当院は1週間の夏期休診を経て、本日から診療を再開しました。
私もこの1週間は温泉でリフレッシュしてきました(リフレッシュしすぎて今日職場に戻るのが非常に大変なメンタルでした・・・)
温泉でゆっくりしながら子供たちとプールではしゃいだりしてきました。
吹きガラス体験で、迷わずビールグラスを作ることを選択し、早速堪能しています。あー、うめぇ~
さて、そんな今年の夏は、ご存知の通り7月からずーーーっと猛暑です・・・
きわめて熱中症になりやすい状況に加え、コロナ、溶連菌、RSウイルス、そしてマイコプラズマと、発熱をきたす方が非常に多い状態で、発熱・感染症外来は阿鼻叫喚の状態です・・・
そんな状況の中、熱が出た際、それが熱中症によるものなのか、感染症によるものなのか、悩まれる方も少なくないようです。
ですので、今回は今、誰にでも起きうる熱中症にフォーカスを当てて、どうして起こるのか?、感染症との違いは?という点をお話ししてみようかと思います。
それでは、まずは熱中症のメカニズムについてお話ししてみましょう。
私たちの体は常に一定の温度、だいたい36.5℃から37℃の間を保つように調整されています。
これは、体内の化学反応が最適に進むために必要な温度だからです。
そして暑い環境になると、私たちの体はこの温度を維持するために、過剰な熱を冷やそうと一生懸命になります。
その最も一般的な方法が「汗をかくこと」です。
発汗によって体表面から水分が蒸発し、その時に生じる「気化熱」で体内の熱が逃げていきます。
このプロセスは非常に効果的で、私たちが暑い環境で長時間過ごすときに体温を保つためには欠かせないものです。
しかし、この「汗をかく」という行為は、体内の水分を大量に消費してしまうという側面もあります。
しかも汗には水分だけでなく、ナトリウムなどの電解質も含まれています。
汗を大量にかくことによって水分、電解質が体外に出てしまうと、体の中ではそれらのバランスが崩れてしまいます。
とても暑い環境で大量に汗をかくと、水分、電解質がどんどん失われ、やがて体が脱水状態に陥ってしまうのです。
そして脱水状態は、体の中で以下のような変化を引き起こします。
まず、血液の量が減少します。
血液は体内の水分が重要な構成要素の一つであり、水分が失われると血液が濃縮されてしまいます。
これにより、血液がドロドロになり、血液循環が悪くなります。
さらに、心臓はこの濃縮された血液を体全体に送り出すために、より強く、より速く働かなければならなくなりますが、これが体にとって大きな負担となります。
また、脱水が進むと、体は汗をかく量を減らそうとしますが、これがさらに体温の上昇を引き起こしてしまいます。
汗をかけないと、体は熱を逃がすことができず、体温がどんどん上がってしまいます。
この状態が熱中症です。
そして最終的には、体が水分を保持しようとするあまり、尿の量も減少し、体内に老廃物が溜まってしまうという悪循環に陥ってしまうのです。
加えて、暑い中で長時間活動したり、運動したりすると、筋肉が活動することで体内に熱が生まれます。
この熱も体温上昇に寄与し、体がますます熱を持ってしまいます。
ここで問題が発生するのが、脳の視床下部という部分にある「体温調節中枢」です。
ここは、体温を一定に保つための司令塔のような役割を果たしていて、暑いときには汗をかかせたり、寒いときには震えを起こさせたりして、体温を調節しています。
視床下部は、体内からのさまざまな信号を受け取り、それに応じて体温を適切に保つよう指示を出しているのです。
しかし、体温が極端に上昇すると、この視床下部自体が熱の影響を受け始めます。
例えば、暑さで体温が上がりすぎた場合、本来であれば視床下部が「もっと汗をかいて体を冷やさなければいけない」と指示を出すはずです。
しかし、視床下部は非常にデリケートな組織で、体温が上がりすぎると、その働きが鈍くなったり、誤作動を起こしたりすることがあります。
脳の神経細胞が過熱により正常に機能しなくなると、視床下部が指示が正確に出せなくなり、汗の分泌が減ってしまったり、逆に適切な体温調節のための行動が取れなくなったりするのです。
さらに体温が上がり続けると、体全体の代謝が異常に活発化し、内臓や脳などの重要な臓器にも負担がかかります。
この時点で、視床下部はすでに正常に働けなくなっているため、体は自分を冷やす手段をほとんど失ってしまいます。
これは非常に危険な状態で、熱中症の重篤な症状、例えば意識障害や痙攣などが引き起こされる原因となります。
要するに、体温が上昇しすぎると、体温を管理する視床下部自体が熱によってダメージを受け、正確に体温をコントロールできなくなってしまうのです。
では、熱中症になってしまった場合は、どのようにすればよいのでしょうか?
まず、熱中症の兆候を感じたら、できるだけ早く涼しい場所に移動することが大切です。
例えば、エアコンの効いた部屋や日陰に移ることで、体がこれ以上熱を持たないようにすることができます。
外にいる場合は、木陰や建物の陰など、直射日光を避けられる場所が理想です。
このとき、できるだけ身体を冷やす方法を探しましょう。
服を緩めたり、風通しを良くしたりすると、体が熱を放散しやすくなります。
次に、水分補給が非常に重要です。
熱中症になると、体内の水分と電解質が大量に失われるため、これを補う必要があります。
できれば、スポーツドリンクや経口補水液など、電解質を含んだ飲み物が効果的です。
水だけではなく、塩分も一緒に補給することで、体のバランスが早く回復します。
しかし、一度に大量の水を飲むと胃腸に負担がかかるため、少しずつ頻繁に飲むことが望ましいです。
もし、体温がかなり高く、意識がはっきりしない場合は、すぐに医療機関に連絡する必要があります。
病院では、点滴での水分補給や、氷水での冷却が行われることがあります。
これらの処置により、体温を急速に下げ、体内の水分と電解質のバランスを回復させることができます。
また、意識がある場合は、冷たいタオルや氷嚢を使って首や脇の下、太ももの付け根など、大きな血管が通っている場所を冷やすと効果的です。
これにより、体の中心部分の熱を効率よく下げることができます。
一方で、無理に水を飲ませたり、体温を急激に下げるような行為は避けるべきです。
例えば、氷水に入れるなどの方法は、かえって血管が収縮してしまい、体の中心部分の熱がこもる原因になることがあります。
また、意識が朦朧としている場合に無理に水を飲ませると、誤嚥のリスクがあるため、慎重に対応する必要があります。
では最後に、このような熱中症と、同じく熱が出る感染症、どの様に見分けたらいいのでしょうか、ポイントをいくつか挙げてみましょう。
まず重要なポイントの一つ目は、症状が現れるまでの状況と経過です。
例えば、暑い日や運動後に、比較的速やかに体調が悪くなり、高熱が出た場合は、熱中症の可能性が高いです。
一方、感染症の場合は、その熱は体内に侵入してきたウイルスや細菌が体内で戦いを繰り広げ、その結果炎症を起こすために生じるものですので、通常は徐々に症状が現れ、熱もそれにつれて高くなってきます。
また症状にも違いがあります。
感染症の場合、先ほど述べた、「炎症」が原因となるので、発熱に加えて、炎症の症状、つまり咳や喉の痛み、鼻水、関節痛や筋肉痛などを伴うことが多くなります。
また、感染症ではしばしばリンパ節が腫れることがありますが、これも体が病原体と戦っているサインでであることが多いです。
一方熱中症では、このような炎症の症状がみられることは少ないです。
また発熱の仕方にも違いが現れます。
熱中症では、急激に体温が上がり、皮膚が熱くて乾燥していることが多くなります。
一方感染症では、通常は体温が徐々に上がり、むしろ汗をかいて体温を下げようとする体の反応が見られるので、皮膚は湿っていることが多くなります。
また、感染症の場合、発熱に伴って寒気や震えを感じることが多いですが、これは熱中症ではあまり見られない特徴です。
ただ、とはいえこれらの見極めがカンタンではないことも少なくありません。
最終的に、熱中症と感染症の鑑別は我々医師による診断が必要となります。
ただ、すぐに受診できる状況でないこともありえますし、特に重症の熱中症は手当が遅れると脳障害が残るなど大変なこととなってしまうことがあり、周りにいる皆さんの早期の処置が大きな効果を生むこともあるのです。
どちらか疑わしいときは、まずはすぐに涼しい場所に移動して水分、塩分を補給し、早めに医療機関を受診してただくことで、重症化を食い止めて頂くことを是非ともお願いしたいと思います!