医師ブログ

2022.11.09更新

一通りの改装工事から約1か月半が経過しました。
改装工事後のクリニックは、もちろん快適性が大幅に増し、居心地のいい空間にはなっていますが、やはり運用面では工事前には予期していなかったことも多く起き、まだまだ試行錯誤が続いています。


そして改装後はさらに多くの方にお越しいただくようになり、いよいよ深刻なスタッフ不足・・・

運用面でも患者様には多くのご迷惑をお掛けしてしまうことがあります。

ソフト面、ハード面双方でまだまだ当院は改良が必要な状態であり、スタッフ一度頑張って対応いたしますので、今しばらくお待ち頂ければと思います(もし当院の仲間になってお力になっていただける看護師の方医療事務の方がいらっしゃいましたら、是非お力をお貸し下さい!!)


という訳で、すっとバタバタな院長はこの1か月、全くブログに手を付けることができませんでした。
このままズルズル行くと更新が止まってしまいそうだったので、心をオニにして、深夜に記事を書く決心をしました!


最近はどうしてもコロナ関係の記事が多くなっていましたが、やはりここは初心に帰り、当院のキモである「咳」について書いてみたいと思います。

 

以前にもお話しした通り、咳は3週間以内で改善する「急性の咳」と、8週間以上続く「慢性の咳」に大きく分けられます(3週間~8週間はその中間となり、両方の特徴が交じり合います)。
3週間以内で改善する「急性の咳」は、多くが感染症(多くがウイルス、時に細菌)です(もちろん「慢性の咳」の出始めという可能性も否定はできません。しかしその場合は、今回の咳の前にも何かしらの似たようなエピソードがあることがほとんどです)。


そして、当院が一番治療に力を入れている「長引く咳」、つまり「慢性の咳」は、その原因が非常に多岐にわたります。


その中でも一番多いのが、(咳喘息や気管支喘息を含む)「喘息」です。


「長く続く咳」のうち、約7割がこの喘息と言われており、私の外来でも確かに少なくても半分強の方は喘息の要素を持っておられるように感じます。Niimi A et al. Cough Variant and Cough-Predominant Asthma are Major Causes of Persistent  Cough: A Multicenter Study in Japan. J Asthma. 2013 Jul 11.


しかし、思いのほか、他の原因で咳が続くことも少なくありません。

その原因としてすべてを列挙して説明しようとすると、1日かけても説明しきれないので、実際に比較的多く見かける原因について、2つ挙げてみようと思います。

 


まずは、鼻やその後ろの炎症によって鼻水ができ、その鼻水がのどの奥をつたって喉にたまってしまう「後鼻漏」という状態です(実はコロナ後の咳でも、これが原因であることが少なくありません)。
この「後鼻漏」を引き起こす原因として、やはり一番多いのが「アレルギー性鼻炎」となります。
花粉症やハウスダストなどによって引き起こされる鼻炎で、基本的にはさらさらした、水っぽい鼻水が喉の奥に落ちます。

この場合、アレルギー性の炎症性物質を含むため、喉の奥がかゆくなることが少なくありません。


また、いわゆる蓄膿といわれる「副鼻腔炎」も後鼻漏を引き起こします。
副鼻腔炎はその原因によって治療法が変わるため、それを見極めることも必要です。
副鼻腔炎による炎症が起こると、鼻水はドロッとした、色のついた鼻水になることが多いです。


これらによる咳の場合、咳の出方に特徴が出る場合があります。


喘息では、比較的咳がずっと続いていることが少なくないのですが、後鼻漏による咳は、一回出るとしばらく止まらず、咳ができるとピタッとやむというのを繰り返すことが多いです。
流れ落ちた鼻水が一定量たまると咳が出始め、咳によって全て痰が出きると咳がやむとのを繰り返すからと言われています。

そして仰向けで悪化するというのも一つの特徴です。やはり仰向けだと喉の奥に流れ込みやすくなるためだとされています(横を向いて寝ると少し良くなったりします)。

 

 

次によく見られるのが、胃酸が食道に逆流をして、その刺激で咳が出てしまう、「胃・食道逆流」と呼ばれる状態です。


胃酸は結構強い酸です。その胃酸が何かしらの原因で食道に逆流してしまうと、食道にある粘膜を刺激してしまいます。
食道の下部には、迷走神経という神経が分布しており、一方気道にも迷走神経が分布しています。食道の迷走神経が胃酸で刺激されると、反射的に気道の迷走神経も刺激されてしまい咳が出てしまうとされています。

また逆流した胃酸のうち、微量の胃酸が誤嚥されてしまうこともあり、微量ながらも強い胃酸が気管・気管支を刺激して咳を起こすというメカニズムも考えられています。


この咳は、肥満や最近体重が増加した人に多く、また食後や夜横になったときに症状が出やすいとされています。

また喉の押される感じや違和感を感じることが多いのも特徴です。

 

胃カメラで「逆流性食道炎」食道の粘膜の炎症が見られなくても、胃・食道逆流の可能性は否定できないというのがまた我々にとっては悩ましい所です(多少の逆流なら粘膜を傷つける訳ではないのですが、それでも刺激は与えて、咳をきたしてしまう可能性があるからです)。

 

そして、これらの診断をさらに難しくするのが、「喘息」「後鼻漏」「胃・食道逆流」は、お互い被ることがあるということです。

例えばここでもお話しした通り、「アレルギー性鼻炎」は「喘息」と一緒に存在することが少なくありません(どちらもアレルギー性の炎症で、起きる場所が違うだけという考え方です)。
副鼻腔炎でも、アレルギー性の副鼻腔炎では同様のことが考えられます。


「喘息」と「後鼻漏」は、残念ながら相性が良いのです・・・

 

一方「胃・食道逆流」はどうでしょう。


こちらも「喘息」が影響する場合があります。
喘息で咳が止まらなくなった時、その咳はお腹に腹圧をかけます。すると胃が押されてその勢いで胃酸が逆流することがあります。
そして、胃酸の逆流によって咳がでると、更に腹圧をかけてしまい、より多くの胃酸が逆流をして咳が悪化するという悪循環に陥ることもあります。


もちろん「後鼻漏」による咳がきっかけでも同じことは起こります。

 

これら3つは容易に被ることはあります(不幸なことに3つ被ってしまっている例も時々見られます)。

全て見抜いて治療をすることで初めて症状はコントロールできます。
どれか1つでも見逃すと、症状はなかなか良くならないのです。

 

もちろんこれ以外にも私たちが考える原因はタヒぬほど多くあります(他に想定すべき20~30種類以上の病気、その想定される病気の強さ、それぞれの薬が正しく使われているかどうか、それに患者さんの置かれている環境などなど・・・)

それらを見抜くことで、初めて咳の治療は成り立つと、私たちは考えています。

 

とにかくこの時期、長引く咳に悩まれる方はこんなにも多いのかとびっくりします。

受診を希望される方を長くお待たせしてしまっているこの状況は、ただただ申し訳なく思う限りです・・・

受診ご希望の方は、お早めに受診のご予約いただけますよう、よろしくお願い致します!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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