この前新年を迎えたと思ったら、あっという間に師走です・・・
年末年始に加え、当院への転院希望の方の急激な増加で、びっくりするくらい年末まで予約が埋まってしまっています・・・
ご予約をお取り頂くのが、今までになく難しくなってしまい大変申し訳ないのですが、おかかりつけの方の急な体調悪化は、当院の規定に従い、必ず受診できるようにご案内をしておりますのでご安心頂けたら幸いです。
さて前回までで、5種類あるうちの喘息の生物学的製剤の3種類をお話ししました。
今回は、残りの2種類についてお話をしてみようと思います。
まずは、もう一度「喘息の炎症の起こり方」の図を載せてみます(この図は1日かけて結構頑張って作ったので、どうせならいっぱい使ってみたいのです(笑))
そして、5種類の生物学的製剤の一覧ももう一度載せてみましょう。
前回は「ゾレア」「ヌーカラ」「ファセンラ」まで説明しました。
今回はその隣、「デュピクセント」から説明をしてみましょう。
この薬は当院でも比較的良く出している薬です。
「デュピクセント」は、この図の中で、今までよりもやや上流側に位置する「IL-4」と「IL-13」を妨害するお薬です。
アレルゲンが体の中に入ってくると、そのアレルゲンの敵情報を樹状細胞が拾って、ヘルパーT細胞に情報提供されます。
このヘルパーT細胞がB細胞に抗体を作らせるのですが、その際にヘルパーT細胞が「IL-4」、「IL-13」を「指示伝達物質」として使って、B細胞により多くのIgE(おバカ抗体、でしたね)を作らせます。
デュピクセントはこの指示伝達物質を妨害することで、IgEがつくられないようにしてくれます。
また、ヘルパーT細胞や自然リンパ球からも「IL-13」が出され、それが直接、気管支上皮の細胞や、その周りを取り囲む「平滑筋」を収縮させて気道を狭くしてしまいます。
すると気管支が狭くなり空気が通りにくくなることで苦しくなるのですが、デュピクセントはこれを抑えることができます。
喘息に関しては12歳以上の方に対して使用可能で、このデータでないと使えないというのはないのですが、そのメカニズムから、呼気一酸化窒素濃度(当院では「気管支のアレルギー反応の程度を見る検査」というように説明しています)の数値が高い方が比較的効きやすいと考えられています。
またこの薬剤は、「好酸球性副鼻腔炎」と「アトピー性皮膚炎」にも使用できます。
特に「好酸球性副鼻腔炎」と「喘息」は非常に合併する頻度が高いと言われています。
好酸球については前回のブログでもご説明しましたが、好酸球は炎症を引き起こす細胞で、これが鼻に集まると、副鼻腔炎が慢性的におこり、その結果鼻にポリープが出来て、鼻詰まりがひどくなり、より一層副鼻腔炎が悪化します。
鼻と気管支は「1本の管」でつながっているわけですので、鼻より下流にある気管支でも同じように好酸球が悪さをすることが良く起こり得るわけです。
このような方に「デュピクセント」を使うと、鼻と気管支がいっぺんに良くなるため、ハマる方はめちゃめちゃいい薬です。
同じことは「アトピー性皮膚炎」でも言えます。
アトピーと喘息が合併する方も少なからずいらっしゃるので、両方にお悩みの方に関してはこの薬はハマりやすいですね。
「デュピクセント」は2週間おきに注射する薬剤で、「ヌーカラ」と同様、ご自宅で自分でできるペンタイプの注射キットがありますので、頻繁に注射を打ってもらうためにクリニックに通院する必要がないというメリットがあります。
あと「ゾレア」を除けば、他の生物学的製剤よりは多少お安めなのもポイントになるかもしれません。
最後に「テゼスパイア」です。
この薬剤は2022年度に新発売された、まだこの世にでてきて間もない薬剤です。
この薬剤は、喘息の反応でいえば一番上流部分を抑える薬剤になります。
気管支が、アレルゲンや感染症、その他の様々な刺激に暴露された時、気管支の細胞は、その刺激の元となった敵を排除するために、周りに「TSLP」というサイトカイン(お知らせ物質)が放出されます。
その「TSLP」が放出されると、自然リンパ球が目覚め、様々な炎症反応の起点になってしまいますが、「テゼスパイア」は「TSLP」を抑えることで、この反応を防ぐことができます。
一方「TSLP」は「樹状細胞」に仕事をさせるようにも促しますが、「テゼスパイア」はこれも抑えることで、その後の「ヘルパーT細胞」「B細胞」「好酸球」などが働こうとする力を抑えます。
上流で抑える薬のメリットとしては、その下流にある多くの経路をまとめて抑えることができるので、複合的な反応が起きている場合には、複数のポイントを同時に抑えることができる点です(一方、症状をもたらす反応がピンポイントで起こっている場合は、そこを局所的に抑える薬がぴったり合えば症状を抑える力は強くなる傾向にあると言われています。「ゾレア」「ヌーカラ」「ファセンラ」は比較的ピンポイントで抑えると言える薬剤です)。
ですので、この「テゼスパイア」という薬の大きなポイントは、「典型的な反応(IgEとか、好酸球とか)によらない喘息」に、効果が期待できる面があるというところです(もちろんメカニズムからは喘息に典型的な反応が起こっているようなパターンでも効果は期待できます)。
このようなタイプの喘息は、通常使われる吸入ステロイドや抗アレルギー薬などが効きにくいパターンがあり、今まではなかなか治療のしようがなかったケースも多かったのですが、このタイプの喘息の方に期待できる、稀有な薬剤ともいえるかもしれません。
現時点(2023年12月時点)ではまだ自己注射ができませんが、今後自己注射ができるようになることが予定されています。
というわけで5種類の薬剤について説明をしてみました。
この薬剤、ここまでお話をすると本当に画期的な薬です。
でも皆さんの周りで使っていらっしゃる患者さん、そこまでいらっしゃいませんよね・・・
やはり、この薬剤の一番のネックは「値段」です。
上に挙げたとおり、どうしても1本あたりの値段がとても高い薬剤であり、3割負担でも結構な額になってしまいます。
また1回で終わり、とか、良くなったら終わり、とかという薬剤ではないので、どうしても毎月の支払いが難しいとお考えになる方は少なくありません。
このような状況に、助けになるかもしれない制度がいくつかあります。
皆さんが対象になりえるのが「高額療養費制度」です。
「高額療養費制度」とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月(他の外来医療機関の支払いもまとめて計算することができます)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を国が補助してくれる制度です。
その上限額は、年齢やその方の収入によって変わり(収入が多いほど上限額は上がります)、支払額は世帯でまとめることができます。
またこれらの薬剤は2~8週で定期的に使用する薬ですが、この制度は1年に3回以上この上限を超えた場合に、4回目からはその上限額がさらに下がる(多数回該当といいます)という制度もあり、定期的にこの薬を使用する方は該当できるケースがあります。
他にも、ご加入されている保険組合によっては独自の給付を行っているケースもあります。
また「デュピクセント」を利用できる好酸球性副鼻腔炎や、「ヌーカラ」を使用できる好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は、確定診断できれば難病指定ができるケースがあり、これが通った場合はさらに医療費助成を受けられるケースもあります。
あと、病状が極めて重症で、呼吸不全(在宅酸素を用いるなど)をきたしてしまっているケースでは身体障害者手帳の申請を行えるケースがあり、これもその障害の程度によって医療費助成を受けることができます。
確かにこれらの制度を使用しても高額にはなることが多いのですが、この薬剤を使って生活が劇的に楽になるのであれば、その価値もあるのかもしれません。
ただ何度もお話ししますが、これらの薬剤を使用する前提として、まずは適切な喘息の治療が行えていることが絶対です(ここがおろそかなのにこんなに高い薬を続けなければならなくなるのは本末転倒ですよね・・・)。
しっかりと適切な吸入薬が選択されている、その吸入薬が正しく使われている、その他の薬剤も適切に入っている・・・
ここまではマストで、話はそれからなのです。
ですので、喘息で日常生活を送るのに困ってしまっている方、まずは今の治療が適切かどうか、しっかりと主治医の先生と確認したうえで、それが大丈夫だったら是非一度主治医の先生と生物学的製剤について考えて頂き、導入できる医療機関でのご相談を検討してみてください!