医師ブログ

2023.10.29更新

9月まではあんなに暑かったのに、急に季節が進んだような感じです。
半袖シャツ1枚でアチーアチー言っていたのに、たった2週間くらいでブルっと来る日も増えました。

そんな中、私はというと、昔から温度変化には強いのですが、衣替えがとにかく苦手で・・・(雪の日も短パンで過ごしていた小学生でした)

毎年、ギリギリまで冬物は出しません、出せません。
ということで未だにTシャツ1枚で過ごしております(笑)

という訳で、「おまいうw」ではあるのですが、皆さん体調を崩さないように、しっかりと温度変化に応じてしっかりと服装調節をして、体調管理にお気を付けください。

 


さて、やはりこの温度変化で、体調を崩される人も増えています。
特に10月に入ってからは、この急激な温度変化でやられて、ずっと落ち着いていたのに崩れてしまう喘息の方が非常に多いです。
また、秋のアレルギー症状の悪化も相まって、発作治療をしてもなかなか良くならない方もちらほらいらっしゃいます。

通常、喘息の治療はステロイドの吸入薬がベースとなり、そこにアレルギー反応を抑える薬、気管支を広げる薬、痰の分泌を抑える薬などを適宜加えて治療をするというのが基本パターンです。

 

この治療を行って症状が完全になくなっていればOKなのですが、残念ながらそのように簡単にはいかないことが少なくないのも喘息の難しさです。

 

この場合、まずは治療をしっかり欠かさず行っているか治療薬(特に吸入薬)がしっかり正しく使えているかを確認します。
それと合わせて、本当に喘息という診断が正しいのか、喘息の他に何か要因が隠れていないか、(環境や喫煙、仕事などで)喘息を悪化させる要因が残されていないか、を丹念に調べ上げています。

 

ここまですると、大方の方は何かしらの要因が見つかって、改善に導くことができるようになるのですが、やはり中には本物の重症の喘息で、これらの治療をいくら頑張っても症状がコントロールできない方がいらっしゃるのも事実です。

そのような場合、以前なら飲み薬のステロイドという薬剤を使って(吸入ステロイドとは全く別物です!)、体全体で起こっている行き過ぎた免疫反応を抑えるという治療をしていたのですが、この治療はご存じの方も多くいらっしゃる通り、長く続けていると副作用が非常に多く出る治療法でした。

 

そんな中、ここ10年あまりで、新しい喘息の治療法が出てくることになりました。
以前から何度かこのブログでも触れている「生物学的製剤」というやつです。

 

「生物学的製剤」ってまた難しい言葉が出てきてしまいましたが、これは簡単に言うと、化学的に(つまり人工的に)作り出したものではなく、もともと生物が持っている成分をちょっと作り替えたりして、それを増やして薬にしたものです。

喘息で使用する生物学的製剤は、「抗体」という成分を使っています。
「抗体」は、いろんな刺激によって放出され、そのあと体の中のある特定の部分にくっついて、その作用をじゃまする、いわゆる「飛び道具」です。

喘息は、体の中でいろんな反応が起こることで出てきます。
そして、その反応それぞれに作用する「抗体」も体の中には存在します。

喘息の生物学的製剤は、この中で「使える」抗体を特定し、遺伝子組み換え技術などを使ってそのような「抗体」を大量に増やすことで薬にしたものなのです。

 

さて現在、喘息に対して使える生物学的製剤5つあります。

この5つはそれぞれ、先ほど挙げた喘息発症の原因となる反応の、それぞれ特定の部分を抗体を用いてブロックすることで、喘息をコントロールしようとします。

それぞれどのような薬なの?どんなところをブロックするの?ということを理解するには、まずは喘息って体の中でどんな反応が起きてるの?ってことが理解できていないと難しいのです。

ですが、この反応ってのが、また超複雑でややこしい・・・
アレルギー学のことが好きな人でも理解するのには労力がかかり、アレルギー学のことが嫌いな人は、これを見るだけでアレルギーが出る、という難解さです。


そこでこれを、極力端折って、なるべくわかりやすく図にまとめてみました(めちゃめちゃはしょってるので、少し不正確な部分もあるかもしれませんが、このブログでは、あくまでわかりやすさを最優先にしていますので、専門の方々の愛のツッコミは是非ともご容赦ください・・・)。

喘息カスケード 


喘息は、気管支が、アレルゲン感染症、その他の様々な刺激に暴露されることでその反応が始まります。

刺激に暴露された気管支の細胞は、その刺激の元となった敵を排除するために、周りに「お知らせ物質」を放出します。
これを「サイトカイン」と呼びます。

この『お知らせ物質(サイトカイン)』の一つが「TSLP」という物質です。

その「TSLP」が放出されると、自然リンパ球という細胞を目覚めさせて、「好酸球」という細胞を増やすように指示させます。
その指示には「IL(インターロイキン)-5」というサイトカインが使われ、IL-5は、好酸球の上にある「IL-5受容体」にくっついて好酸球を活性化させるように働きます。

「好酸球」炎症を起こす白血球の一種で、これが増えると気管支の壁がむくんで気管支が狭くなったり、敏感になったり、痰が増えたりして、いわゆる喘息の症状を引き起こします。
喘息の起こり方

さて、「TSLP」に話を戻しましょう。
「TSLP」は他にも、全く違うところでも働きます。




『TSLP』樹状細胞」という細胞に仕事をさせるように促します。
「樹状細胞」は、侵入した敵
(ここではアレルギー反応の原因となる「アレルゲン」)の情報を解析する役割が

すると、お尻を叩かれた「樹状細胞」から多くの敵情報を受けた「ヘルパーT細胞」が、「B細胞」に、その敵情報に合った飛び道具(つまり「抗体」です)を作るように指示を送ります。
その指示として使われるサイトカイン「IL-4」「IL-13」という物質です。

「B細胞」は、この指示を受けて、入ってきた敵情報にピッタリ合わせた「IgE」という抗体を作り出します。
抗体
は本来、敵を排除する武器ですが、「IgE」はいわゆる「おバカ抗体」で、この後アレルギー反応を引き起こします(おバカ抗体についてのお話はこちらそのため「IgE」はアレルギーの検査項目としてよく使われます。「スギIgE」とか、「ハウスダストIgE」とかが採血で上がっていると、アレルギーを持っている可能性が高まると言えるわけです。IgE検査について詳しくはこちらからも)。

そして、IgE「マスト細胞」にくっつき、そこにアレルゲンがくっつくと、
マスト細胞の中から「ヒスタミン」とか「ロイコトリエン」とかと言った、アレルギー炎症を引き起こす物質がぶっ放され、喘息の症状を引き起こします。

喘息の起こり方

 

主な反応をかなり端折って話すと以上の通りなのですが、この他にも

ヘルパーT細胞そのものも「IL-5」を出したり、
ヘルパーT細胞自然リンパ球から出される「IL-13」が直接、気管支上皮の細胞や、その周りを取り囲む「平滑筋」という筋肉に働きかけて気道を狭くするなど、喘息の症状を悪くする方向に働いたりと、

まあとにかく免疫細胞と各種のサイトカインは、複雑に絡み合って喘息の反応を起こしているのです。

 喘息の起こり方

この複雑な経路が大体理解できたところで、喘息の生物学的製剤はどこに効いて、どういう特徴を持っているのかを、ようやく説明できるようになりました。

が、もう疲れました。今は1時です。眠いです。
というわけで、今世の中にある、5種類の生物学的製剤のそれぞれの特徴は、またハイになったら書いてみようかと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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