医師ブログ

2023.06.14更新

コロナが5類になり、マスクに関しては個人の意思となりました。

そして5類になって時間が経つとともに徐々に蒸し暑くなってきてもおり、マスクを外すことも徐々に一般的になってきた印象です。

いろいろな方の豊かな表情を見ることができるようになったことは、確かにうれしいことですね!

しかし、その引き換えとして、コロナ以外の感染症の流行り方が、この3年間にはなかった様子で見られるようにもなりました。
これに伴い、お子様が学校や幼稚園、保育園で風邪をもらい、そこから家族みんなにうつってしまうという例も非常に多く見るようになりました。

その中で今大きくはやっているのがRSウイルスヒトメタニューモウイルスです。

インフルエンザウイルスについては以前から、新型コロナウイルスについては3年前から、多くの情報が出回っているため皆さんも特徴をよくご存じかとは思いますが、それ以外のウイルスについては正直あまり知られていないのが実情かと思います。


ですので、今回は咳をきたしやすい、RSウイルスとヒトメタニューモウイルスについて、主に大人の感染という視点から取り上げてみたいと思います。


RSウイルスとヒトメタニューモウイルスはともに、主に赤ちゃんや子供の中で流行るウイルスです。

RSウイルスは1950年代にはすでに発見されており、赤ちゃんに肺炎、細気管支炎を引き起こすウイルスとして知られていました。
もともと日本では、秋から冬に2歳までにほとんどの赤ちゃんが一度はかかるウイルスといわれていましたが、この3年間、コロナ禍での厳重な感染対策のもと、かかったことのない赤ちゃんが増えるといったことが起きました。
これにも影響されているのか、コロナ禍の前後でRSウイルスの流行状況に変化が出てきたようで、わが国ではここ3年は春から夏に流行る現象が起きているようです(2021年9月の記事でこのことを少し取り上げております)。

RSウイルス流行状況

国立感染症研究所図表より改変


一方ヒトメタニューモウイルスは、実は21世紀になってから発見されたウイルスです(でもその前も正体不明のウイルスとして、流行は起こしていたようです)。
こちらの流行時期は3月~6月、つまり春から初夏の今頃が一番流行りやすい時期とされています。

こちらも5~10歳ごろまでにほとんどの子供は1度はかかるといわれるウイルスですNature Med. 2001;7:719-724.

 

そしてどちらのウイルスも、感染によってできる免疫が不完全なため、大人になってからも再感染することが珍しくありません。

RSウイルスヒトメタニューモウイルスその作りが非常に似ていることがわかっており、それ故、その特徴も非常によく似ています。

 

まずこれらのウイルスは飛まつ感染(つまり話したり、咳やくしゃみをしたりしたときに飛び散る唾液など)によって広がり、鼻などの粘膜から体の中に入り込み、気管支の奥(細気管支といいます)のほうで増殖しやすいウイルスです。
そしてウイルスがついた手を介した接触感染も経路の一つとなります。

感染してから発症するまでは大体3~6日程度と言われ、発症する1~2日前には人にうつしてしまうことができるようになります。
そして気管支でウイルスが増殖すると、気管支に炎症が起きて、咳や痰を引き起こします。

赤ちゃんや子供は気管支が細いために、一度炎症を引き起こしてしまうと簡単に空気の通り道である気管支がふさがれてしまい、ゼーゼーいったり、呼吸が苦しくなってしまったりしやすくなります。

一方大人では、子供より気管支が太いためにそこまで行くケースは多くはなく、一般的には発熱に加え軽い咳や痰で済んでしまうことも少なくありません。


だ気を付けなければならないのが、喘息をお持ちの方、COPDをお持ちの方、それに高齢の方です。


喘息は、もともと感染症を引き金として悪化しやすいという特徴を持っています。
そして喘息が悪化すると、ダメージを最も受けやすいのが細い細い奥の細気管支の部分です。


喘息の発作が起きると、もともと狭い細気管支の空気の通り道がさらに細く、狭くなってしまいます。
すると、咳が悪化するのと同時に、細気管支の先にある肺に十分な空気が届かなくなってしまって息苦しくなったり、狭くなったところを空気が通ることでヒューヒュー、ゼーゼーいったりするようになるのです。

それに加えて、これらのウイルスは先ほども言ったようにそもそも細気管支で増殖しやすいという性質を持っているので、この部分で炎症が強く起こってしまいます。
細気管支にとってはウイルスと喘息の悪化というダブルパンチに見舞われてしまうということになってしまいます。
実際喘息の悪化に、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスは大きくかかわっているといわれています。Vaccine 23: 4473-4480,2005.  J Infect Dis 193: 1634-1642, 2006.

またCOPDに関しても、やはり、もともと奥の気管支の通りが悪くなっている状態なので、喘息と同じようにこれらのウイルスが感染した時には、ただの風邪では済まなくなるケースが少なくありません。


しかしこのブログでは何度もお話ししているように、喘息やCOPDは残念ながら、その病気を持っていても長い期間気づかれずに経過してしまう方が多かったり、それに吸入薬を正しく使えていなかったり、薬を正しく選択されていなかったりと、適切な治療がされていない方が非常に多い病気です。

ですので、隠れ喘息や隠れCOPDの方を中心として、大人の方でもこのウイルスにかかった時に、思いのほか症状が重く、長引いてしまうといったケースが後を絶たないのです。


最後に高齢者の方についてですが、高齢者の方は免疫力がもともと低下していることから、ウイルスが増殖しやすくなり症状が重くなってしまうパターン、それにウイルスによって弱った肺に、別の微生物が後から侵入し肺炎を起こしてしまうパターンがあります。

またこのように肺の機能が低下してしまうと、肺と強固なつながりを持っている心臓にも大きな負担がかかってしまうため、特に心臓の病気を持つ方は症状が悪くなってしまいやすく、時には命にかかわってしまうこともあります。


両方のウイルスとも検査キットがありますが、わが国ではRSウイルスの検査は1歳未満、ヒトメタニューモウイルスの検査は6歳未満でないと保険の適応がなく、自費で検査すると診察料、薬剤料などその日の診察がすべて全額自費(つまり10割負担)になってしまうため、大人では事実上検査が使えません(これは大人にはウイルスに対する治療薬がないため、検査しても治療方針が変わるわけではなく保険上ムダになってしまうためで、決して大人に対していやがらせをしているわけではありません・・・)。

 

治療についてですが、残念ながらこれらのウイルスに効果がある、簡単に使える薬は現時点ではありません。
ですので基本的には症状を抑える対症療法が中心となります。

そしてこれによって悪化した喘息やCOPDがあれば、もちろんその治療も大事になります。


我々ができる対策としては、飛まつ感染、接触感染が中心となるため、症状が出ている人のマスク着用や手洗い、アルコール消毒が大事なのですが、やはりもともとは赤ちゃんや子供を中心として流行るため、お子さんから世話をする親などへと広がってしまう家庭内感染はなかなか避けづらいのが実情です。
基礎疾患のある高齢者の方がいたら、なるべくウイルスから遠ざけることが大事になります。

そして、喘息、COPDをお持ちの方は、もしうつってしまっても症状を長引かせるのを予防するために、やはり普段から吸入などの治療を、調子のいい時もしっかり続けることが大事になります。

まあ、結局はいつもと同じ結論ですね(笑)


というわけでまだしばらくの間厄介な存在になりそうなこれらのウイルス、しっかり敵を知って、メリハリのある感染対策と普段からの体調管理に気を遣うことで立ち向かいましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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