医師ブログ

2021.02.07更新

結局緊急事態宣言が延長された2月、当院ではここしばらくコロナ陽性例はいらっしゃいません。
が、減ったとはいえまだ茅ヶ崎でも1日10名程度は報告されており、まだまだ気を緩めることはできません。
私もまだまだステイホームということで、今日は息子が学校の図書に載っていた「おひさまパン」を作ろうと朝からパン生地をこねこねして焼きました。人生初の自家製パンでしたが出来上がったら直径25cmと予想外の大きさとなってしまい、4人で食べても腹パンパンです(いやダジャレのつもりじゃなかったのですが、ホントに・・・)

おひさまパン

というわけで、今回は前回の続き、パルスオキシメータについてです。今回はパルスオキシメータを扱う際の注意点について書いてみようかと思います。

今アマ〇ンや楽〇などで検索すると、本当にいろいろな価格帯のパルスオキシメータが発売されているようです。
中には1000~2000円で買えるものもあり、私もびっくりしました(コロナ前は検索しても出てこなかった価格帯です。それだけ需要も増えたのでしょう)。
ただ前回もお書きした通り、酸素飽和度(SpO2)は95%を下回ると、その数字の扱いについては慎重にならないといけなくなります。98%と96%ならその違いはあまり気になりませんが、94%と92%ならかなり意味合いは変わってきます。
またパルスオキシメータはその指先の血流をとらえます。特に寒い冬のこの時期、指先が冷えている方は少なくありません。すると指先の血流は少なくなっている状態になります。また病態が悪化し血圧が下がってしまったときも同様です。
この血流を正しく捉えられるかはそのセンサーの精度にもよります。いざというときのモニタリングですので、もし家庭に常備しておくからにはやはりここが信頼できる機器でないとあまり好ましいとは言えないかもしれません。
やはりベストは医療機器認証を受けたものだとは思いますが、やはりやや高価ではあるので、極端に安価なものに手を出さないようにすればまずはいいのかなと思います。

次にパルスオキシメータで実際に測定する際の注意点です。

まずはマニキュアなどを塗っていると当然正しい血液の色が測定できません。使用するときはマニキュアを落とします(爪が特に濁っていなければ足の指で測ることは可能です)。

そして指を差し込むときにはしっかり奥まで差し込みます。センサー部分が爪にあたっていないと正確な脈波が拾えません。

上述の通り、寒かったり血の巡りが悪く指先が冷たいときは測定が不正確になることがあります。
通常パルスオキシメータには脈波も同時に表示されますが、これの表示が弱い場合は指を温めたり、血流の良い他の指で測定するなどの工夫をしましょう。

また指を動かしていると正しい測定ができません。
その理由は、指を動かすとセンサーの発光部と受光部の間にある指が動くことで、拍動のノイズになってしまうことがあるからです。
測定するときはパルスオキシメータを装着した指を机などに固定していただくといいです(できれば心臓と同じ高さであるとベストであり、日本呼吸器学会はできれば胸の前で固定することを推奨しています)。

測定すると数秒で値が出てきますが、20-30秒間は値が安定しません。しばらく時間が経ってからの値を読み取るといいと思います。

前回の記事で、SpO2の原理を説明しました。全体のヘモグロビンのうち、酸素と結合したヘモグロビンの割合を測ることで測定しますが、もともと貧血があると、そのヘモグロビンの量が減ります。
するとそもそも酸素の乗っているヘモグロビンも少なくなるので、SpO2が保たれていても酸素が足りないということがあり得るので注意が必要です。

また一部の薬剤で測定値に影響が出ることがあります。狭心症発作で使われるニトロや、一部の不整脈の薬を内服するとSpO2が低くでることがあります。

またSpO2が正常範囲でも絶対に大丈夫とは言えません。
人間は通常、体内の酸素が少なくなると、呼吸の回数や量を増やすことで対応しようとします。この時酸素の取り入れと引き換えに二酸化炭素を外に出します。
通常、人間の体は十分な量の酸素とある程度の量の二酸化炭素を擁することでバランスを保ちますが、つまり酸素が少なくなった状態では、二酸化炭素を引き換えに酸素を得るのです。
この状態はもうひと崩れするとあっという間に酸素不足に陥る状態ですが、この時点ではSpO2には反映されません。SpO2が95%程度でも呼吸が非常に荒いときは要注意です。

このように一見手軽なパルスオキシメータですが、やはり医療機器ですのでいくつかの注意点はあります。
このことをしっかり知っておけば有用な機器ですので、お手元にある方はぜひ正しくご使用いただけると幸いです。

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.01.30更新

ややコロナも山を越えてきたのでしょうか。
日々報じられる感染者数も一時期よりは少なくなってきました。
当院でも冬なので発熱や咳で来られる患者さんは相変わらず多いのですが、コロナを強く疑う患者さんの数は減ったように思います。また当院で実際にコロナと診断される患者も、年明けに比べればだいぶ減ってきているようであり、現場の実感としても落ち着きつつあるのかなという印象はあります。

しかし、コロナはやはり重症化が怖い病気です。
新規感染者の数が減ってもまだまだ重症者の数は多いようで、感染が判明してしばらく経ってから重症化するというコロナの恐ろしい面が反映されています。

このコロナに関しては、呼吸困難の自覚のないまま呼吸状態が悪化する「幸せな低酸素血症」“happy hypoxia”という状態が起こることが知られており、感染からしばらく経った後、気づいたときにはかなり呼吸状態が悪くなっていることがあるようです。
この原因としてはまだはっきりとは解明されていませんが、コロナが悪化しやすい高齢者や糖尿病の方は、もともと呼吸調節を行う調節機能が落ちている、呼吸困難を感じる体内のセンサー(頸動脈小体)にコロナウイルスが感染しやすく、そこのセンサーの機能が落ちることで呼吸困難を感じにくくなる、などの理由が考えられているようです。Martin J Tobin, et al. Why COVID-19 Silent Hypoxemia Is Baffling to Physicians. Am J Respir Crit Care Med. 2020;202:356-60.
現在軽症感染者さんの主な療養場所も自宅やホテルとなっており、ただの風邪症状の方もコロナである可能性が否定できない以上、家でも早期に呼吸状態の悪化を見落とさないようにする必要があると思われます。

そこで最近注目されているのがパルスオキシメータです(当院も今後の診療能力向上のために、今年からちょっとイイやつを新たに導入しました)。


これは日本語で「経皮的動脈血酸素飽和度測定器」といって、皮膚の上から光を当て、動脈血の「赤み」を測定する機械です(ちなみにこの機械が開発されたのは日本なんです!)。


使い方は、クリップになっている部分を開き、指を挟み、爪の部分が発光部にあたるように奥まで差し込むだけです。

パルスオキシメータの使用方法

血液が赤いのは、赤血球に含まれている「ヘモグロビン」という色素のためです。このヘモグロビンは酸素とくっつく性質を持っています。

肺で取り込んだ酸素は、肺に流れこんでくる血液の中のヘモグロビンとくっついて心臓に戻り、そして全身へと運ばれます(血液の液体の中にも溶け込みますが、溶け込んだ酸素はほぼ組織には運ばれず、液体の中にただよったままです)。
このヘモグロビン、酸素とくっつくと赤くなり酸素から離れると黒くなるという性質を持っています。
すると、肺で酸素をため込み心臓から飛び出したばかりの新鮮な血液(つまり動脈血)は色が赤々としていますが全身に酸素を配り終えた後の血液(つまり静脈血)は黒めの色となります
皆さんが血液検査で血を採られると、意外に血が黒いと思われる人が多いですが、これはすでに全身に血液を配り終えた静脈血を採取しているからです。

そして、パルスオキシメータは先ほどお話ししたように動脈血の赤みを測定するため、肺から酸素をしっかり取り込めているかを測ることができるというわけです。
パルスオキシメータで測る数値を、動脈血酸素飽和度(SpO2)と呼びます。
これは血中のヘモグロビンのうち、何%のヘモグロビンが酸素と結合しているかを示しています。ですので最大値は100%になります。

パルスオキシメータの原理
そして血液中に含まれている酸素(これを酸素分圧と呼びます)と、酸素飽和度(SpO2)の関係は以下のグラフのようになります(これを酸素解離曲線と呼びます)。

酸素解離曲線

上の表でもわかる通り、通常若い方の血液中の酸素分圧は95mmHg程度で、これは酸素飽和度(SpO2)でいうと98%に相当します。
また高齢者では酸素分圧80mmHg程度で、これはSpO2 95%に相当します。
機械の誤差を含め、95~99%であればあまり大きな問題はありません(100%だと時によっては過呼吸など、呼吸が多すぎることを疑います)。
そして、我々医師は通常、肺や心臓に慢性的な病気がない方の場合、SpO2が93%程度になると焦り始め90%を切ると慌てます。これは酸素分圧60mmHgに相当し、これを下回ると呼吸不全とされます。
グラフもここを下回ると急になり、急激にSpO2が低下していき、いろんな臓器が十分な酸素を受け取れなくなってくるため危険な状態へとなっていきます。通常の場合では呼吸不全、つまり酸素分圧60mmHg、つまりSpO2 90%を下回る場合には、酸素療法や、場合によっては人工呼吸器療法によって酸素分圧を上げる必要がでてきます。
この治療の目安が指に機械を挟むだけでわかってしまうのです。

というわけで、痛みなく簡単に体内の酸素の状態が分かってしまうスゴい機械、パルスオキシメータですが、使うには実はいろいろな注意点があり、使用を安易に考えると、時に問題を生じることが出てきます。長くなりそうなのでこの続きはまた次回。

 

追記:続編はいつ出すんだ!?というご指摘を受け・・・
続編はこちらになります

→2021.2.7 パルスオキシメータについて ~使用する際の注意点~  

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信