医師ブログ

2023.12.28更新

先日、当院に取材がいらっしゃいました。
いらっしゃったのは「Weveryチャンネル」という、YouTubeで医療経営系の情報発信をされているチャンネル。

場末の当院に何を求めたかというと、「事務長がいるのに外部から事務長を導入した奇特なクリニック」というテーマ。

当院はもともとジムチョーがおりますが、私が継承した後に、このクリニックを少しでも患者さんに快適に受診して頂けるように変えていくことを目指し、IQVIA社さんから外部事務長を招聘しました。
現在は当院のジムチョーと外部事務長が、協同でいろいろな仕事を進めてもらっています。

当院は毎月のように新たなシステムを導入していますが、その実現にはこの体制が大きく寄与しています。

おかげさまで当院におかかり頂く患者様がどんどん増え、特に11月からはそれが顕著となる状況で、まだまだ追い付かなくなってしまった部分が多々出てきており皆様には大変ご不便をおかけしてしまっているのですが、今ここにいるスタッフみんなで、さらに知恵を出して少しでも解決していきたいと思っています。
(当院の現況、現時点での対策についてはこちらよりご説明致しております)

医療情報というよりは経営視点の内容にはなりますが、もし興味のある方がいらっしゃいましたら以下から是非!

weveryチャンネル

 

というわけで、今回は一般の皆様には大変申し訳ありませんが、たまには内輪の話を。

とはいえ、まずは一般の皆様にも知っていただきたい内科医のキャリアをご説明します。

医学生は6年間(以上?)かけて医学部を卒業し、初期研修内科外科小児科などさまざまな科数カ月単位で2年間ローテートしたのち、3年目からそれぞれの科で後期研修医としての研修を開始します。
内科を選択した場合、その研修の後に、「内科専門医」という専門医資格を取得することを目指します。
その「内科専門医」を取得する中で、一番のハードルとなるのが、「病歴要約」です。
これは決められた領域(呼吸器、消化器、循環器、内分泌、代謝、腎臓、血液、神経、アレルギー、膠原病、感染症、救急、外科紹介、剖検)のそれぞれで自らが経験した症例を、決められた書式でまとめる課題です。
提出症例は29症例。年単位で決められた範囲の病気を自ら治療し、経験を集めることが求められます。


さて、ここからが業界トークです(興味のない方はこのブログの最後へどうぞ!)。

この病歴要約、J-OSLERになってからさらに厄介になりました。

私の後輩たちも、J-OSLERでの病歴要約作成に苦しむ人が続出しています・・・
症例集めも大変なのですが、その記載をどのようにしたらいいのか、ここでつまずいてしまう人も多いようなのです。

またついてくれる「指導医」の質も、実はいろいろです。
ぶっちゃけ、指導医がイケてないと、この病歴要約を通過することがさらに難しくなってしまいます・・・

私は新内科専門医制度が開始する前の内科認定医、総合内科専門医をそれぞれ病歴要約を書いて通りました(なるべく最短で総合内科専門医を取って、やりたいことをいち早くやりたかったので、病歴要約の免除は待たずに専門医取得の際も22症例書きました。大変すぎて、途中その選択を後悔した時もありましたが・・・)
私の場合は指導医に恵まれたこともあり、両方ともA評価で合格したため、翌年から病歴要約査読委員に任命され、今年で8年目になります。

旧制度(内科認定医&総合内科専門医)の時代はA3の紙で提出する様式でしたので、認定医受験者7~8人分、専門医受験者1~2名分のサマリーが次々と病院に送られ、業務終了後夜遅くまでひたすらペンを入れて評価をしていました(今でいう「自己研鑽www」の時間です)。
サマリー

在りし日の私の医局の机です。
この中に病歴要約が18×7=126枚詰まっています・・・

2018年度から「新内科専門医」制度が開始され、その年から研修を開始した先生方によるJ-OSLERによる病歴要約査読が2020年から開始となり、評価もA,B,C,Fの評価(つまり病歴要約に点数をつける評価)から、accept,revision,reject(つまり病歴要約が合格か不合格かを判定する評価)に代わり、その戦略も少し変わってきています。
以前はより完成度の高い病歴要約の作成を目標とすべきでしたが、現在の制度では、とにかく凡ミスをしない、差し障りのない、無難な病歴要約を作成することが求められます。

しかし、長年(というほどでもないですが)査読に関わる中で、残念ながらこの中で、そのような「無難な病歴要約」という目的にも達しない、基本の形を満たしていない病歴要約、我々査読委員の印象が悪くなるような病歴要約を少なからず目にしました。

医学部受験、そして卒試、国試を突破した皆さんであり、3年も医学部に入るのに時間を要した私と比べてもはるかに優秀であろう皆さんが、病歴要約につまづき試験に通らないことで、キャリアの遠回りを招いてしまうのはとてももったいない・・・

ポイントさえしっかり理解、実践できれば、「無難な病歴要約」は作成できるものなのです!

病歴要約でひっかかり試験を受けられない、そんな悲しいことになってほしくない。
一人でも多くの若き内科医が、病歴要約をつつがなく突破して、羽ばたいてほしい。

そのような願いをこめて、若き先生方の多少の助けになれればと。

そこで今回は「病歴要約査読委員がいい印象をもって、スムーズにacceptをもらえる病歴要約」をどのように作ったらいいのか、査読委員の立場からの視点で、特に皆様に心がけて頂きたいポイント、要点を書いてみようと思います。(私が呼吸器内科ですので、内容がやや呼吸器内科医よりの視点になってしまっている点はご容赦ください・・・)


1.まずはファーストインプレッション!

現在のJ-OSLERでは、先ほどもお話ししたように病歴要約が紙では出なくなったので、評価は全てオンラインで行います。
現在は査読委員は、1年に2名ほどの受験者の評価を行います。
そして1名の受験者につき、29症例もの病歴要約を全て目を通して、評価をしなければならないのです。

そのような状況で、評価する側としては、しっかり書けてそうな人が当たるととてもうれしいのです。
なぜならば、そのような方であれば、おそらく指摘することも少ないだろうから、「それほど気張らずに読んでもいいな」と安心できるからなのです。

一方、しっかり書けてなさそうなら、「いろいろ指摘点が出てきそうでめんどくさ・・・」という心理を持ってしまいます。
すると、読む方も人間ですから、読み方が「アラ探し」の読みになってしまうのです。
こうなると内容にアラが見つかったときに「やっぱり・・・」という気持ちになってしまい、ますますネガティブな感情を持ってしまうのです。
こうなるとなかなか良い評価にはつながりません。

ですので、とにかく大事なこととして、まずはファーストインプレッションで「この人はしっかり書けてそうだな」と思わせることが何よりも大事になるのです。

では、何に気を付けたらいいのでしょうか。

 

2.誤字、脱字、プライバシー配慮には気を付けよう

まずは当たり前ですが、誤字、脱字がないようにすることは基本中の基本です。

読んでいる方の心情を考えると、誤字、脱字があった時点で「そもそもコイツしっかり推敲してねーな」という印象を持ってしまいます。
評価者も人間なので、完成度が低い病歴要約だと思ってしまうと、いろんなアラが見えてしまいます。

逆にしっかり体裁が整っていると、気持ちよく読み進められるので、それだけでもいい印象が残りやすいのは事実です。
カタチを大事にする病歴要約ですので、体裁を整えるという意味では、句読点の形の統一(「、」や「。」なのか、「,」や「.」なのか)を統一することも地味に大事なことです。

次に、これも手引きに目立たせて書かれていますが、患者氏名を消すのは非常に大事です。
これが1か所でも忘れて残ってしまうだけで、rejectにしたくなるのくらいパワーがあります。
また忘れやすいのが紹介元、紹介先の施設名です。流れで見逃してしまうことがありますので、これもしっかり匿名化することが大事です。

 

3.医療用語の使い方に注意!

次に医療用語を正しく使えているかが大事です。

例えば「抗生剤」という用語は(話し言葉なら大した問題ではないのですが、やはり病歴要約としては)医学用語としてあまり適切ではないようです(あえて言うなら「抗生物質」ですが、「抗生物質」という用語も、本来は細菌から産生する物質のことをいうので、レボフロキサシンやST合剤のような合成抗菌薬は本来「抗生物質」ではないはずなのです)。

「抗菌薬」という用語がベストでしょう。

 

また「呼吸苦」「呼吸困難感」という用語も引っかかってしまう査読者は多いです(どちらも呼吸がしにくいという感覚を表す言葉(≠呼吸不全)であり、「呼吸困難」が確実です)。
「熱発」、「グル音」、「リバース」などの俗語、ASTやALTなどの数値上昇だけで「肝機能低下」という用語をつかうこともダメです(「肝酵素値上昇」≠「肝機能低下」です)。
JCSの記載も正しくされていない例が少なくありません(JCSⅢ-100ではなくJCS100です)。

 

4.数字まわりの記載にも気を配ろう!

検査値も、単位間違いや単位が抜けてしまうことは避けましょう(結構見かけます)。
また診断の根拠になる数字の記載がないと、「この先生、しっかり症例を見てねーんだな」と思われ評価が下がってしまいます(例えば呼吸不全症例なのに動脈血液ガスの数値記載がなかったり、好酸球性疾患なのに白血球分画が記載されていなかったりなど)。

 

5.略語にも気を付けるべし!

また略語の使用時は、慎重に取り扱いましょう。

本来は正式名称の記載の後に略称を使用します(「Computed Tomography;以下CTと略す」など)。
今はそこまで厳格ではないかもしれせんが、BT、BP、HRなどの表記や、経過にCKDやHOT、GF、CFなどという用語をいきなり記載すると、突っ込まれる可能性は高いです。

記載に関しては、これを守っているだけで「あっ、この先生はしっかり病歴要約に取り組んでいるな」と思われるので、かなりacceptされる率は高くなると思います(それさえ出来ていない病歴要約が実に多いのです・・・)

さて、その「基本」ができたところで、次は記載の注意点についてです。


6.【病歴】はいつからいつまで?

まずは【病歴】を記載しますが、【病歴】は、原則的には「エピソードの開始から入院決定時まで」です。
時々【病歴】を「来院前までの状態」まで書いて、来院時所見(つまり診察室や救急室での状態)を【入院後経過】に書いてしまっていたりする例があるのですが、これは間違いとなります。

 

7.血液検査所見はしっかりと書式を守る

血液検査結果の記載で、【血液所見】、【血液生化学所見】、【免疫学的所見】はしっかり分けて書きましょう(すべての結果を【血液所見】として記載してしまう間違いを時々見かけます)。
SpO2や血液ガス所見を記載する場合は、必ずその時の条件を入れましょう(酸素投与量だけではないです。投与するためのデバイス、例えばカヌラかマスクか、はたまたNPPV,IPPV,ネーザルハイフローなのか)。


ここで気を付けるべきは、鼻カヌラ、マスクは低流量システムであり(例えリザーバーマスク15L/minでも低流量システムです)、FiO2の算出は不可能なのです。
時々O2 1L/minをFiO2 0.25などと(O2が1L/min増えるごとにFiO2が約0.04ずつ増える傾向にあるという知識から)勝手に決めて書いてしまう例があります。

低流量システムは患者側の換気量によってもFiO2は変わります。
したがって低流量システムの場合はAaDO2の算出も当然できないので、イキって記載しないようにご注意を。

 

8.副病名で登録しないこと

指定された疾患群で、事実上の副病名となる疾患を無理やり当て込むのはおススメしません。
特にJ-OSLERになってからはより厳しくなっている印象があります。

指定された疾患群の【考察】が、その疾患群の内容にあっていないと(例えば症例は血液で、主病名を貧血にしているものの、考察内容が貧血を引き起こした消化管出血に焦点を当ててしまっているなど)「規定を満たしていない」とされ、rejectになる可能性が高くなります(これやられると、評価側としては「偏った研修しかしてねーんだな」と思って、めっちゃくちゃ印象が悪くなります・・・)
書いたら必ずしっかり読み返してみて、その疾患群としての考察が適切になされているか、確認してみてください。

 

9.診断には根拠を

また、すべての記載に整合性があることはかならず確認しましょう。
特に【主病名】での診断、治療は、その診断根拠がしっかりと示されていることが大事です(治療医は【主病名】の診断、治療の根拠が例え仮説であっても考えられていなければ、治療には臨めないはずです)。
例えその病名が他科や他院で診断されたものであったとしても、その後自分が担当医として治療したのであれば、その診断根拠は過不足なく記載する必要があります(これがしっかり記載されていないと、「上級医の治療をただ何となくぼーっと見てただけなんだな」と思われ、これも印象めっちゃ悪いです)。

 

10.治療経過でのパラメータの扱いを誤らないこと

また【治療経過】で病勢評価に使用すべきパラメータはしっかりと記載し、その解釈もしっかり病歴要約内で行わないといけません。

例えば、感染症の経過の記載で時にみかけるのですが、「解熱した」、「CRPが下がった」だけを病状改善の根拠にするような記載は、内科医としては当然ダメです。
感染症では何をパラメータにすべきか、内科研修をされていたなら知っていますよね?
また、起炎菌を検索する姿勢を見せているか、その結果により治療方針を都度再検討しているか、というのも重要です(ここも内科医としての姿勢が見られています。評価者の印象が大きく影響される部分です)。

 

11.薬剤の商品名に注意!

薬剤は一般名が原則ですが、ついつい商品名で書いてしまうミスが結構多いです。
多い例としてはプレドニンワーファリンカロナールロキソニンなどです。
あまりにも商品名が定着しているのでついつい使いたくなる気持ちはわかるのですが、特にそのような薬剤ほど修正漏れには気を付けましょう(一般名、わかりますよね?)。

 

12.剖検例は、症例から学ばせていただく

剖検症例では「剖検からわかること」について考察しましょう。
時々考察で、剖検結果にはさほど触れず、疾患の定義などを羅列するような残念な病歴要約に出会うことがあります。
主治医、担当医として、治療の最後に剖検の機会を下さった患者さん、そのご家族への敬意を持っていれば、真摯に剖検に臨み、そこから何か知見を得られるはずです。

 

13.総合考察は、その症例から受け取れるonly oneを

【総合考察】では、疾患についての知見を並べただけ(つまり教科書から知見を引っ張ってきただけ)の考察は評価が非常に低くなります。

我々査読者は、「受験者はこの症例から何を学び取ろうとしたか」というところを重点的に見ます。
疾患の定義、知見の記載は、あくまで受験者が経験した、その症例を論じるための前提にしか過ぎません。

自らが経験したその症例が、その疾患の一般的な知見と合致するのか、もしくは例外的なのか、そしてそれは何故なのか。
またその自験例だからこそわかったことは何なのか、ということを中心に記載したいところです。

 

14.全人的考察とは?

【総合考察】では「全人的考察」というのが非常に重視されますが、実はここに「全人的考察」を織り込むと、総合考察の質が一気に上がり、13で述べたことは解決してしまいます。
「全人的考察」は「その患者さんや周りの人の考え方、背景などを織り込む作業」であるため、それを考えるだけで、その自験例がonly oneとなるのです。

「全人的考察」と聞くと難しい印象を持つ方も多いのですが、実は通常医師として診療中は必ず考えていることです。

例えば悪性腫瘍の化学療法の適応があり、家族は前向きだが本人は前向きではないな場合。
主治医としては治療適応を考える際に、標準治療のことだけでなく、そもそもその方にどう説明しようか、治療拒否されたらどうしようか、そんな時は家族とどう折り合いをつけていこうか、もし実施したのちに強めの副作用が出たときに、その後治療継続はどうしようかなど、内科医としては当たり前のように「その患者さん、周りの方の考え方や背景」を否応なく考えていますよね。

つまりそれが「全人的考察」です。

難しいことではありません。
むしろ武器として使っていければいいかと思います(とってつけたような「患者さんの気持ちを理解しながら治療した」程度の言葉を付け加えるだけは、「全人的考察」にはなりません)。

ここまで気を付けて頂ければ、今の制度なら病歴要約はほぼ間違いなくacceptされるはずです。
とにかく査読委員にいい印象を持ってもらうことを意識して皆さん取り組んでください!





一般の皆様、ただいま!!

最後は一般の皆様へのご連絡です。

12月27日をもって本年の診療が終了いたしました。
本年も皆様、当院をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。

先ほどもお話しさせていただいたように、当院に受診される方の急増でご予約が非常に取りにくくなっております。
現在当院で診察していただける医師を探しておりますが、それまでの間は、かかりつけの患者様、転院希望の患者様の対応を優先せざるを得ない状況です。
状態が落ち着いている方は加藤医師、平田医師、飯沼医師の枠も是非ご利用ください(いずれの診療枠もすべての方がご利用可能です)!

年明けもしばらくの間、発熱・感染症外来はやや縮小せざるを得ない状態となります。
かかりつけでお調子を崩された方に関しましては、こちらの条件に当てはまる場合は、通常枠がなくてもクローズの臨時枠にてお受け致しておりますので、お電話でご相談ください!

それでは皆様良いお年を!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.12.03更新

この前新年を迎えたと思ったら、あっという間に師走です・・・

年末年始に加え、当院への転院希望の方の急激な増加で、びっくりするくらい年末まで予約が埋まってしまっています・・・
ご予約をお取り頂くのが、今までになく難しくなってしまい大変申し訳ないのですが、おかかりつけの方の急な体調悪化は、当院の規定に従い、必ず受診できるようにご案内をしておりますのでご安心頂けたら幸いです。

さて前回までで、5種類あるうちの喘息の生物学的製剤の3種類をお話ししました。
今回は、残りの2種類についてお話をしてみようと思います。

まずは、もう一度「喘息の炎症の起こり方」の図を載せてみます(この図は1日かけて結構頑張って作ったので、どうせならいっぱい使ってみたいのです(笑))
喘息炎症カスケード

 

そして、5種類の生物学的製剤の一覧ももう一度載せてみましょう。

喘息生物学的製剤一覧

前回は「ゾレア」「ヌーカラ」「ファセンラ」まで説明しました。
今回はその隣、「デュピクセント」から説明をしてみましょう。

デュピクセント

この薬は当院でも比較的良く出している薬です。
「デュピクセント」は、この図の中で、今までよりもやや上流側に位置する「IL-4」「IL-13」を妨害するお薬です。

アレルゲンが体の中に入ってくると、そのアレルゲンの敵情報を樹状細胞が拾って、ヘルパーT細胞に情報提供されます。
このヘルパーT細胞B細胞に抗体を作らせるのですが、その際にヘルパーT細胞が「IL-4」「IL-13」「指示伝達物質」として使って、B細胞により多くのIgEおバカ抗体、でしたね)を作らせます。
デュピクセントはこの指示伝達物質を妨害することで、IgEがつくられないようにしてくれます。

また、ヘルパーT細胞自然リンパ球からも「IL-13」が出され、それが直接、気管支上皮の細胞や、その周りを取り囲む「平滑筋」を収縮させて気道を狭くしてしまいます。
すると気管支が狭くなり空気が通りにくくなることで苦しくなるのですが、デュピクセントはこれを抑えることができます。

喘息に関しては12歳以上の方に対して使用可能で、このデータでないと使えないというのはないのですが、そのメカニズムから、呼気一酸化窒素濃度(当院では「気管支のアレルギー反応の程度を見る検査」というように説明しています)の数値が高い方が比較的効きやすいと考えられています。

またこの薬剤は、「好酸球性副鼻腔炎」「アトピー性皮膚炎」にも使用できます。

特に「好酸球性副鼻腔炎」「喘息」非常に合併する頻度が高いと言われています。
好酸球については前回のブログでもご説明しましたが、好酸球は炎症を引き起こす細胞で、これが鼻に集まると、副鼻腔炎が慢性的におこり、その結果鼻にポリープが出来て、鼻詰まりがひどくなり、より一層副鼻腔炎が悪化します。

鼻と気管支は「1本の管」でつながっている
わけですので、鼻より下流にある気管支でも同じように好酸球が悪さをすることが良く起こり得るわけです。
このような方に「デュピクセント」を使うと、鼻と気管支がいっぺんに良くなるため、ハマる方はめちゃめちゃいい薬です。
同じことは「アトピー性皮膚炎」でも言えます。
アトピーと喘息が合併する方も少なからずいらっしゃるので、両方にお悩みの方に関してはこの薬はハマりやすいですね。

「デュピクセント」2週間おきに注射する薬剤で、「ヌーカラ」と同様、ご自宅で自分でできるペンタイプの注射キットがありますので、頻繁に注射を打ってもらうためにクリニックに通院する必要がないというメリットがあります。
あと「ゾレア」を除けば、他の生物学的製剤よりは多少お安めなのもポイントになるかもしれません。


最後に「テゼスパイア」です。
この薬剤は2022年度に新発売された、まだこの世にでてきて間もない薬剤です。
この薬剤は、喘息の反応でいえば一番上流部分を抑える薬剤になります。
テゼスパイア

 

気管支が、アレルゲン感染症、その他の様々な刺激に暴露された時、気管支の細胞は、その刺激の元となった敵を排除するために、周りに「TSLP」というサイトカイン(お知らせ物質)が放出されます。
その「TSLP」が放出されると、自然リンパ球が目覚め、様々な炎症反応の起点になってしまいますが、「テゼスパイア」「TSLP」を抑えることで、この反応を防ぐことができます。
一方「TSLP」「樹状細胞」に仕事をさせるようにも促しますが、「テゼスパイア」はこれも抑えることで、その後の「ヘルパーT細胞」「B細胞」「好酸球」などが働こうとする力を抑えます。

 

上流で抑える薬のメリットとしては、その下流にある多くの経路をまとめて抑えることができるので、複合的な反応が起きている場合には、複数のポイントを同時に抑えることができるです(一方、症状をもたらす反応がピンポイントで起こっている場合は、そこを局所的に抑える薬がぴったり合えば症状を抑える力は強くなる傾向にあると言われています。「ゾレア」「ヌーカラ」「ファセンラ」は比較的ピンポイントで抑えると言える薬剤です)。

ですので、この「テゼスパイア」という薬の大きなポイントは、「典型的な反応IgEとか、好酸球とか)によらない喘息」に、効果が期待できる面があるというところです(もちろんメカニズムからは喘息に典型的な反応が起こっているようなパターンでも効果は期待できます)。
このようなタイプの喘息は、通常使われる吸入ステロイドや抗アレルギー薬などが効きにくいパターンがあり、今まではなかなか治療のしようがなかったケースも多かったのですが、このタイプの喘息の方に期待できる、稀有な薬剤ともいえるかもしれません。

現時点(2023年12月時点)ではまだ自己注射ができませんが、今後自己注射ができるようになることが予定されています。

というわけで5種類の薬剤について説明をしてみました。
この薬剤、ここまでお話をすると本当に画期的な薬です。

でも皆さんの周りで使っていらっしゃる患者さん、そこまでいらっしゃいませんよね・・・

やはり、この薬剤の一番のネックは「値段」です。

上に挙げたとおり、どうしても1本あたりの値段がとても高い薬剤であり、3割負担でも結構な額になってしまいます。
また1回で終わり、とか、良くなったら終わり、とかという薬剤ではないので、どうしても毎月の支払いが難しいとお考えになる方は少なくありません。

このような状況に、助けになるかもしれない制度がいくつかあります。
皆さんが対象になりえるのが「高額療養費制度」です。

「高額療養費制度」とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月(他の外来医療機関の支払いもまとめて計算することができます)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を国が補助してくれる制度です。
その上限額は、年齢やその方の収入によって変わり(収入が多いほど上限額は上がります)、支払額は世帯でまとめることができます。
またこれらの薬剤は2~8週で定期的に使用する薬ですが、この制度は1年に3回以上この上限を超えた場合に、4回目からはその上限額がさらに下がる(多数回該当といいます)という制度もあり、定期的にこの薬を使用する方は該当できるケースがあります。

他にも、ご加入されている保険組合によっては独自の給付を行っているケースもあります。

また「デュピクセント」を利用できる好酸球性副鼻腔炎や、「ヌーカラ」を使用できる好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は、確定診断できれば難病指定ができるケースがあり、これが通った場合はさらに医療費助成を受けられるケースもあります。
あと、病状が極めて重症で、呼吸不全(在宅酸素を用いるなど)をきたしてしまっているケースでは身体障害者手帳の申請を行えるケースがあり、これもその障害の程度によって医療費助成を受けることができます。

確かにこれらの制度を使用しても高額にはなることが多いのですが、この薬剤を使って生活が劇的に楽になるのであれば、その価値もあるのかもしれません。
ただ何度もお話ししますが、これらの薬剤を使用する前提として、まずは適切な喘息の治療が行えていることが絶対です(ここがおろそかなのにこんなに高い薬を続けなければならなくなるのは本末転倒ですよね・・・)。


しっかりと適切な吸入薬が選択されている、その吸入薬が正しく使われている、その他の薬剤も適切に入っている・・・

ここまではマストで、話はそれからなのです。

ですので、喘息で日常生活を送るのに困ってしまっている方、まずは今の治療が適切かどうか、しっかりと主治医の先生と確認したうえで、それが大丈夫だったら是非一度主治医の先生と生物学的製剤について考えて頂き、導入できる医療機関でのご相談を検討してみてください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.11.16更新

前回のブログで、喘息の「生物学的製剤」の治療を理解するうえで、どうしても必要となる「体の中で起こっている喘息の反応」を説明してみました。

喘息カスケード

前回ブログより再掲


極力理解しやすいように工夫したつもりでしたが、案の定内容が難しいとのご指摘も頂きました。

図をもう少し盛り込んで、もう少しわかりやすいように内容を改良してみましたので、一度お読み頂き、ゲンナリされた方ももう一度トライいただければ幸いです・・・

前回ブログはこちらから!

という訳で今回はその続編、いよいよ各薬剤についての説明に入ろうかと思います。

まず、基本として、これらの薬剤は、「喘息を完治させるもの」ではございません。
また「吸入薬の代わりとなるもの」、でもございません。

生物学的製剤は、あくまで、喘息治療の基本となる、吸入薬と、それに付随する様々な内服などの治療、それに喘息に合併する喘息以外の治療を適切に行ったうえで、それでも症状がコントロールできない場合に追加で使用する薬剤となります。
そのため、基本的には定期的に続けていくことを前提に使っていく薬となるので、まずはこの点をご理解ください。

さて、前回もお話しした通り、喘息の生物学的製剤は現在、5種類が使用できることになっています。

その5種類は、それぞれ前回お示しした体の中で起こる喘息の反応の一部を止める薬となっています。

その5種類は、発売された順に、以下の通りとなっています
(カッコ内は “ 一般名:喘息への使用が認められた年 ” です)。

ゾレア(オマリツマブ:2009年)
ヌーカラ(メポリツマブ:2016年)
ファセンラ(ベンラリツマブ:2018年)
デュピクセント(デュピルマブ:2019年)
テゼスパイア(テゼペルマブ:2022年)

その特徴を一覧にまとめてみました。

生物学的製剤一覧

(2024.10.3)2024年10月現在の情報に更新しました

まず最初に使用されるようになったのが「ゾレア」です。

この薬剤に関しては、一度、9月のこちらの記事「テレビで出ていた「ゾレア(オマリズマブ)」って、いったいどんな薬?」で触れておりますので、今回は簡単に。

ゾレア」は、おバカ抗体である「IgE」を邪魔する薬です。

ゾレア機序
「IgE」マスト細胞にくっつき、その後アレルゲンと結合することでマスト細胞から強いアレルギー症状を起こす「ヒスタミン」「ロイコトリエン」を放出させてしまう抗体でした。
この働きを抑えることで、「ヒスタミン」「ロイコトリエン」の放出が抑えられ、気管支の炎症や収縮を抑えることができるという訳です。

この薬剤の特徴は、その「IgE」の値と体の大きさ(体重)によって、量が細かく決められているということです。
ゾレア価格
量は上の図の通りとなります。
1か月おきに1本から2週間おきに4本までとかなり幅があります。

これはメリットにもデメリットにもなります。

もし本数が少なく済む場合は、他の生物学的製剤に比べ、かなり安く使うことができます。
一方本数が多くなってしまう場合は、他の生物学的製剤と比べてそれほど安くはならない上に、打たなければならない注射の本数がかなり多くなり、肉体的にも精神的にも負担になってしまう可能性があります。
自己注射も一応できるのですが、薬剤に粘り気があり、入れるのにかなり力が必要なため、実際はほとんどのケースが医療機関で医師や看護師により注射されています。

 

次は「ヌーカラ」「ファセンラ」です。
ここは、比較的近いところに作用する薬なので、まずはまとめて説明します。
ヌーカラ機序

ファセンラ機序

前の図で見てみたように、刺激を受けたヘルパーT細胞自然リンパ球は、それぞれ「IL-5」という「お知らせ物質」(=サイトカイン)を出して、それを「好酸球」は、表面にある「IL-5受容体」という受け皿で受け取ります。
すると「好酸球」が刺激されて、活性化してしまいます。
「好酸球」は刺激されると炎症を引き起こしてしまいます。
炎症は気管支にもおよび、気管支の壁がむくんで気管支が狭くなったり、敏感になったり、痰が増えたりして、いわゆる喘息の症状を引き起こします。

「ヌーカラ」は、IL-5を直接妨害する薬剤、「ファセンラ」はIL-5の受け皿である「IL-5受容体」を妨害する薬剤です。

いずれも好酸球」の働きを抑える力を発揮して、好酸球による炎症を食い止めることができます。

また、「受け皿」にくっついてIL-5がくっつかないようにする「ファセンラ」は、逆に好酸球にファセンラがくっついていることで、好酸球が免疫細胞(ナチュラルキラー細胞といいます)から逆に攻撃されてしまい、好酸球をほとんどなくしてしまうという作用もあります(でもこの、本来は体に通常備わっている好酸球を完全になくしてしまうことが、体にとって本当にいいことなのかどうかというのは、まだ議論があるところです。)

「ヌーカラ」は4週間おき、「ファセンラ」は最初の3回は4週間おき、その後は8週間おきの注射となり、「ヌーカラ」は、ご自宅で自分でできるペンタイプの注射キットがあります。
いずれも「好酸球」の働きを抑えるための薬ですので、好酸球」の数がもともと少ない方は効果を期待しにくくなります。

そのため採血検査であらかじめ好酸球の数を調べて、この薬が向いているかどうかを見ておくことが大事になります。


それではあと2つ、「デュピクセント」「テゼスパイア」ですが、話が難しい上に、いっぺんにまとめて長くなりすぎると、皆さんが読むのも、私が書くのも、多分挫折すると思いますので、また次回にしておきましょう。

 

 

さて、お知らせです。

コロナワクチンの接種受付期間を延長、拡大致しました。
12月4日~22日の分を、茅ヶ崎市ワクチン予約システム当院予約システムより新たにご用意しています(茅ヶ崎市外の方は当院予約システムよりご予約下さい)。

主にファイザーのご用意ですが、当院予約システムに若干量のモデルナ枠をご用意しています。
また当院接種の際は、インフルエンザワクチンの同時接種が事前のご予約なく可能です。

インフルエンザが猛威を振るっており、現在コロナは比較的落ちついています。
ただ今までの傾向から、年明けからはおそらくまた広まり始めるでしょう。

当院ではおそらく多くの枠をご用意して行う追加接種は、今回で最後となる見込みです。
ご希望の方はお早めにどうぞ!

 

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.10.29更新

9月まではあんなに暑かったのに、急に季節が進んだような感じです。
半袖シャツ1枚でアチーアチー言っていたのに、たった2週間くらいでブルっと来る日も増えました。

そんな中、私はというと、昔から温度変化には強いのですが、衣替えがとにかく苦手で・・・(雪の日も短パンで過ごしていた小学生でした)

毎年、ギリギリまで冬物は出しません、出せません。
ということで未だにTシャツ1枚で過ごしております(笑)

という訳で、「おまいうw」ではあるのですが、皆さん体調を崩さないように、しっかりと温度変化に応じてしっかりと服装調節をして、体調管理にお気を付けください。

 


さて、やはりこの温度変化で、体調を崩される人も増えています。
特に10月に入ってからは、この急激な温度変化でやられて、ずっと落ち着いていたのに崩れてしまう喘息の方が非常に多いです。
また、秋のアレルギー症状の悪化も相まって、発作治療をしてもなかなか良くならない方もちらほらいらっしゃいます。

通常、喘息の治療はステロイドの吸入薬がベースとなり、そこにアレルギー反応を抑える薬、気管支を広げる薬、痰の分泌を抑える薬などを適宜加えて治療をするというのが基本パターンです。

 

この治療を行って症状が完全になくなっていればOKなのですが、残念ながらそのように簡単にはいかないことが少なくないのも喘息の難しさです。

 

この場合、まずは治療をしっかり欠かさず行っているか治療薬(特に吸入薬)がしっかり正しく使えているかを確認します。
それと合わせて、本当に喘息という診断が正しいのか、喘息の他に何か要因が隠れていないか、(環境や喫煙、仕事などで)喘息を悪化させる要因が残されていないか、を丹念に調べ上げています。

 

ここまですると、大方の方は何かしらの要因が見つかって、改善に導くことができるようになるのですが、やはり中には本物の重症の喘息で、これらの治療をいくら頑張っても症状がコントロールできない方がいらっしゃるのも事実です。

そのような場合、以前なら飲み薬のステロイドという薬剤を使って(吸入ステロイドとは全く別物です!)、体全体で起こっている行き過ぎた免疫反応を抑えるという治療をしていたのですが、この治療はご存じの方も多くいらっしゃる通り、長く続けていると副作用が非常に多く出る治療法でした。

 

そんな中、ここ10年あまりで、新しい喘息の治療法が出てくることになりました。
以前から何度かこのブログでも触れている「生物学的製剤」というやつです。

 

「生物学的製剤」ってまた難しい言葉が出てきてしまいましたが、これは簡単に言うと、化学的に(つまり人工的に)作り出したものではなく、もともと生物が持っている成分をちょっと作り替えたりして、それを増やして薬にしたものです。

喘息で使用する生物学的製剤は、「抗体」という成分を使っています。
「抗体」は、いろんな刺激によって放出され、そのあと体の中のある特定の部分にくっついて、その作用をじゃまする、いわゆる「飛び道具」です。

喘息は、体の中でいろんな反応が起こることで出てきます。
そして、その反応それぞれに作用する「抗体」も体の中には存在します。

喘息の生物学的製剤は、この中で「使える」抗体を特定し、遺伝子組み換え技術などを使ってそのような「抗体」を大量に増やすことで薬にしたものなのです。

 

さて現在、喘息に対して使える生物学的製剤5つあります。

この5つはそれぞれ、先ほど挙げた喘息発症の原因となる反応の、それぞれ特定の部分を抗体を用いてブロックすることで、喘息をコントロールしようとします。

それぞれどのような薬なの?どんなところをブロックするの?ということを理解するには、まずは喘息って体の中でどんな反応が起きてるの?ってことが理解できていないと難しいのです。

ですが、この反応ってのが、また超複雑でややこしい・・・
アレルギー学のことが好きな人でも理解するのには労力がかかり、アレルギー学のことが嫌いな人は、これを見るだけでアレルギーが出る、という難解さです。


そこでこれを、極力端折って、なるべくわかりやすく図にまとめてみました(めちゃめちゃはしょってるので、少し不正確な部分もあるかもしれませんが、このブログでは、あくまでわかりやすさを最優先にしていますので、専門の方々の愛のツッコミは是非ともご容赦ください・・・)。

喘息カスケード 


喘息は、気管支が、アレルゲン感染症、その他の様々な刺激に暴露されることでその反応が始まります。

刺激に暴露された気管支の細胞は、その刺激の元となった敵を排除するために、周りに「お知らせ物質」を放出します。
これを「サイトカイン」と呼びます。

この『お知らせ物質(サイトカイン)』の一つが「TSLP」という物質です。

その「TSLP」が放出されると、自然リンパ球という細胞を目覚めさせて、「好酸球」という細胞を増やすように指示させます。
その指示には「IL(インターロイキン)-5」というサイトカインが使われ、IL-5は、好酸球の上にある「IL-5受容体」にくっついて好酸球を活性化させるように働きます。

「好酸球」炎症を起こす白血球の一種で、これが増えると気管支の壁がむくんで気管支が狭くなったり、敏感になったり、痰が増えたりして、いわゆる喘息の症状を引き起こします。
喘息の起こり方

さて、「TSLP」に話を戻しましょう。
「TSLP」は他にも、全く違うところでも働きます。




『TSLP』樹状細胞」という細胞に仕事をさせるように促します。
「樹状細胞」は、侵入した敵
(ここではアレルギー反応の原因となる「アレルゲン」)の情報を解析する役割が

すると、お尻を叩かれた「樹状細胞」から多くの敵情報を受けた「ヘルパーT細胞」が、「B細胞」に、その敵情報に合った飛び道具(つまり「抗体」です)を作るように指示を送ります。
その指示として使われるサイトカイン「IL-4」「IL-13」という物質です。

「B細胞」は、この指示を受けて、入ってきた敵情報にピッタリ合わせた「IgE」という抗体を作り出します。
抗体
は本来、敵を排除する武器ですが、「IgE」はいわゆる「おバカ抗体」で、この後アレルギー反応を引き起こします(おバカ抗体についてのお話はこちらそのため「IgE」はアレルギーの検査項目としてよく使われます。「スギIgE」とか、「ハウスダストIgE」とかが採血で上がっていると、アレルギーを持っている可能性が高まると言えるわけです。IgE検査について詳しくはこちらからも)。

そして、IgE「マスト細胞」にくっつき、そこにアレルゲンがくっつくと、
マスト細胞の中から「ヒスタミン」とか「ロイコトリエン」とかと言った、アレルギー炎症を引き起こす物質がぶっ放され、喘息の症状を引き起こします。

喘息の起こり方

 

主な反応をかなり端折って話すと以上の通りなのですが、この他にも

ヘルパーT細胞そのものも「IL-5」を出したり、
ヘルパーT細胞自然リンパ球から出される「IL-13」が直接、気管支上皮の細胞や、その周りを取り囲む「平滑筋」という筋肉に働きかけて気道を狭くするなど、喘息の症状を悪くする方向に働いたりと、

まあとにかく免疫細胞と各種のサイトカインは、複雑に絡み合って喘息の反応を起こしているのです。

 喘息の起こり方

この複雑な経路が大体理解できたところで、喘息の生物学的製剤はどこに効いて、どういう特徴を持っているのかを、ようやく説明できるようになりました。

が、もう疲れました。今は1時です。眠いです。
というわけで、今世の中にある、5種類の生物学的製剤のそれぞれの特徴は、またハイになったら書いてみようかと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.09.23更新

本記事は2023年の記事です。
2024年秋の記事として9月29日に以下をアップしました。
こちらも是非どうぞ!

2024.9.29 秋から新登場!武田薬品の " 組み換えタンパク " コロナワクチン『ヌバキソビッド』ってなんだ??

 


これがウィズコロナなのでしょうか?

もう7月からずーっと発熱・感染症外来が朝からすぐにご予約で埋まっている状態で、3か月経った今でも全く減る兆しが見えません。
またニュースでもご覧になった方も少なくないと思いますが、インフルエンザも9月上旬から陽性者が出始めており、下旬になり急増しております。

今は発熱・感染症外来に来られる方のおおよそ5~6割がコロナ陽性2~3割がインフルエンザ陽性といった印象です。


そんな中、先日から秋のコロナワクチン接種が始まりました。
当院でも9月25日から接種を開始します(インフルエンザ接種も同時に開始します!)。

今回のワクチンは、今までの「BA4.5株」対応ワクチンから、「XBB.1.5株」対応ワクチンにアップデートされることになりました。

また訳わかんない文字列の誕生ですね・・・


XBB株は、コロナウイルスのオミクロン株の一種です。

2022年の夏ごろに出現したと考えられていて、9月ごろにインドを中心に流行したことで世界中に広まりました。
その「祖先」のBA2.75株(さらにその前がBA2株で、BA4、BA5はBA2から別方向に派生した株です)と比べて、感染力や免疫逃避力が強くなっているとされている株です。
Nat. Commun. 14: Article number: 2800 (2023) DOI: 10.1038/s41467-023-38435-3

その後最近まで、そのXBB株が主流を占めていましたが、そこからまた派生しやがったEG.5株(いわゆる「エリス」と言われている株ですね)に現在は徐々におきかわりつつあります。

コロナ系統

という訳で、今回のワクチンの元になったXBB株は、つい最近まで主役を張っていた株ということになります。
またその派生株であるEG.5(エリス)株とも非常に距離が近く、その構造も似ているとされ、今回のXBB株対応ワクチンは理論上効果が期待できるはずです。


当院は、高齢者の方と呼吸器系の病気を持っておられる方が多く、当院にかかられている方はワクチン接種の意向が強いかなと感じます。

とはいえ、世間的にはかなり興味が失われつつあるコロナワクチン、やはり打った方がいいのでしょうか?


2023年5月にアメリカから、コロナワクチン接種とオミクロン株での重症化の関係を見たデータが出ました。

アメリカの退役軍人会に属する18歳以上の、2022年1~6月(オミクロン株流行期)にコロナウイルスに感染した約18万人のデータです。
mRNAワクチン接種を2回した人は、ワクチンをしていない人に比べて、入院となった割合が40%、人工呼吸器が必要となった割合が41%、そして死亡する割合が57%減っていたことが分かりました。
また3回接種の人2回接種の人を比較すると、3接種の人は、2回接種の人に比べて、入院となった割合がさらに35%、人工呼吸器が必要となった割合がさらに30%、そして死亡する割合がさらに49%減っていたことも分かりました。
そして、3回接種をした人の中では、最後のワクチン接種から3ヵ月以上経っていた人は、3か月以下の人よりも30%死亡率が高かったこともわかりました。BMJ (Clinical research ed.). 2023 May 23;381;e074521. doi: 10.1136/bmj-2022-074521.

やはりデータ上も、このオミクロン株に対して、ワクチンを接種することの意義はありそうです。

また、私は今でも総合病院の呼吸器内科(つまり入院された方を診察する)の先生と情報交換をする機会が少なくないのですが、先生方によると、この夏に病院では、明らかにコロナ肺炎、呼吸不全の人が増えて、エクモ(ECMO:人工肺と人工ポンプを用いて、血液を体外に送り酸素を体内に供給する治療、つまり肺がどうにも使い物にならなくなった時に機械で時間を稼ぎ、治療により肺の回復を待つ治療法です)導入にまで至ってしまう方、そして治療の甲斐なく命を落とされてしまう方も何名かいらっしゃったようです。

その光景は2年前のデルタ株流行の時とほぼ変わらない、と。

ただ、デルタの時との違いもあります。
このような不幸な経過をたどってしまった方には共通点があり、それはやはりワクチンを全く打ったことのない、もしくは2回で終了してしまっており、最後のワクチン接種から長く時間が経過してしまった、それも高齢の方がほとんどだったとのことでした。

一方、若い方でこのような肺炎に至ってしまう方は、ワクチン未接種でもそれほどはいらっしゃらなかったということです。
ただ再び当院に目を転じると、当院を受診される、コロナ感染後の長期的な後遺症(咳、だるさ、頭が働かないなど)が圧倒的にデルタの時より増えています。
そして、これらの症状でお悩みの方は、ワクチンを全く打っていなかったり、最後のワクチン接種から1年以上経過している方がやはり多い印象です
(もちろんワクチンを打たれている方も長引く咳でいらっしゃる方は少なくないです。しかしそのような方は実は喘息や鼻炎など、他の要因が大きく治療で改善したり、コロナによる直接の症状出ったとしてもわりと早めに良くなられて、長期後遺症の範疇には入らなかった方が多かったかなと思います)。


もちろん、ワクチンによって後遺症をきたしてしまった方がいらっしゃることも事実です。

実際当院にも時々ワクチンの後遺症で相談される方はいらっしゃいますし、かかりつけの方でもワクチン接種後体調がすぐれなくなった方もいらっしゃいます。

副反応が強く出て、2~3日寝込んでしまった方などを含めると、コロナワクチンでネガティブな経験をされた方は少なくありません。


ですので、コロナワクチンを打つべきかどうか、絶対的な正解はありません。
どちらにも、一定の「可能性」は、秘めています。

でも、決めなければいけません。

私は、ワクチンを打った時、そして打たなかった時の「デメリット」を比較すると決めやすいのかな、と思います。
つまり、ワクチンを打った時のデメリットは「副反応」や「ワクチン後遺症」などワクチンを打たなかった時のデメリットは「重症化」や「コロナ後遺症」などということになります。
それを比較して、どちらをより避けたいと思うかで考えると良いのではと考えています。

コロナが騒がれなくなって、メディアでも話題にも上りにくくなった昨今、ワクチンを打たないことによるデメリットは、今までよりもより見えにくくなったのかもしれません。

しかし、少なくても一般の方よりはいろいろなことを見聞きしている、私達のような立場からみると、ワクチンをずっと打たないことのデメリットは、決して軽視できないよなあ、と感じてしまいます。

もちろん自らがワクチンを打ったことによるデメリットを経験してしまった方、それに身近にそのような方がいらっしゃった方は、そのネガティブな心を乗り越えてまで打った方がいいとは思いません(それはそれで悪影響が出る気もします)

ただ巷には、信頼度の低い知識や噂レベルの情報、そしてあえて流されるフェイクニュースが、悪意、時には善意をももとに広がり、そこに更にいろいろな尾ひれがついて、世の中を跋扈しています。

ワクチンをするしないはもちろん皆さんの自由なのですが、その根拠となる情報源にはくれぐれも注意を払っていただきたい、というのが私からのお願いです。


世の中からはだいぶマスクをしている方が減りました。
今回これだけ長い期間コロナ、そしてインフルが流行り続けているのは、多くの方がマスクを取り、大勢で集まり、楽しく過ごしていることも原因でしょう。

でも今の時代、私はそれが悪いとは思いません。
人間が人間らしい社会生活を取り戻すことも大事です(ぶっちゃけ、私も人との距離が近づくところ以外では、例え室内でもマスクは外しています)。
このような世の中では、どれだけ気を付けていても、コロナもインフルもかかるときにはかかります。

これらに対峙するための武器を得た今、かかったときに大ごとにならないようにする、そのための対策を打てる人から打つ。
それがアフターコロナ、ウィズコロナの正しい形なのかなと思っています。


国の方針ではおそらく今回が公費で、つまり無料で打てる最後のコロナワクチンです。

ワクチンを打てる方だけで結構です。打てる方は、今回は是非前向きにワクチン接種を考えていただきたいなと思っています!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.08.29更新

前回お話しした、私が当院に来てから”9か月ぶり通算9回目”の工事が終了しました。

今回は待合室を中心にリニューアルを行いました。

一番の変化は壁の木目から白への色変更で、より明るい雰囲気で、居心地の良い空間と感じていただくようにすることが目的でした。
前回の、壁をぶち抜くなどの大胆なリフォームではありませんが、11日間かけて、結構な大工事となりました。

しかし・・・

前回改装後は「とても明るくなりましたね!」「別のクリニックみたいですね!」との声を多くいただいたのですが、今回はそのようなお声がめちゃくちゃ少ない・・・

長年当院に通い続けてくれているある患者さんからは「で、どこ工事したの?」といわれる始末。

・・・まあそれだけ今までの当院の待合室の雰囲気も自然と馴染んでいた、ということだったんでしょう。

そんな新たな壁には、いくつかリーフパネルを飾ってみて、もう少しインパクトを出してみようかと思います(べっ、別にみんなに「キレイになったね」って言って欲しいわけじゃないんだからね!)

 


さて、まだまだ続くコロナやその他の風邪の流行もあってか、以前喘息で治療をおこなったものの途中でお見えにならなくなってしまった方が、数か月、数年ぶりに症状が悪化して再度いらっしゃるという例が増えております。


喘息が悪化してしまう一番の要因は、感染症だといわれています。
加えて治療が中断されていたために、感染が喘息悪化の引き金になり、症状が大きく悪化してしまったわけです。


もちろん自己判断で(時には医師の間違った指示で)喘息の治療を中断してしまったことが、悪化の大きな要因であることは否めません。

しかし、こちらのブログでもお書きしたように、喘息の治療って、治療効果のつかみどころもないし、よくなったことをデータで出すことも簡単ではないという面もあり、なかなか続けてもらうのが難しいという側面があるのも、まぎれもない事実です。

確かに喘息の治療の主役は吸入薬があり、飲み薬に比べたらめんどくさいかもしれません。
最初に「治療は続けてね!」と言われたにも関わらず、それでも喘息治療がめんどくさくなって、ついつい治療をやめてしまった方の気持ちもよーくわかります。

でも、いったん悪くなると、そこから薬を戻してもすぐには良くならないことも少なくありません。
また改善→中止→悪化というサイクルを繰り返すことで、徐々に薬を使っても治りにくくなっていってしまう方も実際にはいらっしゃいます。

こうなってしまうと患者さんも、我々医療者も、ほんと大変です。

ですのでやっぱり患者の皆さんが後のち大変な思いをしないように、やはり喘息の治療は続けていただきたいというメッセージは、ずっと、確実にお伝えしたい、と思っています・・・

でもそしたら、そのメッセージを一人でも多くの方に届けるには、どのようにお伝えしたらいいんだろ・・・?


日々悩んでおりましたが、最近考えついたこの方法ならわかっていただけるかな?
そう思って今回その考え方をお見せしてみようと思います。



それではまず、皆さんにお尋ねしてみたいと思います。

まず、「風邪」という病気は、「治る」病気でしょうか?

もちろんほとんどの方が「治る」病気であると答えます。

それでは、「風邪が治る」とは、どういうことなのでしょう?

風邪をひくとき、体の中には病原菌やウイルスが入ってきます。
これらが体の中で暴れて症状を引き起こすのですが、薬や免疫をつかって病原菌を「排除」できれば、症状は改善するわけです。

悪いものが体から「追い出せ」れば、「治る」ということなのです。

それでは、一方「花粉症は治る」と思っている方、いらっしゃいますか?

花粉症が「そりゃ完治するっしょ!」と考えておられる方は、あまり多くないのではと思います。
花粉症シーズンになったら、その症状を「抑える」ために薬を使用すると考えておられる方が多いかと思うのです(もちろん舌下免疫療法がうまくいけば、本当に「治って」しまうことはありえます)。

花粉症は「アレルギー」による病気です。
「アレルギー」とは、人間の免疫機能が、ある環境において過剰に反応してしまい、症状を起こしてしまうことを言います。

つまり、風邪とは異なり、その原因を「追い出す」とができないのです。

「喘息」も同じことなのです。

「喘息」「花粉症」は、「アレルギー」による病気であるとの共通項があります。

別の言い方をすれば、喘息も花粉症も、それは「体質」であるともいえるのです。
その「体質」が出てくるのを抑えるために、治療は続けていく必要があるということなのです。


そして、ここでまたもう一つ難しい問題が出てきます。


「アレルギー」は、季節や環境、本人の体調などで、自然と落ち着いてしまうことが珍しくないということです。

例えば喘息についても、症状が落ち着いたからと言って勝手に薬をやめてしまった場合、やめた翌日からすぐに症状が悪くなってしまうことは正直そんなに多くありません(もちろん不安定な状態や重症度が高い場合は、すぐに悪化することもあります)

やめてもしばらく何も変わらないことは珍しくないのです。

すると、これを「治った」ととらえてしまう人は少なくありません。

でも、さっきもお話ししたように、アレルギーはそもそも「治る」ものではありません。
たとえ症状がなくなったとしても、それは季節や環境、本人の体調などが、再度の症状を引き起こさせない状況であっただけなのです。

となると当然、季節や環境、本人の体調が悪化すれば、またぶり返してしまいます。

これが、喘息の治療を続けていると、「体質」としてのアレルギー症状は、当然出にくくなります。
季節や環境、本人の体調の悪化など、不利な状況においても、被害は小さくて済むわけです。


つまり私は、喘息やアレルギーの治療は「医療保険」みたいなものだと考えています。


元気な時は、一見「医療保険」はムダなもののように思えます。ただお金を払っているだけの存在。
しかし、一度体に異変が生じたときに、「医療保険」の存在は大きな助けになります。
いざというときに支えてくれる存在となるわけです。


喘息の治療も同じようなものです。

症状がなにもなくて落ち着いている時、本当にこの治療は意味があるのか?ムダなんじゃないのか?と思われがちです。

しかしひとたび季節、環境、本人の体調の悪化など、よくない状況になった際、それによる症状悪化の振れ幅を最小限にしてくれるのです。

治療をしっかり続けていたことがこの時、大きな助けとなるわけです。


ある報告では、喘息の治療をしっかりと指示通りに続けられる人は40%に満たないといわれています。Tamura G, et al : Respir Med 101(9);1895-1902,2007
そして、高血圧や高コレステロール、糖尿病などの治療と比べて、明らかに続けてもらいにくいという実態も報告されています。lnternational Review of Asthma&COPD vol13 No4 2011

喘息の治療をして、「この治療意味あるのかな?」と考えられるくらい安定していることは、つまり治療がうまくいっているという意味で幸せなことなのです。
その幸せを実感しつつ、上のことを思い出してもらい、ぜひその安定している状態を維持してほしいと思います。

 

一方、ついつい治療をやめてしまった方、おめでとうございます!
皆さんは決して「少数派」ではなく、むしろ「多数派」です!

当院ではもちろん治療を中断したからと言っても怒らないので(しっかり指導はさせて頂きますよ)調子が悪くなったら遠慮なくご相談ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.08.04更新

昨年のデジャブです・・・

ここ最近、発熱外来の受付が開始数分で埋まってしまいます。
そして来院される方の半数以上がコロナ陽性になっています。

昨年のこの時期がまさに同じような状態でした。
ちょうど時期も重なっており、昨年の改装に伴う夏季休診前も、てんやわんやの日々だったことを思い出します。

ただ今年は昨年と違い、大改装による導線の改善を行ったことやスタッフの増員、それとスタッフもだいぶ慣れてきたことも重なり、多少お待たせはさせてしまっているものの昨年よりはスムーズに行えています。
あと今年は世間で大きく騒がれてはいないので、スタッフの「追い込まれている感」が薄いのも確かに感じます。

昨年は8月にピークが来てその後収束しました。
今年もさっさとピークアウトしてもらいたいものです・・・


さて、そのような状況の中で、発熱や頭痛、全身の関節痛などのつらい風邪症状に対して、「熱冷まし」、「痛み止め」を希望されるケースが増えています。

その中で、「喘息の方」が熱冷まし、痛み止めを使えるかというご質問を多く受けるようになりました。

今回はそのご質問にお答えしてみよう!っと思います。

例えばけがや虫歯などで病院や薬局を訪れた際も、喘息であることを告げると、いわゆる解熱鎮痛薬を出すことをためらわれることが少なくありません。
ではそもそもなぜ、喘息の方は解熱鎮痛薬を使うことに対し、ナイーブになってしまうのでしょうか?

それは、喘息の方の「一部」に、解熱鎮痛薬を使用すると大変な発作を起こしてしまう方がいらっしゃるからです。

そのような喘息の型を、「アスピリン喘息」と呼びます。

アスピリン喘息は、解熱鎮痛薬であるNSAIDsエヌセイズと呼びます。日本語では「非ステロイド系抗炎症薬」と呼ばれています)を使用すると、喘息発作(実は「発作」という用語は、現在「急性増悪」という用語に変更されています。ただ今回ここではなるべくわかりやすく説明したいので、あえて「発作」という用語のままで説明を続けます)が起こってしまう病気です。

この喘息発作はしばしば強烈で、呼吸不全や窒息寸前まで行ってしまうことも珍しくありません。
そして、量的にはほんの少しのNSAIDsでも起こってしまうため、湿布や目薬などでも重い発作を起こしてしまいます。

「アスピリン」もNSAIDsであり、当初はアスピリンで発作の起きる病気ということでこの病名がついたのですが、今はアスピリン以外の多種多様なNSAIDsにも反応してしまう病気だったことがわかっています。

「アスピリンだけじゃない」という部分をしっかりと理解しておく必要があります。


体の中で炎症が起きると、体内では「プロスタグランジン」という物質が作られます。
NSAIDsは体の中でプロスタグランジンを作らせないように作用するのですが、アスピリン喘息の方ではどういうわけかプロスタグランジンを作らせない代わりに、ロイコトリエンという物質をたくさん作り始めてしまうのです。
このロイコトリエンという物質は、気管支を収縮させたり、アナフィラキシーを誘発させたりする、タチの悪いアレルギー物質です(この物質を抑える薬として、「モンテルカスト(商品名:キプレス、シングレア)」とか「プランルカスト(商品名:オノン)」とかいった薬があります)。

このような特徴を持つアスピリン喘息の方は、喘息全体の方のうちの約10%といわれています。
そして30~50代くらいの女性に多いとされています。

逆に言うと、90%の喘息の方ではこのような反応は起こりません。
その違いが、どこにどうあるのかといったことは、まだよくわかっていない部分も多いのです。

では、喘息の患者さんにNSAIDsは使っていいのでしょうか?

結論から言うと、「アスピリン喘息」でなければ、使うことはできます。
ただし、注意しなければならない点がいくつかあります。

アスピリン喘息は、通常生まれ持って出てくるものではないとされています。
大人になってから出現してくる病気なのです。

そして、アスピリン喘息になる前は、普通に解熱鎮痛薬を使用できていたことが少なくありません。

いままで解熱鎮痛薬を使っても何ともなかったから、自分は大丈夫、とは言いきれないのです。
だから、「その喘息は、アスピリン喘息でない喘息だ」と簡単には言えないという問題点があるともいえます。

また、NSAIDsにもいろいろな種類があり、発作を起こしやすいものと、比較的起こしにくいものがあります(ただアスピリン喘息の人の中でもその起きやすさは様々で、起きづらいといわれている薬剤でも重症な発作を起こすことがあります)。
比較的発作を起こしづらい薬で大丈夫だった方が実はアスピリン喘息だったという例もあるので、その投薬歴は十分に確認、吟味する必要があります。

一方、普通の喘息の方がアスピリン喘息に移行することは通常ありません(通常の喘息に後からアスピリン喘息が加わることが全くないとは言い切れませんが、基本的にはまれです)。
喘息の診断の後に特に症状が大きく変わっておらず、かつ診断後に解熱鎮痛薬を使用して問題が起きていなければ、通常はアスピリン喘息ではないと考えて大丈夫です。

逆にどういう人に疑うかというところも考えておいたほうがいいでしょう。

アスピリン喘息を持っている方は、高確率で慢性的な副鼻腔炎を持っています。
そしてそれによって嗅覚障害をきたしている方も少なくありません。

喘息だけでなく、よく鼻水や鼻づまりなど、慢性的な鼻炎を起こしている方、それに嗅覚が弱い方は注意したほうがいいかもしれません。

上記から、完全にアスピリン喘息を否定しきれない人は、万が一アスピリン喘息であったとしても比較的危険性が大きくない薬剤から使用したほうが無難だといえます。
例えばNSAIDsの範疇には入らない「アセトアミノフェン(商品名:カロナール)」はまだ安全性が高いとされています(絶対ではありませんし、一応添付文書上ではアスピリン喘息の方には使用してはいけないとされています)。

ほかにはセレコキシブ(商品名:セレコックス)という「COX-2阻害薬」といわれる薬や、チアラミド(商品名:ソランタール)といった「塩基性NSAIDs」と呼ばれる薬が、まだ多少は安全性が高いとされていますので、怪しい方の場合はこちらから使用することもあります(とはいえ、NSAIDsにも症状や病気によって使い方が制限されることもあるので、全員にこの薬剤というわけにはいかないのが難しいところです)。
症状によっては漢方薬を使用するという選択肢もあるでしょう。

一般的によく使用される、「ロキソニン」「ボルタレン」、それに市販の解熱鎮痛剤などの薬を、喘息の方が使用する場合は、呼吸器の専門施設の元でアスピリン喘息の可能性について検討してもらい、しっかり否定されてから使うようにされたほうが安心だと思います。


さて、当院は8月10日から、昨年に引き続き少し長めの夏季休診に入ります。

おかかりの方には2年連続で大変ご迷惑をおかけしてしまうのですが、今回も院内の改装工事を行うためです。

今回は待合エリアの工事を行います。

今までよりもより明るい雰囲気となり、またほんのわずかですが窓側のスペースが増えるため、今までよりも少しだけ余裕をもって移動することができるようになります(席数は今までと変わりありません)。
あと、診察室奥の作業スペースの工事も行います。
こちらは患者さんにはあまり関係ない部分なのですが、一応皆様の目に入る部分ではあるので診察室の雰囲気も多少ですが変わるかもしれません。

一部では「茅ヶ崎のサグラダファミリア」とも呼ばれているそうで、改めて数えてみたら、私がこのクリニックに来てから、足掛け3年半で都合9回目の工事のようです(笑)
でもさすがにサグラダファミリアも今回の工事でいったん完成を見るものと思います。

改装が終わり皆さんの中には改装ロスでさみしい方もいらっしゃるかもしれませんが(笑)、またお休み後のクリニックの様子を楽しみにお待ちください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.07.16更新

先日、お休みの日に、日頃の疲れを癒すべくタイ古式マッサージに行ってきました。

普段は指圧マッサージしかしないのですが、全身のケアも大事だろうなと思い、2時間かけて、しかも人生初のオイルマッサージまでしていただきました。
受けているときはそれはそれは気持ちよく、天にも昇る気持ち・・・
次の日から仕事がはかどるなあって思いながら過ごしていました。

受けた後もしばらくいい気持ちでいつつ、数時間後残った仕事をしにクリニックに戻ったら、なんだかおかしい・・・
やたら股関節が痛くなり、歩くのもしんどい状態に。

ついでに血流も良くなりすぎちゃって、やたら体が火照るので、なんか変な病気にかかったか!?って思いましたが、そういえばセラピストさんが施術時に言ってました。

「股関節、信じられないくらい激カタですねw」

普通にストレッチ受けただけなのに、ここまでの反応が来るとは、いかに日頃体を動かしていないのかを思い知りました。
もともとは野球部、体を動かすのは大好きだったのですが、忙しさにかまけてサボっていたら、そういえばスマートウォッチ見ても、院内を数歩行ったり来たりだけで1日2000歩も歩いてない・・・

普段患者さんには運動しましょうとアドバイスしておきながら、何たる医者の不養生。

普段の生活、少し見直すきっかけとなりました。ちょっとはがんばろ。

 


さてここ最近もあいかわらず、発熱や咳でお困りの方が数多くお見えになっており、前回お話したRS、ヒトメタに加えて、最近ではヘルパンギーナも増えました。
しかしやはりというか、コロナも着実に増えています。
速報値はでなくなったので体感でしかないのですが、当院の場合、疑いありの方で検査をすると約半分の割合で陽性という感じです。

そして、それに合わせて、コロナの後から咳が止まらないという方も非常に多くいらっしゃるようになりました。

 


そこで今回は、コロナ後に残ってしまう咳についてお話ししてみましょう。

 

 

コロナを含めて、いわゆる「風邪」には、ご存知の通り咳はつきものです。

通常「風邪」の咳は1~2週間たてば徐々に治まってきます。
一般的に3週間以内で収まる咳を「急性咳嗽」というくくりで読んでいます。

しかし、この咳が3週間以上経っても一向によくならないときは、今度は「遷延性咳嗽」というくくりになり、風邪などよくある感染症ではない原因を考える必要性が高まります。
その中で、喘息やCOPD、鼻炎・副鼻腔炎や逆流性食道炎などなど、咳を起こすいろいろな原因を探していくことが必要となります。

しかしこの中で、コロナによる咳は、いわゆる「風邪である咳」にもかかわらず、数週間、場合によっては数か月も続いてしまうことがあるのです。


当院には連日、コロナにかかった後に咳が止まらなくなったということでお困りの患者さんが市外、県外からも多くお見えになります。

その中で、コロナがきっかけとはなったかもしれないけど、今はコロナではない咳だったという方が6~7割ぐらいかなというのが私の印象です。

もともと喘息(本人がずっと気づいていなかった場合も珍しくありません)を持っていたり、実はコロナをきっかけとして鼻炎が悪化していたりなどで、適切に治療を始めてあげると割とすぐによくなってしまう方も多くいらっしゃいます。

しかし一方、やはり3~4割の方は、いわゆる「コロナの後遺症」としての咳がずっと続いてしまっている方です。
このような方々の症状は、なかなか改善が難しくなってしまうことが珍しくありません。

このような状態になってしまう方の何割かは、「咳過敏症症候群(cough hypersensitivity syndrome)」という状態になってしまっていることがわかってきました。

「咳過敏症症候群」については、こちらにもブログを書いておりますのでご興味のある方はお読みいただきたいのですが、簡単に言うと「ちょっとした刺激でも、その刺激を受け取る神経が知覚過敏になっていまい、刺激が増幅されて脳に伝わることで激しい咳になってしまう状態」のことです。

コロナウイルスがほかの風邪ウイルスと違って今でもやっかいなことが、このウイルスが神経細胞に感染してとどまってしまうという特徴を持っていることです(これは、ここでお話したACE2受容体にコロナウイルスがくっつきやすいという特性が影響しているようなのです。ACE2受容体は神経細胞も多く持っている受容体なのです)。

嗅覚を感じる神経に感染をすると嗅覚障害を起こし、脳などの中枢神経に感染をするとずっと続く頭のモヤモヤ(ブレインフォグ:脳の霧)が起こってしまうと考えられ、その頻度、強さは他の風邪ウイルスとは比較にならないほど高いのです。

 

そのコロナウイルスが、咳のメカニズムとして重要なポジションを占める「迷走神経」という神経に入り込んだ時に、この悲劇ははじまります。

 

迷走神経気管、気管支や肺を起点として、脳の咳を起こす中枢部分までを結んでいます。

コロナウイルスがこの迷走神経に感染をすると、ウイルスを排除しようと神経から「炎症物質」を出します。

またコロナウイルスはそのほかにも気道や肺の表面の細胞にも感染し、ここから同じように炎症物質を出したり、また対戦相手の白血球との戦いの中でも炎症物質が放出されたりもします。

これらの炎症物質が、迷走神経を刺激します。

そうすると迷走神経は通常ではありえないくらいの刺激にさらされてしまい、ちょっとしたことでも刺激を何倍も増幅して脳に送ってしまう状態になってしまいます。

あたかも、「電波がブースターによって何倍、何十倍にも電気信号を強くして送り出す」状態なのです。

すると、ちょっとした温度変化やにおい、アレルギー物質などによって、咳が何十倍にも増幅されてしまう状態を引き起こします。
またごく軽い喘息を持っていた場合も、その喘息による咳が何十倍も増幅されてしまい、一気に重症、難治化してしまうことも少なからず起きています。

咳過敏症症候群


先ほどもお話をしたように、このような状態になるとなかなか咳を抑えるのは簡単ではありません。
喘息などを考えて吸入薬を使ったり、量をふやしてもあまり効果が見られないことが少なくなく(ただ場合によっては、吸入薬の成分の一部がこのような炎症を抑えることができる可能性がある場合もあるので、使い方によってはまったく役立たずというわけでもありません)、また咳止め薬もブーストのかかった神経の前ではだいたい無力です。

このような咳を抑える方法として、これらの神経の過敏性を抑える薬などを使うことでよくなることもあります(これらの薬についても以前にこちらのブログでお話ししましたこのブログは2021年の内容ですが、ここで触れた「新薬」が「リフヌア」という名前で、2022年4月に発売、使用できるようになっています)。

また別のアプローチとして、漢方薬を使用することが有効であることも少なくありません。

漢方はそもそもの成り立ちとして「患者さんの体質や症状の状態に対し、バランスを整えることで効果を得る治療法」であって、「原因をつぶしに行く」西洋医学とは性格を異にします。
ですので原因に対してのアプローチが難しい、西洋医学が苦手とする状態でも、東洋医学の観点からその患者さんのバランスを整えてあげることで症状を軽くできるケースが少なくないのです。

今のコロナは、確かに多くの人にとってはただの風邪です。
でも一部の人にはとてもやっかいで、その一部には誰がなるのかわかりません。

できる対策はしっかり行っていただき(私はコロナ禍前のインフルエンザ流行期の対策を参考にしたらいいのではと思っています)、リスクを可能な範囲で下げ、それでも罹ってしまって症状にお困りになった際には一人で悩まずに、ぜひ治療に詳しい医師にご相談いただければと思います。


アフターコロナの初めての夏休みです!皆さんで賢く夏を楽しみましょう!!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.06.14更新

コロナが5類になり、マスクに関しては個人の意思となりました。

そして5類になって時間が経つとともに徐々に蒸し暑くなってきてもおり、マスクを外すことも徐々に一般的になってきた印象です。

いろいろな方の豊かな表情を見ることができるようになったことは、確かにうれしいことですね!

しかし、その引き換えとして、コロナ以外の感染症の流行り方が、この3年間にはなかった様子で見られるようにもなりました。
これに伴い、お子様が学校や幼稚園、保育園で風邪をもらい、そこから家族みんなにうつってしまうという例も非常に多く見るようになりました。

その中で今大きくはやっているのがRSウイルスヒトメタニューモウイルスです。

インフルエンザウイルスについては以前から、新型コロナウイルスについては3年前から、多くの情報が出回っているため皆さんも特徴をよくご存じかとは思いますが、それ以外のウイルスについては正直あまり知られていないのが実情かと思います。


ですので、今回は咳をきたしやすい、RSウイルスとヒトメタニューモウイルスについて、主に大人の感染という視点から取り上げてみたいと思います。


RSウイルスとヒトメタニューモウイルスはともに、主に赤ちゃんや子供の中で流行るウイルスです。

RSウイルスは1950年代にはすでに発見されており、赤ちゃんに肺炎、細気管支炎を引き起こすウイルスとして知られていました。
もともと日本では、秋から冬に2歳までにほとんどの赤ちゃんが一度はかかるウイルスといわれていましたが、この3年間、コロナ禍での厳重な感染対策のもと、かかったことのない赤ちゃんが増えるといったことが起きました。
これにも影響されているのか、コロナ禍の前後でRSウイルスの流行状況に変化が出てきたようで、わが国ではここ3年は春から夏に流行る現象が起きているようです(2021年9月の記事でこのことを少し取り上げております)。

RSウイルス流行状況

国立感染症研究所図表より改変


一方ヒトメタニューモウイルスは、実は21世紀になってから発見されたウイルスです(でもその前も正体不明のウイルスとして、流行は起こしていたようです)。
こちらの流行時期は3月~6月、つまり春から初夏の今頃が一番流行りやすい時期とされています。

こちらも5~10歳ごろまでにほとんどの子供は1度はかかるといわれるウイルスですNature Med. 2001;7:719-724.

 

そしてどちらのウイルスも、感染によってできる免疫が不完全なため、大人になってからも再感染することが珍しくありません。

RSウイルスヒトメタニューモウイルスその作りが非常に似ていることがわかっており、それ故、その特徴も非常によく似ています。

 

まずこれらのウイルスは飛まつ感染(つまり話したり、咳やくしゃみをしたりしたときに飛び散る唾液など)によって広がり、鼻などの粘膜から体の中に入り込み、気管支の奥(細気管支といいます)のほうで増殖しやすいウイルスです。
そしてウイルスがついた手を介した接触感染も経路の一つとなります。

感染してから発症するまでは大体3~6日程度と言われ、発症する1~2日前には人にうつしてしまうことができるようになります。
そして気管支でウイルスが増殖すると、気管支に炎症が起きて、咳や痰を引き起こします。

赤ちゃんや子供は気管支が細いために、一度炎症を引き起こしてしまうと簡単に空気の通り道である気管支がふさがれてしまい、ゼーゼーいったり、呼吸が苦しくなってしまったりしやすくなります。

一方大人では、子供より気管支が太いためにそこまで行くケースは多くはなく、一般的には発熱に加え軽い咳や痰で済んでしまうことも少なくありません。


だ気を付けなければならないのが、喘息をお持ちの方、COPDをお持ちの方、それに高齢の方です。


喘息は、もともと感染症を引き金として悪化しやすいという特徴を持っています。
そして喘息が悪化すると、ダメージを最も受けやすいのが細い細い奥の細気管支の部分です。


喘息の発作が起きると、もともと狭い細気管支の空気の通り道がさらに細く、狭くなってしまいます。
すると、咳が悪化するのと同時に、細気管支の先にある肺に十分な空気が届かなくなってしまって息苦しくなったり、狭くなったところを空気が通ることでヒューヒュー、ゼーゼーいったりするようになるのです。

それに加えて、これらのウイルスは先ほども言ったようにそもそも細気管支で増殖しやすいという性質を持っているので、この部分で炎症が強く起こってしまいます。
細気管支にとってはウイルスと喘息の悪化というダブルパンチに見舞われてしまうということになってしまいます。
実際喘息の悪化に、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスは大きくかかわっているといわれています。Vaccine 23: 4473-4480,2005.  J Infect Dis 193: 1634-1642, 2006.

またCOPDに関しても、やはり、もともと奥の気管支の通りが悪くなっている状態なので、喘息と同じようにこれらのウイルスが感染した時には、ただの風邪では済まなくなるケースが少なくありません。


しかしこのブログでは何度もお話ししているように、喘息やCOPDは残念ながら、その病気を持っていても長い期間気づかれずに経過してしまう方が多かったり、それに吸入薬を正しく使えていなかったり、薬を正しく選択されていなかったりと、適切な治療がされていない方が非常に多い病気です。

ですので、隠れ喘息や隠れCOPDの方を中心として、大人の方でもこのウイルスにかかった時に、思いのほか症状が重く、長引いてしまうといったケースが後を絶たないのです。


最後に高齢者の方についてですが、高齢者の方は免疫力がもともと低下していることから、ウイルスが増殖しやすくなり症状が重くなってしまうパターン、それにウイルスによって弱った肺に、別の微生物が後から侵入し肺炎を起こしてしまうパターンがあります。

またこのように肺の機能が低下してしまうと、肺と強固なつながりを持っている心臓にも大きな負担がかかってしまうため、特に心臓の病気を持つ方は症状が悪くなってしまいやすく、時には命にかかわってしまうこともあります。


両方のウイルスとも検査キットがありますが、わが国ではRSウイルスの検査は1歳未満、ヒトメタニューモウイルスの検査は6歳未満でないと保険の適応がなく、自費で検査すると診察料、薬剤料などその日の診察がすべて全額自費(つまり10割負担)になってしまうため、大人では事実上検査が使えません(これは大人にはウイルスに対する治療薬がないため、検査しても治療方針が変わるわけではなく保険上ムダになってしまうためで、決して大人に対していやがらせをしているわけではありません・・・)。

 

治療についてですが、残念ながらこれらのウイルスに効果がある、簡単に使える薬は現時点ではありません。
ですので基本的には症状を抑える対症療法が中心となります。

そしてこれによって悪化した喘息やCOPDがあれば、もちろんその治療も大事になります。


我々ができる対策としては、飛まつ感染、接触感染が中心となるため、症状が出ている人のマスク着用や手洗い、アルコール消毒が大事なのですが、やはりもともとは赤ちゃんや子供を中心として流行るため、お子さんから世話をする親などへと広がってしまう家庭内感染はなかなか避けづらいのが実情です。
基礎疾患のある高齢者の方がいたら、なるべくウイルスから遠ざけることが大事になります。

そして、喘息、COPDをお持ちの方は、もしうつってしまっても症状を長引かせるのを予防するために、やはり普段から吸入などの治療を、調子のいい時もしっかり続けることが大事になります。

まあ、結局はいつもと同じ結論ですね(笑)


というわけでまだしばらくの間厄介な存在になりそうなこれらのウイルス、しっかり敵を知って、メリハリのある感染対策と普段からの体調管理に気を遣うことで立ち向かいましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.05.28更新

新型コロナが5類感染症になってから約3週間、世間の空気はあまりコロナを感じさせなくはなってきています(実は水面下ではかなり増えてきています。今日私は休日診療所の日直をしているのですが、今日のコロナ抗原検査の結果が15打数8安打、打率.533と、DeNA宮崎選手も真っ青の高打率となっています・・・)。

しかしそれでもやはり人前で咳が続くことを気にされる方は少なくなく、咳が長く続くことでお困りの方が今でも多く当院にいらっしゃいます。

なかなか当日の新患枠が空いていることが少なく、診察まで数日お待ちいただいている状況で、患者様にご不便をお掛けして心苦しい状態です・・・

今年の4月から横浜市立大学病院から呼吸器専門である平田萌々先生を水曜日にお迎えしており、現時点では水曜日は他の曜日に比べて、呼吸器系の症状の方のご予約が比較的お取り頂きやすくなっています(この状況もいつまで続くのかわかりませんが・・・)
もし咳でお困りの場合、近日中のご予約がお取りいただけない場合は、水曜日の平田先生の診察もご利用ください!


さて、そのような「長引く咳」で受診されている方は、以前「咳喘息」と言われたことがあるという方や、こちらの診察で新たに「咳喘息」と診断される方が多くいらっしゃいます。

ところが、「咳喘息」って一体何かというと、正直ほとんどの方がくわしくはご存じありません。


そこで今回は「咳喘息」について少し詳しくお話をしてみたいと思います。


では、そもそも「喘息」って何でしょうか?

医師が治療をするときに参考とする、喘息のガイドラインを見てみると、「気管支喘息は、気道の慢性炎症を本態とし、変動性を持った気道狭窄による喘鳴、呼吸困難、胸苦しさや咳などの臨床症状で特徴づけられる疾患」と書いてます。

ムズい。なんのこっちゃ??

これをわかりやすく言い換えると、「喘息とは、気管支が狭くなって息苦しくなったり、咳が出たりするという症状が、悪化したり治まったりを繰り返す病気で、気管支が炎症を起こしていることがその原因ですよ」ということになります。

 

つまりアバウトにいうと、喘息の時には、主に「2つのことが起きている」、ということができます。


まずは「気管支の空気の通り道が狭くなる」という状態です。

気管支に炎症が起こることで、気管支を構成する筋肉(気道平滑筋と言います)が収縮したり、気管支の壁がむくんだりして気管支の空気の通り道が細くなります。
また気管支の中に分泌液が出ることで、分泌液(つまり「痰」です)が空気の通り道をジャマしたりすることで、気管支の中の空気が通りにくくなります。
狭い所を空気が通り抜けると笛のように音が鳴るため(空気の流れのあるところでドアを少しだけ開けていると「ピューピュー」いうことありますよね。それと同じ原理です)、喘息が悪化したときは「ゼーゼー」「ヒューヒュー」言ったりすることがあるわけです。


次に、「気管支が敏感になる」ということです。

気管支に炎症が起きると、その粘膜がはがれてしまい、知覚神経がむき出しになってしまいます。
そこに刺激が加わると知覚神経がビビッと刺激され、咳が出てしまいます。

また先ほど挙げた気管支平滑筋の収縮によって、その中にある神経が、筋肉の収縮を刺激と感じ取り、咳が出てしまいます。

ほかにも気管支に炎症が起こると、その筋肉の収縮を起こりやすくさせるような色々な化学物質が気管支で作られてしまい、ますます気管支の収縮、それによる咳が起こりやすくなってしまうというわけです。


一方「咳喘息」とは何でしょうか?

ガイドラインには「喘鳴や呼吸困難を伴わず、咳嗽を唯一の症状として気管支拡張薬が有効である」病気と書いてあります。

つまりこれも言い換えてみると、「気管支が狭くなってゼーゼーしたり、息苦しくなったりすることはないんだけど、咳が続くという症状だけはあり、その症状は気管支を広げる薬で落ち着いちゃう」ということになります。

気管支喘息との「違い」は、「ゼーゼーしたり、息苦しくなったり」するか、しないかということです。

でも、「気管支を広げる薬で症状が治まる」という点は変わりません。時期や環境によって症状がよくなったり悪くなったりするという点も変わりがありません。


じゃあ、「喘息」と「咳喘息」って、違う病気なのでしょうか?


私は、基本的には同じ病気だと考えています。
ただ症状の出方が異なるだけと考えています。

先ほどもお話をしたように、喘息とは「気管支が狭くなり」、「咳がでる」病気ですが、私は「喘息」と「咳喘息」は、その出かたの程度の差だというように考えています。

言い換えると、「咳喘息」は「喘息の一種」、「喘息の亜型」であるともいえるわけです。


例えば、咳喘息の方の検査を行うと、モストグラフィー検査で気管支がある程度狭くなっている方が少なくありません。
また呼吸機能検査を行っても、異常の範疇とまでは言えない程度の息の吐きづらさ(閉塞性呼吸障害といいます)を示すデータが出る方が非常に多いです。

つまり、咳喘息は「ヒューヒュー」「ゼーゼー」なったりするほどには気管支が狭くはならない(全く気管支が狭くならないとは言ってない)けど、咳を引き起こすような気道の炎症や知覚神経の過敏、それに軽い気管支の筋肉の収縮は起きているということです。
狭さの程度が強ければ「喘息」弱ければ「咳喘息」で、そこには明確な線引きがある訳ではなく、あくまで程度問題だということなのです。

 

よく外来で「『咳喘息だけど、喘息ではない』」と言われたことがある」とおっしゃられる方が少なくないのですが、上記の理由で、この表現は必ずしも正確とは言えないのかなって思います。

また、「咳喘息は喘息の軽いもの」という表現もよく聞くことがありますが、これも必ずしも正確ではなさそうで、咳の強さ、咳の出やすさはいわゆる喘息とそこまで変わりがない方も少なくない印象ですし、薬の効き方もそれなりに強い薬でないと効かない方も多くいらっしゃいます。
単純にあくまで、「咳喘息は気管支の狭さというファクターのみが軽く済んでいるだけに過ぎないと解釈した方がいいかと思います(ただ確かに全体的に咳喘息のほうが症状が軽く済んでいるが多い傾向はあるかなとは思います)。

あとよく聞かれるのが、「咳喘息を放っておくと喘息に移行してしまう」という文言です。

これはある意味正しいのですが、正確に表現すると、「咳喘息を放っておくと、そのうち気管支の狭くなる度合いがまして「ゼーゼー」「ヒューヒュー」いうくらいに進んでしまうという表現がより正確なのかなって思います。
咳喘息を放っておくと「喘息という別の病気になる」訳ではないということです。


つまり言いたいことは、「咳喘息」という診断がされたら、それは「喘息」という診断と同じと考えたほうがいいということです。


ですので、咳喘息の治療法の考え方は、基本的には喘息と一緒です。

すなわち、喘息と同じように吸入のステロイド薬や、必要に応じて気管支拡張薬やアレルギー薬を使用し、症状がよくなっても急にはやめないということが大事だということです(よくなってからすぐにやめてまた再発するということを繰り返すと、徐々に治りづらくなったってしまったり、それこそヒューヒュー、ゼーゼーという、「気管支が狭くなる喘息」に移行しやすくなってしまうためです)。


「喘息は治療を続けなきゃいけないが、咳喘息はすぐに治療をやめていい」ということはありません。
薬の減らし方、止め方は、喘息治療をしっかりと理解している医師と相談しながら慎重に決めていってほしいと思います。


繰り返す咳の不安から解放され、咳のない快適な生活を、是非手に入れてください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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