医師ブログ

2023.09.23更新

これがウィズコロナなのでしょうか?

もう7月からずーっと発熱・感染症外来が朝からすぐにご予約で埋まっている状態で、3か月経った今でも全く減る兆しが見えません。
またニュースでもご覧になった方も少なくないと思いますが、インフルエンザも9月上旬から陽性者が出始めており、下旬になり急増しております。

今は発熱・感染症外来に来られる方のおおよそ5~6割がコロナ陽性2~3割がインフルエンザ陽性といった印象です。


そんな中、先日から秋のコロナワクチン接種が始まりました。
当院でも9月25日から接種を開始します(インフルエンザ接種も同時に開始します!)。

今回のワクチンは、今までの「BA4.5株」対応ワクチンから、「XBB.1.5株」対応ワクチンにアップデートされることになりました。

また訳わかんない文字列の誕生ですね・・・


XBB株は、コロナウイルスのオミクロン株の一種です。

2022年の夏ごろに出現したと考えられていて、9月ごろにインドを中心に流行したことで世界中に広まりました。
その「祖先」のBA2.75株(さらにその前がBA2株で、BA4、BA5はBA2から別方向に派生した株です)と比べて、感染力や免疫逃避力が強くなっているとされている株です。
Nat. Commun. 14: Article number: 2800 (2023) DOI: 10.1038/s41467-023-38435-3

その後最近まで、そのXBB株が主流を占めていましたが、そこからまた派生しやがったEG.5株(いわゆる「エリス」と言われている株ですね)に現在は徐々におきかわりつつあります。

コロナ系統

という訳で、今回のワクチンの元になったXBB株は、つい最近まで主役を張っていた株ということになります。
またその派生株であるEG.5(エリス)株とも非常に距離が近く、その構造も似ているとされ、今回のXBB株対応ワクチンは理論上効果が期待できるはずです。


当院は、高齢者の方と呼吸器系の病気を持っておられる方が多く、当院にかかられている方はワクチン接種の意向が強いかなと感じます。

とはいえ、世間的にはかなり興味が失われつつあるコロナワクチン、やはり打った方がいいのでしょうか?


2023年5月にアメリカから、コロナワクチン接種とオミクロン株での重症化の関係を見たデータが出ました。

アメリカの退役軍人会に属する18歳以上の、2022年1~6月(オミクロン株流行期)にコロナウイルスに感染した約18万人のデータです。
mRNAワクチン接種を2回した人は、ワクチンをしていない人に比べて、入院となった割合が40%、人工呼吸器が必要となった割合が41%、そして死亡する割合が57%減っていたことが分かりました。
また3回接種の人2回接種の人を比較すると、3接種の人は、2回接種の人に比べて、入院となった割合がさらに35%、人工呼吸器が必要となった割合がさらに30%、そして死亡する割合がさらに49%減っていたことも分かりました。
そして、3回接種をした人の中では、最後のワクチン接種から3ヵ月以上経っていた人は、3か月以下の人よりも30%死亡率が高かったこともわかりました。BMJ (Clinical research ed.). 2023 May 23;381;e074521. doi: 10.1136/bmj-2022-074521.

やはりデータ上も、このオミクロン株に対して、ワクチンを接種することの意義はありそうです。

また、私は今でも総合病院の呼吸器内科(つまり入院された方を診察する)の先生と情報交換をする機会が少なくないのですが、先生方によると、この夏に病院では、明らかにコロナ肺炎、呼吸不全の人が増えて、エクモ(ECMO:人工肺と人工ポンプを用いて、血液を体外に送り酸素を体内に供給する治療、つまり肺がどうにも使い物にならなくなった時に機械で時間を稼ぎ、治療により肺の回復を待つ治療法です)導入にまで至ってしまう方、そして治療の甲斐なく命を落とされてしまう方も何名かいらっしゃったようです。

その光景は2年前のデルタ株流行の時とほぼ変わらない、と。

ただ、デルタの時との違いもあります。
このような不幸な経過をたどってしまった方には共通点があり、それはやはりワクチンを全く打ったことのない、もしくは2回で終了してしまっており、最後のワクチン接種から長く時間が経過してしまった、それも高齢の方がほとんどだったとのことでした。

一方、若い方でこのような肺炎に至ってしまう方は、ワクチン未接種でもそれほどはいらっしゃらなかったということです。
ただ再び当院に目を転じると、当院を受診される、コロナ感染後の長期的な後遺症(咳、だるさ、頭が働かないなど)が圧倒的にデルタの時より増えています。
そして、これらの症状でお悩みの方は、ワクチンを全く打っていなかったり、最後のワクチン接種から1年以上経過している方がやはり多い印象です
(もちろんワクチンを打たれている方も長引く咳でいらっしゃる方は少なくないです。しかしそのような方は実は喘息や鼻炎など、他の要因が大きく治療で改善したり、コロナによる直接の症状出ったとしてもわりと早めに良くなられて、長期後遺症の範疇には入らなかった方が多かったかなと思います)。


もちろん、ワクチンによって後遺症をきたしてしまった方がいらっしゃることも事実です。

実際当院にも時々ワクチンの後遺症で相談される方はいらっしゃいますし、かかりつけの方でもワクチン接種後体調がすぐれなくなった方もいらっしゃいます。

副反応が強く出て、2~3日寝込んでしまった方などを含めると、コロナワクチンでネガティブな経験をされた方は少なくありません。


ですので、コロナワクチンを打つべきかどうか、絶対的な正解はありません。
どちらにも、一定の「可能性」は、秘めています。

でも、決めなければいけません。

私は、ワクチンを打った時、そして打たなかった時の「デメリット」を比較すると決めやすいのかな、と思います。
つまり、ワクチンを打った時のデメリットは「副反応」や「ワクチン後遺症」などワクチンを打たなかった時のデメリットは「重症化」や「コロナ後遺症」などということになります。
それを比較して、どちらをより避けたいと思うかで考えると良いのではと考えています。

コロナが騒がれなくなって、メディアでも話題にも上りにくくなった昨今、ワクチンを打たないことによるデメリットは、今までよりもより見えにくくなったのかもしれません。

しかし、少なくても一般の方よりはいろいろなことを見聞きしている、私達のような立場からみると、ワクチンをずっと打たないことのデメリットは、決して軽視できないよなあ、と感じてしまいます。

もちろん自らがワクチンを打ったことによるデメリットを経験してしまった方、それに身近にそのような方がいらっしゃった方は、そのネガティブな心を乗り越えてまで打った方がいいとは思いません(それはそれで悪影響が出る気もします)

ただ巷には、信頼度の低い知識や噂レベルの情報、そしてあえて流されるフェイクニュースが、悪意、時には善意をももとに広がり、そこに更にいろいろな尾ひれがついて、世の中を跋扈しています。

ワクチンをするしないはもちろん皆さんの自由なのですが、その根拠となる情報源にはくれぐれも注意を払っていただきたい、というのが私からのお願いです。


世の中からはだいぶマスクをしている方が減りました。
今回これだけ長い期間コロナ、そしてインフルが流行り続けているのは、多くの方がマスクを取り、大勢で集まり、楽しく過ごしていることも原因でしょう。

でも今の時代、私はそれが悪いとは思いません。
人間が人間らしい社会生活を取り戻すことも大事です(ぶっちゃけ、私も人との距離が近づくところ以外では、例え室内でもマスクは外しています)。
このような世の中では、どれだけ気を付けていても、コロナもインフルもかかるときにはかかります。

これらに対峙するための武器を得た今、かかったときに大ごとにならないようにする、そのための対策を打てる人から打つ。
それがアフターコロナ、ウィズコロナの正しい形なのかなと思っています。


国の方針ではおそらく今回が公費で、つまり無料で打てる最後のコロナワクチンです。

ワクチンを打てる方だけで結構です。打てる方は、今回は是非前向きにワクチン接種を考えていただきたいなと思っています!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.08.29更新

前回お話しした、私が当院に来てから”9か月ぶり通算9回目”の工事が終了しました。

今回は待合室を中心にリニューアルを行いました。

一番の変化は壁の木目から白への色変更で、より明るい雰囲気で、居心地の良い空間と感じていただくようにすることが目的でした。
前回の、壁をぶち抜くなどの大胆なリフォームではありませんが、11日間かけて、結構な大工事となりました。

しかし・・・

前回改装後は「とても明るくなりましたね!」「別のクリニックみたいですね!」との声を多くいただいたのですが、今回はそのようなお声がめちゃくちゃ少ない・・・

長年当院に通い続けてくれているある患者さんからは「で、どこ工事したの?」といわれる始末。

・・・まあそれだけ今までの当院の待合室の雰囲気も自然と馴染んでいた、ということだったんでしょう。

そんな新たな壁には、いくつかリーフパネルを飾ってみて、もう少しインパクトを出してみようかと思います(べっ、別にみんなに「キレイになったね」って言って欲しいわけじゃないんだからね!)

 


さて、まだまだ続くコロナやその他の風邪の流行もあってか、以前喘息で治療をおこなったものの途中でお見えにならなくなってしまった方が、数か月、数年ぶりに症状が悪化して再度いらっしゃるという例が増えております。


喘息が悪化してしまう一番の要因は、感染症だといわれています。
加えて治療が中断されていたために、感染が喘息悪化の引き金になり、症状が大きく悪化してしまったわけです。


もちろん自己判断で(時には医師の間違った指示で)喘息の治療を中断してしまったことが、悪化の大きな要因であることは否めません。

しかし、こちらのブログでもお書きしたように、喘息の治療って、治療効果のつかみどころもないし、よくなったことをデータで出すことも簡単ではないという面もあり、なかなか続けてもらうのが難しいという側面があるのも、まぎれもない事実です。

確かに喘息の治療の主役は吸入薬があり、飲み薬に比べたらめんどくさいかもしれません。
最初に「治療は続けてね!」と言われたにも関わらず、それでも喘息治療がめんどくさくなって、ついつい治療をやめてしまった方の気持ちもよーくわかります。

でも、いったん悪くなると、そこから薬を戻してもすぐには良くならないことも少なくありません。
また改善→中止→悪化というサイクルを繰り返すことで、徐々に薬を使っても治りにくくなっていってしまう方も実際にはいらっしゃいます。

こうなってしまうと患者さんも、我々医療者も、ほんと大変です。

ですのでやっぱり患者の皆さんが後のち大変な思いをしないように、やはり喘息の治療は続けていただきたいというメッセージは、ずっと、確実にお伝えしたい、と思っています・・・

でもそしたら、そのメッセージを一人でも多くの方に届けるには、どのようにお伝えしたらいいんだろ・・・?


日々悩んでおりましたが、最近考えついたこの方法ならわかっていただけるかな?
そう思って今回その考え方をお見せしてみようと思います。



それではまず、皆さんにお尋ねしてみたいと思います。

まず、「風邪」という病気は、「治る」病気でしょうか?

もちろんほとんどの方が「治る」病気であると答えます。

それでは、「風邪が治る」とは、どういうことなのでしょう?

風邪をひくとき、体の中には病原菌やウイルスが入ってきます。
これらが体の中で暴れて症状を引き起こすのですが、薬や免疫をつかって病原菌を「排除」できれば、症状は改善するわけです。

悪いものが体から「追い出せ」れば、「治る」ということなのです。

それでは、一方「花粉症は治る」と思っている方、いらっしゃいますか?

花粉症が「そりゃ完治するっしょ!」と考えておられる方は、あまり多くないのではと思います。
花粉症シーズンになったら、その症状を「抑える」ために薬を使用すると考えておられる方が多いかと思うのです(もちろん舌下免疫療法がうまくいけば、本当に「治って」しまうことはありえます)。

花粉症は「アレルギー」による病気です。
「アレルギー」とは、人間の免疫機能が、ある環境において過剰に反応してしまい、症状を起こしてしまうことを言います。

つまり、風邪とは異なり、その原因を「追い出す」とができないのです。

「喘息」も同じことなのです。

「喘息」「花粉症」は、「アレルギー」による病気であるとの共通項があります。

別の言い方をすれば、喘息も花粉症も、それは「体質」であるともいえるのです。
その「体質」が出てくるのを抑えるために、治療は続けていく必要があるということなのです。


そして、ここでまたもう一つ難しい問題が出てきます。


「アレルギー」は、季節や環境、本人の体調などで、自然と落ち着いてしまうことが珍しくないということです。

例えば喘息についても、症状が落ち着いたからと言って勝手に薬をやめてしまった場合、やめた翌日からすぐに症状が悪くなってしまうことは正直そんなに多くありません(もちろん不安定な状態や重症度が高い場合は、すぐに悪化することもあります)

やめてもしばらく何も変わらないことは珍しくないのです。

すると、これを「治った」ととらえてしまう人は少なくありません。

でも、さっきもお話ししたように、アレルギーはそもそも「治る」ものではありません。
たとえ症状がなくなったとしても、それは季節や環境、本人の体調などが、再度の症状を引き起こさせない状況であっただけなのです。

となると当然、季節や環境、本人の体調が悪化すれば、またぶり返してしまいます。

これが、喘息の治療を続けていると、「体質」としてのアレルギー症状は、当然出にくくなります。
季節や環境、本人の体調の悪化など、不利な状況においても、被害は小さくて済むわけです。


つまり私は、喘息やアレルギーの治療は「医療保険」みたいなものだと考えています。


元気な時は、一見「医療保険」はムダなもののように思えます。ただお金を払っているだけの存在。
しかし、一度体に異変が生じたときに、「医療保険」の存在は大きな助けになります。
いざというときに支えてくれる存在となるわけです。


喘息の治療も同じようなものです。

症状がなにもなくて落ち着いている時、本当にこの治療は意味があるのか?ムダなんじゃないのか?と思われがちです。

しかしひとたび季節、環境、本人の体調の悪化など、よくない状況になった際、それによる症状悪化の振れ幅を最小限にしてくれるのです。

治療をしっかり続けていたことがこの時、大きな助けとなるわけです。


ある報告では、喘息の治療をしっかりと指示通りに続けられる人は40%に満たないといわれています。Tamura G, et al : Respir Med 101(9);1895-1902,2007
そして、高血圧や高コレステロール、糖尿病などの治療と比べて、明らかに続けてもらいにくいという実態も報告されています。lnternational Review of Asthma&COPD vol13 No4 2011

喘息の治療をして、「この治療意味あるのかな?」と考えられるくらい安定していることは、つまり治療がうまくいっているという意味で幸せなことなのです。
その幸せを実感しつつ、上のことを思い出してもらい、ぜひその安定している状態を維持してほしいと思います。

 

一方、ついつい治療をやめてしまった方、おめでとうございます!
皆さんは決して「少数派」ではなく、むしろ「多数派」です!

当院ではもちろん治療を中断したからと言っても怒らないので(しっかり指導はさせて頂きますよ)調子が悪くなったら遠慮なくご相談ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.08.04更新

昨年のデジャブです・・・

ここ最近、発熱外来の受付が開始数分で埋まってしまいます。
そして来院される方の半数以上がコロナ陽性になっています。

昨年のこの時期がまさに同じような状態でした。
ちょうど時期も重なっており、昨年の改装に伴う夏季休診前も、てんやわんやの日々だったことを思い出します。

ただ今年は昨年と違い、大改装による導線の改善を行ったことやスタッフの増員、それとスタッフもだいぶ慣れてきたことも重なり、多少お待たせはさせてしまっているものの昨年よりはスムーズに行えています。
あと今年は世間で大きく騒がれてはいないので、スタッフの「追い込まれている感」が薄いのも確かに感じます。

昨年は8月にピークが来てその後収束しました。
今年もさっさとピークアウトしてもらいたいものです・・・


さて、そのような状況の中で、発熱や頭痛、全身の関節痛などのつらい風邪症状に対して、「熱冷まし」、「痛み止め」を希望されるケースが増えています。

その中で、「喘息の方」が熱冷まし、痛み止めを使えるかというご質問を多く受けるようになりました。

今回はそのご質問にお答えしてみよう!っと思います。

例えばけがや虫歯などで病院や薬局を訪れた際も、喘息であることを告げると、いわゆる解熱鎮痛薬を出すことをためらわれることが少なくありません。
ではそもそもなぜ、喘息の方は解熱鎮痛薬を使うことに対し、ナイーブになってしまうのでしょうか?

それは、喘息の方の「一部」に、解熱鎮痛薬を使用すると大変な発作を起こしてしまう方がいらっしゃるからです。

そのような喘息の型を、「アスピリン喘息」と呼びます。

アスピリン喘息は、解熱鎮痛薬であるNSAIDsエヌセイズと呼びます。日本語では「非ステロイド系抗炎症薬」と呼ばれています)を使用すると、喘息発作(実は「発作」という用語は、現在「急性増悪」という用語に変更されています。ただ今回ここではなるべくわかりやすく説明したいので、あえて「発作」という用語のままで説明を続けます)が起こってしまう病気です。

この喘息発作はしばしば強烈で、呼吸不全や窒息寸前まで行ってしまうことも珍しくありません。
そして、量的にはほんの少しのNSAIDsでも起こってしまうため、湿布や目薬などでも重い発作を起こしてしまいます。

「アスピリン」もNSAIDsであり、当初はアスピリンで発作の起きる病気ということでこの病名がついたのですが、今はアスピリン以外の多種多様なNSAIDsにも反応してしまう病気だったことがわかっています。

「アスピリンだけじゃない」という部分をしっかりと理解しておく必要があります。


体の中で炎症が起きると、体内では「プロスタグランジン」という物質が作られます。
NSAIDsは体の中でプロスタグランジンを作らせないように作用するのですが、アスピリン喘息の方ではどういうわけかプロスタグランジンを作らせない代わりに、ロイコトリエンという物質をたくさん作り始めてしまうのです。
このロイコトリエンという物質は、気管支を収縮させたり、アナフィラキシーを誘発させたりする、タチの悪いアレルギー物質です(この物質を抑える薬として、「モンテルカスト(商品名:キプレス、シングレア)」とか「プランルカスト(商品名:オノン)」とかいった薬があります)。

このような特徴を持つアスピリン喘息の方は、喘息全体の方のうちの約10%といわれています。
そして30~50代くらいの女性に多いとされています。

逆に言うと、90%の喘息の方ではこのような反応は起こりません。
その違いが、どこにどうあるのかといったことは、まだよくわかっていない部分も多いのです。

では、喘息の患者さんにNSAIDsは使っていいのでしょうか?

結論から言うと、「アスピリン喘息」でなければ、使うことはできます。
ただし、注意しなければならない点がいくつかあります。

アスピリン喘息は、通常生まれ持って出てくるものではないとされています。
大人になってから出現してくる病気なのです。

そして、アスピリン喘息になる前は、普通に解熱鎮痛薬を使用できていたことが少なくありません。

いままで解熱鎮痛薬を使っても何ともなかったから、自分は大丈夫、とは言いきれないのです。
だから、「その喘息は、アスピリン喘息でない喘息だ」と簡単には言えないという問題点があるともいえます。

また、NSAIDsにもいろいろな種類があり、発作を起こしやすいものと、比較的起こしにくいものがあります(ただアスピリン喘息の人の中でもその起きやすさは様々で、起きづらいといわれている薬剤でも重症な発作を起こすことがあります)。
比較的発作を起こしづらい薬で大丈夫だった方が実はアスピリン喘息だったという例もあるので、その投薬歴は十分に確認、吟味する必要があります。

一方、普通の喘息の方がアスピリン喘息に移行することは通常ありません(通常の喘息に後からアスピリン喘息が加わることが全くないとは言い切れませんが、基本的にはまれです)。
喘息の診断の後に特に症状が大きく変わっておらず、かつ診断後に解熱鎮痛薬を使用して問題が起きていなければ、通常はアスピリン喘息ではないと考えて大丈夫です。

逆にどういう人に疑うかというところも考えておいたほうがいいでしょう。

アスピリン喘息を持っている方は、高確率で慢性的な副鼻腔炎を持っています。
そしてそれによって嗅覚障害をきたしている方も少なくありません。

喘息だけでなく、よく鼻水や鼻づまりなど、慢性的な鼻炎を起こしている方、それに嗅覚が弱い方は注意したほうがいいかもしれません。

上記から、完全にアスピリン喘息を否定しきれない人は、万が一アスピリン喘息であったとしても比較的危険性が大きくない薬剤から使用したほうが無難だといえます。
例えばNSAIDsの範疇には入らない「アセトアミノフェン(商品名:カロナール)」はまだ安全性が高いとされています(絶対ではありませんし、一応添付文書上ではアスピリン喘息の方には使用してはいけないとされています)。

ほかにはセレコキシブ(商品名:セレコックス)という「COX-2阻害薬」といわれる薬や、チアラミド(商品名:ソランタール)といった「塩基性NSAIDs」と呼ばれる薬が、まだ多少は安全性が高いとされていますので、怪しい方の場合はこちらから使用することもあります(とはいえ、NSAIDsにも症状や病気によって使い方が制限されることもあるので、全員にこの薬剤というわけにはいかないのが難しいところです)。
症状によっては漢方薬を使用するという選択肢もあるでしょう。

一般的によく使用される、「ロキソニン」「ボルタレン」、それに市販の解熱鎮痛剤などの薬を、喘息の方が使用する場合は、呼吸器の専門施設の元でアスピリン喘息の可能性について検討してもらい、しっかり否定されてから使うようにされたほうが安心だと思います。


さて、当院は8月10日から、昨年に引き続き少し長めの夏季休診に入ります。

おかかりの方には2年連続で大変ご迷惑をおかけしてしまうのですが、今回も院内の改装工事を行うためです。

今回は待合エリアの工事を行います。

今までよりもより明るい雰囲気となり、またほんのわずかですが窓側のスペースが増えるため、今までよりも少しだけ余裕をもって移動することができるようになります(席数は今までと変わりありません)。
あと、診察室奥の作業スペースの工事も行います。
こちらは患者さんにはあまり関係ない部分なのですが、一応皆様の目に入る部分ではあるので診察室の雰囲気も多少ですが変わるかもしれません。

一部では「茅ヶ崎のサグラダファミリア」とも呼ばれているそうで、改めて数えてみたら、私がこのクリニックに来てから、足掛け3年半で都合9回目の工事のようです(笑)
でもさすがにサグラダファミリアも今回の工事でいったん完成を見るものと思います。

改装が終わり皆さんの中には改装ロスでさみしい方もいらっしゃるかもしれませんが(笑)、またお休み後のクリニックの様子を楽しみにお待ちください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.07.16更新

先日、お休みの日に、日頃の疲れを癒すべくタイ古式マッサージに行ってきました。

普段は指圧マッサージしかしないのですが、全身のケアも大事だろうなと思い、2時間かけて、しかも人生初のオイルマッサージまでしていただきました。
受けているときはそれはそれは気持ちよく、天にも昇る気持ち・・・
次の日から仕事がはかどるなあって思いながら過ごしていました。

受けた後もしばらくいい気持ちでいつつ、数時間後残った仕事をしにクリニックに戻ったら、なんだかおかしい・・・
やたら股関節が痛くなり、歩くのもしんどい状態に。

ついでに血流も良くなりすぎちゃって、やたら体が火照るので、なんか変な病気にかかったか!?って思いましたが、そういえばセラピストさんが施術時に言ってました。

「股関節、信じられないくらい激カタですねw」

普通にストレッチ受けただけなのに、ここまでの反応が来るとは、いかに日頃体を動かしていないのかを思い知りました。
もともとは野球部、体を動かすのは大好きだったのですが、忙しさにかまけてサボっていたら、そういえばスマートウォッチ見ても、院内を数歩行ったり来たりだけで1日2000歩も歩いてない・・・

普段患者さんには運動しましょうとアドバイスしておきながら、何たる医者の不養生。

普段の生活、少し見直すきっかけとなりました。ちょっとはがんばろ。

 


さてここ最近もあいかわらず、発熱や咳でお困りの方が数多くお見えになっており、前回お話したRS、ヒトメタに加えて、最近ではヘルパンギーナも増えました。
しかしやはりというか、コロナも着実に増えています。
速報値はでなくなったので体感でしかないのですが、当院の場合、疑いありの方で検査をすると約半分の割合で陽性という感じです。

そして、それに合わせて、コロナの後から咳が止まらないという方も非常に多くいらっしゃるようになりました。

 


そこで今回は、コロナ後に残ってしまう咳についてお話ししてみましょう。

 

 

コロナを含めて、いわゆる「風邪」には、ご存知の通り咳はつきものです。

通常「風邪」の咳は1~2週間たてば徐々に治まってきます。
一般的に3週間以内で収まる咳を「急性咳嗽」というくくりで読んでいます。

しかし、この咳が3週間以上経っても一向によくならないときは、今度は「遷延性咳嗽」というくくりになり、風邪などよくある感染症ではない原因を考える必要性が高まります。
その中で、喘息やCOPD、鼻炎・副鼻腔炎や逆流性食道炎などなど、咳を起こすいろいろな原因を探していくことが必要となります。

しかしこの中で、コロナによる咳は、いわゆる「風邪である咳」にもかかわらず、数週間、場合によっては数か月も続いてしまうことがあるのです。


当院には連日、コロナにかかった後に咳が止まらなくなったということでお困りの患者さんが市外、県外からも多くお見えになります。

その中で、コロナがきっかけとはなったかもしれないけど、今はコロナではない咳だったという方が6~7割ぐらいかなというのが私の印象です。

もともと喘息(本人がずっと気づいていなかった場合も珍しくありません)を持っていたり、実はコロナをきっかけとして鼻炎が悪化していたりなどで、適切に治療を始めてあげると割とすぐによくなってしまう方も多くいらっしゃいます。

しかし一方、やはり3~4割の方は、いわゆる「コロナの後遺症」としての咳がずっと続いてしまっている方です。
このような方々の症状は、なかなか改善が難しくなってしまうことが珍しくありません。

このような状態になってしまう方の何割かは、「咳過敏症症候群(cough hypersensitivity syndrome)」という状態になってしまっていることがわかってきました。

「咳過敏症症候群」については、こちらにもブログを書いておりますのでご興味のある方はお読みいただきたいのですが、簡単に言うと「ちょっとした刺激でも、その刺激を受け取る神経が知覚過敏になっていまい、刺激が増幅されて脳に伝わることで激しい咳になってしまう状態」のことです。

コロナウイルスがほかの風邪ウイルスと違って今でもやっかいなことが、このウイルスが神経細胞に感染してとどまってしまうという特徴を持っていることです(これは、ここでお話したACE2受容体にコロナウイルスがくっつきやすいという特性が影響しているようなのです。ACE2受容体は神経細胞も多く持っている受容体なのです)。

嗅覚を感じる神経に感染をすると嗅覚障害を起こし、脳などの中枢神経に感染をするとずっと続く頭のモヤモヤ(ブレインフォグ:脳の霧)が起こってしまうと考えられ、その頻度、強さは他の風邪ウイルスとは比較にならないほど高いのです。

 

そのコロナウイルスが、咳のメカニズムとして重要なポジションを占める「迷走神経」という神経に入り込んだ時に、この悲劇ははじまります。

 

迷走神経気管、気管支や肺を起点として、脳の咳を起こす中枢部分までを結んでいます。

コロナウイルスがこの迷走神経に感染をすると、ウイルスを排除しようと神経から「炎症物質」を出します。

またコロナウイルスはそのほかにも気道や肺の表面の細胞にも感染し、ここから同じように炎症物質を出したり、また対戦相手の白血球との戦いの中でも炎症物質が放出されたりもします。

これらの炎症物質が、迷走神経を刺激します。

そうすると迷走神経は通常ではありえないくらいの刺激にさらされてしまい、ちょっとしたことでも刺激を何倍も増幅して脳に送ってしまう状態になってしまいます。

あたかも、「電波がブースターによって何倍、何十倍にも電気信号を強くして送り出す」状態なのです。

すると、ちょっとした温度変化やにおい、アレルギー物質などによって、咳が何十倍にも増幅されてしまう状態を引き起こします。
またごく軽い喘息を持っていた場合も、その喘息による咳が何十倍も増幅されてしまい、一気に重症、難治化してしまうことも少なからず起きています。

咳過敏症症候群


先ほどもお話をしたように、このような状態になるとなかなか咳を抑えるのは簡単ではありません。
喘息などを考えて吸入薬を使ったり、量をふやしてもあまり効果が見られないことが少なくなく(ただ場合によっては、吸入薬の成分の一部がこのような炎症を抑えることができる可能性がある場合もあるので、使い方によってはまったく役立たずというわけでもありません)、また咳止め薬もブーストのかかった神経の前ではだいたい無力です。

このような咳を抑える方法として、これらの神経の過敏性を抑える薬などを使うことでよくなることもあります(これらの薬についても以前にこちらのブログでお話ししましたこのブログは2021年の内容ですが、ここで触れた「新薬」が「リフヌア」という名前で、2022年4月に発売、使用できるようになっています)。

また別のアプローチとして、漢方薬を使用することが有効であることも少なくありません。

漢方はそもそもの成り立ちとして「患者さんの体質や症状の状態に対し、バランスを整えることで効果を得る治療法」であって、「原因をつぶしに行く」西洋医学とは性格を異にします。
ですので原因に対してのアプローチが難しい、西洋医学が苦手とする状態でも、東洋医学の観点からその患者さんのバランスを整えてあげることで症状を軽くできるケースが少なくないのです。

今のコロナは、確かに多くの人にとってはただの風邪です。
でも一部の人にはとてもやっかいで、その一部には誰がなるのかわかりません。

できる対策はしっかり行っていただき(私はコロナ禍前のインフルエンザ流行期の対策を参考にしたらいいのではと思っています)、リスクを可能な範囲で下げ、それでも罹ってしまって症状にお困りになった際には一人で悩まずに、ぜひ治療に詳しい医師にご相談いただければと思います。


アフターコロナの初めての夏休みです!皆さんで賢く夏を楽しみましょう!!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.06.14更新

コロナが5類になり、マスクに関しては個人の意思となりました。

そして5類になって時間が経つとともに徐々に蒸し暑くなってきてもおり、マスクを外すことも徐々に一般的になってきた印象です。

いろいろな方の豊かな表情を見ることができるようになったことは、確かにうれしいことですね!

しかし、その引き換えとして、コロナ以外の感染症の流行り方が、この3年間にはなかった様子で見られるようにもなりました。
これに伴い、お子様が学校や幼稚園、保育園で風邪をもらい、そこから家族みんなにうつってしまうという例も非常に多く見るようになりました。

その中で今大きくはやっているのがRSウイルスヒトメタニューモウイルスです。

インフルエンザウイルスについては以前から、新型コロナウイルスについては3年前から、多くの情報が出回っているため皆さんも特徴をよくご存じかとは思いますが、それ以外のウイルスについては正直あまり知られていないのが実情かと思います。


ですので、今回は咳をきたしやすい、RSウイルスとヒトメタニューモウイルスについて、主に大人の感染という視点から取り上げてみたいと思います。


RSウイルスとヒトメタニューモウイルスはともに、主に赤ちゃんや子供の中で流行るウイルスです。

RSウイルスは1950年代にはすでに発見されており、赤ちゃんに肺炎、細気管支炎を引き起こすウイルスとして知られていました。
もともと日本では、秋から冬に2歳までにほとんどの赤ちゃんが一度はかかるウイルスといわれていましたが、この3年間、コロナ禍での厳重な感染対策のもと、かかったことのない赤ちゃんが増えるといったことが起きました。
これにも影響されているのか、コロナ禍の前後でRSウイルスの流行状況に変化が出てきたようで、わが国ではここ3年は春から夏に流行る現象が起きているようです(2021年9月の記事でこのことを少し取り上げております)。

RSウイルス流行状況

国立感染症研究所図表より改変


一方ヒトメタニューモウイルスは、実は21世紀になってから発見されたウイルスです(でもその前も正体不明のウイルスとして、流行は起こしていたようです)。
こちらの流行時期は3月~6月、つまり春から初夏の今頃が一番流行りやすい時期とされています。

こちらも5~10歳ごろまでにほとんどの子供は1度はかかるといわれるウイルスですNature Med. 2001;7:719-724.

 

そしてどちらのウイルスも、感染によってできる免疫が不完全なため、大人になってからも再感染することが珍しくありません。

RSウイルスヒトメタニューモウイルスその作りが非常に似ていることがわかっており、それ故、その特徴も非常によく似ています。

 

まずこれらのウイルスは飛まつ感染(つまり話したり、咳やくしゃみをしたりしたときに飛び散る唾液など)によって広がり、鼻などの粘膜から体の中に入り込み、気管支の奥(細気管支といいます)のほうで増殖しやすいウイルスです。
そしてウイルスがついた手を介した接触感染も経路の一つとなります。

感染してから発症するまでは大体3~6日程度と言われ、発症する1~2日前には人にうつしてしまうことができるようになります。
そして気管支でウイルスが増殖すると、気管支に炎症が起きて、咳や痰を引き起こします。

赤ちゃんや子供は気管支が細いために、一度炎症を引き起こしてしまうと簡単に空気の通り道である気管支がふさがれてしまい、ゼーゼーいったり、呼吸が苦しくなってしまったりしやすくなります。

一方大人では、子供より気管支が太いためにそこまで行くケースは多くはなく、一般的には発熱に加え軽い咳や痰で済んでしまうことも少なくありません。


だ気を付けなければならないのが、喘息をお持ちの方、COPDをお持ちの方、それに高齢の方です。


喘息は、もともと感染症を引き金として悪化しやすいという特徴を持っています。
そして喘息が悪化すると、ダメージを最も受けやすいのが細い細い奥の細気管支の部分です。


喘息の発作が起きると、もともと狭い細気管支の空気の通り道がさらに細く、狭くなってしまいます。
すると、咳が悪化するのと同時に、細気管支の先にある肺に十分な空気が届かなくなってしまって息苦しくなったり、狭くなったところを空気が通ることでヒューヒュー、ゼーゼーいったりするようになるのです。

それに加えて、これらのウイルスは先ほども言ったようにそもそも細気管支で増殖しやすいという性質を持っているので、この部分で炎症が強く起こってしまいます。
細気管支にとってはウイルスと喘息の悪化というダブルパンチに見舞われてしまうということになってしまいます。
実際喘息の悪化に、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスは大きくかかわっているといわれています。Vaccine 23: 4473-4480,2005.  J Infect Dis 193: 1634-1642, 2006.

またCOPDに関しても、やはり、もともと奥の気管支の通りが悪くなっている状態なので、喘息と同じようにこれらのウイルスが感染した時には、ただの風邪では済まなくなるケースが少なくありません。


しかしこのブログでは何度もお話ししているように、喘息やCOPDは残念ながら、その病気を持っていても長い期間気づかれずに経過してしまう方が多かったり、それに吸入薬を正しく使えていなかったり、薬を正しく選択されていなかったりと、適切な治療がされていない方が非常に多い病気です。

ですので、隠れ喘息や隠れCOPDの方を中心として、大人の方でもこのウイルスにかかった時に、思いのほか症状が重く、長引いてしまうといったケースが後を絶たないのです。


最後に高齢者の方についてですが、高齢者の方は免疫力がもともと低下していることから、ウイルスが増殖しやすくなり症状が重くなってしまうパターン、それにウイルスによって弱った肺に、別の微生物が後から侵入し肺炎を起こしてしまうパターンがあります。

またこのように肺の機能が低下してしまうと、肺と強固なつながりを持っている心臓にも大きな負担がかかってしまうため、特に心臓の病気を持つ方は症状が悪くなってしまいやすく、時には命にかかわってしまうこともあります。


両方のウイルスとも検査キットがありますが、わが国ではRSウイルスの検査は1歳未満、ヒトメタニューモウイルスの検査は6歳未満でないと保険の適応がなく、自費で検査すると診察料、薬剤料などその日の診察がすべて全額自費(つまり10割負担)になってしまうため、大人では事実上検査が使えません(これは大人にはウイルスに対する治療薬がないため、検査しても治療方針が変わるわけではなく保険上ムダになってしまうためで、決して大人に対していやがらせをしているわけではありません・・・)。

 

治療についてですが、残念ながらこれらのウイルスに効果がある、簡単に使える薬は現時点ではありません。
ですので基本的には症状を抑える対症療法が中心となります。

そしてこれによって悪化した喘息やCOPDがあれば、もちろんその治療も大事になります。


我々ができる対策としては、飛まつ感染、接触感染が中心となるため、症状が出ている人のマスク着用や手洗い、アルコール消毒が大事なのですが、やはりもともとは赤ちゃんや子供を中心として流行るため、お子さんから世話をする親などへと広がってしまう家庭内感染はなかなか避けづらいのが実情です。
基礎疾患のある高齢者の方がいたら、なるべくウイルスから遠ざけることが大事になります。

そして、喘息、COPDをお持ちの方は、もしうつってしまっても症状を長引かせるのを予防するために、やはり普段から吸入などの治療を、調子のいい時もしっかり続けることが大事になります。

まあ、結局はいつもと同じ結論ですね(笑)


というわけでまだしばらくの間厄介な存在になりそうなこれらのウイルス、しっかり敵を知って、メリハリのある感染対策と普段からの体調管理に気を遣うことで立ち向かいましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.05.28更新

新型コロナが5類感染症になってから約3週間、世間の空気はあまりコロナを感じさせなくはなってきています(実は水面下ではかなり増えてきています。今日私は休日診療所の日直をしているのですが、今日のコロナ抗原検査の結果が15打数8安打、打率.533と、DeNA宮崎選手も真っ青の高打率となっています・・・)。

しかしそれでもやはり人前で咳が続くことを気にされる方は少なくなく、咳が長く続くことでお困りの方が今でも多く当院にいらっしゃいます。

なかなか当日の新患枠が空いていることが少なく、診察まで数日お待ちいただいている状況で、患者様にご不便をお掛けして心苦しい状態です・・・

今年の4月から横浜市立大学病院から呼吸器専門である平田萌々先生を水曜日にお迎えしており、現時点では水曜日は他の曜日に比べて、呼吸器系の症状の方のご予約が比較的お取り頂きやすくなっています(この状況もいつまで続くのかわかりませんが・・・)
もし咳でお困りの場合、近日中のご予約がお取りいただけない場合は、水曜日の平田先生の診察もご利用ください!


さて、そのような「長引く咳」で受診されている方は、以前「咳喘息」と言われたことがあるという方や、こちらの診察で新たに「咳喘息」と診断される方が多くいらっしゃいます。

ところが、「咳喘息」って一体何かというと、正直ほとんどの方がくわしくはご存じありません。


そこで今回は「咳喘息」について少し詳しくお話をしてみたいと思います。


では、そもそも「喘息」って何でしょうか?

医師が治療をするときに参考とする、喘息のガイドラインを見てみると、「気管支喘息は、気道の慢性炎症を本態とし、変動性を持った気道狭窄による喘鳴、呼吸困難、胸苦しさや咳などの臨床症状で特徴づけられる疾患」と書いてます。

ムズい。なんのこっちゃ??

これをわかりやすく言い換えると、「喘息とは、気管支が狭くなって息苦しくなったり、咳が出たりするという症状が、悪化したり治まったりを繰り返す病気で、気管支が炎症を起こしていることがその原因ですよ」ということになります。

 

つまりアバウトにいうと、喘息の時には、主に「2つのことが起きている」、ということができます。


まずは「気管支の空気の通り道が狭くなる」という状態です。

気管支に炎症が起こることで、気管支を構成する筋肉(気道平滑筋と言います)が収縮したり、気管支の壁がむくんだりして気管支の空気の通り道が細くなります。
また気管支の中に分泌液が出ることで、分泌液(つまり「痰」です)が空気の通り道をジャマしたりすることで、気管支の中の空気が通りにくくなります。
狭い所を空気が通り抜けると笛のように音が鳴るため(空気の流れのあるところでドアを少しだけ開けていると「ピューピュー」いうことありますよね。それと同じ原理です)、喘息が悪化したときは「ゼーゼー」「ヒューヒュー」言ったりすることがあるわけです。


次に、「気管支が敏感になる」ということです。

気管支に炎症が起きると、その粘膜がはがれてしまい、知覚神経がむき出しになってしまいます。
そこに刺激が加わると知覚神経がビビッと刺激され、咳が出てしまいます。

また先ほど挙げた気管支平滑筋の収縮によって、その中にある神経が、筋肉の収縮を刺激と感じ取り、咳が出てしまいます。

ほかにも気管支に炎症が起こると、その筋肉の収縮を起こりやすくさせるような色々な化学物質が気管支で作られてしまい、ますます気管支の収縮、それによる咳が起こりやすくなってしまうというわけです。


一方「咳喘息」とは何でしょうか?

ガイドラインには「喘鳴や呼吸困難を伴わず、咳嗽を唯一の症状として気管支拡張薬が有効である」病気と書いてあります。

つまりこれも言い換えてみると、「気管支が狭くなってゼーゼーしたり、息苦しくなったりすることはないんだけど、咳が続くという症状だけはあり、その症状は気管支を広げる薬で落ち着いちゃう」ということになります。

気管支喘息との「違い」は、「ゼーゼーしたり、息苦しくなったり」するか、しないかということです。

でも、「気管支を広げる薬で症状が治まる」という点は変わりません。時期や環境によって症状がよくなったり悪くなったりするという点も変わりがありません。


じゃあ、「喘息」と「咳喘息」って、違う病気なのでしょうか?


私は、基本的には同じ病気だと考えています。
ただ症状の出方が異なるだけと考えています。

先ほどもお話をしたように、喘息とは「気管支が狭くなり」、「咳がでる」病気ですが、私は「喘息」と「咳喘息」は、その出かたの程度の差だというように考えています。

言い換えると、「咳喘息」は「喘息の一種」、「喘息の亜型」であるともいえるわけです。


例えば、咳喘息の方の検査を行うと、モストグラフィー検査で気管支がある程度狭くなっている方が少なくありません。
また呼吸機能検査を行っても、異常の範疇とまでは言えない程度の息の吐きづらさ(閉塞性呼吸障害といいます)を示すデータが出る方が非常に多いです。

つまり、咳喘息は「ヒューヒュー」「ゼーゼー」なったりするほどには気管支が狭くはならない(全く気管支が狭くならないとは言ってない)けど、咳を引き起こすような気道の炎症や知覚神経の過敏、それに軽い気管支の筋肉の収縮は起きているということです。
狭さの程度が強ければ「喘息」弱ければ「咳喘息」で、そこには明確な線引きがある訳ではなく、あくまで程度問題だということなのです。

 

よく外来で「『咳喘息だけど、喘息ではない』」と言われたことがある」とおっしゃられる方が少なくないのですが、上記の理由で、この表現は必ずしも正確とは言えないのかなって思います。

また、「咳喘息は喘息の軽いもの」という表現もよく聞くことがありますが、これも必ずしも正確ではなさそうで、咳の強さ、咳の出やすさはいわゆる喘息とそこまで変わりがない方も少なくない印象ですし、薬の効き方もそれなりに強い薬でないと効かない方も多くいらっしゃいます。
単純にあくまで、「咳喘息は気管支の狭さというファクターのみが軽く済んでいるだけに過ぎないと解釈した方がいいかと思います(ただ確かに全体的に咳喘息のほうが症状が軽く済んでいるが多い傾向はあるかなとは思います)。

あとよく聞かれるのが、「咳喘息を放っておくと喘息に移行してしまう」という文言です。

これはある意味正しいのですが、正確に表現すると、「咳喘息を放っておくと、そのうち気管支の狭くなる度合いがまして「ゼーゼー」「ヒューヒュー」いうくらいに進んでしまうという表現がより正確なのかなって思います。
咳喘息を放っておくと「喘息という別の病気になる」訳ではないということです。


つまり言いたいことは、「咳喘息」という診断がされたら、それは「喘息」という診断と同じと考えたほうがいいということです。


ですので、咳喘息の治療法の考え方は、基本的には喘息と一緒です。

すなわち、喘息と同じように吸入のステロイド薬や、必要に応じて気管支拡張薬やアレルギー薬を使用し、症状がよくなっても急にはやめないということが大事だということです(よくなってからすぐにやめてまた再発するということを繰り返すと、徐々に治りづらくなったってしまったり、それこそヒューヒュー、ゼーゼーという、「気管支が狭くなる喘息」に移行しやすくなってしまうためです)。


「喘息は治療を続けなきゃいけないが、咳喘息はすぐに治療をやめていい」ということはありません。
薬の減らし方、止め方は、喘息治療をしっかりと理解している医師と相談しながら慎重に決めていってほしいと思います。


繰り返す咳の不安から解放され、咳のない快適な生活を、是非手に入れてください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.05.07更新

さて、明日2023年5月8日から、新型コロナウイルス感染症が「2類相当」から「5類」の位置づけになります。
いわゆる「季節性インフルエンザ」と同等の位置づけとなります。

2020年3月に特別措置法の対象疾患となってから3年2か月、ついに大きな転換期を迎えることになるわけです。

では、いったい具体的には何が変わるのか?
そのことについて、もはや多くは報じられなくなりました。
それでも外来ではこのことについて多くの質問をお受けしている状態です。

そこで今回は「5類感染症」となって変わること、そして変わらないことをポイントを絞ってお話ししてみたいと思います。

まずは「変わること」からです。

・外出制限の撤廃
感染時の自宅療養の指示の根拠がなくなります。
コロナに感染しても外出の自粛を求められることはなくなります。

ただし常識の範囲内での感染対策はもちろん必要です。
インフルエンザと同様、個人の判断となるわけですが、だからといって好き勝手に行動するのは非常識ですよね。
「常識的に考えましょう」
、と言われているわけですので、「自由」と取り違えないようにしましょう。

外出を控えることが推奨される期間の目安も今までより少し短くなり、発症日を0日目とした5日目まで、かつ症状消失から24時間となります。
症状がなくなったうえでこの期間中にやむを得ず外出しなければならない時には、マスク着用の徹底など、周りに特段の配慮をすることが必要です(人としてあたりまえですよね)

 

・濃厚接触者の定義の撤廃
5類に移行することから、濃厚接触者の定義がなくなります。
家族が感染しても特に外出自粛は求められませんが、発症者が発症から7日間経過するまでは自分も発症するリスクがあります。
無症候感染もあるわけなので、この期間中はマスク着用や高齢者との接触を控えるなどの常識的な行動はとりましょう。

 

・検査、治療の自己負担の発生
今までは新型コロナ陽性であった場合は治療費が公費負担でしたが、今後は自己負担となり、他の病気と同様、1~3割の自己負担が発生します。
ただし、新型コロナ感染症の高額な治療薬(ラゲブリオ、パキロビッド、ゾコーバ、ベクルリー、ロナプリーブ、ゼビュディ、エバジェルド)は引き続き公費負担となり、この分だけ自己負担は減ります。
また入院治療も基本的には自己負担になりますが、一定期間は最大2万円までの公費支援が出ます。

 

・感染の届出の廃止
今まではコロナ感染症は前例保健所へと報告され、感染者数が正確にカウントされていました。
またリスクの高い感染者(高齢者や重大な基礎疾患を持った方)は、保健所による健康観察を行い、急な症状の悪化に備える体制が取られていましたが、今後は保健所への届け出がなくなります。
つまり今までのように感染者数は即時にはわからなくなります。
そして季節性インフルエンザと同じように、あらかじめ定められたいくつかの定点の医療機関でのみ感染動向が観察され、そのデータがまとめられて、傾向として地域ごとに週1回発表されるようになります。

 

一方、「変わらないこと」は以下の通りです。

・医療機関でのマスク着用
他の施設では「個人の判断」となりますが、医療機関においては感染者が集う可能性がある、高齢者の割合が多いというその特性上、引き続きマスク着用が推奨されます。(当院は呼吸器疾患の方も多いことから、お子さんや特殊な場合を除き、特にマスク着用が必須だとお考えください)

 

・ワクチン無料化
5月から高齢者と基礎疾患をお持ちの方を対象に春季接種が始まりますが、その費用は引き続き公費負担となり無料のままです。
また秋季には若い人も含めたほぼすべての方が対象となる秋季接種も行われますが、ここまでは無料接種が決定しています。

 


以上のように、法律の位置づけが変わることによって、その「扱い方」は大きく変更させることとなります。
しかし、「5類」になる明日から、ウイルスが突然弱毒化するわけではありません。
今日も、明日も、ウイルスの特性はほとんど変わらずコロナウイルスはこの世に存在しつづけます。

そしてコロナウイルスは、他の風邪ウイルスに比べ「感染力が強い」、「後遺症が多い」という面で、まだ厄介な面をもっためんどくさいウイルスであることも明日から変わるわけではありません。
明日からは「罹っても、移しても、もう大丈夫」という訳ではないのです。

当院では、明日以降も今まで通り、発熱・感染症外来を継続して行います。
頂くお代や保健所への報告の有無などの違いは出てきますが、病気に対峙するスタンスは大きく変わることはなく、通常通りの診療を続けて参ります。

今後も皆さんで常識を持ってバランスよく、そしてお互いを思いやる気持ちを持ちながら、みんながなるべくストレスフリーに過ごせる社会を作っていけるようにしましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.04.17更新

今年の花粉はやはり飛散量が多く、喘息やアレルギーをお持ちの方にはつらい春でした。
現在もまだヒノキの花粉の影響が見られますが、しかしこれもそろそろピークを越えて、花粉症の季節も終わりに差し掛かっています。


ところが、今年はこの季節からまたアレルギー、喘息の症状が悪化してしまう方が続出しています・・・


その原因にはいろいろあるのでしょうが、多くの方がおっしゃっていたのが、「黄砂のニュースを聞いた頃から症状が悪化した」ということでした。


ご存知の通り、4月12日から13日にかけ黄砂の大量飛散があり、普段あまり黄砂の飛散が観測されない東京でも、4月としては16年ぶりの黄砂観測となったようでした。
そういえば私の紺色の車も、今年はやけに黄色くなります。すでに23年頑張っている私の車が、より一層年季が入ってしまったように見えてしまいました・・・(どうせ黄色くなるので洗車はあきらめましたw)


今回はこの「黄砂」と、喘息やアレルギーの関係についてお話ししてみます。

 

黄砂は、中国やモンゴルの内陸部の乾燥地域で巻き上がった砂嵐が起源です。
これらが空に舞い上がり、上空の偏西風に乗って東へと運ばれ、韓国や日本に到達します。

春に多く観測されやすいのですが、これは砂漠に積もった雪が春になると溶け、その後乾燥期を迎え砂漠から砂が舞い上がりやすくなること、それにこの季節にはこの地域に強い風が吹きやすくなることが関連するようです。
またこの砂嵐を日本に運ぶ偏西風が、春になると日本上空を通過しやすくなるのも要因だそうです。

この黄砂は、数千kmを飛んでこれるように非常に細かい砂で、直径は約5μmと言われ、約30μmの花粉より小さいのが特徴です。

この直径5μmという大きさが呼吸器系には大きな問題となります。

直径3~5μmの粒子は、気管支の奥に一番沈着しやすい直径なのです。
喘息やCOPDの治療として使われるパウダー系の吸入薬は、この特性を利用して、できるだけパウダーの粉をこの直径に近づけて作っているほどです。

またこの砂は、数千kmの旅をする間、様々な物質を付着してきます。

中国の都市を飛来する間に、有機金属やタール、カビ・細菌などの微生物、PM2.5など、様々なアレルゲンを多く付着してきます。
この黄砂が気管支に入り込むと、その奥深くまでたどり着き、そこで付着物質が悪さをすることで喘息を悪化させてしまうのです(またこれらの物質が皮膚に付着しても皮膚アレルギーをきたすことがあります)。

また最近、「花粉爆発」という現象が注目されていますね。
黄砂などの微小粒子が花粉に付着すると花粉の表面を傷つけ、ひびが入ります。そこから水分が花粉粒子内部に入り花粉が膨張、最後には爆発するんだそうです(これは私も今回初めて知りました)。
花粉の直径は先ほど30μmとお話ししました。
この大きさなら容易には気管支の奥には届きませんが、花粉爆発を起こすと、これよりはるかに直径が小さい「花粉の破片」となり、気管支の奥に届くようになってしまい、喘息が悪化すると考えられています。(ちなみに雷雨がおこると同様にイネ科花粉が膨張、破裂し気管支の奥に吸い込まれて喘息が悪化する「雷雨喘息」という現象もあり、原理は同じのもののようです)。

それでは、黄砂による喘息、アレルギー症状の悪化を防ぐためにはどうしたらいいでしょうか?

まず、一番大事なのが、普段の治療をしっかりと継続するということです。

アレルギー反応は、一度起こるとなかなか抑えられなくなるもの、そして抑えるとそこから悪化はしづらくなるものです。

「しっかりと抑え続ける」、これがとにかく大事となります。

次に、アレルゲンを体内に入れないことです。
以前、花粉の体内への侵入を防ぐ方法をお伝えしました(2023.2.10 「薬だけじゃない!自分でできる、シーズン中に実践したい花粉症対策」)が、これとだいたい同様です(ただ花粉よりはより小さい粒子なので、マスクやメガネの対策だけでは防ぎきれない部分も出てきます)。

服はなるべく粒子の付着しにくいツルツルした生地とし、家の中に粒子を持ち込まないことを心がけ、空気清浄機どもうまく活用しましょう。

黄砂(それとPM2.5も)は5月まで飛散しやすい時期とされています。もうしばらく注意する期間が続きます。
花粉が落ち着いたという情報があっても、油断をしないでしっかりと対策を取っていきましょう!


P.S. このブログ記事が、私が書いた100本目の記事となりました。
私がこのクリニックに来て4年、当初とは比べもののならないくらい当院には多くの患者さんにご来院頂くようになり、またこのブログがきっかけで当院にご来院頂いた方も数多くいらっしゃいます。
このブログも多少は皆様のお役に立てているのかなと思っています。
なかなか時間は取れない中ですが、何とか今までは最低月1本の執筆を守り続けています。
次は200本を目指し引き続き頑張っていこうと思いますので、引き続き当ブログをお読みいただけますと幸いです!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.03.23更新

WBC、いやぁすごかったですね!


当院でも、午前診療が終わったタイミングでちょうど9回表の大谷選手登板の場面となり、会計をお待ちの患者さんには少しお待ち頂いて、患者さんとスタッフで一緒にテレビにくぎ付けとなりました。
そして大谷選手がトラウト選手を三振に斬って取ったところで院内も大歓声!(Twitterのトレンドにも「病院の待合室」というワードがトレンド入りしたようで、当院のような光景は、他の全国各地の医療機関でも同様に繰り広げられたことでしょう)


35年間プロ野球を、そして30年間メジャーリーグを見続けていた私にとっては、「日本野球」がアメリカの地で、本気の「アメリカンベースボール」を決戦で破った場面は、なんとも感慨深い瞬間でした。

そのような感慨深い貴重な時間を頂くことができ、会計をお待ち頂いた患者さんには感謝です。

 

そういえば、当院の待合室でみんなでテレビに注目したのは、新元号「令和」発表の時以来でした。みんなで新元号発表の瞬間に盛り上がったことを覚えています。
思えばあれはコロナ前。そして今回はいよいよ(このまま落ち着いてくれれば)コロナ後で、何か久しぶりの世の中の盛り上がり、一体感とともに夜明けを見た気分です。

このまま夜が明け、明るい時代に突入することを切に願っています。


さて、前回に引き続き今回もアレルギーを題材にします。

前回も触れたように、今年の花粉飛散量は例年よりもかなり多くなっており、今年は今まで花粉症がなかったにもかかわらず今年から発症した方、また数年ぶりに久しぶりに発症した方も多くいらっしゃいます。
その中には「花粉症の検査をしたことがないから自分が花粉症かがわからなかった」とお話になる方が多くいらっしゃいます。

また「花粉症の検査をして陽性だったけど症状がなかった」、一方「逆に陰性だったけど症状が辛かった」などという、今までの検査結果と今の状態のギャップに戸惑っている方も多くいらっしゃいます。

 

そこで今回は、「採血でのアレルギー検査」についてお話をしてみようと思います。

 

通常、採血でのアレルギー検査は、アレルギーの抗体であるIgEを測ります(自由診療の領域で「遅延型アレルギー検査」としてのIgG検査を行っている医療機関もありますが、この検査は各国のアレルギー学会でその意義が否定されており、当院としてもおすすめしていません)。
IgEは前回も触れた通り「ちょっとおバカさん」な抗体で、アレルゲンが入ってくるとからだの中で「活躍」し、アレルギー反応を引き起こしてしまいます(詳しい説明は前回のブログからどうぞ)。

このIgEが体内に多いとアレルギー反応が起きやすいということになりますので、このIgEの量を測ることでその人のアレルギーの起こりやすさを推定することができるという訳です。

また、このIgEも一つ一つ細かく見ると、それぞれある特定の物質とだけ結合できるという性質をもっています。
たとえばスギ花粉症とだけくっつくことができるIgEは「スギ花粉特異的IgE」ダニの死骸やフンとだけくっつくことができるIgEが「ダニ特異的IgE」といった具合です。

そしてそれらを一つ一つ細かく見たものが「特異的IgE検査」というものになり、皆さんが良く見る「スギ」「ヒノキ」「ダニ」など各種アレルゲンに対し、0~6の7段階で示されている報告書に記載されている検査となります。

このIgE検査は「吸入系アレルギー」「食事系アレルギー」「接触系アレルギー」などに分けられ、花粉症や喘息、食物アレルギー、それにアトピーなどの皮膚アレルギーの原因を調べる際に良く用いられています。
1回の採血でさまざななアレルゲンを調べることができ、非常に便利な検査ではあります。

 

ただ、この検査には注意点があります。

 

まずこの検査で陽性の場合でも、アレルギー反応が起こっていない場合があり、この時はアレルギーが成立していると言ってはいけないということです。

先ほどもお話ししたように、IgEはそれぞれのアレルゲンに特有の形があり、一見その結果はそのままアレルギーの存在を表しているようにも見えます。
しかし、前回ブログでも言ったように、アレルギー反応は、IgEがマスト細胞」にくっつきながら、アレルゲンをとらえてマスト細胞を刺激することで起きますので、マスト細胞にくっついていないIgEは悪さをしないこともあるのです。

すると数値は上がっているのに症状が出ないと言ったことが起こり得るということになるのです。

また食物系アレルギーの検査では、より注意すべき点があります。

食物は基本的に体内で消化酵素で分解されます。また熱して食べることも多いものです。
すると、もとの食物に含まれているたんぱく質の構造が、体に吸収、消化されるときには変わってしまっているということが起き得ます。

ですので、検査の結果が必ずしも実態を反映しているわけではないということが起こり得ます(この問題を解決するために、最近ではその食物の中で特にアレルギー症状を引き起こすたんぱく質だけを抽出して、それに対するIgEを検査する「アレルギーコンポーネント検査」を行うことが推奨されています。ただ残念ながら正直専門医以外にはその検査の存在はほとんど知られていないのが実情です・・・)

食物アレルギー検査を行うにあたって大事なのは、この検査の数値が出ても症状がなければ摂取制限はする必要がないということです(中には症状が出ないにもかかわらず検査の結果で自分は食べられないと信じてしまい、数年にわたって制限をされてしまった方もいらっしゃいました・・・)。

 


一方IgEが陰性の場合でもアレルギー症状が出ることがあります。

これにもいくつか理由があります。

まず根本的に、アレルギーにはIgEが関わるアレルギーIgEが関わらないアレルギーがあります。
IgEが関わらないアレルギー(例えば薬剤アレルギーや皮膚アレルギーの一部など)に対しては、この検査は無力です。

また検出したIgEが少なくても症状が出てくるパターンです。

一見IgEの数値の大きさは、アレルギー反応の強さに関連しているように見られます。
しかし、実は値の大きさは症状の強さと必ずしも比例するとは限らないとされており、我々はむしろその数値を「アレルギーを持っている可能性が高いかどうか」の指標にしています。
検出レベル以下の微量なIgEが、アレルギー症状を起こすことがあり得るということもあるのです。

また、検査に用いたアレルゲンが、症状を起こしているアレルゲンと微妙に異なるケースもあります。
この場合、検査で用いたアレルゲンで測ったIgEが陽性でも、実際は症状がでないということは起こり得ます(もちろんその逆もあり得ます)。

もう一つ、花粉症などのアレルギー性鼻炎については、全身の血中のIgEが上がっていなくても、鼻や目などの局所の粘膜だけで反応が起きていることがあると報告されていますPowe DG, et al:Clin Exp Allergy. 2003;33(10):1374-9.
この場合、血液中のIgEが検出されなくても症状が生じるということになることがあるのです。

 


ということで、広く行われている採血アレルギー検査、額面通りに受け取れない場合もあるということをくどくどとお話をしてしまいました。
やはり、「アレルギーがあるかないかの判断」は、結構難しいものなのです。

生活の質を落とす「アレルギー」は、正しい対策を取ることで、比較的容易に生活の質を引き上げることができます。
そのためには検査はやりっぱなしでなく、しっかりと正しい解釈をして、正しい対策につなげることが大事になってくるのです。

いままでアレルギー検査で「モヤっ」としていた方、一度しっかりと相談して、その「モヤっ」とを解消して快適な生活を送れるようにしましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.03.09更新

やはり今年は花粉の飛散がハンパないですね・・・


当院にもあまりの症状のツラさにたまらず受診される患者さんでいっぱいです(ご予約がずっと先まで埋まってしまいなかなかお取りできずに申し訳ありません・・・)
一方当院におかかりの方の中には、当院が初期治療(2023.1.21ブログ)を行っていることもあり、周りが苦しんでいるのにもかかわらず自分だけ無事という方も多くいらっしゃいます(治療している自分自身が初期治療の力に少しビビってますw)。

そして、昨日は外来中に「注射のお薬で花粉症って治るんですか??」というご質問を何人もの方から頂きました。

スタッフに聞いたところ、どうも前日夜の日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」の中で、花粉症の治療が取り上げられており、その中でその注射の治療が取り上げられていたようです。

例年にない強い症状で、皆さんワラにもすがる思いでお過ごしなんだなって改めて実感しました。

今回はこの花粉症の注射療養「ゾレア(一般名:オマリズマブ)」について、触れてみたいと思います。

その前に、アレルギーってどうして起こるのか?ということについて、まずは少し説明してみたいと思います。

アレルギーを語るにあたり、まずはIgEというものを説明する必要があります。
IgEとはなんぞや、なのですが、IgEとは人間の体がもっている「抗体」の一種です。
他にも人間の体を守るためのIgA、IgM、IgG、IgDなどの「抗体レンジャーズ」があり、IgEはその一員です。

ただ通常「抗体レンジャーズ」は異物を体から追い出すために頑張ってくれるのですが、このIgEはその中では残念ながら少しおバカさんなのです・・・

抗体レンジャーズ

そして異物である花粉(これをアレルゲンと呼びます)などが体内に入ってくると、樹状細胞にとらえられ、その情報がT細胞、B細胞というリンパ球に受け渡されます。
そしてB細胞から、その異物にだけくっつくIgE(特異的IgE)が産生されます。

一方、体の中には「マスト細胞(肥満細胞)」という細胞があります。
このマスト細胞その中にアレルギー反応を起こす「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」などの物質を(これを「ケミカルメディエーター」と呼びます)を大量に蓄えています。

IgEは体内でマスト細胞めがけて進んでいきます。
そしてマスト細胞に到達するとIgEはマスト細胞にくっついて待機しています。
そして、体内に再度アレルゲンが入ってくるとケミカルメディエーターが大量に放出されてしまい、体にいろんな症状を引き起こしてしまうのです。

で、これを踏まえて治療を考えていきます。

一般的にアレルギーの薬とは、マスト細胞から飛び出してきたケミカルメディエーター、つまり「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」が働かないように、それらを邪魔するお薬となります(つまり「抗ヒスタミン薬」「抗ロイコトリエン薬」と呼ばれる薬です)。
またそれらのケミカルメディエーターによって起きてしまった粘膜の炎症を強制的に抑え込むのが「ステロイド」という薬になります(目の炎症であればステロイド点眼薬、鼻の粘膜の炎症であればステロイド点鼻薬、気管支の炎症であればステロイド吸入薬を使用するわけです)。

もちろんこれらはアレルギー治療の基本となる薬剤であり、とても重要な薬剤です。

ただ症状が強い方であると、これらの薬では効果が足りないこともあるのです。

そこで、今回紹介した注射薬「ゾレア(オマリズマブ)」の登場となります。

この薬はもともと喘息の治療薬でしたが、今から3年前の2020年3月に花粉症に対しての保険が適応となりました(実はその時に一度このブログでも触れたことがありました。この時よりはだいぶ安くはなりました)。

この薬は、IgEそのものの働きを止めてしまう薬になります。
つまりマスト細胞からそもそもケミカルメディエーターが放出されなくなることを狙った薬になるため、いままでの薬に比べて根本的な部分に対処することができるという訳です。

ゾレア作用機序

オマリズマブを花粉症で使う場合は、通常の抗ヒスタミン薬などの内服薬、点鼻薬などに上乗せして、シーズン中(最大3か月)のみ使用することとなります。
1回だけで花粉症が完治するというお話をを伺うことがあるのですが、あくまで「強力な対症療法」であり、「根治治療」ではないことは知っておいてほしいと思います。

先ほどもお話ししたように。この薬はもともと喘息に対して適応があったということもあり、喘息の方、花粉症の方をあわせて当院ではすでに20人以上の方がこの治療をされています。
いずれの病気も、私の感覚では70~80%の方には劇的に効果が表れている印象です(残念ながらアレルギーは複雑なので、100%とはならないところが難しいところなのですが)。

一方、この薬剤にも難点があり、それは「注射の回数」「お金」、そして「できる施設の少なさ」の部分となります。

まず「注射の回数」の部分です。
この薬は、先ほど説明したIgEの血中濃度体重の2つのパラメータで決まります。
ゾレア投与量
IgEが高いほど、そして体重が重いほど、使用する薬剤量は多くなります。
この薬は1本が150mg(もしくは75mg)なので、少ない人では1か月に1本ですが、多い人では2週間ごとに4本の注射を皮下に打たないとなりません。

多い本数になってしまうとなかなか気が引けてしまうのもわかります・・・

次に「お金」の部分です。

上でお話しした通り、この薬は使用量が人によってさまざまで、その幅は3割負担の方で1か月あたり約4400~70000円の幅となります(1割負担なら約1500~23000円となります)。
ゾレア値段

 ノバルティスファーマHPより

高額療養費の制度や、個々で入ってらっしゃる医療保険、それに職場の健康保険組合などにある独自の助成を組み合わせて負担を減らすことはできますが、それでもまあまあいい値段はしてしまうのが実情です。


とはいえ、この治療により生活が劇的に改善するのであればそのためのコストとして考えて頂くことも必要なのかなと思います。

最後に「できる施設の少なさ」なのですが、番組でも触れられていたように、花粉症は耳鼻科で治療をされることが多いのですが、すべての耳鼻科で治療を行っているわけではないようです。
やはり注射で直接免疫の根本を調節する治療であること、花粉症に使用できるようになってからまだ3年しかたっておらず耳鼻科の先生の中にはまだなじみが薄い薬であることが要因なようです。

対して内科は喘息に対してこの薬を10年以上使用しているので、その扱いに慣れているという面もあります。
ただこの薬剤を大人の花粉症に使用できる医師側の条件が、一定期間アレルギー領域、もしくは耳鼻科の専門研修を行った医師であるというのがあり、事実上内科でも当院のような呼吸器やアレルギーを専門に行っている医師がいないと(例え総合病院でも)使用できないという面があります。

私達呼吸器内科医も、慣れない耳鼻科の先生がゾレアをお使いになるときにのフォローをすることがあります。
できれば使える施設がもっと増えてくれて、必要な方により治療が届きやすくなればとは思っていますが、現状はまだまだというのが実情なようです。

ただアレルギーの治療法は一昔前とは全く変わり、大きく進化を遂げています。
そして毎年のように新しい治療法も出てきております。

アレルギーにお困りの方は、是非とも専門医のもとで、一度は最新のアレルギー治療に触れて頂きたいと思っています!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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