医師ブログ

2025.04.28更新

先日、私が担当させてもらっている公立中学校の、年に1回の健診業務に行ってきました。
私が担当するのは10クラス約400人。

健診

診察の際はカーテンですべて仕切って、生徒さんと養護教諭の先生と、3人きりになります

 

普段の診察ではまず診ることのない人数で、座りっぱなしでおしりは痛いし・・・聴診器つけっぱなしで耳は痛いし・・・(*´ω`)

しかし、流れ作業にせずしっかり診察すると、やはり見つかっていない病気が見つかるものです。

昨今、学校の健診で服を脱がせるのかどうかが議論になっています。
呼吸器内科医として聴診器を自分の体の一部のように扱うように育てられた私は、やはり服の上から聴診器を当てることによって、聞こえるべきものを逃してしまうのはどうしてもイヤなのです。。。
ですので私はもちろんシャツはまくし上げないように配慮しながら、できる限り肌に直接聴診器をあてて診察したいなと思っています。

今回見つけた方のうち何人かは、おそらく服の上から聴診器を当てていたら逃していた自信があります・・・

心臓の音に問題が見つかった方が何人かいらっしゃった一方、呼吸の音でも、気管支が狭まっていたり、痰が絡んでいたりする音が聞こえた方を何名か見つけました。

お話しを聞くと、「今まで咳が出るのが当たり前だと思って、我慢して生活していた」「よっぽど困ったときだけ病院に行っていた」というようにお話しする生徒がいました。
その方たちには、「まず医療機関にかかって、しっかりと診察を受けましょうね」とお話をしました。

その一方、しっかり病院やクリニックにかかっているのに、「喘息という診断をされて、吸入薬は出されたことがあるけど、『なるべく使わないで』と指導されていた」という生徒が複数いらっしゃいました。
曰く「吸入薬は、心臓に負担がかかるからあまり使ってはいけないよ」、と。

せっかく受診しているにもかからわず、十分に症状がコントロールできずに、日常生活でも咳や息苦しさに制限される生活を強いられていたのでした。

もちろん現在の観点では、この治療は適切ではありません。
現在の正しい治療法は、このブログで一億万回述べたように、基本薬は吸入ステロイドとなり、その他、抗アレルギー薬などさまざまな薬を組み合わせながら、調子が悪化した時にいわゆる「発作止めの吸入薬」を使う、というものです。

症状がずっと出ているにも関わらず、吸入ステロイドを使用していない時点で適切ではないという訳です。

という訳で、しっかりと正しい治療をしましょうね、ということなのですが、
今回お話ししたいのはそこではありません。


この場面でののもう一つの問題点、なぜ「発作止めの吸入薬は、なるべく使ってはいけないよ」と言われてしまうのか?

そもそも「発作止めの吸入薬」と言われる薬は、いったい何者なのか?
そして「発作止めの吸入薬」は、どの様に使ったらいいのか??

喘息の治療の中で、「発作止めの吸入薬」はとても重要な役割を果たします。
しかし結構誤解されている部分も少なくありません。

そこで今回は「発作止めの吸入薬」について、少しずつ紐解いていこうと思います。


そもそも「発作止めの吸入薬」って何?

いわゆる「発作止めの吸入薬」と言われている薬、これは正確には「吸入短時間作用型β₂刺激吸入薬」(これを「SABA吸入薬」と略します。これ以降はわかりやすく「SABA」という単語で記載します。「サバ」と呼んでください)という薬です。
名前の通り、効果が短時間で出てきて、その効果持続時間も短時間であるというのが特徴です。

代表的な薬剤にはサルブタモール(商品名:サルタノール、ネブライザーで行う場合はベネトリン)、プロカテロール(商品名:メプチン)などがあります。

SABA

 

ところで、β2って何でしょうか?

正確には、「交感神経」のβ2受容体という部分の事を指しており、この部分が刺激されると平滑筋(血管、気管支など、いわゆる内臓の筋肉が緩み気管支が拡がります

同時に、「交感神経」を刺激されると心臓は脈が速く、強くなります(血管が過剰に開くことで頭痛も発生することがあります)。
また骨格筋(いわゆる体を動かす、皆さんが通常イメージする筋肉)に対しては、「交感神経」が刺激されると、筋肉が緩んだり縮んだりを繰り返し、「ふるえ」の症状になって現れます。

ですので、この部分を刺激する薬を入れると気管支が拡がるため、喘息の時に急に気管支が狭くなって息が苦しくなったときの“駆け込み寺”的な薬として使用されるわけです。
一方、使いすぎると、その心臓への働きから動悸や頭痛、ふるえなどの症状が出てしまうのです。


喘息の治療の歴史

吸入ステロイドはゆっくりと効果を発揮し、気道の炎症を抑えて発作の起こりにくい状態に改善する役割を担います。

大昔には吸入ステロイドはこの世の中に存在せず、初めて吸入ステロイドが用いられるようになったのは1978年、今から46年前の事でした。
しかし最初の吸入ステロイド薬は、喉への刺激も強く、また一回に噴霧できる量も少ないため、回数を多く使わなければならないなど、煩雑なものでした。

その上、吸入ステロイドはその「ステロイド」というイメージから、長期で使用する事の抵抗感が患者だけでなく医師にも強かったようです。
その為、発売から十数年たっても喘息治療では、SABAを中心に「息苦しくなったら吸入」「楽になったらやめる」をくり返すような使われ方が当たり前でした。

 

しかし吸入ステロイドは炎症を抑える一方、SABAは炎症を抑えません(気管支を拡げるだけです)。
その上、SABAはずっと使用していると効きづらくなるという仕組みがあることがわかりました(ずっとSABAを使っていると、なぜだかβ2受容体が減っていってしまうのです)。

※なお、このことは後の時代になって明らかになったことでした。



そのような治療を続けた場合、炎症が持続的に起こりっぱなしになるため治りづらくなり、その上徐々にSABAも効かなくなってしまいます。
するとSABAの使用量はどんどん増えてしまうのですが、するとその副作用である動悸、頭痛、ふるえなどがどんどん悪化し、最終的には心臓がくたばってしまうわけです。

事実、現在年間の死者は1000人前後である気管支喘息のこの時代の死亡者数は、実に7000人を超えていたのです。

その後、気道の炎症を抑えることが大事だという考え方がようやく30年ほど前から広がり、また吸入ステロイドを長期で使用することの危険性も低いことがわかって、1993年に吸入ステロイド薬はようやく治療ガイドラインに載ることになり、その後2000年前後から吸入ステロイド薬は一気に広がることとなりました。

現在では、炎症を抑えるための「コントローラー」(=吸入ステロイド)に、発作を抑えるための「リリーバー」(=SABA)を組み合わせることで、発症予防と症状緩和を両立させる治療が基本となりました。


SABAの位置づけは変わったが

この変化に伴って、SABAの位置づけも“主役”から“脇役”へと移行することになりました。

日常的な使用は控え、症状が出たときのみに限定することで、過剰な副作用を抑えるように注意することが大事となりました。

しかし、吸入ステロイドの普及前、症状の安定しない喘息の方が毎日のようにSABAを使用し、毎日副作用に苦しむ姿を見ていた医師、薬剤師の苦い経験は、今でも心の奥深くに刻まれています。
そして、そのような経験は、また下の代に語り継がれていきました(それはそれで大事なことですが)。

ですので、一部の医療者の間では、SABAをいわゆる「最後の砦」として、「なるべく使わない方がいい薬」との位置づけで理解されてしまうことと相成ったのです。

SABAをガマンしすぎてしまうと・・・

しかし、それによる問題も出てくるようになりました。

吸入ステロイドを使用しても、その症状の強さ、薬の強度、吸い方による気管支の奥への届き方によって、症状が十分にコントロールできない喘息の方は今でも多くいらっしゃいます。
また、普段安定している方でも、風邪や花粉症など、引き金を引いてしまうことで、ある時急に悪化してしまうこともあります。

その場合、SABAを「最後の砦」として、ギリギリまで使用しないとどうなってしまうでしょうか。

気管支が狭い状態が続くので、息苦しく、咳も止まらない状態が続いてしまいます。

苦しくなると、もちろん日常生活は著しく制限されてしまいます。
それだけでなく、苦しい状態で頻呼吸をすることで、それが気管支へのさらなる負担となってしまい(気管支は乾いた大量の空気に弱いのでした)、さらに炎症が悪化、気管支が狭くなってしまう事態となってしまいます。
そして悪化状態が続くと、喘息は悪化した状態でそのまま固まってしまうこともあり、より不安定に、より重症になってしまうわけです。

もちろん、吸入ステロイドを正しい量で、正しく使うことが一番大事なのですが、それでも調子が悪くなった時、SABAを躊躇なく使うということは、今でもとても大事なことなのです。


では、どんなときにSABAは使えばよい?

大事なことは「ガマンし過ぎない」ことです(苦しいのを耐えることが美徳という考えもあるのかもしれませんが、喘息の場合苦しいのを耐えると、次に余計苦しくなる状況がやってくるだけで、全く割に合わない努力です・・・)

たとえば、喘息の調子が悪く「なりそう」だったら、早めにSABAを使用してもらったほうが、結果的には使う総量が増えないで済みます。
逆にSABAを「最終手段」と考えて、我慢できなくなってからSABAを使用しても、もはやSABAは効かなくなってしまうのです。

確かに使いすぎると副作用は出る可能性がありますが、心臓に対する大きなダメージは、基本的に長期間継続的にSABAを使ったときです。
たまに来る、調子の悪い時のみにSABAを多く用いても、基本的には一時的な副作用の問題を引き起こす可能性があるのみです。

またすぐに効いて、すぐに抜ける薬なので、動悸、頭痛、ふるえなどの症状が出ても、その時点でやめてしまえば、その副作用が何日も続くことはありません。

苦しくなったら、メプチンやサルタノールは、躊躇なく、症状が落ち着くまでしっかり使いましょう!



「運動すると苦しくなる場合」はどうする?

一方、階段を駆け上がったあとや、自転車を急いでこいだ時、それに有酸素運動(ランニング、サッカーなど)をした時に、息切れやぜーぜーがひどくなることがあります。

「運動誘発性喘息」と言い、こちらは症状が悪化してからすぐに使うのはもちろん、運動の前や、運動を始めて最初の数分のうちに吸入してしまうことで症状を軽減できるのです。

運動で苦しくなることが予想されるときは、SABAは予防的に使ってしまいましょう!


でも、やはり「使い過ぎ」にはご注意を


ただし、SABAはあくまで「発作を一時的にやわらげる」ための薬です。
症状が出たらすぐ吸入することを忘れない一方、楽になったらすぐやめる ── これが鉄則。

また、あくまで喘息の炎症を抑えるのは吸入ステロイド。

SABAをつかったらすぐに楽になると言って、SABAに頼りきって、吸入ステロイドを飛ばしてしまうことは絶対にやめましょう。

30年前の、あの時代の治療法に逆戻りです・・・


SABAを使用する際に気を付けるべきポイント

では、最後にSABAを正しく安全に使うための注意点を以下にまとめます。


使用頻度の管理


「1日4回」など、医師の指示がない限り、あらかじめ決めた範囲を超えないよう心がけましょう。

目安を超えたら、吸入ステロイドの増量や変更など、何かしらの治療変更が必要になるタイミングです。
次回受診前でも、お早目の予約外受診を検討しましょう(当院はおかかりつけの方なら、ご連絡をいただければ診察日には必ず当日、もしくは翌日受診が可能です)。


吸入方法の確認
気管支までしっかり薬剤を届けるには、他の吸入薬と同じく、吸入器の使い方を正しくマスターする必要があります。
定期的に医師や薬剤師、それに看護師に確認してもらいましょう(当院では今年から看護師による吸入指導を開始しております!)。


全身症状に注意
手の震え、動悸、頭痛、倦怠感などの副作用が強い場合は、SABAの使い過ぎです。
人によっては、SABAが子供の量(時には幼児の量)でも、副作用が強く出てしまう方がいらっしゃいます。

SABAの使い方をカスタマイズすると、SABAをより有効に使えるようになることもあります。
喘息の治療経験が豊富な医師にご相談いただきたいところです。

また同時に、喘息の治療を適切な強度に変更したり、また時には、そもそも喘息ではなく他の疾患である可能性も考えなければいけないときもあります。
こちらも要相談です。


記録を残す
SABAを使用した時間・回数などを記録し、定期的に医師と共有しましょう。
詳しいデータがあると、医師も今の状況を把握しやすくなり、適切な指示を出しやすくなります。

 

SABAをうまく使いこなせるようになれば、喘息はずっと楽になります。
また、悪くなっても対処ができるという安心感も、長く付き合っていくには重要なことです。

ぜひ、うまくSABAを活かして、快適な生活を送ってください! 


お知らせ

茅ヶ崎駅北口のロータリーの今井薬局さんのビル3階に、糖尿病を専門とするクリニックがオープンされました。
「おおくぼ内科クリニック」さんで、茅ヶ崎市立病院代謝内分泌科出身の大久保 和哉先生が院長をされています(当院にもご挨拶に来られました)。

開院

幅が違うな~


もちろん、糖尿病専門医の資格をお持ちの先生で、血糖値のご不安に、専門医の技術で対応されます。
昨今、専門医でもないのに呼吸器、糖尿病を宣伝し、(それでも症状がよくなればいいのですが)症状がよくならずに当院に駆け込む患者さんが増えてしまっています・・・

おカラダのお悩みを相談するなら、ぜひ確かな技術を持った医師にご相談を!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.04.07更新

いよいよ4月、新年度に入り、新しい生活がスタートした方も少なくはないでしょうか。

当院でも4月から診療体制の変更で、新しく池田 秀平先生、永山 貴紗子先生の2名の呼吸器内科の先生に仲間に入っていただき、金曜午後の診療時間の延長も行い、金曜午後は13時から診療を開始しております。

毎年4月上旬は、新生活でお忙しかったり、また保険の切り替えの方も少なくないからか、やや診療枠に余裕が出ることが多い時期です。
今年もパンパンだった3月までとは多少異なり、時間帯によっては枠に余裕のある日もあるようです。

また新しく2名の先生がいらっしゃったことにより、新患の方のための枠も大幅に増加しました。
(日による違いはありますが)火曜午後、金曜午後は新患の方の枠がお取り頂きやすくなっているようです。

長引く咳やアレルギー症状でお困りの方は、今なら比較的直近のご予約をお取り頂けるようですので、(当院はそんなに敷居の高いクリニックであるつもりは毛頭ございませんので・・・)ぜひお気軽にご予約下さい!


いよいよヒノキ花粉の飛散が開始!

さて、そんな4月は、スギ花粉の飛散がそろそろ終盤を迎えるのと同時に、ヒノキ花粉の飛散が始まる時期でもあります。

皆さんご存知の通り、「スギ花粉症なのに、ヒノキの花粉にも反応してしまう」方は少なくありません。
そして実際、採血検査でも、スギ花粉とヒノキ花粉の両方に陽性反応を示すケースが非常に多く見られます。

これはたまたまなのではなく、しっかりとした理由があります。


「花粉症のしくみ」

花粉症というのは、花粉という異物(抗原)が体内に入ったときに、免疫システムが過剰に反応してしまうことで起こります。
通常、免疫システムは病気を引き起こす細菌やウイルスを攻撃するために働きますが、花粉症の方の場合、無害な花粉のタンパク質にも過敏に反応してしまうのです。


花粉症の悪の主役、「おバカ抗体」IgE

具体的には、花粉が体に入ると、免疫細胞が花粉を「異物」として認識し、IgEという抗体を作ります。
以前もお話ししましたが、抗体とは異物を除去するための体内で作る「飛び道具」なのですが、IgEはいわゆる「おバカ抗体」で、このIgE抗体はあまり体に有益な働きをせずに、アレルギー反応を起こしてしまう抗体です。

異物である花粉が体内に入ってくると、アレルギー体質のある人はIgE抗体を作ってしまいます。
するとIgEは体内にあるマスト細胞という細胞にくっつきます。
マスト細胞の中には、アレルギーを引き起こすヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質の顆粒が大量に含まれています。

その後再び花粉が体内に入ってくると、マスト細胞にくっついたIgE抗体に、花粉のタンパク質(抗原)がくっついて、マスト細胞からアレルギーを引き起こす化学物質が大量に放出され、くしゃみや鼻水、目のかゆみといった症状が引き起こされるわけです。


「スギ」と「ヒノキ」の花粉は形が似ている!

では、なぜスギ花粉症の人がヒノキ花粉にも反応するのでしょうか?

その理由は「交差反応」という現象にあります。
「交差反応」とは、一つの物質に対して作られた抗体が、構造がよく似た別の物質にも反応してしまう現象のことを言います。

スギとヒノキはともにヒノキ科に属し、実は非常に近い植物同士です。
そして、スギ花粉に含まれるタンパク質(主要抗原Cry j1、Cry j2)と、ヒノキ花粉に含まれるタンパク質(主要抗原Cha o1、Cha o2)の構造は非常に似ています。

そのため、スギ花粉に対するIgE抗体がヒノキ花粉にも結合してしまうのです。


それゆえ、スギ花粉に対する反応を起こす患者さんは、ヒノキ花粉の時期にも症状が続いてしまいます。
スギ花粉の飛散ピークは通常2月~3月ですが、その後3月下旬から4月にかけてヒノキ花粉の飛散が始まってしまうため、春を通して症状が長く続いてしまう人が多いのです。


「ヒノキ」花粉症にはのどのいがいが、咳が多い!

とはいえ、スギ花粉症とヒノキ花粉症が全く同じという訳でもないようです。

報告では、ヒノキ花粉症はスギ花粉症より、喉の「掻きたくなるようないがいが」や、それに伴う咳の症状が多いようです。
またその症状も、ヒノキ花粉が少しでも飛び始めただけの時期でも強い症状がでることがあり、とてもヒノキ花粉に対して敏感に反応するということがあるようです(その理由はまだよくわかっていないようです)。

実際、当院でも3月下旬のヒノキ花粉飛散時期から、目に見えて喉のいがいがと、これに伴う咳の症状の方が増えています。


咳と言えば「喘息」ですが・・・

長引く咳というと、やはり「気管支喘息」のイメージを持たれる方が多いかと思います。
このブログでも何度もお伝えしているように、気管支喘息は「ステロイド吸入薬」が治療の一番の主役です。

一般的に「ステロイド吸入薬」を使用するとよくなる咳は、「気管支喘息」と診断されることが多いです(風邪の咳はステロイド吸入薬が効かないため)。



「ヒノキ」花粉症の咳は「喘息」と間違えられやすい!

しかし、この「花粉症による咳」も、実はステロイド吸入薬が効いてしまうのです。
ですのでこの時期、咳で医療機関を受診した方の中で、実際は「花粉症による咳」だったにもかかわらず、ステロイド吸入薬を使用して改善したことで、「気管支喘息」と誤診されてしまっている方も少なくありません。

でも、よくなったんだったらどっちでもいいじゃん。。。

そのように思われる方もいらっしゃるかとは思いますが、でもやはり、「気管支喘息による咳」と「花粉症による咳」は、しっかりと区別する必要があるのです。


「喘息」と「花粉症」の咳は、治療する機関が異なる

その理由は、お互いの病気を行う「治療の期間」が異なるためです。


以前にもお伝えしたように、気管支喘息は、基本的には症状がよくなっても治療を続けて頂きたい病気です(しかし吸入で症状がよくなったら止めていいというように医療機関から指示されている方が少なくないのがまた悩みの種です・・・)。

ですが一方、花粉症は(あたりまえですが)シーズンが終わったらもちろん治療を終了していい病気です。

これらを見極めることが、続ける必要がある治療、シーズン終了で終わっていい治療をしっかり区別することにつながるというわけです。


その見極めは難しい・・・是非「専門医」へ!

でも、先ほどお話したように、「喘息の咳」と「花粉症の咳」は、「ステロイド吸入薬」の反応では見極めがつかず、一般的な診療では非常に難しいと言われています。

その見極め方法は、お持ちの体質や既往歴、症状の特徴や経過、随伴症状、今までの治療の反応性などなど・・・ここで皆さんに説明するには少し複雑すぎるので。。。

そこら辺の見極めはどうぞ私たちにお任せください!

私たち専門医が、様々な角度からお話をお伺いし、いろんな検査も駆使して、その咳を止めるだけでなく、今後の長期の対策も一緒に立てていきます。


「長引く咳」に終止符を打ちたい方、私たち専門医と一緒に、その目標をぜひ叶えましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.03.23更新

前回ブログを上げてからおおよそ1か月が経ってしまいました・・・。
月2本はブログを執筆したいと思っていたのに、痛恨の極みです。

そんな中、当院は相変わらず多くの患者様にご来院頂いておりますが、3月に入り、長引く咳だけでなく、なかなか良くならない目や鼻のアレルギーにお悩みの方のご来院が増えてきております。

前回のブログでもお見せした、神奈川の花粉飛散量は2月25日ごろから本格的に増加しています。

花粉飛散状況

神奈川県自然環境保全センター 研究企画部HPより

 

また今週から黄砂の飛散も始まりそうで、ますますアレルギーをお持ちの方にはおツラいシーズンになりそうです。


結膜炎に「塗る」薬!?

そんな中、目の症状に対する新しい選択肢が現れました!

それは、まぶたに塗る塗り薬!

「アレジオン眼瞼クリーム」という新しい剤型のお薬が今年から使えるようになりました!

アレジオン眼瞼クリーム
これまで花粉症やアレルギー性結膜炎の、目のかゆみや赤み、涙目などの症状には、主にアレジオン点眼液やパタノール点眼液などの「抗アレルギー点眼薬」を使用してきました。

「抗アレルギー点眼薬」は、目の表面に直接働きかけてヒスタミンをブロックし、かゆみや充血を抑える働きがあります。
さらに症状が強い場合にはステロイド点眼薬が用いられ、炎症をより強力に抑制します。


しかし点眼薬には目にさす際の刺激感が気になる方もいらっしゃいます。
また使用する際にわずらわしさを感じる方もいらっしゃり、毎日2~4回の点眼をなかなか定期的にできないという方も少なくありません。


レジオン眼瞼クリームは「結膜炎」の薬

一方でアレジオン眼瞼クリームは、まぶたの皮膚に塗るタイプの外用薬で、アレジオン点眼液と同成分の抗ヒスタミン成分が配合されています。
このお薬は、あくまで目の中のかゆみに効果を示すお薬です(目の周りのかゆみにも効果はありますが、それがメインの目的ではないのです)。
1日1回、上下のまぶたに塗ることで、抗ヒスタミン成分がまぶたを通じてゆっくりと目の結膜に浸透し、目の周りだけでなく目の中にも効果を示します。

その効果はアレジオン点眼液と同等となるように設計されています。


「1日1回」は使い勝手がいいかもね

アレルギー疾患は、出てから抑えるより、出ないように抑える方が効果が高くなります。

できればシーズンの間は、症状が出ないように予防的にお薬を使っていただきたいのですが、忙しい、忘れやすい、目薬が苦手、それに昼に点眼する事でメイクが崩れてしまうなどのために点眼しにくいなどの理由で1日2~4回定期的な点眼ができない方は、1日1回塗るだけでいいアレジオン眼瞼クリームは良い選択肢となりそうです。


今までも点眼で問題ないのなら無理に変えなくてもいいです

一方、やはり即効性という面では点眼薬の方がやや上かなという印象は受けます。
とはいえど、先ほどお話しをしたようにアレルギー性結膜炎は、症状が出ないように定期的に薬を使用してほしいものなので、そもそも即効性はあまり重要ではないかもしれません(定期的に使用してもかゆみが残る場合は、そもそも飲み薬の変更やステロイド点眼薬の上乗せを考えるためです)。

また、点眼した時の爽快感を感じる方もいらっしゃいます。
さきほどもお話ししたように、点眼とクリームは正しく使用していれば効果は変わらないといわれているので、点眼で問題なく症状がコントロールできている方は無理に変える必要はありません。


クリームは「塗り方」が超重要!!

アレジオン眼瞼クリームがしっかり効果を出るように使うには、塗り方がとても重要です。
とても小さなチューブなのですが、そのチューブから片眼につき1.3cmの薬を絞り出し、上まぶたと下まぶたに半分ずつつけて目の周りに広げるという塗り方を守ることが大事です。

この際、薬が目の中や粘膜に入ってはいけません(点眼薬より濃度がとても濃いからです)。
目に入ったら洗い流しましょう。

塗った直後は入浴、洗顔ができませんが、しばらく経ったら入浴、洗顔、メイクしても大丈夫です。
そのため、夜寝る前に使うと使いやすいかもしれませんね。


コンタクトでもOK!

他の点眼薬や塗り薬を併用する際は、このアレジオン眼瞼クリームを最後に使うことが大事です。
コンタクトを付けたままの使用は構いません。


薬価は少し高いかな

1本で両眼に1か月使用する事ができます。すると3割負担で1か月1000円ほどとなります。
点眼薬ではアレジオンLX点眼が(先発品ということもあり)一番高いのですが、1か月750円ほどになり(他の後発品はもっと安くなります)、値段の面では現時点では一番かかることはお伝えしないといけません。


「花粉症」にガマンはいりません!

花粉症の時の目のかゆみは、症状の中でもツラいものの一つです。
「ガマンすれば何とかなる」と考えていらっしゃる方も少なくないのですが、ガマンしなくてもいいならその方がいいですよ、絶対・・・

春風の気持ちいい季節、気持ちよく外出して春を楽しむためにも、是非積極的な治療を検討してみてください!



さて、1か月ぶりのブログです。

そもそも、なぜこんなにブログを書くことができなかったのか・・・


呼吸器内科医が5名から7名に!!

当院は今年4月からまた診療体制を強化することになりました。
新しく呼吸器内科医を2名お迎えし、呼吸器内科医総勢7名での診療体制が開始になります!

ただ、医師が増えることによる診療の方向性のぶれはなるべくなくしたいと思っております。

その為この1か月間、私は当院の診療方針となる「茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 診療マニュアル」の作成に力を注いでいました。

まずは少しずつ書き始めたのですが、徐々に自分の18年の診療経験で、「あれもこれも伝えたい!」と書きたいことがどんどん湧いてきて・・・

結果140ページを超えるマニュアルに成長しました(つまり、こっちばっか書いていたためにブログ執筆に使う時間が無くなってしまったという訳でした)。

マニュアル
当院にいらっしゃる他の先生もそれぞれの診療経験、診療のコツをお持ちですので、他の先生のそれらのエッセンスも取り込んでいます。

この診療マニュアルも活用し、どの先生を受診された際もできるだけ均質な診療ができる体制を整えていこうと思っています!


新しい医師のご紹介!

ここで今回新たにお越し頂く2名の医師を紹介したいと思います。

永山 貴紗子(ながやま きさこ)先生

【火曜午後、金曜午後】内科・呼吸器科・皮膚科担当

現在30代の先生です。
国が指定する「アレルギー中心拠点病院」であり、国内のアレルギー診療の総本山である「国立病院機構 相模原病院」で研修の後、そのまま現在に至るまでスタッフとして診療に当たられています。

内科、呼吸器科領域を専門に研鑽をされ、呼吸器専門医をお持ちですが、何と横浜市立大学皮膚科でも2年間の勤務経験を持つという、希少性の高い経歴をお持ちです。

そのためアレルギーに関わる皮膚の病気に関しても造詣が深く、アレルギー診療に対する幅の広さ、懐の深さは随一の先生です。

喘息や花粉症、アレルギー性鼻炎、それに皮膚疾患に加え、食物アレルギーなどのなかなか専門診療が受けられない分野の診療も専門的に行うことができます。


池田 秀平(いけだ しゅうへい)先生

【金曜午後】内科・呼吸器科担当

現在30代の先生です。

横浜市立大学医学部出身で、その後大学で研鑽した後、現在は横浜栄共済病院呼吸器内科のスタッフとして中心的役割を果たしています。

当院にも今まで何度か診療のお手伝いをしてくれていましたが、今回晴れて当院で継続的な勤務が始められることになりました。

医師としての能力も高く、その中でも基幹病院で培った内科、呼吸器科、アレルギー科診療の総合力が持ち味です。

それに加え非常にきさくで話しやすい先生で、たぶん今後人気になる先生だと思います。


金曜午後の昼診療を開始します!

またこれに合わせ、金曜日の診療時間を延長することになりました!

午後の診療は通常2時30分から開始ですが、金曜に限り午後1時から開始になり、診療時間が1時間30分延長することになりました(終了時間は従来通り5時30分となります)。


新患枠も増やします!!

また、枠が増えることで、4月から新患で受診希望の方の枠を増枠することができるようになりました!

いままで咳やアレルギーでお困りの時に、受診できるまで数日以上お待ち頂かざるを得ないケースも少なからずありましたが、今後しばらくは、前日や当日のご予約もお取り頂きやすくなるかと思います。



これからしばらく続くつらいアレルギーの季節、どうぞお気軽にご予約下さい!

アレルギー専門診療ならではのきめ細かい治療で、快適な春をお届けします!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.02.25更新

※本題はこのブログの真ん中以下です!!


この連休、皆さんはどうお過ごしでしたでしょうか?

当院の、小学校を卒業するinstagram動画作成スタッフ(=私の息子)は、卒業記念には
「どーしても雪を見たいっ!!」
と、ずっと言っていました。

藤沢生まれ、茅ヶ崎育ちの息子は、数年に1回の、それもみぞれ交じりの雪しか体験できていません。

ちょうど先週から、日本列島には強烈な寒気が入り、日本海側で大雪に見舞われているタイミングでした。

せっかく雪を見に行くなら、豪雪のパウダースノーを体験できる今しかないっ!!というわけで、この連休を使って私たち親子2人で越後湯沢に行ってきました(妻と娘は寒いのがニガテなので留守番です)。

そして雪遊びをしたいという息子に、本格的な雪遊びをさせようということで、人生初のスキーを体験させました。


スキー場に行ったこともなければ、スキー板を履いたこともない息子ですので、半日のスキーレッスンを受けさせることにしました。

マンツーマンレッスンだったので私は離れていたのですが、終了時にインストラクターの方が

「お父さんお医者さんなんですってね」
「はい、そうですが・・・」
「実は私も医師なんですよ」
「!?、整形外科とかやられているんですか?(スポーツ好きは整形外科という院長独自調べおよび偏見)」
「呼吸器、アレルギーが専門なんです」
「!!??」
「品川で呼吸器クリニックを開業していて、週末に越後湯沢まで来てインストラクターをしてるんです」

なんと、インストラクターの方は、同業者でした!
先生のお名前は「林 永信 先生」とおっしゃり、大井町で「はやしクリニック」という、呼吸器、アレルギーを専門とし、CTまで併設するクリニックを経営されている先生でした(記事への掲載の許可は頂きました)。

「皆さんには医師とインストラクターの二足のわらじを履くのがすごいと言われるのですが、私は好きでやっているので、何もすごくないんですよ」と。

いや、すごいですよ、先生・・・


さらにお伺いすると、すでに医師を50年以上されている先生とのこと・・・!

もう、開いた口がふさがりません。

大学で20年、総合病院で20年、研究、診療を精力的に行われ、総合病院副院長まで務められた後にクリニックをご開業されたことの事で、コロナの際も医療機関を受診できない患者さんのためにCTを駆使して診察を続けられたとのことです。

これに加えてスキー指導員の資格をお持ちになりながら、週末にスキーを教えに越後湯沢に新幹線に通ってらっしゃるとのことで・・・


私が到底過ごすことのできないであろう生き方をされている、まさに羨望の眼差しで見ざるを得ない、輝かしい後光が差す偉大な先生でした。

 スキー


息子へのレッスンは午前で終了し、初心者だった息子は午後にはリフトに乗って1本滑り降りてきました。
丁寧にレッスン頂いたことに感謝し、最後には「今日はすごい雪でしたが、明日からは暖かくなるようで、私たちも花粉症の診療で忙しくなりますが、お互い頑張りましょう」と、私にまで激励いただきお別れをしました。

「ん?忙しくなる・・・?」
そうだった!休み明けの仕事を思い出しました!

寒気が去って暖かくなる今週、多分、花粉、飛ぶんだった Σ(゚д゚lll)


そんなわけで、今回も花粉症についての記事を書いてみたいと思います。


※ここからが本題です!

 

今年の花粉はこ・れ・か・ら ♪

今年は1月に多少花粉が飛びましたが、その後は比較的落ち着いていました。
今時点で「今年はあまり症状が出ないかも」とおっしゃる方も少なくありません。

しかし、データを見てみると、ここ神奈川では、まだ本格的な花粉の飛散は起きていないようです。
さらに、今年の花粉の飛散量は、昨年を超える可能性が考えられています。

下の図で昨年と比較をしてみましたが、これを見ると、花粉の飛散はまだまだ、これからだ、ということがよーくわかります。

神奈川花粉飛散量

神奈川県自然環境保全センター 研究企画部HPより

ですので、今週以降、花粉症の方は、心してかかる必要があります。



花粉症は目と鼻だけではない!

花粉症というと、くしゃみや鼻水、目のかゆみが一般的な症状として知られていますが、実はそれだけではありません。

花粉は全身にさまざまな影響を及ぼし、皮膚や神経、消化器、さらには睡眠にも影響を与えるのです。

しかし、その症状が花粉が原因で起こっていることに気づいていない方も、実は少なくありません。


そこで今回は、花粉症の方で意外と悩まれている方も多く、また気づかずに困っていらっしゃる方も多くいらっしゃる「花粉症が起こす、目と鼻以外の症状について触れてみたいと思います。


花粉は喉に影響します

まず、花粉が鼻や口から吸い込まれることで、喉の粘膜が刺激され、炎症を引き起こすことがあります。
その結果、喉の痛みやかゆみが現れることがあります。

これは、ヒスタミンロイコトリエンという、アレルギー反応を起こす物質が喉に作用してしまうためです。

また、喉に刺激が加わることで、長引く咳が起こることも珍しくありません(喉頭アレルギー、アトピー咳嗽などがこれにあたります)。

その上、もともと喘息を持っている方は、鼻の炎症が気管支に波及して、喘息の悪化につながることもあるので、喘息をお持ちの方は、危険なシーズンであるとも言えるのです。

こうした症状を和らげるためには、抗ヒスタミン薬やロイコトリエン拮抗薬といった内服薬を服用したり、ステロイド点鼻をしたりすることで(喉頭アレルギー、アトピー咳嗽による頑固な咳は一時的にステロイド吸入を行うことが有効です。また喘息の方は、切れ目なく吸入を継続する必要があります)対処します。

またこまめに鼻うがいをしたりすることも有効ですし、さらに咽頭スプレーのどぬーるスプレーなどですね」を使うと、喉の違和感を和らげる助けになります。


今度は肌への影響も

また、花粉は肌にも影響を与えることがあります。

特に敏感肌の方やアトピー性皮膚炎を持っている方は、花粉が皮膚に付着することでバリア機能が低下し、かゆみや肌荒れが悪化することがあります(これを「花粉皮膚炎」と呼びます)。

この時期は空気も乾燥していることが多く、皮膚の乾燥もバリア機能の低下につながります。
すると、皮膚から花粉のアレルゲンとなるたんぱく質が侵入し、皮膚でアレルギー症状を引き起こします。


症状としては皮膚のかゆみ、発赤(特に目や鼻の周囲が悪化しやすいです)、かさつき、ほてりなどがみられます。

花粉症の方のうちの約30%もの方が、皮膚のかゆみ、肌荒れを訴えているとも言われています。

これを防ぐためには、花粉症の治療薬である抗ヒスタミン薬をしっかり内服したうえで、保湿をしっかり行い、程度に応じて塗り薬を使用することが大切です。

また、外出後はすぐに顔を洗って花粉を落とすなど、花粉と皮膚が接触する時間をなるべく短くすることで、肌トラブルを軽減できます。


頭痛だって引き起こす・・・

花粉症は、頭痛を引き起こすこともあります。

まず、花粉症によって鼻が詰まってしまうと、酸素が脳に十分に届かず、頭痛が起こってしまうことがあります。

また鼻の粘膜がアレルギー反応によってむくんで鼻詰まりとなり、その影響で副鼻腔と鼻腔の間の道がふさがれてしまうことがあります。

すると出口をふさがれてしまった副鼻腔の内部の圧力が上昇し、頭痛の原因となります。
加えて副鼻腔の中で逃げ場を失った細菌が増殖してしまうと、副鼻腔炎を発症し、これが原因の頭痛をきたしてしまうこともあるのです。

こうした症状を和らげるために、抗ヒスタミン薬点鼻ステロイドを使用して鼻の炎症を改善し、シーズン中それを維持することが効果的です。



また一方、もともと片頭痛持ちの方は花粉症によるアレルギー反応がきっかけで、片頭痛発作を誘発しやすくなる場合があります。

片頭痛の場合は、ズキンズキンと脈打つような痛みが強まることが特徴です。

普段からの片頭痛治療をしっかり続けることが大事になります。



不眠の原因になることも

さらに、花粉症は睡眠にも大きな影響を与えます。

 

鼻の症状やだるさなどのせいで寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたりすることが増え、結果として日中の眠気や集中力の低下につながります。

 

実際に、花粉症の患者さんの多くが睡眠の質の低下を訴えており、特に深い眠りであるレム睡眠が短くなることが指摘されています。

 

これを防ぐためには、適切な治療を行いつつも、寝る前に鼻洗浄や、寝るときの寝室の湿度を適切に保つ、鼻詰まりが強いときは少し上半身を起こして寝ることも有効と考えられます。



だるさもアレルギー反応のせいのことが

また、アレルギー反応によって、体内に炎症を引き起こす「サイトカイン」という物質が分泌されます。
このサイトカインが体全体に炎症を引き起こすことで、体がだるく感じたり、集中力が落ちたりすることがあります。

また、先ほどお話しした鼻詰まり、頭痛などの症状により、先ほどお話しした不眠が起こると、それがだるさになって表れてしまいます。

薬による治療はもちろん、さらに血流を良くするために軽い運動を取り入れたり、オメガ3脂肪酸やビタミンDを含む食品を積極的に摂るのもおすすめです。


また治療薬によってもだるさが出てくることがあります。
アレルギー薬の主役である「抗ヒスタミン薬」の中には、眠気をきたす可能性のある薬剤がありますが、これが昼まで持ち越すとだるさとしてとらえられます。

このような症状が出た際は、適切に抗ヒスタミン薬の種類や投与可否の再検討をする必要がありますので、処方医にお早めにご相談ください。


花粉症とおなかの症状!?

意外かもしれませんが、花粉症は消化器にも影響を及ぼすことがあります。

最近の研究では、腸内細菌のバランスとアレルギー症状には密接な関係があることがわかってきました。

そのため、花粉症の方の中には、腹痛や下痢、便秘などの症状を訴える人も少なくありません。
これは、腸の粘膜が炎症を起こすことで腸内環境が乱れるためだと考えられています。

また、先ほど挙げた「サイトカイン」が、腸に作用してしまうケースもあります。

対策としては、やはりアレルギー治療はしっかりと行いつつ、乳酸菌を多く含むヨーグルトや発酵食品を摂取し、腸内環境を整えることが重要です。
また、アレルギーを引き起こしやすい食材を避けることも、症状の改善につながります。

 

花粉症の治療をしっかりすれば、いろいろな悩みが解決できるかも!

このように、花粉症は単なるくしゃみや鼻水の病気ではなく、体全体に影響を及ぼすことがあるのです。

しかし、症状の原因を理解し、それに合った対策を講じることで、症状を軽減することができます。

まずは症状に応じた適切な薬の選択がいちばん大事です。
お近くのアレルギー専門医にぜひ相談してみてください。

また今回挙げた豆知識を、少しずつでもいいので毎日の生活の中で取り入れて頂けることも有効です。

これからつらい季節になりますが、これらの工夫で症状を和らげることができるよう、ぜひ一度お試しください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.02.01更新

相変わらず咳が長く続く方、多くいらっしゃいますね・・・

先日、当院に2024年4~9月に当院に保険診療でいらっしゃった新患の方のデータをまとめてみました。

すると、この半年で当院にいらっしゃった新患の方全体(2340人)の2割弱の発熱、感染症外来の方を除くと、そのうちの86%の方が咳の方でした(ちなみにアレルギー症状まで含むと全体の91%でした。当院では循環器専門外来、消化器専門外来も行っていますので、この数字も含んだ上です)。
新患患者内訳

咳でお困りの方の最後の砦として当院がお役に立てているだろうことがわかり、ありがたいと思う一方、改めて身が引き締まる思いでした。


そんな「咳」という症状は、日常的によく起こる症状の一つですが、その原因は多岐にわたります。

以前こちらでもお話したように、咳はその続いている期間の長さで、原因が変わります。

長引く咳に関しては、この院長ブログでも何度も触れているように、気管支喘息、鼻炎、胃食道逆流など、感染症ではない様々な原因が考えられます。

一方、割と出てすぐ(3週間以内)の咳は、やはり、風邪や気管支炎をはじめとする感染症が原因であることが多いです。


そうすると、多くの人は咳が続くと「細菌感染が関与しているのではないか」「抗生物質を飲めば治るのではないか」と考えがちです。

そして、一般的な医療機関では、この状況に対して「抗生物質」を出されるケースが少なくありません(本来は「抗菌薬」という用語を使うべきですが、わかりやすさ重視でここでは皆さんに馴染みやすい「抗生物質」という用語で説明していきます)。


しかし、当院では「抗生物質」をお出しするケースが、他の医療機関と比べて非常に少ないというのが一つの特徴です。

中には「抗生物質が欲しいです」とお話をされる患者さんもいらっしゃるのですが、当院では抗生物質の処方について、ある考えをもって行っており、必ずしも期待にお応えしているわけではありません。

もちろん呼吸器が専門でない医療機関の治療方針をディスる訳ではないのですが(私たち呼吸器専門医も、一旦専門から離れると他の科の専門医ほど専門的には診察は出来ないわけで・・・)、我々呼吸器専門医は共通して、咳と抗生物質との適切な関係を常に考えています呼吸器を前面に出しているのに抗生物質をやたら出す医療機関は、少し受診を考えたほうがいいかもしれません)。


そこで今回は、専門医の視点から考える「咳と抗生物質の関係」という論点で、「咳が出た時に、本当に抗生物質って必要なの」という点をお話してみようと思います。


「長引く咳」とは?

そもそも「長引く咳」ってどれくらい続いたら言うのでしょうか?

先ほどもお話をしたように、定義上は3週間以内の咳を「急性咳嗽」というので、それ以上であれば一般的には「長引く咳」です。

でも、3週間って、それだけでも正直かなり長く感じますよね・・・

でも実は一般的に、感染症による気管支炎では、咳が2週間以上続くことは珍しくありません。
ある研究では、急性気管支炎における咳嗽の持続期間の平均は17.8日とされています。

なので、1~2週間程度の咳は、実は「長引いている」の範疇には入らないものなのです(ここら辺、学問としての定義と、患者として感じる感覚に、乖離は出てしまうなとは感じています)。


急に起きた咳の原因の多くはウイルス感染

では、いわゆる「急性咳嗽」の原因である感染症、そこに抗生物質は必ず必要なのでしょうか?

風邪や気管支炎など、急性気道感染症の原因の約90%は「ウイルス」によるものであり、細菌感染の関与はごく一部に限られます。


ところで時々誤解をされるのですが、「細菌」と「ウイルス」はまったく違う生き物です。

そして、抗生物質は「細菌」に対して効果を示すものであり、「ウイルス」が原因であれば、抗生物質はまったく効果がありません(コロナウイルスには抗生物質が効かなかったので、これだけ大パニックになったわけですよね・・・)。


細菌性の気道感染症は限られる

一方、肺炎の原因は通常細菌であることが多く、比較的元気な方なら、有名どころでは肺炎球菌、肺炎マイコプラズマ、インフルエンザ桿菌(インフルエンザウイルスとは全くの別物です、紛らわしいですが・・・)、肺炎クラミジアなどが多くを占めています。

確かにこれらは抗生物質が効果を示す病原体ですが、レントゲンを撮ると、肺炎なら当然影が映るので見分けることができますし、採血検査も大きなヒントとなることは多いです。


ただ、確かにレントゲンで影が映らない「気管支炎」が細菌(特に肺炎マイコプラズマや肺炎クラミジアなど)で起きている可能性もないとは言えません。

が、そのような場合でも、症状の特徴(細菌性なら通常38℃以上の熱が出たり、脈拍や呼吸が速くなるという症状が伴います)や周りの状況(肺炎などの細菌感染症の方が周りにいたか)、その時の流行状況などから判断できる場合も少なくありません。


とはいえ、現実は100%見極められるわけはありません。

専門医でないと見極めが簡単でない上、我々専門医でも100%の精度で見極めるのが不可能ですので、結局は「念のため抗生物質を使いましょう」という戦略になってしまいがちなのです。


「念のため抗生物質」って正しいの?

では、「念のための抗生物質」という作戦には、問題はないのでしょうか。

最初にお話した通り、急に出てきた咳の90~95%は、抗生物質は必要な状態ではありません。

残りの5~10%のうち、しっかりと診察をすれば、相当数の抗生物質が必要な病気を見極めることができます。

そうすると本当に抗生物質が必要か迷うのは2~3%程度の確率となるでしょう。


「抗生物質」には副作用が・・・

一方で、こんなデータもあります。

風邪で抗生物質を使用した際、下痢や吐き気、嘔吐、皮疹など、副作用による症状が起きる確率が、他の症状を緩和する薬のみを使用した際と比べるとおおよそ2.6倍に増えてしまったというデータですCorey GR. et al. Short-course therapy for bloodstream infections in immunocompetent adults. Int J Antimicrob Agents. 2009;34(4):S47-51

特に下痢は、腸の中の腸内細菌のバランスを崩して起こってしまうケースが少なくなく(腸の中の善玉菌が抗生物質で殺されちゃうわけです)、そうすると体の他の部位にも長く悪影響を及ぼしたり、免疫力がかえって下がってしまったりするリスクもあるわけです(今話題の「腸活」と逆のことをしてしまっているわけですね)。


「抗生物質」と「耐性菌」

また、このブログでもお書きした通り、抗生物質は、頻繁に使うことでそれに効かなくなる「耐性菌」を生み出してしまうという側面もあります。

そしてこれは、いわゆる「なんでも効く抗生物質」でより顕著におきやすくなります(つまり裏返しである「何にも効かない耐性菌」を生み出しやすくなるのです)。


お金もかかっちゃう

もちろん抗生物質もタダではありません。
もし診断を外したら(皆さんの財布にも、そして国にも)余計なお金もかかってしまいます。


細菌性だって自然治癒はありえる

そして実は、細菌感染が関与する場合でも、抗生物質を使用しなくても自然治癒することは少なくないのです。

急性気管支炎で抗生物質を使用しても、咳の持続期間を大幅に短縮する効果はないとする研究報告が実は多いのです。


すぐに抗生物質に飛びつかない「延期処方」とは?

それでは、2~3%の可能性のために、ここまでリスクを負う必要が、果たしてあるのかということを考える必要があります・・・。

そんな中、最近では抗生物質の「延期処方」という考え方に注目が集まっています。
最初からむやみに抗生物質を使用するのではなく、その後の経過が思わしくなかったり、あとから細菌性感染と分かったらそこから抗生物質を開始するという方法です。

2023年のシステマティックレビュー(こちらのブログで紹介した、一番信頼度が高いタイプのデータですね)では、抗生物質をすぐに投与した場合と、延期処方をした場合で、発熱、痛み、咳、鼻水などの症状の改善までの期間には差が出ず、症状が悪化して1か月以内に再度受診した割合も差が出なかったとのことでした。

そして患者さんの治療満足度にも差は出なかったとのことです。Spurling GKP, Dooley L, Clark J, Askew DA: Delayed antibiotic prescriptions for respiratory tract infections

もちろん耐性菌リスクの低減やお金の面では大きなメリットはあるため、この結果から考えると、やみくもに抗生物質を使うことはあまりいい方法とは言えないということになります。


私たちが考える「抗生物質を使用すべきケース」

一方、私たちが咳で抗生物質を必要かなと考えるのは、以下のようなケースです。

・症状から細菌感染症(発熱、呼吸困難、胸痛、湿性咳嗽)を疑い、採血やレントゲンなどから、今後抗生物質がないと悪化しそうと判断した場合。

発熱をきっかけとして乾いた咳が続いており、他の原因(喘息、アレルギー、胃食道逆流などなど)の特徴がなく、周りにも同じような症状の方がいた場合(マイコプラズマ、クラミジアなどを疑います)。

百日咳が疑われる場合:夜間の激しい発作性の咳、吸気性に笛のような音を伴ったり、周りにそんな症状の方がいたりする場合。

副鼻腔炎の症状が比較的重い(膿のような鼻水、顔面痛、発熱の症状が長引く、また一度下がった熱が再度上がってくる)場合。

基礎疾患(高齢者、COPD、慢性気道感染、糖尿病など)がある場合(免疫力が弱いので、最初がウイルスでも弱ったところに細菌が襲ってくる「二次感染」というケースがあります)。


逆にこれに当てはまっていなければ、すぐに抗生物質に飛びつくのはあまり得策とは言えないかもしれません。


抗生物質は適材適所で!

咳が続くからといって安易に抗生物質で治療することは、患者さん個人にとって思ったよりもメリットはなく、デメリットも案外多いものです。

そして、無駄な抗生物質の使用は、耐性菌や医療経済の面といった社会の面からもデメリットが少なくありません。

やはり、しっかりとした医師の判断で使っていただきたい薬剤だなって思いますので、診察の時にはしっかりと医師とコミュニケーションをとって、納得した治療を受けて頂きたいなと思っています!


最後にお知らせ!

そのような咳の方に当院を是非ご利用頂きたいのですが、当院に受診希望の方のお問い合わせが非常に多く、一方そのご希望に十分お応えできていない状況です。

中でも「当院の新患予約が全く取れない」というお声を多くいただいております。


当院では、新患のご予約は数日前からしか開放しないことになっています。

以前は無制限だったのですが、そうすると1か月以上前からご予約が埋まってしまったうえに、その後症状が改善したなどで無断キャンセルとなってしまった例が相次いだための対応ですので、ご理解頂けましたら幸いです。

言い換えると、新患枠は毎日順次空いていくということでもあります。

ですので大変ご面倒をおかけしますが、受診ご希望の方は適宜予約サイトをご覧いただきますようお願いします(内科・呼吸器科医師枠であれば、2~3日後と割と直近でもお取りできることはあるようです)。

※なお、どの枠が何日前に空くかとのご質問には枠の管理上お答えいたしかねますのでご了承ください。

また4月以降は、さらに呼吸器診療枠を拡張する予定です(詳しくはまた後日お伝えします)。

加えて、当院では今年の夏以降、お隣平塚で、新しく当院と同様のコンセプトのクリニックを開設することとなりました!

当院の今の規模ではなかなか皆様の需要にお応えでできていない現状を、根本的に解決しようと、我々も今回大きなチャレンジに踏み出すことに致しました!

こちらも少し先の話になりますので、詳細が決まり次第、皆様にお知らせしたいと思っております!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.01.25更新

なんか今年は、花粉症が始まるのが早いみたいです・・・

当院にお越しの方でも、今週から「なんだか目がかゆい・・・」「鼻がムズムズする・・・」「くしゃみが・・・」という人が増えてきているようです。


神奈川県の観測によると、今年は昨年の猛暑の影響スギの木の花の数(着花点数と言います)が、平均67.3点で、昨年の46.1点、平年の46.6点大幅に上回っているとのことです。
花粉飛散量

神奈川県HPより


これは、今年の花粉飛散量が多くなるという予想の強い根拠となります・・・

実際、すでに花粉は観測され始めていて、データ上も1月上旬にしては花粉の飛散が多くなっているようです。


以前こちらのブログ(2023.1.21 2023年春、スギ花粉 大飛散だってよ・・・ 治療はいつ開始したらいい?)でもお話しした通り、花粉症の治療は「初期療法」といって、症状が本格的に始まる「少し前」から始めたほうが有効なことが多いです。
すでに花粉が飛び始めている今年は、もうそろそろ対策をした方がいい時期になっています。


とはいえど、まだまだ感染症など、医療機関の受診を希望される方も多く、簡単に病院にかかれない昨今です・・・

2年前もそんな私たちのせめてもの罪滅ぼしに、このような記事を書いています。

2021.3.21 市販薬で花粉症を治すときに、知っておきたいこと
薬局で買える、花粉症などアレルギー症状に対する薬の選ぶコツや注意点を、内服薬、点鼻薬にわけて記載しています。

2023.2.10 薬だけじゃない!自分でできる、シーズン中に実践したい花粉症対策
薬以外の花粉症対策、マスクやメガネ・サングラスの活用、花粉のつきにくい服装、空気清浄機や顔の周りに塗るワセリンなどについてお話ししています。

まずはこちらの記事を参考にしていただきたいのですが、今回は、この情報をさらに補完する、自力でもできる、より踏み込んだ対策として、2年ぶりの続編!を書いてみようかと思います。


まずは空気をきれいにしよう

アレルギー症状を起こすのは花粉だけではありません。
家の中にあるほこりなどのハウスダストも症状の原因になります。

そのため換気は必要ですが、窓を開けると室内に花粉が入り込みやすくなります。
換気をしたいときは、花粉の飛散量の少ない早朝や夜にしておきましょう。

HEPAフィルターのついている空気清浄機を使用すれば、花粉をある程度除去することができるので、部屋の中の空気の流れの良いところに空気清浄機を置きましょう。
空気清浄機

また家の中で一番花粉にさらされやすいのが玄関です。

玄関にも空気清浄機を置ければより万全です!

空気清浄機やエアコンのフィルターをこまめに掃除・交換しておかないと、せっかくひっかけた花粉がまた部屋の中にまき散らされてしまいます。
忘れずに掃除しておきましょう。


掃除機のかけ方も大事

掃除マッチョ
花粉がついたホコリが床に落ちていると、舞い上がって症状の原因となってしまいます。

時々掃除機をかけるようにしましょう。

掃除機をかける際は、ホコリを舞い上げないように、低速モードやゆっくり動かすことを意識して、必要以上にほこりが舞い上がらないようにしましょう。
また掃除は決して楽な仕事ではありませんが、毎日でなくとも、週に2~3回程度こまめに掃除するだけでも効果的です。


掃除の順番を意識してみる

掃除の順番も、余計なアレルゲンを吸わないためには案外大事な点です。

まずは高い位置(棚の上など)からほこりをはたき落とし、その後床の掃除機がけをするなど、“上→下”の順で掃除すると花粉・ほこりの再浮遊を減らせます。


加湿も大事、でもしすぎは注意

粘膜は乾燥すると、その機能を落としてしまいます。

花粉シーズンは空気が乾燥しやすいこともあり、鼻や喉の粘膜が敏感になりがちです。
適度に加湿すると粘膜の乾燥を防ぎ、花粉による刺激をやわらげることができます。


ただあまり湿度が高くなるとカビや雑菌が生えてしまいます。
下手するとこれらによって余計ひどいアレルギー症状や咳の症状が出てしまうことにもなりかねません。

湿度が高くなりすぎないよう、50~60%程度までで管理しましょう。

また定期的な水の交換機械の洗浄も、余計なカビや雑菌を空気中にまき散らさないために大事なポイントです。


鼻うがいにもトライしてみよう!

鼻うがい

薬を使った治療の他にも、鼻うがいなどを行うことで症状が改善できるケースも少なくありません。

鼻うがいは、鼻から人間の体液と同じ食塩濃度(生理食塩水といいます)の食塩水を流し込み、鼻の奥やのどの奥を洗い流す方法です。

鼻の粘膜に付着したアレルゲンを洗い流すことができるのと同時に、鼻をかんでも出てきづらい、粘っこい鼻水も洗い流すことができます。

またこの粘っこい鼻水は細菌繁殖の素地になりやすいので、これを洗い流すことで、副鼻腔炎などの感染症に進展することを予防できるというメリットもあります。

鼻うがいをするときは、できれば200ml以上の、比較的大量の水で洗い流すタイプの商品を選んだ方がいいでしょう。
また体温と同じ37℃の生理食塩水にしておくと、刺激もほとんどありません(子どもでも簡単に続けられちゃいます)

塩分濃度が合わなかったり、冷たすぎたりすると鼻の奥がツーンとしてしまいますので注意。

当院でもニールメッド社さんの「サイナスリンス」を受付で販売しています。
付属のボトルの線まで水をいれて、個包装になっている塩を溶かすと簡単に生理食塩水が作れる優れモノです。


花粉が付いちゃったときは・・・

それでも外出していると、花粉を完全に避けることは難しいです。

もしも花粉を浴びてしまったなと感じた場合、コンビニや近くのトイレで顔を洗ったり、濡れティッシュで目の周りや鼻周辺をやさしく拭いてあげるだけでも症状が軽くなることがあります。

乾いたティッシュで擦るより、濡れたものでやさしく拭くほうが粘膜の刺激が少なく済みます。


睡眠も大事です

睡眠

睡眠不足は免疫バランスを崩し、花粉症の症状を悪化させる原因のひとつと考えられています。
特に忙しくて病院に行けないような方は、まずは睡眠時間の確保から意識しましょう(と書いている今の時間が午前3時なのですが・・・)


過度なストレスには注意

ストレス
ストレス
も免疫機能に影響を与え、花粉症が悪化する要因になる
ことがあります。

(なかなか難しい話ではありますが)ストレスをためすぎずに、定期的に心身をリフレッシュさせる時間を設けましょう。


鼻づまりや目のかゆみに効くツボ

ツボ

迎香(げいこう)
という、小鼻の両脇(ほうれい線のあたり)にあるツボを押すと、鼻周りの血流が改善し、鼻づまりがやわらぐといわれています。
指の腹でやさしく押し、5~10秒キープして離すと、血行がよくなり、呼吸がしやすくなる場合があります。

また、目の症状に関しては、目頭付近にある清明(せいめい)というツボは、目の疲れやかゆみに効果的とされます。
指の腹でゆっくりと刺激することで、目の周りがすっきりする場合があります。


食事でもできる花粉症対策

最後に食事、栄養面にも触れておきましょう。

乳製品

ヨーグルト、チーズ
などに含まれる乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌は、腸内環境を整える効果が期待できるかもしれません。
また野菜や海藻、きのこ類などに含まれる食物繊維も、腸内環境の改善に役立ちます。

腸内環境が整うことで、免疫機能のバランスもとりやすくなると考えられています。
ただし、すぐに効果が出るわけではないので、毎日少しずつ継続して摂ることがポイントです。

ポリフェノールの一種であるケルセチン抗酸化作用をもち、アレルギー反応を抑える可能性が指摘されています。
玉ねぎリンゴを日常的に食べることで、少しずつ摂取できます。
また、お茶にもポリフェノールが含まれるので、水分を取る際にお茶を中心にするといいかもしれません。

粘膜を健康に保つビタミンA(にんじん、かぼちゃ、ほうれん草)、抗酸化作用や免疫機能の維持に役立つビタミンC(柑橘類、イチゴ、ブロッコリー)ビタミンE(ナッツ類、アボカド、ウナギ)などもアレルギー症状を抑えてくれるといわれています。

バランスのいい食事で、日ごろからいろいろな栄養素を取るようにしましょう。


もちろん当院は治療をがんばります!

今年もいよいよ迫ってきた、本格的な花粉症の季節。

花粉症の方はうんざりする数カ月ですが、対処方法を知っているだけでも、幾分かは心強く思えるかと思います。
そして、気温は今後底を打って、寒さも徐々に緩んでくる、ある意味過ごしやすい時期になるともいえます。

ここでお話ししたことのいくつかでも取り入れてもらって、是非これからの季節、快適でハッピーな春にしていただきたいと思います。

そしてもちろん、花粉症の治療のメインはやはり適切な治療薬です。

当院でもできるだけ枠をご用意して皆様をお迎えして、アレルギー専門医としてガチンコで治療に取り組んでいます。
症状に困っている方、今後症状が出そうで不安になられている方は、お気軽にご相談下さい!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.01.01更新

あけましておめでとうございます!

昨年は、4月から呼吸器科医師を2人→5人と大増員し、より皆様のお悩みにお応えできるような体制づくりを致しました。

その結果、当初はかなり予約枠にも余裕が出てきましたが、その余裕も月を経るごとに徐々に減っていき・・・

調べてみたら、4月から12月にかけ、1日平均でご来院いただく患者様が30人ほど増えていました。

当院をご愛顧いただき、大変ありがたいと思うと同時に、受診される皆さまには、混雑や予約の取りづらさで再びご迷惑をお掛けしていることをお詫びいたします・・・

それでも、「他院でなかなか良くならなかった咳がようやく良くなった」「何年も苦しんでいた症状から解放された」「こんな重要な治療ポイント、今まで聞いたことがなかった」などと、皆さまからのありがたいお言葉を無数に頂いておりますので、できれば患者様の受診制限は行いたくなく、一人でも多くの困っている方の力になりたいとの思いは今年も変わりありません。

そのため、今年もさらに皆様が受診しやすくなるようにすべく、現在鋭意対策を行っております。
公表できる状態になりましたら順次発表いたしますので、それまでお待ちください!!


インフルエンザ、いよいよピークへ・・・

さて、インフルエンザ、前回ブログよりさらに大変なことになっています・・・

インフル202452

やはり今シーズンは接種率が例年より低かったことに加え、流行開始が早く、多くの方が接種未完了の状態で流行が開始してしまったことから、流行が大規模になり、茅ヶ崎の週当たりの定点インフルエンザ感染者数が76.5に達しました。

10を超えると注意報、30を超えると警報となる基準で70越え・・・

案の定、年末の発熱・感染症外来は、Web予約が連日1分以内に埋まり、電話もなかなか繋がらない状況になってしまいました。


それでもワクチン忌避は少なくない・・・


それでも、インフルエンザのワクチンについて、懐疑的な見方をされる方は少なくありません。

例えば「今までインフルエンザに罹ったことがないから必要ないと思っている」とか、「インフルエンザワクチンを打った時にインフルエンザに罹ったので信用していない」とかというご意見です(陰謀論についてはここでは触れません)。

インフルエンザワクチンについて打つ、打たないはその人の自由ではあるのですが、やはり科学的に正しく考えて頂いたうえで、判断はしていただきたいのです。


そこで、今回は、「インフルエンザワクチン」は、本当に有効なのか、そしてそれはどのような根拠から言えるのかということについてお話してみたいと思います。


色んなところで見る「論文」の危なさ

さて今、週刊誌やYoutube、SNSを見ると、玉石混合の様々な情報が載っています。
それらの情報は、どれも一見すると、筋が通っているように見えます。

しかし、それらの情報もよく見てみると、いわゆる「落とし穴」が多く潜んでいることがわかります。

そして、論文に読み慣れていなければ、それには気づかないようにうまーく隠されていることが多いのです。


つまりこれは、「結論ありき」でデータの「見せ方」を変えて、自分の言いたい結論にもっていこうとしている人が書いているケースがあるということなのです。


まさに(ちょっと言葉はキツいですが・・・)「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」ということです。


ですので、これらのワナに引っかからないようにするには、まず「論文」をどうやって解釈していくか、その基本を知っていなければならないのです(専門的に詳しく知る必要はありませんが、昔と比にならない情報量が日々飛び交って、色んな意見がすぐに耳に入ってくるこの時代、自分を守るためにも最低限の知識は世の中のすべての方が持っておかなければならない時代になってしまったと感じています)。

研究の方法によって信頼度は変わってくる!

さて、論文というのは、以下の順で信頼度が上がっていくというルールがあります。

エビデンスレベル
※なお、これは「エビデンスピラミッド」と呼ばれる図を、私がごくごく簡便にまとめ直したものです。
本来はもう少し細かく分類されますし、その研究の性格によってはあえて信頼度の低い手法の方が結果に近づきやすいことも少なくなく、信頼度が低い=間違った研究であるというわけではないということに留意する必要はあります。

この図について、ピラミッドの下から一つずつ、簡単に説明してみようと思います。

信頼度論外:個人の感想

例:「ワクチンは意味がない、なぜならそんな気がするからだ!」

これはそもそも論文ではありません。ガン無視してOK!


信頼度レベル6:専門家の意見、症例報告

例:「〇〇大学の△△教授は、この治療法が一番効果があると言っている」
例:「△△という治療を行ったら〇〇病の症状が改善した」

この「専門家」が、その分野の一般的な「エキスパート」でなければ、信頼度は「論外」に落ちます(SNSや週刊誌では、「その分野のエキスパート」ではなく、「何か意図を持った別の分野の人」が、ただ自分の言いたい意見を述べている「インフルエンサー」にしか過ぎないケースをよく見かけます。つまりこういうのも、ガン無視でOK!)。

また、症例報告は、偶然性や他のバイアスが関わっている可能性も大いに残ります。
ただ同じような症例報告が複数集まってくると、信頼度レベルが4~5まで上がります。


信頼度レベル5:ケースコントロール


病気のある人とない人で、病気になる前には、どんな要因が異なっていたかを後ろ向きに調べる

例:「〇〇病のある人は若いころたばこを吸っていた→だからタバコは〇〇病のリスクになる」

その要因の他にも、「別の要因があるかもしれない」というバイアスがかかることがあり得ます
またこの研究は、あくまで病気になった方へのインタビューで成り立つ研究ですので、その人の記憶力があいまいになったり、思い込みが出たりするケースもあり、これが大きなバイアスにつながることがあります。

信頼度レベル4:コホート研究

ある一定の(似たような)属性の人を前向きに追って、一定期間後に病気になったかどうかをみる
例:「□□市の成人を10年追跡して、その中のたばこを吸わなかった人は、吸った人に比べて〇〇病になる確率が△%下がった」

ケースコントロールは後ろ向きだがコホート研究は前向き。実際にその過程を研究側が追っていける分、ケースコントロールよりはバイアスがかかりにくいのが特徴です。
ただし希少疾患には不向き(長期間追っても、本当に知りたい「病気になる人」はほとんど出てこないから)。


信頼度レベル3:非ランダム化比較試験

治療をする群(治療群)治療をしない群(対照群)に分けて、その差を見ることで治療の効果を調べる。
ただし、その分け方をランダムに行わず、他の基準で分ける。
例:「ある地域でワクチンを打った学校とそうでない学校で、〇〇病の発症率を比べてワクチンの効果を調べる」

※分け方がランダム化されていないので、背景要因(年齢性別、健康状態、生活習慣、病気に対する姿勢など)の影響を受ける可能性がありそこで生じるバイアスを正しく処理するしないと間違った結論を導き出してしまう可能性があります。

信頼度レベル2:ランダム化比較試験

ある集団を集めて、それぞれをランダムに治療をする群(治療群)治療をしない群(対照群)に分けて、その差を見ることで治療の効果を調べる。
例:「ワクチンを打つ群と打たない群に分けて、その感染率や重症化率を調べる」

※患者が自分が治療群と対照群どっちかに入っているのかがわからないのが盲検、医療者もわからないのが二重盲検。
この順番にバイアスは入りづらくなるので、より信頼度は上がります。


信頼度レベル1:システマティックレビュー、メタ解析


質の高い研究を世界中から集めて、データを大きくして解析しなおしたもの。
「システマティックレビュー」は全体の傾向を出し、「メタ解析」はそれを数値化します。
例:「ある抗がん剤〇〇薬が効くかどうか、世界中の研究から質の高い研究10本を選んで、その結論を割り出す」

この研究方法が問答無用、一番信頼度の高い研究
となるわけです。



「ゴールポスト」は動かさない!

そして、ここがデータを読むのに一番重要なところです。

研究はあくまで、最初にルール(何を調べる予定か、こうなったら感染、こうなったら重症化という定義)をあらかじめ決めておくことが超大事です。
そして、そのルール通りに研究を行って、はじめに設定した結論に達したか否かを判定するようにするのです。

調査が終了した後に、最初に決めた結論と別の結論を出そうとさかのぼってデータを解釈しなおす行為は、基本ダメです。

(上での落とし穴の件でお話したように)意図した結果を出したいがために、出された数字に都合の良い解釈を入れてしまうことができるからです。

もちろん調査の結果から、何か別の結論が見えてきそうになることもありますが、その場合はその結論が出るかどうかでデザインし直した、再度の調査が必要です。

 


インフルワクチンは、質の高い情報で感染予防のデータあり!

さて、インフルエンザワクチンの結果では、「ランダム化比較試験を主体にメタ解析」した、信頼度レベル1の(つまり信頼度最高の)論文があります。Efficacy and effectiveness of influenza vaccines: a systematic review and meta-analysis: Lancet Infect Dis. 2012 Jan;12(1):36-44.

ここでは、過去の5700本以上の論文から31本の論文を厳選して、そのデータをまとめて解析し直したもので、「成人ではワクチンを作った株(つまりシーズン前に流行ると予想した株)と、実際の流行株が一致しているシーズンでは、ワクチンを接種することで感染リスクが59%下がることがわかりました。


高齢者では、主にコホート研究の「メタ解析」になり(こちらも「メタ解析」をしているので、信頼度レベルは1~2相当まで上がります)、こちらは60%以上の感染予防効果がありましたが、ランダム化比較試験ではないので、解釈に多少幅はあるかもしれません。

一方、ケースコントロールの「メタ解析」にはなりますが、(おおよそ信頼度レベル3に相当します)重症化予防効果(入院を予防する効果)について、18~65歳の方の予防率は51%、65歳以上の方で37%とのデータが出ていますEffectiveness of influenza vaccines in preventing severe influenza illness among adults: A systematic review and meta-analysis of test-negative design case-control stud18~65歳の方の予防率は51%ies: J Infect. 2017 Nov;75(5):381-394.

そして、これらの結果は、ワクチンの株と流行株が一致しているかどうかで大きく変わる、とのことでした。



今年のワクチンは、今のところ「当たり」!

さて、今年流行っている株はH1N1 pdm09という株で、2009年の新型インフルパンデミックの時に初登場した株です。
この株は感染力が強く、症状も比較的強めにでるといわれています。

今年のインフルエンザワクチンは、しっかりこの株に対応したワクチンになっています。

ということで、インフルエンザワクチンの効果は、信頼できるデータでしっかりと示すことができるのです!(決して陰謀論でも、都市伝説でもありません・・・)


もちろんワクチンは「100%防ぐ訳」ではないけれど・・・

もちろん、ワクチンは、インフルエンザ感染のすべてを予防するわけではありません。

数字上は半分弱の感染リスクは残るわけですし、今年流行っているH1N1 pdm09は、より感染力が高いと言われていますので、ご家族や親しい友達、同僚などが近くにいれば、防ぎきれないこともあるでしょう。

ただ、特に、喘息やCOPDなど、呼吸器系の病気を持っている方は、かかった時の被害の大きさが変わる可能性が高いです(これを具体的に示すデータはありませんが、感染予防効果、重症化予防効果の確かなデータから予想は立てられること、また私の長年の実感からそう考えています。確かに「信頼度レベル6」のエビデンスにはなるのですが・・・それも皆さんが私を「専門家」に入れて頂ければですが・・・

ワクチンは、感染そのものを防ぐ事より、感染後の症状悪化(特に喘息などの悪化)の効果の方が大事と考えて頂きたいのです。

実際当院でも、感染したものの10〜11月に接種を完了しており、助かった」とおっしゃっている患者さんが非常に多くいらっしゃいます。


呼吸器疾患の方は1月でもまだ間に合う!ぜひ接種を!

11月までは接種ご希望がなかった方でも、流行が始まった12月以降、改めてご希望いただく方が増えてきました。

当院ではなるべく皆様に接種機会を提供すべく、入荷があるうちは接種を受け付けようと思っております。

かかりつけの方に関しては、受診当日の接種はご予約なしで可能です。
また比較的ワクチン在庫数、予約枠ともにまだ余裕がありますので、特にかかりつけの方でなくても、当日お越し頂ければ接種は可能です(希望の方が急激に増えたら変更があるかもしれません)。


今からでもまだ意味はあります!
呼吸器疾患をお持ちの方は、ぜひお早目の接種をご検討ください!


(さいごに。ワクチンを打った自治体と打っていない自治体で感染率が変わらなかったためにワクチンの効果が乏しいとの結論を導き出した、本邦の30年位以上前の非ランダム化比較試験(信頼度レベル3)の論文がありますが、こちらはそもそもインフルエンザを診断できなかった時代の論文で、休んだり熱を出したりしたことをインフルエンザ発症とみなさざるを得ず、結果の正確性に乏しかったこと(時代的にしょうがないですけどね)、それにデータの抽出方法に恣意的な点が否定できずに適切とは言えなかったこと(こっちは問題です)など、様々な問題点を指摘され、現在ではその信頼度はかなり低いと見なされるようになりました(実はこの論文の生データを読み込むと、むしろワクチンの有効性が言えちゃいそうですらいます・・・)。にもかかわらず週刊誌やSNSでは、恣意的な結論を導き出したい論者によって、未だに多く引用されているようですので、くれぐれもご注意ください。)

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.12.21更新

インフルエンザ、とんでもないことになっています・・・

今週、茅ヶ崎市でインフルエンザ流行警報が発令されました。
茅ヶ崎市でも、12月9~15日の1医療機関当たりの患者数が33.91となり、警報発令基準である30を超えました。
2024 茅ヶ崎インフル

茅ヶ崎市保健所管内感染症情報HPより


なお、先週は14.27、その前の週は5.82と、急激な増加傾向となっており、市内の小中学校でも、各所で学級、学年閉鎖されております。

おそらく今年はややインフルエンザワクチンの接種率が低い状況の上に、皆さんが打ち終わる前のタイミングで流行が始まってしまったことが急激な感染増加の原因かと思われます。

そんな状況ですので、当院の発熱・感染症外来のお電話も、もうひっきりなしに鳴っています。

電話
当院では一定の条件を満たしたかかりつけの方に、枠が埋まっている際も体調を崩されたときなど、臨時受診が必要な時に受診をご案内できる「かかりつけ臨時受診制度」を設けています。

しかし、約4000人いる当院かかりつけの方皆さんが一斉に来院されると、今の当院の状況では間違いなくパンクします・・・

当院の秩序を守るためにも、かかりつけでいらっしゃっている当院の患者様のためにも、今後の流行状況によってはインフルエンザワクチンを接種しなかった方(何かしらの理由で接種「できない」方は除きます)は、一時的に臨時受診制度の対象外とさせて頂きます(つまり枠が空いていない時に無理やりぶち込むということができなくなるということです。枠が空いていればもちろんご予約は可能です!)

特に呼吸器系の病気を抱えてらっしゃる方で、接種がまだの方は、お早めに接種をしていただくことをお勧めいたします!



さて、妊娠と喘息治療についての第3弾です。

第1弾、第2弾はこちら!
妊娠と喘息について その1 ~妊娠しているときに喘息が悪化すると、何が起こる?~
妊娠と喘息について その2 ~吸入薬は何をつかったらいい?~

今回は、吸入薬以外のものについて挙げていきましょう。

まずは抗アレルギー薬です。

抗アレルギー薬も、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬などに分かれます。

主に使われるのは前者2つなので、これについて詳しく見ていこうと思います。


ジルテック、クラリチン、アレグラは使いやすい!

主にOTCについてですが、抗ヒスタミン薬についてはこちらのブログで詳しく触れているので、一度読んでみてください。

抗ヒスタミン薬は、現在よく使われる第2世代抗ヒスタミン薬と、その前から使われていた第1世代抗ヒスタミン薬があり、第2世代の方が全体的に眠気、口渇などの副作用が少なめです。

この中で、比較的欧米でのデータが多いのが、セチリジン商品名:「ジルテック」ロラタジン「クラリチン」です。

これらは海外を中心に妊婦への使用データが比較的蓄積されており、催奇形性に関する大きな懸念は示されていません。
実際、世界的にも妊娠中に使用を推奨されることが多い薬剤です。

また、フェキソフェナジン「アレグラ」も比較的欧米でデータが多い薬の一つで、催奇形性を示唆する明確な報告はありません。
ただしやや効果がマイルドであり、人によっては物足りないかもしれません。


ザイザル、デザレックスも多分大丈夫そう・・・

また、レボセチリジン「ザイザル」セチリジン光学異性体(分子構造を左右対称に入れ替えた物質、こちらの方がより作用が強い)と、デスロラタジン「デザレックス」は、ロラタジンの活性代謝物(ロラタジンが肝臓で代謝された結果できた物質で、こちらの方が眠気、効果の持続性で有利です)で、それぞれ元の物質とだいたい同じ挙動をすると言われているので、比較的安全かもしれません(が、どちらも比較的新しい薬ですので、薬そのもののデータは限られます)。


他の抗ヒスタミン薬はデータが少ない・・・

また、オロパタジン(アレロック)、エピナスチン(アレジオン)、ベポタスチン(タリオン)は、日本を含めたアジアで多く使われ欧米でのデータが少ないです。
ビラスチン(ビラノア)、ルパタジン(ルパフィン)はそもそも新しい薬でまだ十分なデータがありません。

また「ディレグラ配合錠」は、フェキソフェナジンアレグラの主成分ですね)に塩酸プソイドエフェドリンという鼻粘膜の血管を収縮させることで鼻粘膜のむくみを取って鼻詰まりを改善させる成分を配合していますが、こちらは一部の報告で先天異常との関連が示唆されたことがありました。
データとしてはごく少ないので、これも十分なデータとは言えませんが、変更できるのならば変更を考えてもいいと思います(ただ婦さんはむしろ鼻づまり、悪くなりやすいんですよね・・・、この薬、鼻づまりにはよく効きますし、慢性的に鼻症状が続くことも喘息の経過に悪影響を及ぼす場合もあるので、一概に使うべきではないともいえない薬です)。


第1世代はデータはあるも副作用が・・・

次に第一世代抗ヒスタミン薬です。

クロルフェニラミン(ポララミン)、ジフェンヒドラミン(レスタミン)などがそれにあたります。

これらは古い薬で、特にクロルフェニラミンは、妊娠初期から比較的長い臨床使用実績があるため、第一世代のなかでも比較的「安全性の高い」薬として位置づけられています。
海外の研究でも、催奇形性のリスク増加との関連は示されていません。

ただどちらにしても、眠気や口渇などが強く出る可能性があり(その副作用が困るので開発されたのが第2世代抗ヒスタミン薬です)、こちらを最初に使うというケースは限られるかと思います。

キプレスはできれば続けたい!

次に、ロイコトリエン受容体拮抗薬です。

こちらはモンテルカスト(キプレス)、プランルカスト(オノン)などが当てはまります。

大体似たような作用を持った薬ですが、モンテルカストの方が比較的症例報告や観察研究のデータは多いようです。
どちらも先天奇形などの有意な増加を示すデータは現時点で十分に確認されていません。

そして、これらの薬はより喘息による気道炎症にダイレクトに影響する薬です。
この薬を中止することで喘息が悪化するケースも少なくありません。
必要な状態であれば、投与継続を考えるべき薬かと思います。

最後にTh2サイトカイン拮抗薬であるスプラタストトシル(アイピーディ)は、評価に用いることのできるデータがほとんどありません。
やめても大丈夫なのであればいったん中止で良いと思います。


ホクナリンテープはちょっと気を付けたい

次によく使われるツロブテロールテープ「ホクナリンテープ」です。

これは吸入編でも紹介した「長期間作用型β2刺激薬」を貼り薬にしたものです。
ただこちらは吸入ではなく、血中に取り込まれて効果を発揮する薬剤のため、多少の違いがあることに注意が必要です。

また、こちらも実は主に日本で使用されている薬剤であり、世界的に見るとデータは非常に少ないです。
動物実験では、高用量のツロブテロールを妊娠動物に投与した場合に胎児に影響したという報告はあるものの、人間に対して通常用量で使用した時にどの程度当てはめられるかはわかりません。

当院では、よほどの理由がない限り、よりエビデンスが多く、血流への流入も少ない吸入薬で投与することにしています(吸入による動悸や震えなどの副作用が非常に強いときに限り、減量して貼り薬にするケースはあります)が、喘息のコントロール状態や代替薬の存在などを主治医の先生と相談しながら続けるかどうかを考えるべき薬かなと思います。


テオフィリンは安全性は高いけど・・・

次にテオフィリン薬(テオドール、テオロングなど)になります。
こちらは現在欧米では喘息に対してほとんど使われなくなっていますが、日本ではまだ使用されることの多い薬剤です(当院では非常に限られたシチュエーションで使用しています)。

テオフィリンそのものには、催奇形性のリスクを明確に増やすという、大規模な研究データは現時点ではありませんが、動物実験で高用量投与で悪影響が見られたとの報告はあります。

ただこの薬の難しいところは、胎盤を通じ、お腹の赤ちゃんに移行しやすいことにあります。
くわえて、適切な治療に使われる「治療域」と呼ばれる薬剤濃度と、有害作用を起こす「中毒域」と呼ばれる薬剤濃度が非常に近いという点もあります。
このように、薬の濃度管理が難しいことで、十分に管理できないと赤ちゃんにも有害作用(頻脈、興奮)を起こす濃度の薬が流れてしまうリスクがあります。

今は適切に吸入薬を選択し、吸入方法などの改善でより高い効果をもたらす工夫をすることで十分にコントロールできる喘息が多いので、本当にテオフィリンが必要なケースは非常に少ないと思います。

しっかりと吸入薬の効能を「活かし切る」ことで、中止を考えても良い薬だと思います。


「生物学的製剤」はデータがないけど・・・

次に、重症喘息に用いられる「生物学的製剤」です。
こちらは現在、5種類の薬が使えますが(詳しくはこちらこちらからどうぞ)、喘息の中で使用している方は非常に少なく、また新しい薬でもあることより、データはほとんどありません。
現在それぞれの薬剤で催奇形性を示唆したデータはなく、明らかな危険性は示されていません。

この薬剤は、重症喘息の方に対して使用する薬であり、重症喘息のコントロールには不可欠です。
喘息悪化のリスクの方がはるかに大きいため、必要なら継続すべきでしょう。

 

「ステロイド」は、必要時には躊躇するな!

最後に飲み薬や点滴など、血中内に直接入れる「全身ステロイド」です(吸入ステロイドではありません)。

基本的に喘息における全身ステロイドは、短期間で使用するケースがほとんどです。
早産や低出生体重児となるリスクがわずかにあがるか、そうでないかという議論がありはしますが、この薬剤は基本的に喘息が非常に悪くなった時に、その炎症を「強制終了」させるために使用されるもので、放置して悪化するとお母さん、赤ちゃんの命そのものに重大な影響及ぼすため、使わないデメリットの方がはるかに大きいです。

どんなことがあろうと、まずは喘息悪化のコントロールが優先される状況ですので、使用を躊躇すべき薬ではありません。


喘息の妊婦さんに、快適なマタニティライフを!

以上、駆け足で妊娠と喘息の治療薬についてお話をしてみました。
いずれにせよ、妊娠時の喘息のコントロールは薬剤を正しい知識で適切に考える必要があること、悪化した時に速やかに適切に対応できるようにすること、喘息そのものが妊娠で変化しやすいために産婦人科の先生との連携も必要となることから、喘息により詳しい専門医にお任せすべきものです。

喘息の方でも、しっかりコントロールすれば、元気な赤ちゃんを産むことはもちろんできます。
妊婦
是非快適なマタニティライフを!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.12.15更新

前回はこちら!
2024.11.21 妊娠と喘息について その1 ~妊娠しているときに喘息が悪化すると、何が起こる?~


少し前回から時間が空いちゃいましたね・・・
前回は「妊娠した方が喘息をしっかり治療することの大事さ」のお話をしました。

喘息の方は、妊娠すると約1/3の方が悪化してしまいます。
また1/3の方は症状の変化がないと言われており、多くの方が喘息悪化のリスクをかかえながらお腹の赤ちゃんを育てることとなります。

喘息は一見落ち着いていてても、感染症や気候、環境の変化などで急激に悪化してしまう、やっかいな病気の一つです。

そのため、急な環境の変化に対しても持ちこたえられるように、喘息をずっと治療しつづけることが大事なのです。

でも、やっぱり妊娠中の薬って不安・・・

妊娠不安

 

しかし、やはり薬がおなかの赤ちゃんに与える影響を心配される方が多く、少なくない方が、その心配から吸入などの喘息治療薬を止めてしまっています。

ただ、薬を止めてしまうことで、この前もお話ししたように、急な喘息の悪化をきたす可能性が上がってしまいます・・・
すると、お母さんの血液から酸素をもらっている赤ちゃんは酸素をもらいにくくなり、赤ちゃんの低酸素のリスクが上がってしまいますし、それ以外にも様々な悪影響が生じ、妊娠に大きな問題が出てしまう可能性がグッと上がってしまうのでした。

使うも不安、使わないも不安・・・いったいどうしたらいいのでしょう??


妊婦さんへの薬の安全性って、どう考えたらいいんだろう?

妊娠の時に使える薬って、「これなら絶対大丈夫!」と証明された薬は本来ほとんどありません。

本来、薬の安全性評価をする場合は、あらかじめ被験者を集めたうえで、他の城乾をなるべく均一にしたうえで、その薬と偽薬(プラセボ)を患者さん、医師両方が分からない状態で投与し、副作用のデータを取って判断をします。
しかし、潜在的にどんな副作用が起こるかわからない薬を、妊娠中の方を集めて投与して、流産や奇形が増えるかデータを集めるなんて、絶対に許されませんよね。

妊婦さんに対してそのような試験は、倫理的にやることができないのです。


しかも、妊娠というのは、必ずしもすべてのケースで正常に進むというわけではありません。

薬を使わなくても、残念ながら一定の確率で流産、早産などを起こしたり、赤ちゃんに障害や病気発症などのトラブルが起こってしまいます。

ですので、薬を使ったときに異常が起きた場合、それが薬のせいだったかは、厳密にはわかりません。

「やむを得ず妊娠中に薬を使った妊婦さんと、使わなかった妊婦さんとで、結果的に結果に差が出たかどうか」で比較するしかなく、データとしてはどうしても不十分になってしまうのです(この比較方法だと、その薬を使った背景、例えばそもそも喘息があるかどうかというのも、結果に影響するかもしれませんし、薬を使ったかどうか以外の条件がバラバラなのでデータとしての信頼度は低くなってしまうのです)。

ですので、「妊娠に対して安全とは言い切れるというデータがある薬は、ほとんど存在しない」というのは、事実です・・・

 

しかし一方、通常使用する喘息の薬で「妊婦や赤ちゃんに明らかに有害である」と証明された薬はありません。

そして「吸入をやめると妊娠に危険が及ぶ」というのもまた、事実です。

ですので、限られた情報の中では、妊娠中に薬を使うかどうかは、薬を使ったときと使わなかった時の、「デメリット」で比較をした方が判断をしやすいのです(薬を使った方がいいの?使わない方がいいの?という「メリット」で比較すると、よくわからなくなってしまうのです)。

ではそれを踏まえて、喘息の妊婦さんはどの様な治療をすればいいのか、次から具体的にみていきましょう。


まずは吸入薬の種類をおさらい!

まずは喘息治療の総本山、吸入薬です。
喘息の薬でどのようなものがあるのか、今ではかなり種類も分類も複雑になってきたので、まずは以下の表で整理してみましょう。

 喘息吸入薬

基本的には、毎日使う吸入は「吸入ステロイド」「長期間作用型β2刺激薬」「抗コリン薬」とこれらの組み合わせ、悪化した時に使うのが「短時間作用型β2刺激薬」というカテゴリーになっています。


いちばんデータが多いのは「パルミコート」

それではまず「吸入ステロイド」についてみていきましょう。

まずはブデソニドです。

ブデソニド
ブデソニドは、単体では「パルミコート」という吸入薬に含まれており、妊娠中の使用データが最も多く、比較的安全性が高いとされています。
また、β2刺激薬との合剤として「シムビコート」「ビレーズトリ」にも使われています(ですのでこちらはステロイドのデータは多いのですが、β2刺激薬、抗コリン薬のデータがやや少なくなります。あとでまたお話しします)

動物実験ではリスクがないことが示されており、人でも先ほど書いたように十分なデータは取れないものの、特に問題を生じたデータもありません。
スウェーデンの医薬品登録データによる比較的大規模なデータでも、赤ちゃんの先天異常が発生するリスク増加は認められなかったと報告されています。

そのため、国際的な喘息治療ガイドライン(GINA)でも、妊娠中の吸入ステロイドとして優先的に推奨されています。

ただ薬の強さとしてはややマイルドで、喘息の症状によっては症状を抑えきれずに悪化させてしまう可能性もあります。


他のステロイド剤も基本的には大丈夫

次にその他の吸入ステロイドです。
吸入ステロイド
フルチカゾン(商品名「フルタイド」「アニュイティ」)、モメタゾン(商品名「アズマネックス」)、ベクロメタゾン(商品名「キュバール」)、シクレソニド(商品名「オルベスコ」)は、いずれもブデソニドほどデータが多くないのが実情ですが、現時点で明らかな先天異常や胎児発育へ、重大な影響を示すデータはありません。

また、これらの薬剤は、他の以下のクラスと合わさった「合剤」としても多く使われています(フルチカゾン・・・「アドエア」「フルティフォーム」「レルベア」「テリルジー」、モメタゾン・・・「アテキュラ」「エナジア」


動物実験では、これらのステロイド薬を「大量」に投与すると、動物に有害事象が起こったとの報告がありますが、通常人が喘息に使う量では、妊婦や赤ちゃんへの大きなリスク増加は示されていません。

先ほどお話ししたようにパルミコートが確かにいちばんデータは多いのですが、パルミコートの作用がやや弱く治療が不足する可能性があるため、そのような場合は、これらのより強い他のステロイド吸入薬を使用したほうが、総合的にリスクを減らせると判断できる場合も少なからずあるのです。

いずれにせよ、吸入ステロイドは全体的に安全性を示すデータが多く、できる限り薬を続けたほうがいいとされる薬剤と言えます。


吸入薬のもう一つの柱、β2刺激薬について

では次に、長時間作用性β2刺激薬です。
LABA
これらはサルメテロール、ホルモテロール、ビランテロール、インダカテロールが当てはまり、それぞれ以下の薬剤に含まれています。

サルメテロール・・・「アドエア」
ホルモテロール・・・「シムビコート」「フルティフォーム」「ビレーズトリ」
ビランテロール・・・「レルベア」「テリルジー」
インダカテロール・・・「アテキュラ」「エナジア」

これらの薬は、ほとんどが先ほど触れた「吸入ステロイド」との合剤として使われています。

ですので、妊娠中に単独で使ったときのデータはあまりないのですが、吸入ステロイドと併用して長期的に使用されたことで得られた多くのデータからは明らかな赤ちゃんの先天異常増加や、妊婦の有害事象のリスクの増加は認められていません。

特にサルメテロールホルモテロール(「アドエア」「シムビコート」「フルティフォーム」「ビレーズトリ」は、比較的古くから使用されており、その長い期間のなかでも大きな問題は報告されていませんので、必要な状態なら吸入ステロイドと同様、しっかりと続けた方がいい薬剤です。

一方、ビランテロールインダカテロール(「レルベア」「テリルジー」「アテキュラ」「エナジア」比較的最近になって出てきた薬であり、サルメテロールやホルモテロールほどデータが多くないという点があります。
ただ、いずれにしてもこちらも「危険性が高い」というデータは出ていません。


やや治療の難しい喘息に使われる薬「抗コリン薬」は?

次に抗コリン薬です。
LAMA
こちらはチオトロピウム「スピリーバ」「スピオルト」に含まれます)、ウメクリジニウム「テリルジー」に含まれます)、グリコプロニウム「エナジア」「ビレーズトリ」に含まれます)という薬剤になり、これらはここ数年で喘息治療に登場した薬ですので、正直あまりデータは多くありません。

動物実験では、大量投与で何らかの副作用が報告されたことはありますが、人における普通の使用量で、明らかに赤ちゃんへの奇形や、流産のリスクが上昇したというデータは確認されていません。

どうしても必要な場合はもちろん継続をすべきなのですが、安全性のデータがまだまだ足りないことから、喘息で安定していた時は、一度お休みを考えてもいい薬剤と言えるかもしれません。


とはいえ、このクラスの薬を使用するような喘息とは、気道の炎症が非常に強い状態でもあるとも言えるので、勝手に吸入を止めてしまったり、リスクが高い状態で吸入を休んでしまったりすることで、喘息の悪化というより大きなデメリットを生んでしまう可能性があります。


やはり喘息に詳しい医師に相談すべき薬剤だと言えます。


発作止めは基本的に大丈夫!

最後に発作治療薬である「短時間作用型β2刺激薬」であるサルブタモール(商品名「サルタノール」)と、プロカテロール(商品名「メプチン」)です。
SABA

これらの薬は、基本的に喘息の調子が悪くなった時に使います。

その為、これ以上悪くならないために緊急的に使用される位置づけの薬であり、薬の使用をためらってはいけません。

サルブタモール(「サルタノール」は、以前より世界で長く使われている薬剤であり、多くの妊娠時の使用データは非常に多く、先天異常や流産リスクの大きな増加はないとされています。

一方、プロカテロール(「メプチン」明らかなリスクのデータは示されていませんが、この薬剤は主に日本のみで使用されており、海外のデータが少ない傾向にあります。

サルブタモールより作用が強く、強力に喘息増悪を抑えられる薬ですので、この薬でないとダメという方もいらっしゃいます。
ですので必要な場合はしっかりと使用する必要がありますが、もし落ち着いているのでしたら、サルブタモールに切り替えてもいいかもしれません。


結局、「ダメ」な薬はない!!

以上のように、データの多い少ないはあれど、基本的に「使っちゃダメ」な吸入薬は存在しません。

「喘息が悪くならない」というのも非常に大事な要素ですので、必要な場合は全て使用して差支えはないと思います。

もちろん安定していれば、よりデータの多い、信頼度の高い薬に置き換える必要はあると思いますので、いずれにせよ喘息に詳しい医師としっかり治療方法を話し合うことが大事だと思います。


さて次回は残りの「飲み薬」「貼り薬」など、「吸入薬」以外のものに触れてみようかと思います。

次回作、是非お待ちください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2024.11.21更新

つい数日前までは半袖でも暑かった気温が、ジェットコースターのように急降下・・・

秋の急激な気温の変化は体調の変調、特に喘息などの咳の悪化につながりやすいことは以前もお話ししましたが、余りにも急激な変化過ぎて、とにかく当院の電話は鳴りっぱなしです(T_T)

ところで、当院は20~40代の比較的若い方も多くいらっしゃるクリニックですので、妊娠されて出産を控えられている方が少なくありません。
ですので、ここ最近の急激な気候の変化で、喘息が悪化してしまった妊婦の方のお問い合わせが急増しています。

はじめに一番言いたいことから言います!

妊娠した際こそ、喘息の治療は決して中断することなく、確実に、慎重に行ってください!


妊娠中はどうしてもおなかの赤ちゃんへの影響を考え、薬について慎重になられる方が多いです(当然の事ですよね)。
特に気管支喘息を持つ方は、妊娠中の吸入薬、内服薬の使用をどうしようかと悩まれる方が少なくありません。

「薬を使い続けることで赤ちゃんに悪影響があるのでは?」という不安から、妊娠を機に自己判断で薬を中止してしまう方も実際にはいらっしゃいます。


しかし、実際には喘息治療を中断することでお母さんと赤ちゃんの健康が危険にさらされることがあります。

今回は、喘息の方が妊娠をするとどうなるのか、妊娠中に喘息が悪化したらどのようなリスクが生じてしまうのかということについてお話をしたのち、次回に治療薬についての具体的なお話をしてみたいと思います。

妊娠すると喘息は悪化する?

気管支喘息の方が妊娠すると、その症状が変化することがあります。
ある統計によれば、妊娠した喘息の方の約1/3が症状が悪化傾向となるといわれています(約1/3は逆に改善し、そして残りの約1/3は変化しないとも報告されています)。
この変化には個人差がありますが、特に中等度から重度の喘息の方で悪化するリスクが高いとされています。


女性ホルモンが与える喘息への影響

妊娠中の喘息の悪化には、ホルモンや体の機能の変化が深く関与しています。
まずはホルモンの変化の側面から見ていきましょう。


妊娠中は、エストロゲンプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌量が増加しますが、これらのホルモンは、気道や肺にさまざまな影響を及ぼします。


たとえばプロゲステロンは、呼吸中枢を刺激して換気を増加させる(つまり呼吸が早く、強くなるとされています。
喘息の方の気道は乾いた空気に弱いため、気道の過敏がある喘息の方では、悪化が誘発されやすくなることがあります。


また、エストロゲン血管からいろいろな成分が漏れ出しやすくする作用(血管透過性といいます)を高めます。
気管支喘息では気道に炎症が起こっているのですが、血管から白血球が漏れ出しやすくなると、気道の炎症部位に白血球が集まり、炎症を助長してしまいます。
これにより、喘息の炎症が悪化することがあるのです。


免疫機能の変化も影響します

妊娠中、お母さんの免疫系はお腹の赤ちゃんを保護するために変化することがあります免疫寛容状態といいます)。
この中で、炎症性のサイトカイン(炎症に関与する物質)が過剰に分泌し、これによって気道の炎症を悪化させるとがあります。

また妊娠中は体が特定の刺激に対して敏感になることがあり、アレルゲンや大気汚染物質、ストレスなどの影響を受けやすくなります。
これが喘息症状を悪化させる要因になることもあります。


お腹が大きくなると呼吸はしづらい

おなかの赤ちゃんが成長すると、徐々に横隔膜が押し上げられ、肺が十分に膨らみにくくなります。
すると肺活量が減ってきてしまうのですが、喘息の方はもともと肺機能がやや低いことが多く、これによるダブルパンチで息苦しさが助長されてしまうことがあります。


肺への血流量の変化の影響

また、妊娠により体全体の血液量は増加します。
すると肺への血流が増えます。

横隔膜が押し上げられたことによる肺活量の低下は、肺に入ってくる空気の減少(つまり酸素の減少)を招きますが、その一方、肺への血流が増えることで、酸素と血流のバランスが大きく偏ってしまうことになります換気血流不均衡といいます)。

肺でどのように酸素を取り込んでいるのかということについて詳しくは、過去のこちらの記事を参考にしてもらいたいのですが、簡単にまとめると肺に届いた酸素は、肺胞付近に流れる血流にのって体内に取り込まれるわけです。

そのバランスが崩れると、肺胞における酸素の取り込み能力が悪化してしまうのです。


そんな時に、妊娠により薬の使用を止めてしまった場合、喘息のコントロールが悪化するリスクがさらに高まってしまう訳です。

それでは妊娠中に喘息が悪化してしまうと、お母さん、赤ちゃんにはどんなリスクが起こってしまうのでしょうか?


赤ちゃんの酸素不足

まず、喘息発作が起きると、お母さんの呼吸が妨げられ、血液中の酸素濃度が低下してしまいます。
赤ちゃんの酸素は母体の血液を通じて供給されているため、お母さんの血液中の酸素濃度が下がると、直接的に赤ちゃんの酸素不足につながり、赤ちゃんの発育に悪影響が及ぶ可能性があります。

またお母さんの低酸素状態は、お母さん自身の体にストレスをもたらすことで血圧の上昇(妊娠高血圧症候群)を招いてしまいます。


すると赤ちゃんへの血流が減少してしまい、更なる悪影響をもらたしてしまう
のです。


赤ちゃんの発育不全のリスク

また喘息がしっかりコントロールされていない場合、胎盤への血流が減少することがあります。

胎盤は、赤ちゃんに酸素や栄養を供給する重要な器官ですが、その機能が低下すると、胎児の成長が遅れることがあり、低出生体重児となってしまうリスクが高まります。


早産のリスク

さらには、喘息の悪化による様々な母体へのストレスは、子宮収縮を引き起こしやすくしてしまい、早産の原因となってしまいます。

早産になると赤ちゃんの臓器発達が不完全な状態で出産するため、出生後の赤ちゃんの呼吸状態の悪化や免疫力の低下のリスクが増加し、赤ちゃんの呼吸困難になりやすくなったり、感染症にかかりやすくなったりしてしまうのです。


妊娠中の喘息治療は、特に慎重に!

このような影響を防ぐためには、妊娠中にしっかりと喘息の管理を行うことが極めて重要になります。
自己判断で薬を中止することは、お母さんと赤ちゃんの両方にとって危険を伴います。

一方、お母さんの酸素供給が安定していれば、胎児への影響も最小限に抑えられるので、妊娠した時こそ、私たち呼吸器専門医に、喘息の治療を委ねて頂きたいと思います。


それでは、妊娠中にはどのように喘息の治療を行うのか、どの薬がより使いやすいのか、これらについては長くなりそうなので、また次回お話ししてみようと思います。



続きはこちら!
2024.12.15 妊娠と喘息について その2 ~吸入薬は何をつかったらいい?~

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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