医師ブログ

2024.12.15更新

前回はこちら!
2024.11.21 妊娠と喘息について その1 ~妊娠しているときに喘息が悪化すると、何が起こる?~


少し前回から時間が空いちゃいましたね・・・
前回は「妊娠した方が喘息をしっかり治療することの大事さ」のお話をしました。

喘息の方は、妊娠すると約1/3の方が悪化してしまいます。
また1/3の方は症状の変化がないと言われており、多くの方が喘息悪化のリスクをかかえながらお腹の赤ちゃんを育てることとなります。

喘息は一見落ち着いていてても、感染症や気候、環境の変化などで急激に悪化してしまう、やっかいな病気の一つです。

そのため、急な環境の変化に対しても持ちこたえられるように、喘息をずっと治療しつづけることが大事なのです。

でも、やっぱり妊娠中の薬って不安・・・

妊娠不安

 

しかし、やはり薬がおなかの赤ちゃんに与える影響を心配される方が多く、少なくない方が、その心配から吸入などの喘息治療薬を止めてしまっています。

ただ、薬を止めてしまうことで、この前もお話ししたように、急な喘息の悪化をきたす可能性が上がってしまいます・・・
すると、お母さんの血液から酸素をもらっている赤ちゃんは酸素をもらいにくくなり、赤ちゃんの低酸素のリスクが上がってしまいますし、それ以外にも様々な悪影響が生じ、妊娠に大きな問題が出てしまう可能性がグッと上がってしまうのでした。

使うも不安、使わないも不安・・・いったいどうしたらいいのでしょう??


妊婦さんへの薬の安全性って、どう考えたらいいんだろう?

妊娠の時に使える薬って、「これなら絶対大丈夫!」と証明された薬は本来ほとんどありません。

本来、薬の安全性評価をする場合は、あらかじめ被験者を集めたうえで、他の城乾をなるべく均一にしたうえで、その薬と偽薬(プラセボ)を患者さん、医師両方が分からない状態で投与し、副作用のデータを取って判断をします。
しかし、潜在的にどんな副作用が起こるかわからない薬を、妊娠中の方を集めて投与して、流産や奇形が増えるかデータを集めるなんて、絶対に許されませんよね。

妊婦さんに対してそのような試験は、倫理的にやることができないのです。


しかも、妊娠というのは、必ずしもすべてのケースで正常に進むというわけではありません。

薬を使わなくても、残念ながら一定の確率で流産、早産などを起こしたり、赤ちゃんに障害や病気発症などのトラブルが起こってしまいます。

ですので、薬を使ったときに異常が起きた場合、それが薬のせいだったかは、厳密にはわかりません。

「やむを得ず妊娠中に薬を使った妊婦さんと、使わなかった妊婦さんとで、結果的に結果に差が出たかどうか」で比較するしかなく、データとしてはどうしても不十分になってしまうのです(この比較方法だと、その薬を使った背景、例えばそもそも喘息があるかどうかというのも、結果に影響するかもしれませんし、薬を使ったかどうか以外の条件がバラバラなのでデータとしての信頼度は低くなってしまうのです)。

ですので、「妊娠に対して安全とは言い切れるというデータがある薬は、ほとんど存在しない」というのは、事実です・・・

 

しかし一方、通常使用する喘息の薬で「妊婦や赤ちゃんに明らかに有害である」と証明された薬はありません。

そして「吸入をやめると妊娠に危険が及ぶ」というのもまた、事実です。

ですので、限られた情報の中では、妊娠中に薬を使うかどうかは、薬を使ったときと使わなかった時の、「デメリット」で比較をした方が判断をしやすいのです(薬を使った方がいいの?使わない方がいいの?という「メリット」で比較すると、よくわからなくなってしまうのです)。

ではそれを踏まえて、喘息の妊婦さんはどの様な治療をすればいいのか、次から具体的にみていきましょう。


まずは吸入薬の種類をおさらい!

まずは喘息治療の総本山、吸入薬です。
喘息の薬でどのようなものがあるのか、今ではかなり種類も分類も複雑になってきたので、まずは以下の表で整理してみましょう。

 喘息吸入薬

基本的には、毎日使う吸入は「吸入ステロイド」「長期間作用型β2刺激薬」「抗コリン薬」とこれらの組み合わせ、悪化した時に使うのが「短時間作用型β2刺激薬」というカテゴリーになっています。


いちばんデータが多いのは「パルミコート」

それではまず「吸入ステロイド」についてみていきましょう。

まずはブデソニドです。

ブデソニド
ブデソニドは、単体では「パルミコート」という吸入薬に含まれており、妊娠中の使用データが最も多く、比較的安全性が高いとされています。
また、β2刺激薬との合剤として「シムビコート」「ビレーズトリ」にも使われています(ですのでこちらはステロイドのデータは多いのですが、β2刺激薬、抗コリン薬のデータがやや少なくなります。あとでまたお話しします)

動物実験ではリスクがないことが示されており、人でも先ほど書いたように十分なデータは取れないものの、特に問題を生じたデータもありません。
スウェーデンの医薬品登録データによる比較的大規模なデータでも、赤ちゃんの先天異常が発生するリスク増加は認められなかったと報告されています。

そのため、国際的な喘息治療ガイドライン(GINA)でも、妊娠中の吸入ステロイドとして優先的に推奨されています。

ただ薬の強さとしてはややマイルドで、喘息の症状によっては症状を抑えきれずに悪化させてしまう可能性もあります。


他のステロイド剤も基本的には大丈夫

次にその他の吸入ステロイドです。
吸入ステロイド
フルチカゾン(商品名「フルタイド」「アニュイティ」)、モメタゾン(商品名「アズマネックス」)、ベクロメタゾン(商品名「キュバール」)、シクレソニド(商品名「オルベスコ」)は、いずれもブデソニドほどデータが多くないのが実情ですが、現時点で明らかな先天異常や胎児発育へ、重大な影響を示すデータはありません。

また、これらの薬剤は、他の以下のクラスと合わさった「合剤」としても多く使われています(フルチカゾン・・・「アドエア」「フルティフォーム」「レルベア」「テリルジー」、モメタゾン・・・「アテキュラ」「エナジア」


動物実験では、これらのステロイド薬を「大量」に投与すると、動物に有害事象が起こったとの報告がありますが、通常人が喘息に使う量では、妊婦や赤ちゃんへの大きなリスク増加は示されていません。

先ほどお話ししたようにパルミコートが確かにいちばんデータは多いのですが、パルミコートの作用がやや弱く治療が不足する可能性があるため、そのような場合は、これらのより強い他のステロイド吸入薬を使用したほうが、総合的にリスクを減らせると判断できる場合も少なからずあるのです。

いずれにせよ、吸入ステロイドは全体的に安全性を示すデータが多く、できる限り薬を続けたほうがいいとされる薬剤と言えます。


吸入薬のもう一つの柱、β2刺激薬について

では次に、長時間作用性β2刺激薬です。
LABA
これらはサルメテロール、ホルモテロール、ビランテロール、インダカテロールが当てはまり、それぞれ以下の薬剤に含まれています。

サルメテロール・・・「アドエア」
ホルモテロール・・・「シムビコート」「フルティフォーム」「ビレーズトリ」
ビランテロール・・・「レルベア」「テリルジー」
インダカテロール・・・「アテキュラ」「エナジア」

これらの薬は、ほとんどが先ほど触れた「吸入ステロイド」との合剤として使われています。

ですので、妊娠中に単独で使ったときのデータはあまりないのですが、吸入ステロイドと併用して長期的に使用されたことで得られた多くのデータからは明らかな赤ちゃんの先天異常増加や、妊婦の有害事象のリスクの増加は認められていません。

特にサルメテロールホルモテロール(「アドエア」「シムビコート」「フルティフォーム」「ビレーズトリ」は、比較的古くから使用されており、その長い期間のなかでも大きな問題は報告されていませんので、必要な状態なら吸入ステロイドと同様、しっかりと続けた方がいい薬剤です。

一方、ビランテロールインダカテロール(「レルベア」「テリルジー」「アテキュラ」「エナジア」比較的最近になって出てきた薬であり、サルメテロールやホルモテロールほどデータが多くないという点があります。
ただ、いずれにしてもこちらも「危険性が高い」というデータは出ていません。


やや治療の難しい喘息に使われる薬「抗コリン薬」は?

次に抗コリン薬です。
LAMA
こちらはチオトロピウム「スピリーバ」「スピオルト」に含まれます)、ウメクリジニウム「テリルジー」に含まれます)、グリコプロニウム「エナジア」「ビレーズトリ」に含まれます)という薬剤になり、これらはここ数年で喘息治療に登場した薬ですので、正直あまりデータは多くありません。

動物実験では、大量投与で何らかの副作用が報告されたことはありますが、人における普通の使用量で、明らかに赤ちゃんへの奇形や、流産のリスクが上昇したというデータは確認されていません。

どうしても必要な場合はもちろん継続をすべきなのですが、安全性のデータがまだまだ足りないことから、喘息で安定していた時は、一度お休みを考えてもいい薬剤と言えるかもしれません。


とはいえ、このクラスの薬を使用するような喘息とは、気道の炎症が非常に強い状態でもあるとも言えるので、勝手に吸入を止めてしまったり、リスクが高い状態で吸入を休んでしまったりすることで、喘息の悪化というより大きなデメリットを生んでしまう可能性があります。


やはり喘息に詳しい医師に相談すべき薬剤だと言えます。


発作止めは基本的に大丈夫!

最後に発作治療薬である「短時間作用型β2刺激薬」であるサルブタモール(商品名「サルタノール」)と、プロカテロール(商品名「メプチン」)です。
SABA

これらの薬は、基本的に喘息の調子が悪くなった時に使います。

その為、これ以上悪くならないために緊急的に使用される位置づけの薬であり、薬の使用をためらってはいけません。

サルブタモール(「サルタノール」は、以前より世界で長く使われている薬剤であり、多くの妊娠時の使用データは非常に多く、先天異常や流産リスクの大きな増加はないとされています。

一方、プロカテロール(「メプチン」明らかなリスクのデータは示されていませんが、この薬剤は主に日本のみで使用されており、海外のデータが少ない傾向にあります。

サルブタモールより作用が強く、強力に喘息増悪を抑えられる薬ですので、この薬でないとダメという方もいらっしゃいます。
ですので必要な場合はしっかりと使用する必要がありますが、もし落ち着いているのでしたら、サルブタモールに切り替えてもいいかもしれません。


結局、「ダメ」な薬はない!!

以上のように、データの多い少ないはあれど、基本的に「使っちゃダメ」な吸入薬は存在しません。

「喘息が悪くならない」というのも非常に大事な要素ですので、必要な場合は全て使用して差支えはないと思います。

もちろん安定していれば、よりデータの多い、信頼度の高い薬に置き換える必要はあると思いますので、いずれにせよ喘息に詳しい医師としっかり治療方法を話し合うことが大事だと思います。


さて次回は残りの「飲み薬」「貼り薬」など、「吸入薬」以外のものに触れてみようかと思います。

次回作、是非お待ちください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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