医師ブログ

2021.01.30更新

ややコロナも山を越えてきたのでしょうか。
日々報じられる感染者数も一時期よりは少なくなってきました。
当院でも冬なので発熱や咳で来られる患者さんは相変わらず多いのですが、コロナを強く疑う患者さんの数は減ったように思います。また当院で実際にコロナと診断される患者も、年明けに比べればだいぶ減ってきているようであり、現場の実感としても落ち着きつつあるのかなという印象はあります。

しかし、コロナはやはり重症化が怖い病気です。
新規感染者の数が減ってもまだまだ重症者の数は多いようで、感染が判明してしばらく経ってから重症化するというコロナの恐ろしい面が反映されています。

このコロナに関しては、呼吸困難の自覚のないまま呼吸状態が悪化する「幸せな低酸素血症」“happy hypoxia”という状態が起こることが知られており、感染からしばらく経った後、気づいたときにはかなり呼吸状態が悪くなっていることがあるようです。
この原因としてはまだはっきりとは解明されていませんが、コロナが悪化しやすい高齢者や糖尿病の方は、もともと呼吸調節を行う調節機能が落ちている、呼吸困難を感じる体内のセンサー(頸動脈小体)にコロナウイルスが感染しやすく、そこのセンサーの機能が落ちることで呼吸困難を感じにくくなる、などの理由が考えられているようです。Martin J Tobin, et al. Why COVID-19 Silent Hypoxemia Is Baffling to Physicians. Am J Respir Crit Care Med. 2020;202:356-60.
現在軽症感染者さんの主な療養場所も自宅やホテルとなっており、ただの風邪症状の方もコロナである可能性が否定できない以上、家でも早期に呼吸状態の悪化を見落とさないようにする必要があると思われます。

そこで最近注目されているのがパルスオキシメータです(当院も今後の診療能力向上のために、今年からちょっとイイやつを新たに導入しました)。


これは日本語で「経皮的動脈血酸素飽和度測定器」といって、皮膚の上から光を当て、動脈血の「赤み」を測定する機械です(ちなみにこの機械が開発されたのは日本なんです!)。


使い方は、クリップになっている部分を開き、指を挟み、爪の部分が発光部にあたるように奥まで差し込むだけです。

パルスオキシメータの使用方法

血液が赤いのは、赤血球に含まれている「ヘモグロビン」という色素のためです。このヘモグロビンは酸素とくっつく性質を持っています。

肺で取り込んだ酸素は、肺に流れこんでくる血液の中のヘモグロビンとくっついて心臓に戻り、そして全身へと運ばれます(血液の液体の中にも溶け込みますが、溶け込んだ酸素はほぼ組織には運ばれず、液体の中にただよったままです)。
このヘモグロビン、酸素とくっつくと赤くなり酸素から離れると黒くなるという性質を持っています。
すると、肺で酸素をため込み心臓から飛び出したばかりの新鮮な血液(つまり動脈血)は色が赤々としていますが全身に酸素を配り終えた後の血液(つまり静脈血)は黒めの色となります
皆さんが血液検査で血を採られると、意外に血が黒いと思われる人が多いですが、これはすでに全身に血液を配り終えた静脈血を採取しているからです。

そして、パルスオキシメータは先ほどお話ししたように動脈血の赤みを測定するため、肺から酸素をしっかり取り込めているかを測ることができるというわけです。
パルスオキシメータで測る数値を、動脈血酸素飽和度(SpO2)と呼びます。
これは血中のヘモグロビンのうち、何%のヘモグロビンが酸素と結合しているかを示しています。ですので最大値は100%になります。

パルスオキシメータの原理
そして血液中に含まれている酸素(これを酸素分圧と呼びます)と、酸素飽和度(SpO2)の関係は以下のグラフのようになります(これを酸素解離曲線と呼びます)。

酸素解離曲線

上の表でもわかる通り、通常若い方の血液中の酸素分圧は95mmHg程度で、これは酸素飽和度(SpO2)でいうと98%に相当します。
また高齢者では酸素分圧80mmHg程度で、これはSpO2 95%に相当します。
機械の誤差を含め、95~99%であればあまり大きな問題はありません(100%だと時によっては過呼吸など、呼吸が多すぎることを疑います)。
そして、我々医師は通常、肺や心臓に慢性的な病気がない方の場合、SpO2が93%程度になると焦り始め90%を切ると慌てます。これは酸素分圧60mmHgに相当し、これを下回ると呼吸不全とされます。
グラフもここを下回ると急になり、急激にSpO2が低下していき、いろんな臓器が十分な酸素を受け取れなくなってくるため危険な状態へとなっていきます。通常の場合では呼吸不全、つまり酸素分圧60mmHg、つまりSpO2 90%を下回る場合には、酸素療法や、場合によっては人工呼吸器療法によって酸素分圧を上げる必要がでてきます。
この治療の目安が指に機械を挟むだけでわかってしまうのです。

というわけで、痛みなく簡単に体内の酸素の状態が分かってしまうスゴい機械、パルスオキシメータですが、使うには実はいろいろな注意点があり、使用を安易に考えると、時に問題を生じることが出てきます。長くなりそうなのでこの続きはまた次回。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

2021.01.17更新

年が明け、1月7日からまたここ神奈川にも緊急事態宣言が発令されました。
当院でも発熱外来を行っていますが、年が明けてからはやはり発熱や咳症状の患者さんが増えてきている実感があります。新型コロナの診断となる方の数も増えてきており、茅ヶ崎でも拡がっていることをひしひしと感じます。

しかし、病気はコロナだけではありません。このようなご時世でも、治療を続けなければならない多くの病気の治療を止めてしまうことは好ましくありません。

それは当院が治療に力を入れている喘息でも同じです。
喘息は油断して治療を止めてしまうと、いずれまた悪化してしまいます。そのため平時でも、症状がよくなったからといってもやめないで、適切に治療を続けてもらうことが必要な病気です。

 

それをふまえた上で、今回は喘息と新型コロナについて、前回の記事からいろいろとわかってきたことも増えたので、そこについて触れてみたいと思います。

 

喘息と新型コロナについては、前回は昨年4月にブログに記事を書きましたが、その後いろいろと新しいデータ、知見が出てきています。

その中でも、やはり喘息を患っていることと新型コロナが重症化してしまうことにはあまり関連がなさそうなデータがいくつも出ているようです。Chhiba KD et al. J Allergy Clin Immunol. 2020; 146: 307-14.

それ以上に、どうも新型コロナに感染した人の中には、喘息を持っている人が割合少なく、喘息の方はむしろ新型コロナにかかりにくい(もしくはかかっても重症化しないために見つけられない率が高い)可能性も考えられています。Matsumoto K et al. J Allergy Clin Immunol 2020; 146: 55–57.

 

それにはどうもいくつかの理由があるようです。

一つは喘息の方が起こすアレルギー反応がむしろ役に立っているという仮説です。
新型コロナウイルスはACE2という受容体を足掛かりに体内に入ってきますが(こちらの記事をご参照ください)、このACE2受容体がどうも喘息などのアレルギー反応を起こしやすい人だと減っているようなのです。Jackson DJ, et al.J Allergy Clin Immunol. 2020 Jul; 146(1):203-206.e3
そのためウイルスの足掛かりが少なくなり、ウイルスが体内に入ってきにくくなるのではといわれています。
ちなみに喫煙は逆にこのACE2受容体を大きく増やす作用を持っているとされており、喫煙はやはり新型コロナの重症化の大きな要因になるだろうと考えられます。
コロナが怖ければタバコは止めましょう。

 

またいくつかのデータでは、喘息でちゃんと治療を行っている人の方が、そうでない人よりも重症化しにくいことも示唆されています。Eur Respir J. 2020 Dec 17;2003142. doi: 10.1183/13993003.03142-2020.

喘息治療で用いる吸入ステロイドは、気管支の炎症を抑え、空気の通り道を広げる作用を持ちます。
新型コロナに感染し重症化すると、肺へ空気が入りにくくなってしまいます。一度潰れた肺胞は再度膨らむことが難しくなり(一度完全にしぼんだ風船をがんばって膨らます状態と一緒ですね)、このことがより肺の状態を悪くしてしまいますが、吸入ステロイドはこれに対し効果を示すのかもしれません。

また吸入ステロイドは気道のACE2受容体(さきほど出た、新型コロナウイルス侵入の足掛かりでしたよね)を減らしてくれるという研究も示されており、ウイルスの侵入経路を減らす効果があるかもしれません。

具体的なデータはまだ出てはいませんが、普段から吸入ステロイドをしっかり使っていることで、新型コロナに感染しづらくなったり、感染したときに重症化を抑えたりできる可能性があります(ただ以前話題になったオルベスコという吸入ステロイドは、すでになってしまった新型コロナにかかってしまった後の治療という面では、現時点では有効性を示せなかったというデータが出ています。とはいえ死亡率や重症化率も上げることはなかったとのことであり、この結果の解釈はまだ難しいところです。いずれにせよ安易な自己判断での治療開始、治療中止は避けるべきでしょう

 

また内服薬に関しても、モンテルカスト(キプレス®やシングレア®という商品名です)が高齢者において、内服していた人の方がそうでない人より新型コロナ感染率、重症化率が低かったというデータもでているようです。Khan A, et al. Montelukast in hospitalized patients diagnosed with COVID-19. 2020. doi:10.21203/rs.3.rs-52430/v1.

 

これらから、喘息の人はやはり必要以上に新型コロナを恐れる必要はなく、今まで通りしっかりと治療を続けるのが一番だということが言えそうです。
そしてしっかりと通院を続けて薬を正しく使い続けることが、結局は新型コロナから自分の身を守ることになるということが言えると思います。

 

またこれからは春に向けてスギ花粉のシーズンが始まります。喘息の症状が悪化しやすい時期にも入ってきます。

なにより喘息の悪化による咳と新型コロナによる咳は、私たち専門医でもすぐには簡単に見極めることができません。
この時期、咳が続くとなにより患者さん自身が不安になり、日常生活を送る上での妨げとなってしまいます。

せっかくいい治療法がある現在、喘息患者さんには、感染対策がしっかりとられている信頼できる主治医のもとで、しっかりと吸入、内服治療を続けていただきたいと切に願っております。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信