医師ブログ

2021.02.21更新

ようやく待ちに待った新型コロナのワクチン接種が日本でも開始されました。
現在は第一線で奮闘されている医療従事者から接種が開始され、今後その他の医療従事者を経て一般の方への接種が始まる予定です。
それに合わせ、昨日厚生労働省からの医療機関向け説明会がウェブで開催されました。
私たちも断片的な情報しか知り得ませんでしたが、この説明会で少しずつアウトラインが見えてきました。
そこで今回はこのワクチンについて、現在わかる範囲でこちらでも解説してみようと思います。

当院でのコロナワクチン接種について
→一般高齢者の方向けページ
→医療従事者の方向けページ

まず今回接種が開始されるワクチンは、アメリカのファイザー社が製造したメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンというタイプのものです(商品名は「コミナティ」というそうです)。

ワクチンの原理ですが、ワクチンとは基本的に体に疑似的に感染した状態を引き起こし、それに対する免疫を人工的に引き起こすことができるようにする手段です。

いままでのワクチンは生ワクチン(症状が出ないように限りなく弱くした病原菌そのものを入れる)や、不活化ワクチン(病原菌にいろいろな処理をして病原性をなくしたものを入れる)などの手段がありました。

人類はこれら生ワクチンや不活化ワクチンを作った多くの経験を持っています。
が、このワクチンをつくるためにはウイルスそのものが必要です。
今回のように全世界で短期間にワクチンを作らなければならない場合、大量にウイルスを培養、複製しなければなりませんが、それには専用施設が必要だったり、培養の時間がかかったりと、すぐにそんなに多くのウイルスを作ることはできないのです。

そこで今回のワクチンではコロナウイルスのメッセンジャーRNA(mRNA)というものを使用することにしました。mRNAはコロナウイルスのいわゆる「設計図」です。

今回のワクチンの目的は、ひとつにはコロナウイルスの表面にある突起物(=スパイクたんぱく質)を攻撃するための抗体を作り出すことです。
そしてコロナウイルスのmRNAの一部分に、このスパイクたんぱく質の設計図が含まれています。
この設計図部分を取り出して、脂質の殻でコーティングしてあげます(RNAはとても壊れやすいので殻で保護するのと同時に、この殻のおかげで人体の細胞にmRNAを送り込むことができるようになります)。
これを注射すると、人体の細胞の中にmRNAが取り込まれて、設計図の情報をもとに細胞の中でスパイクたんぱく質をつくります(取り込まれたmRNA分解されますし、人間のDNAが存在する細胞核の中には原理的に入ってこないので、人の細胞に取り込まれることはまずありません。Twitterなどでそのようなデマも見ることがありますが、皆さん決して惑わされないようにしましょう)。
スパイクたんぱく質が体内で作られると、体の中で免疫が発動し、すみやかに抗体を作ることで、いざコロナウイルスが入ってきたときに速やかに攻撃態勢を作れるようにすることができるようになります(液性免疫)
また攻撃の仕方をキラーT細胞に指示して覚えこませて、免疫細胞が直接ウイルスを撃退できるようにもなります(細胞性免疫)

ワクチン

今回これだけ早くワクチンが完成したのは、遺伝子解析の技術が以前と比較にならないほど早くなったことが理由の一つです。今回の新型コロナでは武漢で流行の始まった昨年1月にはすでに遺伝子解析が終わっていたため、すぐにワクチンの研究に取り掛かれました。昔じゃ考えられなかったことです。
また先ほども述べたように、mRNAワクチンを作るのにはウイルスそのものは必要ない(設計図であるmRNAだけあればよい)ので、培養するのに時間を要する必要がないのも要因の一つです。
その他にも多くの資金がかけられたこと、全世界で急速に広がったため、それがかえって臨床試験の被検者を集めたり、結果を判定することが容易になったことも重要です。

そしてこのワクチンの効果ですが、全世界で行われた、約4万人を対象に行われた臨床試験では、接種後約2~3か月の期間において、全体で95%の発症抑制効果があったとのことでした。
具体的にはこのワクチンを接種してでその後発症した人が18559人中9人プラセボ(本人も接種者も見た目ではわからない偽物)を接種してその後発症した人が18708人中169人だったとのことです。
これは接種しない時に発症する割合を100としたときに、接種をした人の発症割合がおおよそ5程度になったということです(決してワクチンを打つと100人中95人効くという意味ではないのでご注意を)。

ワクチン

インフルエンザワクチンも抑制効果は50~60%程度と決して悪くはないのですが、現在のところ正直「段違い」の効果、ともいえると思います。

そしてこの効果は性別、年齢、人種、肥満やその他のリスク因子のあるなしにかかわらず大きな効果が変わらず認められていることも重要な点です。
現時点では(少なくても短期的には)効果の期待できない人はあまりいないという結果がでています。

副作用ですが、頻度の多いものとしては打った後の痛み、疲労感、頭痛、筋肉痛、38℃程度までの発熱が多いようです。
発現割合としては高齢者よりは比較的若い方に多そうで、また接種後1~2日経って出ることが多いようです。
またアメリカの市販後調査では、約10万人に0.5人の割合でアナフィラキシーが起き、死者はいなかったとのことです(ちなみに抗生物質であるペニシリンのアナフィラキシーは10万人中10-50人と言われ、ケタが違います。比較的ワクチンは安全なようです。と言うより、アナフィラキシーに関してはワクチン投与より不適切な抗生物質投与の方がよっぽど危ないとも言えるでしょう)。

ということで、まだまだ長期データがなくわからないことも多いワクチンですが、現時点ではかなり有望なのは間違いないようです。私も接種することにしました。

次回はこのワクチンの具体的な接種方法、注意点について、現時点でわかっていることをお知らせします。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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