8月26日に、新しい気管支喘息の吸入治療薬である「エナジア」「アテキュラ」が発売されました。
これらは、気管支喘息の治療の基本である「吸入ステロイド」に「吸入気管支拡張薬」が配合されたお薬です。特に「エナジア」は喘息に対する吸入薬としては、3種類の薬剤を1つにまとめた初めてのお薬ということで、今後の治療の幅が拡がる可能性があり注目されています。
これで喘息の吸入治療薬のラインナップは以下の通りとなりました(COPDのみに使用できる吸入薬はここには掲載していません)。
ご覧のように、今は本当に多くの薬剤があります。
吸入による喘息症状の予防治療が本格的に行われるようになってからおよそ20年、当初はスプレータイプのお薬だけでしたが、その後パウダータイプ、ミストタイプのお薬が発売され、その形、方法もどんどん増えてきています。
それはより治療効果を上げるための製薬会社の努力があってのことなのですが、治療選択肢が増えることにより、患者さんにとっては薬の使い方がどんどん複雑になってきているという側面もあります。
このブログを読まれている方でも、これらの吸入薬をすでに使われている方が少なからずいらっしゃると思います。
本来であれば、これらの薬の正しい使い方、コツなどは対面でお話しし、実際に器具を使ってみないとなかなか伝わりづらいことです。
しかし、なかなか皆さん全員がアドバイスを受けられる環境にいらっしゃるとも限りませんので、今回から不定期になると思いますが、各吸入薬のいわゆる「落とし穴」を書いてみようかと思います(すべてを書くスペースは到底なさそうなので、代表的な落とし穴を挙げてみたいと思います)。
まず今回は、レルベアやアニュイティという薬剤で使用される「エリプタ」という器具について取り上げます。
この吸入薬はフタを開けると、その動作でパウダーの薬剤が充填されるので、あとは吸うだけという非常にわかりやすい吸入器具です。
症状のよく出る、比較的重い喘息の方に対しては吸入薬を多く使う必要があるのですが、この器具は、多い量の薬でも1日1回1吸入で済ませることができるので、簡便性は群を抜いています。
そのため多くの喘息の方に使われているお薬です。
ただこの吸入薬にも「落とし穴」があります。
元来パウダータイプのお薬は、吸っている感触があまりありません。
ですので、正しい使い方をしないまま使っていると、気づかないで正しく吸えていないということが起こってしまいます。
この薬剤は、先ほども書いたようにフタを開けることで薬剤が充填されますが、これはフタを最後までしっかり開けないと起こりません。中途半端に開ける状態では薬が充填されていません。
この状態で使用しても全く薬が体内に入らないので、意味がなくなってしまいます。
これに気づかないまま時間が経過していると、しっかり薬を使っているのになかなか良くならないという事態がおきることが少なくありません。
(一方、逆に何度もフタを開け閉めしてしまうと、吸入しなかった薬が破棄されてムダになってしまうという落とし穴もあります)。
また、吸入薬はしっかりと気管支の奥まで薬剤を届ける必要があります。そのためにはある程度強い吸入力が必要となります。しかもしっかりと薬を吸いきるにはある程度の長い時間吸い続ける必要があり、さらに吸った薬を気管支の奥まで充満させるために、吸入後に息止めをする必要があります。
しかしこれができていない方が非常に多いのが実情です。
当院にいらっしゃる方で以前からエリプタを使用されていた方に、エリプタを診察室で実際使用していただくと、吸入力が非常に弱かったり、吸入の持続時間が短かったり、息止めができていないケースが少なくありません。
これによって症状が十分に取れないことが多いのです。
エリプタの正しい使い方は「しっかりした強さで」「男性なら3-4秒、女性なら2-3秒、胸がしっかり膨らむまで吸い」「その後5秒間息止めをする」が基本になります。
これらは教わらない限り、正しく行うことはほぼ不可能ですし、一度教わっても時間が経つと徐々にできなくなっていることも少なくありません。
他にもいろいろポイントがありますが、すべての手順を正しく使用するというのはなかなか難しいことです。
せっかくの吸入薬です、安くもない薬剤なので、使用する方には最大限の効果を得てほしいものです。ほかの器具でもそうですが、吸入薬を使用する際はぜひ医師や薬剤師などからしっかりサポートを受けられる環境で使用していただきたいと思います。