医師ブログ

2020.11.20更新

新型コロナの患者数が最高記録を更新するという報道が毎日流れており、何だか気が滅入る毎日です。
ここ最近の医療機関の検査体制の充実(当院でも10月からは積極的に自院での抗原検査、茅ヶ崎市検査センターへのPCR検査依頼を行っています)による検査の敷居の低下は陽性者数増加の要因の一つとしてあるとは思います。
ただ当然ながら気候の問題、人の流れの問題など、増える要素はあるわけであり、ここが気の引き締めどころでしょう。
適切なマスク装着、密の回避、手指の清潔など、改めて感染(させないように意識する)予防の基本に立ち返って頂き、メリハリのある対策を行っていきましょう。

なお当院では12月から新しい予約システムを導入します。
詳しくはまた別途お知らせしますが、今までの新患のみならず、再診の方も24時間ネット予約が可能になります。もちろん窓口予約もできます。
そして今後はある程度の診察開始時間目安を来院後にお伝えすることができるようになり、時間がかかりそうな場合は院外でお買い物をしながら時間までお待ちいただくこともできるようになります。今まで通り予約なしで直接来ていただくことも可能なシステムにしておりますが、予約によりお待ち時間が減らせますので、是非新しい予約システムを一度ご利用ください。

もう一つ、明日診療後から月曜のお休み日までの期間を使い、懲りずにまた工事します。今回は受付エリアが変わりますのでお楽しみに。

さて、このブログを始めて以来、雑誌やメディアなどの取材をいくつかお受けしましたが、今までとは趣の異なる方からインタビューのご依頼を受けました。
今回、早稲田大学法学部社会保障法ゼミ様からのご依頼で、新型コロナ感染症対応策についての政策を提言するという課題に対して取り組まれている中で、医療現場の現状をお知りになることで政策提言に生かしたいとの趣旨でした。
このブログをご覧になって、場末の当院にたどり着いたとのことです。
このブログをこのような方々まで読んでいらっしゃるんだなと、少し驚きつつ、若い世代の方々の将来のためならと思い、協力させていただくことにしました。

私もまだまだ(この開業医の世界の中では)若いと勘違いしておりましたが、やはりもうすでに40代(今日もまた1歳余計な年を取りました・・・)、zoomの画面越しでも、年代の果てしない距離をひしひしと感じたことをここに記しておきます。

今回は実際の医療現場において我々が直面していることについてのご質問でしたが、このことをブログで発信し、皆さんに知っていただくことも一つの意義になるのではと思い、その一部をここにも載せてみることにしました(以下の記載はあくまで私個人の経験、意見です)

① 現場で困難だったことは何でしょうか?
A.3-4月当初のマスクやガウンなどの消耗品の入荷不足、値段の高騰は大きな影響がありました。今後いつ品薄が再燃するか、常に気がかりです。
またクラスターが発生した場合に施設名を名指しで発表されてしまうと、当然クリニック運営に対しては致命的な打撃となります(ほかの業種ももちろん同じでしょう)。このことにより医療施設が萎縮したことも、軒並み発熱患者を受け入れなくなった一因かと思います。そのため一部の発熱患者を診療する医療機関に殺到して、職員、患者に更なる不安を与えてしまったように思います。クラスターつぶしは必要なことですが、私個人としては、マスコミで施設名まで殊更大きく発表しなくても十分可能なのではと思います。

② 貴院がもし政府の手を借りることができるとしたら、どのような施策を希望しますか?
A.一番は仮に院内感染がおこった場合の行政のサポート(職員の雇用維持や家賃の補償など)です。実際の収入減に対するサポートはありましたが、何か今後起こる困難に対するサポートが不十分です。これがしっかりしていると診療に対する危機感は薄まり、おそらく発熱診療に手を挙げる施設も増えるように思います。また前述の通り頑張って発熱患者を受け入れているところをさらし者にしないでほしい。とにかく発熱患者を診ることに対するネガティブな要素を取り除いてもらうことが一番大事です。

③ 初期に感染者の出た地域に物資や人手を集約するという施策を考えるとして懸念等はあるでしょうか?
A.通常医師、看護師には、勤務地のテリトリーがあります。医師が持ち場を離れると、担当患者を診る医師がいなくなり、そこに対する手当が必要になります。自然災害のようにある程度援助すべき場所と期間がはっきりわかっていれば、そこを何とかやりくりすることもできるが、今回のような場合はいつまで続くか、どこに集約すべきかというのが見通せないため、現実的には難しいのではないでしょうか。物資に関しても、現在流行地でないところには感染対策器具が必要ないわけではない(むしろ世間からの圧力により、新たな流行元になってはならないと考えるでしょうから、それらの需要はむしろ高まるかもしれません)ので、集約させることは難しいのではないでしょうか。

④ マスコミや政府の発表と現場での体感で乖離している事柄があればお聞きしたいです。
A.PCR検査は(少なくとも現在の当地では)それほど敷居の高い検査ではなく、我々が必要あると考えれば受けることはそれほど難しくありません。おそらく敷居が高いといわれている一つの要因としては、検査が必要なのにできないということでなく(もちろんそういうケースもあったのでしょうが)、そもそも検査が必要ないと医療者が考えて検査を出さないというケースも少なくないからかもしれません。一般的な検査の感度、特異度を考えた場合、臨床的判断がない状態で検査を行ってもこちらを参考に)、その検査の結果が診断の確からしさを上げることには寄与しにくく、むしろ偽陽性、偽陰性を生み出すリスクが出てきます(無症状の選手たちに連日検査を行い偽陽性となった体操の内村選手がよい例です)。また現在でもコロナPCR検査におけるはっきりとした感度、特異度は未だ明確ではなく、検査結果の確からしさを推測することさえ難しいのが現状です。

⑤ 院内感染の予防策をいくつか教えていただきたいです。
A.当院では来院時の手指消毒、飛沫感染予防のための受付のアクリルパーティション、患者さん同士の感染を避けるためのパーティション、定期的な院内アルコール消毒、発熱患者さんと一般患者さんの動線分離、予約システム導入による待ち時間減少、屋外での検体採取、診察時のマスク、手袋、ガウン装着、診療開始時間の目安の提示(一旦外出させることが可能)などを行っています(今後実施予定のものを含む)。

⑥ 医療従事者目線から、新型コロナウイルスの感染拡大対策はどこで何をすべきであったと考えますか?
A.一般的にはコロナ感染症は飛沫接触感染と考えられます。通常特殊な環境でない限り空気感染は起きないといわれています(いろいろ説は出ていますが、もし空気感染がおこりやすい感染症であれば感染者数はこんなものではないはずです)。また症状発症前や無症状患者からの感染を示唆されています。つまり大事なのは適切なフィジカル、ソーシャルディスタンスであり、やはり密の形成を避けることは理にかなっています。また感染可能性のある場面での正しいマスク装着は非常に大事だと思いますが、逆に屋外で街を歩く程度ではマスクの必要性は低いかもしれません。

⑦ オンライン診療等あれば院内感染を防げたと考えているのですが、オンライン診療の障壁等あれば教えていただきたいです。
A.私個人の考えとしては、今の回線品質では、顔色なども十分に反映せず、もちろん触ったり音を聞いたりの診察、各種検査はできません、画面上で本人の顔を見ても、得られるのは多少の安心感だけで、その画面からはほとんど有益な情報は得られないように思います。現状のオンライン診療から得られる情報はあくまでも問診の情報のみにとどまるので、受診を迷う患者の相談窓口としては機能するかもしれませんが、処方もいわゆる対症療法しかできません(風邪診療の方法についてはこちらから)。つまり現時点では使い道はないわけではないものの、対面診療の代わりにはなりえないと思います。

⑧ 病床数が不足していた際に、例えば政府がより多くのホテルを病床として確保するという施策は解決になりえるでしょうか?
A.ホテルを病院の代替として利用することは難しいのではないでしょうか。医療器具などが揃っていないので患者の十分なケアを行うことができません。また急変があった場合、患者からの直接の申し出がないと医療者も気づかないので、見逃してしまうリスクもあります(病院なら看護師が定期的に巡回して、状態悪化があればバイタルモニターを装着します)。あくまで隔離施設としての活用に留まるのではないかと思います。


正直今私は発熱患者さんの入り口の役割を演じており、現在コロナ治療の最前線に立っているわけではありません。ですので最前線の実情を見られているわけではありませんが、1年半前までは呼吸器専門医として各種呼吸不全の病態に対峙し、またインフェクションコントロールドクター、院内感染対策部門担当として何度もアウトブレイクに対応した経験、それを今でも戦っている先輩方、我々から受け継いだ後輩たちから伺う現況から、今最前線で起きていることを推測してお話ししました。
とにかく私個人もこの立場でできることを精一杯頑張るので、最前線の皆様たちも是非頑張ってこの難局を乗り越えていってほしいと思っています。

そして、今回インタビューを申し込んでいただいた早稲田大学法学部の皆さん、ありがとうございました。答えのない課題だとは思いますが、頑張って皆さんなりの最適解を導いてください。そしていっぱい考えることで成長し、私たちの次の世代として社会を支える人材となれることを期待しています!

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.11.03更新

ここ1か月ほどブログがご無沙汰になってしまいました。

理由は2つ。一つはインフルエンザワクチン接種で多くの方にご来院いただき、非常に多忙となってしまったためです。
今年はワクチンの入荷が早く、また早期から接種を希望される方が非常に多かったため、10月のワクチンの接種数が例年よりもかなり多くなりました(当院でも10月は、昨年の約5倍の方にワクチン接種を行いました)。
大変申し訳ありませんが、当院のワクチン在庫も例年とは傾向が異なっているため皆様のご希望に沿えない場合もあるかもしれませんが、最新情報は逐一こちらのページで発信致しますのでご参照ください。


もう一つが講演会の準備でした。10月30日に茅ヶ崎寒川薬剤師会とコラボをして、吸入指導連携セミナーの講演をしてまいりました。少数の医師、薬剤師の先生方に現地でご来場いただいた上で、その他の多くの先生にはオンラインでご視聴いただきました。

茅ヶ崎寒川吸入指導連携セミナー

今回は新しい試みとして、いろんな種類の吸入器具を大量に現地に持ち込み、吸入薬の使い方のコツ、患者さんがミスしやすいところを実演し、それをオンラインで配信するという方法でやってみました。回線速度に限界がありやはりやや見にくい面はあるようでしたが、予想以上の人数の先生方にご視聴いただき、また講演後はありがたくもご評価の声を多く頂くことができました。
現地にご参加いただいた先生方、オンラインでご視聴いただいた先生方、この場を借りて御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

講演1

講演2

 

さて、今回はその吸入薬の中で、ブリーズヘラーについて取り上げてみましょう。吸入薬の落とし穴シリーズ第三弾です。

ブリーズヘラーは、今までは主にCOPDの治療に用いられている「ウルティブロ」「オンブレス」「シーブリ」に用いられる器具です。ここにこの8月、喘息に用いられる薬剤として「エナジア」「アテキュラ」が加わり、全5種類となりました。
特に「エナジア」は、ステロイドと、β2刺激薬という気管支拡張薬の配合に加え、新たに抗コリン薬というタイプの気管支拡張薬も一緒に配合された、本邦初めての3種配合の喘息治療薬となります(他にも3種配合の吸入薬はすでにありますが、現時点ではCOPDのみに使える薬剤です)。
1日1回の吸入で済むこともあり、今後なかなか症状のコントロールが難しい重症喘息の方に良い選択肢になるのかなって思います。

ただ、やはり何度もこちらで触れている通り、吸入薬は使い方が大変重要です。間違って使ったらどんなにいい薬でも効きません。
さて、この吸入器具にはどんな落とし穴が待っているのでしょうか。

この薬剤は下のような器具にカプセルを入れて、横のボタンを押すと出てくる針でカプセルに穴をあけ、それを吸い口から吸うという薬剤になっています。

ブリーズヘラー

まずはカプセルを取り出すときの注意点です。実は上の5種類の薬剤で、「オンブレス」という薬剤だけは通常のフィルムと同様、押し出してカプセルを取り出します。そしてその他の薬剤は、フィルムを剥いて取り出します。このカプセルの取り出し方を間違うとカプセルが潰れてしまい、使えなくなってしまうので、よく説明を確認して取り出しましょう。

ブリーズヘラー

また器具の中にセットした後、横のボタンを押して、それによって出てくる針でカプセルに穴を開けるわけですが、穴を開けずに吸ってしまったら全く薬は出てきません。
それと、ボタンは左右ともあるので、両方とも押すことでカプセルの左右両方から針が出てきて穴を開けられます。しかしか片方しか押さないと穴も片方しか開かず、中の粉がうまく出てこなくなります。
一方吸入するときにはボタンを離さなければなりませんが、ボタンを押したまま吸入すると、当然カプセルは串刺しのままになるので全く薬は出なくなってしまいます(実際に時々見かける落とし穴です)。

ブリーズヘラー

あとは、この器具は、吸うとカプセルが中でカラカラ音を立てて回りながら中の粉末が気道に吸われていくので、そのカラカラカプセルが回る音が鳴ることがうまく吸えた合図になりますが、その音が鳴らないまま吸入を終えてしまうと粉が出てきません。
うまく吸うには少しコツがいる場合がありますので、うまくいかない場合は、処方した医師や薬剤師に相談しましょう。

ブリーズヘラー


最後に、このカプセルは当たり前ですが飲んではいけません。他の内服薬とつい一緒に飲んでしまわないよう、間違わないようにしましょう。

いままでご紹介した他の器具に比べ、吸えていることが自分で確認できるなど、わかりやすさを追求した吸入器ですが、やはり落とし穴はいろんなところに散りばめられています。
わからないことは何でも遠慮なく聞いて使用するようにして下さい!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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