医師ブログ

2024.09.29更新

暑かった夏もようやく終わりに向かっているようで、朝晩は涼しくなる日もだいぶ増えてきました。

過ごしやすくなったのはいいのですが、我々呼吸器内科医にとっては、例年これからの季節がホントに忙しくなるシーズンです・・・。

前回のブログでもお話をしたように、この時期は台風の来襲や気候の変化による咳の悪化が増えますし、何より寒くなってくると、様々な感染症が流行りはじめ、またこれがきっかけとなり咳が悪化するケースが増えてしまうのです・・・

とはいえ呼吸器内科としては本来閑散期だったはずの今年の春、夏も、咳や痰などの方がずーっと途切れることなくいらっしゃった当院、今後新たにいらっしゃる咳の方、それに咳が悪化したおかかりつけの方に、本来の呼吸器内科のトップシーズンである秋、冬に向けて、どのように患者様にとってストレスの少ない診療機会をご用意しようか、夜も休みもずーっと考える日々です(そういや最近、夢でもそんな内容をずっと見ています。起きた瞬間に夢で思いついたアイデアを忘れる前にリマインダーアプリに書き込んで、アプリ内のアイデアがどんどん増えていっています。いくつかすでに実行に移しているものも。自分で言うのもなんですが、おいらやっぱ頭ちょっとおかしいかもw)


以前のブログでもすでにお知らせをさせて頂いておりますが、当院では9月より新しい手数料不要の医療費あと払いシステム「クロンスマートパス」を導入しております。

診察終了後、速やかにお帰り頂ける医療費あと払いシステムに加え、お待ちいただく際にLINEでお呼びするまで外出してお待ちいただける「LINE呼び出しシステム」もご用意して、極力患者様が院内でお待ちいただく必要がないシステムを構築し、一人でも多くの患者様にストレスの少ない来院、診療の機会を提供できるように頑張っております。


とはいえやはり、「症状が悪化しない、皆さん安定している」ことが、もちろん患者様にとっても、そして私たちにとっても一番です。

風邪などの感染症がその悪化の一大要因である以上、やはりこれからの時期、「感染対策」がとっても大事になってくるのです。


2024年の今年は、秋からインフルエンザ、コロナの定期接種が始まります。

当院でも10月中旬から接種を開始する予定です。
当院の接種体制については、こちらのページをご参照ください!

コロナワクチンは、昨年までは主にファイザー社製「コミナティ」、モデルナ社製「スパイクバックス」mRNAワクチンが用いられてきました(世間では「コミナティ」「スパイクバックス」という名前はあまり知られていないので、ここから先はわかりやすく、世間で呼ばれているように、「ファイザー」「モデルナ」と呼んでしまうことにしましょう

※mRNAワクチンの仕組みなどについてはこちら!

今年は、扱えるワクチンが増えて、5種類のワクチンが扱えることになりました。

そして当院では今年、従来のファイザーに加え、新たに武田薬品から発売される「ヌバキソビッド」という名前のワクチンを扱うことにいたしました。

今回はその新しい「ヌバキソビッド」について少しお話してみようと思います。


「ヌバキソビッド」ってどんなワクチン?

ってか、またインパクトの強い、覚えにくい名前のワクチンが出てきましたね・・・
いったいこのワクチン、何者なのでしょうか・・・?


「ヌバキソビッド」は、現在日本で使用できるコロナワクチンの中で、唯一「mRNA」を用いないワクチンです。

ワクチンの種類としては「組み換えタンパクワクチン」と呼ばれるものです。

実はこのワクチンは2年前からノババックス社から発売されていたワクチンとして、(細々とですが)すでに使用されていたものです。

今回武田薬品がノババックスから技術移管を受けて、国内で製造したワクチンになります。

接種の方法はファイザー、モデルナと同じく筋肉注射で、過去にコロナワクチン(どの種類でも)を接種されている方は、前回の接種から6ヵ月以上空けて1回、一度もコロナワクチンを接種した事がない方は、1回目の接種後4週間空けて2回目の接種をすることとなっています。

 

「組み換えタンパクワクチン」とは?

今回用いられている「組み換えタンパクワクチン」というのはどのような仕組みでしょうか?

「組み換えタンパクワクチン」は、ウイルス自体を使用せずに、ウイルスの一部だけを人工的に作り出して、それをワクチンとして利用する方法です。

コロナウイルスは、こちらでもお話をしたように、ウイルスの表面にある「スパイクタンパク」が免疫反応の時の標的になります。

まずこのスパイクタンパクを作るための遺伝子情報を動物の細胞に組み込み(=組み換え)ます。
するとこの細胞が「組み換えた」遺伝子情報を利用して、スパイクタンパクを作り出します(なので「組み換えタンパクワクチン」という名前がついているのです)。

細胞が作ったスパイクタンパクを集め、不純物を取り除き、そこに免疫を起こさせやすくする仕組みを加えて(これをアジュバント」と言います)ワクチンにしていきます。

「アジュバント」を入れることによって免疫系がより強い反応を起こし、長期的な免疫記憶が作られやすくなります。

組み換えタンパクワクチン


「組み換えタンパクワクチン」のメリットは?

ワクチンにはこの「タンパク組み換えワクチン」、従来のコロナワクチンである「mRNAワクチン」のほかに、弱らせた病原体をそのまま使用する「生ワクチン」病原体そのものを利用するものの、その病原体に感染力や病原性を持たせないように処理をして使用する「不活化ワクチン」などがあります。

そのなかで、「組み換えタンパクワクチン」は、ウイルス自体を使用しないために、非常に安全性が高いというメリットがあります。

また、「mRNAワクチン」は今回のコロナワクチンで初めて実用化された技術ですが、「組み換えタンパクワクチン」は、B型肝炎ワクチン、子宮頸がんワクチンなどですでに以前から実用化されていた技術で、作る際のノウハウがしっかりしている、効果や副反応の傾向が読みやすいというメリットもあります。


副反応も、mRNAワクチンと比べてやや少ないのではと言われています。

直接比較をしたデータではないので参考程度にはなるのですが(カッコ内はファイザー製「コミナティ」のデータ)、注射部位の痛みが61.5%(85.6%)、頭痛50.1%(59.4%),筋肉痛50.7%(39.1%)で発熱は10%未満(16.8%)と、筋肉痛はやや多いものの、発熱などの副作用はやや軽そうな印象を受けます。

海外で2021~2022年に行われた臨床試験(2019nCoV-301試験)では、初回接種の18歳以上の方でワクチン接種がコロナの発症を90%抑え(つまり発症を1/10にし)、日本人の試験でも初回接種(TAK-019-1501試験)、追加接種(TAK-019-3001試験)いずれも中和抗体を大きく増加させるという、有効な結果が出ています。

ただ、追加接種の発症予防効果、重症化予防効果のデータが少ないのは気がかりなのですが・・・。


で、どっちを打ったらいいの?

さて、そうすると今までのファイザー、モデルナのワクチンと、武田のワクチン「ヌバキソビッド」、どっちを打った方がいいのでしょうか?

その差は大きなものではないのですが、やはりデータの多さはファイザー、モデルナに軍配が挙がります。

例えばファイザーでは、昨年のXBB1.5株に対応したワクチン接種をしたことによって、昨年9~11月のXBB株流行期入院を60%、コロナでの外来受診の頻度を35%減らしたデータが出ています。
また最新データである今年1月のJN.1株(今回のワクチンの基になった株です)流行期(つまりXBB株からすでに変異してしまったタイミングだったですが)でも、入院を35%、コロナの外来受診を25%減らしたというデータも出ています。

このように、ファイザー(それにモデルナ)は、やはり効果、副反応のデータが蓄積されており、豊富であることが、いちばんの強みです。


対して「ヌバキソビッド」も有効なデータはしっかりとあるのですが、実際の予防効果を示すデータの元がやや古く、現在流行している変異株に対するデータが少ないことは多少の弱みかもしれません。

そのような点からは、今までファイザー、モデルナといった「mRNAワクチン」を接種し、大きな問題が起きなかった方は、基本的に今回もファイザー、モデルナを選択されるとよいのかなと思います。


では、ヌバキソビッドを選ぶ場面は?

ただ、「ヌバキソビッド」はファイザー、モデルナよりも総じて副反応の頻度が少ないと考えられています。

また仕組みも全く違うため、ファイザーやモデルナで副反応が出た方も、ヌバキソビッドでは副反応が余り出ない可能性もあり得ます(もちろんその逆もありえますが・・・)


いままでファイザーモデルナなどで、高熱や激しい倦怠感など、強い副反応が出た方や、接種はしたかったもののそんな話を聞いて不安になり、今まで接種できていなかった方にとっては、「ヌバキソビッド」は良い選択肢になるかもしれません。

また「mRNAワクチン」ではなく、先ほどもお話ししたようにすでに他のワクチンで使われている「組み換えタンパクワクチン」であることから、(その根拠はともかく)何となくmRNAワクチンに不安を抱いている方にも有力な選択肢になるかと思います。


どっちを選んでも決定的な違いはないのですが、これらを判断材料に、納得いかれる方を選んでください!


さいごに・・・

今後の秋からのコロナワクチン接種開始に先立って。

最近はコロナワクチンの話題となると、(だいたいWeb上なのですが)何だか論争めいた雰囲気になることが少なくありません(自分が巻き込まれたわけではないのですが、なんだか見てるだけで疲れます・・・)。


もちろんコロナワクチンを含め、すべての薬剤に100%の安全はなく、コロナワクチンで大変な思いをした方がいらっしゃるのも事実です。

一方こちらはパッと見では見えにくいのですが、実際はコロナワクチンで助かった人が少なからずいることも、客観的にデータを読めば明らかなのです。

ただ今回からは自費接種ともなり、今後のコロナワクチン接種については、その経済的負担も無視はできません。


それらを踏まえて、「打つ」、「打たない」は皆さん一人ひとりがよく考えて、自らの意思で決めて頂きたいのです。

そしてぜひともワクチンを「打つ」と考える方、「打たない」と考える方が、それぞれ相手の立場を尊重して(もちろん大多数の方がすでにそうなのですが)、お互いが不安や嫌な気持ちに陥らないように、みんなが配慮できる世の中であってほしいなと、切に願っています。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.09.16更新

この夏も日本列島には台風が近づいてきました。

8月にやってきた台風10号のゆっくり、そして定まらない進路に、やきもきされた方も少なくなかったかと思います。

台風

そして、やはりと言うか、その10号が過ぎ去った頃から、「台風のタイミングで咳が止まらなくなった・・・」「喘息が悪化してしまった・・・」という方の問い合わせが、目に見えて増えてきました。

喘息
そして、本当の意味での台風シーズンは9月、10月のこれからです・・・

「台風が来ると、喘息が悪くなるんだよ・・・(ToT)」という方、実に多いです。
このような方には、これからしばらくは試練のシーズンとなります・・・


では、なんで台風が近づくと喘息の調子って悪くなるの?
そして、今からどんな対策をとったらいいの?

そんな疑問にお答えするべく、今回は、来たるべき台風シーズンに向けて「台風と喘息の関係」について、少し深く考えてみようかなと思います!

 


ところで、そもそも、台風が近づくと、本当に喘息は悪化するのでしょうか?それとも気のせい??

これに関しての答えは、「確かに台風で悪化はするが、この時期の喘息悪化は、それ以外の要素もあるかもしれない」と言えるかと思います。


そもそも、喘息は9月から10月にかけての秋口に悪化するというのは良く知られています。
その原因としては、以下の要因が考えられています。

気温の変化

寒い

喘息は、気管支が急な環境の変化にさらされると悪化してしまう病気です。
そして、気管支は温度の変化に対してとても敏感です。

喘息が悪化して病院を受診した方たちのデータで、前の日に比べて3℃以上温度が低下したり、過去5時間で3℃以上温度が低下したりすると症状が悪化しやすくなるということがわかっています。村山貢司. 気象の動態と気管支喘息症状 アレルギーの領域. 1998; 5: 574-580.

急激な気温の変化は、自律神経の変化をきたしたり、冷気そのものが気管支の刺激になったりして、気管支を狭めて炎症を起こしてしまうのです。


湿度の低下

乾燥

秋になると夏のジメジメした空気から、徐々に秋のカラっとした乾燥した空気に入れ替わってきます。
気持ちいい空気なのですが、喘息の気管支は乾燥した空気がニガテです・・・

乾燥した空気を吸うと、気管支の細胞の中から水分が引っ張り出され、そのことが刺激になり炎症が起きてしまうのです。


ダニの影響

ハウスダスト

 

ダニは春から夏にかけてどんどん増殖しますが、秋になると徐々に死んでしまいます。
ダニが死んでしまうとその死骸は乾燥して軽くなり、空気中に舞い上がりやすくなってしまいます。
ダニのアレルギーは、その死骸を吸うことで症状が起きてしまうので、秋はダニのアレルギー症状が起きやすくなってしまうのです。

秋のウイルス

ウイルス

他にも秋から流行し始めるライノウイルス、その後流行るRSウイルス秋の流行ウイルスと知られており、この感染をきっかけに喘息が悪化するケースも増えてしまいます。

 

というわけで、そもそも台風が多くやってくる秋は、もともと喘息が悪くなりやすい季節でもあるのです。


では一方、台風との直接の関係はないのでしょうか?

 

気圧の低下と喘息は関係ない?

まずよく言われるのが、「気圧」との関係です。
気圧が下がると喘息が悪化するとよく言われています。

ただ気圧の低下だけでは、喘息の悪化はうまく説明できません。

例えば、高度が100m上がると、気圧は10ヘクトパスカル程度低下すると言われています。
横浜のランドマークタワーは高さ300mなので、上の展望台に登ると気圧が30ヘクトパスカル低下します。
地上の気圧が1010ヘクトパスカルだと、ランドマークタワーの展望室は980ヘクトパスカルになります。

そして、高尾山(標高約600m)に登ろうものなら、その頂上の気圧は950ヘクトパスカルです。

山登り

それってすでに強烈な台風の中心気圧ですよね。

それでもランドマークタワーで展望台にエレベーターで行った人、高尾山に登山をした人たちが喘息でバタバタ倒れるという話は聞きません。

気圧の低下そのもの「だけ」が原因となっているというのは、やや説明しにくいのです。

実際、喘息増悪で救急受診をした方の数と、その時の気象の状況の関係をしらべたデータでは、温度と湿度はやはり大きな影響があったものの、気圧の低下による影響は大きくなく、むしろ気圧の上昇の方が影響が大きかったというデータも出ているのですThe Journal of the Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine 1978; 42:1-13.


では、本当に喘息と台風は本当に関係ないのか?

でも、実際現場で診療に当たっていても、明らかに台風で喘息が悪化する方は少なくありません。
それはこの前の台風10号の時も同様でした。

この時はまだまだ空気は暑く、ジンメリとしており、とてもとても秋の空気ではありませんでした。
台風が近づいたり、やってきたその間も気温は急に下がることなく、ずーっと蒸し暑い状態でした。

まあ、ダニはいるでしょうが、それは台風より前とそう大きく状況は変わりませんね。


ということで、やはり「秋」というだけでは、説明がつかないのです。

そして、実際に「やはり台風と喘息の関係はある!」ということを示すことができる知見もあるのです。


台風で花粉症が悪化する!?

例えば、ある大学で定期的に診察を受けていた喘息患者58人のうち、17人が台風シーズンに悪化しました。
その人たちのスギ、ヒノキのIgE(いわゆる「アレルギー反応を起こす“バカ抗体”」)の数値が、その間悪化しなかった人よりも高かったことがわかりました。Association between typhoon and asthma symptoms in Japan. Respir Investig. 54: 216-9, 2016

スギ、ヒノキアレルギーのある人が台風で喘息が悪化しやすいのです。

でも、なぜ、台風と花粉が関係するのでしょうか?

実は、台風などによる嵐が起こると、湿度と雨風の衝撃によって花粉が膨張、破裂し、細かくなって「マイクロ花粉」となってしまうことで、より細い気管支の奥まで吸い込みやすくなってしまって喘息が悪化してしまうことが知られています(最近はこれらを「雷雨喘息」と呼ぶようです)。
「マイクロ花粉」は嵐のあとにも残っており台風一過の天気回復、吹き返しの風などでより空気中に飛び散りやすくなることで台風通過後にさらに暴露されるリスクが高まります。

台風喘息

台風の通過時、通過した後に喘息が悪化する理由の一つがこの「雷雨喘息」であると言えそうです。


台風になるとカビが舞う

台風喘息

また、2022年の報告では、台風による洪水と呼吸器症状の悪化の関係も指摘されており、都市部に水があふれることで下水道や排水溝に氾濫が起き、その結果そこにいるカビが増殖、まき散らされる可能性が指摘されました。Alexandra M. Peirce, et al. Climate Change Related Catastrophic Rainfall Events and Non-Communicable Respiratory Disease: A Systematic Review of the Literature. Climate 2022, 10(7), 101


また同時に、高温多湿の部屋の環境は、カビの増殖にとって好都合となり、Rorie, A.; Poole, J.A. The Role of Extreme Weather and Climate-Related Events on Asthma Outcomes. Immunol. Allergy Clin. N. Am. 2021, 41, 73–84. 台風による温かくて湿った空気の入り込みがカビの増殖を促し、喘息を悪化させるシナリオも考えられます。

 

「気象病」からも考えてみる

気象病

また「気象病」の観点からも考えなくてはなりません。

台風や低気圧は、喘息だけでなく、「頭痛」や「肩こり」、「めまい」、「関節痛」、「気分の落ち込み」など、様々な症状を引き起こします。

この原因は正直まだよくわかってはいないところも多いのですが、気温や気圧による自律神経のバランスが崩れるときに起きやすいと言われています。

その中でも、気圧の「変動のタイミング」が、ひとつの要因になっているのではという報告があります。

通常大気は、昼間に暖められたり、月の潮汐力によったりして、1日2回気圧の上下を繰り返しています(これを「大気潮汐」と呼びます)。
そして、低気圧が近づくと、この「大気潮汐」が大きくなるのです。

一方、低気圧が近づくと、気圧が数分から数十分の波で変化することが分かっています(これを「微気圧変動」といいます)。
低気圧が近づくと、これが1日に数回起こります。

人間は気圧の一定の変化に常に対応しながら生きているのですが、どうもこの「大気潮汐」「微気圧変動」が重なって、いつもの気圧変動との「ズレ」が起こったときに、体調の悪化を訴える方が増えるようなのです。日本医事新報 (5172): 34-39, 2023. 

そして、この気圧の敏感さは人それぞれで、そのために低気圧による影響も、やはり人それぞれになるのです。


台風が来ることの不安感も悪化の要因

台風喘息

また、喘息はメンタルも影響されると言われています。
不安やストレスが喘息の悪化に影響することは、良く知られた事実です。

台風のタイミングで喘息が悪化した経験をお持ちの方は、はるかかなたに台風が発生した時も、その事実によって不安な気持ちが大きくなり、喘息が悪くなってしまうことも当然ながら起きてしまうのです。



台風に負けないためには、結局は普段からのコントロール!

という訳で、「台風が喘息を悪化させる要因」を考えると、思いのほか複雑な要因があるんだなというのがお分かりいただけたかと思います。

ただ、共通して言えるのが「普段から喘息の調子が思わしくない方」「症状が不安定な方」が、やはり台風で喘息が悪化しやすくなってしまうということです。

普段、症状が良いからと、治療を止めてしまったり(残念ながら「症状が落ち着いたら治療を止めてください」と医師に言われてしまって、医師に言われた通りにしたがために悪化してしまう例も少なくないようなのですが・・・)、治療が弱すぎたり、また吸入薬がうまく使えずに十分に薬が届かないために不安定になったりすることで、台風、低気圧によって喘息が悪化してしまうリスクは残念ながら大きくなってしまいます。

喘息は一度悪化すると、改善するにも時間と労力、忍耐が必要となってしまうことも少なくありません。

喘息をお持ちの方は、ぜひ台風が襲ってくる前に、しっかりと喘息に詳しい医師のアドバイスのもとで万全の備えをしておきましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.09.01更新

昨日は茅ヶ崎でも豪雨が降り、至る所で冠水していました。

いろんな仕事が全く終わらず、私は夜までクリニックに残って残業でしたが、豪雨の時間帯は排水口からコポコポ音が止まらず、いつ大逆流を起こすか、ヒヤヒヤでした・・・
幸いその後雨が弱くなり、音も収まったのでホッとしましたが、いつ起こるかわからない災害、いつ起きても対応できるように備えておくことは必要ですね。


さて、最近も発熱・感染症外来は残念ながら大盛況です・・・

コロナ、インフルエンザは落ち着きつつありますが、今年の夏は溶連菌やRSウイルス、手足口病など、いろいろな感染症が見られるのが特徴なようです。

そして、最近急激に増えているのがマイコプラズマ感染症です。

そういやなんか「マイコプラズマ」ってすごい名前じゃないですか?
何となく「プラズマ」が「ビビビッ」って出てきそうな・・・(笑)
プラズマ

肺炎なのに体力がそれほど落ちず、マスコミでも最近「歩く肺炎」として話題になっていますが、やはり世の中の皆さんに詳しく知られているものではないようです。

そこで今回は、マイコプラズマについて、そしてその対策について、少し詳しくお話ししてみようと思います。


マイコプラズマはいったい何者?

マイコプラズマは、細菌の一種でありながら、他の細菌とは異なる特徴を持っている菌です。

例えば、一般的な細菌には「細胞壁」という構造があるのですが、マイコプラズマにはそれがありません。

細菌をやっつけるのには通常「抗菌薬」を使います(巷では「抗生物質」とか、「抗生剤」とかと言われやすいものですが、厳密には正確ではない言葉ですので、ここでは「抗菌薬」で統一します)。
「抗菌薬」にはいろいろな種類があるのですが、この中で「細菌の細胞壁を壊す」ことで、細菌を殺す薬剤があります。
これらの薬剤は「ペニシリン系」とか「セフェム系」と呼ばれる薬剤で、臨床の場では非常に多く使われています。

ということは、細胞壁をもたないマイコプラズマにはそのような抗菌薬が全く効果がないということになります。

マイコプラズマ

抗菌薬は本来、しっかり診察、検査をして、その結果導き出された(もしくは予想された)病原体に対し、適切な種類のものを使っていくことが必要なものです。
しかし残念ながら、「とりあえず抗生物質」という、あまり深く考えられずに抗菌薬が使用されているケースは少なくないというのが実情です(突き詰めると、感染症はめちゃめちゃ複雑であるということ、抗菌薬の種類も非常に多いこと、そしてそもそも感染症自体が薬による治療効果で良くなったのか、時間が経って勝手に治ったのかが結局良くわからず、治療している医師側にもフィードバックが非常に難しいという側面があることが、あまり興味を持ってもらえない原因なのかなって思っています)。
「とりあえず抗生物質」として出される抗菌薬がマイコプラズマに効果のないものだった場合、症状が治らず長引いてしまうことが少なくなく、治療の失敗が起きやすい肺炎であると言えるでしょう。

また、顕微鏡でも通常の細菌を観察する方法ではみることができないという特徴もあります。

「グラム染色」という、通常細菌を観察するために使う方法が使えないのです。
なぜならば「グラム染色」は細胞壁を染める方法だからです。

通常の細菌検査(痰の培養検査など)をしても、マイコプラズマは見えず、診断が簡単ではないのです。

加えて、マイコプラズマは「寄生をする菌」という点でも特徴的です。
つまり、人間の細胞に寄生し、その細胞から栄養を吸収して生き続けるため、マイコプラズマ感染症はしばしば慢性化しやすく、治療が長引くことがあるのです。

さらに、マイコプラズマは増殖が遅いという特徴もあります。
これにより、感染の初期段階では症状が現れにくく、診断が遅れることがあるのです(ただこの病状の進行の遅さが、マイコプラズマ感染症を他の急性細菌感染症と区別する一つのポイントにもなります)。


マイコプラズマはどんな症状?
咳

症状も他の肺炎、気管支炎とは少し異なる特徴を持っています。

マイコプラズマの初期の症状は風邪に似ており、咳や喉の痛み、鼻水などが見られます。
しかし、普通の風邪と異なり、マイコプラズマ感染症の咳はその後徐々に悪化し、そしてしつこく続くことが多く、時には数週間にわたることもあります。
また、子どもたちの間では高熱が出ることが一般的ですが、大人ではあまり熱が上がらないことも少なくありません。

一方、他の肺炎、気管支炎に見られるような「痰」は少ないという特徴もあります。

その理由をお話ししましょう。

マイコプラズマは気管支に入り込むと、気道の上皮(表面)に感染し、上皮で増殖します。
そしてあまり奥深くまでは入り込みません。

上皮の奥に、痰を出す粘液腺があるのですが、通常の肺炎と異なり、マイコプラズマはここまで届きません。
ですので、あまり痰がでないということなります。

しかし一方、マイコプラズマが気道のより表面側で増殖することが、咳を悪化させやすい原因になります。

気道の表面には線毛という細かい毛がびっしりと生えており、異物が入ると、この線毛が異物を追い出そうと動きます。
しかし線毛の動きが弱くなると異物は気道にとどまってしまいます。
すると異物は気管支に刺激を与え続け、咳が止まらなくなります。

さらには、刺激による炎症が続くと、今度は気管支の上皮が傷ついて剥がれ落ちてしまいます。
すると、中から神経線維が露出してしまい、今度は異物が神経を直接刺激するようになってしまいます。

さらに先ほど書いたように、マイコプラズマは寄生性をもっているので、なかなか息絶えることがありません。
長い期間体内にとどまることで、咳の影響が長期化してしまうのです。

 


マイコプラズマは診断が難しい・・・

では、そんなマイコプラズマ、どのように診断するのでしょうか?


実はそれがなかなか難しいのです。

悩む

先ほどお話をした症状の特徴乾いた咳が多い、痰が少ない、そして痰が少ない影響で聴診器から聴こえる呼吸の音がきれい)が判断材料となります。

またマイコプラズマはどちらかというと子供や若い方に広まりやすいと言われている感染症です。
子供や若い方で、病気を持っていないようなもともと元気な方が、上のような症状をきたしていたら、その可能性は高くなります。

またレントゲンやCTでもすこし他の肺炎とは違う特徴があるのですが、あまりにも専門的なので、ここでは飛ばしましょう(その都度医師に聞いてみてください)。

痰の検査など、培養検査では、先ほどお話をしたように通常の観察方法では見えないので、基本的には診断できません。

喉の粘液からDNAの解析を行う(コロナのPCR検査みたいなやつですね)検査もあるのですが、そもそも痰の少ないマイコプラズマは、菌が喉まで上がってこられず、偽陰性(感染しているのにマイナスと出てしまう確率)となりやすいとされています。

インフルやコロナみたいな迅速検査もあるにはあるのですが、特に大人ではやはり偽陰性となってしまうこと少なくなく、やはり決め手にはなっていないのが実情です。

採血で抗体検査をすることもできるのですが、結果がその日には出ないこと、感染したてだと数値が上がらないことがあることから、どちらかというと事後確認に使う検査です。

ということで、マイコプラズマの診断は、未だに医師の知識、経験とカンに頼る要素が大きいと言わざるを得ないのです。



どうやって治療するの?

先ほどお話をしたように、よく使われる「ペニシリン系」「セフェム系」の抗菌薬は、マイコプラズマには全く効果がありません。
まず使われるのは「マクロライド系」の抗菌薬です(一般名で言うと「クラリスロマイシン」「アジスロマイシン」、商品名で言うと「クラリス」「クラリシッド」「ジスロマック」などです)。

ただ「マクロライド系」の抗菌薬はどちらかというと、「細菌の増殖を抑える」という、ややマイルドな効き方をするので、効果が出るのにやや時間がかかることがあります。
また粘膜が傷ついて上皮がはがれてしまっている状態の場合は、菌が除去できても上皮が再生されるまで咳が残ってしまうこともあり、状況によっては症状が良くなると実感できるまでに結構時間がかかることもあります。

この他にも「マクロライド系」が使いづらい場合(副作用が出る場合や、一度使ってみたものの効きが悪い場合など)は「テトラサイクリン系「ミノマイシン」など)」や「キノロン系「クラビット」「ジェニナック」など)も使用することがあります(が、これらの抗菌薬をやたらと使ってしまうことは好ましくありません。その理由はこちら


どうやって予防するの?

マイコプラズマ飛沫感染、つまり、感染者が咳やくしゃみをすることで、周りの人に菌を広めます。
特に学校や会社など、人が集まる場所は、感染が急速に広がりやすい環境です。

しかし、先ほどお話をしたように、症状が急には悪くならないので、最初は軽い風邪のような症状のことも多いのです。
そのような状態で「これくらいなら大丈夫だろう」少し無理をして学校や会社に行ってしまう人がいると、その周りの人にどんどん広がってしまうという危険性があるのです。

また、咳エチケットとして、咳やくしゃみがある際には、マスクをしっかりとつけることを守りましょう。
マイコプラズマ私達医師が検査を駆使しても診断は簡単ではありません。
素人の方の症状からの判断ではまず無理です。

咳が出たら「マイコプラズマかもしれない」との認識をもって、周りへ気をつかっていただくようお願いします。

そして感染が少しでも疑われる場合には、無理に学校や仕事に行かず、自宅で休養を取り、感染を広げないようにすることが大切です。
咳の診断をつけるためにも、咳に詳しい医療機関に早めにかかることも大切でしょう。

そして予防としては、手洗いやうがいが基本で、これはあくまで一般的な風邪やコロナ、インフルエンザなどの対策と同様です。


ということで少し長くなってしまいましたが、マイコプラズマに関して少し詳しめに書いてみました。

咳がなかなか良くならない、だんだんひどくなってきた、というときは、是非こじらせる前に咳に詳しい医療機関にご相談ください!


最後に!

当院では9月から新しい料金あと払いシステム「クロンスマートパス」を導入します。

新システムでは、従来必要だった患者様の手数料負担がなくなります!

今まで、診察終了後のお待ち時間について多くのご意見を頂いておりましたが、ご登録いただくクレジットカードで支払いが完了しますので、お帰りまでのお待ち時間が大幅に短くなります!

もう当院では、皆さんへのアピール準備はばっちりです!

クロンスマートパス

もう一度言います、
「手数料タダです!」

是非ご利用ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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