医師ブログ

2024.07.10更新

前回のブログはこちら!

 

さて、前回はステロイドというお薬の説明を行ってみました。


おさらいをすると、ステロイド薬とは、副腎皮質という臓器が作る「コルチゾール」というホルモンを人工的にまねて作られた薬剤で、働きとしては体の中で起こっている炎症を強制終了させる役割を持っています。
そのため、体の中で不要な炎症が起こっている場合に、とても効果を発揮する薬です。

ただ、とても有用な「ステロイド薬」は、皆さんご存じの通り、その裏に危険をはらんでいます。

そんな一見万能薬とも見える「ステロイド薬」の、負の側面と、それに対してどのように有効に使用していけばいいかということを、今回はお話してみようと思います。

まず、ステロイド薬飲み薬、および注射など、長期にわたり全身に効く形、つまり「全身投与」で使い続けた場合、いったい何が起こるのでしょうか?

ステロイド薬の原型である「コルチゾール」というホルモンは、副腎皮質で作られます。

通常、体の中にはホルモンの量を調節する機構が備わっています。

「コルチゾール」は体の中に少なくなると、脳から副腎皮質に働きかけて、副腎皮質を頑張らせる「副腎皮質刺激ホルモン」というホルモン出てきて、減ったコルチゾールを増やそうとします。
逆に、「コルチゾール」がだぶついてくると、今度は脳から出る「副腎皮質刺激ホルモン」量が少なくなり、副腎はコルチゾールの産生を減らすのです(これをフィードバック機構と呼びます)。

ところがステロイド薬をずっと体に取り込んでいると、体は「コルチゾール」が常に満たされていると判断してしまい、脳から「副腎皮質刺激ホルモン」を出さなくなってしまいます。
でも実際は副腎皮質で「コルチゾール」を作っているわけはないので(体の外からステロイド薬が入ってきているだけなので)この状態が長ーく続くと、副腎皮質はコルチゾールを作らずに徐々に小さくなってしまいます。

そんな時、急に「ステロイド」薬をやめてしまうとどうなるでしょうか?


もちろん脳からは副腎皮質刺激ホルモンが出てきます。
しかし、小さくなってしまった副腎皮質はすぐにはその命令に従うことができず、「コルチゾール」を増やすことができません。

すると、体の中から「コルチゾール」も「ステロイド薬」も、どっちもない状態になってしまいます。

「コルチゾール」は、電解質のバランスを整えたり、糖や脂質、タンパク質の代謝を制御したりして、生命維持を行うホルモンだと説明しました。
体から急にこのホルモンがなくなると、体からのエネルギーを作ることができないので、全身倦怠感が現れ、血圧が下がってしまいます。
また電解質バランスが崩れて、血糖が低下してしまい、生命が危機的状況に陥るのです(この状態を「副腎クリーゼ」と呼びます)。

フィードバック

これを避けるためには、「ステロイド薬」を、副腎皮質が小さくなるまでにやめる必要があります。
また、やむなく長期に続けなくてはならない場合は、副腎皮質の機能が徐々に戻ってくるのとバランスを取りながら、「ステロイド薬」をゆっくりと時間をかけて徐々に減らしていきながらやめていくという必要が出てくるのです。

だいたい間以上ステロイド薬と続けていくと、副腎は小さくなってしまうと言われています。

そのため、2週間以上ステロイド全身投与が必要な場合は、薬をやめるときに急に止めずに、徐々に減らしていくという作業が必要になります(逆を言うと、2週間以内であれば副腎皮質はすぐにホルモンを再産生することができるので、バツっとやめて大丈夫です)。

そして、この作業は「ステロイド全身投与」以外、つまり、吸入薬、点鼻薬、点眼薬、塗布薬など、飲み薬や点滴以外ではあまり考える必要がありません。
これはまた項を改めて説明しましょう。

 

このように、ステロイド薬の全身投与は長く続けた場合、急にはやめられなくなります。
また、体の中の炎症が持続しておこっている場合、その病気を抑えるためにステロイド薬を長期間続けていかざるを得ないケースも少なくありません。

すると、長期に全身投与を続けた場合に起こりうる副作用について、注意をしていく必要があります。
ここからはその点について簡潔にお話をしてみます。

まずは感染症についてです。

ステロイド薬の主な狙いは、炎症をおさえることでした。

炎症はもちろん病気の症状を抑えるのに役立ちますが、一方外界から異物が入ってきたときに、異物を追い出すため、つまり免疫反応にも炎症は起こります。

ステロイド薬が長く続くと、この免疫反応が落ちてしまいますので、感染症にかかりやすくなり、普段は免疫の力でめったに発症しないような菌やウイルス、カビなどにも負けてしまうことがあります。
また結核菌やヘルペスなどは、一度かかると、症状が治った後も菌が体の中に潜んでいることがあります。
免疫が弱くなると、潜んでいた病原菌が再度活性化し、結核や帯状疱疹になることもあるのです。

次に胃腸症状です。

「コルチゾール」は、胃酸を減らす反応を抑えてしまい、胃酸を増やす作用を持ちます。
またたんぱく分解作用があるので、たんぱくを主成分とする胃粘膜が弱くなります。

ステロイド薬が続いた場合、これらの影響で胃潰瘍、十二指腸潰瘍が起こりやすくなります(そのためステロイド薬が長期にわたるときは、必ず胃酸を抑える薬を併用します)。

そして、血糖値の上昇です。


「コルチゾール」は、臓器から糖を取り出し、エネルギーとする働きがありました。
ですので、ステロイド薬が長く続くと、血糖値の上昇を招き、糖尿病の発症、糖尿病の悪化を引き起こす可能性があります。

これに合わせて、ステロイド薬は血圧上昇を引き起こします(これはステロイド薬が糖質コルチコイド作用の他に、多少のミネラルコルチコイド作用も併せ持つからです。ミネラルコルチコイドは血圧の上昇にとても大きな役割を果たしています)。

血糖だけでなく、血圧を上げてしまうことで、動脈硬化は進みやすくなります。
心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症のリスクが上がるのです。


更には、ステロイド薬は骨粗しょう症も引き起こします。


ステロイド薬は腸からのカルシウムの吸収を抑える作用があり、その補充として骨からカルシウムを取り出して補おうとしてしまいます。
そのためカルシウムを抜かれてスカスカになってしまった骨は、脆くなってしまい、骨粗しょう症になってしまいやすくなります(ですので、長期でステロイド薬を使用する場合は、骨の分解を抑える薬を併用します)。


他にも、ステロイド薬を長期に続けると、緑内障、白内障、筋肉の減少、うつ、不眠症、むくみ、顔面や肩、お腹まわりの脂肪沈着などなど、いろいろな不都合を起こします。



しかし、やはり「ステロイド薬」は、いろんな症状を抑えることができる凄い薬でもあります。
私たちは、ステロイド薬の飲み薬や点滴を用いるときは、これらを常に頭に入れながら、細心の注意を払って使用しています。

ステロイドと聞くだけで怖いイメージを持たれる方もいらっしゃいますが、是非主治医に聞いて、しっかり納得、理解した上で、最大限の効果を引き出して頂ければと思います。

 

それでは次のブログでは、吸入をはじめとする、飲み薬でない「ステロイド」の注意点をお話ししようと思います。

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.07.03更新

なんだか発熱患者、増えてます。
そして、コロナ感染も、じわじわ増えています(実はインフルエンザ感染も、まだぽつぽつと出ております)・・・

当院の発熱・感染症外来は、6月初旬ごろまでは落ちついていたのですが、6月中旬からにわかに殺気立ち、7月に入ってからかなりの勢いで増えている印象です(昨日は18名もの方が当院の発熱・感染症外来に受診されました)。

そして、そういえば最近は、コロナワクチンを打っていない方の初感染の方を時々見るようになりました。

若い方を中心に、昨年のコロナワクチンを打っていない方は結構いらっしゃり、ここ2年程度ワクチンを打っていない人は多い印象なのですが、それでも未接種の方と、2年前にオミクロンワクチンを打っている方とで、なんだか症状の重みに差があるような気がするのです・・・


「コロナは風邪」というのは、すでにあながち間違いではないとは思うのですが、それはやはりワクチンを打ってこそ。

接種されている方のコロナ感染は「コロナ=風邪、ときどき+α」なのですがまったく未接種の方は「コロナ≧風邪(つまり、未接種でも風邪と同じくらいで済んでしまう方は少なくないのですが、咳などの後遺症の頻度も含め、そうじゃない方が割合としては少なからずいらっしゃるという意味です)」といった印象をもっています。

おそらく例年の傾向だと、この先1か月はコロナがだいぶ増えてしまいそうです。

体調の思わしくない時は是非マスクを(これ、本当にマナーだと思います)、そして無理をして出社、登校したり、遊びに行ったりしないなど、基本的な感染対策は皆さん守るようにしましょ!

そして、実は今年になって、ファイザーとモデルナ以外のワクチンも続々使用できるようになってきました。
(ワクチンについてはあまり報道されなくなってしまいましたが)純国産のワクチンや、(mRNAワクチンではない)組み換えタンパクワクチンなども登場しており、当初から少しずつ環境が変わってきているのです。

本格的な接種開始は秋になると思いますが、もう少し情報が出そろったら、(最近玉石混交の、根拠の薄い「石」の情報が活気づいている印象なので・・・)客観的な情報を皆さんに提供すべく、ワクチン最新情報もまた記事にしようかなと思っております。

さて、ここから今回の本題です。


当院は非常に多くの喘息の方がいらっしゃるのですが、やはり喘息の方にとって、感染症にかかった後に一番困るのが「喘息増悪」(一昔前は「喘息発作」っていってました)です。

喘息が急に悪くなった時は、まずは気管支を広げる吸入薬(サルタノールとか、メプチンとか)を使います。
そして、その炎症反応をいち早く落ち着かせるために、吸入薬を一時的に強くしたり、アレルギーの薬を加えたりすることもあります。
症状を和らげるのに、痰切れ漢方薬を使用することもあります(いわゆる咳止めを使うことはあまり多くありません。喘息が悪化すると痰が多くなるのですが、咳止めは痰を出そうとする咳を止めてしまい、余計に悪くさせてしまうこともあるからです。乾いた咳が続くときだけ考えます)。

そして、それらのお薬でもコントロールできないときは、「ステロイド」という薬を飲んだり、場合によっては点滴をしたりすることがあります。

でも皆さん、「ステロイド」って聞くと、なんだかすごい怖い薬のように思われません?

そこで今回からは、喘息の方がいつかは使う必要が出てくるかもしれない「ステロイド」について、少し詳しく掘り下げてみて、正しく理解しながら使っていただく手助けをしてみようかなと思います。


そもそも「ステロイド」って、いったい何なんでしょうか?

ステロイドは、正確には「ステロイドホルモン」のことを指すことが多く、これは生物の体内で「コレステロール」を原材料に作られるホルモンの総称です。

その中で、医療で良く用いられる「ステロイド薬」とは、「糖質コルチコイド」という、腎臓の上にある、ちっこい「副腎皮質」という臓器から作られるホルモンを元に、人工的にまねて作られた薬のことを言います(「糖質」という名前は、このホルモンが糖の代謝に関与していることが由来です)。

人間の場合、「糖質コルチコイド」の代表として「コルチゾール」というホルモンが副腎で作られます。

副腎

ステロイドホルモンは他にも、同じく副腎で作られる「ミネラルコルチコイド(ミネラルの一種であるナトリウムの調節に関わっていることが命名の由来です)」、卵巣や精巣で作られる「性ホルモン」があります。

 

ステロイド


ちなみに「性ホルモン」である「アンドロゲン」の一種、「テストステロン」に似せて作られたのが「アナボリックステロイド」で、筋肉増強剤として知られます。
これを競技者が使用するとドーピングになります。

治療で使用する「糖質コルチコイド」のステロイド薬とは全く異なるものです(良く勘違いされたり、質問されたりする点です)。


さて、話を「糖質コルチコイド」に戻します。

「糖質コルチコイド」肝臓から糖を取り出したり脂肪を分解して脂肪酸を、タンパク質(筋肉や骨、皮膚など)を分解してアミノ酸を取り出すことで、エネルギー源を供給します。
またほかのいろいろなホルモンの制御にも関わっていたりと、生命維持には欠かせないホルモンです。

そして、「糖質コルチコイド」は、炎症によって起きる反応を抑えるという働きがあります。
つまり体の中で起きている「炎症」を鎮めることができるのです。

また、体の中でストレスが起こったときに、そのストレスに対峙できる「ストレスホルモン」の役割も果たし、体にストレスがかかると交感神経を刺激したりして、体の活動性を上げることでストレスに対峙するのですが、このような「炎症」を強力に抑える作用も、ストレス対峙には大いに役に立っているのです。

そして、その「炎症を抑える作用」を期待して使われるのが「ステロイド薬」ということになります。


そんな「ステロイド薬」は、体のなかで起きる、望まれざるやっかいな「炎症」を抑えるために、本当に多くの用途で使われます。

例えばリウマチなどの膠原病をはじめとした自己免疫の病気アレルギーの病気がん、そして、コロナをはじめとする感染症が重症化した時、などなど・・・

そして、そこには喘息も含まれます。

こちらでもご説明しているように、喘息は気管支が炎症を引き起こし、気管支の壁がむくんで狭くなったり、分泌液=痰が増える病気です。
ですので、その炎症を抑えるステロイドを使用することで、気道の状態は改善するのです。

約30年前から、喘息の治療にステロイドの吸入薬が普及し始め、喘息の症状コントロールは劇的に良くなりました。
そして今でも喘息治療の主役は吸入ステロイド薬です。

しかし、喘息が一度悪くなってしまうと、全身で炎症反応が雪崩式に次々と起こるため、吸入ステロイド薬だけでは太刀打ちできなくなってしまいます。

そんな時は、この「ステロイド薬」を、飲み薬や注射という形で、血管の中に届かせて全身を巡らせる必要があるのです。

すると、全身で激しい炎症が起こっている「喘息増悪」の状態を「強制終了」、ピンチから切り抜けられるということなのです(以前お書きしたこちらのブログ「炎症」「火事」に例えてみましたが、この「火事」に大量の水をぶっかけて「強制終了」させるのが、ステロイド内服、ステロイド注射ということになります)。

 

炎症


じゃあ、だったら喘息なんて、わかりにくい「吸入薬」じゃなくって、はじめから使いやすい「飲み薬」で飲んでおけばいいじゃん、と思いますよね?

でも、それじゃ、まずいのです。

一見「万能薬」とも見えるステロイド、しかし、その存在は「諸刃の剣」でもあるのです。

ステロイドって何が怖いの?
安全に使うにはどうしたらいい?
じゃあ吸入、点鼻とか、飲まないステロイドは怖くないの?

そんな話を、次回からお話してみようかと思います。

続編はこちら!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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