医師ブログ

2025.06.21更新

ついこの前まで寒さが和らいだと思ったら、急に真夏になってしまいました・・・
連日熱中症になりそうな猛暑が続いており、カラダのバランスを崩してしまう方が後を絶ちません。
この時期運動をする際は、是非とも熱中症には気を付けてほしいと思います。

と同時に、実はこの時期の運動は、熱中症だけではなく、喘息など呼吸器のトラブルが起こりやすいことはあまり知られていません。

実はこの時期、「地上オゾン」や「PM2.5」と呼ばれる大気汚染物質が増えやすい季節なのです。これらの物質が呼吸器に細かいトラブルを引き起こすことがあるのです。

季節外れのクソ暑い今回は、「暑い夏に運動することによる“呼吸器”のトラブルとその対策」について、触れてみようかと思います。


「地上オゾン」って何?

そもそもまず、「地上オゾン」とは何でしょうか?

オゾンというと、上空の成層圏にある「紫外線をさえぎる層」を思い浮かべる人もいますが、地上近くでできる「地上オゾン」は、成層圏オゾンとは別物です。

「地上オゾン」とは別名「悪玉オゾン」とも言われ、自動車の排ガスや工場から出る「窒素酸化物(NOx)」と、塗料や溶剤、ガソリンなどに含まれる「揮発性有機化合物(VOC)」が、太陽の強い紫外線を浴びて化学反応を起こすことで作られる気体です。


夏は「オゾン」が溜まりやすい

夏は紫外線が強く、日射時間も長いため、これらの化学反応が起きやすくなります。また温度も高くなると、化学反応の速度も上がってしまい、結果としてオゾンがたくさん発生します。

加えて、気温が高いと大気がよどみやすく、風が弱い日が続くと汚れた空気が山や海を越えて流れることができなくなり、そのまま街中にとどまって濃度がさらに上がります。


オゾンはカラダを傷つける・・・

「オゾン層」は、環境破壊によって地球上から減っていることはよく知られています。
ですので「オゾン」というと、いかにもキレイな気体を想像してしまいます。

でも実は「オゾン」は強い酸化作用を持ち、細胞を傷つけてしまうため、高濃度の状態で私たちの周りにあると、実は恐ろしい物質なのです。

「オゾン」を吸って気道に取り込んでしまうと、私たちの気道の内側にある粘膜の細胞に小さな傷をつけます。
細胞膜には「脂質」が含まれているのですが、脂質がオゾンと結びつくと、脂質が酸化される(錆びついてしまうような感じです)のに加えて、「活性酸素」という物質を作り出します。

「活性酸素」は他の物質を強く酸化させる作用を持っています。
そのため、体内にできた「活性酸素」は、いろいろな細胞成分を酸化させることで細胞を傷つけ、炎症を起こします。
炎症が起きると、体は炎症をくい止めようとして白血球を集め、「サイトカイン」という伝達物質を出します。
気道の細胞は「活性酸素」によって炎症が起き、気道のむくみや痛み、咳、息苦しさの原因となってしまうのです。

 

では、「PM2.5」とは?

次に「PM2.5」について触れてみましょう。

PM2.5は直径2.5μm以下、髪の毛の太さの約30分の1ほどの微粒子です。
その非常に小さい大きさ故、鼻やのどを通り抜け、肺の奥深くにある「肺胞」まで到達してしまう特徴を持っています。


「PM2.5」が夏に増える理由

PM2.5には、工場の排煙や自動車の排気ガスから直接出る「一次粒子」と、大気中のガス(先ほど出てきた「窒素酸化物(NOx)」や「揮発性有機化合物(VOC)」など)が光化学反応など酸化されて粒子に変化した「二次粒子」があります。

このうち、夏の高温、高湿度に加え、紫外線が強い環境では、「二次粒子」への変化が起きやすい環境で、他の季節と比べて「二次粒子」が多くなる傾向があります。


また昼間は車の排気ガスや工場からの排出などでPM2.5が活発に作られますが、高気圧に覆われやすい夏の昼間は風が弱いことが多く、作られたPM2.5が拡散しないでその場にとどまりやすくなることが多くなる傾向にあります。

また、中国大陸で発生した工業排出物を含んだ「一次粒子」であるPM2.5が、偏西風に乗って日本にも飛んできます(日本ではこちらの方が有名ですね)。
主に春に飛んでくるのが有名ですが、工業排出物に由来するPM2.5は、実は1年中飛来しており、夏にも多く飛んでくることがあるのです(黄砂に由来するPM2.5は、春以外はあまり飛んでこないようです)。

加えて、雨が少ない日が続いたり、暑さで地表が乾燥しやすくなると、地上のホコリや花粉などが舞い上がる現象も起こり、これらからPM2.5が作られてしまうこともあります。


「PM2.5」が引き起こすカラダの炎症

ではこれらのPM2.5を吸い込んでしまうとどうなるのでしょうか?
先ほどお話ししたように、PM2.5は非常に小さな微粒子で、一旦吸い込むと気管支の奥深くにある「肺胞」まで届いてしまいます。

「肺胞」は、酸素と二酸化炭素を交換する「肺の主役」ともいえる場所ですが、そこにPM2.5が沈着すると、体は「異物が入った!」と判断して、肺胞の周りに白血球やマクロファージ(掃除をする細胞)をたくさん集めます。

これが続くと肺胞に炎症が起き、正常なガス交換が妨げられ、息切れや呼吸のしづらさを生じます。

また、PM2.5には微量の重金属や化学物質がくっついていることがあり、これらが肺胞に到達した後に溶け出すと、全身に炎症が広がり、疲れや頭痛、アレルギー症状の悪化を招くこともあります。


「夏の運動」は汚染物質を吸いやすい状況!

こうした反応は、たとえ持病がない健康な若い人でも、長時間または繰り返し汚染物質を吸い込めば起こりえます。
特に運動中は呼吸が速く深くなるため、通常よりたくさんの空気を肺に取り込むことで、オゾンやPM2.5の濃度が高い状況ではダイレクトに影響を受けやすくなるのです。


じゃあ、どうすればいい?

夏場はもちろん「熱中症」に気を付けなければなりません。
しかしこのような「オゾン」や「PM2.5」などの大気汚染物質も、実は夏場には気を付けなければならない、手ごわい敵なのです。

では夏に活動する際、私たちは、何をどのように気を付けたらよいのでしょうか?


大気汚染情報をこまめに確認する

環境省が提供する「そらまめくん」(大気汚染物質広域監視システム)で、地上オゾンとPM2.5の1時間ごとの濃度をチェックしましょう。
最近は(主に海外系の)気象系アプリでも大気汚染情報が提供されていることがあるので、こちらを活用することも有用かと思います。

光化学スモッグ注意報が出ているときは、運動を控えるか、時間帯を変えましょう。


朝か夕方に運動時間をずらそう

地上オゾンは日射が強い正午~午後3時頃に高くなるので、午前5~7時、または午後5時以降の涼しく、かつ紫外線が弱まった時間帯に体を動かすとリスクを減らせます(もちろん熱中症を防ぐにも重要です)。

PM2.5は交通量の多い朝夕のラッシュ時間にも増えやすいので、症状が出やすい方はこの時間を避けたほうが良いでしょう。


運動後のケアで呼吸器を守る!

帰宅後はすぐにうがいや鼻うがいをして、気道に残った微粒子を洗い流しましょう。
食事では、ビタミンCやEを含む野菜・果物、ナッツ類を積極的に取り入れ、体内の酸化ストレスを減らすことも有効です。


大気汚染物質に気を付けて快適な活動を!

地上オゾンもPM2.5も、目には見えないのですが、呼吸器に影響を与え、炎症を引き起こすことがあります。

特に夏は紫外線の強さや大気の停滞、黄砂飛来などの影響で、他の季節よりリスクが高まる時期です。


この時期は熱中症だけでなく、「空気の質」にも気を配り、安全で快適な夏のアクティビティを楽しみましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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