医師ブログ

2022.01.19更新

いよいよ第6波が本格的に始まりました。

当院でも発熱・感染症外来にお見えになる方がどーんと増えています。

感染力の非常に強いオミクロン株が中心となっていることもあり、当院は陰圧パーティションを導入してみました(HEPAフィルターのついたパーティションに空気を吸い込み、汚染された空気をほぼ完全に除去できます)。

発熱・感染症外来はもちろん、

発熱診察室

呼吸検査ブースにも陰圧パーティションを備え

呼気NO・モストグラフ感染対策

スパイロ感染対策

オミクロン株に備えた体制を整えてがんばっています。

とはいえ、最近の圧倒的な患者さんの増加を前に、当院のキャパも風前の灯火・・・
できるだけ皆さんも普段の感染対策を今一度ご確認いただき、一人ひとりが感染リスクを減らして頂ければ、我々も非常に助かります!


で、今回は、それでも今コロナにかかってしまった場合、どのような治療がありえるのかを見てきたいと思います。
今回は我々のクリニックのようなプライマリケアからの目線で、主に軽症の方に対し外来で行える治療のおおまかな概要を見てみたいと思います(人工呼吸やECMOなど、入院して行う治療、重症患者さんへの治療は、今回は割愛します)。

まずこちらが、現在行われている治療法のまとめになります(私は入院治療は行ってないので、もし間違いがあったら教えてください、エラい人)。

コロナ治療薬一覧

大前提として、絶対数で言えば、新型コロナ、特にオミクロン株では肺炎、呼吸不全などを起こさない「軽症」の方が多いです(とはいっても中には高熱や激しい頭痛・筋肉痛・喉の痛み、それにだるさがつよく食事がとれないなどという、「分類上は軽症」だけど「なった人にとっては人生で一番ひどい症状」といった方は少なくありません)。
そして、軽症で重症化のリスクが低い方の場合は、特別な治療は行わずに、解熱鎮痛薬や咳止めなど、症状を和らげる治療のみで対処することがほとんどです。


ここからがコロナの治療薬となります。

まずはこの冬に登場した、「コロナの飲み薬」の紹介です。

モルヌピラビル(一発じゃなかなか読めない・・・)、商品名「ラゲブリオ」がその薬となります。

これはウイルスRNAをコピーする装置(RNAポリメラーゼ)に作用し、ウイルスがRNAをコピーする際にエラー情報を書き込み、ウイルスを複製できなくしてしまう薬です(もともとはコロナ禍の前から研究されていた薬のようで、そのころからインフルエンザウイルスなど、RNAウイルス全般への効果が期待されていたようです)。

この薬は発症5日以内の投与で、重症化のリスクをおおよそ30%下げることができたとの結果が出たため、12月に日本でも適応が取れ、使えるようになりました。

これはカプセル剤で、1回4カプセル1日2回5日間内服します(カプセルは直径2cmほどで、1回に4カプセル飲むのはちょっと大変かも・・・)。

ラゲブリオ

© 2009-2021 Merck Sharp & Dohme Corp., a subsidiary of Merck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A. All rights reserved.

この薬は、現時点ではだれでも投与できるわけではありません。重症化のリスクが高い方のみが投与の対象となっています。

重症化リスク因子
▽61歳以上
▽活動性のがん
▽慢性腎臓病
▽COPD
▽肥満(BMI 30以上)
▽重篤な心疾患
▽糖尿病
▽ダウン症
▽脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症等)
▽重度の肝臓疾患
▽臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後

【COVID-19に対する薬物治療の考え方 第11報】より

一方妊婦の方には投与できないこととなっています(動物実験で催奇形性が否定できなかったためで、人間でのデータはありません。また投与された場合の「将来の」催奇形性を高めるデータはありません)。
また発症6日以上経ってしまった場合や、重症度が高い場合は投与対象外となっています。

ラゲブリオはアメリカのメルク社が開発したものですが、もうひとつ似たような作用を持つ薬が同じくアメリカのファイザー社から開発されており(商品名:バクスロピド)、こちらは重症化予防率が90%前後と、ラゲブリオよりかなり高くなっています。
日本ではつい先日申請されており、承認されれば使えるようになるでしょう。

次は「抗体カクテル療法」に使用する薬です(ここからは注射剤となります)。

まずは商品名「ロナプリーブ」(カシリビマブ/イムデビマブ)です。

これは、コロナウイルス表面の突起(スパイクタンパク質)に取りつきます。
スパイクたんぱく質は人間の組織にある受容体(ここでは主にACE2受容体)にくっつき、そこから人の細胞と合体して入り込むことで感染、増殖がおこりますが(こちらで説明したことがあります)、この薬はこのスパイクたんぱく質にくっつき、人間側の受容体とくっつかないようにする薬です。

第5波のデルタ株流行の際は非常に活躍しました。
また濃厚接触者に対する予防投与(感染確定者ではない人が、感染、発症リスクを減らすために行う治療)も行えます。

ただ残念ながらオミクロン株に対しては効果が落ちてしまうことが分かっており、今後は活躍場面が減ってしまうのかもしれません。


一方同じ抗体カクテル療法のカテゴリーの薬で、商品名「ゼビュティ」(ソトロビマブ)という薬剤があり、こちらはオミクロン株にも有効と言われています。

こちらも重症者リスクの高い方にのみが対象で、発症1週間以内に1回だけ点滴で投与します。

こちらは妊娠中のデータは少ないものの、現時点は使用可能となっています。
一方重症度が高い方には使えません。またロナプリーブのような予防投与ができません。


また、これは本来入院して行う治療でしょうが、病床がひっ迫した第5波の時は、自宅療養でもステロイド薬であるデキサメタゾンを使用しました。
こちらは酸素の状態が悪いときのみに適応となり、酸素の取り込みが悪化していない状態では使用しません。

できれば今回の波ではこの薬を自宅で使用せざるを得なくなる事態は避けたいです・・・

その他、今回は取り上げませんでしたが、ここ最近は入院で使用できる薬剤もいろいろと増えており、確実に私たちは以前よりも武器を手にすることができるようになりました。

とはいえ、やはり後遺症の問題もありできればかかるべきでない病気であることに変わりはないでしょう。


当院でも2月7日から3回目のコロナワクチン接種を開始します。

ブースター接種によりオミクロン株にも感染、重症化は予防効果が上がることはわかっています。
スタートが第6波に間に合わなかったのは返す返すも残念ですが、希望される一人でも多くの方に、一日でも早くワクチンを接種をできるように、自分のお尻を叩いてがんばります!

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.01.04更新

あけましておめでとうございます!

前回のブログでもお書きしたように、当院は今年も大きな変化の年になりそうです。
一方コロナもまだすぐに収束という訳には行かなそうで、もう少し落ち着くまでに時間がかかりそうです。
職員一同へこたれずに今年も頑張りますので、何卒よろしくお願い致します。

で、そのコロナです。

またかと言うべきか、やはりと言うべきか、感染者の数がここ数日じわじわと増えてきていますね。
そして世界に目を向けると、オミクロン株がここ1か月であっという間に世界に広がり、多くの国で感染者も過去最高を記録しているようです。

ただ重症化が少ないという情報もあり、その見解については世の中を二分している印象です。

では、我々はこのオミクロン株について、どのように対峙したらいいのでしょうか?

今回は、先日最新の大規模なデータがイギリスの国家機関である英国保健安全保障庁から出てきました。SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529) 31 December 2021
イギリスではご存知のように、かなりの勢いでオミクロン株に置き換わっており、今回のデータは昨年11月末からの1か月間で判明したデルタ株約57万例オミクロン株約53万例(!)を比較したデータになっています。

(明日から診療開始ですので、時間と余裕がある今日のうちに)こちらのデータをご紹介しながら、少しこのことについて考えてみたいと思います。

この中で、検査後14日以内に救急搬送、入院した症例数は、デルタ株13,579例オミクロン株3,019例と、やはりかなり減っているようです。
背景の様々な因子を処理してリスクを計算したところ、おおよそ入院率はオミクロン株はデルタ株の1/3となるようです。
そして診断から28日以内に死亡したオミクロン株陽性症例は57人だったとのことで、今までよりもかなり少ない傾向はありそうです(観察期間が短いのは少し気になりますが)。

この原因の一つとして、オミクロン株は今までの株と比べて、気管支でより早く増殖する一方、肺ではあまり増殖しないことが示唆されておりhttps://www.med.hku.hk/en/news/press/20211215-omicron-sars-cov-2-infection?utm_medium=social&utm_source=twitter&utm_campaign=press_release(未査読)肺で悪さをするケースが減っているためかもしれませんいままでのコロナは肺で悪さをしやすいことが大きな問題でした)。

つまり、確実にオミクロン株は旧型コロナ(つまり旧来の風邪)に「近づきつつある」可能性はあるとはいえると思います。

ただ一方、風邪と「同じになった」かどうかは、まだはっきりとはわかりません。

ここで報告されているデータで私が気になるのは、入院した人の中で69.2%が69歳以下、39.1%が39歳以下であるということです。
通常のインフルエンザや風邪なら、若い人が入院する事はほとんどないはずなのですが、その視点から考えるとやはりこれだけ若い世代の割合が高いのは不安材料です(もちろん若者中心に流行しているため、その分若者の母数も多いだろうということは頭に入れるべきですが)。

また新型コロナの怖さは、致死率の高さだけでなく、Long COVIDと呼ばれる後遺症の頻度の高さにもあります。
まだこのLong COVIDがオミクロン株でどうなるかということがほとんど分かっていないのも、また不安材料であるといえると思います。

また、今回のレポートにはオミクロン株に対するワクチンの効果もレポートされていました。

症状のある検査陽性者を(つまり感染しているけど無症状だった人は除外されています)、ワクチン接種パターン別に分けて、ワクチンの効果を計算したデータです。

ここでは日本で接種されているファイザー、モデルナワクチンでのデータを取り上げます(アストラゼネカワクチンのデータもありましたが、ここでは割愛します)。

「症状をきたす感染を阻止する」という側面から見ると、接種後20-24週(5-6カ月)後、デルタ株に対しては50%程度予防するものの、オミクロン株の場合は10%程度しか予防していませんでした。
ただ3回目のブースター接種を行うと、デルタ株は90%オミクロン株は70%の予防効果まで回復します。その後10週経過すると、デルタ株は90%の予防効果を維持する一方、オミクロン株に対する予防効果は50%程度となるとのことでした。

ブースター接種後のオミクロン、デルタ感染予防効果

SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529) 31 December2021より改変

「症状をきたす感染を阻止する」という側面で見ると、やはり今までよりはワクチンの効果が低下傾向にあることは否めません(とはいえど、今までの効果が出来すぎていただけで、まだ接種の意味がないとまでは到底言えないだけの効果はあると思います)。

一方、「入院を阻止する効果」(つまり重症化予防効果に近い指標)を見ると少し変わります。

オミクロン株の入院予防効果に対しては、デルタ株よりは数字は劇的ではないものの、1回の接種でも35%の予防効果(ただし95%信頼区間が0.30~1.42と1.00をまたいでおり「有意差がある」=「効果がある」とは言い切れない)、2回目接種後6カ月までは67%(こちらは有意差あり)、6カ月以上たつと51%(こちらも有意差あり)の予防効果が見られました。
そして3回目接種2週間後ではその入院予防効果は68%(有意差あり)まで回復し、重症化の予防効果はある程度しっかりはありそうなデータでした。

 ワクチン接種後のオミクロン入院予防効果

SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529) 31 December 2021より改変

ただ、ここでまだ足りないデータもあります。

まずは「ワクチン接種により周囲へのオミクロン株感染を予防できるようになるか」ということです。
今まではみんながワクチンを接種することによって、集団免疫が成り立つことが分かっていました。今までの感染者数の減っていた日本がその状態でしたが、オミクロン株でもこれが成り立つかがわかりません。
また「症候性感染の予防効果」「重症化阻止効果」がどれくらい長期に続くのかどうか、という事がまだよくわかっていません。すると今後4回目、5回目と、何度も接種する必要が出るのか、頻繁に接種を繰り返した場合にトラブルは出ないのか、そこは問題にはなり得ます(3回目までは安全性に大きな変化は出ていないデータが出ています)。

これに加えて、オミクロン株の重症度の低下、だるさや発熱などのワクチンの副反応重症な副反応は前にも書いたようにやはり非常に稀です。これまで当院で3000回もの接種を行なった経験からも、その印象は変わりません)を考えると、特に若い人では今までよりワクチン接種の意義は見えづらくなっているかもしれません。

ただ、おそらくオミクロン株は一度流行すると、他国のようにあっという間に今までにない増え方をすることが予想されます。

データからは、その勢いをある程度は削げる、そして入院予防効果により少しでもコロナ診療を担う病院の負担を和らげること(これは巡り巡って全ての医療負担を軽減することにつながります)は出来ると言っていいと思います。

そのような意味では、やはり今回のブースター接種は意義があると思います。

人によってワクチンのメリットとデメリットのバランスは様々ですし、万人がワクチンを打つべきとまでは思いません。
しかし上記を考えると、リスクの高い方高齢者、基礎疾患を持っている方)接種できる方はやはりしっかりとブースター接種をしていただく事が、自分と社会を守っていただけることにつながるのではと思います。

というわけで最後に、現時点でのオミクロン株に対する私の考えをまとめてみます。

ちなみに私は政治評論家でも経済学者でもなく、どのような政策を打つべきかということを言及する知識も持ち合わせていないので、政策、経済対策については触れません(そのことに関するご意見はご遠慮ください)。

ただ、客観的にデータから状況を眺めると、オミクロン株を「風邪」と同じものとして何も対処せずにノーガードで臨むには、まだまだ不確定要素が多すぎるような気はしています。

ですので、今はまだ屋内や人混みでのマスク、手洗い、三密回避などの正しい基本的感染対策を取りながら、ワクチンを打てる方はブースターワクチンをしっかりと接種するなど、打てる手を打って備えたほうが賢明かなと思います。

もう少し色々と分かり、「やっぱりオミクロンは風邪と同等に扱っていい!」と自信を持って言える日が、1日でも早く来てほしい、心からそのように願っております。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.12.30更新

2021年もひとまず診療が終わりました。今年もご愛顧いただきありがとうございました。

にしても、ホンっトに目まぐるしい1年でした・・・

まずはそんな当院の2021年を少し振り返ってみます。


今年は冬のコロナ第3波対応から始まり、当院にご来院になる患者さんが急増しました。

時を同じくしてコロナワクチン接種の準備が始まり、春から高齢者や医療従事者、そして夏場からの一般への方々への接種を続けて参りました。

そして夏には第5波を迎え、当院でもコロナ陽性患者さんだけでなく、コロナ感染に伴う肺炎や呼吸不全、そしてコロナの後遺症に悩む患者さんを数多く診療しました。

このような経験は今までの私の呼吸器科医としての人生で、経験がありませんでした。

やはり「コロナはただの風邪ではない」ということを、まざまざと見せつけられました。

秋ごろにはコロナ感染者数も落ち着いてきましたが、1か月遅れの高齢者検診が始まり、併せてインフルエンザワクチンの接種も始まったため、更に混雑に拍車がかかり、結局2021年は前年の1.3倍以上の患者さんにご来院頂くこととなりました(ワクチンのみの方を除いたデータですので、実際のご来院患者さんはさらに多かったと思われます)。

職員の増員やシステムの改善などで精一杯対処し、データ上は昨年よりもお待ち時間を短縮することができています。しかしそれでもやはり急激な変化には対応しきれなかった面もあり、皆様には混雑でご迷惑をお掛けしたかと思います。

そこで来年は、更なる抜本的な改善策を打ち出し、よりよい院内環境の構築を目指すことと致しました。

まずはこの冬から、業務改善を専門に行うスタッフを職員として招き入れました。
今までになかった視点からもフローを見つめ直し、より皆さんにフレンドリーな環境を作っていきます。

また先日、更に発熱、感染症外来での感染リスクを低減するため、発熱、感染症外来の診察室に陰圧パーテーションを導入しました。
来月には発熱、感染症外来の待合エリアにも追加導入する予定です。

そして来年には院内の大改装を予定しております。
詳細はまだ決まっていませんが、動線を改善するため、今回はかなり大規模な改装となる予定です。
もしかしたら少し長めの休診期間を頂くかもしれません。
詳しいことが決まりましたらまたHPなどでお知らせいたします!

もう一つ、来春からWeb問診を導入することにしました。
今までは当院にご来院頂いてから手書きで記入していただいた問診が、あらかじめご来院前にゆっくりと、そしてより詳しく記載していただけるようになります。
これによりお待ち時間が少しでも減らせ、またより正確な診断につながる診療となることを目指しています。

新たに医師を増員する計画もあり、こちらも詳細が決まり次第お伝えいたします。
他にもまだ明かせませんが、大きなことをいくつか考えています。
(なお前回記載した「院外呼び出しシステム」に関しては、ご利用希望の方が非常に少なかったため、今回は導入を見送ることとしました)

直近では、3回目のコロナワクチンの接種が始まります。
当院では2月から接種を開始する予定で、年明けにワクチン入荷量が決まり次第、まずは医療従事者と高齢者の方のご予約を開始いたします。

予約方法については予約開始時に当ホームページ、及びLINE公式アカウントで告知いたします。

なお今回は接種を迅速に進めるため、ファイザーだけでなくモデルナのワクチンも使用する可能性があります。

国は2回目までのワクチンと異なるワクチンを使用した交差接種の許可を出しています。

オミクロン株についても、少ないながらも少しずつ情報が集まってきました。

現時点での情報は近々ブログにでも書いてみようかと思いますが、やはり現時点ではブースター接種の意義はありそうです。
なるべく一人でも多くの接種希望の方に、一日でも早く接種頂けるように致しますので、ご理解の程宜しくお願い致します。

というわけで、来年は今までよりも患者さんに心地よく来院、通院して頂ける環境が整う、加藤医院進化の年となる予定です。

また2022年も何卒よろしくお願い致します。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.12.09更新

ああ、いそがしい・・・

世界はオミクロン株で大騒ぎですが、わが国では今のところ蔓延にはいたっておらず、新型コロナの患者さんもしばらく当院にはお見えになっておりません(オミクロン株についてはまだわからないことが多く、私も現時点ではほとんど情報を持ち合わせておりません。情報が増えてきたら、もしニーズがあればまたブログ内でまとめてみようかなと思います、余力があれば・・・)。

しかし、昨年の冬に比べて、発熱、風邪症状をきたして来院される方は、明らかに多くなっている印象です。
当院では発熱患者さん用の待合を4席準備しておりますが、ここ最近混雑時には満席となってしまうことも珍しくありません。

新型コロナ、インフルエンザの検査をしても陽性の方は今のところほとんど出てはいませんが、発熱の方が増えているということは、やはり何かしらの病原体(おそらくその多くはウイルスです)感染が広まりつつあるのでしょう。

日本の方々は他国よりも、現在でもより徹底した感染対策を行ってはいるとは思いますが、やはり昨年の今頃よりは社会に多少の余裕を感じます。
その他にもいろんな環境が昨年と異なり、今年の状況になっているのかもしれません。
病原体は、常に世の中に潜んでおり、そしていつでも拡がる可能性を秘めています。

そして、インフルエンザワクチンの接種も佳境を迎えています。
12月に入りワクチンの入荷が見られるようになり、だんだんとニーズにお応えできるようになりました。

ただワクチンの在庫も少なくなってきており、接種できる期間も残り少なくなっています。希望される方はワクチンの残っている今、早めの接種をお願い致します。

で、そのインフルエンザ、今後はどうなるのでしょうか。

以前のブログでインフルエンザの流行の可能性について書いてみました。

そこから時間が経過した今の状況を眺めてみましょう(図はWHOのページからです)

まずは国内。

日本インフル
ご覧のようにインフルエンザ、国内では全く流行っておりません。

通常この時期はインフルエンザの患者さんがちらほらと見つかる時期ですが、国内からの報告でも直近1週間(11月22日~28日)の、定点からの国内患者数報告は46人、神奈川は2人です(定点とは、全国から人口比率に応じて無作為に選ばれた医療機関で、茅ヶ崎には11医療機関があるそうです。それでも全くいないわけではないんですね)。

ところが海外に目を転じてみると、昨年とは様相が異なるようです。

まずはアメリカ
アメリカインフル

1年前のこの時期と比較し、明らかにインフルエンザの患者数の動きが異なります。
例年よりはまだ少なめのようですが、昨年よりは明らかに増加しているようです。
アメリカで検出されているインフルエンザの大部分がA型(H3N2)だそうですhttps://www.cdc.gov/flu/weekly/

つづいてヨーロッパ。

フランスインフル
ロシアインフル

フランスやロシアでも、昨年とは違う動きが見えており、インフルエンザの患者数の増加傾向が見られます。


他にもクロアチアやインドでは、秋ごろに季節外れのインフルエンザ流行が見られ、特にクロアチアではコロナ前の例年を超える流行だったそうです。

 

またアジアでは中国の増加傾向がみえるようです(こちらはB型ですね)

中国インフル

こちらはコロナが流行っていないためにわが国よりは感染対策も厳密ではないことが影響しているかもしれません。

またこちらはネット記事からですが、ブラジルのリオデジャネイロでは現在、夏に差し掛かる時期にもかかわらず、急激なA型インフルエンザの流行が起こっているようです。

《リオ市》インフルエンザの患者急増=夏前なのにH3N2型へ2万1千人感染

もちろん今の日本と同様、全く流行が見られない地域も多くあります。
しかしコロナ前の状態とまでは言えないものの、昨年と比べるとインフルエンザの流行の兆しがみられる地域は確実に増えているようです。

またこれらのうち、中国を除く各国では今でもコロナの流行が収まっていません。

つまり、コロナとインフルの同時流行、ツインデミックは起こり得ると考えなければいけないかもしれません。

加えてブラジル、クロアチア、インドの例に代表されるように、必ずしも決まった時期にインフルエンザが流行るとも言い切れません(実際2009年の新型インフルエンザ騒ぎの時は、夏から流行が始まり、秋にピークを迎えています)。

ウイルスの動きは以前もお話しした通りわかっていないこともまだまだたくさんあります。

ましてや昨年からウイルスの秩序が変わってしまっています。
「いつもがこうだからこうなるはず」「去年がこうだったからこうなるはず」が、必ず通用するとは限らないのです。

そこでインフルエンザワクチンの効果を考えてみます。

複数の臨床試験データをまとめた報告では、成人でのインフルエンザワクチンの効果は、発病を69%低下させるとされています。Lancet Infect Dis. 2012 Jan;12(1):36-44
ファイザー、モデルナの新型コロナワクチンの、発病を95%抑える効果には及びませんが、それでもその有効性は十分客観的データに裏付けられています。

またこちらはアメリカのデータにはなりますが、人口の最大67%がワクチンを打つと、インフルエンザの社会的流行を抑えられるという試算が出ていますJ Res Health Sci. 2018 Fall; 18(4): e00427.
当然、家族内や学校内、会社内など、小さい単位での流行阻止にも大きく役立つわけです。

インフルエンザワクチンは大きな副反応の頻度も経験上少なく、個人的にも社会的にも、やはり接種するメリットは、そのリスクを大きく上回ると思います。
ワクチンを打てる機会が終わるまでに一人でも多くの方に接種をしていただき、少しでも皆さんが安心材料を増やしてこの冬を乗り越えて頂ければと思います。

なおインフルエンザの状況に関しては、大きな変化があればまたこちらでご紹介しようと思っています、余力があれば・・・

 

最後にお知らせです。

現在の院内の混雑を少しでも改善するために、今週末から呼び出しシステムの試験導入を開始します。
受付でお渡しする専用端末をお持ちいただければ、受付後に院外に出て頂いても順番が近づいたらお呼び出しすることが可能となります。
まだ試験導入の段階であり、運用も試験的なものとなりますが、ご希望の方は受付にてお申し頂ければと思います(可能でしたら今後の運用の参考にさせて頂きますので、アンケートにご協力頂けるとありがたいです!)。

その他にも混雑緩和、待合室の環境改善、予約状況の改善などの対策を現在全力で行っております。

ここ最近の混雑で患者様には多々ご迷惑をお掛けしておりますが、今しばらくお時間を頂ければと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.11.20更新

コロナワクチンもひと段落付いたと思ったら今度はインフルエンザのワクチンでてんてこまいです・・・

かかりつけの方がおかげさまで以前より増えたため、今年は相対的にワクチンの数が足りません・・・。
何とかかき集めていますが、やはりかかりつけの方の接種のご希望には最優先で応える必要があるので、インフル専用枠のご用意がわずかしかできていないのが実情です。
かかりつけの方の接種は10月11日から開始しており、ある程度行き渡りつつあります。
これがひと段落すると枠のご準備ができるようになると思いますので、ご希望の方はもう少々お待ちいただければと思います。
最新情報もできるだけLINEアカウントに掲載しますので、フォローしていただけると幸いです。

友だち追加

さて、当院には呼吸器の疾患をお持ちの方が多くいらっしゃいますが、もちろん一般的な内科診療もしっかりと行っております。
ですので、血圧上昇、コレステロール値や中性脂肪値の上昇(脂質異常症)、糖尿病と言った生活習慣病の方が数多くご来院されます。
その中でも高血圧や血圧が高めの方は非常に多く、呼吸器疾患など他の疾患でかかられていても、同時に血圧も高くて気にされている方は少なくありません。

そりゃそうです。

現在の診断基準で、わが国で高血圧に当てはまる方は4300万人と言われています。
日本人全体に占める割合としてはちょうど3人に1人ということになりますが、この分母は、子供や病院に全く通っていない若い方を含めた数値となるので、当院にいらっしゃる方の中で見ると割合は当然もっと上がり、むしろ「血圧が高めでない」人の方が少ない印象です。
ですので、当院にいらっしゃる血圧が高めの方、つまり大部分の方は、当院の中で血圧を測定する機会があります(もちろん強制ではありませんが)。

ここで良く言われるのが「私、病院に来るといっつも血圧高くなるの。家ではいつも低いのよ」というお言葉です。

確かに、血圧記録を持ってきていただくと理想的な血圧なのに、当院の血圧計での血圧では30も40も高い方がいらっしゃいます。

医学的にはこの状態を「白衣高血圧」といいます。

白衣を見ると緊張して血圧が上がってしまうことから名づけられましたが、クリニックの中で測ることそのものも緊張するでしょうし、必ず白衣を見ることだけが要因ではありません。
この「白衣高血圧」、統計的には診察室血圧が正常な方と比べて脳や心臓の血管トラブルのリスクが高く、また白衣高血圧から持続性の高血圧に移行する例も多く注意すべきとされています。

ということで「白衣高血圧」を見抜くことは大事なのですが、本当に院内で血圧が高く出た方は皆さん「白衣高血圧」、なのでしょうか?
そこで今回は、クリニックで血圧を測るときの、本当に正しい血圧の測り方とはどうなのか、ということについて考えてみたいと思います(写真のモデルは当院のエースブロガー、深田です)。

 

まずは血圧を測るタイミングからです。

当院にいらっしゃったときに、すぐに血圧計で測ってしまうと血圧は高めに出ます。
欧米では5分以上安静にしてから測定するように定められていますが、簡便性を考慮し、日本では1~2分以上安静にするようにされています。
とはいえ、混雑もあるし、後ろがつまるとドキドキで血圧がかえって上がってしまいそうです。

最低1分(激しく動いてきた場合は2分)待ってから測るようにしましょう。

あと、健康診断や診察などで来院され、尿を検査で出す場合があり、尿を我慢して来院されることもあるかと思います。
この場合は先に尿を検査に出してしまいましょう。
満タンの膀胱から排尿を済ませると血圧は10mmHg程度下がります。
この間に体を休めることもできるので、最低1分の休息の点に関しても満たすことができます。

次に測るときの衣服です。

もちろん理想は半袖で、皮膚にカフを直接巻くことですが、薄手の長袖ならそのまま上から巻いてしまっても問題ありません。
複数の報告では2mmの薄手のニット程度までの服では、ほぼ測定する血圧に影響はなく、4mmのやや厚手の服になると約3mmHg、7mmの厚手の服になると約5mmHg血圧が高く出る傾向があるようです。


血圧測定時の注意

当院の血圧計に掲示してある注意書きです


また無理に袖をまくって上腕が締め付けられると、血圧がやや高く出る原因となりますので、できれば簡単に薄着になれる服でご来院ください。

次に測る姿勢についてです。

やはり正しい姿勢にならないと血圧は高く(もしくは低く)出てしまう可能性があります。

まずは腕の高さです。

台に腕を置き、カフをまいた時にそのカフが心臓の高さに来る必要があります、と言ってもわかりにくいので、カフの高さを男性は乳首の高さ、女性は乳房の高さに合わせてもらうといった方が分かりやすいかもしれません。

血圧測定

その位置に椅子の高さを合わせてください。
ちなみにこの位置よりカフが5cm低いと3~4mmHg血圧が高く出ます。

 

次に測る姿勢です。

座る椅子ですが、これは背もたれにもたれかかれることが重要です。

背もたれによりかからないで測るだけで6~10mmHg程度上がると言われ、前かがみの姿勢だとさらに血圧は上がりやすくなります。

血圧測定

実は当院でも以前は回転式スツールを使用していたため、この姿勢になってしまっていました。
このことに気づき、当院では以下の写真のような配置とすることにしました(ミソは血圧計の「横」に背もたれ付きの椅子を置いてあることです。このようにすればアームイン式でも前かがみにはならず、背もたれに背を付けながら血圧を測れます)。

血圧測定

 

当院では腕を入れるアームイン式の血圧計を置いていますが、この血圧計、工夫しないと上の図のように、前のめりの姿勢でないと腕が入りません。

ですので、当院では血圧計の後ろではなく、横にいすを置くこととしており、また左、右どちらでも測れるように椅子を二つ設置することとしました。

血圧計

(足をがっちり固定したので動かないようにしたはずしたが、私達の周知不足でやはり皆さん椅子を動かそうとされる方が多く、すでに椅子が1つ壊れました・・・
でもそりゃそうですよね、今までと全然違う配置だもの。
うちのブロガー深田もスタッフブログで一生懸命お知らせしてくれてます。わからないことがあったらお気軽にスタッフにお聞きください!!)

また、足を組まない、足を地面につけてブラブラしないということも大事です。
足を組むと血圧は2~8mmHg上がる可能性があります。

血圧測定

また測っている間ですが、この時にはお話をしないようにしましょう。
お話ししながら測ると5~10mmHg程度上がってしまうことがあります。心を無に。

測る回数ですが、2回以上測ると体、ココロともに慣れた2回目以降の方が下がる方が多いです。この場合は2回の平均を取ってください。


というわけで、このようなことを周知してから当院で血圧を測定した時に、以前より下がったというお声を頂くことが増えてきました。

ただこれを守ってもなお血圧の高い方はやはり要注意です。
その場合、家でも血圧を正しく測り、自分の血圧を知っていただくことが重要となってきます。

その家での測り方についても、次回以降また時間見つけて書いてみようかな?と思ってます。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.11.01更新

前編はこちら!
2021.10.13 喘息の吸入薬は続けるべき?

 

ようやくコロナも落ち着き、ここ加藤医院のある茅ヶ崎、そして雄三通りにも活気が少しずつ戻ってきています。

ただ、ありがたいことなのですが、その活気は当院院内にも及んでいます。

この時期は季節の変わり目で、咳など呼吸器症状でご来院いただく患者さんも非常に多く、数日前からずっと予約枠が埋まってしまう状態が続くなどご利用いただく患者さん方にご迷惑をお掛けしてしまっています・・・

先週からまたスタッフを増員するなどできるだけの対策は打ってはいます。
が、やはり当院は主に咳という判断の難しい症状を主に診察している手前、どうしても患者さんからお話を伺う時間が長くなったり、また症状が悪化してしまった方にも細かく状況をお伺いしたり対処法をお話しさせていただいたりと、診察にお時間が必要となるクリニックです。

現在スタッフの増員の他にも、システムやフローの抜本的見直し、新しいシステムへの設備投資などを可及的速やかに行っており、まだ道半ばの状態です。

まだしばらくはご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんが、少しずつ改善の兆しも出ています。今しばらくお待ちいただけるようお願い致します。

なお受診枠が埋まってしまい、なお早急な受診をご希望される際は、可能な範囲でなるべく早めに診察できるようにスタッフが受診調整をさせて頂いておりますので、遠慮なくお電話でご相談ください。


というわけで、私も多忙を極めていましたのでなかなかブログの更新ができませんでした・・・
ようやく時間を作った今午前0時、何だか目もギラギラしてるので、執筆に取り掛かろうと思います。


さて、前回は喘息という病気を続けることの難しさについて書いてみました。

今回は、じゃあ喘息の人はどうしたらいいの?ということについて、少し考えを書いてみたいと思います。

まずは喘息の治療をしている方が、この治療をいつまで続けたらいいかの判断についてです。

まずその根拠として考えるのは、その方の喘息という診断が本当に正しいかどうかの確認です。

以前もお話しした通り、喘息には「数字」がありません。
ですので、通常は症状や背景、歴史などから総合的に判断するしかないのが現状です。

そして、これが結構難しいのです。

私の外来にもいままで喘息と言われて治療をしていたものの、いろいろ診察してみたら実は喘息でなかった方という方が時々いらっしゃいます。
その場合、真の原因の治療を行うことで症状が出なくなれば、治療の終了は当然可能となります(ただ真の原因があっても、そこに喘息が合併していたという可能性は常に考える必要がありますが)。

次にやはり症状の原因が喘息であった場合、その症状の原因が明らかになっている場合は、その原因の除去にトライしてみます。
例えば長く使用していた家具や寝具などにアレルギーの原因であるダニが多くいたりペットを飼っていることで症状が起こっていたりなどという場合です。
その原因を除去したら全く症状が出なくなるケースがあるので、その場合は治療中止が可能かもしれません(ペットを手放すことはなかなか難しいのですが・・・)

しかし、原因を完全に除去できることは、正直あまり多くはありません。
また取り除けない原因(花粉やカビ、自宅や職場の環境、温度差や湿度の変化など)も多くありますし、そもそも原因がはっきりしない、もしくは全くない場合も少なからずあります。

このような場合は、やはり簡単には治療を中止できません。

前回も書いたように、喘息は、患者さん自身が症状が落ち着いていると感じていても、実際には気道に炎症が残っており夜だけの咳とか、天気の変化による咳とかといった多少の症状が残っていることが少なからずあります。
この場合は、何かをきっかけとして症状の悪化をきたすリスクがあります。そしてこの状態を繰り返すと、炎症はだんだんと治まりにくくなってしまいます。

炎症が続いている場合は、しっかり治療を続けることに異論の余地はありません。


一方、しっかりと吸入を続け、症状を完全にコントロール(24時間まったく咳がないのが続く状態です)し続けられている場合を考えてみます。
その場合、ずっとその吸入を続けなさいというのは簡単なのですが、患者さんには「とは言っても、症状もないのにいつまで続ければいいんだろう・・・?」という疑問が必ずわきます。

症状がなくなったら、治療はいつまで続ければいいものなのでしょうか?

これに対する正解は、実はまだありません(先月出された最新の「喘息予防・管理ガイドライン2021」でも、その中止の基準はないとはっきり明記されています)。

そこは患者さんの状況や考え方と、我々医師の考え方のすり合わせで決まっていくものなのです。


そこでここからは私個人の考え、やり方を書いてみます。

私は、まずしっかりと正しい治療を行い、症状がなくなっていることを2-3か月確認したら、少しずつ治療レベルを下げてみます(吸入薬のレベルを下げたり、内服薬をやめてみたりします)。
またしばらく見て大丈夫そうなら更に治療レベルを下げ、できるだけ低い治療レベルまでもっていきます。

その状態でどのシーズンも悪化してないことを確認したら、やめてみることはできるかもしれないと考えています。


また近年、新しいデータも出てきました。


吸入薬である「シムビコート(吸入ステロイドと気管支拡張薬のハイブリッドの薬です)」は現在、1日2回の定期的な吸入に加え、症状が悪くなった時にも追加で吸入できるという使用法(SMART “スマート” 療法)ができます。
シムビコート

これを、軽症の喘息の人に対し「定期的な吸入をせずに、症状が悪化した時だけ吸入をする」という使い方をさせたところ、通常の「毎日吸入ステロイドを使い、悪化時に発作治療薬を使う」使い方と比べて、悪化の頻度を変えなかったという研究結果がでました。N Engl J Med. 2018:378(20):1877-87.  N. Engl J Med. 2019;380:2020-30.
実際、喘息の国際ガイドライン(Global Initiative for Asthma;GINA)では、軽症の喘息の患者さんにはこの治療法が一番勧められている治療法になっています。

ただこれにも問題点があります。

まずはこの治療法が、今のところ日本では保険上認められていないということです。

実はこの研究には日本人が含まれていませんでした。
治療というのは人種差がでることがあり、確かに日本人で同じ結果になるという保証はなく、まだ大っぴらにはこの治療をおすすめすることはできないのが実情です。

二つ目が、前にも述べたように、どう「軽症な」喘息であるということを判断するかということです。

症状が軽くても、たびたび出てしまうような方では、「軽症」とは言い切れないのでやはりこの治療法は好ましくありません。

また、この治療法を行っているときに、本当に患者さんの状態が安定しているかどうかは大事な点です。
本当はもっと悪い状態なのに、本人にその自覚がない場合は、それを患者さんとのお話だけで見抜くのは簡単ではありません。

とはいえこの治療法も、患者さんの状況によっては有力な選択肢となるかもしれません。
少なくとも患者さんにとって、「症状があるときだけ使えばいいよ」と言われること、将来的にはそのような状態になりうる期待ができうることは、精神的にはずいぶん楽になるのではと思います。
「将来的には」ひとつの良い選択肢にはなり得るかもしれませんね。(「現在は」保険適応はありませんが、うまくやれば・・・なにをすめr

ちなみに症状があるときだけ発作治療薬(メプチンやサルタノール)のみを使う治療に関しては、気管支の炎症を悪化させること、悪化、入院の頻度を増やしてしまうことから、最新の国際ガイドラインで否定されています。
このような治療法は、今はよほどの軽症でない限り、基本的にはおすすめできないと思います。

とにかく、喘息の治療はいろんな面で主治医とのコミュニケーションが大事な病気です。
よーく主治医と話し合って、お互いが納得できる治療法を選択していきましょう。


というわけで、午前3時半になりました。ギラギラです。ランナーズハイです(笑)

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.10.13更新

ようやくコロナも落ち着いてきて、緊急事態宣言も解除されました。

10月に入り、当院でもほとんどコロナ陽性の方を見ることはなくなっています。
ワクチンも行き渡りつつあり、重症者も大幅に減っているようです。

ウイルスの動きはまだわからないことも多くあり、日本よりワクチン接種が先行している他国でも、患者数が一旦極端に減った後にまた増加に転じてしまった国が多くあるようですので、やはり油断はできません。

とはいえ、ゼロリスクが必ずしも正しい戦略ではありません。
今だからこそ、羽目を外しすぎず、ちょうどいいくらいの感染対策をしながら、少しずつ経済を回すべき時期に来ているのかもしれませんね。


というわけで今回は、久しぶりに落ち着いてきたコロナから少し外れて、当院が診療しているメインターゲットの一つである、喘息について触れてみます。
なかでも、外来でよくあるご質問に「喘息の治療って、いつまで続けるんですか?」というのがあります。
今回はそのことについて考えてみたいと思います。

まずは喘息とはどんな病気か、考えてみたいと思います。

喘息は、ここにも書いた通り、慢性的に気管支に炎症が起きてしまうという病気です。
そして様々な悪化要因(花粉やダニなどのアレルギーや、天候、寒暖差、ストレスなどなど・・・)によって悪化します。
この炎症に対しては、基本的には吸入ステロイド薬を用い火消しにかかります。

ただ一方、それらの悪化要因がなくなると、薬がなくても症状が自然に軽くなることも少なくありません。
実際には「喘息が治った」わけではないのですが、この時患者さんはしばしば「喘息が治った」と思ってしまいます。

喘息は治ったわけではないので、ここで治療を止めてしまうと次に悪化要因にさらされたときに、当然また症状が悪化してしまいます。
ですので、悪化要因にさらされたときにも悪くならないように、治療を続けて悪化を防ぐ必要があるわけです。

そしてこれは、喘息になってしまう「体質」のために起きます。
「体質」というのはそう簡単には変えられないものです。
喘息「体質」が変わらない以上、喘息という病気は、基本的には一生付き合っていかなければならないものとなります。ですので、治療は基本的には続けて頂くのが「正解」です。

よく考えるとこれは、治療を続けることで悪化を食い止めている高血圧や糖尿病などの病気と、本質的には同じな訳です。


ところが喘息は、高血圧、糖尿病などと比べ、患者さんが途中で治療を止めてしまいやすい病気でもあります。
どちらも、治療を続けることで悪化を食い止める「慢性疾患」であるのに、です。

血圧の薬に比べ、喘息の薬は実際に服用されている率が半分以下になってしまうデータもあります。
薬剤アドヒアランス
つまり喘息の患者さんは、同じ慢性疾患である高血圧や糖尿病の患者さんと比べ、治療を続けてくれる割合が非常に低いということになります。

 

ここで喘息治療でよくある日常の外来風景を、それぞれの心の中を代弁しながら見てみたいと思います(うちの外来の話、というわけではなく、あくまで一例です。こうじゃない展開も実際はたくさんありますので悪しからず)。

患者さん「最近咳がとまらないんです、以前から風邪ひくと咳が長引くんです」(また風邪ひいちゃったな、風邪ひくといつも厄介になるから早めに薬もらおう
医師「なるほど、咳がとまらないんですね」(咳も長いし何度も繰り返してるから、風邪だけじゃないっぽいなあ

 診察、検査後

医師「喘息だと思います、吸入治療を始めてみましょう」(やっぱり、風邪の咳がこんなに長く続くはずないもんな
患者さん「私、喘息なんですか。わかりました」(風邪だと思ってたのに・・・聞いてないよぉー

 治療後

患者さん「咳がだいぶ止まってきました」(やっと治ってきたよ。でも吸入治療って薬飲むのと違ってメンドくさいな・・・
医師「良かったですね。喘息は治療を続けることが大事ですから、良くなってもやめないでくださいね」
患者さん「わかりました」(えっ、もう症状ないのにまだ止めちゃダメなの!?)「いつまで続ければいいんですか?」
医師「基本的にはずっと続けてください」
患者さん「・・・わかりました」(風邪かと思ってたのに喘息って言われて、症状何にもないのにこんなメンドくさいことずっと続けるなんて、やってられないよぉ・・・

とまあ、こんな感じで患者さんの胸の内はもやもやしたまま、何度か通院した後に治療を止めてしまうパターンは少なくありません。

 

では、それって全部喘息の患者さんが悪いのでしょうか?

 

私は、喘息には特有の、治療を続けにくい病気としての特徴があるからではないかと思っています。

その原因を挙げてみます。

・吸入がいろいろとメンドくさい

やはり、吸入治療の煩わしさがまず挙げられます。
飲み薬と違い、アクションが多かったり、うがいを必要としたりと、まずは手数が多いことはデメリットです。
それでもしっかり使用して効果があれば使おうと思えるのですが、吸入はコツがいることが多く、このコツを知らないとうまく薬が気管支に届かないため効きません(そして、そのコツを教えてくれるところが非常に少ないのも問題です・・・)。
また、声がれ口内炎なども問題となりますが、これも避けるためのコツを教わったり、声がれのしにくい薬の種類に変えてもらったりしないと、吸入薬を使用している限り続いてしまいます。

症状が(正しい使い方ができずに)十分に改善しないにも関わらず、声がれや口内炎によって日常生活に支障が生じると、患者さんは当然吸入治療を止めようと考えてしまいます。

 

・喘息がいろいろとわかりにくい

風邪と喘息は全く異なる病気です。
しかし、どちらも咳をきたします。
また、喘息は風邪がきっかけで起こることも非常に多いです。
すると、喘息は「風邪がこじれてなるもの」と考えられてしまうことがあります。
風邪は治ったらそれで終わりなので、喘息も同様に治ったら終わりと考えられてしまうことがあるのです。

また幸か不幸か、治療を自己判断で止めてしまった後も、症状が悪化しないこともしばしばあります(悪化要因がなくなっていたり、治療による効果がしばらく続いたりするためです)。
それでもしばらく経ってから(場合によっては数年経ってから)、またその悪化要因にさらされることで症状が再発することもあります。
でも患者さんには、一旦治療を止めても(一時的にですが)悪くならなかったという成功体験が残っています。

すると悪くなったらまた治療をはじめて、良くなったら止めればいいやいう考え方になりやすくなってしまうのです。

・喘息には数字がない

高血圧や糖尿病などは、その時の状態が数字で出てき、患者さんもその数値を気にしてしっかりと治療を続けていこうとする意志が働きやすくなります。
一方、喘息にはそのような簡便な数値がありません(ピークフローという器具もありますが、患者さんによって適切な数値が違ったり、器具の使い方の巧拙で数値が変わったりと、うまく活用することはなかなか簡単ではありません)。
上のわかりにくさともつながりますが、患者さんが客観的に「良くなった」と感じる目安がなく、自分に起きた症状からのみでしか判断できなくなり、良くなったらやめてもいいかなと思ってしまいがちなのです。




と、このように喘息とは、どうしても患者さんが治療を続けにくい要素を多く抱えた病気なのです。
決して患者さんばかりが悪いわけではないと私は思います(医療者の関わりが非常に重要な病気ともいえます)。


それではいっそのこと、症状のないときは治療せずに、症状のある時だけ治療するという考え方はどうでしょうか。

でも、これに対する答えは、やはり基本的には「NO」です。

やはり「体質」で起こっている病気である以上、一見症状がないときにも気管支に軽い炎症は起こっている場合があります。
また小さな症状が起こっても、通院していない場合、多くは治療再開に至ることはありません(喘息は患者さんが自分の症状を過小評価しやすい病気です)が、その時には気管支の炎症はしっかり起きている状態になります。

そしてそのような状態が続くと、だんだんと炎症が固定化してしまい、症状が治りにくくなってしまいます(リモデリングと言います)。
またさらに悪いことにこの変化は遅いので、患者さんが症状が治りにくく悪くなっていくことに気づかずにいつのまにか進行し、治しにくくなってしまうことも起こります。

ですので、基本的にはできれば吸入治療を続けたほうがいいということの正しさは揺らぎません。

とは言っても現実問題、先ほど述べた声がかれる、口が荒れる、金がかかる、メンドくさいなど、吸入治療を続けることによるデメリットは確かにあります。

臨床家としてはここにも目を向けなければなりません。


「正解」だけ振りかざしても、実際の診療はうまくいかないのです。

となると、どこかで落としどころを探る必要が出てきます。

この落としどころに正解はなく、答えを出すのには悩ましいところなのですが、近年そのヒントとなる面白いデータも出てきています。
じらすようで申し訳ありませんが、長くなりましたのでそれに対する答えは、次回探っていこうかと思います。

後編はこちら!
2021.11.01 で、喘息の治療は、いつまで続けたらいい?

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.09.26更新

9月末になり一旦コロナの感染者数は落ち着いてきたようですが、まだまだ世間への影響は大きく、残念ながら日常の話題の中心です。

いいのか悪いのかわかりませんが、当院のブログも私の想定以上の方に読んでいただいているようです。
先日、ある患者さんに教えていただいたのですが、Similarwebという、全世界のサイトの閲覧数を順位付けしてくれる集計サイトがあり、そこには・・・

1位:EPARKさん、2位:日本医師会さん、3位:エムスリーさん、4位:MSDマニュアルさん。
そして・・・

similarweb

いやいや、明らかに場違いでしょ、katoiin.info(笑)

まあこの夏はコロナ第5波で皆さん心配になり、当ブログに行きつかれた方が一時的にでも大きく増えたのが原因というわけですが、こんなにも多くの方にご覧頂いていたとは知らずにのほほんと情報発信をしていたこのブログ、さすがにちょっとビビりましたので、ほとぼりが冷めるまでは(?)しばらく気を引き締めて書いていこうと思います。

 

さて、コロナワクチン接種もそろそろ佳境に入り、若年者の接種もだいぶ進んできました。
茅ヶ崎市も10月にはほぼ接種が行き渡るとみているようで、第6波の山が小さくなることが期待されます。

しかし、ここ最近はブレイクスルー感染(ワクチン接種後にもかかわらず感染してしまうこと)の事例も報告されはじめ、外来でも3回目の接種:ブースター接種についてお問い合わせを頂く機会が増えています。
そろそろブースター接種について調べてみなきゃなと思っていたところ、ちょうど9月15日に2つの新しいデータが発表されました。

今回はブースター接種について、今わかっていることをお伝えしてみたいと思います。

今回のデータはいずれも、世界で一番早くファイザー社製のワクチン接種を行ったイスラエルからのデータです。
一つはまだ査読をされていないものですが、時間経過によるワクチンの効果の推移を示すデータ、もう一つがかのThe New England Journal of Medicineからの、3回目のブースター接種の効果をみたデータです。


まずは一つ目から。Waning immunity of the BNT162b2 vaccine: A nationwide study from Israel. medRxiv. 2021
イスラエルで2021年3月にワクチンを2回打ち終えた人と、その2カ月前の1月に2回打ち終えた人が、7月11日~31日までにどれくらい感染、重症化したかのデータです(この時期のイスラエルはほぼ全てデルタ株だったようです)。

この期間、60歳以上の高齢者では、3月に打った人、つまり接種後4カ月経過した人は1000人当たり1.6人感染したのに対し、1月に打った人、つまり接種後6カ月経過した人は1000人当たり3.2人と、約2倍に増えていたようです。
また重症化率も同じく約2倍の差があったようです(ちなみに重症者に占める未接種者の割合は、2回以上接種した人に比べ10倍以上もいるため、2回(接種済み)vs0回(未接種)の違いは3回vs2回の違いに比べてずっと大きいです)。

これに伴い、ワクチンを打たない時と比べた、打った時の重症化予防効果も、接種後4カ月の91%に対し、接種後6カ月は86%に、わずかですが低下したようです。(若い人のデータに関しては、日本同様イスラエルも高齢者から接種が始まり、若い人は接種が遅れたため、まだ十分なデータとは判断できないため、ここでは割愛します)


ここでいったん補足。
8月に藤田医科大学がファイザー社のコロナワクチンで接種3か月後に抗体が1/4まで低下すると報告をしました。https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv000000b3zd.html

ただこれを効果が1/4になってしまっていると勘違いされる方が多いようです。
抗体の量と予防効果は必ずしも比例関係にはなりません(1/4の抗体量でも、十分予防には足りる量である場合もあるわけです)。
また抗体だけが仕事をするわけなく、T細胞の働きなども予防には重要な効果を示します(T細胞がどのように効果を示しているかはこちらから)。

あえてミスリードを狙ったようなデマっぽい情報もあったようなので、一度確認していただきたいと思い補足しました。

 

そして二つ目です。Protection of BNT162b2 Vaccine Booster against Covid-19 in Israel;N Engl J Med. 2021 Sep 15. doi: 10.1056/NEJMoa2114255.
2回接種を終えた60歳以上の1,137,804人が、2回目から5か月以上空けてブースター接種を行った際に、ブースター接種を行っていない人とどれくらいの差が出たかというデータが示されました。

まずブースター接種12日後以降のデータを見ると、感染率はブースター接種で91.2%、重症化率は94.9%減らすことができたとのことです。
またファイザー社からの報告を見る限り、3回目の接種での副反応は、高齢者、若者いずれも2回目と比べそこまで大きな差はないようです。VACCINES AND RELATED BIOLOGICAL PRODUCTS ADVISORY COMMITTEE BRIEFING DOCUMENT MEETING DATE: 17 September 2021

ブースター接種副反応

 

ブースター接種副反応

 

これらの報告から言えることとしては、やはり多少ではありますが、時間の経過とともに徐々にワクチンの効果は落ちていくだろうということ、それと少なくとも高齢者にはやはりブースター接種は効果がありそうだということです。

ただ今回の報告の問題点としては、まずは観察期間が非常に短いことです(2つ目の報告はブースター接種後最大1か月程度しか追っていません)。
そのためブースター接種の効果がどれくらい続くのかはわかっていません。
またブースター接種を行うことによる長期的な安全性もまだわからないと言わざるを得ません。

加えて接種が遅れた若者のデータはまだ少なく、ブースター接種の有効性もまだはっきりとしていないこと、そもそも若者ではもともと重症化率は低いので、ブースター接種のコスト(お金だけではなく、安全性などのリスクも含めてです)に見合う利益が得られるかどうかがわからないという点もあります(若者に関しては、周りへの感染の頻度を減らすことができるか、それとコロナの後遺症であるLong COVIDを減らすことができるかどうかということが、ブースター接種の必要性を決めるのには大事になるんじゃないかなと思いますが、これらの点は調べた限り、まだ結論が出ていません)。



国からは、今年の年末から3回目のワクチンブースター接種開始のお達しが出ているようですが、高齢者だけを対象とするのか、基礎疾患を持つ人を含めるのか、それとも若者を含めた全員に行うのか、これらをよーく考える必要がありそうですし、またもう少し時間が経ってからわかってくることも見てみる必要がありそうです。今後まだまだいろんな検討が必要そうです。

また新しい情報が出てきたら、(日常業務の支障のない範囲で・・・)書いてみようと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.09.07更新

首都圏は一旦コロナのピークを越えつつあるようです。

ここ茅ヶ崎でもやや落ち着いてきたのか、当院でもPCRが陽性になる方が減ってきている印象です。
もちろん全体でみると検査数が少ない(=発熱でも受診する患者が少ないor受診できない)事情もあるかもしれませんが、8月中旬の当院でも繰り広げられた「PCR出せば陽性」という壮絶な状況でなくなったところを見ると、やはり実際に落ち着いてきているというのが私の肌感覚です。

とはいえ、まだ一昔前の患者数とはけた違いの患者数ですし、まだまだ先は長そうです。

コロナのワクチンも茅ケ崎市からの通達では10月までにほぼすべての希望者にワクチンが行きわたるとのことで、9月をもって個別医療機関へのワクチン配送を終了するとの通達がありました。
しかし、当院で先週60人分の予約枠を開放したところ、5分かからず埋まってしまい・・・実際は接種したくても枠を待っている方が非常に多いのが実情です。
集団接種の枠もなかなか取れず、当院で打ちたいとおっしゃる患者さんも多く、正直もっとうちにワクチンを打たせてくれよ!というのが本音です。
ですが、一零細医療機関にはいかんともしようがありません。
市の言う通りなら10月には集団接種も予約が取りやすくなることと思います。ぜひ焦らず行動をしていただきたいと思います。

そうこうしているうちに、来月ごろからはインフルエンザワクチンの接種が始まります。
昨年はワクチンの接種希望者が非常に多く、10月はややパニックになったにも関わらず、結局インフルエンザは全く流行せずに終わったのはご存じのとおりです。

それでは今年のインフルエンザワクチンはどうしようか、迷っておられる方も多いと思います。

インフルエンザワクチン、やっぱり今年も打つべきなのでしょうか?

まず昨年の状況から振り返ってみます。
昨年は1月にコロナが出現、その後4月までには世界中に広がっていき、世界中でロックダウンなどが行われました。
その結果でしょうか、通常3~5月から流行が始まり、6月にピークを迎える南半球のインフルエンザは、まったくと言っていいほど流行しませんでした。

そしてその後日本を含む北半球も全く流行しなかったのはご存じのとおりです。

もちろんコロナによるソーシャルディスタンスマスクや手洗いの徹底という要素や、国際的な人の移動の減少という要素は大きかったと推測されています(ウイルス干渉説もあるようですが、昨年のコロナの患者数は、例年のインフルエンザの患者数と比べてけた違いに少ないため、あったとしてもあまり大きなファクターではなかったかもしれないと私は考えています)。

そして今年ですが、やはり南半球ではインフルエンザは流行していないようです(オーストラリアやニュージーランドでは今でも大都市でロックダウンが行われているようです)。
そしてわが国でも緊急事態宣言で相変わらず人との接触機会が減っている状態です。

この状態を考えると、やはり今年もインフルエンザは流行しないのでは、そんな風に考えることは自然なことだと思います。

ただ本当にそうなるのか、それはまだ誰にもわかりません。

今年の6~7月、突如子供たちの間でRSウイルスが大流行をきたしました。
当院にも子供たちからうつってしまい、発熱したり咳が止まらなくなったお母さんお父さんが非常に多く来院されました。
本来RSウイルスは9月ごろに流行を起こすウイルスです。
ところが今年は例年よりも2か月も早く流行し、その規模は例年以上でした。

その原因としては、RSに罹ったことのない子が今年は多かった可能性が指摘されています。本来RSウイルスは2歳までにほぼ全員が感染するといわれていますが、昨年は感染対策をした結果、RSウイルスにかからなかった子が多くいて、その子たちが初感染を起こしたためではないかともいわれています。
つまり集団免疫が弱かったことが示唆されています。

ただ、ウイルスの挙動は、必ずしもすべてが簡潔に説明できるとは限りません。


このRSウイルスの流行も、ピークを迎えてから約1か月でほぼ完全に収束してしまいました。
減り始めたのは7月中旬からであり、夏休みはまだ始まっておらず、極端な人流の変化もなかったはずです。
外的要因だけでは説明できないように思えます。

ひるがえってインフルエンザですが、こちらも毎年1月下旬ごろをピークに減少していきます。
今までは気候の影響と言われて我々もそれを信じていましたが、よく考えてみると2月はまだまだ寒さ、乾燥のピークです。
なのに2月下旬には急激な減少傾向になっている年が多いのです。
しかも気温だけの要素なら北国のほうが大流行するはずですが、実際は全国でそれほど差はありません。
気候だけでも説明できないように思います。

と考えると、ウイルスの流行のメカニズムって、やはりそう単純なものではないもののようです。
確かに感染対策や人の移動に影響をされることは確かですが、集団が持つ抵抗力や、もしかしたらウイルスそのものの特性も関与しているのかもしれません(今回のコロナ第5波の急激な減少にしたって、人流や感染対策は8月になり急に大きく変化をしたわけでもないですよね。やはり別のファクターを考える余地はあります・・・)。

ウイルスの挙動は、まだまだ分からないことが数多くあります。

 

そして昨年インフルエンザが流行しなかったことが懸念点に挙げられる考え方もあります。
昨年はほぼすべての方がインフルエンザに罹患していません。
実はその前のシーズン(2年前)も流行は小さいものでした。
そのため2年間にわたって感染によって免疫をつけるという機会は奪われていました。これはインフルエンザが流行する世の中になってからは初めてのことです。

集団免疫という点では不利になる可能性は否定できません。

つまり、今年のインフルエンザに関しては、流行しない可能性も低くはないとは思いますが、流行する可能性もないわけではないのです。

昨年が大丈夫だったからといって、今年は流行しないとの決め打ちはやはり危険であるように思います。

そして社会的には、まだまだ発熱をすることに非常に気を使わなければならない状況は続くと思われます。
もしインフルエンザが流行してしまったときに、それをもらってしまうと大変面倒です。
もちろん発熱患者診療を受け入れる医療機関は頑張るでしょうし、当院でも今まで通りできる限り受け入れます。
でも数少ない発熱診療医療機関に非常に多くの方が押し寄せると、さすがにパンクしてしまうでしょう。再度の医療崩壊の悪夢もよぎります・・・

そのような状況を考えると、ワクチンを打つことでそのリスクを減らせるチャンスがあるのであれば、是非インフルエンザワクチンは打っておいていただきたいと考えています。
コロナワクチンほどではないにせよ、インフルエンザワクチンも一定の発症、重症予防効果はしっかりと示されています。
重篤な副反応も非常にまれであることは、皆さんが実感されていると思います。

そしてそれがたとえ空振りになったとしても、春まで皆さんが無事なら良いわけです。

ぜひ、今年も皆さんにはインフルエンザワクチンを接種していただき、そのワクチン接種が本当に空振りに終わってしまうことを、切に願っています!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.08.11更新

本当は楽しい夏休みの真っ最中ですが、残念ながら新型コロナの蔓延が続いています。
茅ヶ崎でも連日1日数十人程度の陽性者が報告され、当院でも8月に入り、PCRで陽性となる方が増えてきております。
喜んでいいのかどうかはわかりませんが、前回の記事公開後さらに当院のホームページをご覧いただく方が数倍に増え、あっという間に月200万PVに達してしまいました。
世の中の関心事が本当にコロナ一色であることをまざまざと実感します・・・

一方ワクチン接種も進んでおりますが、こちらのページにも記載した通り、残念ながら国や自治体からのワクチンの納入が8月に入り極端に減ってきてしまいました・・・
当院では何とか8月中の接種枠は作りましたが、現時点では9月以降、なかなか十分なワクチン接種の枠を作ることができそうにありません。
うちのような零細医療機関には何ともし難い現実なのですが、その中でも何とか少しでもワクチンを確保し、希望される方に1日でも早く接種したいと思います。
最新情報はこちらのページや、当院のLINE公式アカウントにてお伝えいたしますのでご確認ください。

さて今、世の中に大きく意見が割れていることがあります。

若者にとって「コロナは風邪」なのかどうか。
そして「コロナワクチンを打つ必要はない」のかどうか、です。


まずは「コロナは風邪」なのか、考えてみます。

確かに、新型コロナ全体でみると、死亡者は高齢者に偏っており、若い方に死亡者が少ないのは事実です。
しかし、コロナの怖いところは、やはり肺炎や血栓症などで呼吸状態の悪化を起こしうること、それに後遺症を残してしまいやすいところです。

アメリカのテキサス州の医療施設で新型コロナと診断された18~29歳の1853人を、診断から30日間追跡したデータがあります。
これは2020年3~12月までのデータで、アメリカでもまだワクチン接種が始まってない状態でした。

結果ですが、17%の若者が肺炎を発症し、4.6%の若者が呼吸不全になったとのことでした。
その一方、無症状の若者も41%いたとのことでした。Sandoval M, Nguyen DT, Vahidy FS, Graviss EA (2021) Risk factors for severity of COVID-19 in hospital patients age 18–29 years. PLOS ONE 16(7): e0255544.
日本との医療アクセスの違いもあるため、そのままは当てはまらないかもしれませんが、若年者のワクチン接種が完了していない今の日本の現状の参考にはなるのかと思います。

このデータから言えるのは、この新型コロナの症状の幅の広さです。
通常今のインフルエンザでは、ウイルス性肺炎をきたすことはめったにありませんし(高齢者のインフルエンザ感染をきっかけにした2次性の細菌性肺炎は少なくないですが)、ウイルス感染そのもので呼吸不全になるような症例にもほとんど出会いません(前述の肺炎のほか、基礎疾患となる喘息、COPD、心不全などがインフルエンザ感染後に悪化して呼吸不全になることは少なからずあります)。

あくまでイメージ図ですが、インフルエンザと新型コロナの患者分布のイメージ図を作ってみました(実データによるものではありません)。


コロナとインフルエンザの重症度分布

ポイントは先ほどもお話しした、インフルエンザに比べての新型コロナの症状の分布の広さです。


コロナの場合、若い人ではインフルエンザより軽く済んだり、無症状感染者と診断される人が格段に多い一方インフルエンザよりは症状が重くなる人もいらっしゃいます。
これが年齢層が上がってくるとコロナで中等症、重症になる人の割合が増えてきますが、一方微熱程度で済んでしまい、インフルエンザより症状が軽い人もいます。
高齢者になるとコロナ同様、インフルエンザでも重症になりやすくなります(ただこの場合は先ほどもお話しした、インフルエンザ感染をきっかけとした肺炎や基礎疾患の悪化が多く、ウイルスそのものの影響による新型コロナの重症化とは様相が違う印象です)。

コロナに自分がかかったとき、この点のどこに自分が位置するのかということは、なってみるまでわかりません(若くて基礎疾患がなくても、必ずしも無症状、軽症で済むとは限りません。命には関わらないとしても・・・)。
たまたま左側の点に位置した人だけの「コロナは楽勝だったよ」の体験談だけで、自分も同じ体験ができるかはわからないのです。

ぶっちゃけ、要は「ガチャ」なのです。

また、今のインフルエンザは通常ほとんど後遺症なく回復しますが、新型コロナは後遺症をしばしば残すとされています。
これらはLong COVIDと呼ばれている現象ですが、最近の報告だと、Long COVIDが起こる頻度は、コロナの感染したときの症状の強さにはあまり影響せず(つまり先ほどの図で左よりの点だったとしても後遺症は出うるということです)、しかも一番生じやすい年齢層は30~40代であるというデータも報告されていますDennis A, Wamil M, Kapur S, et al. Multi-organ impairment in low-risk individuals with long COVID. MedRxiv 2020;10.14.20212555
イギリスの国家機関からの報告では、発症から5週間たった後でも息切れが4.6%残っていたとされており、別の調査によっては40%以上も残ると報告されている論文もあります。
この中には肺炎がなくても息切れの後遺症が残る人が数多くおり、肺の血管内に非常に小さい血栓が作られることが原因となりうることが示唆されていますHarry Crook, Sanara Raza, Joseph Nowell, Megan Young, Paul Edison Long covid-mechanisms, risk factors, and managementNEW BMJ. 2021 Jul 26;374:n1648. doi: 10.1136/bmj.n1648.
これを証明するように、罹患から60日経った人の21%で胸痛がみられこれらの中には心筋がダメージを受けることで上昇する「トロポニン値」が上昇している例が少なからず見られ、こちらも小さな血栓症による心筋炎が原因の一つではないかと考えられています。
若いスポーツ選手など、極めて健常な人も例外にはなっていないとのことで、新型コロナ後遺症の怖さを示しています。

先ほどのイギリスの報告では、その他にも感染5週後に残る慢性疲労が11.9%、頭痛が10.1%、味覚嗅覚障害が8.2%などと報告されています。
また頭に霧がかかったようになり思考力、意欲が低下する「ブレインフォグ:脳の霧」や、うつ状態、認知機能低下など、認知面でもさまざまな後遺症が問題となっており、海外では現在これらの治療の治験が行われているところです。

このようなことは、今のインフルエンザや他の風邪には決して起こらないことです。

私は現在、中等症以上の患者さんの治療はしていませんが、定期的に総合病院の呼吸器内科に勤務されている先生方から逐一現況をお伺いしています。
また、呼吸器科を主としたプライマリケア医として発熱、呼吸器外来は積極的に行い、新型コロナ診断の入り口は担っています。

そのため、おぼろげながらも新型コロナ診療の全体像は見ているつもりですが、やはりその立場から見ても、とてもとても「コロナは風邪!」とは言えないかな、というのが私の実感です。

そしてここで、ワクチンの意義について考えてみます。

ワクチンはこの点を左よりにすることができるツールです。
そして、95%の発症抑制効果により、Long COVIDのリスクも減らせる可能性があります。

一方、新しいワクチンであり、長期的な安全性については確かにまだわからない点も多いです。
それを恐れてワクチンを避けるのは、それも選択の一つとして否定されるべきものではありません。

ただ、コロナにかかった場合の長期的な経過もわかりませんし、コロナにかかると上に挙げたようないろいろな不都合が起こることは、もうすでにわかっています。
ワクチンによる血栓症も確かにありうることですし恐れるべきですが、コロナにかかることによる血栓症の発症の方がはるかに可能性としては高いわけです。

また今後外来で使える治療薬が出たとしても、その有効性、安全性はワクチンと同様、これから検討されるものになります(ワクチンだけが危なくて、治療薬が絶対安全ということはないのです)。
治療薬はコロナ制圧の大事なツールになり得ますが、まだその威力は未知数です。

世界で2億人以上が感染してしまい、まだまだ収まらない現状を考えると、おそらく少なくとも今後数年は、コロナがなくなることはないと思われます。
ワクチンを接種しない場合、その数年の間に一度はコロナにかかる可能性は非常に高いと思われます。

すると、ワクチンを打つべきがどうかという問いは、「ワクチンを打った時のデメリット」「ワクチンを打たなかったときのデメリット=ワクチンなしでコロナにかかることのデメリットという視点で考えると、答えが出やすくなるのかもしれません。
私は個人的にはこの比較でワクチンを打った方がいいと思っている側の人間ですが、この比較をした結果、ワクチンを打たないと決めたのであればそれも間違いではないとは思います。
が、ただしその場合は正しい感染対策を今後しっかりと継続する必要があることは知っておいていただきたいと思います。

そして、ワクチンを打つ!と決めたら、この前のブログでもお話しした通り、「打てる時に打てる物を打つ」という姿勢で接種に臨んでいただければと思います。

そのためにも当院は一人でも多くの希望される方のワクチン接種を行いたいと思っています。
ワクチンが入ってくれば、いつでも準備はできています!
1日も早く、1本でも多くワクチンが届くことを、切に願っています。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

前へ 前へ

SEARCH

ARCHIVE