医師ブログ

2024.01.22更新

年明けより、当院のご予約が非常に取りにくい状態となっており、皆様には大変ご迷惑をおかけしております。

インフルエンザの規格外の長期流行が収まらぬうちに、コロナも徐々に増えてきているようです。
当院の発熱・感染症外来の肌感覚では、11月はインフル:コロナが9:1くらいだったのが、12月は7:3くらいになり、この1月は5:5くらいになってきている印象です。
またさすがに1月は冷え込む日も多く、気管支にとっては過酷な環境になっています。

大変多くの受診ご希望のお問合せを頂いているにも関わらず、受診まで大変お待たせしてしまい非常に心苦しい状況ですが、不定期ながらも2月から土曜日の呼吸器科医師による呼吸器専門診療を開始する予定としております。
他院からの転院ご希望の方長引く咳の方にも、わずかではありますが当院の受診機会をご提供できるかと思います。

ご希望の方は是非、最新情報を当院LINE公式アカウントやこのホームページなどでご確認頂けますと幸いです!



さて、この時期のコロナ、インフルをはじめとした感染症は、ご存じの通り集団生活をする学校でも爆発的に広がります。
またお子様は外遊びや体育、部活など、屋外での運動の機会が多く、気道がより冷たい、乾燥した空気にさらされがちになります。

そのためこの時期は、咳が止まらなくなるお子様が増えてきます。
その中には、やはり喘息のお子様が少なからずいらっしゃいます。

感染や寒さ、乾燥をきっかけとして、喘息が悪化してしまうお子様が非常に多いのです。


そこで今回は、長引く咳、特にその中でも頻度の多い喘息の、大人と子供で同じこと、そして違うことについて書いてみようかと思います(赤ちゃんなど、乳児の喘息は私は診察できませんので・・・申し訳ありませんが今回は割愛させてもらいます。ぜひ小児科の先生にご相談ください)。


まず、大人と子供で同じことです。

 

喘息が「気道の慢性的な炎症」であるということは、全く同じです。

つまり、子供でも大人でも、「長期的なお付き合いをしていく必要がある病気」ということになります。

 

そして、喘息は大人も子供も、「風邪」一番症状を悪化させやすくする原因です。

今のような感染症が大きく流行る時期は、しっかりと手洗いや手指消毒、換気などの感染対策をとることが重要です。

体内での病原体の量は炎症の強さと比例することも多く、体内での病原体の増加を抑える各種ワクチンの適切な時期の接種も重要である点も、大人と子供で一緒です。

また、大人でも喘息に鼻炎が合併している例は少なくありませんが、小児喘息でも同様です。

むしろお子様はなかなかうまく鼻がかめず、痰もうまく出せないことが多く、鼻水が鼻の奥やのどにたまってしまい、これが咳の原因になったり、鼻症状を余計に悪くして巡り巡って喘息の悪化に影響してしまったりすることもあります。

いずれにせよ、大人でも子供でも、喘息の治療をしっかりするなら、鼻のコントロールをしっかり行うことがめちゃくちゃ重要になります。

 


次に、子供と大人で違うところをあげていきましょう。

まずは症状です。
子供と大人の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」の頻度の違いです。

子供の場合、当然のことながら気管支がもともと細いです。

喘息では、気管支から「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が鳴るというイメージをお持ちの方は多いかと思います。

成人の場合は、喘息であってもこのイメージは必ずしも当てはまらず、むしろ「ゼーゼー」「ヒューヒュー」ならない喘息の方が多い印象ですが、子供の場合は、気管支が、音が鳴るような狭さになりやすいという点から、大人より「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音をきたしやすいです。

ですので、小児喘息の診断では、大人よりも「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえることを重視する傾向があります。

ただし、逆に言うと他の原因、たとえばウイルス感染症による細気管支炎や鼻の炎症などで「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が生じる例も少なくなく、特に3歳までは、喘息もないのに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」としやすい子が少なくありません(これを「一過性初期喘鳴群」と言います)。

「ゼーゼー」「ヒューヒュー」するからと言って喘息と決めつけることできず、診断は気を付けて行うことが大事です。


また、時に検査が難しいのも小児喘息の特徴です。

喘息の検査は、採血だけでなく、息を吸ったり吐いたりする検査が重要な位置を占めています。
この検査は、息の吸い方、吐き方、その力の入れ具合など、決められた方法に従って行わないと、正しい結果がでません。
ですので当たり前なのですが、お子様は大人に比べてうまく検査をできないケースが多くなってしまいます。

なので子供の喘息を診断するときは、検査に頼らずに、症状、今までのヒストリー、家族歴や周辺環境(ペットや運動歴など)から総合的に判断し、とりあえず治療してみてその治療に反応するかを見る「診断的治療」に頼らざるを得ない場合が少なくありません。

 

次に、小児喘息のアレルギー反応の頻度の高さです。

小児喘息は、アレルギー反応が原因として起こる頻度が90%程度ととても高いと言われています。
例えばダニやペット、カビなどが体の中に入って、それを追い出そうとする「おバカ抗体」であるIgEが、気道に炎症を起こしてしまうパターンです。

採血呼気一酸化窒素検査(気道のアレルギー反応の強さを調べる検査です)でも、しっかりアレルギー性炎症のデータが出てくることが多いです(もちろん例外もありますが)。
ですので、子供の喘息では環境調整が大きな効果を示す例が多くあり、またステロイド吸入薬などのアレルギー反応を抑える治療も比較的効果は上がりやすい傾向があります。

一方大人の喘息は、検査をしてもアレルギーの原因がはっきりしないタイプが50%と小児喘息よりは多く、その原因はよりいろいろなパターンがあり複雑です。
その場合は環境調整をしてもなかなか良くならなかったり、吸入薬や抗アレルギー薬の効きも悪かったりする例が少なくありません。


また経過でも違いがあります。

小児喘息は「治る可能性が十分ある病気」です。

 

喘息は主に乳幼児の時に出てきやすいと言われ、成長に伴い徐々に症状が徐々に出にくくなることが多いです。
小児喘息のあるお子様のおおよそ60~80%が大人になったら症状が落ち着くというデータもあります(ただその後、大人になってから再発してしまう方が、その中の半分程度いらっしゃるというデータもあります・・・)。

一方、成人喘息自然に治ってしまうことははっきり言って非常に少ないです(一時的に落ち着いていても治療を中断すると、どこかで悪化をしてしまう、いわゆる「くすぶった状態」にしかならない例が非常に多いです)。

ですので、小児喘息の場合は、長期にわたる治療を止めることのリスクが高い成人喘息と違い、成長とともに将来的に吸入薬などの治療を止められる方が少なくありません。

しかし、とはいってもこの時期にしっかり治療しておかないと、気管支の炎症が固定化してしまい、喘息が治らずにそのまま大人になってしまうことにつながってしまうので、必要な治療はしっかりと指示通り続けないといけないのは成人と同様です。

自分の判断で薬を止めてしまうことは絶対に避けて、必ず主治医の先生と相談しましょう。

 


使うお薬にも多少の違いがあります。

 

まずは大人と子供の「吸入ステロイド」の立ち位置です。

まず大人の喘息では「超基本薬」となっている吸入ステロイドですが、小児喘息でもとても大事な位置づけではあるものの、症状が軽い場合はその後改善、完治の方向に行くことも考慮して、吸入ステロイドを使用せずに治療をするケースがあります。

小児の喘息治療ガイドラインでは、年数回までの症状なら、飲み薬(モンテルカストやプランルカストなど)だけでコントロールすることとされ、週1回以下程度までの症状であっても、ステロイド吸入薬と飲み薬のどちらかを続ければいいということになっており、症状が極々軽い人を除いて基本的に吸入ステロイドを使うことが必要となる大人の喘息よりは、ほんの少しだけその地位が低いかなという印象です。

理由としては、小さい子では吸入治療が大人より難しいという点と、もうひとつ、小児では吸入ステロイドを長期に使用することで、大人になったときの身長が男子で0.8cm、女子で1.8cm程度小さくなってしまうというデータもあってEffect of inhaled glucocorticosteroids in childhood on adult height. N Engl J Med. 2012;367:904-912成人の喘息よりは少し慎重に使用する必要があるからなのです。

ただ、先ほどもお話ししたように、不十分な治療は、喘息が重症化してしまうリスクや、大人になってからも症状を持ち越してしまうリスクの増加につながり、将来の健康を脅かす要素となってしまいます。

ですので必要な時に出されたステロイド吸入薬はやはり大人と同様、しっかり指示通りに続けて頂くことが重要であるというのは、全く揺るぎません。

 

次に、薬の量と種類の違いです。


そして、成人に比べると、小児で使える吸入薬は当たり前ですが、量が少なく設定され、種類も限られています。

小学生低学年程度であればいいのですが、小学生高学年、中学生となると、だんだんと大人の体の大きさに近づき(中には中学生ですでに親より大きく成長している子も少なくないですよね)、より多くの量の薬を必要とするにも関わらず、14歳まではこの量の縛りがあるため、十分な量の薬が使えないジレンマが出てくることもあります。

ただいろいろ工夫して行えば何とかなることも多いので、あきらめずに喘息の治療に詳しい医師と相談しながら症状をしっかりコントロールすることを目指してほしいと思います。


また、ここでも散々お話ししている通り、吸入薬は使い方がめちゃくちゃ重要なのですが、うまく使えるかどうかも年齢によって異なります。

パウダーの吸入薬は吸いこむ力が大事だし、一方スプレーの吸入薬は、押したと同時に吸いこむというタイミングがちゃんと取れるかが大事です。

年齢などに応じた子供の能力に合わせて、子供が使える吸入薬(パウダーなのかスプレーなのか、はたまたネブライザーなのかなど)を選んだり、うまく吸入薬を使うようにできる為の補助具(スペーサーやマスク、スプレー缶を簡単に押せるようにする噴霧補助具など)を、適切に選んで使用し、その使い方を親が理解しておくことも大事です。

 

最後に、周囲の大人の病気への理解の大切さです。


子供の場合は、大人に比べて体育や部活、外遊びなどで運動する機会も多いからか、運動で症状が悪くなるというお悩みで相談される方が多いです。

ですので、大人に比べて特に運動の時の対策を取るという視点が重要になるケースが多くなります。

ですので体育の授業などで症状が出て満足に運動できなくなることが予め予想できる場合、「発作止め」と言われる即効性気管支拡張吸入薬(メプチンとかサルタノールとか)を、症状が出てすぐや、運動前に使っていただくことで劇的な生活の質改善を得られることが多いです(詳しくはこちらも!)。

このことを親だけでなく、学校の先生など、周りの大人も理解してあげることがとても重要です。

子供はなかなか自分の困っていることを正確に表現することができない場合もあるので、喘息という病気やその薬の使い方について、周りの大人がしっかりと理解し、面倒を見てあげる必要があることも、大人とは異なる小児喘息の大事な特徴の一つです。

 


お子様の喘息の悩まれる方は非常に多いのですが、小児喘息はうまく治療をすれば、ほとんど症状をなくすことができる可能性があります。
十分な治療をされずに慢性的に症状が続いていたのであれば、ちょっとした治療のひと工夫で、今までと全く違った生活を得られる可能性のある病気です。

やはりそのひと工夫は、(小児科にせよアレルギー科にせよ)喘息治療にこだわる医師に相談していただくことで得られるものです。

 

症状に悩まれているお子様皆さんが是非そのような先生に巡り会え、快適な呼吸を取り戻して元気に生活ができるようになることを切に願っております!

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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