医師ブログ

2021.06.06更新

5月下旬から茅ヶ崎市でも高齢者に対するコロナワクチン接種が始まり、当院でも5月24日から一般高齢者、医療従事者へのワクチン接種が進んでいます。
高齢者のワクチン接種に関しては、当初診察時間内に1日24人の枠で進めていく予定でしたが、かかりつけの方だけでも、このペースだとすべて終わるのが9月までずれ込んでしまうことが判明・・・

そこで急遽診察終了時間にも枠を拡大し、1日42人まで枠を増やす方針としました。

何とかこれで7月までになるべく多くの方の1回目接種を終わらせることを目標とし、8月以降に64歳未満の方の接種がスムーズに開始できるよう、スタッフ一同最大限に頑張っています。
それでもまだ慣れないこともあり、いろいろとご不安、ご迷惑をお掛けしていることもあろうかと思います。お気づきの点に関しては、遠慮なく教えていただけるとありがたいです。皆さんのご協力をよろしくお願い致します。



さて、呼吸器内科、アレルギー科を掲げる当院には、長い間咳が続き、いろんなところに受診しても改善しなかったためにいらっしゃる方が、茅ヶ崎市内に限らず、市外からも多くいらっしゃいます。

症状が残っている方の中で、一番多いのが、喘息に対して続けるべき吸入薬を続けていなかったケースです(よくなったらやめてもいいと言われたという、医師から不適切な指導をされたケースも残念ながら少なくありません・・・)。
吸入薬は使っていたものの、正しく使えていなかったために改善しないケースも少なくありません(そういえば吸入薬の落とし穴シリーズ、まだ完結していませんでした・・・今度続き書きます!)

あとはアトピー咳嗽喉頭アレルギーなどの喘息より中枢の気道アレルギーのケース、さらに上の部分となる、花粉症などのアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎に伴う咳も少なくないようです。
中高齢の方になると、タバコの影響と、これに伴うCOPDが原因であることが増えてきますし、案外逆流性食道炎に伴う咳も少なくありません。
百日咳やマイコプラズマなどの感染後咳嗽間質性肺炎気管支拡張症や結核、非結核性抗酸菌症などの慢性気道感染症薬(特に高血圧の薬)の副作用、それに肺がんなど・・・そしてこれらが複数重なっている場合など、とにかく原因として考えられるものはできるだけすべて頭の中に浮かべ診察、診断をしています。

それでも、全体の2割程度は、どう頑張っても診断にたどり着けないこともあります。

原因が見つからず、よくお話を伺うとプライベートで問題を抱えていらっしゃり、精神的な影響で咳が収まらなかった例もありますが、それさえもなく、私も途方に暮れてしまう例もあります・・・

このような症状では、原因から治療しようとしてもなかなか咳が治りません。
そこで、これらの咳については最近、全く違う視点からアプローチしようという考え方が出てきています。

最近の研究で、「ささいな原因でも、その刺激ですぐに咳が起こってしまいやすく、しかもその咳が長く続いたり繰り返したりして治りにくい」という方たちがいることが分かってきました。
どうもその理由として、その原因となる刺激(花粉などのアレルギー物質の刺激や、タバコ、病原体、煙などの機械的刺激、温度や気候の変化などなど)を感じ取って気道から脳に伝える神経が、知覚過敏を起こしていたり脳の咳中枢が過敏に反応してしまう脳の過敏症があるのではと言われており、これらが「咳過敏症症候群」と名付けられました。

原因を探り当てその治療をしても、これらの神経の過敏症が残ってしまっているために、症状がなかなか改善しなかった、というわけです。

これらの状態に対しては脳に効かせる、いわゆる中枢性鎮咳薬(コデイン、メジコン、アスベリン、アストミン、フスタゾールなど)が多少の効果を示す場合があります。
ただしこれらの薬は、原因が究明できないまま安易に使うと、本来原因が特定できるはずの場合でもその原因を隠してしまい、何度も再発を繰り返すことにつながってしまうケース、また異物や痰、病原体を追い出すために起こっている「必要な咳」まで止めてしまい、かえって症状を悪化させるケースがあり、呼吸器学会のガイドラインでは、安易な使用はできるだけ控えるように推奨されています。

近年の報告では、神経性の痛みの薬や、てんかんの薬抗うつ剤などが神経過敏に効いて咳を改善させるという報告もでています。
実際に当院でもこのような患者さんにこれらの薬を使用したところ、咳が大幅に改善した例があります。

また最近は、気道や脳にある、これらの知覚神経の受容体をブロックする新しい薬も発売が近づいているという情報もあります。味覚障害の副作用も報告されているようであり、やはり安易な使用は慎みたいところですが、なかなか治せない咳の有力な武器になってくれることが期待されています。

咳の治療は、患者さんの症状が非常につらいにもかかわらず、考えられる原因が非常に多く、その推測は簡単ではありません。
そして血圧やコレステロール、血糖などと違い、検査の数値だけで診断したり、経過観察をすることが難しい分野です。
またそのように客観的な数値などで測ることが難しく、症状の良し悪しをデータで把握することが簡単ではないこと、症状が落ち着いているときと悪いときの差が激しかったりすることで、われわれ治療する側も正確に病状を把握することが容易でない場合も多く、咳の診療は一筋縄ではいかない「職人芸」が要求される面が多いと思っています(だからこそ、おそらくしばらくAIに置き換えられることもないでしょう。医学生、研修医の皆さん、ここだけの話、呼吸器内科、面白いですよ。是非オススメです・・・)。

その中でも、徐々に進歩しているこの分野、しっかり最先端の知見についていき、一人でも多くの方のお役にたてればと思っています。

投稿者: 加藤医院院長 浅井偉信(内科・呼吸器・アレルギー専門医)