あけましておめでとうございます!
昨年は、4月から呼吸器科医師を2人→5人と大増員し、より皆様のお悩みにお応えできるような体制づくりを致しました。
その結果、当初はかなり予約枠にも余裕が出てきましたが、その余裕も月を経るごとに徐々に減っていき・・・
調べてみたら、4月から12月にかけ、1日平均でご来院いただく患者様が30人ほど増えていました。
当院をご愛顧いただき、大変ありがたいと思うと同時に、受診される皆さまには、混雑や予約の取りづらさで再びご迷惑をお掛けしていることをお詫びいたします・・・
それでも、「他院でなかなか良くならなかった咳がようやく良くなった」「何年も苦しんでいた症状から解放された」「こんな重要な治療ポイント、今まで聞いたことがなかった」などと、皆さまからのありがたいお言葉を無数に頂いておりますので、できれば患者様の受診制限は行いたくなく、一人でも多くの困っている方の力になりたいとの思いは今年も変わりありません。
そのため、今年もさらに皆様が受診しやすくなるようにすべく、現在鋭意対策を行っております。
公表できる状態になりましたら順次発表いたしますので、それまでお待ちください!!
インフルエンザ、いよいよピークへ・・・
さて、インフルエンザ、前回ブログよりさらに大変なことになっています・・・
やはり今シーズンは接種率が例年より低かったことに加え、流行開始が早く、多くの方が接種未完了の状態で流行が開始してしまったことから、流行が大規模になり、茅ヶ崎の週当たりの定点インフルエンザ感染者数が76.5に達しました。
10を超えると注意報、30を超えると警報となる基準で70越え・・・
案の定、年末の発熱・感染症外来は、Web予約が連日1分以内に埋まり、電話もなかなか繋がらない状況になってしまいました。
それでもワクチン忌避は少なくない・・・
それでも、インフルエンザのワクチンについて、懐疑的な見方をされる方は少なくありません。
例えば「今までインフルエンザに罹ったことがないから必要ないと思っている」とか、「インフルエンザワクチンを打った時にインフルエンザに罹ったので信用していない」とかというご意見です(陰謀論についてはここでは触れません)。
インフルエンザワクチンについて打つ、打たないはその人の自由ではあるのですが、やはり科学的に正しく考えて頂いたうえで、判断はしていただきたいのです。
そこで、今回は、「インフルエンザワクチン」は、本当に有効なのか、そしてそれはどのような根拠から言えるのかということについてお話してみたいと思います。
色んなところで見る「論文」の危なさ
さて今、週刊誌やYoutube、SNSを見ると、玉石混合の様々な情報が載っています。
それらの情報は、どれも一見すると、筋が通っているように見えます。
しかし、それらの情報もよく見てみると、いわゆる「落とし穴」が多く潜んでいることがわかります。
そして、論文に読み慣れていなければ、それには気づかないようにうまーく隠されていることが多いのです。
つまりこれは、「結論ありき」でデータの「見せ方」を変えて、自分の言いたい結論にもっていこうとしている人が書いているケースがあるということなのです。
まさに(ちょっと言葉はキツいですが・・・)「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」ということです。
ですので、これらのワナに引っかからないようにするには、まず「論文」をどうやって解釈していくか、その基本を知っていなければならないのです(専門的に詳しく知る必要はありませんが、昔と比にならない情報量が日々飛び交って、色んな意見がすぐに耳に入ってくるこの時代、自分を守るためにも最低限の知識は世の中のすべての方が持っておかなければならない時代になってしまったと感じています)。
研究の方法によって信頼度は変わってくる!
さて、論文というのは、以下の順で信頼度が上がっていくというルールがあります。
※なお、これは「エビデンスピラミッド」と呼ばれる図を、私がごくごく簡便にまとめ直したものです。
本来はもう少し細かく分類されますし、その研究の性格によってはあえて信頼度の低い手法の方が結果に近づきやすいことも少なくなく、信頼度が低い=間違った研究であるというわけではないということに留意する必要はあります。
この図について、ピラミッドの下から一つずつ、簡単に説明してみようと思います。
信頼度論外:個人の感想
例:「ワクチンは意味がない、なぜならそんな気がするからだ!」
※これはそもそも論文ではありません。ガン無視してOK!
信頼度レベル6:専門家の意見、症例報告
例:「〇〇大学の△△教授は、この治療法が一番効果があると言っている」
例:「△△という治療を行ったら〇〇病の症状が改善した」
※この「専門家」が、その分野の一般的な「エキスパート」でなければ、信頼度は「論外」に落ちます(SNSや週刊誌では、「その分野のエキスパート」ではなく、「何か意図を持った別の分野の人」が、ただ自分の言いたい意見を述べている「インフルエンサー」にしか過ぎないケースをよく見かけます。つまりこういうのも、ガン無視でOK!)。
また、症例報告は、偶然性や他のバイアスが関わっている可能性も大いに残ります。
ただ同じような症例報告が複数集まってくると、信頼度レベルが4~5まで上がります。
信頼度レベル5:ケースコントロール
病気のある人とない人で、病気になる前には、どんな要因が異なっていたかを後ろ向きに調べる
例:「〇〇病のある人は若いころたばこを吸っていた→だからタバコは〇〇病のリスクになる」
※その要因の他にも、「別の要因があるかもしれない」というバイアスがかかることがあり得ます。
またこの研究は、あくまで病気になった方へのインタビューで成り立つ研究ですので、その人の記憶力があいまいになったり、思い込みが出たりするケースもあり、これが大きなバイアスにつながることがあります。
信頼度レベル4:コホート研究
ある一定の(似たような)属性の人を前向きに追って、一定期間後に病気になったかどうかをみる
例:「□□市の成人を10年追跡して、その中のたばこを吸わなかった人は、吸った人に比べて〇〇病になる確率が△%下がった」
※ケースコントロールは後ろ向きだがコホート研究は前向き。実際にその過程を研究側が追っていける分、ケースコントロールよりはバイアスがかかりにくいのが特徴です。
ただし希少疾患には不向き(長期間追っても、本当に知りたい「病気になる人」はほとんど出てこないから)。
信頼度レベル3:非ランダム化比較試験
治療をする群(治療群)と治療をしない群(対照群)に分けて、その差を見ることで治療の効果を調べる。
ただし、その分け方をランダムに行わず、他の基準で分ける。
例:「ある地域でワクチンを打った学校とそうでない学校で、〇〇病の発症率を比べてワクチンの効果を調べる」
※分け方がランダム化されていないので、背景要因(年齢性別、健康状態、生活習慣、病気に対する姿勢など)の影響を受ける可能性があり、そこで生じるバイアスを正しく処理するしないと間違った結論を導き出してしまう可能性があります。
信頼度レベル2:ランダム化比較試験
ある集団を集めて、それぞれをランダムに治療をする群(治療群)と治療をしない群(対照群)に分けて、その差を見ることで治療の効果を調べる。
例:「ワクチンを打つ群と打たない群に分けて、その感染率や重症化率を調べる」
※患者が自分が治療群と対照群どっちかに入っているのかがわからないのが盲検、医療者もわからないのが二重盲検。
この順番にバイアスは入りづらくなるので、より信頼度は上がります。
信頼度レベル1:システマティックレビュー、メタ解析
質の高い研究を世界中から集めて、データを大きくして解析しなおしたもの。
「システマティックレビュー」は全体の傾向を出し、「メタ解析」はそれを数値化します。
例:「ある抗がん剤〇〇薬が効くかどうか、世界中の研究から質の高い研究10本を選んで、その結論を割り出す」
この研究方法が問答無用、一番信頼度の高い研究となるわけです。
「ゴールポスト」は動かさない!
そして、ここがデータを読むのに一番重要なところです。
研究はあくまで、最初にルール(何を調べる予定か、こうなったら感染、こうなったら重症化という定義)をあらかじめ決めておくことが超大事です。
そして、そのルール通りに研究を行って、はじめに設定した結論に達したか否かを判定するようにするのです。
調査が終了した後に、最初に決めた結論と別の結論を出そうとさかのぼってデータを解釈しなおす行為は、基本ダメです。
(上での落とし穴の件でお話したように)意図した結果を出したいがために、出された数字に都合の良い解釈を入れてしまうことができるからです。
もちろん調査の結果から、何か別の結論が見えてきそうになることもありますが、その場合はその結論が出るかどうかでデザインし直した、再度の調査が必要です。
インフルワクチンは、質の高い情報で感染予防のデータあり!
さて、インフルエンザワクチンの結果では、「ランダム化比較試験を主体にメタ解析」した、信頼度レベル1の(つまり信頼度最高の)論文があります。Efficacy and effectiveness of influenza vaccines: a systematic review and meta-analysis: Lancet Infect Dis. 2012 Jan;12(1):36-44.
ここでは、過去の5700本以上の論文から31本の論文を厳選して、そのデータをまとめて解析し直したもので、「成人ではワクチンを作った株(つまりシーズン前に流行ると予想した株)と、実際の流行株が一致しているシーズンでは、ワクチンを接種することで感染リスクが59%下がることがわかりました。
高齢者では、主にコホート研究の「メタ解析」になり(こちらも「メタ解析」をしているので、信頼度レベルは1~2相当まで上がります)、こちらは60%以上の感染予防効果がありましたが、ランダム化比較試験ではないので、解釈に多少幅はあるかもしれません。
一方、ケースコントロールの「メタ解析」にはなりますが、(おおよそ信頼度レベル3に相当します)重症化予防効果(入院を予防する効果)について、18~65歳の方の予防率は51%、65歳以上の方で37%とのデータが出ていますEffectiveness of influenza vaccines in preventing severe influenza illness among adults: A systematic review and meta-analysis of test-negative design case-control stud18~65歳の方の予防率は51%ies: J Infect. 2017 Nov;75(5):381-394.
そして、これらの結果は、ワクチンの株と流行株が一致しているかどうかで大きく変わる、とのことでした。
今年のワクチンは、今のところ「当たり」!
さて、今年流行っている株はH1N1 pdm09という株で、2009年の新型インフルパンデミックの時に初登場した株です。
この株は感染力が強く、症状も比較的強めにでるといわれています。
今年のインフルエンザワクチンは、しっかりこの株に対応したワクチンになっています。
ということで、インフルエンザワクチンの効果は、信頼できるデータでしっかりと示すことができるのです!(決して陰謀論でも、都市伝説でもありません・・・)
もちろんワクチンは「100%防ぐ訳」ではないけれど・・・
もちろん、ワクチンは、インフルエンザ感染のすべてを予防するわけではありません。
数字上は半分弱の感染リスクは残るわけですし、今年流行っているH1N1 pdm09は、より感染力が高いと言われていますので、ご家族や親しい友達、同僚などが近くにいれば、防ぎきれないこともあるでしょう。
ただ、特に、喘息やCOPDなど、呼吸器系の病気を持っている方は、かかった時の被害の大きさが変わる可能性が高いです(これを具体的に示すデータはありませんが、感染予防効果、重症化予防効果の確かなデータから予想は立てられること、また私の長年の実感からそう考えています。確かに「信頼度レベル6」のエビデンスにはなるのですが・・・それも皆さんが私を「専門家」に入れて頂ければですが・・・)
ワクチンは、感染そのものを防ぐ事より、感染後の症状悪化(特に喘息などの悪化)の効果の方が大事と考えて頂きたいのです。
実際当院でも、感染したものの10〜11月に接種を完了しており、「助かった」とおっしゃっている患者さんが非常に多くいらっしゃいます。
呼吸器疾患の方は1月でもまだ間に合う!ぜひ接種を!
11月までは接種ご希望がなかった方でも、流行が始まった12月以降、改めてご希望いただく方が増えてきました。
当院ではなるべく皆様に接種機会を提供すべく、入荷があるうちは接種を受け付けようと思っております。
かかりつけの方に関しては、受診当日の接種はご予約なしで可能です。
また比較的ワクチン在庫数、予約枠ともにまだ余裕がありますので、特にかかりつけの方でなくても、当日お越し頂ければ接種は可能です(希望の方が急激に増えたら変更があるかもしれません)。
今からでもまだ意味はあります!
呼吸器疾患をお持ちの方は、ぜひお早目の接種をご検討ください!
(さいごに。ワクチンを打った自治体と打っていない自治体で感染率が変わらなかったためにワクチンの効果が乏しいとの結論を導き出した、本邦の30年位以上前の非ランダム化比較試験(信頼度レベル3)の論文がありますが、こちらはそもそもインフルエンザを診断できなかった時代の論文で、休んだり熱を出したりしたことをインフルエンザ発症とみなさざるを得ず、結果の正確性に乏しかったこと(時代的にしょうがないですけどね)、それにデータの抽出方法に恣意的な点が否定できずに適切とは言えなかったこと(こっちは問題です)など、様々な問題点を指摘され、現在ではその信頼度はかなり低いと見なされるようになりました(実はこの論文の生データを読み込むと、むしろワクチンの有効性が言えちゃいそうですらいます・・・)。にもかかわらず週刊誌やSNSでは、恣意的な結論を導き出したい論者によって、未だに多く引用されているようですので、くれぐれもご注意ください。)