医師ブログ

2022.12.04更新

ワールドカップ、日本代表の目覚ましい活躍で、患者さんも寝不足の人だらけですね(笑)

私もそりゃ見たいと思っていますが、朝4時に起きて見てしまうと間違いなく臨床能力が落ちてしまいます・・・
応援できる方は、精一杯画面の向こうにパワーを送ってください!

そういえば、数年前、元日本代表の岡崎慎司選手が「アスリート喘息」であることを告白したことが話題になりました。
他にも有名どころではフィギュアスケートの羽生弓弦選手、レスリングの吉田沙保里選手などがこの病気をお持ちのようです。

 

そしてこの時期は、体育や部活,運動などで苦しくなるということで受診される方が増えるのです。

 

そこで今回はこの「アスリート喘息=運動誘発性喘息」にフォーカスを当ててみたいと思います。

喘息はこちらでも書いている通り、気管支が敏感になることで咳が出やすくなり、気管支の壁がむくんだり、炎症の結果痰が多く分泌されるようになるために空気の通り道が狭くなり、ゼーゼー、ヒューヒューいったり、息苦しくなる病気です。

喘息模式図

その喘息が起きるにはいろいろな原因があります(アレルギー、感染症、環境などなど)が、その中でも「運動」が原因となる場合があり、これを「運動誘発性喘息」と呼んでいます。

運動誘発性喘息は気道に乾いた、冷たい空気が多く入ってくることによっておこると言われています(一方、喘息を持たない人が、運動の時だけ同じような症状が起こることがあり、これは「運動誘発性気管支攣縮」とよばれています)。

具体的には、乾いた空気が入ることで気管支表面の細胞から水分が失われ、それが刺激となっていろいろな炎症が起こるのではないかと言われています。
冷たい空気は温かい空気に比べ、含まれる水分量が少なくなるため、より細胞の渇きが強くなっていまい、寒く、乾燥するこの時期に症状が出やすくなってしまいます。

また当然運動量が増えると口呼吸となります。
口呼吸は
、副鼻腔で加温・加湿された空気を取り込める鼻呼吸と比べて、冷たく乾いた空気が入ってきやすくなる上、「鼻毛」というフィルターを通さない分、様々な異物・刺激物を通過させてしまうため、気管支の刺激になってしまいやすいのです。

 鼻呼吸、口呼吸

そしてこの現象は、より冷たく乾いた空気が多く入る、マラソンサイクリング、走る距離の長いサッカースキースケートなどのウインタースポーツで起きやすいと言われています(今回のワールドカップでも鎌田大地選手は初戦のドイツ戦で12km以上走ったそうです。野球部だった私には到底想像できない運動量です・・・)。

一般にはあまり知られていない病気のため、このような状態になっているのに気づかない方もいらっしゃいます。
最近急にパフォーマンスが悪化した、成績が急に落ちたということで、心配された監督やコーチから医療機関を受診されて診断できたケースも少なくありません(他に、特に女性の場合なら貧血なども原因として考えておく必要があります)。

さて、このような運動誘発性喘息が起きた時、一番皆さんが心配されるのは、「私は運動をしてはいけないの?」といったことです。
実際、当院に来院される方のお話しでは、他の医療機関や学校で運動を避けたほうがいいとずっと言われていたため、体育を何年も休んでいたという方もいらっしゃいました。


結論から言うと、運動をあきらめる必要はないのです!あきらめてはいけません!

しっかりと対策をすればほとんどの場合、症状はしっかりとコントロールができるからです。

事実、運動誘発性喘息、つまりアスリート喘息は、一般の方よりアスリートの方に有病率が高いと言われています(より激しい運動で誘発されやすくなるので、当然と言えば当然です)。

しかし、しっかりと対策をしてパフォーマンスを維持できた多くのアスリートが輝かしい実績を残すことが出来ているのです(上記に挙げた3人はいずれも世界トップクラスの実績を残しましたよね)。
「正しい治療」を行った場合、そのパフォーマンスに影響は出ないことがわかっていますImmunol Allergy Clin North Am. 2018 May;38(2):205-214

 

ではどのような治療をすればいいのでしょうか?

 

まず、一番有効性が高いのが、運動をはじめるちょっと前(5~20分前)に、気管支拡張薬の吸入薬(サルタノールとかメプチン)を使用することです。
これは効果がすぐに現れ、2~3時間効果が続くとされています。

また「キプレス」「シングレア」「オノン」などの、ロイコトリエンという炎症性物質の働きを抑える薬も有効性が高いというデータも出ています。

そして喘息についてはしっかりと吸入ステロイド中心とした喘息予防薬を使用しつづけることが大事になります(運動誘発性喘息ではなく単なる気管支攣縮なら必要ありませんが、喘息は診断まで数年の間ずっと見逃されていた例にしばしば出会いますので、喘息がないという判断はかなり慎重に行う必要があります)。

喘息のコントロールが悪いと、当然ながら運動時に症状は明かします。

さらには、薬剤を使用しない方法も試してみたいところです。

例えばウォーミングアップとして、運動強度を10~15分かけて徐々に強めることで、気管支の炎症反応を起こりにくくする効果があるとされ、こちらは結構データがそろっています。Am J Respir Crit Care Med. 2013 May 01;187(9):1016-27

また肥満がある場合はやせることで気管支の炎症が起こりづらくなることもわかっています。Respiration. 2015;89(6):505-12

他にもマスクを着けた運動なども有効性が考えられていますが、そもそもマスクだと強度の高い運動はしづらくなるので、やはりしっかりと薬剤を使用したほうがよさそうです。

レベルの高いアスリートだと、ドーピングなども気にしなければいけないことになりますが、基本的に吸入ステロイドを基本とした長期管理目的の吸入薬は、ほとんどが全く問題なく使用できます(エナジア、アテキュラのみまだ使用できず、特例申請が必要です。レルベア、テリルジーは2020年まで禁止でしたが、2021年から使用可能となっています)。

「発作止め」に当たる吸入気管支拡張薬については、サルタノールは申請なく使用可ですがメプチンは通常使用できず、どうしても使用しなければならない場合、特例申請が必要となります(もちろんメプチン錠、メプチンミニ錠など、メプチンの内服薬も使用できません。そもそも現在の治療で、どうしてもこの薬がないといけない場面は、私はほとんどないと考えていますが・・・)。

内服薬もキプレスなどのロイコトリエン受容体拮抗薬、それに抗ヒスタミン薬(いわゆる花粉症の薬ですね)は申請なく使用できますが、よく巷では使用される「ホクナリンテープ」は通常使用ができないので注意が必要です。

内服のステロイド薬(プレドニン錠、デカドロン錠、リンデロン錠など)はもちろん使用できません。
(なおこの情報は2022年時点のものになりますので、最新情報は都度ご確認ください)。

喘息治療薬とドーピング

 

という訳でなんだか最近運動すると苦しいなと感じられた方、まずはお近くの呼吸器内科(お子様なら小児科)に、お早めにご相談ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.11.09更新

一通りの改装工事から約1か月半が経過しました。
改装工事後のクリニックは、もちろん快適性が大幅に増し、居心地のいい空間にはなっていますが、やはり運用面では工事前には予期していなかったことも多く起き、まだまだ試行錯誤が続いています。


そして改装後はさらに多くの方にお越しいただくようになり、いよいよ深刻なスタッフ不足・・・

運用面でも患者様には多くのご迷惑をお掛けしてしまうことがあります。

ソフト面、ハード面双方でまだまだ当院は改良が必要な状態であり、スタッフ一度頑張って対応いたしますので、今しばらくお待ち頂ければと思います(もし当院の仲間になってお力になっていただける看護師の方医療事務の方がいらっしゃいましたら、是非お力をお貸し下さい!!)


という訳で、すっとバタバタな院長はこの1か月、全くブログに手を付けることができませんでした。
このままズルズル行くと更新が止まってしまいそうだったので、心をオニにして、深夜に記事を書く決心をしました!


最近はどうしてもコロナ関係の記事が多くなっていましたが、やはりここは初心に帰り、当院のキモである「咳」について書いてみたいと思います。

 

以前にもお話しした通り、咳は3週間以内で改善する「急性の咳」と、8週間以上続く「慢性の咳」に大きく分けられます(3週間~8週間はその中間となり、両方の特徴が交じり合います)。
3週間以内で改善する「急性の咳」は、多くが感染症(多くがウイルス、時に細菌)です(もちろん「慢性の咳」の出始めという可能性も否定はできません。しかしその場合は、今回の咳の前にも何かしらの似たようなエピソードがあることがほとんどです)。


そして、当院が一番治療に力を入れている「長引く咳」、つまり「慢性の咳」は、その原因が非常に多岐にわたります。


その中でも一番多いのが、(咳喘息や気管支喘息を含む)「喘息」です。


「長く続く咳」のうち、約7割がこの喘息と言われており、私の外来でも確かに少なくても半分強の方は喘息の要素を持っておられるように感じます。Niimi A et al. Cough Variant and Cough-Predominant Asthma are Major Causes of Persistent  Cough: A Multicenter Study in Japan. J Asthma. 2013 Jul 11.


しかし、思いのほか、他の原因で咳が続くことも少なくありません。

その原因としてすべてを列挙して説明しようとすると、1日かけても説明しきれないので、実際に比較的多く見かける原因について、2つ挙げてみようと思います。

 


まずは、鼻やその後ろの炎症によって鼻水ができ、その鼻水がのどの奥をつたって喉にたまってしまう「後鼻漏」という状態です(実はコロナ後の咳でも、これが原因であることが少なくありません)。
この「後鼻漏」を引き起こす原因として、やはり一番多いのが「アレルギー性鼻炎」となります。
花粉症やハウスダストなどによって引き起こされる鼻炎で、基本的にはさらさらした、水っぽい鼻水が喉の奥に落ちます。

この場合、アレルギー性の炎症性物質を含むため、喉の奥がかゆくなることが少なくありません。


また、いわゆる蓄膿といわれる「副鼻腔炎」も後鼻漏を引き起こします。
副鼻腔炎はその原因によって治療法が変わるため、それを見極めることも必要です。
副鼻腔炎による炎症が起こると、鼻水はドロッとした、色のついた鼻水になることが多いです。


これらによる咳の場合、咳の出方に特徴が出る場合があります。


喘息では、比較的咳がずっと続いていることが少なくないのですが、後鼻漏による咳は、一回出るとしばらく止まらず、咳ができるとピタッとやむというのを繰り返すことが多いです。
流れ落ちた鼻水が一定量たまると咳が出始め、咳によって全て痰が出きると咳がやむとのを繰り返すからと言われています。

そして仰向けで悪化するというのも一つの特徴です。やはり仰向けだと喉の奥に流れ込みやすくなるためだとされています(横を向いて寝ると少し良くなったりします)。

 

 

次によく見られるのが、胃酸が食道に逆流をして、その刺激で咳が出てしまう、「胃・食道逆流」と呼ばれる状態です。


胃酸は結構強い酸です。その胃酸が何かしらの原因で食道に逆流してしまうと、食道にある粘膜を刺激してしまいます。
食道の下部には、迷走神経という神経が分布しており、一方気道にも迷走神経が分布しています。食道の迷走神経が胃酸で刺激されると、反射的に気道の迷走神経も刺激されてしまい咳が出てしまうとされています。

また逆流した胃酸のうち、微量の胃酸が誤嚥されてしまうこともあり、微量ながらも強い胃酸が気管・気管支を刺激して咳を起こすというメカニズムも考えられています。


この咳は、肥満や最近体重が増加した人に多く、また食後や夜横になったときに症状が出やすいとされています。

また喉の押される感じや違和感を感じることが多いのも特徴です。

 

胃カメラで「逆流性食道炎」食道の粘膜の炎症が見られなくても、胃・食道逆流の可能性は否定できないというのがまた我々にとっては悩ましい所です(多少の逆流なら粘膜を傷つける訳ではないのですが、それでも刺激は与えて、咳をきたしてしまう可能性があるからです)。

 

そして、これらの診断をさらに難しくするのが、「喘息」「後鼻漏」「胃・食道逆流」は、お互い被ることがあるということです。

例えばここでもお話しした通り、「アレルギー性鼻炎」は「喘息」と一緒に存在することが少なくありません(どちらもアレルギー性の炎症で、起きる場所が違うだけという考え方です)。
副鼻腔炎でも、アレルギー性の副鼻腔炎では同様のことが考えられます。


「喘息」と「後鼻漏」は、残念ながら相性が良いのです・・・

 

一方「胃・食道逆流」はどうでしょう。


こちらも「喘息」が影響する場合があります。
喘息で咳が止まらなくなった時、その咳はお腹に腹圧をかけます。すると胃が押されてその勢いで胃酸が逆流することがあります。
そして、胃酸の逆流によって咳がでると、更に腹圧をかけてしまい、より多くの胃酸が逆流をして咳が悪化するという悪循環に陥ることもあります。


もちろん「後鼻漏」による咳がきっかけでも同じことは起こります。

 

これら3つは容易に被ることはあります(不幸なことに3つ被ってしまっている例も時々見られます)。

全て見抜いて治療をすることで初めて症状はコントロールできます。
どれか1つでも見逃すと、症状はなかなか良くならないのです。

 

もちろんこれ以外にも私たちが考える原因はタヒぬほど多くあります(他に想定すべき20~30種類以上の病気、その想定される病気の強さ、それぞれの薬が正しく使われているかどうか、それに患者さんの置かれている環境などなど・・・)

それらを見抜くことで、初めて咳の治療は成り立つと、私たちは考えています。

 

とにかくこの時期、長引く咳に悩まれる方はこんなにも多いのかとびっくりします。

受診を希望される方を長くお待たせしてしまっているこの状況は、ただただ申し訳なく思う限りです・・・

受診ご希望の方は、お早めに受診のご予約いただけますよう、よろしくお願い致します!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.07.03更新

いやあ、暑いですね・・・


今年は梅雨があっという間に駆け抜けてしまい、6月らしからぬ猛暑にぐったりでした。


梅雨時に気を付けるべきアレルギーについて書こうと思っていたのに、どうもタイミングを逸してしまったか・・・と思ったら、またジメジメした天気が戻ってきそうな雰囲気もあり、このスキに前回の続きを書いてみようと思います!

 

さて前回は、「梅雨時に気を付けたいアレルギー」として、カビのことを書いてみました。今回はその他にもこの時期に気を付けるべきアレルギーとして、いろいろな草木を挙げてみたいと思います。


スギ、ヒノキの花粉が終わる時期に飛散が始まるのが、イネ科の花粉です。


イネ科というと、田んぼに生えそろっている稲をとうしても想像してしまいますが、実際に人々に影響を及ぼすのは、空き地や庭に生えている雑草であるイネ科の植物です(田んぼの稲はあまりアレルギー性は強くないと言われています)。

ですので稲作地域ではないここ茅ヶ崎でも、多くの方がイネ科の花粉に悩まされています。


カモガヤというイネ科の植物があります。これは空き地や河川敷などの荒れ地に多く繁殖する雑草です。
またイネ科にはオオアワガエリという雑草もあります(英語ではチモシーと呼ばれ、こっちの名前をご存知の方も多いかもしれません)。

これも空き地や河川敷、土手などの荒れ地に生えることが多い植物です。
いずれも繁殖力が強く、よく目にする植物です。


花粉は5月くらいから飛び始め、6月ごろが一番多く、7月ごろまで続くこともあります。
症状としては鼻や目の症状が主ですが、咳や喘息悪化の原因になることも少なくなく、もともと咳が出やすい方や喘息を持たれている方は特に注意が必要です。

スギやヒノキの花粉は山から数十kmの距離を飛散しますが
イネ科の花粉は数百ⅿ程度しか飛散しません。
ですので、この時期はなるべく草むらに近づかないこと、家の周りにそのような環境がある方は、外の花粉を家に入れないようにすることが重要です。

またこの花粉症を持っている方は、反応が強く起こることが少なくありません。
一般的に運動をすると、アレルギー反応が強くなることが少なくありません。
ですので、これらの植物が多く生えているところでランニングやサイクリングなどをするアスリートの方に、アナフィラキシーなどの強いアレルギー反応が起こることがあるので、該当する方はより一層注意が必要です。


次に挙げるのがキク科です。

代表的なのがブタクサです。
結構ブタクサアレルギーを自覚される方は多い印象で、統計学上もアレルギー性鼻炎の方の10~20%がブタクサに感作されていると言われています。

時期は8月から10月、夏からが本格的なシーズンになります。

またヨモギキク科の草で、こちらはややブタクサより早く、7月から飛散が開始します。
お餅に混ぜたり、おひたしにしたりとおいしいイメージのあるヨモギですが、こちらもアレルギー性鼻炎の方の15~25%が感作されているという、夏から秋の花粉症の重要な原因となってしまっています。

また時期はもう過ぎてしまっているようですが、カバノキ科の花粉もあまり知られていないものの、喘息の方には結構悪さをすることが知られています。

関東など温かい所ではハンノキオオバヤシャブシという木がそれにあたり、北海道や本州でも標高の高いところではシラカバもその仲間です。

時期はヒノキと被る4~5月ごろで、スギやヒノキがあまりない北海道では、花粉症の一番大きい原因となっています。

前にも書いた通り、カバノキ花粉症、イネ科花粉症では、果物や野菜の食物アレルギーを合併しやすいという側面も持っており、花粉症の時期に食物アレルギーの症状が出やすくなるということもあるので、そのことに気づけるかも重要になります(大人の食物アレルギーは残念ながらあまり広くは知られていないため、長年にわたりこのことに気づかれない方も少なからずいらっしゃるのが実情です)。


あとは花粉症の後にもしつこく残るアレルゲンとしてはダニやペット、それに昆虫が挙げられます。次回以降は、これについても触れてみたいと思います。

 

さて、当院では7月4日から新型コロナのワクチン接種を開始します。
回は4回目が主になっていますが、当院では1~3回目の方も受付いたします(4回目接種についての情報はコチラ)。

当院予約システム、および茅ヶ崎市ワクチン予約ページから、それぞれ枠をご用意しています。
居住地、当院での接種歴や受診歴は問いませんし(茅ヶ崎市外に在住の方は茅ヶ崎市の予約ページはご利用いただけませんので、当院予約システムからご予約下さい)、お手元に接種券が届いていない方も、予約日が接種可能な日時なら(4回目接種は3回目接種から5ヵ月経過後となっています)、接種当日に前回接種日が分かるものがあれば大丈夫です。

また以前からお伝えしているように、当院は8月7日(日)~8月25日(木)まで2週間半の間、改装工事のためにお休みを頂きます。
当院かかりつけの方は受診時にお薬がなくならないように適宜調整を致しますし、病態によってはこの時期に悪化を極力避けられるよう、治療内容の調整を行うこともございます。

ご不明な点、ご不安な点がございましたら、お気軽に外来受診時に私など医師にお申し付けください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.06.16更新

6月に入り、だいぶ発熱の方、風邪症状の方も減ってきたように思います。

当院でもコロナ陽性者は週に2〜3人出るかどうかというところまで減ってきており、いよいよアフターコロナが見えてきたのではないか、というように思えるような状況です。

 

一方、ここ最近は3〜4月ごろから咳が増えて止まらないという、風邪というには長すぎる咳の症状でお悩みの方が増えてきております。

いわゆる「花粉症」が終わった頃から咳が出るパターンの方が少なからずいらっしゃいます。

 

今年は当院も名称変更を行い、やはり例年より咳の患者さんが多いなあと感じていたそんな折、ケーブルテレビのJCOMさんから取材の依頼を頂きました。
内容は「梅雨時期に気をつけたいこと」というお題です。

 

クリニック勤務となってから、多くの取材を受けてきましたが、今回は初めての映像。

今までの幾多の経験上、セリフを覚えて話そうとすると100%噛むという揺るぎない自信があったため、あえてカメラには目をくれず、何も考えずに一発撮りで話してみることとしました。

 

JCOMさんはケーブルテレビですので、加入していない私はあいにく自分の醜態を直接目にすることはできなかったのですが、我が元祖ブロガー兼受付の深田さんがありがたくも動画を撮っていてくれていましたので、そのキャプチャーを晒してみたいと思います。

JCOMインタビュー

結構カメラ目線じゃん(笑)


と言うわけで、この取材でアレルギー専門医の私が話した、この時期、皆様に気をつけていただきたいことを、今回はもう少し深めて今回のブログネタにしようと思います。

 


スギやヒノキの花粉症の時期も終わり、一般的にはアレルギーの方はホッとする時期という印象を持たれる方が多いのですが、春から夏にかけてのこの時期は、実はさまざまなアレルギーの原因が出現する時期でもあります。

例えば、この時期一番思い浮かぶ厄介者としては、カビが挙げられると思います。

 

特に喘息を悪くさせやすいものとしては、アスペルギルスというカビが挙げられます。
これは温かく乾燥した場所に多く発生するカビで、ホコリの中や畳、寝具などに多く生えます。
空気中に飛散しやすく、このアレルギーがあるとかなり厄介な喘息になることが知られています。

 

一方クラドスポリウムというカビも厄介です。
これはいわゆる「黒カビ」で、温かくジメジメしたところに多く生えます(皆さんが一番想像するカビでしょうか)。
湿気が多い風呂場や水回りに多く生息し、このカビも大量の胞子を空気中にまき散らし、咳の悪化の原因になります。

 

またアルテルナリアというカビもいます。
これは「ススカビ」とも呼ばれ、やはり湿気の高いところを好み、浴室や水回り、押し入れの奥や台所や床下収納によく生えてきますが、胞子になると乾いたところにも出現し、空気中に舞ったり、畳や寝具からも検出されます。

 

それに面白い、といっては何なのですが、クラドスポリウムやアルテルナリアは大雨や雷雨が降ると、屋外に飛散している胞子が割れて細かく飛散し、より吸い込まれやすくなる現象がおき、これを吸い込むことによって喘息が悪化する「雷雨喘息」という病態もあります。
花粉も同じ条件で細かくなることも知られており、天気が良くなったタイミングで咳や喘息が悪化する方が増える方は実際多い傾向にあります。

 

そしてこれらのカビはプラスチックの表面にも住み着くことができます。そのため、エアコンの内部に繁殖しやすく、しばしばエアコンを使い始めるこの時期から大きな影響を引き起こします。

エアコンは吹き出し口、フィルターなどが目立つため、ここの掃除はされる方が多いのですが、我々素人が届かない内部にも当然カビは届いています。
そのため古いエアコンを使っていたり、長く内部クリーニングをされていなかったりした場合は、エアコン使用開始とともに空気中にカビの胞子が飛散し、咳が止まらなくなったり、喘息が悪化したりするケースが少なくありません。


エアコンを使用する前であるこの時期、しばらく内部クリーニングをされていなかった方は、是非業者さんにお願いしてクリーニングをしていただくといいかもしれません。

 

 

そのほかにもこの時期に原因になりやすいアレルゲンとしては、6月くらいから9月ごろにかけて増えるダニ(おもにその死骸やフン)、道端や空き地に多く生える雑草、家の内外で影響を及ぼし得る昆虫、それにペット(特にネコやイヌ)など、実にバラエティ豊かです

 

これらのアレルゲンに関しても、今後詳しくお話ししてみようと思いますが、なかなかボリュームがあって長くなりそうですので、また次回。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.06.27更新

世の中は高齢者の方へのワクチン接種が佳境に入ってきており、当院でも1日最大42人のペースで接種を続けております。
とりあえず当院で接種予定の高齢者の方は、7月第3週までには何とか1回目が終わりそうです。また集団接種で接種されている方もちらほらいらっしゃり、少なくても当院の周りでは接種は順調に進んでいるようです。

また若い方からも、職域接種などによる接種の予定のお話を多く伺うようになりました。
これに合わせ、接種についての不安点、疑問点をお聞きいただく方も増えてきております。
こちらのブログも参考にされつつ、少しでもわからないこと、不安なことがありましたら、お気軽にお聞きいただければと思います。


2021.2.21 いよいよ新型コロナワクチン接種開始! ~ところでコロナワクチンってどんなもの?~

2021.4.18 「私、ワクチン打っていいの?」にお答えします。


当院の若年者へのワクチン接種も、茅ヶ崎市や医師会からのゴーサインが出たら速やかに予約を開始しますので、ご希望の方は以下のページを随時ご確認いただきます様よろしくお願い致します。

一般の64歳未満の方への新型コロナワクチン接種について

このようなご時世で世の中はまだまだコロナだらけですが、我々はコロナ以外の病気もおろそかにはできません。
当院には咳が続いて、風邪なのかそうでないのかを心配される方が多く来院されます。

日本においては慢性咳嗽の原因の最多は喘息(咳喘息を含む)とされています(欧米では後鼻漏逆流性食道炎の頻度が日本よりは多いようです)。ともかく喘息は、実に多くの方が持っている病気ですので、当院だけでなく多くのクリニックで適格に診断、治療する必要性が高い病気です。
ですので少しでもそのお手伝いをすべく、先日一般クリニックの医師向け講演会の座長をして参りました。
岐阜県で、全国に吸入指導の啓発活動をされている大林浩幸先生を(リモートで)お迎えし、吸入薬の使い方に関する講演をお手伝いさせていただきました(この界隈ではかなり有名な先生です)。
講演会

その中でもやはり患者さんご本人が思いのほかうまく吸入薬を使えていないことが少なくないとのことであり、その実例を多くご紹介いただきました。
その中には、私の診療中にも出会ったうまく使えていない方の例と類似のケースも多く、やはり患者さんが間違えやすいポイントを我々医療者がしっかりとお伝えしないと、せっかくの薬剤が患者さんのためにならないんだなあと改めて実感しました。

というわけで、おそらく半年以上ぶりの吸入薬の落とし穴シリーズ第4弾、エアゾール製剤について今回は書いてみましょう。


エアゾール製剤と言いましたが、簡単に言うといわゆる「スプレー」のタイプの吸入剤です。
現在吸入薬にはパウダーを自分で吸う「ドライパウダー」タイプの吸入薬が多くありますが、それと一線を画するものとなります。

スプレータイプの吸入薬は、まず何よりもわかりやすいことがメリットです。
押せば霧が出てきますし、それを吸えば吸入したこともわかりやすいので(何となく吸入薬のイメージというとこれを想像される方は多いのではないでしょうか)、この点が使いやすいポイントの一つです。

ただ、やはりこの吸入薬にも落とし穴があるのです。

まず吸入薬については、ボンベの中が分離する薬剤があるので、これらは使用前に振らないといけません。以下のものが振るべきものとされていますが、わからなければ何でも振っちゃって大丈夫です(笑)
吸入器を振るべきかどうか
そして次は持ち方です。
先日の講演でも例があり、私も出会ったことがあるものですが、ボンベを逆さまに持ってはいけません。

とはいってもどっちが逆さまか・・・

ヘアスプレーや殺虫剤は噴射口が上に来ますが、吸入薬は噴射口が下です。噴射口が上、つまりヘアスプレーや殺虫剤と同じ向きにすると逆さまになってしまいます。
このことは大林先生の講演にもありましたが、結構違いやすいポイントなのかもしれません・・・

次は吸入の仕方です。
このタイプの吸入薬は、パウダータイプのものと比べて、それほど吸入をするのに強い力はいりません。
ただ、粒子径が比較的小さいため、奥まで深く吸い込み、それを沈着させることが必要になります。
ですのでこのタイプの吸入薬は、ゆっくり、深く大きく吸って最低5秒程度、息止めをする必要があります。浅いと吸いきれないですし、小さく吸ってすぐ吐くと、薬が肺に沈着しないでそのまま外に出て行ってしまうと考えられています。

次に、このタイプの吸入薬は、吸入力はあまり必要ないものの、タイミングを合わせる必要があります。
タイミングは押してから直後に吸い始める、です。これが合わないと、口からスプレーのミストが漏れ出てくるのが分かります。
こうなっていないか、周りの方や、おひとりの時は鏡などで確認されるとよろしいかと思います。

最後に、当然ボンベは押さないと出てこないのですが、握力が弱かったり、手を痛めていたりしていると、ボンベが固くて押せないケースが時々あります。
その場合は写真のような補助器具が無料で使え、力が半分ぐらいで済みます。
通常の調剤薬局なら準備があるはずなので、処方薬をもらう際に薬剤師にご相談ください。

吸入補助具
以上、今回はスプレー剤であるエアゾールについて書いてみました。
あと吸入薬のメジャー処では、COPDや比較的重症の喘息に使われているレスピマットが残っています。
コロナに関しては旬なネタがいろいろ出てきますが、コロナの話題ばかりだといささか食傷気味にもなるので、コロナの話題の合間にまた書いてみようと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.06.06更新

5月下旬から茅ヶ崎市でも高齢者に対するコロナワクチン接種が始まり、当院でも5月24日から一般高齢者、医療従事者へのワクチン接種が進んでいます。
高齢者のワクチン接種に関しては、当初診察時間内に1日24人の枠で進めていく予定でしたが、かかりつけの方だけでも、このペースだとすべて終わるのが9月までずれ込んでしまうことが判明・・・

そこで急遽診察終了時間にも枠を拡大し、1日42人まで枠を増やす方針としました。

何とかこれで7月までになるべく多くの方の1回目接種を終わらせることを目標とし、8月以降に64歳未満の方の接種がスムーズに開始できるよう、スタッフ一同最大限に頑張っています。
それでもまだ慣れないこともあり、いろいろとご不安、ご迷惑をお掛けしていることもあろうかと思います。お気づきの点に関しては、遠慮なく教えていただけるとありがたいです。皆さんのご協力をよろしくお願い致します。



さて、呼吸器内科、アレルギー科を掲げる当院には、長い間咳が続き、いろんなところに受診しても改善しなかったためにいらっしゃる方が、茅ヶ崎市内に限らず、市外からも多くいらっしゃいます。

症状が残っている方の中で、一番多いのが、喘息に対して続けるべき吸入薬を続けていなかったケースです(よくなったらやめてもいいと言われたという、医師から不適切な指導をされたケースも残念ながら少なくありません・・・)。
吸入薬は使っていたものの、正しく使えていなかったために改善しないケースも少なくありません(そういえば吸入薬の落とし穴シリーズ、まだ完結していませんでした・・・今度続き書きます!)

あとはアトピー咳嗽喉頭アレルギーなどの喘息より中枢の気道アレルギーのケース、さらに上の部分となる、花粉症などのアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎に伴う咳も少なくないようです。
中高齢の方になると、タバコの影響と、これに伴うCOPDが原因であることが増えてきますし、案外逆流性食道炎に伴う咳も少なくありません。
百日咳やマイコプラズマなどの感染後咳嗽間質性肺炎気管支拡張症や結核、非結核性抗酸菌症などの慢性気道感染症薬(特に高血圧の薬)の副作用、それに肺がんなど・・・そしてこれらが複数重なっている場合など、とにかく原因として考えられるものはできるだけすべて頭の中に浮かべ診察、診断をしています。

それでも、全体の2割程度は、どう頑張っても診断にたどり着けないこともあります。

原因が見つからず、よくお話を伺うとプライベートで問題を抱えていらっしゃり、精神的な影響で咳が収まらなかった例もありますが、それさえもなく、私も途方に暮れてしまう例もあります・・・

このような症状では、原因から治療しようとしてもなかなか咳が治りません。
そこで、これらの咳については最近、全く違う視点からアプローチしようという考え方が出てきています。

最近の研究で、「ささいな原因でも、その刺激ですぐに咳が起こってしまいやすく、しかもその咳が長く続いたり繰り返したりして治りにくい」という方たちがいることが分かってきました。
どうもその理由として、その原因となる刺激(花粉などのアレルギー物質の刺激や、タバコ、病原体、煙などの機械的刺激、温度や気候の変化などなど)を感じ取って気道から脳に伝える神経が、知覚過敏を起こしていたり脳の咳中枢が過敏に反応してしまう脳の過敏症があるのではと言われており、これらが「咳過敏症症候群」と名付けられました。

原因を探り当てその治療をしても、これらの神経の過敏症が残ってしまっているために、症状がなかなか改善しなかった、というわけです。

これらの状態に対しては脳に効かせる、いわゆる中枢性鎮咳薬(コデイン、メジコン、アスベリン、アストミン、フスタゾールなど)が多少の効果を示す場合があります。
ただしこれらの薬は、原因が究明できないまま安易に使うと、本来原因が特定できるはずの場合でもその原因を隠してしまい、何度も再発を繰り返すことにつながってしまうケース、また異物や痰、病原体を追い出すために起こっている「必要な咳」まで止めてしまい、かえって症状を悪化させるケースがあり、呼吸器学会のガイドラインでは、安易な使用はできるだけ控えるように推奨されています。

近年の報告では、神経性の痛みの薬や、てんかんの薬抗うつ剤などが神経過敏に効いて咳を改善させるという報告もでています。
実際に当院でもこのような患者さんにこれらの薬を使用したところ、咳が大幅に改善した例があります。

また最近は、気道や脳にある、これらの知覚神経の受容体をブロックする新しい薬も発売が近づいているという情報もあります。味覚障害の副作用も報告されているようであり、やはり安易な使用は慎みたいところですが、なかなか治せない咳の有力な武器になってくれることが期待されています。

咳の治療は、患者さんの症状が非常につらいにもかかわらず、考えられる原因が非常に多く、その推測は簡単ではありません。
そして血圧やコレステロール、血糖などと違い、検査の数値だけで診断したり、経過観察をすることが難しい分野です。
またそのように客観的な数値などで測ることが難しく、症状の良し悪しをデータで把握することが簡単ではないこと、症状が落ち着いているときと悪いときの差が激しかったりすることで、われわれ治療する側も正確に病状を把握することが容易でない場合も多く、咳の診療は一筋縄ではいかない「職人芸」が要求される面が多いと思っています(だからこそ、おそらくしばらくAIに置き換えられることもないでしょう。医学生、研修医の皆さん、ここだけの話、呼吸器内科、面白いですよ。是非オススメです・・・)。

その中でも、徐々に進歩しているこの分野、しっかり最先端の知見についていき、一人でも多くの方のお役にたてればと思っています。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信