医師ブログ

ほうっておくと怖い、「睡眠時無呼吸症候群」とは? ~具体的な対処法まで~

「昨夜、ちゃんと寝たはずなのに、なぜかハンドルを握った瞬間から眠い」——そんな経験、ありませんか。

信号待ちで意識が飛びそうになる。
会議中に気づけば数秒間、話を聞き逃している。
パートナーに「昨日、いびきがすごくて息が止まってたよ」と言われたことがある。

もし1つでも心当たりがあるなら、この記事は他人事ではないかもしれません。

先日、睡眠時無呼吸症候群があるのにもかかわらずその治療をしなかった翌日に、運転中に居眠りをして自転車の女性に重傷を負わせてしまった男性が書類送検されたというニュースが報じられました。

また他にも、やはり睡眠時無呼吸症候群の治療を自己判断でやめてしまった別の男性が、自動車の運転事故で歩行者を死亡させてしまう事故を起こしてしまったことも明らかになりました。

この出来事は、睡眠時無呼吸症候群という病気が、ほうっておくといかにリスクがあり、自分や周りの人生をリスクにさらしてしまうかということを示しています。

そこで今回は、睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気なのか、そして実際に病気を持っている方、そして治療をしつつもいろいろと困っている方の対処法などを、実際にどのようにしたらいいのかの具体例を交えてお話ししてみようかなと思います。

CPAPを一晩外しただけで・・・睡眠時無呼吸症候群の怖さ

今回の2つのニュースで共通しているのは、睡眠時無呼吸症候群の診断がなされていたにもかかわらず、CPAPという治療を適切に行っていなかったということです。

そして事故を起こしてしまった側が「自分でハンドルを握っていたのに、事故を起こした瞬間の記憶がない」と話をしていたという点も共通しています。

睡眠時無呼吸症候群という病気は、日常よくある「昼間の眠気」と「疲労感」で症状が現れる以外は、「病気」と思われるような症状が出にくいです。

そのため、睡眠時無呼吸症候群は、それが重症であっても、その「重症」さに気づかず、治療が軽視されやすいという落とし穴に陥りやすい病気、ということが言えます。

その一方、睡眠時無呼吸症候群が居眠りは、一般的な「眠気」とは質の違う、意識のブラックアウトに近いもので、危険性が非常に高いものであり、症状と病気の自覚が乖離しやすい病気であるともいえる訳です。

「寝ても疲れが取れない」の正体

睡眠時無呼吸症候群の患者さんからよく聞くのは、こんな言葉です。

「朝、目覚まし通りに起きているのに、まったく疲れが取れていない。むしろ寝る前より体が重い。
8時間近く寝ているはずなのに、寝た気がしないんです」

これがSASの典型的な症状です。

長い時間寝ても、「よく眠れた」どころか、多くの患者さんはむしろ起床時から疲労感、倦怠感、頭の重さを訴えます。

喉が塞がって呼吸が止まるたびに脳は一瞬だけ覚醒し、深い睡眠に入れないまま浅い睡眠を繰り返すため、いくら長時間布団にいても「眠りの質」そのものが確保できていないのです。

これを「熟眠感の欠如」と呼び、睡眠時無呼吸症候群を疑ううえで非常に重要な症状のひとつです。

朝起きた瞬間から気分が重い、口が乾いている、頭痛がする、二度寝しても疲れが取れない——こうした訴えがある方は、単なる寝不足や生活習慣の問題ではなく、睡眠時無呼吸症候群によって睡眠の「質」が根本的に落ちている可能性を考える必要があります。

また、家族の方が先に気づかれるケースも少なくありません。

「いびきが止まって急に静かになったと思ったら、しばらくして『ガガッ』と大きな音を立てて息を吹き返す」というご家族の証言は、診察の場ではよく聞かれます。

そして日中にご家族が気づかれるケースもあります。

居眠りが増えることはもちろん、睡眠不足によって些細なことでイライラする、集中力が続かない、仕事でケアレスミスが増える、といった形で現れることもあります。

なぜ本人は気づけないのか

しかし、ご本人がそのような状態を病気と気づけないことも実はよくあるケースなのです。

人は眠る時、喉まわりの筋肉が緩みますが、もともと気道が狭い状態だと、まるで柔らかいホースが押しつぶされるように空気の通り道が塞がってしまいます。

肥満、加齢、顎が小さい骨格、扁桃肥大、寝る前の飲酒などが、この「塞がりやすさ」を後押しし、寝ている間の体への酸素の取り込みを阻害してしまいます。

それによって夜寝ているときに、頭はストレス状態となり覚醒に近い状態になるのですが、その状態はずっと続くわけではなく、本人はほとんど自覚できないことがほとんどです。

だからこそ多くの患者さんは、「なぜこんなに寝ても疲れが取れないのか」と原因がわからないまま何年も過ごし、家族の指摘や今回のような事故をきっかけに、ようやく受診にたどり着くのです。

「ただの眠気」で済まない——血圧、そして命に関わる数字

診察の場で患者さんから聞く「困りごと」は、思った以上に多岐にわたります。

「血圧の薬を3種類飲んでいるのに、全然下がらない」と悩んでいる方の背後に、睡眠時無呼吸症候群が隠れているというケースがあります。

睡眠時無呼吸症候群は、二次性高血圧といって、何らかの疾患が原因で起こる高血圧の代表的な原因のひとつです。何もない、とは対処が。

通常の体質や加齢による高血圧は「本態性高血圧」といいますが、これとは違い、原因である睡眠時無呼吸症候群を治療しない限り、降圧薬を増やしてもなかなか血圧が下がらないのが特徴です。

実際、3種類以上の降圧薬でも目標値まで下がらない「治療抵抗性高血圧」の患者さんのうち、7〜8割に睡眠時無呼吸症候群が合併していると報告されています。

複数の降圧薬を使っても血圧が下がらない方は、薬を増やす前に一度、睡眠時無呼吸症候群の検査を受けるべきとされています。

睡眠時無呼吸症候群を放置するリスクとは・・・

血圧だけでなく、睡眠時無呼吸症候群には長期的にさまざまなリスクが伴います。
特に脳や心臓などの血管系の病気になるリスクが上がり、命に関わることになるリスクが無視できません。

  • スペインで男性1,651人を10年間追跡した研究では、重症の睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置した人は、心筋梗塞や脳卒中で亡くなるリスクが、健康な人のおよそ3倍でした。
  • アメリカの大規模な追跡調査でも、未治療の睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、そうでない人に比べて死亡リスクが約3.8倍に上がってしまったという結果が出ています。
  • 重症の無呼吸を治療せず8年間放置した患者さんを追跡した研究では、生存率が63%にとどまったという報告もあります。
  • 国内のデータでは、睡眠時無呼吸症候群を合併した高血圧の患者さんは、心臓突然死が深夜から早朝にかけて集中し、一般の人と比べて約2.5倍多く発生していました。

無呼吸のたびに血圧が急上昇する現象が、眠っている間に心臓へダメージを与えていることを示すデータです。

いずれの研究にも共通するのは、きちんと治療を受けていれば、このリスクは健康な人とほぼ同じ水準まで下げられいたということも明らかになっている点です。

睡眠時無呼吸症候群は、治療すれば戻せるリスクを、治療しないまま放置してしまっている病気だというように言えますね。

え、血糖値まで?

「呼吸が止まることと、血糖値に何の関係があるの?」——そう思う方は多いはずです。

実はSASの患者さんは、そうでない人に比べて糖尿病になりやすいことがわかっています。

理由をシンプルに言うと、体が毎晩「ちょっとしたパニック状態」を繰り返しているからです。

体は呼吸が止まるたびに、緊急事態と判断し、血糖値を上げるホルモンを出します。
これが毎晩何十回、何百回と続くと、体はだんだんインスリンが効きにくい体質に変わっていきます。

さらに、深い睡眠が取れないことでホルモンバランスが乱れ食欲を抑えるホルモンが減り、食欲を増やすホルモンが増えることもわかっています。
「無呼吸のせいで、なんとなく食欲が増していた」というケースも実際にあります。

ポイントは、これが太っているかどうかとは関係なく起こりうるということです。

国内の研究でも、肥満がない人であっても、糖尿病がある人ほど中等症以上の睡眠時無呼吸症候群が多いことが確認されています。

つまり睡眠時無呼吸症候群は、いびきや眠気だけの問題ではなく、知らないうちに血糖値にまで影響を及ぼしている可能性がある、ということです。

「痩せているから無呼吸とは無縁」とは言えないのです。

治療の選択肢を知る——CPAPだけがすべてではない

治療の中心はCPAP(持続陽圧呼吸療法)です。

鼻に装着したマスクから空気を送り込み、物理的に気道を開いた状態を保つことで、無呼吸そのものを防ぎます。

中等症から重症のSASでは、現時点で最も効果が確立された治療法です。

一方、軽症〜中等症や、CPAPがどうしても合わない場合には、下顎を少し前方に固定して気道を広げる「マウスピース(口腔内装置)」という選択肢もあります。

加えて、減量、横向き寝への変更、就寝前の飲酒を控えるといった生活習慣の見直しも、症状改善に大きく寄与します。

「CPAPが続かない」は、あなただけじゃない

今回事故を起こしてしまった人は「CPAPに慣れておらず、つい外してしまった」と説明しています。

これは特殊なケースではなく、CPAPを始めた人の多くが通る道です。診察室で実際によく聞く「本音」を、対処法とあわせて紹介します。

「マスクをつけて寝るのが、なんとなく怖い・息苦しい」

導入初期、多くの人がこの感覚を訴えます。

まずは慣れることが大事です。
日中テレビを見ながら数十分だけつけて慣れる練習をするなどして、徐々に慣れていくのは一つの方法です。

しかし、マスクや設定が合わないためにつけられないケースも少なくありません。
マスクを鼻だけを覆う小型タイプ(ノーズピロー)に変更する、といった方法があります。
マスクの種類は複数あり、合わないものを我慢し続ける必要はありません。

「圧が強すぎて、息を吐きにくい」

最近の機種には、入眠時は弱い圧から始めて徐々に上げていく「ランプ機能」や、息を吐くときだけ圧を弱める機能が搭載されています。

設定を変えるだけで、劇的に楽になったという声は少なくありません。

「圧が強い」と訴えられる方は、実はマスクがずれていたという例も少なくありません。

CPAPは空気が漏れると、それを補うように圧を強めて対応するという機能が備わっています。
多少の漏れであればとても助かる機能なのですが、大きくずれてしまうとCPAPは思いっきり補正しようと、大量の空気を送り込んでしまいます。

その瞬間、圧に耐えられずに外してしまう、続けられなくなるというわけです。

マスクを正しく装着する、そのためにバンドなども調整するなどが、有効な方法になります。

「鼻がつまって使えない」

そもそも鼻炎が睡眠時無呼吸症候群の原因になっていることがあります。

鼻炎が改善すると睡眠時無呼吸症候群が治ってしまうこともあります。

また鼻炎があると、鼻から空気を送り込むCPAPはまずうまくいきません。

鼻炎があればまずはその治療を行うことが大事です(当院ではまずはできる範囲で鼻炎治療を行い、処置が必要な鼻炎や鼻づまりがあった場合は適宜詳しい検査のできる耳鼻咽喉科などと連携をとって治療を行っています)

また加湿器の併用なども有効なことがあります。

「面倒になって、つい外してしまう」

CPAPには毎晩の使用時間や無呼吸の改善度合いを記録する機能があり、次の受診時には医師がその使用状況を確認できる仕組みになっています。

つまり「昨夜は外してしまった」ということは、黙っていても医師には伝わっています。

だからこそ隠す必要はなく、「なぜ使えなかったか」を正直に話していただくことで、その解決を探ることをお手伝いできます

そして、今回のニュースが教えてくれる一番大事なことがここにあります。

今回のニュースのケースのように、たった一晩外しただけでも重大な事故につながりうること。

またもう一つのケースのように、中断を続けるほど、そのリスクは更に積み重なっていくということです。

CPAPは「調子が良い日は使わなくていい」ものではなく、高血圧や糖尿病(そして喘息もそうですが)のように、症状の有無にかかわらず継続していただくのが前提の治療です。

合わない、続けられないと感じたときにしていただきたいことは「やめる」ことではなく、「相談していただく」ことなのです。

「何科に行けばいいかわからない」を終わらせる

「以前別の病院で簡易検査を受けて『軽症』と言われたのに、専門の睡眠外来で精密検査を受け直したら、実は重症だった」

これも診察室でよく聞く話です。

簡易検査と精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査)とでは、重症度評価の精度が異なります。

一見簡易検査が軽症程度でも、その中身をしっかり見てみると、簡易検査がゆえに拾いきれていないケースが混じっていることがあります。

その場合、簡易検査の中身もよく精査したうえで、精密検査に移行することで、見逃されることなく診断できるケースがあります。

そして、この最初の評価がずれると、その後の治療方針全体がずれてしまいます。

また、CPAP導入後のフォローも、医療機関の経験によって大きく差が出る部分です。

マスクの相性、圧設定の微調整、使用データの定期チェックなど、「続けられない理由」を丁寧に調べると、その原因が突き止められるケースも少なくありません。

そしてこれらは、睡眠時無呼吸症候群の診療に慣れた医療機関ほど、手厚く対応できます。

今回のように「合わずに外してしまう」状態を放置せず、早期に軌道修正できるかどうかは、通院先の診療体制に大きく左右されるのです。

睡眠時無呼吸症候群の治療は自分自身の毎日を楽にするだけでなく、今回のニュースのような事故から、大切な誰の命を、そしてご自身やご家族の人生を守ることにもつながります。

いびきや日中の眠気を「体質だから」で片付けず、少しでも心当たりがあれば、睡眠外来や呼吸器内科など、睡眠時無呼吸症候群の診療の実績がしっかりある医療機関をぜひ受診してみてください!

茅ヶ崎・平塚内科と呼吸のクリニック
理事長 浅井偉信(医師紹介はこちら