医師ブログ

2023.12.28更新

先日、当院に取材がいらっしゃいました。
いらっしゃったのは「Weveryチャンネル」という、YouTubeで医療経営系の情報発信をされているチャンネル。

場末の当院に何を求めたかというと、「事務長がいるのに外部から事務長を導入した奇特なクリニック」というテーマ。

当院はもともとジムチョーがおりますが、私が継承した後に、このクリニックを少しでも患者さんに快適に受診して頂けるように変えていくことを目指し、IQVIA社さんから外部事務長を招聘しました。
現在は当院のジムチョーと外部事務長が、協同でいろいろな仕事を進めてもらっています。

当院は毎月のように新たなシステムを導入していますが、その実現にはこの体制が大きく寄与しています。

おかげさまで当院におかかり頂く患者様がどんどん増え、特に11月からはそれが顕著となる状況で、まだまだ追い付かなくなってしまった部分が多々出てきており皆様には大変ご不便をおかけしてしまっているのですが、今ここにいるスタッフみんなで、さらに知恵を出して少しでも解決していきたいと思っています。
(当院の現況、現時点での対策についてはこちらよりご説明致しております)

医療情報というよりは経営視点の内容にはなりますが、もし興味のある方がいらっしゃいましたら以下から是非!

weveryチャンネル

 

というわけで、今回は一般の皆様には大変申し訳ありませんが、たまには内輪の話を。

とはいえ、まずは一般の皆様にも知っていただきたい内科医のキャリアをご説明します。

医学生は6年間(以上?)かけて医学部を卒業し、初期研修内科外科小児科などさまざまな科数カ月単位で2年間ローテートしたのち、3年目からそれぞれの科で後期研修医としての研修を開始します。
内科を選択した場合、その研修の後に、「内科専門医」という専門医資格を取得することを目指します。
その「内科専門医」を取得する中で、一番のハードルとなるのが、「病歴要約」です。
これは決められた領域(呼吸器、消化器、循環器、内分泌、代謝、腎臓、血液、神経、アレルギー、膠原病、感染症、救急、外科紹介、剖検)のそれぞれで自らが経験した症例を、決められた書式でまとめる課題です。
提出症例は29症例。年単位で決められた範囲の病気を自ら治療し、経験を集めることが求められます。


さて、ここからが業界トークです(興味のない方はこのブログの最後へどうぞ!)。

この病歴要約、J-OSLERになってからさらに厄介になりました。

私の後輩たちも、J-OSLERでの病歴要約作成に苦しむ人が続出しています・・・
症例集めも大変なのですが、その記載をどのようにしたらいいのか、ここでつまずいてしまう人も多いようなのです。

またついてくれる「指導医」の質も、実はいろいろです。
ぶっちゃけ、指導医がイケてないと、この病歴要約を通過することがさらに難しくなってしまいます・・・

私は新内科専門医制度が開始する前の内科認定医、総合内科専門医をそれぞれ病歴要約を書いて通りました(なるべく最短で総合内科専門医を取って、やりたいことをいち早くやりたかったので、病歴要約の免除は待たずに専門医取得の際も22症例書きました。大変すぎて、途中その選択を後悔した時もありましたが・・・)
私の場合は指導医に恵まれたこともあり、両方ともA評価で合格したため、翌年から病歴要約査読委員に任命され、今年で8年目になります。

旧制度(内科認定医&総合内科専門医)の時代はA3の紙で提出する様式でしたので、認定医受験者7~8人分、専門医受験者1~2名分のサマリーが次々と病院に送られ、業務終了後夜遅くまでひたすらペンを入れて評価をしていました(今でいう「自己研鑽www」の時間です)。
サマリー

在りし日の私の医局の机です。
この中に病歴要約が18×7=126枚詰まっています・・・

2018年度から「新内科専門医」制度が開始され、その年から研修を開始した先生方によるJ-OSLERによる病歴要約査読が2020年から開始となり、評価もA,B,C,Fの評価(つまり病歴要約に点数をつける評価)から、accept,revision,reject(つまり病歴要約が合格か不合格かを判定する評価)に代わり、その戦略も少し変わってきています。
以前はより完成度の高い病歴要約の作成を目標とすべきでしたが、現在の制度では、とにかく凡ミスをしない、差し障りのない、無難な病歴要約を作成することが求められます。

しかし、長年(というほどでもないですが)査読に関わる中で、残念ながらこの中で、そのような「無難な病歴要約」という目的にも達しない、基本の形を満たしていない病歴要約、我々査読委員の印象が悪くなるような病歴要約を少なからず目にしました。

医学部受験、そして卒試、国試を突破した皆さんであり、3年も医学部に入るのに時間を要した私と比べてもはるかに優秀であろう皆さんが、病歴要約につまづき試験に通らないことで、キャリアの遠回りを招いてしまうのはとてももったいない・・・

ポイントさえしっかり理解、実践できれば、「無難な病歴要約」は作成できるものなのです!

病歴要約でひっかかり試験を受けられない、そんな悲しいことになってほしくない。
一人でも多くの若き内科医が、病歴要約をつつがなく突破して、羽ばたいてほしい。

そのような願いをこめて、若き先生方の多少の助けになれればと。

そこで今回は「病歴要約査読委員がいい印象をもって、スムーズにacceptをもらえる病歴要約」をどのように作ったらいいのか、査読委員の立場からの視点で、特に皆様に心がけて頂きたいポイント、要点を書いてみようと思います。(私が呼吸器内科ですので、内容がやや呼吸器内科医よりの視点になってしまっている点はご容赦ください・・・)


1.まずはファーストインプレッション!

現在のJ-OSLERでは、先ほどもお話ししたように病歴要約が紙では出なくなったので、評価は全てオンラインで行います。
現在は査読委員は、1年に2名ほどの受験者の評価を行います。
そして1名の受験者につき、29症例もの病歴要約を全て目を通して、評価をしなければならないのです。

そのような状況で、評価する側としては、しっかり書けてそうな人が当たるととてもうれしいのです。
なぜならば、そのような方であれば、おそらく指摘することも少ないだろうから、「それほど気張らずに読んでもいいな」と安心できるからなのです。

一方、しっかり書けてなさそうなら、「いろいろ指摘点が出てきそうでめんどくさ・・・」という心理を持ってしまいます。
すると、読む方も人間ですから、読み方が「アラ探し」の読みになってしまうのです。
こうなると内容にアラが見つかったときに「やっぱり・・・」という気持ちになってしまい、ますますネガティブな感情を持ってしまうのです。
こうなるとなかなか良い評価にはつながりません。

ですので、とにかく大事なこととして、まずはファーストインプレッションで「この人はしっかり書けてそうだな」と思わせることが何よりも大事になるのです。

では、何に気を付けたらいいのでしょうか。

 

2.誤字、脱字、プライバシー配慮には気を付けよう

まずは当たり前ですが、誤字、脱字がないようにすることは基本中の基本です。

読んでいる方の心情を考えると、誤字、脱字があった時点で「そもそもコイツしっかり推敲してねーな」という印象を持ってしまいます。
評価者も人間なので、完成度が低い病歴要約だと思ってしまうと、いろんなアラが見えてしまいます。

逆にしっかり体裁が整っていると、気持ちよく読み進められるので、それだけでもいい印象が残りやすいのは事実です。
カタチを大事にする病歴要約ですので、体裁を整えるという意味では、句読点の形の統一(「、」や「。」なのか、「,」や「.」なのか)を統一することも地味に大事なことです。

次に、これも手引きに目立たせて書かれていますが、患者氏名を消すのは非常に大事です。
これが1か所でも忘れて残ってしまうだけで、rejectにしたくなるのくらいパワーがあります。
また忘れやすいのが紹介元、紹介先の施設名です。流れで見逃してしまうことがありますので、これもしっかり匿名化することが大事です。

 

3.医療用語の使い方に注意!

次に医療用語を正しく使えているかが大事です。

例えば「抗生剤」という用語は(話し言葉なら大した問題ではないのですが、やはり病歴要約としては)医学用語としてあまり適切ではないようです(あえて言うなら「抗生物質」ですが、「抗生物質」という用語も、本来は細菌から産生する物質のことをいうので、レボフロキサシンやST合剤のような合成抗菌薬は本来「抗生物質」ではないはずなのです)。

「抗菌薬」という用語がベストでしょう。

 

また「呼吸苦」「呼吸困難感」という用語も引っかかってしまう査読者は多いです(どちらも呼吸がしにくいという感覚を表す言葉(≠呼吸不全)であり、「呼吸困難」が確実です)。
「熱発」、「グル音」、「リバース」などの俗語、ASTやALTなどの数値上昇だけで「肝機能低下」という用語をつかうこともダメです(「肝酵素値上昇」≠「肝機能低下」です)。
JCSの記載も正しくされていない例が少なくありません(JCSⅢ-100ではなくJCS100です)。

 

4.数字まわりの記載にも気を配ろう!

検査値も、単位間違いや単位が抜けてしまうことは避けましょう(結構見かけます)。
また診断の根拠になる数字の記載がないと、「この先生、しっかり症例を見てねーんだな」と思われ評価が下がってしまいます(例えば呼吸不全症例なのに動脈血液ガスの数値記載がなかったり、好酸球性疾患なのに白血球分画が記載されていなかったりなど)。

 

5.略語にも気を付けるべし!

また略語の使用時は、慎重に取り扱いましょう。

本来は正式名称の記載の後に略称を使用します(「Computed Tomography;以下CTと略す」など)。
今はそこまで厳格ではないかもしれせんが、BT、BP、HRなどの表記や、経過にCKDやHOT、GF、CFなどという用語をいきなり記載すると、突っ込まれる可能性は高いです。

記載に関しては、これを守っているだけで「あっ、この先生はしっかり病歴要約に取り組んでいるな」と思われるので、かなりacceptされる率は高くなると思います(それさえ出来ていない病歴要約が実に多いのです・・・)

さて、その「基本」ができたところで、次は記載の注意点についてです。


6.【病歴】はいつからいつまで?

まずは【病歴】を記載しますが、【病歴】は、原則的には「エピソードの開始から入院決定時まで」です。
時々【病歴】を「来院前までの状態」まで書いて、来院時所見(つまり診察室や救急室での状態)を【入院後経過】に書いてしまっていたりする例があるのですが、これは間違いとなります。

 

7.血液検査所見はしっかりと書式を守る

血液検査結果の記載で、【血液所見】、【血液生化学所見】、【免疫学的所見】はしっかり分けて書きましょう(すべての結果を【血液所見】として記載してしまう間違いを時々見かけます)。
SpO2や血液ガス所見を記載する場合は、必ずその時の条件を入れましょう(酸素投与量だけではないです。投与するためのデバイス、例えばカヌラかマスクか、はたまたNPPV,IPPV,ネーザルハイフローなのか)。


ここで気を付けるべきは、鼻カヌラ、マスクは低流量システムであり(例えリザーバーマスク15L/minでも低流量システムです)、FiO2の算出は不可能なのです。
時々O2 1L/minをFiO2 0.25などと(O2が1L/min増えるごとにFiO2が約0.04ずつ増える傾向にあるという知識から)勝手に決めて書いてしまう例があります。

低流量システムは患者側の換気量によってもFiO2は変わります。
したがって低流量システムの場合はAaDO2の算出も当然できないので、イキって記載しないようにご注意を。

 

8.副病名で登録しないこと

指定された疾患群で、事実上の副病名となる疾患を無理やり当て込むのはおススメしません。
特にJ-OSLERになってからはより厳しくなっている印象があります。

指定された疾患群の【考察】が、その疾患群の内容にあっていないと(例えば症例は血液で、主病名を貧血にしているものの、考察内容が貧血を引き起こした消化管出血に焦点を当ててしまっているなど)「規定を満たしていない」とされ、rejectになる可能性が高くなります(これやられると、評価側としては「偏った研修しかしてねーんだな」と思って、めっちゃくちゃ印象が悪くなります・・・)
書いたら必ずしっかり読み返してみて、その疾患群としての考察が適切になされているか、確認してみてください。

 

9.診断には根拠を

また、すべての記載に整合性があることはかならず確認しましょう。
特に【主病名】での診断、治療は、その診断根拠がしっかりと示されていることが大事です(治療医は【主病名】の診断、治療の根拠が例え仮説であっても考えられていなければ、治療には臨めないはずです)。
例えその病名が他科や他院で診断されたものであったとしても、その後自分が担当医として治療したのであれば、その診断根拠は過不足なく記載する必要があります(これがしっかり記載されていないと、「上級医の治療をただ何となくぼーっと見てただけなんだな」と思われ、これも印象めっちゃ悪いです)。

 

10.治療経過でのパラメータの扱いを誤らないこと

また【治療経過】で病勢評価に使用すべきパラメータはしっかりと記載し、その解釈もしっかり病歴要約内で行わないといけません。

例えば、感染症の経過の記載で時にみかけるのですが、「解熱した」、「CRPが下がった」だけを病状改善の根拠にするような記載は、内科医としては当然ダメです。
感染症では何をパラメータにすべきか、内科研修をされていたなら知っていますよね?
また、起炎菌を検索する姿勢を見せているか、その結果により治療方針を都度再検討しているか、というのも重要です(ここも内科医としての姿勢が見られています。評価者の印象が大きく影響される部分です)。

 

11.薬剤の商品名に注意!

薬剤は一般名が原則ですが、ついつい商品名で書いてしまうミスが結構多いです。
多い例としてはプレドニンワーファリンカロナールロキソニンなどです。
あまりにも商品名が定着しているのでついつい使いたくなる気持ちはわかるのですが、特にそのような薬剤ほど修正漏れには気を付けましょう(一般名、わかりますよね?)。

 

12.剖検例は、症例から学ばせていただく

剖検症例では「剖検からわかること」について考察しましょう。
時々考察で、剖検結果にはさほど触れず、疾患の定義などを羅列するような残念な病歴要約に出会うことがあります。
主治医、担当医として、治療の最後に剖検の機会を下さった患者さん、そのご家族への敬意を持っていれば、真摯に剖検に臨み、そこから何か知見を得られるはずです。

 

13.総合考察は、その症例から受け取れるonly oneを

【総合考察】では、疾患についての知見を並べただけ(つまり教科書から知見を引っ張ってきただけ)の考察は評価が非常に低くなります。

我々査読者は、「受験者はこの症例から何を学び取ろうとしたか」というところを重点的に見ます。
疾患の定義、知見の記載は、あくまで受験者が経験した、その症例を論じるための前提にしか過ぎません。

自らが経験したその症例が、その疾患の一般的な知見と合致するのか、もしくは例外的なのか、そしてそれは何故なのか。
またその自験例だからこそわかったことは何なのか、ということを中心に記載したいところです。

 

14.全人的考察とは?

【総合考察】では「全人的考察」というのが非常に重視されますが、実はここに「全人的考察」を織り込むと、総合考察の質が一気に上がり、13で述べたことは解決してしまいます。
「全人的考察」は「その患者さんや周りの人の考え方、背景などを織り込む作業」であるため、それを考えるだけで、その自験例がonly oneとなるのです。

「全人的考察」と聞くと難しい印象を持つ方も多いのですが、実は通常医師として診療中は必ず考えていることです。

例えば悪性腫瘍の化学療法の適応があり、家族は前向きだが本人は前向きではないな場合。
主治医としては治療適応を考える際に、標準治療のことだけでなく、そもそもその方にどう説明しようか、治療拒否されたらどうしようか、そんな時は家族とどう折り合いをつけていこうか、もし実施したのちに強めの副作用が出たときに、その後治療継続はどうしようかなど、内科医としては当たり前のように「その患者さん、周りの方の考え方や背景」を否応なく考えていますよね。

つまりそれが「全人的考察」です。

難しいことではありません。
むしろ武器として使っていければいいかと思います(とってつけたような「患者さんの気持ちを理解しながら治療した」程度の言葉を付け加えるだけは、「全人的考察」にはなりません)。

ここまで気を付けて頂ければ、今の制度なら病歴要約はほぼ間違いなくacceptされるはずです。
とにかく査読委員にいい印象を持ってもらうことを意識して皆さん取り組んでください!





一般の皆様、ただいま!!

最後は一般の皆様へのご連絡です。

12月27日をもって本年の診療が終了いたしました。
本年も皆様、当院をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。

先ほどもお話しさせていただいたように、当院に受診される方の急増でご予約が非常に取りにくくなっております。
現在当院で診察していただける医師を探しておりますが、それまでの間は、かかりつけの患者様、転院希望の患者様の対応を優先せざるを得ない状況です。
状態が落ち着いている方は加藤医師、平田医師、飯沼医師の枠も是非ご利用ください(いずれの診療枠もすべての方がご利用可能です)!

年明けもしばらくの間、発熱・感染症外来はやや縮小せざるを得ない状態となります。
かかりつけでお調子を崩された方に関しましては、こちらの条件に当てはまる場合は、通常枠がなくてもクローズの臨時枠にてお受け致しておりますので、お電話でご相談ください!

それでは皆様良いお年を!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.12.03更新

この前新年を迎えたと思ったら、あっという間に師走です・・・

年末年始に加え、当院への転院希望の方の急激な増加で、びっくりするくらい年末まで予約が埋まってしまっています・・・
ご予約をお取り頂くのが、今までになく難しくなってしまい大変申し訳ないのですが、おかかりつけの方の急な体調悪化は、当院の規定に従い、必ず受診できるようにご案内をしておりますのでご安心頂けたら幸いです。

さて前回までで、5種類あるうちの喘息の生物学的製剤の3種類をお話ししました。
今回は、残りの2種類についてお話をしてみようと思います。

まずは、もう一度「喘息の炎症の起こり方」の図を載せてみます(この図は1日かけて結構頑張って作ったので、どうせならいっぱい使ってみたいのです(笑))
喘息炎症カスケード

 

そして、5種類の生物学的製剤の一覧ももう一度載せてみましょう。

喘息生物学的製剤一覧

前回は「ゾレア」「ヌーカラ」「ファセンラ」まで説明しました。
今回はその隣、「デュピクセント」から説明をしてみましょう。

デュピクセント

この薬は当院でも比較的良く出している薬です。
「デュピクセント」は、この図の中で、今までよりもやや上流側に位置する「IL-4」「IL-13」を妨害するお薬です。

アレルゲンが体の中に入ってくると、そのアレルゲンの敵情報を樹状細胞が拾って、ヘルパーT細胞に情報提供されます。
このヘルパーT細胞B細胞に抗体を作らせるのですが、その際にヘルパーT細胞が「IL-4」「IL-13」「指示伝達物質」として使って、B細胞により多くのIgEおバカ抗体、でしたね)を作らせます。
デュピクセントはこの指示伝達物質を妨害することで、IgEがつくられないようにしてくれます。

また、ヘルパーT細胞自然リンパ球からも「IL-13」が出され、それが直接、気管支上皮の細胞や、その周りを取り囲む「平滑筋」を収縮させて気道を狭くしてしまいます。
すると気管支が狭くなり空気が通りにくくなることで苦しくなるのですが、デュピクセントはこれを抑えることができます。

喘息に関しては12歳以上の方に対して使用可能で、このデータでないと使えないというのはないのですが、そのメカニズムから、呼気一酸化窒素濃度(当院では「気管支のアレルギー反応の程度を見る検査」というように説明しています)の数値が高い方が比較的効きやすいと考えられています。

またこの薬剤は、「好酸球性副鼻腔炎」「アトピー性皮膚炎」にも使用できます。

特に「好酸球性副鼻腔炎」「喘息」非常に合併する頻度が高いと言われています。
好酸球については前回のブログでもご説明しましたが、好酸球は炎症を引き起こす細胞で、これが鼻に集まると、副鼻腔炎が慢性的におこり、その結果鼻にポリープが出来て、鼻詰まりがひどくなり、より一層副鼻腔炎が悪化します。

鼻と気管支は「1本の管」でつながっている
わけですので、鼻より下流にある気管支でも同じように好酸球が悪さをすることが良く起こり得るわけです。
このような方に「デュピクセント」を使うと、鼻と気管支がいっぺんに良くなるため、ハマる方はめちゃめちゃいい薬です。
同じことは「アトピー性皮膚炎」でも言えます。
アトピーと喘息が合併する方も少なからずいらっしゃるので、両方にお悩みの方に関してはこの薬はハマりやすいですね。

「デュピクセント」2週間おきに注射する薬剤で、「ヌーカラ」と同様、ご自宅で自分でできるペンタイプの注射キットがありますので、頻繁に注射を打ってもらうためにクリニックに通院する必要がないというメリットがあります。
あと「ゾレア」を除けば、他の生物学的製剤よりは多少お安めなのもポイントになるかもしれません。


最後に「テゼスパイア」です。
この薬剤は2022年度に新発売された、まだこの世にでてきて間もない薬剤です。
この薬剤は、喘息の反応でいえば一番上流部分を抑える薬剤になります。
テゼスパイア

 

気管支が、アレルゲン感染症、その他の様々な刺激に暴露された時、気管支の細胞は、その刺激の元となった敵を排除するために、周りに「TSLP」というサイトカイン(お知らせ物質)が放出されます。
その「TSLP」が放出されると、自然リンパ球が目覚め、様々な炎症反応の起点になってしまいますが、「テゼスパイア」「TSLP」を抑えることで、この反応を防ぐことができます。
一方「TSLP」「樹状細胞」に仕事をさせるようにも促しますが、「テゼスパイア」はこれも抑えることで、その後の「ヘルパーT細胞」「B細胞」「好酸球」などが働こうとする力を抑えます。

 

上流で抑える薬のメリットとしては、その下流にある多くの経路をまとめて抑えることができるので、複合的な反応が起きている場合には、複数のポイントを同時に抑えることができるです(一方、症状をもたらす反応がピンポイントで起こっている場合は、そこを局所的に抑える薬がぴったり合えば症状を抑える力は強くなる傾向にあると言われています。「ゾレア」「ヌーカラ」「ファセンラ」は比較的ピンポイントで抑えると言える薬剤です)。

ですので、この「テゼスパイア」という薬の大きなポイントは、「典型的な反応IgEとか、好酸球とか)によらない喘息」に、効果が期待できる面があるというところです(もちろんメカニズムからは喘息に典型的な反応が起こっているようなパターンでも効果は期待できます)。
このようなタイプの喘息は、通常使われる吸入ステロイドや抗アレルギー薬などが効きにくいパターンがあり、今まではなかなか治療のしようがなかったケースも多かったのですが、このタイプの喘息の方に期待できる、稀有な薬剤ともいえるかもしれません。

現時点(2023年12月時点)ではまだ自己注射ができませんが、今後自己注射ができるようになることが予定されています。

というわけで5種類の薬剤について説明をしてみました。
この薬剤、ここまでお話をすると本当に画期的な薬です。

でも皆さんの周りで使っていらっしゃる患者さん、そこまでいらっしゃいませんよね・・・

やはり、この薬剤の一番のネックは「値段」です。

上に挙げたとおり、どうしても1本あたりの値段がとても高い薬剤であり、3割負担でも結構な額になってしまいます。
また1回で終わり、とか、良くなったら終わり、とかという薬剤ではないので、どうしても毎月の支払いが難しいとお考えになる方は少なくありません。

このような状況に、助けになるかもしれない制度がいくつかあります。
皆さんが対象になりえるのが「高額療養費制度」です。

「高額療養費制度」とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月(他の外来医療機関の支払いもまとめて計算することができます)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を国が補助してくれる制度です。
その上限額は、年齢やその方の収入によって変わり(収入が多いほど上限額は上がります)、支払額は世帯でまとめることができます。
またこれらの薬剤は2~8週で定期的に使用する薬ですが、この制度は1年に3回以上この上限を超えた場合に、4回目からはその上限額がさらに下がる(多数回該当といいます)という制度もあり、定期的にこの薬を使用する方は該当できるケースがあります。

他にも、ご加入されている保険組合によっては独自の給付を行っているケースもあります。

また「デュピクセント」を利用できる好酸球性副鼻腔炎や、「ヌーカラ」を使用できる好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は、確定診断できれば難病指定ができるケースがあり、これが通った場合はさらに医療費助成を受けられるケースもあります。
あと、病状が極めて重症で、呼吸不全(在宅酸素を用いるなど)をきたしてしまっているケースでは身体障害者手帳の申請を行えるケースがあり、これもその障害の程度によって医療費助成を受けることができます。

確かにこれらの制度を使用しても高額にはなることが多いのですが、この薬剤を使って生活が劇的に楽になるのであれば、その価値もあるのかもしれません。
ただ何度もお話ししますが、これらの薬剤を使用する前提として、まずは適切な喘息の治療が行えていることが絶対です(ここがおろそかなのにこんなに高い薬を続けなければならなくなるのは本末転倒ですよね・・・)。


しっかりと適切な吸入薬が選択されている、その吸入薬が正しく使われている、その他の薬剤も適切に入っている・・・

ここまではマストで、話はそれからなのです。

ですので、喘息で日常生活を送るのに困ってしまっている方、まずは今の治療が適切かどうか、しっかりと主治医の先生と確認したうえで、それが大丈夫だったら是非一度主治医の先生と生物学的製剤について考えて頂き、導入できる医療機関でのご相談を検討してみてください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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