あけましておめでとうございます!
前回のブログでもお書きしたように、当院は今年も大きな変化の年になりそうです。
一方コロナもまだすぐに収束という訳には行かなそうで、もう少し落ち着くまでに時間がかかりそうです。
職員一同へこたれずに今年も頑張りますので、何卒よろしくお願い致します。
で、そのコロナです。
またかと言うべきか、やはりと言うべきか、感染者の数がここ数日じわじわと増えてきていますね。
そして世界に目を向けると、オミクロン株がここ1か月であっという間に世界に広がり、多くの国で感染者も過去最高を記録しているようです。
ただ重症化が少ないという情報もあり、その見解については世の中を二分している印象です。
では、我々はこのオミクロン株について、どのように対峙したらいいのでしょうか?
今回は、先日最新の大規模なデータがイギリスの国家機関である英国保健安全保障庁から出てきました。SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529) 31 December 2021
イギリスではご存知のように、かなりの勢いでオミクロン株に置き換わっており、今回のデータは昨年11月末からの1か月間で判明したデルタ株約57万例とオミクロン株約53万例(!)を比較したデータになっています。
(明日から診療開始ですので、時間と余裕がある今日のうちに)こちらのデータをご紹介しながら、少しこのことについて考えてみたいと思います。
この中で、検査後14日以内に救急搬送、入院した症例数は、デルタ株13,579例、オミクロン株3,019例と、やはりかなり減っているようです。
背景の様々な因子を処理してリスクを計算したところ、おおよそ入院率はオミクロン株はデルタ株の1/3となるようです。
そして診断から28日以内に死亡したオミクロン株陽性症例は57人だったとのことで、今までよりもかなり少ない傾向はありそうです(観察期間が短いのは少し気になりますが)。
この原因の一つとして、オミクロン株は今までの株と比べて、気管支でより早く増殖する一方、肺ではあまり増殖しないことが示唆されておりhttps://www.med.hku.hk/en/news/press/20211215-omicron-sars-cov-2-infection?utm_medium=social&utm_source=twitter&utm_campaign=press_release(未査読)、肺で悪さをするケースが減っているためかもしれません(いままでのコロナは肺で悪さをしやすいことが大きな問題でした)。
つまり、確実にオミクロン株は旧型コロナ(つまり旧来の風邪)に「近づきつつある」可能性はあるとはいえると思います。
ただ一方、風邪と「同じになった」かどうかは、まだはっきりとはわかりません。
ここで報告されているデータで私が気になるのは、入院した人の中で69.2%が69歳以下、39.1%が39歳以下であるということです。
通常のインフルエンザや風邪なら、若い人が入院する事はほとんどないはずなのですが、その視点から考えるとやはりこれだけ若い世代の割合が高いのは不安材料です(もちろん若者中心に流行しているため、その分若者の母数も多いだろうということは頭に入れるべきですが)。
また新型コロナの怖さは、致死率の高さだけでなく、Long COVIDと呼ばれる後遺症の頻度の高さにもあります。
まだこのLong COVIDがオミクロン株でどうなるかということがほとんど分かっていないのも、また不安材料であるといえると思います。
また、今回のレポートにはオミクロン株に対するワクチンの効果もレポートされていました。
症状のある検査陽性者を(つまり感染しているけど無症状だった人は除外されています)、ワクチン接種パターン別に分けて、ワクチンの効果を計算したデータです。
ここでは日本で接種されているファイザー、モデルナワクチンでのデータを取り上げます(アストラゼネカワクチンのデータもありましたが、ここでは割愛します)。
「症状をきたす感染を阻止する」という側面から見ると、接種後20-24週(5-6カ月)後、デルタ株に対しては50%程度予防するものの、オミクロン株の場合は10%程度しか予防していませんでした。
ただ3回目のブースター接種を行うと、デルタ株は90%、オミクロン株は70%の予防効果まで回復します。その後10週経過すると、デルタ株は90%の予防効果を維持する一方、オミクロン株に対する予防効果は50%程度となるとのことでした。
SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529) 31 December2021より改変
「症状をきたす感染を阻止する」という側面で見ると、やはり今までよりはワクチンの効果が低下傾向にあることは否めません(とはいえど、今までの効果が出来すぎていただけで、まだ接種の意味がないとまでは到底言えないだけの効果はあると思います)。
一方、「入院を阻止する効果」(つまり重症化予防効果に近い指標)を見ると少し変わります。
オミクロン株の入院予防効果に対しては、デルタ株よりは数字は劇的ではないものの、1回の接種でも35%の予防効果(ただし95%信頼区間が0.30~1.42と1.00をまたいでおり「有意差がある」=「効果がある」とは言い切れない)、2回目接種後6カ月までは67%(こちらは有意差あり)、6カ月以上たつと51%(こちらも有意差あり)の予防効果が見られました。
そして3回目接種2週間後ではその入院予防効果は68%(有意差あり)まで回復し、重症化の予防効果はある程度しっかりはありそうなデータでした。
SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529) 31 December 2021より改変
ただ、ここでまだ足りないデータもあります。
まずは「ワクチン接種により周囲へのオミクロン株感染を予防できるようになるか」ということです。
今まではみんながワクチンを接種することによって、集団免疫が成り立つことが分かっていました。今までの感染者数の減っていた日本がその状態でしたが、オミクロン株でもこれが成り立つかがわかりません。
また「症候性感染の予防効果」「重症化阻止効果」がどれくらい長期に続くのかどうか、という事がまだよくわかっていません。すると今後4回目、5回目と、何度も接種する必要が出るのか、頻繁に接種を繰り返した場合にトラブルは出ないのか、そこは問題にはなり得ます(3回目までは安全性に大きな変化は出ていないデータが出ています)。
これに加えて、オミクロン株の重症度の低下、だるさや発熱などのワクチンの副反応(重症な副反応は前にも書いたようにやはり非常に稀です。これまで当院で3000回もの接種を行なった経験からも、その印象は変わりません)を考えると、特に若い人では今までよりワクチン接種の意義は見えづらくなっているかもしれません。
ただ、おそらくオミクロン株は一度流行すると、他国のようにあっという間に今までにない増え方をすることが予想されます。
データからは、その勢いをある程度は削げる、そして入院予防効果により少しでもコロナ診療を担う病院の負担を和らげること(これは巡り巡って全ての医療負担を軽減することにつながります)は出来ると言っていいと思います。
そのような意味では、やはり今回のブースター接種は意義があると思います。
人によってワクチンのメリットとデメリットのバランスは様々ですし、万人がワクチンを打つべきとまでは思いません。
しかし上記を考えると、リスクの高い方(高齢者、基礎疾患を持っている方)や接種できる方はやはりしっかりとブースター接種をしていただく事が、自分と社会を守っていただけることにつながるのではと思います。
というわけで最後に、現時点でのオミクロン株に対する私の考えをまとめてみます。
ちなみに私は政治評論家でも経済学者でもなく、どのような政策を打つべきかということを言及する知識も持ち合わせていないので、政策、経済対策については触れません(そのことに関するご意見はご遠慮ください)。
ただ、客観的にデータから状況を眺めると、オミクロン株を「風邪」と同じものとして何も対処せずにノーガードで臨むには、まだまだ不確定要素が多すぎるような気はしています。
ですので、今はまだ屋内や人混みでのマスク、手洗い、三密回避などの正しい基本的感染対策を取りながら、ワクチンを打てる方はブースターワクチンをしっかりと接種するなど、打てる手を打って備えたほうが賢明かなと思います。
もう少し色々と分かり、「やっぱりオミクロンは風邪と同等に扱っていい!」と自信を持って言える日が、1日でも早く来てほしい、心からそのように願っております。