医師ブログ

2024.08.19更新

当院は1週間の夏期休診を経て、本日から診療を再開しました。

私もこの1週間は温泉でリフレッシュしてきました(リフレッシュしすぎて今日職場に戻るのが非常に大変なメンタルでした・・・)

温泉でゆっくりしながら子供たちとプールではしゃいだりしてきました。

吹きガラス体験で、迷わずビールグラスを作ることを選択し、早速堪能しています。あー、うめぇ~

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さて、そんな今年の夏は、ご存知の通り7月からずーーーっと猛暑です・・・

きわめて熱中症になりやすい状況に加え、コロナ、溶連菌、RSウイルス、そしてマイコプラズマと、発熱をきたす方が非常に多い状態で、発熱・感染症外来は阿鼻叫喚の状態です・・・


そんな状況の中、熱が出た際、それが熱中症によるものなのか、感染症によるものなのか、悩まれる方も少なくないようです。

ですので、今回は今、誰にでも起きうる熱中症にフォーカスを当てて、どうして起こるのか?、感染症との違いは?という点をお話ししてみようかと思います。


それでは、まずは熱中症のメカニズムについてお話ししてみましょう。

私たちの体は常に一定の温度、だいたい36.5℃から37℃の間を保つように調整されています。
これは、体内の化学反応が最適に進むために必要な温度だからです。


そして暑い環境になると、私たちの体はこの温度を維持するために、過剰な熱を冷やそうと一生懸命になります。

その最も一般的な方法が「汗をかくこと」です。
発汗によって体表面から水分が蒸発し、その時に生じる「気化熱」で体内の熱が逃げていきます。

このプロセスは非常に効果的で、私たちが暑い環境で長時間過ごすときに体温を保つためには欠かせないものです。


しかし、この「汗をかく」という行為は、体内の水分を大量に消費してしまうという側面もあります。

しかも汗には水分だけでなく、ナトリウムなどの電解質も含まれています。
汗を大量にかくことによって水分、電解質が体外に出てしまうと、体の中ではそれらのバランスが崩れてしまいます。

とても暑い環境で大量に汗をかくと、水分、電解質がどんどん失われ、やがて体が脱水状態に陥ってしまうのです。

そして脱水状態は、体の中で以下のような変化を引き起こします。

まず、血液の量が減少します。
血液は体内の水分が重要な構成要素の一つであり、水分が失われると血液が濃縮されてしまいます。
これにより、血液がドロドロになり、血液循環が悪くなります。

さらに、心臓はこの濃縮された血液を体全体に送り出すために、より強く、より速く働かなければならなくなりますが、これが体にとって大きな負担となります。

また、脱水が進むと、体は汗をかく量を減らそうとしますが、これがさらに体温の上昇を引き起こしてしまいます。
汗をかけないと、体は熱を逃がすことができず、体温がどんどん上がってしまいます。


この状態が熱中症です。

そして最終的には、体が水分を保持しようとするあまり、尿の量も減少し、体内に老廃物が溜まってしまうという悪循環に陥ってしまうのです。



加えて、暑い中で長時間活動したり、運動したりすると、筋肉が活動することで体内に熱が生まれます。
の熱も体温上昇に寄与し、体がますます熱を持ってしまいます。

ここで問題が発生するのが、脳の視床下部という部分にある「体温調節中枢」です。

ここは、体温を一定に保つための司令塔のような役割を果たしていて、暑いときには汗をかかせたり、寒いときには震えを起こさせたりして、体温を調節しています。
視床下部は、体内からのさまざまな信号を受け取り、それに応じて体温を適切に保つよう指示を出しているのです。

しかし、体温が極端に上昇すると、この視床下部自体が熱の影響を受け始めます。

例えば、暑さで体温が上がりすぎた場合、本来であれば視床下部が「もっと汗をかいて体を冷やさなければいけない」と指示を出すはずです。

しかし、視床下部は非常にデリケートな組織で、体温が上がりすぎると、その働きが鈍くなったり、誤作動を起こしたりすることがあります。
脳の神経細胞が過熱により正常に機能しなくなると、視床下部が指示が正確に出せなくなり、汗の分泌が減ってしまったり、逆に適切な体温調節のための行動が取れなくなったりするのです。

さらに体温が上がり続けると、体全体の代謝が異常に活発化し、内臓や脳などの重要な臓器にも負担がかかります。
この時点で、視床下部はすでに正常に働けなくなっているため、体は自分を冷やす手段をほとんど失ってしまいます。

これは非常に危険な状態で、熱中症の重篤な症状、例えば意識障害や痙攣などが引き起こされる原因となります。


要するに、体温が上昇しすぎると、体温を管理する視床下部自体が熱によってダメージを受け、正確に体温をコントロールできなくなってしまうのです。


では、熱中症になってしまった場合は、どのようにすればよいのでしょうか?

まず、熱中症の兆候を感じたら、できるだけ早く涼しい場所に移動することが大切です。

例えば、エアコンの効いた部屋や日陰に移ることで、体がこれ以上熱を持たないようにすることができます。
外にいる場合は、木陰や建物の陰など、直射日光を避けられる場所が理想です。
このとき、できるだけ身体を冷やす方法を探しましょう。
服を緩めたり、風通しを良くしたりすると、体が熱を放散しやすくなります。


次に、水分補給が非常に重要です。

熱中症になると、体内の水分と電解質が大量に失われるため、これを補う必要があります。

できれば、スポーツドリンクや経口補水液など、電解質を含んだ飲み物が効果的です。
水だけではなく、塩分も一緒に補給することで、体のバランスが早く回復します。

しかし、一度に大量の水を飲むと胃腸に負担がかかるため、少しずつ頻繁に飲むことが望ましいです。

もし、体温がかなり高く、意識がはっきりしない場合は、すぐに医療機関に連絡する必要があります。
病院では、点滴での水分補給や、氷水での冷却が行われることがあります。
これらの処置により、体温を急速に下げ、体内の水分と電解質のバランスを回復させることができます。

また、意識がある場合は、冷たいタオルや氷嚢を使って首や脇の下、太ももの付け根など、大きな血管が通っている場所を冷やすと効果的です。
これにより、体の中心部分の熱を効率よく下げることができます。

一方で無理に水を飲ませたり、体温を急激に下げるような行為は避けるべきです。

例えば、氷水に入れるなどの方法は、かえって血管が収縮してしまい、体の中心部分の熱がこもる原因になることがあります。
また、意識が朦朧としている場合に無理に水を飲ませると、誤嚥のリスクがあるため、慎重に対応する必要があります。


では最後に、このような熱中症と、同じく熱が出る感染症、どの様に見分けたらいいのでしょうか、ポイントをいくつか挙げてみましょう。


まず重要なポイントの一つ目は、症状が現れるまでの状況と経過です。

例えば、暑い日や運動後に、比較的速やかに体調が悪くなり、高熱が出た場合は、熱中症の可能性が高いです。

一方、感染症の場合は、その熱は体内に侵入してきたウイルスや細菌が体内で戦いを繰り広げ、その結果炎症を起こすために生じるものですので、通常は徐々に症状が現れ、熱もそれにつれて高くなってきます。


また症状にも違いがあります。

感染症の場合、先ほど述べた、「炎症」が原因となるので、発熱に加えて、炎症の症状、つまり咳や喉の痛み、鼻水、関節痛や筋肉痛などを伴うことが多くなります。
また、感染症ではしばしばリンパ節が腫れることがありますが、これも体が病原体と戦っているサインでであることが多いです。

一方熱中症では、このような炎症の症状がみられることは少ないです。


また発熱の仕方にも違いが現れます。

熱中症では、急激に体温が上がり、皮膚が熱くて乾燥していることが多くなります。

一方感染症では、通常は体温が徐々に上がり、むしろ汗をかいて体温を下げようとする体の反応が見られるので、皮膚は湿っていることが多くなります。

また、感染症の場合、発熱に伴って寒気や震えを感じることが多いですが、これは熱中症ではあまり見られない特徴です。


ただ、とはいえこれらの見極めがカンタンではないことも少なくありません。

最終的に、熱中症と感染症の鑑別は我々医師による診断が必要となります。
ただ、すぐに受診できる状況でないこともありえますし、特に重症の熱中症は手当が遅れると脳障害が残るなど大変なこととなってしまうことがあり、周りにいる皆さんの早期の処置が大きな効果を生むこともあるのです。

どちらか疑わしいときは、まずはすぐに涼しい場所に移動して水分、塩分を補給し、早めに医療機関を受診してただくことで、重症化を食い止めて頂くことを是非ともお願いしたいと思います!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.08.01更新

「ステロイド」に関するブログ、前回まではこちら!

1.2024.7.3 増えるコロナ、喘息悪化・・・そんな時の切り札、「ステロイド」って何?
2.2024.7.10 ステロイド、長く「飲み」続けると何が起こる? 

2024年が始まったと思ったら、もう8月ですね・・・

開催前は周りでそれほど話題にはなっていなかったオリンピックも、いざ始まると皆さんテレビの前に釘付けのようで、当院にも眠い目をこすりつついらっしゃる患者さんが少なからずいらっしゃるようです。

私も4年に1回の大イベントを堪能したいと思ってはいるのですが、何せ7月は当院に2700人以上の患者様にお越しいただきました・・・。

連日開始から終了までのノンストップ診察を終え、帰宅後食事、風呂を速攻済ませ、子供の寝付かせを終えた後に気合を入れてテレビ前に鎮座するも、連日30分で寝落ちknock out・・・
結局翌日朝のyahooニュースに一喜一憂する日々です・・・(笑)


さて、前回は飲み薬や注射、つまり「全身ステロイド投与」について、長く続けているとどういう問題が起こるのかということを書きました。

「ステロイド」は、副腎皮質で作る「コルチゾール」という、生きていくのに不可欠なホルモンをまねられて作られており、ステロイドが血流にのって全身を巡ってしまうと、脳や副腎皮質にも届いてしまい、「コルチゾール」の分泌に影響を与えてしまうことが問題だったのでした。


さて、「ステロイド」には、ほかにも「塗り薬」「目薬」「点鼻薬」などの「外用剤」という剤型もあります。

そして、呼吸器、アレルギー疾患の方によく使われるわれらが「吸入薬」も、これらの「外用薬」に含まれます。


今回は、この「吸入薬」としてのステロイド、長く使って大丈夫なの??という疑問にお答えしようと思います。

で、最初から結論!
吸入ステロイド薬は、通常の使い方ならずっと使ってて大丈夫です!!


気管支喘息は、気管支に炎症が起きて、気管支の壁がむくむことで内腔が狭くなってしまう病気です。

今から30~40年以上前までは、気管支喘息の治療は、狭くなった気管支を広げる吸入薬や飲み薬などを使うことが中心で、そもそも狭くなる原因となった気管支の炎症に対してはほぼ手つかずでした。
「ステロイド」が炎症に効くことはわかってはいたのですが、まだステロイドは飲み薬や注射薬でしか使用できない時代だったのです。


おいそれと全身ステロイド投与を簡単にするわけにもいかず、そのため今よりも喘息はずっと悪化しやすく、また悪化したときもその状態を改善させるのが大変難しい時代でした。

症状がコントロールできずに、結局やむを得ず飲み薬や注射のステロイド薬を長期で使うことも多々ありましたが、そうすると前回書いたような副作用の問題が起きてしまい、実際これらの副作用に苦しんだ喘息の方が少なからずいらっしゃったのです(私はこの時代の治療を見てはいないのですが・・・)。


そんな喘息に効くステロイドを、どうにかして副作用なく喘息の治療に使うことができないものか・・・そんな中で開発されたのが「吸入ステロイド」でした。
そして1993年に吸入ステロイド薬が治療ガイドラインに掲載されたことで、喘息の治療は大転換点を迎えました。


吸入ステロイド薬の普及に伴い、喘息の症状は著しくコントロールできるようになりました。
喘息の死亡者数も90年代の7000人台から、2020年代には1000人を切るかどうかというところまで治療が進化しました。

更には、飲み薬のステロイドを使用するケースも以前と比べて大きく減ったため、これらの副作用に苦しむ人も大幅に少なくなったのです。



では、なぜ吸入ステロイドはそんなに喘息に対して効果的なのでしょうか?

それは、吸入薬が炎症を起こしている気管支にダイレクトに届くように設計された方です。


ステロイドを飲み薬で「内服」した場合、その成分は一旦血液に乗り、全身を巡った後に肺に到達して気道の炎症を鎮めます。

ただその経路は非常に長く、またもちろん他の部分にも広がってしまうために、非効率な面もありました(ただ現在でも、喘息が悪化したときや、最重症の喘息の方の治療では、飲み薬や点滴のステロイドを使うことがあります。喘息の悪化時や、非常に症状が重い場合は、気管支以外でも全身のあらゆる部位に炎症が起きているため、ステロイドを全身に巡らせることが有効な面があるからです)。

一方、吸入ステロイドは、ステロイドを効率よく直接気管支に届けることができます。
そのため、使用するステロイドの量を、内服の1/10の量まで減らすことができるようになりました。

また、これらのステロイドは気管支にさえ効いてしまえば、その後全身に巡る必要がない成分となります。
そのため、これらのステロイドが気管支から吸収されて、役割を終えて血液に乗っかった後に、その成分の90%が肝臓で分解されて、全身に巡らないようになるよう設計されました(考えた人、すごいですよね!)。


そうすると計算上、吸入ステロイドは内服ステロイドの1/10 × 1/10 =1/100 しか全身に巡らないことになります。

これくらいでは通常、副腎皮質も大した影響をうけません。
ルチゾールの産生、分泌への影響も非常に小さくなるので、前回お書きした「全身ステロイドを長期に使用した場合の副作用」が非常に起きにくくなるというわけなのです。


とは言えど、何も副作用がない夢の薬は存在しません。

吸入ステロイド薬にも気を付けるべき点はありますので、それとその対処方法について書いてみようと思います。


声がれ

まずは一番多い副作用、声がれです。

これは吸入したステロイドが喉頭の筋肉に付いて、筋肉の力が落ちてしまう(ステロイド筋症)現象や、声帯に吸入ステロイド薬がついてしまい、声帯にカンジダというカビが生えてしまったりすることが原因と言われています。

よく「吸入をした後はうがいをしてください」と指導しますが、残念ながらうがいの水は声帯や喉頭の筋肉まで届かないため、声がれに対してはうがいの効果は大きくないと考えられています。岡田 章,他:吸入ステロイド薬の副作用である嗄声発現の要因解析.医療薬学40:716-725, 2014
ただうがいは非常に大事です。その理由は後で出てきます。

声がれが起きてしまったときには

使用する「前」にうがいをする(粘膜が湿っていると薬が付きづらくなります)
吸入薬を変更する(パウダーよりスプレー剤のほうが、粒子径が大きいより小さい方が、薬が付着しにくい傾向があるといわれています。また個々の吸入のやり方や、口、喉の形の違いでも、吸入薬によっての向き不向きもあるのです)
スペーサー(スプレー剤の吸入薬を、筒を挟んで使用する)を用いる
・吸入するときに舌の位置を下げる「ホー吸入」といって、吸入前に「ホー」と言ったまま吸入すると舌の位置が下がります)
・少し上を向いて吸入する(下を向いて吸入すると喉の角度がつきすぎて吸入薬がのどの奥にぶつかってしまう)

などの対処方法があります(だた実際はもっと複雑で、実際に吸入しているところを見させて頂かないと声がれの原因は正確には突き止められないため、こちらでご紹介した方法が必ずしも改善にはつながらないかもしれません。お困りの際は、処方した医師や薬剤師にお早めにご相談頂くことが大事です)。


口内炎、口腔/食道カンジダ症

また、吸入薬が口の中に付着して残ると、口の中にカンジダが生えたり、口内炎が起こりやすくなったりします。

これを防ぐのにうがいは非常に大事になります。

完全に口の中から薬を取り除くにはうがいを4回行うことが必要とされていますが、正直めんどくさいものです。

 

水などの飲み物を少し口に含んだあとに飲んでしまうのでも有効ですし、吸入した後に食事をして食べ物と一緒に薬を粘膜から落としてしまうのも効果的です。

カンジダはしばしば食道にも付着しますが、吸入の後の食事はこれにも有効に働きます。

 


身長の伸びがやや遅れることがある

子供では、長期にステロイド吸入薬を使用することで、1年後の身長の伸びが1~2cm小さくなることが報告されています。

ただ成人になった時にはその差はなくなっているとされていますし、それを避けるために喘息をコントロールしないことのほうがはるかにリスクが高いですので、このことを理由に吸入をやめるべきではないと思います。

 

肺炎のリスクが増える(?)

吸入ステロイド薬がわずかながら肺炎のリスクを増やすとの意見もありますが、最近ではそれを否定する報告も出ています。Tuberc Respir Dis. 2023 Jul;86(3):151-157
肺炎のリスクが増えるとの報告の中でも、そのリスクはわずかで、かつ重症な肺炎にはならないとされているので、大きく心配をすることもないかとは思います。

 

時に軽いながらも、全身性の副作用も

病状によって吸入ステロイドの量は使い分ける必要があるのですが、多い量を使い続けると、さすがに少しずつ「コルチゾール」の分泌に影響を与えたり、全身へのステロイドの副作用がおこる可能性は多少出てきます。
ですので、状態や環境、季節によって適切に薬を減らしていくことが必要になってきます。

一方不適切な薬の減量、中止はもちろん喘息の悪化を招き、結局吸入ステロイドを増やしたり、全身ステロイド投与をせざるを得なくなったりします。


先ほどもお話ししたように全身を巡る吸入ステロイドは微量なので、例え副作用が起こったとしても軽いものです。
喘息が悪化するよりはよっぽどましですので、しっかりと経験、知識を持っている医師のもとで適切に薬をうまくコントロールして、指示通りに治療を続けてもらうことが大事なことは言うまでもありません。


というわけで吸入ステロイド、「ステロイド」という名前が付くだけにどうしても不安を抱かせやすいことが多いのですが、その不安や誤解を少しでも解消していただければうれしいです!

私のことは嫌いでも、吸入ステロイドのことは嫌いにならないでください!(もうだいぶ古くね)

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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