感染対策は必要です(年明けのコロナワクチンはコチラで、インフルエンザワクチンはコチラで引き続き受け付けています)。

あとは、コロナの方が下痢が多い印象です。
また味覚嗅覚障害もコロナに多いのはご存知の通りです。


感染から発症までの期間について

次に症状が出るまでの期間ですが、こちらもインフルエンザよりコロナの方が幅広いという印象です(WHOも感染から発症までの期間はインフルエンザで1~4日、コロナで2~14日と報告しています)。


後遺症について

最後に後遺症ですが、ご存知のようにコロナにはさまざまな後遺症が起こります。

当院の特性もあるのでしょうが、やはり呼吸器系の症状(咳や息苦しさ)が何週間、場合によっては何カ月も続くケースが数多くいらっしゃいます。

一方インフルエンザにもコロナではないにせよ、咳などの症状が続く方はいらっしゃいます。
ただ、インフルエンザ後の長時間続く咳は、大半がいわゆる「感染」をきっかけとした喘息やCOPD、鼻炎の悪化が大半なのですが、コロナの場合はこれに加えて純粋な感染後遺症としての長引く咳が一定数いらっしゃり、診断、治療がより難しいという特徴を持っているように思います。


という訳で、楽しみな年末年始を前にしていよいよ現実味を帯びてきてしまった「フルロナ同時流行」台無しにしないためにも必要な対策はしっかりとって、楽しく元気に過ごしましょうね!

それでは皆様よいお年を!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.09.11更新

私、院長は9月1日にコロナ感染が判明し、院長外来はこの10日間、休診期間を頂きました。
この間は加藤医師の診療で対応させていただきました。


この間に受診予定だった方には受診日時の変更や、担当医師の変更など、多大なるご協力を頂きました。
ご協力いただいた方々にはこの場を借りて深くお詫びを申し上げるとともに厚く御礼申し上げます。


なお、9月12日からは通常の診療体制となりますが、16日、17日の院長診療に変更がありますので、詳しくはHPの最新情報をご確認ください。

 

そこで今回は自らがコロナ感染をしたその記録、そしてその立場から考えた雑感を書いてみようかと思います。


私は9月1日に抗原検査で感染が判明したわけですが、発症は前日の就寝中でした。
改装による19日間の休診を経て8月26日から診療が再開し、来院いただく患者さんが非常に多い状態で多忙を極めており、私自身は診察に集中していたこともあって、まったくと言っていいほど体調の変化は感じていませんでした。

特に31日は忙しく、家に帰ってきた時には0時を回っていました。

帰ってきて風呂に入った後に布団に入りましたが、首と腰が張る感じがあったもののいつものことと思い就寝しました。
ところが2時間ほどたち、その首、腰の張りがいつもよりもかなり強い感じを自覚しました。


「相当疲れてるな」と思いながらも、「万が一そうだったら」と思い、寝室から出て自主的に隔離を始めました。


翌日朝にはその張りはさらに強くなり、いよいよこれは通常とは違うなと感じる程度となりました。
この時点で抗原検査を行ったところ陽性の反応が出ました。


まずこの首、腰の張りは陽性後3日目がピークでした。
ピークのころは横になってなるのもしんどいくらいの首、腰の痛みを自覚し、一時は頭痛にもなりましたが、カロナールやロキソニンを内服するとその痛みは半分程度に紛れる感じでした。

発熱は2日目の夜のみ37.6℃を記録しましたが、その後はずっと平熱で推移しました。
食欲などはほぼ落ちることはありませんでした。

2日目ごろからは喉の痛みが出現、その翌日には多少の空咳がでてきました。
のどの痛みは3-4日目がピークでしたが、食事をとるのに支障があるほどではありませんでした。
空咳もこのころがやはりピークで、徐々にのどの後ろに流れ落ちる鼻汁(後鼻漏といいます)が痰となる咳に変化しつつ咳は減少、現在は0ではないものの1日2-3回程度まで減少しています(これは一般的に「風邪」の典型的な経過となります)。

幸い味覚障害や倦怠感などの、いわゆる「後遺症」と呼ばれるような症状は今のところ残っていません。
これは本当に人によりけりなのでしょう。


この自らの療養期間の最中に、療養期間の変更というニュースが飛び込んできました。
(発症日を0日目として)有症状者は10日→7日、無症状者は7日→5日というものです。

私の療養7日目にこの方針が実施されると発表されたこと、その規定で解除となる9月9日にはほぼ症状が残っていなかったことから、この日から診療を再開することは不可能ではなかったのですが、立場上皆様に少しでも感染リスクが否定できない状態での診療再開は好ましくないとの判断で、かつての規定通りの10日間の療養とさせていただくこととしました。


そこで、この7日間への療養期間短縮が妥当だったのか、今一度考えてみます。

以前のブログにも書いたように、オミクロン株の場合、PCR陽性からウイルスが検出されなくなるまでの期間は平均5日程度とされています。N Engl J Med 2022; 387:275-277
ただそれにもばらつきがあり、軽症患者であっても約25%の人が発症後8日を経過後にウイルスのRNAが他者に感染できるレベルの量で検出できる状態であったとの研究もあり、これはオミクロン株とデルタ株で、そしてワクチン接種と未接種でその割合に差はなかったとまとめられていますTownsley, H.et al.Preprint at medRxivhttps://doi.org/10.1101/2022.07.07.22277367
そして、様々な今までの研究から、感染性が10日以上継続することは非常に珍しいことがわかっていますhttps://www.nature.com/articles/d41586-022-02026-x


では、現時点での隔離期間はどれくらいが適切なのでしょうか。

結論から話すと、絶対的な正答はありません。

しかし今回の経験を経て、私の私見では7日間の隔離は妥当ではないかと考えています。


確かに8~10日目は約1/4の人に感染の可能性が残るのは事実です。
しかし10日間という期間は、社会的には非常に負担に感じる期間でもあります。
私は10日間を守りましたが、10日間何も行動ができないというプレッシャーによって、検査や診察に行かなかったり、自主検査で陽性が出てもそれを報告しない人が出てくる可能性は十分ありえますし、そうしたくなる人の気持ちも手に取るようにわかりました。


この期間が長くなればなるほど、正しく診断されない人は増えるでしょうし(極端な話、隔離が1年だったら、検査を受ける人はほとんどいないでしょう)、短くなればなるほど、そのプレッシャーは軽くなります。


もちろん短くすればするほど、社会の中に感染性を有する人は増えます。
しかし長くしても(正直に申告する人が減るので)やはり社会の中に感染性を有する人が増えるというジレンマが生じます。


これは白黒で決められるものではなく、お互いの変数の掛け算で決まるものなのです。


その中でバランスが取れる期間を設定する必要があるのですが、私個人としては少なくても現時点では、7日間はそのバランスをとれた適切な期間設定ではないかと思います。

確かに8日目の時点で感染性のある人が25%は残りますが、その人たちも一般的には感染性のピークは過ぎているのは事実です。

それにより発生するリスクが。隔離期間を短くすることで得られるメリットを下回ればいい
わけです。

もちろんトータルでなるべくリスクの少ない状態を作り出すことが必要ですから、療養期間が明けて数日は、リスクの高い行動を控える、つまり室内や三密状態でのマスクを外す、会食や会合は避けるなどの、通常よりも徹底した感染予防が必要だと思います。


しかし、隔離期間の短縮は世界の趨勢です(アメリカやフランスは通常5日、韓国でも7日だそうです)。
どの国もそれぞれの方法でバランスを取り始めているわけです。

コロナは普通の風邪と一緒だというつもりもないですし(この時期にこれだけ流行って、様々な症状が残る風邪はいまだに見たことがありません)、一方ゼロコロナを目指すような政策もデメリットが大きすぎてすべきではないでしょう。

みんながうまくバランスを取りつつ、お互いの考え方も理解して、落ち着いて行動できる、「平和な」社会になってほしいと強く感じる次第です。


今回の経験を通じて、恥ずかしながら実際に感染をした場合の状況を実感できました。
皆様にご迷惑をおかけした分、今後の診療に少しでも活かしていきたいと思います。

明日からしっかり頑張ります!また皆様宜しくお願い致します!!

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.08.10更新

怒涛の1週間が終わりました。


改装前の、過去に例を見ない長い休診期間を前に、先週は非常に多くの患者様にご来院頂きました。
加えて発熱外来、ワクチン接種の方々にご来院頂いたことで、当院はもうそれは目の回るような忙しさでした。

先週は実に平均1日200人ほどの患者様にご来院頂き、皆様には大変な混雑でご不便をお掛け致しました。


ただ幸いなことに、私たちの肌感覚では、第7波はピークを過ぎつつあるように感じます。

7月中旬~下旬は、朝の受付開始からおよそ数十分で発熱・感染症外来の枠が埋まり、かつ抗原検査の実に8~9割が陽性となってしまう惨状でしたが、最後の1週間は午前の終わりや日によっては午後まで発熱・感染症外来のお受け入れを行うことができ、抗原検査の陽性率も半分を割るくらいまで落ちてきていました。

もちろんまだまだ波は続いてはいるのですが、ピーク時に当院が休診期間に入らずに発熱・感染症外来が全うできたようなのは本当に良かったなと思います。

結局第7波に入って以降、当院ではこの約1か月の間に350人ほどの発熱・感染症外来のお受け入れを行い、約200名の新型コロナ陽性患者さんの診断を致しました。


その中でこのコロナ禍、そして第7波で感じた雑感を今日はここに残してみたいと思います。

今回の第7波では、症状はいわゆる発熱、だるさ、喉の痛みといった「普通の風邪」の症状で済む人が数多かったのは確かですが、中には肺炎にまで進行していた方や、酸素飽和度が低下して、酸素の体への取り込みが悪化してしまった方、そして数日間食事がとれず脱水気味になってしまった方も確かにいらっしゃいました。
若い方でもそのようになってしまった方がいらっしゃいましたし、またこの波では「後遺症」や「症状の長引き」としてのだるさ、頭痛、呼吸器症状などの多彩な症状が良くならないと訴えられる方も非常に多かったです。

やはりオミクロン株とはいえ、まだまだ「普通の風邪」では済まない人は一定数でてしまうんだなという印象でした。


一方そして、ワクチンの効果も実感した第7波でした。

確かに3回ワクチンを接種して感染した方は少なくなかったのですが、そのうちのほとんどの方が非常に軽い症状で済んでいました。
一方、率直な肌感覚では、若い方を中心にワクチン未接種の方や、2回目接種から時間が空いてしまった方に比較的症状が重い方が多かった印象です。

とはいっても、2年前、1年前に比べれば、我々もワクチンや治療薬といった新たな武器を手にし、一方当初よりも確実に弱毒化が進んだことも事実です。

前回のブログでも述べたように、それぞれ個々のリスクに応じて、その人にあった感染対策を取ったうえで適度にコロナを受け入れざるを得ないんだろうなとも思った第7波でした。
普通の風邪の症状で済んでしまった多くの方にとっては、発症から10日間の自宅隔離はいささか長すぎるのではと、かわいそうにも思いますし、いざ自分に置き換えて考えても10日間家に隔離されるのはそれ自体が恐怖です。
確かに10日以内の解除だと他者への感染リスクは0にはならないかもしれませんが、今年7月に発表された報告では(サンプル数が小さいものの)オミクロン株の場合、PCR陽性からウイルスが検出されなくなるまでの期間は5日程度とされておりN Engl J Med 2022; 387:275-277隔離解除後も数日は十分な感染対策を取ることを条件に、もう少し短くなってもいいんじゃないかなと思うのが正直なところです(もちろん症状が長引いたり、重くなったりした場合は話は別です)。


そして、もうしばらくは「インフルエンザと同じ5類感染症運用」は難しいとも思います。

やはりオミクロン株とはいえ、今はまだ「普通の風邪」で済まない人もいらっしゃるのは事実です。
またこの時期にこんなに流行る風邪を今まで我々はそう経験したことはありません。

やはり今でも新型コロナはインパクトのある感染症です。


そうした中、コロナを5類感染症にしたところで、コロナ禍以前みたく通常の待合室に発熱患者さんがお待ちいただく構図が社会的に許されるようになるわけではないのではないでしょうか。
単純に5類にしたらどの医療機関でも簡単に診れるようになるというのは現場を知らない人の幻想でしょう。
5類の目的がここにあったら絶対に社会や医療現場は混乱します。

2類に残すにせよ5類に移行するにせよ、行政と医療機関の連携を切らないようにしたり、負担をおそれて受診しないことで病状悪化のリスクを上げることがないよう、公費治療の枠組みは残したりと、弾力的に考えて頂かないとうまく回らない気がします。





という訳で、当院も一度ここで一時的に最前線から離れることになりました(もちろん再開後はいままで通り全開で頑張ります!)。ここからは改装に関して、すこし情報を。

今回の改装は、現在3期~4期にわけて工事を行う予定で、今回の1期工事が最大となります。
今回は受付エリアから診察室にかけての改装レントゲン室の移設発熱・感染症外来診察室の恒久設置化を中心に行います(受付エリアは窓口を最大4つに拡大し、併せて自動釣銭機を導入することで、少しでも受付でのお待ち時間を減らせるようにする予定です。)

早速月曜から工事が開始となり、30年以上頑張ってくれた受付カウンターも、すでに旅立ってしまいました・・・

受付工事

そして2期工事は9月のシルバーウィークを利用し検査室エリアの拡張廊下の拡張発熱・感染症外来待合エリアの拡張を予定しております(1期工事と2期工事の間はほんの少しですが、待合エリアが小さくなってしまう可能性があります。ゴメンなさい・・・)。

3期工事以降は未定ですが、いろんなところの見た目が変わることを考えています。


という訳で、皆様にはご迷惑をお掛け致しますが、当院の機能をさらに向上させる改装工事となります。
当院の診察再開まで、今しばらくお待ち頂ければと存じます。

なお、当院が休診の間は、その分発熱患者さんを受け入れられる医療機関が少なくなってしまっています。
ましてやこれからお盆の時期で、開いている医療機関もさらに少なくなってしまうことが予想されます。

現在発熱して、医療機関にどうしても受診できない場合は、行政から配布されている抗原キットを利用し、陽性であれば、重症化リスクがなければ自主療養を届け出していただくことが可能です。

解熱薬に関してはアセトアミノフェン(商品名:カロナールなど)が推奨されておりますが、今は大変な品薄になっています。
ロキソプロフェン(商品名:ロキソニンなど)やイブプロフェン(商品名:イブなど)など、当初コロナの重症化が危惧された解熱鎮痛薬についても、コロナに関してはあまり悪さをしないというデータも多く出てきておりLancet Rheumatol. 2021 Jul;3(7):e498-e506. Drug Saf. 2021 Sep;44(9):929-938.とりあえず手に入る解熱鎮痛薬で急場をしのいでいただければよいかと思います(ロキソニン、イブプロフェンは多く使うと胃が荒れるので、使い過ぎに気を付けてください。また小児の方はロキソニンはダメですので注意してください)。

皆様がこの第7波を切り抜けて頂き、楽しい夏をお過ごしいただけることを切に願っております。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.07.18更新

いやあ、ヤバいっす・・・

2週間前から発熱・感染症外来の受診を希望される方が突然急増しました。

1月の時のデジャブを感じますが、今回はワクチン接種や特定検診の方もいらっしゃること、1か月後に控えた改装工事のための受診調整も重なっていることから、当院は第6波の頃よりもそのヤバさが際立っています。

間もなく改装工事が始まり、クリニックの中は待合スペースの拡張、受付エリアの拡張、発熱・感染症専用診察室の新設など、今よりも多くの患者さんに対応できるようになる予定ですが、それまではご不便をおかけするかもしれません。

できるだけ一人でも多くの、症状に困っていらっしゃる患者さんに対応したいとの思いで診察をつづけておりますので、ご理解、ご協力の程、よろしくお願い致します。

 


さて今回はそんなコロナのオミクロン株、今わかっていることと、これからやるべきことをまとめてみようと思います。

 

おそらく今回の第7波の中心となるのは、オミクロン株の中でもBA.4BA.5という変異型(その中でもBA.5が主役になるでしょう)になるだろうと言われています。
東京都のデータによると、このうちのBA.5は、感染力がBA.2(第7波の前の主流)の27%増しとされており、今まで以上に広がりやすい可能性が考えられています。

またこのBA.4、BA.5は、「感染阻止」の面では、既存のワクチンの効果が出にくいとも言われ、さらには第6波以前に感染した人も感染する可能性が十分にあることが示唆されています。
これは、以前ワクチンの仕組みでお話しした、ワクチンによって産生できる抗体(中和抗体と言います)が、ウイルスにくっつきにくくなるようなウイルス側の構造の変化がおきたため(つまりそれを引き起こす変異があるため)と考えられています。

今回のBA.4、BA.5に関するデータは、5月に流行した南アフリカから(査読前ですが)報告されています。https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.06.28.22276983v2.full.pdf

これによると、BA.4、BA.5が流行した期間に感染した人の割合は、1回が12.9%、2回が36.1%、3回以上が6.7%とされています。
さらには再感染と判断された人が19%にものぼります。
南アフリカのワクチン接種率は40%前後とのことであり、2回目接種の人の割合がこれだけ多いとなると、少なくとも2回接種程度ではワクチンの感染予防効果は多くなさそうと考えられます。

それではワクチンが全く意味がなくなったのかと言うと、そうではなさそうです。

重症化・死亡率は、2回ワクチンを打った人は全く打っていない人に比べて63%3回以上打った人は全く打っていない人に比べて83%も下がったともされており、(後遺症のリスクは別にすると)しっかりとワクチンを打っていれば従来の風邪にかなり近い存在になってきたとも言えるようになっているのかもしれません(逆から見るとワクチン未接種だと重症化・死亡リスクが約3~6倍に上がってしまうとも言い換えられます。動物実験ではこの変異株は従来のオミクロン株よりも肺で増殖しやすく重症化につながる可能性が指摘されており、ワクチンが全く未接種の人はまだまだ注意する必要がありそうです)。

ワクチンを接種してからの期間も、重症化率と関連があるデータが多く出ているので、2回目からの接種から時間の経っている方は3回目の接種を考えていただいたほうが良さそうです。
また高齢者の方や重症化リスクの高い方は以前のブログでお示しした通り4回目の接種を済ませておくメリットは大きいかと思います。

 


次は感染リスクをなるべく下げるために、私たちはどうしたらいいのか、このことについても色々と新しい知見が出てきています。

 

まず、コロナの感染は飛沫、エアロゾルを介して感染するのが主流であることがわかっておりClin Infect Dis. 2022 Mar 10;ciac202マスクを着用することで感染リスクが下げられることが分かっていますBMJ. 2021 Nov 17;375:e068302
そして、そのエアロゾルや飛沫が床やテーブルに落下するとウイルスは比較的短時間で死滅するため、環境から感染する確率は飛沫、エアロゾルからの感染の1万分の1以下でありEnviron Sci Technol Lett. 2021 Feb 9;8(2):168-175環境を消毒することによる感染予防効果は低いことがわかっています。Am J Infect Control. 2021 Jun;49(6):846-848. Nat Hum Behav. 2020 Dec;4(12):1303-1312.
手洗いの感染予防効果は50%程度BMJ. 2021 Nov 17;375:e068302ソーシャルディスタンスを取ることによる感染予防効果は25%程度とのことでした。BMJ. 2021 Nov 17;375:e068302
そして感染予防に効果的なのは換気であることが示されています。Clin Infect Dis. 2021 Oct 30;ciab933.J Hosp Infect. 2022 Jan;119:163-169.


という訳で、これを踏まえたうえで、今後のコロナに対する私たちのあり方について、僭越ながら私見を話してみたいと思います。

軽症の範疇でもコロナの場合、普通の風邪よりも症状が重い方もいらっしゃいます。
後遺症をきたす方もいらっしゃいます。

それでもワクチンをしっかり打っている人で肺炎や酸素化の悪化等、重症化した方を見る機会は非常に稀になりました。

そして今後今の状態が収まることはもう当分はないのかもしれません。
これがいわゆるウィズコロナ、アフターコロナの状態なのだと思います。

もちろんウィズコロナ、アフターコロナの世界では、常にコロナの感染と隣り合わせの状態になるので、なるべく感染しないような、そして一人でも重症化を少なくする対策は必要です。
リスクの高い場所でのマスクはまだ致し方ないと思います。

一方、屋外など、空気の流れている場所でのマスクの必要性は低いと言って差し支えないと思います。


費用対効果の高い対策(手洗いや換気、換気の悪い場所での適度な距離など)は行っていきつつ、費用対効果の低い対策(屋外や他者と十分な距離の取れる場所でのマスクや環境消毒、空間除菌など)はどんどん止めていくことが必要かもしれません。

これを行ったうえで、規定通りワクチンを打っている人は普通の生活を、ワクチンを打っていない人や重症化リスクの高い人はもう一歩踏み込んだ感染対策を行いながら生活をすることがニューノーマルとなるでしょう。
そして感染はだれにでも起きうることですし、上記の対策をした上で、感染リスクはある程度は受け入れていく必要があるのかもしれません(それはインフルエンザなど、他の感染症とも似た形と考えます)。

感染をした際の隔離期間や濃厚接触者の対処も、最新の知見をもとに柔軟に、より最適化された形に変えていくことが必要なのだと思います(それを迅速に決められる行政の力が試されます)。

 

秋にはオミクロン株に対応したワクチンができる見込みではあるようですが、その間にも新しい変異が生じて効果が下がってしまうことも十分に考えられます。
ですのでこの状態は当分は変わらないでしょうし、緩くても長い期間続けられる対策が、長い目で見たら一番有効なのかもしれません。

 

現場は非常にヤバいのですが、それでも私達医療者は精いっぱい、力の限り頑張ります。
是非政治、行政の方々、少しでも早く、みんなが少しでも過ごしやすい世の中にしていただけるように、今こそ知恵をいっぱい絞ってください!心から応援しています!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.05.29更新

前回お伝えした入り口のプチ改装、GW明けより稼働しております。

おかげ様で新たに設置した待合席は、ちょっとした読書や作業などをしていただけるとご好評の声をいただいております。
まだまだ混雑でご迷惑をお掛けしておりますが、少しでも新しい席がお役に立てれば幸いです。


そしていよいよ、当院は今回、大改装を行うこととなりました!

今回は当院のレイアウトそのものが大きく変わります。

具体的には①受付エリアの刷新、②レントゲン室の移動・新設、③第2診察室の移動・新設、④検査室の拡充、⑤新たな発熱外来診察室の設置⑥発熱外来待合室の拡充、⑦内視鏡・エコー室の新設を行います。

これだけの内容を行いますので、今回は数回に分けて工事を行うことになりました。

まずは第1期工事をこの8月に行います。

今回の工事がメインで、①~③を行う予定です。
これらのレイアウト変更に伴い、お待ちいただけるエリアも今までより少し広くなる予定です。

という訳で、今回当院は夏季休暇を長めに頂きます。
8月7日(日)~25日(木)まで、19日間のお休みをいただきます。

これに伴い、今年の8月の特定検診の受け入れ枠が少なくなります。

茅ヶ崎市の特定検診は例年6~8月に行われておりますので、当院で検診をご希望の方は、できるだけ7月までにお早めにご予約、ご受診を頂けると大変助かります。

例年8月は駆け込み受診が多くなりますが、今年は十分なお受け入れができないと思いますので、是非ご協力頂ければと思います。


さて、ようやくコロナワクチンの3回目もピークを過ぎ、当院もひとまず6月4日で一度終了することにしておりますが、そうこうしているうちに4回目のワクチン接種開始の通達が出されました。

いったいいつまで続くのやら・・・と思いますが、4回目のワクチン接種について、今回もやはり客観的データでその妥当性を判断していこうと思います。

現時点で一番大きなデータは、ニューイングランドジャーナル・オブ・メディシン(医学界では一番信用度の高い雑誌です)に4月に発表された、イスラエルのデータ(N Engl J Med 2022; 386:1712-1720)だと思います。
まずはこのデータを見てみましょう。

このデータではイスラエルでオミクロン株が流行していた今年1月~3月に、4回目をファイザーのワクチンで接種した60歳以上の方、120万人を対象としています。

4回目のワクチンの効果

N Engl J Med 2022; 386:1712-1720より改変

まず感染予防効果ですが、3回目接種の方と比べ、4回目を接種した方は、接種後3~4週間で効果が最大になり、感染予防効果3回目接種の方と比べて約2.1倍(つまり53%リスクを減らす)となりました。しかし接種後8週が経過するとその効果は約1.1倍(つまり10%もリスクを減らせない)となり、2カ月で感染予防効果はほとんどなくなってしまいました。

一方重症化予防効果ですが、こちらは接種後徐々に効果が高まり、接種後6週間で4.3倍(つまり70~80%予防できる:3回目しか接種しない場合を100とすると、4回目を接種すると20~30くらいまで減らせる)ことがわかりました。

 

ただオミクロンはそもそもが重症化しにくいウイルスです。
割合が大きく減ったとしても、その実際の重症化を起こす人の数がもともと少なければ、重症化を予防できる実際の人数はたかがしれている、というのもあながち間違いの主張ではありません。

そして若い方については4回目接種についてのデータはほとんどありません。

またイギリスからの報告では、3回目接種についてのより長い期間の情報が出ており、18~64歳の方では、3回目の接種による効果接種後15週(約3か月半)を経過しても、入院リスクを67.4%、重症化リスクを75.9%減らせるデータが出ておりCOVID-19 vaccine surveillance report Week 16 UK Health Security Agency 2022/4/21、3回だけで十分との考え方もあろうかと思います。

一方、現時点では4回目の接種による副反応は3回目とそれほど大きな差はなく、一部で懸念されているADE:抗体依存性免疫増強(ワクチンの影響でかえって病気が重症化しやすくなる現象)も、現在のところは客観的データとしては認められません。

というわけで、わが国ではリスクの高い方のみ、すなわち

60歳以上の方
18~59歳の、基礎疾患を持っている方

を対象に、3回目接種後5カ月を経過したら接種ができるという運用をされることとなりました。

※基礎疾患とは以下の病態です(頻度の高いものを太字にしました)

1.慢性の呼吸器の病気(喘息、COPDを含む)
2.慢性の心臓病 (高血圧を含む)
3.慢性の腎臓病
4.慢性の肝臓病(肝硬変等)
5.インスリンや飲み薬で治療中の糖尿病、他の病気を併発している糖尿病
6.血液の病気(鉄欠乏性貧血を除く)
7.免疫の機能が低下する病気(治療中の悪性腫瘍を含む)
8.内服や注射のステロイドなど、免疫の機能を低下させる治療を受けている
9.免疫の異常に伴う神経疾患や神経筋疾患
10.神経疾患や神経筋疾患が原因で身体の機能が衰えた状態 (呼吸障害等)
11.染色体異常
12.重症心身障害(重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態)
13.睡眠時無呼吸症候群
14.重い精神疾患

 

私は、まあ妥当かなと思っています。

 

正直このオミクロン株によるコロナをここ5カ月ほど診療していますが、ほとんどの方が普通の風邪症状です。

確かに肺炎の方もいらっしゃいました(それは普通の風邪にはまずない兆候でしょう。インフルエンザウイルスの肺炎も、出会うのはもっと稀です)。
そして後遺症として様々な症状をきたす方も少なからず当院にはいらっしゃっています(よく診察をしたら、実は後遺症ではなく喘息やアレルギーだったという例も少なくないのですが)。

ですので、まだまだ「普通の風邪」ではありません。

ただ、デルタのころと比べれば、確実にその性質は風邪に「近づいて」います。
そして、高齢者や基礎疾患をお持ちの方にとっては、まだ少し「普通の風邪」から距離があり、一方若い方にとっては、「普通の風邪」との距離が非常に短くなっている。そのように考えれば、よりリスクの高い方にしぼって、「普通の風邪」に近づけるツールとしての4回目のワクチンを行うことは、理にかなっていると思います。

オミクロン株のその後

そして、この「普通の風邪」との距離を、みんなが受け入れるようになれば、この「コロナパンデミック」は終了する、そのように私は解釈しています。

オミクロン株のその後
その距離がどれくらいなら受け入れられるのか、あとどれくらい近づけばいいのか、あとどれくらいの人がその許容される距離内に収まればいいのか。それが人それぞれなのでこの議論はもつれます。
しかし「普通の風邪」との距離が0になるまで待つのはおそらく現実的ではないので、どこかで妥協する必要は必ず出てくると思います。

 

それが「今」であるべきかどうかは私にはわかりませんが、どこかのタイミングで「決断」をしなければならない時がくるでしょう。そしてそれが、より多くの人が納得する形での「決断」の形にして、社会に分断を残さないようにしないといけないのです。

今後の我が国の経済や教育、その他のことも総合的に考えて、しかるべき時に、しかるべき方法で「決断」をする覚悟、それが我が国にとって今一番大事なのかもしれません。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.02.01更新

いやあ、オミクロン、すごいです。


連日感染者数の最高値を更新するニュースで世の中は持ちきりですが、当院でも今までに見たことがない数の陽性患者さんが出ております(もちろんすべて隔離エリアでの診察です)。

またちょっとした症状でも陽性となるケースが見られており、診察には非常に気を遣う日々が続いています(ちょっとでも風邪を疑った方、必ず受付で申し出てくださいね!)。


そして、やはりというか、「オミクロン株はやっぱりまだ風邪じゃなかった・・・」ということを実感しています。

特にワクチン未接種の方、高齢や基礎疾患のある方に、呼吸がしづらくなったり、様々なつらい症状が長く続いたりするケースがぼちぼち見られる印象です。一方もちろん伝えられているように風邪症状、もしくはそれ以下で済んでしまう方も実際多いです。
インフルエンザとも似ていると言われていますが、インフルエンザよりも重い方向、軽い方向双方に大きくぶれる印象ですね(このブログ記事の通りの印象です)。

今の私のオミクロン株に対する印象は、「もしかかったら“ガチャ”で外れが出ないことを祈る病気」、そして「やっぱりまだまだ広まってもいい病気じゃあない」といったところです。

そのオミクロン株に対する大きな武器となるワクチンの3回目ブースター接種が2月から始まります。

このごろ最近、よく3回目接種の接種率が低調とのニュースが時々みられ、その中には「副作用を怖がり避けている人が多い」との論調をしばしば目にします。
しかし現場から言わせてもらうと、その原因の大部分は、単純に1月にはワクチンが現場に届かず接種が開始できていない、それに2回目からの接種間隔が長すぎる(本格的な前倒しの開始が3月にされてしまっており、1月に接種できる高齢者はごく少数です)ことです。

少なくとも当院の患者さんの声は「はやく接種したい」というのがほとんどです。
「副作用を怖がって打ちたくない」というお声は非常に少なく、そのような理由で接種が進んでいないと論評する一部マスコミの言説やSNSが、かなーりミスリードを誘っている印象です。
ワクチンについての意見、考え方はいろいろあるでしょうが、一個人の考えを社会記事に反映させてしまう(もしくは意図がなくてもそう取られてしまう)のはやはりいただけません。
このような社会を大きく動かしかねない、センシティブな問題は、是非憶測ではなく現場の声を聴いてから伝えてもらいたいものです・・・

当院では1月12日、15日に職員の3回目接種を行いました。
当院は市からの配送に従い、3回ともファイザー接種となっております(当院に選択権はありませんでした)

今回もそのレポートをしようと思います。

私は3回目接種を1月12日18時頃に、今回も当院自慢の熟練ナースに、優しく接種してもらいました。チクッ。


えーん、やっぱりいたーい( ノД`)


1回目の痛くなかった筋肉注射は何だったのか・・・2回目同様、私は痛かったです。

でもまあ注射だし、痛いのはしょうがない。
私は2回目までもそこまで全身的な症状は出なかったので、その後は期待して待つことにしました。

しかし接種してすぐ、刺したところの痛みはそのまま早くも筋肉痛に移行しました。
前回よりもやや早く、そして強い感じです。

しかし全身の症状は出ずにそのまま就寝しました。



翌日は休診日です。

やや筋肉痛は強くなって、やはり2回目よりいくぶん強くなったかなという印象です。ただ腕は何とか上まで上がります。


一方、全身症状ですが、こちらは皆無でした。
本当に何もなく休みを満喫し、子供と自転車でサイクリングにも出かけました。

3日目も元気いっぱい、通常診療を行いました(元気いっぱい過ぎて、110人も診させていただきましたので、さすがに終了後は全身倦怠感に襲われました・・・)。
腕の痛みは多少残っていたものの、3日目夜にはほぼなくなっている状態でした。


そして、こちらが当院職員の副作用一覧となります(以前より職員が増えました)。

3回目接種副反応

↑3回目接種の副反応↑

 

2回目接種副反応

↑2回目接種の副反応↑

 


グラフを見ると、腕の痛みはやはり私と同様、2回目より強く感じた人が多かったようです。
一方、発熱、だるさは全体的に減っている印象です。
というか今回は出る人は2回目同様にしっかり出たのですが、全く何も出なかった人が2回目と比べてだいぶ多かったようでした。

全体的には3回目接種、副反応という面では、当院のデータから見た限りではそれほど恐れなくてもいいのではという印象は持っていいものかと思います。

 

さて、今回の我が国の3回目接種では、モデルナワクチン(昨年12月にようやく商品名がつき、「スパイクバックス」という名前がつきました)も使用する予定となっています
そして2回目までと異なるワクチンの接種「交互接種」が全世界的に認められております。

ですので2回目までがファイザー製のワクチンであった方もモデルナは接種可能となりました。

モデルナのワクチンはファイザーのワクチンよりも副反応が多い傾向があるとされていました(その原因としては、こちらにも書いた通り、モデルナワクチンの方がファイザーより使用するメッセンジャーRNAの量が多かったためではないかと推測されています)。

そこで今回の3回目接種で、モデルナワクチンを今までの半分にして、それによってできる抗体量を調べてみたところ、十分な抗体量を作ることができることがわかりFDA, 2021.Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee October 14-15, 2021 Meeting Briefing モデルナを使用する場合は半分量の投与と決まりました(ファイザーは2回目までと変わりない量となります)。

またファイザー → ファイザー → モデルナの方が、ファイザー → ファイザー → ファイザーよりも抗体量が多くできる可能性が指摘されておりmedRxiv. 2021 Oct 15;2021.10.10.21264827未査読、実際オミクロン株に対する感染予防効果はファイザーをわずかに上回る可能性を示すデータも出ていましたよね。

副反応に関しては、十分な検討はこれからとされていますが、モデルナの半量投与では副作用の出現が少ない傾向が見られており、総合的に見てファイザー → ファイザー → モデルナは、個人的にはあまり悪くない選択肢だと思います。

国は頑張って交差接種のススメをしていますが、確かに客観的に見ても、3回目はモデルナも一つの選択肢として考えて頂くのもいいかもしれませんね。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.01.19更新

いよいよ第6波が本格的に始まりました。

当院でも発熱・感染症外来にお見えになる方がどーんと増えています。

感染力の非常に強いオミクロン株が中心となっていることもあり、当院は陰圧パーティションを導入してみました(HEPAフィルターのついたパーティションに空気を吸い込み、汚染された空気をほぼ完全に除去できます)。

発熱・感染症外来はもちろん、

発熱診察室

呼吸検査ブースにも陰圧パーティションを備え

呼気NO・モストグラフ感染対策

スパイロ感染対策

オミクロン株に備えた体制を整えてがんばっています。

とはいえ、最近の圧倒的な患者さんの増加を前に、当院のキャパも風前の灯火・・・
できるだけ皆さんも普段の感染対策を今一度ご確認いただき、一人ひとりが感染リスクを減らして頂ければ、我々も非常に助かります!


で、今回は、それでも今コロナにかかってしまった場合、どのような治療がありえるのかを見てきたいと思います。
今回は我々のクリニックのようなプライマリケアからの目線で、主に軽症の方に対し外来で行える治療のおおまかな概要を見てみたいと思います(人工呼吸やECMOなど、入院して行う治療、重症患者さんへの治療は、今回は割愛します)。

まずこちらが、現在行われている治療法のまとめになります(私は入院治療は行ってないので、もし間違いがあったら教えてください、エラい人)。

コロナ治療薬一覧

大前提として、絶対数で言えば、新型コロナ、特にオミクロン株では肺炎、呼吸不全などを起こさない「軽症」の方が多いです(とはいっても中には高熱や激しい頭痛・筋肉痛・喉の痛み、それにだるさがつよく食事がとれないなどという、「分類上は軽症」だけど「なった人にとっては人生で一番ひどい症状」といった方は少なくありません)。
そして、軽症で重症化のリスクが低い方の場合は、特別な治療は行わずに、解熱鎮痛薬や咳止めなど、症状を和らげる治療のみで対処することがほとんどです。


ここからがコロナの治療薬となります。

まずはこの冬に登場した、「コロナの飲み薬」の紹介です。

モルヌピラビル(一発じゃなかなか読めない・・・)、商品名「ラゲブリオ」がその薬となります。

これはウイルスRNAをコピーする装置(RNAポリメラーゼ)に作用し、ウイルスがRNAをコピーする際にエラー情報を書き込み、ウイルスを複製できなくしてしまう薬です(もともとはコロナ禍の前から研究されていた薬のようで、そのころからインフルエンザウイルスなど、RNAウイルス全般への効果が期待されていたようです)。

この薬は発症5日以内の投与で、重症化のリスクをおおよそ30%下げることができたとの結果が出たため、12月に日本でも適応が取れ、使えるようになりました。

これはカプセル剤で、1回4カプセル1日2回5日間内服します(カプセルは直径2cmほどで、1回に4カプセル飲むのはちょっと大変かも・・・)。

ラゲブリオ

© 2009-2021 Merck Sharp & Dohme Corp., a subsidiary of Merck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A. All rights reserved.

この薬は、現時点ではだれでも投与できるわけではありません。重症化のリスクが高い方のみが投与の対象となっています。

重症化リスク因子
▽61歳以上
▽活動性のがん
▽慢性腎臓病
▽COPD
▽肥満(BMI 30以上)
▽重篤な心疾患
▽糖尿病
▽ダウン症
▽脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症等)
▽重度の肝臓疾患
▽臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後

【COVID-19に対する薬物治療の考え方 第11報】より

一方妊婦の方には投与できないこととなっています(動物実験で催奇形性が否定できなかったためで、人間でのデータはありません。また投与された場合の「将来の」催奇形性を高めるデータはありません)。
また発症6日以上経ってしまった場合や、重症度が高い場合は投与対象外となっています。

ラゲブリオはアメリカのメルク社が開発したものですが、もうひとつ似たような作用を持つ薬が同じくアメリカのファイザー社から開発されており(商品名:バクスロピド)、こちらは重症化予防率が90%前後と、ラゲブリオよりかなり高くなっています。
日本ではつい先日申請されており、承認されれば使えるようになるでしょう。

次は「抗体カクテル療法」に使用する薬です(ここからは注射剤となります)。

まずは商品名「ロナプリーブ」(カシリビマブ/イムデビマブ)です。

これは、コロナウイルス表面の突起(スパイクタンパク質)に取りつきます。
スパイクたんぱく質は人間の組織にある受容体(ここでは主にACE2受容体)にくっつき、そこから人の細胞と合体して入り込むことで感染、増殖がおこりますが(こちらで説明したことがあります)、この薬はこのスパイクたんぱく質にくっつき、人間側の受容体とくっつかないようにする薬です。

第5波のデルタ株流行の際は非常に活躍しました。
また濃厚接触者に対する予防投与(感染確定者ではない人が、感染、発症リスクを減らすために行う治療)も行えます。

ただ残念ながらオミクロン株に対しては効果が落ちてしまうことが分かっており、今後は活躍場面が減ってしまうのかもしれません。


一方同じ抗体カクテル療法のカテゴリーの薬で、商品名「ゼビュティ」(ソトロビマブ)という薬剤があり、こちらはオミクロン株にも有効と言われています。

こちらも重症者リスクの高い方にのみが対象で、発症1週間以内に1回だけ点滴で投与します。

こちらは妊娠中のデータは少ないものの、現時点は使用可能となっています。
一方重症度が高い方には使えません。またロナプリーブのような予防投与ができません。


また、これは本来入院して行う治療でしょうが、病床がひっ迫した第5波の時は、自宅療養でもステロイド薬であるデキサメタゾンを使用しました。
こちらは酸素の状態が悪いときのみに適応となり、酸素の取り込みが悪化していない状態では使用しません。

できれば今回の波ではこの薬を自宅で使用せざるを得なくなる事態は避けたいです・・・

その他、今回は取り上げませんでしたが、ここ最近は入院で使用できる薬剤もいろいろと増えており、確実に私たちは以前よりも武器を手にすることができるようになりました。

とはいえ、やはり後遺症の問題もありできればかかるべきでない病気であることに変わりはないでしょう。


当院でも2月7日から3回目のコロナワクチン接種を開始します。

ブースター接種によりオミクロン株にも感染、重症化は予防効果が上がることはわかっています。
スタートが第6波に間に合わなかったのは返す返すも残念ですが、希望される一人でも多くの方に、一日でも早くワクチンを接種をできるように、自分のお尻を叩いてがんばります!

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.01.04更新

あけましておめでとうございます!

前回のブログでもお書きしたように、当院は今年も大きな変化の年になりそうです。
一方コロナもまだすぐに収束という訳には行かなそうで、もう少し落ち着くまでに時間がかかりそうです。
職員一同へこたれずに今年も頑張りますので、何卒よろしくお願い致します。

で、そのコロナです。

またかと言うべきか、やはりと言うべきか、感染者の数がここ数日じわじわと増えてきていますね。
そして世界に目を向けると、オミクロン株がここ1か月であっという間に世界に広がり、多くの国で感染者も過去最高を記録しているようです。

ただ重症化が少ないという情報もあり、その見解については世の中を二分している印象です。

では、我々はこのオミクロン株について、どのように対峙したらいいのでしょうか?

今回は、先日最新の大規模なデータがイギリスの国家機関である英国保健安全保障庁から出てきました。SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529) 31 December 2021
イギリスではご存知のように、かなりの勢いでオミクロン株に置き換わっており、今回のデータは昨年11月末からの1か月間で判明したデルタ株約57万例オミクロン株約53万例(!)を比較したデータになっています。

(明日から診療開始ですので、時間と余裕がある今日のうちに)こちらのデータをご紹介しながら、少しこのことについて考えてみたいと思います。

この中で、検査後14日以内に救急搬送、入院した症例数は、デルタ株13,579例オミクロン株3,019例と、やはりかなり減っているようです。
背景の様々な因子を処理してリスクを計算したところ、おおよそ入院率はオミクロン株はデルタ株の1/3となるようです。
そして診断から28日以内に死亡したオミクロン株陽性症例は57人だったとのことで、今までよりもかなり少ない傾向はありそうです(観察期間が短いのは少し気になりますが)。

この原因の一つとして、オミクロン株は今までの株と比べて、気管支でより早く増殖する一方、肺ではあまり増殖しないことが示唆されておりhttps://www.med.hku.hk/en/news/press/20211215-omicron-sars-cov-2-infection?utm_medium=social&utm_source=twitter&utm_campaign=press_release(未査読)肺で悪さをするケースが減っているためかもしれませんいままでのコロナは肺で悪さをしやすいことが大きな問題でした)。

つまり、確実にオミクロン株は旧型コロナ(つまり旧来の風邪)に「近づきつつある」可能性はあるとはいえると思います。

ただ一方、風邪と「同じになった」かどうかは、まだはっきりとはわかりません。

ここで報告されているデータで私が気になるのは、入院した人の中で69.2%が69歳以下、39.1%が39歳以下であるということです。
通常のインフルエンザや風邪なら、若い人が入院する事はほとんどないはずなのですが、その視点から考えるとやはりこれだけ若い世代の割合が高いのは不安材料です(もちろん若者中心に流行しているため、その分若者の母数も多いだろうということは頭に入れるべきですが)。

また新型コロナの怖さは、致死率の高さだけでなく、Long COVIDと呼ばれる後遺症の頻度の高さにもあります。
まだこのLong COVIDがオミクロン株でどうなるかということがほとんど分かっていないのも、また不安材料であるといえると思います。

また、今回のレポートにはオミクロン株に対するワクチンの効果もレポートされていました。

症状のある検査陽性者を(つまり感染しているけど無症状だった人は除外されています)、ワクチン接種パターン別に分けて、ワクチンの効果を計算したデータです。

ここでは日本で接種されているファイザー、モデルナワクチンでのデータを取り上げます(アストラゼネカワクチンのデータもありましたが、ここでは割愛します)。

「症状をきたす感染を阻止する」という側面から見ると、接種後20-24週(5-6カ月)後、デルタ株に対しては50%程度予防するものの、オミクロン株の場合は10%程度しか予防していませんでした。
ただ3回目のブースター接種を行うと、デルタ株は90%オミクロン株は70%の予防効果まで回復します。その後10週経過すると、デルタ株は90%の予防効果を維持する一方、オミクロン株に対する予防効果は50%程度となるとのことでした。

ブースター接種後のオミクロン、デルタ感染予防効果

SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529) 31 December2021より改変

「症状をきたす感染を阻止する」という側面で見ると、やはり今までよりはワクチンの効果が低下傾向にあることは否めません(とはいえど、今までの効果が出来すぎていただけで、まだ接種の意味がないとまでは到底言えないだけの効果はあると思います)。

一方、「入院を阻止する効果」(つまり重症化予防効果に近い指標)を見ると少し変わります。

オミクロン株の入院予防効果に対しては、デルタ株よりは数字は劇的ではないものの、1回の接種でも35%の予防効果(ただし95%信頼区間が0.30~1.42と1.00をまたいでおり「有意差がある」=「効果がある」とは言い切れない)、2回目接種後6カ月までは67%(こちらは有意差あり)、6カ月以上たつと51%(こちらも有意差あり)の予防効果が見られました。
そして3回目接種2週間後ではその入院予防効果は68%(有意差あり)まで回復し、重症化の予防効果はある程度しっかりはありそうなデータでした。

 ワクチン接種後のオミクロン入院予防効果

SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529) 31 December 2021より改変

ただ、ここでまだ足りないデータもあります。

まずは「ワクチン接種により周囲へのオミクロン株感染を予防できるようになるか」ということです。
今まではみんながワクチンを接種することによって、集団免疫が成り立つことが分かっていました。今までの感染者数の減っていた日本がその状態でしたが、オミクロン株でもこれが成り立つかがわかりません。
また「症候性感染の予防効果」「重症化阻止効果」がどれくらい長期に続くのかどうか、という事がまだよくわかっていません。すると今後4回目、5回目と、何度も接種する必要が出るのか、頻繁に接種を繰り返した場合にトラブルは出ないのか、そこは問題にはなり得ます(3回目までは安全性に大きな変化は出ていないデータが出ています)。

これに加えて、オミクロン株の重症度の低下、だるさや発熱などのワクチンの副反応重症な副反応は前にも書いたようにやはり非常に稀です。これまで当院で3000回もの接種を行なった経験からも、その印象は変わりません)を考えると、特に若い人では今までよりワクチン接種の意義は見えづらくなっているかもしれません。

ただ、おそらくオミクロン株は一度流行すると、他国のようにあっという間に今までにない増え方をすることが予想されます。

データからは、その勢いをある程度は削げる、そして入院予防効果により少しでもコロナ診療を担う病院の負担を和らげること(これは巡り巡って全ての医療負担を軽減することにつながります)は出来ると言っていいと思います。

そのような意味では、やはり今回のブースター接種は意義があると思います。

人によってワクチンのメリットとデメリットのバランスは様々ですし、万人がワクチンを打つべきとまでは思いません。
しかし上記を考えると、リスクの高い方高齢者、基礎疾患を持っている方)接種できる方はやはりしっかりとブースター接種をしていただく事が、自分と社会を守っていただけることにつながるのではと思います。

というわけで最後に、現時点でのオミクロン株に対する私の考えをまとめてみます。

ちなみに私は政治評論家でも経済学者でもなく、どのような政策を打つべきかということを言及する知識も持ち合わせていないので、政策、経済対策については触れません(そのことに関するご意見はご遠慮ください)。

ただ、客観的にデータから状況を眺めると、オミクロン株を「風邪」と同じものとして何も対処せずにノーガードで臨むには、まだまだ不確定要素が多すぎるような気はしています。

ですので、今はまだ屋内や人混みでのマスク、手洗い、三密回避などの正しい基本的感染対策を取りながら、ワクチンを打てる方はブースターワクチンをしっかりと接種するなど、打てる手を打って備えたほうが賢明かなと思います。

もう少し色々と分かり、「やっぱりオミクロンは風邪と同等に扱っていい!」と自信を持って言える日が、1日でも早く来てほしい、心からそのように願っております。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.09.26更新

9月末になり一旦コロナの感染者数は落ち着いてきたようですが、まだまだ世間への影響は大きく、残念ながら日常の話題の中心です。

いいのか悪いのかわかりませんが、当院のブログも私の想定以上の方に読んでいただいているようです。
先日、ある患者さんに教えていただいたのですが、Similarwebという、全世界のサイトの閲覧数を順位付けしてくれる集計サイトがあり、そこには・・・

1位:EPARKさん、2位:日本医師会さん、3位:エムスリーさん、4位:MSDマニュアルさん。
そして・・・

similarweb

いやいや、明らかに場違いでしょ、katoiin.info(笑)

まあこの夏はコロナ第5波で皆さん心配になり、当ブログに行きつかれた方が一時的にでも大きく増えたのが原因というわけですが、こんなにも多くの方にご覧頂いていたとは知らずにのほほんと情報発信をしていたこのブログ、さすがにちょっとビビりましたので、ほとぼりが冷めるまでは(?)しばらく気を引き締めて書いていこうと思います。

 

さて、コロナワクチン接種もそろそろ佳境に入り、若年者の接種もだいぶ進んできました。
茅ヶ崎市も10月にはほぼ接種が行き渡るとみているようで、第6波の山が小さくなることが期待されます。

しかし、ここ最近はブレイクスルー感染(ワクチン接種後にもかかわらず感染してしまうこと)の事例も報告されはじめ、外来でも3回目の接種:ブースター接種についてお問い合わせを頂く機会が増えています。
そろそろブースター接種について調べてみなきゃなと思っていたところ、ちょうど9月15日に2つの新しいデータが発表されました。

今回はブースター接種について、今わかっていることをお伝えしてみたいと思います。

今回のデータはいずれも、世界で一番早くファイザー社製のワクチン接種を行ったイスラエルからのデータです。
一つはまだ査読をされていないものですが、時間経過によるワクチンの効果の推移を示すデータ、もう一つがかのThe New England Journal of Medicineからの、3回目のブースター接種の効果をみたデータです。


まずは一つ目から。Waning immunity of the BNT162b2 vaccine: A nationwide study from Israel. medRxiv. 2021
イスラエルで2021年3月にワクチンを2回打ち終えた人と、その2カ月前の1月に2回打ち終えた人が、7月11日~31日までにどれくらい感染、重症化したかのデータです(この時期のイスラエルはほぼ全てデルタ株だったようです)。

この期間、60歳以上の高齢者では、3月に打った人、つまり接種後4カ月経過した人は1000人当たり1.6人感染したのに対し、1月に打った人、つまり接種後6カ月経過した人は1000人当たり3.2人と、約2倍に増えていたようです。
また重症化率も同じく約2倍の差があったようです(ちなみに重症者に占める未接種者の割合は、2回以上接種した人に比べ10倍以上もいるため、2回(接種済み)vs0回(未接種)の違いは3回vs2回の違いに比べてずっと大きいです)。

これに伴い、ワクチンを打たない時と比べた、打った時の重症化予防効果も、接種後4カ月の91%に対し、接種後6カ月は86%に、わずかですが低下したようです。(若い人のデータに関しては、日本同様イスラエルも高齢者から接種が始まり、若い人は接種が遅れたため、まだ十分なデータとは判断できないため、ここでは割愛します)


ここでいったん補足。
8月に藤田医科大学がファイザー社のコロナワクチンで接種3か月後に抗体が1/4まで低下すると報告をしました。https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv000000b3zd.html

ただこれを効果が1/4になってしまっていると勘違いされる方が多いようです。
抗体の量と予防効果は必ずしも比例関係にはなりません(1/4の抗体量でも、十分予防には足りる量である場合もあるわけです)。
また抗体だけが仕事をするわけなく、T細胞の働きなども予防には重要な効果を示します(T細胞がどのように効果を示しているかはこちらから)。

あえてミスリードを狙ったようなデマっぽい情報もあったようなので、一度確認していただきたいと思い補足しました。

 

そして二つ目です。Protection of BNT162b2 Vaccine Booster against Covid-19 in Israel;N Engl J Med. 2021 Sep 15. doi: 10.1056/NEJMoa2114255.
2回接種を終えた60歳以上の1,137,804人が、2回目から5か月以上空けてブースター接種を行った際に、ブースター接種を行っていない人とどれくらいの差が出たかというデータが示されました。

まずブースター接種12日後以降のデータを見ると、感染率はブースター接種で91.2%、重症化率は94.9%減らすことができたとのことです。
またファイザー社からの報告を見る限り、3回目の接種での副反応は、高齢者、若者いずれも2回目と比べそこまで大きな差はないようです。VACCINES AND RELATED BIOLOGICAL PRODUCTS ADVISORY COMMITTEE BRIEFING DOCUMENT MEETING DATE: 17 September 2021

ブースター接種副反応

 

ブースター接種副反応

 

これらの報告から言えることとしては、やはり多少ではありますが、時間の経過とともに徐々にワクチンの効果は落ちていくだろうということ、それと少なくとも高齢者にはやはりブースター接種は効果がありそうだということです。

ただ今回の報告の問題点としては、まずは観察期間が非常に短いことです(2つ目の報告はブースター接種後最大1か月程度しか追っていません)。
そのためブースター接種の効果がどれくらい続くのかはわかっていません。
またブースター接種を行うことによる長期的な安全性もまだわからないと言わざるを得ません。

加えて接種が遅れた若者のデータはまだ少なく、ブースター接種の有効性もまだはっきりとしていないこと、そもそも若者ではもともと重症化率は低いので、ブースター接種のコスト(お金だけではなく、安全性などのリスクも含めてです)に見合う利益が得られるかどうかがわからないという点もあります(若者に関しては、周りへの感染の頻度を減らすことができるか、それとコロナの後遺症であるLong COVIDを減らすことができるかどうかということが、ブースター接種の必要性を決めるのには大事になるんじゃないかなと思いますが、これらの点は調べた限り、まだ結論が出ていません)。



国からは、今年の年末から3回目のワクチンブースター接種開始のお達しが出ているようですが、高齢者だけを対象とするのか、基礎疾患を持つ人を含めるのか、それとも若者を含めた全員に行うのか、これらをよーく考える必要がありそうですし、またもう少し時間が経ってからわかってくることも見てみる必要がありそうです。今後まだまだいろんな検討が必要そうです。

また新しい情報が出てきたら、(日常業務の支障のない範囲で・・・)書いてみようと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.08.11更新

本当は楽しい夏休みの真っ最中ですが、残念ながら新型コロナの蔓延が続いています。
茅ヶ崎でも連日1日数十人程度の陽性者が報告され、当院でも8月に入り、PCRで陽性となる方が増えてきております。
喜んでいいのかどうかはわかりませんが、前回の記事公開後さらに当院のホームページをご覧いただく方が数倍に増え、あっという間に月200万PVに達してしまいました。
世の中の関心事が本当にコロナ一色であることをまざまざと実感します・・・

一方ワクチン接種も進んでおりますが、こちらのページにも記載した通り、残念ながら国や自治体からのワクチンの納入が8月に入り極端に減ってきてしまいました・・・
当院では何とか8月中の接種枠は作りましたが、現時点では9月以降、なかなか十分なワクチン接種の枠を作ることができそうにありません。
うちのような零細医療機関には何ともし難い現実なのですが、その中でも何とか少しでもワクチンを確保し、希望される方に1日でも早く接種したいと思います。
最新情報はこちらのページや、当院のLINE公式アカウントにてお伝えいたしますのでご確認ください。

さて今、世の中に大きく意見が割れていることがあります。

若者にとって「コロナは風邪」なのかどうか。
そして「コロナワクチンを打つ必要はない」のかどうか、です。


まずは「コロナは風邪」なのか、考えてみます。

確かに、新型コロナ全体でみると、死亡者は高齢者に偏っており、若い方に死亡者が少ないのは事実です。
しかし、コロナの怖いところは、やはり肺炎や血栓症などで呼吸状態の悪化を起こしうること、それに後遺症を残してしまいやすいところです。

アメリカのテキサス州の医療施設で新型コロナと診断された18~29歳の1853人を、診断から30日間追跡したデータがあります。
これは2020年3~12月までのデータで、アメリカでもまだワクチン接種が始まってない状態でした。

結果ですが、17%の若者が肺炎を発症し、4.6%の若者が呼吸不全になったとのことでした。
その一方、無症状の若者も41%いたとのことでした。Sandoval M, Nguyen DT, Vahidy FS, Graviss EA (2021) Risk factors for severity of COVID-19 in hospital patients age 18–29 years. PLOS ONE 16(7): e0255544.
日本との医療アクセスの違いもあるため、そのままは当てはまらないかもしれませんが、若年者のワクチン接種が完了していない今の日本の現状の参考にはなるのかと思います。

このデータから言えるのは、この新型コロナの症状の幅の広さです。
通常今のインフルエンザでは、ウイルス性肺炎をきたすことはめったにありませんし(高齢者のインフルエンザ感染をきっかけにした2次性の細菌性肺炎は少なくないですが)、ウイルス感染そのもので呼吸不全になるような症例にもほとんど出会いません(前述の肺炎のほか、基礎疾患となる喘息、COPD、心不全などがインフルエンザ感染後に悪化して呼吸不全になることは少なからずあります)。

あくまでイメージ図ですが、インフルエンザと新型コロナの患者分布のイメージ図を作ってみました(実データによるものではありません)。


コロナとインフルエンザの重症度分布

ポイントは先ほどもお話しした、インフルエンザに比べての新型コロナの症状の分布の広さです。


コロナの場合、若い人ではインフルエンザより軽く済んだり、無症状感染者と診断される人が格段に多い一方インフルエンザよりは症状が重くなる人もいらっしゃいます。
これが年齢層が上がってくるとコロナで中等症、重症になる人の割合が増えてきますが、一方微熱程度で済んでしまい、インフルエンザより症状が軽い人もいます。
高齢者になるとコロナ同様、インフルエンザでも重症になりやすくなります(ただこの場合は先ほどもお話しした、インフルエンザ感染をきっかけとした肺炎や基礎疾患の悪化が多く、ウイルスそのものの影響による新型コロナの重症化とは様相が違う印象です)。

コロナに自分がかかったとき、この点のどこに自分が位置するのかということは、なってみるまでわかりません(若くて基礎疾患がなくても、必ずしも無症状、軽症で済むとは限りません。命には関わらないとしても・・・)。
たまたま左側の点に位置した人だけの「コロナは楽勝だったよ」の体験談だけで、自分も同じ体験ができるかはわからないのです。

ぶっちゃけ、要は「ガチャ」なのです。

また、今のインフルエンザは通常ほとんど後遺症なく回復しますが、新型コロナは後遺症をしばしば残すとされています。
これらはLong COVIDと呼ばれている現象ですが、最近の報告だと、Long COVIDが起こる頻度は、コロナの感染したときの症状の強さにはあまり影響せず(つまり先ほどの図で左よりの点だったとしても後遺症は出うるということです)、しかも一番生じやすい年齢層は30~40代であるというデータも報告されていますDennis A, Wamil M, Kapur S, et al. Multi-organ impairment in low-risk individuals with long COVID. MedRxiv 2020;10.14.20212555
イギリスの国家機関からの報告では、発症から5週間たった後でも息切れが4.6%残っていたとされており、別の調査によっては40%以上も残ると報告されている論文もあります。
この中には肺炎がなくても息切れの後遺症が残る人が数多くおり、肺の血管内に非常に小さい血栓が作られることが原因となりうることが示唆されていますHarry Crook, Sanara Raza, Joseph Nowell, Megan Young, Paul Edison Long covid-mechanisms, risk factors, and managementNEW BMJ. 2021 Jul 26;374:n1648. doi: 10.1136/bmj.n1648.
これを証明するように、罹患から60日経った人の21%で胸痛がみられこれらの中には心筋がダメージを受けることで上昇する「トロポニン値」が上昇している例が少なからず見られ、こちらも小さな血栓症による心筋炎が原因の一つではないかと考えられています。
若いスポーツ選手など、極めて健常な人も例外にはなっていないとのことで、新型コロナ後遺症の怖さを示しています。

先ほどのイギリスの報告では、その他にも感染5週後に残る慢性疲労が11.9%、頭痛が10.1%、味覚嗅覚障害が8.2%などと報告されています。
また頭に霧がかかったようになり思考力、意欲が低下する「ブレインフォグ:脳の霧」や、うつ状態、認知機能低下など、認知面でもさまざまな後遺症が問題となっており、海外では現在これらの治療の治験が行われているところです。

このようなことは、今のインフルエンザや他の風邪には決して起こらないことです。

私は現在、中等症以上の患者さんの治療はしていませんが、定期的に総合病院の呼吸器内科に勤務されている先生方から逐一現況をお伺いしています。
また、呼吸器科を主としたプライマリケア医として発熱、呼吸器外来は積極的に行い、新型コロナ診断の入り口は担っています。

そのため、おぼろげながらも新型コロナ診療の全体像は見ているつもりですが、やはりその立場から見ても、とてもとても「コロナは風邪!」とは言えないかな、というのが私の実感です。

そしてここで、ワクチンの意義について考えてみます。

ワクチンはこの点を左よりにすることができるツールです。
そして、95%の発症抑制効果により、Long COVIDのリスクも減らせる可能性があります。

一方、新しいワクチンであり、長期的な安全性については確かにまだわからない点も多いです。
それを恐れてワクチンを避けるのは、それも選択の一つとして否定されるべきものではありません。

ただ、コロナにかかった場合の長期的な経過もわかりませんし、コロナにかかると上に挙げたようないろいろな不都合が起こることは、もうすでにわかっています。
ワクチンによる血栓症も確かにありうることですし恐れるべきですが、コロナにかかることによる血栓症の発症の方がはるかに可能性としては高いわけです。

また今後外来で使える治療薬が出たとしても、その有効性、安全性はワクチンと同様、これから検討されるものになります(ワクチンだけが危なくて、治療薬が絶対安全ということはないのです)。
治療薬はコロナ制圧の大事なツールになり得ますが、まだその威力は未知数です。

世界で2億人以上が感染してしまい、まだまだ収まらない現状を考えると、おそらく少なくとも今後数年は、コロナがなくなることはないと思われます。
ワクチンを接種しない場合、その数年の間に一度はコロナにかかる可能性は非常に高いと思われます。

すると、ワクチンを打つべきがどうかという問いは、「ワクチンを打った時のデメリット」「ワクチンを打たなかったときのデメリット=ワクチンなしでコロナにかかることのデメリットという視点で考えると、答えが出やすくなるのかもしれません。
私は個人的にはこの比較でワクチンを打った方がいいと思っている側の人間ですが、この比較をした結果、ワクチンを打たないと決めたのであればそれも間違いではないとは思います。
が、ただしその場合は正しい感染対策を今後しっかりと継続する必要があることは知っておいていただきたいと思います。

そして、ワクチンを打つ!と決めたら、この前のブログでもお話しした通り、「打てる時に打てる物を打つ」という姿勢で接種に臨んでいただければと思います。

そのためにも当院は一人でも多くの希望される方のワクチン接種を行いたいと思っています。
ワクチンが入ってくれば、いつでも準備はできています!
1日も早く、1本でも多くワクチンが届くことを、切に願っています。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

前へ