新年度になり、1か月半が経過しました。
おかげさまで4月にオープンした平塚院には連日20~30名ほどの新患の方にご来院頂いております。
改めて咳にお悩みの人はこんなにも多かったんだなと実感する日々です。
そして、CTを導入したことで、必要に応じてCT検査を行う機会も増えました。
すると、レントゲンではあまりはっきりしなかった「肺炎」が、思いのほか多いなという現実を目の当たりにしました。

以前のブログで、レントゲンとCTの違いについてお書きしました。
もちろんレントゲンも肺炎をある程度拾うことができ、かつ簡単に行える優れた検査なのですが、やはりレントゲンではどうしても見えない部分に肺炎が起こることは少なからずあり得ます。
そして肺炎は年を取るほど、なるリスク、そしてなったときの影響が大きくなります。
高齢者にとっては、肺炎は命に関わる重大な疾患の一つです。

肺炎はいろいろな菌が原因になりますが、高齢者になると「肺炎球菌」という細菌が原因となることが増えます。
こうした脅威から身を守るための切り札が「肺炎球菌ワクチン」ですが、近年、そのワクチンの種類や公費接種の制度が劇的に変化しました。
長らく日本では「ニューモバックスNP」と「プレベナー13」の2種類が主軸を担ってきました。
そして近年、新たに「プレベナー20」や「キャップバックス」といった、次世代のワクチンが登場しました。

さらに、今年の4月からは、プレベナー20が定期接種(公費助成の対象)に加わりました。
このような中で、
「今のワクチンってどうなってるの?これからどうしたらいいの?」
というご質問を受けることも多くなってきました。
そこで今回は、これら新旧ワクチンの違いや、今後の接種の考え方について、詳しくお話をしてみようと思います。
肺炎球菌ワクチンとは?
肺炎球菌ワクチンは、その名の通り「肺炎球菌」という細菌による感染を予防するためのものです。
肺炎球菌には100種類近くの「型(血清型)」が存在し、それぞれの型に対して免疫を作る必要があります。
すべての型を一つのワクチンでカバーすることは物理的に難しいため、ワクチンは「特に感染しやすく、かつ重症化しやすい型」を厳選して作られています。
このワクチンの最大の目的は、単に「風邪程度の肺炎を防ぐ」ことだけではありません。
肺炎球菌は「肺炎」だけでなく、細菌が血液中に入り込む「敗血症」や、脳を包む膜に感染する「髄膜炎」といった、致死率の高い「侵襲性感染症」に至ることもあります。
高齢になると免疫機能が低下するため、一度こうした重篤な状態に陥ると回復が難しくなります。
そのため、あらかじめワクチンによって「抗体」を作っておくことが、健康寿命を延ばすための重要な戦略となります。

これまでのワクチン
これまでの肺炎球菌ワクチンは、主に以下の2種類が使い分けられてきました。
・ニューモバックスNP(23価多糖体ワクチン:PPSV23)
23種類の型に対応しており、カバー範囲が非常に広いのが特徴です。
日本の定期接種制度で長年使われてきたのはこのタイプです。
しかし、このワクチンには「免疫の記憶」を作る力が弱いという弱点があります。
一度接種しても数年で抗体の量が低下しやすく、一般的には5年程度の間隔を空けて接種を繰り返す必要がありました(そして、実際は5年以上前にこのワクチンだけを打ったきりの方も少なくありません)。
・プレベナー13(13価結合型ワクチン:PCV13)
対応する型は13種類とニューモバックスNPより少ないものの、「結合型ワクチン」という特殊な仕組みを採用しています
これは細菌の成分にタンパク質を結合させることで、体内の免疫システムをより強く刺激するものです。
これにより、強い免疫が作られるだけでなく、免疫の記憶が長く維持されるというメリットがあります。(結合型ワクチンについてはこちらのブログに詳しく書いています。少し難しい内容ですがご興味のある方はどうぞ)。
これまでは、カバー範囲の広い「ニューモバックス」と、免疫効果の強い「プレベナー13」を組み合わせて接種する(併用接種)ことが、最も効果的な予防策とされてきました。

次世代ワクチン「プレベナー20」と「キャップバックス」の登場
しかし、技術の進歩により、これまでのワクチンの「弱点」を克服した新しい選択肢が登場しました。
・プレベナー20(20価結合型ワクチン:PCV20)
プレベナー13の進化版です。
プレベナー13が持つ「強い免疫を作る」という特性はそのままに、対応する型を13種類から20種類へと大幅に増やしました。
これにより、従来の課題であった「カバー範囲の狭さ」が改善されました。
2026年4月からは、65歳の方などを対象とした定期接種において、このプレベナー20を使用することができるようになりました。
65歳の方の公費接種の情報について
茅ヶ崎市の情報はこちら→茅ヶ崎本院で受け付けています
寒川町の情報はこちら →茅ヶ崎本院で受け付けています
平塚市の情報はこちら →平塚院では受け付けていないので平塚市内の医療機関にお問い合わせ下さい
大磯町の情報はこちら →平塚院では受け付けていないので大磯町内の医療機関にお問い合わせ下さい
※なお、両院とも66歳以上の方の自費での接種は受け付けております!
・キャップバックス(21価結合型ワクチン:PCV21)
さらに新しい選択肢として承認されたのが「キャップバックス」です。
これは21種類の型に対応していますが、単に数を増やしただけではありません。
特筆すべきは、その「配合の工夫」にあります。
肺炎球菌の抑えるべき型は、子供に流行するものと、大人(特に高齢者)に流行するものとで傾向が異なります。
キャップバックスは、大人の侵襲性感染症の原因となっている型を重点的に抽出して構成されており、「高齢者に特化したワクチン」と言えます。
従来型ワクチンと新世代ワクチンの決定的な違い
新世代ワクチン(プレベナー20、キャップバックス)と、従来のワクチンとの違いは、主に「守備範囲」と「免疫の質」の両立にあります。
従来のニューモバックスは、守備範囲こそ23種と広いものの、免疫の質(持続性や強さ)に課題がありました。
一方、プレベナー13は質が良いものの、13種しか守れないという限界がありました。
新世代の結合型ワクチンは、この両者の「良いとこ取り」をした形になります。
特にプレベナー20は、これ一回で従来のニューモバックスとプレベナー13の併用接種に近い効果、あるいはそれ以上の防御力が期待できるとされています。
複数のワクチンを何度も打つ負担が軽減される点も、受ける側にとっても大きなメリットになります。
プレベナー20とキャップバックスの違い
つぎに、新型ワクチンであるプレベナー20とキャップバックスの違いを改めてまとめてみましょう。
どちらも最新の結合型ワクチン(つまり効果が長く、強く保てやすい)ですが、押さえている血清型は結構違います。

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プレベナー20は20価(つまり20種類の血清型をカバー)、キャップバックスは21価(つまり21種類をカバー)と、一見キャップバックスはプレベナー20より1つだけ多くカバーしているように見えます。
しかし、実際はプレベナー20とキャップバックスの押さえている血清型は結構違い、先ほどもお話しをしたようにキャップバックスは高齢者の侵襲性肺炎球菌感染症に対してより特化した構成となっています。(一方、肺炎球菌は小さな子供の脅威でもあります。プレベナー20の押さえている型は子供に病気を引き起こす型をしっかりと押さえており、お子さんにも使われるワクチンです。2024年から公費で生後2カ月以上6歳未満のお子さんに使用されています)
そのため、キャップバックスは一般的に値段はプレベナー20よりもやや高めになっています。
また、残念ながらキャップバックスはまだ公費では使用できないワクチンであり、自費での接種のみとなります。
一方、プレベナー20は既に定期接種の枠組みに入っており、費用面での自己負担が抑えられるという現実的な利点があります。
すでに接種済みの人はどうすべきか?パターン別解説
「以前にワクチンを打ったことがあるが、新しいものを打ち直すべきか」という悩みは非常に多く寄せられます。
結論から言えば、過去に何を打ったかによって推奨されるアクションが異なります。
パターンA:一度も肺炎球菌ワクチンを打っていない、65歳の方
この場合は、現在定期接種の対象となっている「プレベナー20」を優先的に接種することが推奨されます。
一度の接種で高い効果と長い持続性が期待でき、かつ一番安いため、最も効率的な選択です。
パターンB:一度も肺炎球菌ワクチンを打っていない、66歳以上の方
同様にワクチン接種が強くお勧めされますが、公費は使用できず、自費となります。
ですので「プレベナー20」と「キャップバックス」のいずれも検討していただけます。
「キャップバックス」の方がより高齢者に適するように設計したワクチンではありますが、その分やや値段も高めです(プレベナー20とキャップバックスを実際に打った人それぞれの予後を直接比べたデータはまだ存在しません)。
双方のワクチンの特性を理解した上で、お財布の事情などで選択をされると良いと思います。
なお、今のところ時間が経っての再接種については特に勧められていませんが、未来に新しい予防法が開発されれば、また変わるかもしれません。
パターンC:ニューモバックスNP(公費扱いになっていたワクチン)のみを接種して、1年以上経った方
ニューモバックスは免疫の持続期間が限られているため、追加でプレベナー20、またはキャップバックスを接種したほうがいいでしょう。
これにより、より強固で長期的な免疫を上乗せすることができます。
前回の接種から1年以上空いていれば、新しいワクチンの接種が検討可能です。
パターンD:ニューモバックスNP(公費扱いになっていたワクチン)のみを接種し、5年以上経った方
従来であれば、かつて接種したニューモバックスNPの打ち直しを推奨されていたところです。
その「2回目の接種」を、プレベナー20、もしくはキャップバックスに切り替えるというスタンスで良いです。
今までのニューモバックスNPの再接種より、より質の高い免疫を獲得できる可能性が高くなります。
パターンE:過去にプレベナー13のみ打った方
プレベナー13の効果は、長く強く続きます。
そのためプレベナー13が押さえている型については、現時点ではかなり高いレベルの免疫を持っています。
ただ、押さえている13の型以外に対しては無力です。
現在はそのギャップを埋めるプレベナー20やキャップバックスの追加接種が可能です。
プレベナー13を接種してから1年以上経過していれば、新型ワクチンの追加接種をお勧めします。
パターンF:プレベナー13とニューモバックスの両方を打った方
すでに併用接種を完了している方は、現時点ではかなり高いレベルの免疫を持っています。
しかし、時間の経過とともに免疫は低下しますし、最新ワクチンにしか含まれない型も存在します。
数年が経過している場合は、主治医と相談の上、「最新型へのアップデート」としてプレベナー20やキャップバックスを追加接種する選択肢があります。
ぜひ、「最新型」にアップデートを!
肺炎球菌ワクチンの環境は、ここ数年で劇的により高品質に、より広範囲にへとシフトしました。
特にプレベナー20が公費助成の対象となったことは、多くの高齢者にとって大きな福音です。
ワクチンは、ただ「打てば安心」というものではなく、ご自身の接種歴や現在の健康状態に合わせて、最適な種類とタイミングを選ぶことが大切です。
特に持病(糖尿病、心疾患、呼吸器疾患など)がある方は、肺炎球菌に感染した際のリスクがより高いため、早めの相談をお勧めします。
茅ヶ崎院ではこれらのワクチンの公費、自費接種を受け付けております。今65歳の方にはワクチン接種のお知らせが届いているかと思いますので、66歳の誕生日の前に、接種を済ませておきましょう!
平塚院は自費接種のみ受け付けています。
双方とも66歳以上の方は自費接種を受け付けておりますので、ご自身を守るためにも、是非お早めにご相談ください!



