前回は喘息にまつわる「ちょっとしたカン違い」をいくつかご紹介しました。
すると「あるある!」「私もそう思ってました」というお声を、診察室でもいくつかいただきました。
やはり、喘息は、よくある身近な病気ではあるのですが、一方でまだよく皆さんに知られていないことも多いものだと改めて感じました。
まだまだ、診察室で遭遇する、患者さんの「カン違い」はいっぱいあります。
ということで、今回も引き続き、喘息にまつわるカン違いシリーズ パート2をお届けしようと思います。
皆さん、「そうだったの!?」と思ってください(笑)
「アレルギーの検査が陰性だったから、アレルギーじゃないですよね?」

喘息の原因として、アレルギーが関係していることは確かに多いです。
そのため、喘息の診療ではアレルギーの検査(血液検査や皮膚テストなど)をすることがよくあります。
ただここで一つ知っておいていただきたいのは、アレルギーの検査にはいくつかの種類があり、何を調べるか・何の検査をするかによって、結果が変わってくるということです。
たとえば、血液でアレルギーを調べる検査では、スギ、ダニ、猫、犬など、様々な「アレルゲン(アレルギーの原因)」を一つ一つ調べていきます。
ここで調べていないアレルゲンに対しては、当然ながら「陰性」という結果が出ます。
つまり、「陰性だった=アレルギーがない」ではなく、「調べた項目に関しては陰性だった」というのが正確な解釈なのです。
また、採血のアレルギー検査は「IgE」という抗体の有無を調べるものですが、アレルギー反応は非常に複雑で、IgE抗体を介さないアレルギー反応も普通にあります。
この場合は、IgEは検出されないため、検査上は陰性と出てしまいます。
また、そもそも喘息の方の全員がアレルギー型というわけでもありません。
大人の喘息では、アレルギーとは関係のない、「非アトピー型」と呼ばれるタイプも少なくありません。
こちらは、タバコの煙、冷たい空気、運動、ストレスなどが引き金となることが多く、血液検査ではアレルギーが検出されないことも普通にあります。
ですので、「アレルギー検査が陰性だった=喘息ではない」とはならないのです。
アレルギー検査はあくまで参考の一つ。症状や診察の所見と合わせて、総合的に判断しています。
「喘息の人は運動してはいけないんですよね?」

「運動すると息苦しくなるから、なるべく動かない方がいい」と思っている方は少なくありません。
でも実は、これもちょっとしたカン違いです。
確かに、喘息の方は運動をきっかけに症状が出ることがあります。
これは「運動誘発性気管支痙攣」と呼ばれ、運動中に冷たい、乾いた大量の空気が気道を通ることで、気道が乾燥・冷却されて収縮することが原因です。
くわしくはこちらのブログもご覧ください!
2022.12.4 「なんか運動すると苦しいな」と思った時に、一度は考えてみたい「アスリート喘息」
ただ、だからといって「運動をやめるべき」かというと、そうではありません。
適度な運動は、心肺機能を高め、体重管理にも役立ち、喘息のコントロールそのものにもプラスの効果があります。
実際、多くの喘息患者さんが運動をしながら、普通の生活を送っています。
オリンピックのアスリートにも喘息をお持ちの方がいることは広く知られています。
大切なのは、症状をしっかりコントロールした上で運動することです。
吸入ステロイドできちんと炎症を抑えた状態であれば、多くの方は問題なく運動できます。
また(医師と相談の上で)運動前に発作止めの吸入薬を使う、という方法もあります。
喘息だから運動できない、ではなく、喘息をしっかりコントロールして、運動に問題ない状態にしてから思いっきり運動する、が正解です。
もちろん、症状がコントロールできていない状態での急な激しい運動は危険なこともあります。
「喘息のコントロール」とは、「症状を我慢できること」ではなく「症状を忘れてしまうくらいなくしてしまうこと」です。
自身がどれくらい喘息をコントロールできているかは、やはり喘息に精通している医師の判断が必要です。
自分の喘息の状態評価、運動の種類や強度については、担当医とよく相談してから始めましょう。
「喘息の発作がなければ、もう治ったんですよね?」

「最近ぜんぜん発作が出ていないから、もう喘息は治ったと思う」とおっしゃる患者さんはとても多いです。
気持ちとしてはとてもよく分かります。
でも残念ながら、発作がなくなったことと、喘息が治ったことは別の話です。
前回のブログでもお話ししましたが、喘息は「病気」というよりも「体質」です。
吸入ステロイドできちんと気道の炎症を抑えているから、発作が出ていないのです。
薬を使っているから穏やかな状態が続いている、というのが実際のところです。
わかりやすい例えとして、高血圧の薬を思い浮かべてください。
血圧の薬を飲んでいる方が「最近、血圧が正常だから、もう薬はやめよう」と思うでしょうか?
おそらく思わないですよね。
薬が効いているから血圧が正常なのであって、薬をやめれば再び上がってしまいます。
喘息も全く同じ理屈です。
さらに困ったことに、喘息の炎症を繰り返すと、気道が少しずつ硬く・厚くなっていく「気道リモデリング」という変化が起こります。
こうなってしまうと、どんどん治療が難しくなっていきます。
「よくなっている今こそ、しっかり治療を続ける時」ということなのです。
発作がない状態を「治った」と喜ぶより、「うまくコントロールできている」と喜んでください。
そしてそのコントロールを続けることが、これからも症状の悪化を起こさないための、一番の近道です。
「吸入薬はクセになる(依存性がある)から、なるべく使いたくないんです」

「ステロイドが怖い」というのは、よく診察室でお伺いするお声です。
「薬に頼り続けることへの不安」というお気持ちは、とてもよく理解できます。
ただ、「依存性」というのは、薬をやめたくてもやめられなくなる状態のことです。
例えば、睡眠薬や一部の精神科の薬、麻薬性鎮痛薬などが代表的です。
これらは脳や神経に作用して「やめると離脱症状が出る」という性質を持っています。
一方、吸入ステロイドや気管支拡張薬には、こうした依存性はありません。
吸入薬は気道の炎症を抑えたり、気管支を広げたりする薬であり、脳や神経に作用するものではないからです。
たしかにステロイドは、内服で続けているとやめられなくなってしまうことはあります。
しかし、吸入薬は全身に回ることがほとんどないので、そのようなリスクは非常に小さいのです。
こちらのブログもどうぞ!
2024.7.10 ステロイド、長く「飲み」続けると何が起こる?
2024.7.17 ステロイドの飲み薬の問題点はよーくわかった。「じゃあ、吸入薬は??」
「薬をやめると症状が戻ってしまう」という経験をされた方が、「やめられない=依存している」と感じてしまうことがあるようです。
しかし、これは依存ではなく、「薬が効いていた証拠」であり、薬をやめたことで喘息の体質が顔を出しただけのことです。
花粉症の薬をやめたら鼻水が出てきた、それを「依存」とは呼ばないですよね。
喘息の吸入薬も、まったく同じ考え方です。
吸入薬に依存性はありません。安心して、医師の指示通りに使い続けてください。
「苦しい時は吸入を2回吸えば、1回より早く・よく効きますよね?」

これは特に、レルベア・アドエア・テリルジー・エナジアといった「合剤」と呼ばれる吸入薬を使っている方に、ぜひ知っておいていただきたい内容です。
これらの吸入薬は、複数の成分が1本に組み合わさった薬です。
たとえば、
・吸入ステロイド(ICS):気道の炎症を抑える成分
・長時間作用型気管支拡張薬(LABA):気管支をゆっくり長く広げる成分
・長時間作用型抗コリン薬(LAMA):気管支の収縮を抑える別の経路の成分
が一緒に入っています(薬によって組み合わせは異なります)。
これらのお薬の中に、それぞれまた強弱があります。
例えば「テリルジー」というお薬には、上記3種類が含まれている「テリルジー100」と「テリルジー200」があります。
この「100」と「200」は、含まれている吸入ステロイドの量の違いです。「テリルジー200」には「テリルジー100」と比べ、確かに2倍の吸入ステロイドが含まれています。
しかし、残りの2種類、LABAとLAMAは、「100」と「200」で、実は変わりません。
もし「テリルジー100」を1日2回使用しようとして、「テリルジー200」と同じ作用に期待しようとしたとすると、吸入ステロイド以外の成分が2倍になってしまいます。
ここで問題になるのが、ステロイド「以外」の薬の過剰摂取です。
LABAを過剰に吸入すると、動悸・手の震え・血圧の変動などが起こりやすくなります。
LAMAが過剰になると、口の渇き・尿が出にくくなる・便秘・目がかすむといった症状が出ることがあります。
一方で、吸入ステロイドの成分は2倍になっても、急には炎症は良くなりません。
つまり、2回吸っても喘息が「2倍早く」楽になるわけではなく、副作用だけが増えてしまうということです。
苦しい時に頼るべきは、合剤を2回吸うことではなく、別に処方されている「発作止め(短時間作用型気管支拡張薬)」を使うことです。
合剤の吸入薬は、必ず指示通りの回数を守ってください。
苦しい時は発作止めを使い、それでも改善しない場合は早めに受診をお願いします。
「吸入薬は、強く一気に吸い込む方がよく効きますよね?」

「思いっきり吸い込む方が、薬が深くまで届く気がする」——そう思っている方は少なくないと思います。
実は、これが吸入薬の中でも特によくある誤解の一つです。
吸入薬には大きく2つのタイプがあります。
・pMDI(いわゆる「スプレー」タイプ):押すと霧状に噴射されるタイプ(フルティフォーム、オルベスコ、ビレーズトリなど)
・DPI(いわゆる「パウダー」タイプ):粉末を自分の吸う力で吸い込むタイプ(レルベア、アドエア、テリルジー、エナジア、シムビコートなど)
「強く一気に吸う」という指導は、主にパウダータイプに対して言われることが多いです。
パウダータイプのDPIは、自分の吸気の力でカプセルや粉末を粉砕・分散させる必要があるため、「ある程度の吸気流速が必要」というのは事実です。
ただ、「強く一気に」吸いすぎると、薬の粒子が勢いよすぎて喉の奥や口腔内に衝突してしまい、気道の奥まで届く前に、喉や上気道にくっついてしまいます。
これにより、口腔カンジダ(カビ)や嗄声(声のかすれ)などの口腔内副作用が起こりやすくなってしまうのです。
正しい吸い方は、「速く」ではなく「深く・一定の速さで」吸い込むことです。
具体的には、できるだけ肺の奥まで、最後まで吸いきるイメージです(男性なら最低3秒、できれば4秒。女性なら最低2秒、できれば3秒)。
吸い終わったら5秒ほど息を止めることで、薬が気道にしっかり沈着します。
正しい強さで吸入できているかは、各デバイスによってその確認方法は異なりますが、「トレーナー」のあるデバイスでは、比較的わかりやすく確認することが可能ですので、主治医の先生に是非確認してもらってほしいと思っています(確認してもらえない場合や主治医の先生にあまり興味を持ってもらえない場合は、薬剤師に相談するか、主治医の変更を考慮してください)。
また、吸入後のうがいはいずれのタイプでも必須ですが、特にDPIは喉への沈着が起こりやすいため、丁寧なうがいが大切です。
「強く一気に」より「深く・最後まで」。
正しい吸い方が、薬の効果を最大限に引き出します。
吸い方に不安がある方は、ぜひ一度診察の際にご相談ください。
一緒にデバイスを使って実際に確認してみましょう!
「喘息があるから、ロキソニンや市販の痛み止めは絶対に飲んではいけないんですよね?」

「喘息があるから痛み止めは全部ダメと言われた」「頭痛があっても市販薬が飲めなくて困っている」——そういったお話をいただくことがあります。
確かに、「アスピリン喘息」(正式には「NSAIDs過敏喘息」)という病態は存在します。
これは、ロキソニン・アスピリン・イブプロフェンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を服用した後に、急激に喘息の悪化が起こるというものです。
場合によっては非常に重篤な状態になってしまうこともあり、注意が必要な病態です。
ただ、このアスピリン喘息は、喘息患者さん全員に起こるわけではありません。
喘息患者さんの中でアスピリン喘息を持つ方は、約10%程度と言われています。
つまり、喘息があるからといって、すべての方が痛み止めを避けなければならないわけではないのです。
一方で、自分がアスピリン喘息かどうかを自己判断するのは難しいのも事実です。
「以前、痛み止めを飲んだ後に息苦しくなったことがある」という方は、アスピリン喘息の可能性がありますので、必ず医師に伝えてください。
ちなみにアスピリン喘息は、大人になってから出る病気です。今まで出なかったとしてもアスピリン喘息を完全には否定できないことには注意する必要はあります。
またアスピリン喘息は、ほぼ全例に副鼻腔炎が併発することが知られています。喘息の方で、いつも鼻炎も一緒に起きている方は気をつけたほうがいいでしょう。
なお、アスピリン喘息の方でも、「アセトアミノフェン(カロナールなど)」など、他の薬剤が使用可能なことも多いです(一部使えない方もいらっしゃいます)。
頭痛や発熱の際に使える薬がないわけではありませんので、担当医にご相談ください。
「喘息=痛み止め全部ダメ」ではありません。
ただし自己判断は禁物。必ず担当医に確認してから使いましょう。
今回も気がつけばたくさん書いてしまいました(笑)
喘息は、正しく理解して正しく付き合っていけば、日常生活に支障なく過ごせる病気です。
「なんとなく怖い」「よくわからないからとりあえず使わない」ではなく、疑問はそのままにせず、ぜひ診察の際にお気軽にご質問ください。



