いよいよ花粉症も本格化しています。
神奈川では昨年より1週間ほど早く、スギ花粉の本格飛散が始まっています(昨年は2月25日頃からでした)。
くしゃみ、だるさ、咳などは花粉症の代表的な症状で、しっかりと対策をする必要があります。
ただし、今年はいつもの年と大きな違いがあります。
この2月、花粉の本格的飛散と同時にインフルエンザの流行もまたピークを迎えようとしています。
今シーズンのインフルエンザA型の流行はいつもの年より早く、11月ごろにピークを迎えました。
1月には患者さんも減り、「今年は早めに始まった分、早めに終わってよかったなあ・・・」などとホッとしていたのが一転・・・
2月に入り、11月の流行ピークに匹敵する勢いで広がっています。
2026年2月の最新データによれば、県内の定点あたりの患者報告数が約60人/週、茅ヶ崎に至っては80人/週超えと、警報レベルの基準値である30人/週を大きく上回る事態となっています。
特に注目すべきは、検出されるウイルスの内訳です。
この時期の流行は、全感染者のなんと9割以上がB型を占めており、流行の主役が完全にA型からB型へと入れ替わっています。
例年であれば、インフルエンザの流行は12月から1月にかけてA型が「大きな第1波」を迎えたのち、春先にかけてB型が「小さな第2波」を迎えるというのが一般的なパターンです。
しかし今シーズンは、この「第2波」が非常に大きく、「第1波」に並ぶ大きさになっています。
この「大きな2つの山」の流行構造は過去の統計と比較しても異例で、私も経験したことがありません。
B型とA型は何が違う?
では、そもそもインフルエンザB型は、A型と何が違うのでしょうか?
インフルエンザウイルスには大きく分けてA、B、C型がありますが、季節性の流行を引き起こすのは主にA型とB型です。
これらはどちらもインフルエンザウイルスではあるのですが、そのつくりや性質はちょっとした違いが存在します。
まずはつくりについてですが、ウイルス粒子の表面には、ヒトの細胞にくっつくための、いわゆる「吸盤」の働きをする「ヘマグルチニン」と、増殖したウイルスが細胞から離れて次のウイルスに移動するための、いわゆる「吸盤を切り離すハサミ」の働きをする「ノイラミニダーゼ」という2種類のタンパク質が、ウイルスの周りに突起となって並んでいます。

A型はこの「ヘマグルチニン」と「ノイラミニダーゼ」の種類が非常に多く、組み合わせも変わりやすいという特徴があり、遺伝子の突然変異が起こりやすい構造です。
ウイルスは変異を起こすと、人間の免疫をかいくぐりやすくなります。
そのため、A型は爆発的に広まるリスクが高いウイルスと言えます。
対してB型は、「ヘマグルチニン」と「ノイラミニダーゼ」の組み合わせがAより少なく、基本的に変異を起こしにくいタイプです。
そのため、本来B型はA型よりは広まりにくいとされていました。
しかし、今年はそんなB型がA型に匹敵するほどの流行を見せています。
それはなぜでしょう?
B型大流行の理由
今年の冬、B型がこれほど長期間にわたって猛威を振るっている背景には、いくつかの複雑な要因が絡み合っていると考えられています。
1.ウイルス干渉
最も大きな要因の一つとして考えられるのが、今シーズン前半に見られたA型の異例な早期流行と、それに伴う「ウイルス干渉」の影響です。
ウイルスがヒトの体の中で広がる際には「ウイルス干渉」といって、ひとつのウイルスが体内で広がる間は、他のウイルスは広がりにくい性質を持っていると言われています。

そのため、ある種類のウイルスが流行している間、別のウイルスが流行しにくくなります。
2025年の秋から冬の初めに、A型が極めて早いペースで広がりました。
A型のピーク時にはB型の入る余地がなく、一時的に「待機状態」となりましたが、そのA型の流行が年明けには終わってしまいました。
待機していたB型は、そのスキを埋めるように広がりやすい状況となり、そこに新学期が重なってしまいました。
例年B型が流行り始める2~3月と比べて、1月は寒く、空気も乾燥しており、爆発的に広がる条件が整ってしまっていたというわけです(残念ながらA型にかかった際にできた抗体は、B型の前では無力です)。
2.コロナ禍の影響
その上で、コロナ禍以降、ここ数年B型があまり流行っていなかったという面もあります。
B型はもともと通常は広がりにくいため、一度免疫を持った人が増えると、しばらくはその集団免疫が維持されて広がりにくくなるという性質をもっています。
集団の中で、いわゆる免疫の「貯金」ができる状態となります。
そして、数年かけて徐々にその「貯金」を使い果たすと次の流行を引き起こします(これを免疫の借金、免疫負債と呼びます)。
その流行の波は、何もなければ例年2~3年の間隔とされています。
しかしこの数年は、コロナ禍の影響でB型の流行が極端に抑えられていた分、この「借金」が長期間かけて膨れ上がってました(最後に大きなB型の流行を起こしたのは、今から7年前の2017/2018年シーズンでした)。
今年、その借金があたかも「コップの水があふれる」状態となったため、一気に増えてしまった可能性が指摘されています
3.B型の特徴、時期による影響
さらに、B型ウイルスの性質そのものも影響しています。
B型はA型に比べて潜伏期間がやや長く、症状が緩やかに現れても、それが感染に気づかずに日常生活を送り、結果として周囲にウイルスを広げてしまうケースが増えます。
また今年は最初に書いた通り、不運なことに花粉症の流行と被ってしまいました。
そのため、見極めがつきにくい症状をきたした方が、「どっちかわからないけど様子見てみよう」と休まなかったり、病院に行かないで様子を見たりした結果、結果的に広がってしまったのではないかと考えられます。

症状の違い
次はB型とA型の症状の違いを考えてみましょう。
一般的によく皆さんがイメージしやすいインフルエンザは、A型です。
A型の症状は一般に「急激かつ強力」で、39度を超える高熱や激しい関節痛、全身のだるさが一気に現れるのが典型的な特徴です。
これに対し、B型は、A型と同じ経過を取ることもありますが、一方でB型特有の、特徴的な経過を取ることがあります。
それは、一度熱が下がったように見えてから、1~2日後に再び熱が上昇する「二峰性発熱」というパターンで、B型患者の約2~3割に見られるという報告もあります。
このため、B型は「治りかけてからまた熱が出る」ようにみえることがあるのです。
また、B型はA型と比べて、下痢、腹痛、嘔吐などの消化器症状を伴いやすいという傾向があることが分かっています。

B型ウイルスが、呼吸器粘膜だけでなく消化管の粘膜にも何らかの影響を及ぼしている可能性が考えられており、熱はそれほど高くなくても、お腹の風邪のような症状が先行して現れることがあるため、初期段階ではインフルエンザだと気づかれにくいという特徴があります。
症状の続き方も違いが出ることがあります。
A型は、高熱に伴う激しい関節痛や筋肉痛、強いだるさが短期間に集中して現れる「短期集中型」の苦しさです。
これに対しB型は、高熱が引いた後も、微熱や鼻水、しつこい咳がダラダラと続き、全身の「すっきりしない感じ」が1週間以上持続する「長期持続型」の経過を辿ることがあります。

これは、B型ウイルスが体内で増殖・排出される期間が、A型よりも少し長いためではないかと言われています。
重症度については、かつては「B型のほうが軽い」と考えられていましたが、最近の研究ではどうも否定的なようですClin Infect Dis. 2014 Jul 15;59(2):252-5. doi: 10.1093/cid/ciu269. Epub 2014 Apr 18.。
特に小児や高齢者、持病のある方においては、B型であっても肺炎や脳症といった深刻な合併症を引き起こすリスクはA型と大きくは変わらないようです。
また入院率、死亡率もB型とA型には大きな差はないようです。
やはりB型を「軽い型」と侮ることはできないのです。
治療法はAと同じ
そんなB型ですが、治療法についてはA型と一緒です。
若い元気な方では、まずは安静と対症療法、症状が強かったり、悪化のリスクの高い方に対してはタミフル、イナビル、ゾフルーザといった抗インフルエンザ薬を使います(これらの薬は「吸盤を切り離すハサミ」の働きをする「ノイラミニダーゼ」が働かなくする薬で、「ハサミ」はA型にもB型にもあるものです)。
抗ウイルス薬を使う場合は、ウイルスが増殖しきってしまう、発症48時間後より前に使う必要があるため、症状が出たらやはり早めに検査をしてもらいたいものです。
今後の見通し
例年の傾向から推測すると、B型の流行は2月後半をピークに、3月中旬から下旬にかけて徐々に落ち着いてくる可能性が高いかとは思います。
が、春休みを控え、行楽や年度末の送別会など、人の移動や集まりが活発になる時期に重なると、流行が長引いたり、局所的な激しい流行が起こる可能性も否定はできません。
やはり、花粉症と少しでも違うなと思ったら、早めに手洗いや手指の消毒、適切な場面でのマスク着用、そして何より「体調が悪い時は無理をせずに休む」という感染対策をしっかりとるということが必要になります。
そして、もしその症状に違和感を感じたら、早めに医療機関にご相談をお願いします!








