医師ブログ

2023.07.16更新

先日、お休みの日に、日頃の疲れを癒すべくタイ古式マッサージに行ってきました。

普段は指圧マッサージしかしないのですが、全身のケアも大事だろうなと思い、2時間かけて、しかも人生初のオイルマッサージまでしていただきました。
受けているときはそれはそれは気持ちよく、天にも昇る気持ち・・・
次の日から仕事がはかどるなあって思いながら過ごしていました。

受けた後もしばらくいい気持ちでいつつ、数時間後残った仕事をしにクリニックに戻ったら、なんだかおかしい・・・
やたら股関節が痛くなり、歩くのもしんどい状態に。

ついでに血流も良くなりすぎちゃって、やたら体が火照るので、なんか変な病気にかかったか!?って思いましたが、そういえばセラピストさんが施術時に言ってました。

「股関節、信じられないくらい激カタですねw」

普通にストレッチ受けただけなのに、ここまでの反応が来るとは、いかに日頃体を動かしていないのかを思い知りました。
もともとは野球部、体を動かすのは大好きだったのですが、忙しさにかまけてサボっていたら、そういえばスマートウォッチ見ても、院内を数歩行ったり来たりだけで1日2000歩も歩いてない・・・

普段患者さんには運動しましょうとアドバイスしておきながら、何たる医者の不養生。

普段の生活、少し見直すきっかけとなりました。ちょっとはがんばろ。

 


さてここ最近もあいかわらず、発熱や咳でお困りの方が数多くお見えになっており、前回お話したRS、ヒトメタに加えて、最近ではヘルパンギーナも増えました。
しかしやはりというか、コロナも着実に増えています。
速報値はでなくなったので体感でしかないのですが、当院の場合、疑いありの方で検査をすると約半分の割合で陽性という感じです。

そして、それに合わせて、コロナの後から咳が止まらないという方も非常に多くいらっしゃるようになりました。

 


そこで今回は、コロナ後に残ってしまう咳についてお話ししてみましょう。

 

 

コロナを含めて、いわゆる「風邪」には、ご存知の通り咳はつきものです。

通常「風邪」の咳は1~2週間たてば徐々に治まってきます。
一般的に3週間以内で収まる咳を「急性咳嗽」というくくりで読んでいます。

しかし、この咳が3週間以上経っても一向によくならないときは、今度は「遷延性咳嗽」というくくりになり、風邪などよくある感染症ではない原因を考える必要性が高まります。
その中で、喘息やCOPD、鼻炎・副鼻腔炎や逆流性食道炎などなど、咳を起こすいろいろな原因を探していくことが必要となります。

しかしこの中で、コロナによる咳は、いわゆる「風邪である咳」にもかかわらず、数週間、場合によっては数か月も続いてしまうことがあるのです。


当院には連日、コロナにかかった後に咳が止まらなくなったということでお困りの患者さんが市外、県外からも多くお見えになります。

その中で、コロナがきっかけとはなったかもしれないけど、今はコロナではない咳だったという方が6~7割ぐらいかなというのが私の印象です。

もともと喘息(本人がずっと気づいていなかった場合も珍しくありません)を持っていたり、実はコロナをきっかけとして鼻炎が悪化していたりなどで、適切に治療を始めてあげると割とすぐによくなってしまう方も多くいらっしゃいます。

しかし一方、やはり3~4割の方は、いわゆる「コロナの後遺症」としての咳がずっと続いてしまっている方です。
このような方々の症状は、なかなか改善が難しくなってしまうことが珍しくありません。

このような状態になってしまう方の何割かは、「咳過敏症症候群(cough hypersensitivity syndrome)」という状態になってしまっていることがわかってきました。

「咳過敏症症候群」については、こちらにもブログを書いておりますのでご興味のある方はお読みいただきたいのですが、簡単に言うと「ちょっとした刺激でも、その刺激を受け取る神経が知覚過敏になっていまい、刺激が増幅されて脳に伝わることで激しい咳になってしまう状態」のことです。

コロナウイルスがほかの風邪ウイルスと違って今でもやっかいなことが、このウイルスが神経細胞に感染してとどまってしまうという特徴を持っていることです(これは、ここでお話したACE2受容体にコロナウイルスがくっつきやすいという特性が影響しているようなのです。ACE2受容体は神経細胞も多く持っている受容体なのです)。

嗅覚を感じる神経に感染をすると嗅覚障害を起こし、脳などの中枢神経に感染をするとずっと続く頭のモヤモヤ(ブレインフォグ:脳の霧)が起こってしまうと考えられ、その頻度、強さは他の風邪ウイルスとは比較にならないほど高いのです。

 

そのコロナウイルスが、咳のメカニズムとして重要なポジションを占める「迷走神経」という神経に入り込んだ時に、この悲劇ははじまります。

 

迷走神経気管、気管支や肺を起点として、脳の咳を起こす中枢部分までを結んでいます。

コロナウイルスがこの迷走神経に感染をすると、ウイルスを排除しようと神経から「炎症物質」を出します。

またコロナウイルスはそのほかにも気道や肺の表面の細胞にも感染し、ここから同じように炎症物質を出したり、また対戦相手の白血球との戦いの中でも炎症物質が放出されたりもします。

これらの炎症物質が、迷走神経を刺激します。

そうすると迷走神経は通常ではありえないくらいの刺激にさらされてしまい、ちょっとしたことでも刺激を何倍も増幅して脳に送ってしまう状態になってしまいます。

あたかも、「電波がブースターによって何倍、何十倍にも電気信号を強くして送り出す」状態なのです。

すると、ちょっとした温度変化やにおい、アレルギー物質などによって、咳が何十倍にも増幅されてしまう状態を引き起こします。
またごく軽い喘息を持っていた場合も、その喘息による咳が何十倍も増幅されてしまい、一気に重症、難治化してしまうことも少なからず起きています。

咳過敏症症候群


先ほどもお話をしたように、このような状態になるとなかなか咳を抑えるのは簡単ではありません。
喘息などを考えて吸入薬を使ったり、量をふやしてもあまり効果が見られないことが少なくなく(ただ場合によっては、吸入薬の成分の一部がこのような炎症を抑えることができる可能性がある場合もあるので、使い方によってはまったく役立たずというわけでもありません)、また咳止め薬もブーストのかかった神経の前ではだいたい無力です。

このような咳を抑える方法として、これらの神経の過敏性を抑える薬などを使うことでよくなることもあります(これらの薬についても以前にこちらのブログでお話ししましたこのブログは2021年の内容ですが、ここで触れた「新薬」が「リフヌア」という名前で、2022年4月に発売、使用できるようになっています)。

また別のアプローチとして、漢方薬を使用することが有効であることも少なくありません。

漢方はそもそもの成り立ちとして「患者さんの体質や症状の状態に対し、バランスを整えることで効果を得る治療法」であって、「原因をつぶしに行く」西洋医学とは性格を異にします。
ですので原因に対してのアプローチが難しい、西洋医学が苦手とする状態でも、東洋医学の観点からその患者さんのバランスを整えてあげることで症状を軽くできるケースが少なくないのです。

今のコロナは、確かに多くの人にとってはただの風邪です。
でも一部の人にはとてもやっかいで、その一部には誰がなるのかわかりません。

できる対策はしっかり行っていただき(私はコロナ禍前のインフルエンザ流行期の対策を参考にしたらいいのではと思っています)、リスクを可能な範囲で下げ、それでも罹ってしまって症状にお困りになった際には一人で悩まずに、ぜひ治療に詳しい医師にご相談いただければと思います。


アフターコロナの初めての夏休みです!皆さんで賢く夏を楽しみましょう!!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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