医師ブログ

2024.12.21更新

インフルエンザ、とんでもないことになっています・・・

今週、茅ヶ崎市でインフルエンザ流行警報が発令されました。
茅ヶ崎市でも、12月9~15日の1医療機関当たりの患者数が33.91となり、警報発令基準である30を超えました。
2024 茅ヶ崎インフル

茅ヶ崎市保健所管内感染症情報HPより


なお、先週は14.27、その前の週は5.82と、急激な増加傾向となっており、市内の小中学校でも、各所で学級、学年閉鎖されております。

おそらく今年はややインフルエンザワクチンの接種率が低い状況の上に、皆さんが打ち終わる前のタイミングで流行が始まってしまったことが急激な感染増加の原因かと思われます。

そんな状況ですので、当院の発熱・感染症外来のお電話も、もうひっきりなしに鳴っています。

電話
当院では一定の条件を満たしたかかりつけの方に、枠が埋まっている際も体調を崩されたときなど、臨時受診が必要な時に受診をご案内できる「かかりつけ臨時受診制度」を設けています。

しかし、約4000人いる当院かかりつけの方皆さんが一斉に来院されると、今の当院の状況では間違いなくパンクします・・・

当院の秩序を守るためにも、かかりつけでいらっしゃっている当院の患者様のためにも、今後の流行状況によってはインフルエンザワクチンを接種しなかった方(何かしらの理由で接種「できない」方は除きます)は、一時的に臨時受診制度の対象外とさせて頂きます(つまり枠が空いていない時に無理やりぶち込むということができなくなるということです。枠が空いていればもちろんご予約は可能です!)

特に呼吸器系の病気を抱えてらっしゃる方で、接種がまだの方は、お早めに接種をしていただくことをお勧めいたします!



さて、妊娠と喘息治療についての第3弾です。

第1弾、第2弾はこちら!
妊娠と喘息について その1 ~妊娠しているときに喘息が悪化すると、何が起こる?~
妊娠と喘息について その2 ~吸入薬は何をつかったらいい?~

今回は、吸入薬以外のものについて挙げていきましょう。

まずは抗アレルギー薬です。

抗アレルギー薬も、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬などに分かれます。

主に使われるのは前者2つなので、これについて詳しく見ていこうと思います。


ジルテック、クラリチン、アレグラは使いやすい!

主にOTCについてですが、抗ヒスタミン薬についてはこちらのブログで詳しく触れているので、一度読んでみてください。

抗ヒスタミン薬は、現在よく使われる第2世代抗ヒスタミン薬と、その前から使われていた第1世代抗ヒスタミン薬があり、第2世代の方が全体的に眠気、口渇などの副作用が少なめです。

この中で、比較的欧米でのデータが多いのが、セチリジン商品名:「ジルテック」ロラタジン「クラリチン」です。

これらは海外を中心に妊婦への使用データが比較的蓄積されており、催奇形性に関する大きな懸念は示されていません。
実際、世界的にも妊娠中に使用を推奨されることが多い薬剤です。

また、フェキソフェナジン「アレグラ」も比較的欧米でデータが多い薬の一つで、催奇形性を示唆する明確な報告はありません。
ただしやや効果がマイルドであり、人によっては物足りないかもしれません。


ザイザル、デザレックスも多分大丈夫そう・・・

また、レボセチリジン「ザイザル」セチリジン光学異性体(分子構造を左右対称に入れ替えた物質、こちらの方がより作用が強い)と、デスロラタジン「デザレックス」は、ロラタジンの活性代謝物(ロラタジンが肝臓で代謝された結果できた物質で、こちらの方が眠気、効果の持続性で有利です)で、それぞれ元の物質とだいたい同じ挙動をすると言われているので、比較的安全かもしれません(が、どちらも比較的新しい薬ですので、薬そのもののデータは限られます)。


他の抗ヒスタミン薬はデータが少ない・・・

また、オロパタジン(アレロック)、エピナスチン(アレジオン)、ベポタスチン(タリオン)は、日本を含めたアジアで多く使われ欧米でのデータが少ないです。
ビラスチン(ビラノア)、ルパタジン(ルパフィン)はそもそも新しい薬でまだ十分なデータがありません。

また「ディレグラ配合錠」は、フェキソフェナジンアレグラの主成分ですね)に塩酸プソイドエフェドリンという鼻粘膜の血管を収縮させることで鼻粘膜のむくみを取って鼻詰まりを改善させる成分を配合していますが、こちらは一部の報告で先天異常との関連が示唆されたことがありました。
データとしてはごく少ないので、これも十分なデータとは言えませんが、変更できるのならば変更を考えてもいいと思います(ただ婦さんはむしろ鼻づまり、悪くなりやすいんですよね・・・、この薬、鼻づまりにはよく効きますし、慢性的に鼻症状が続くことも喘息の経過に悪影響を及ぼす場合もあるので、一概に使うべきではないともいえない薬です)。


第1世代はデータはあるも副作用が・・・

次に第一世代抗ヒスタミン薬です。

クロルフェニラミン(ポララミン)、ジフェンヒドラミン(レスタミン)などがそれにあたります。

これらは古い薬で、特にクロルフェニラミンは、妊娠初期から比較的長い臨床使用実績があるため、第一世代のなかでも比較的「安全性の高い」薬として位置づけられています。
海外の研究でも、催奇形性のリスク増加との関連は示されていません。

ただどちらにしても、眠気や口渇などが強く出る可能性があり(その副作用が困るので開発されたのが第2世代抗ヒスタミン薬です)、こちらを最初に使うというケースは限られるかと思います。

キプレスはできれば続けたい!

次に、ロイコトリエン受容体拮抗薬です。

こちらはモンテルカスト(キプレス)、プランルカスト(オノン)などが当てはまります。

大体似たような作用を持った薬ですが、モンテルカストの方が比較的症例報告や観察研究のデータは多いようです。
どちらも先天奇形などの有意な増加を示すデータは現時点で十分に確認されていません。

そして、これらの薬はより喘息による気道炎症にダイレクトに影響する薬です。
この薬を中止することで喘息が悪化するケースも少なくありません。
必要な状態であれば、投与継続を考えるべき薬かと思います。

最後にTh2サイトカイン拮抗薬であるスプラタストトシル(アイピーディ)は、評価に用いることのできるデータがほとんどありません。
やめても大丈夫なのであればいったん中止で良いと思います。


ホクナリンテープはちょっと気を付けたい

次によく使われるツロブテロールテープ「ホクナリンテープ」です。

これは吸入編でも紹介した「長期間作用型β2刺激薬」を貼り薬にしたものです。
ただこちらは吸入ではなく、血中に取り込まれて効果を発揮する薬剤のため、多少の違いがあることに注意が必要です。

また、こちらも実は主に日本で使用されている薬剤であり、世界的に見るとデータは非常に少ないです。
動物実験では、高用量のツロブテロールを妊娠動物に投与した場合に胎児に影響したという報告はあるものの、人間に対して通常用量で使用した時にどの程度当てはめられるかはわかりません。

当院では、よほどの理由がない限り、よりエビデンスが多く、血流への流入も少ない吸入薬で投与することにしています(吸入による動悸や震えなどの副作用が非常に強いときに限り、減量して貼り薬にするケースはあります)が、喘息のコントロール状態や代替薬の存在などを主治医の先生と相談しながら続けるかどうかを考えるべき薬かなと思います。


テオフィリンは安全性は高いけど・・・

次にテオフィリン薬(テオドール、テオロングなど)になります。
こちらは現在欧米では喘息に対してほとんど使われなくなっていますが、日本ではまだ使用されることの多い薬剤です(当院では非常に限られたシチュエーションで使用しています)。

テオフィリンそのものには、催奇形性のリスクを明確に増やすという、大規模な研究データは現時点ではありませんが、動物実験で高用量投与で悪影響が見られたとの報告はあります。

ただこの薬の難しいところは、胎盤を通じ、お腹の赤ちゃんに移行しやすいことにあります。
くわえて、適切な治療に使われる「治療域」と呼ばれる薬剤濃度と、有害作用を起こす「中毒域」と呼ばれる薬剤濃度が非常に近いという点もあります。
このように、薬の濃度管理が難しいことで、十分に管理できないと赤ちゃんにも有害作用(頻脈、興奮)を起こす濃度の薬が流れてしまうリスクがあります。

今は適切に吸入薬を選択し、吸入方法などの改善でより高い効果をもたらす工夫をすることで十分にコントロールできる喘息が多いので、本当にテオフィリンが必要なケースは非常に少ないと思います。

しっかりと吸入薬の効能を「活かし切る」ことで、中止を考えても良い薬だと思います。


「生物学的製剤」はデータがないけど・・・

次に、重症喘息に用いられる「生物学的製剤」です。
こちらは現在、5種類の薬が使えますが(詳しくはこちらこちらからどうぞ)、喘息の中で使用している方は非常に少なく、また新しい薬でもあることより、データはほとんどありません。
現在それぞれの薬剤で催奇形性を示唆したデータはなく、明らかな危険性は示されていません。

この薬剤は、重症喘息の方に対して使用する薬であり、重症喘息のコントロールには不可欠です。
喘息悪化のリスクの方がはるかに大きいため、必要なら継続すべきでしょう。

 

「ステロイド」は、必要時には躊躇するな!

最後に飲み薬や点滴など、血中内に直接入れる「全身ステロイド」です(吸入ステロイドではありません)。

基本的に喘息における全身ステロイドは、短期間で使用するケースがほとんどです。
早産や低出生体重児となるリスクがわずかにあがるか、そうでないかという議論がありはしますが、この薬剤は基本的に喘息が非常に悪くなった時に、その炎症を「強制終了」させるために使用されるもので、放置して悪化するとお母さん、赤ちゃんの命そのものに重大な影響及ぼすため、使わないデメリットの方がはるかに大きいです。

どんなことがあろうと、まずは喘息悪化のコントロールが優先される状況ですので、使用を躊躇すべき薬ではありません。


喘息の妊婦さんに、快適なマタニティライフを!

以上、駆け足で妊娠と喘息の治療薬についてお話をしてみました。
いずれにせよ、妊娠時の喘息のコントロールは薬剤を正しい知識で適切に考える必要があること、悪化した時に速やかに適切に対応できるようにすること、喘息そのものが妊娠で変化しやすいために産婦人科の先生との連携も必要となることから、喘息により詳しい専門医にお任せすべきものです。

喘息の方でも、しっかりコントロールすれば、元気な赤ちゃんを産むことはもちろんできます。
妊婦
是非快適なマタニティライフを!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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