医師ブログ

2025.11.07更新

11月になって、予想通り、インフルエンザ流行の爆発の予兆が見えています・・・

市内の学校でも、学級閉鎖が増えてきており、当院の発熱・感染症外来も、ここ2~3週間で明らかに受診ご希望の方が増えるようになりました。

今年のインフルエンザ流行は、例年より2カ月早い状況です。
いつもの年末年始が今の状態です。

ワクチンの予防接種も、2ヵ月前倒しで考える必要があり、もはや今接種しておかないともう間に合わない状況になりつつあります。

当院では、午後接種の場合は予約なしでふらっとご来院頂いて接種できる体制にしておりますが、この状況に対応するため、経鼻インフルエンザワクチン「フルミスト」も、注射のワクチン同様、接種の予約システムを撤廃し、午後はふらっとご来院頂いて接種できる体制になりました。

経鼻、注射ともに午前中の接種を希望される場合はご予約をお願いします(診察と同時なら午前、午後いずれもご予約は不要です)

さて、そのような対策を打っても、周りの流行が著しいときは残念ながら感染してしまうことも少なくありません(もちろんワクチンを打っていれば、ウイルスの増殖が抑えられて症状が軽く済むことも少なくありません)。

この時期、発熱、喉の痛み、突然の咳など、何かしらの風邪症状が疑われる場合は、インフルエンザであるかどうかの判断を早期にすることがとても大事になります。
そして、インフルエンザの感染を診断する時に行う代表的な検査が「インフルエンザ迅速抗原検査」です。


そこで今回は、その判断をするための強力な武器、「インフルエンザ抗原迅速検査」について、お話ししてみようと思います。

 


ウイルスの構造と免疫の仕組み

「インフルエンザ迅速抗原検査」とはなんぞや?というのを知るために、まずはインフルエンザウイルスの構造、それに免疫の仕組みを知ることから始めてみましょう。

インフルエンザウイルスの表面にはタンパク質でできている突起物がついています。
これらはウイルスに特有の構造であり、私たちの体から見ると「異物」です。

体は免疫反応でこの異物を検知して排除しようとするわけですが、この排除すべき異物を、免疫の世界では「抗原」と呼びます。

一方、異物を排除するために、体が作る武器が「抗体」です。

抗体は抗原と結びつくことで、様々な方法で抗原の毒性を無力化する「抗原抗体反応」によって、最終的にウイルスを排除できるというわけです。


抗原検査ってどういう原理?

インフルエンザ迅速検査は、この「抗原抗体反応」を利用した検査です。

まずは鼻やのどの粘膜を綿棒でこすり、ウイルスを含む分泌液(検体)を採取します。
インフルエンザに感染していると、この検体の中にウイルスが含まれます。

綿棒を専用の液に入れてよく混ぜると、ウイルスが壊れ、ウイルスの表面にある抗原が、抽出液の中に溶け出します。

さて、検査カートリッジには、セルロース膜という、紙に似た素材が使われており、膜の途中には、抗体が「金コロイド」という粒子と結合して塗られています(金コロイドが目印の役割をしているため、これを「標識抗体」と呼びます)。

この「標識抗体」は、インフルエンザの抗原とピタッとくっつく性質を持っています。

抽出液をテストカートリッジに垂らすと、液はセルロース膜に浸み込んでいきます。
液の中にインフルエンザウイルスの抗原があれば、液が浸み込んでいく過程で抗原がこの標識抗体とくっつき、液と一緒に浸み込んで移動していきます。

セルロース膜の先端には、膜上に「キャプチャー抗体」が線状に塗られています。
くっついているインフルエンザ抗原と標識抗体が浸み込みながらここまで流れ着くと、インフルエンザ抗原はここにある「キャプチャー抗体」ともくっつき、ひとつの大きな複合体となります。

この状態になると、標識としてくっついている金コロイドが赤く発色し、線として目に見えるようになるのです。

一方インフルエンザの抗原がなければ、このキャプチャー抗体とくっつくこともないので、標識抗体はキャプチャー抗体をスルーし、線が出ないというわけです。


検査の解釈には気を付けるべき注意点が

この検査は陽性か陰性か、結果が2つしかないので、一見単純にも見えます。

しかし、この検査を行ったときの、結果の解釈には大きな注意点があります。
ここからは検査の解釈について、その気を付けるべき点をお話ししてみたいと思います。


発熱からすぐは陽性になりにくい。でも・・・

この仕組みの特性でもあるのですが、この検査は、ウイルスの量(つまり抗原の量)がある程度多くならないと、線が出るほどの反応が起きません。

インフルエンザは、感染した後、症状が出た後もしばらくウイルスの増殖が続きます。

インフルエンザにかかってから発熱後12時間以内では、まだウイルスが十分に増えておらず、陰性になってしまうことがよくあります。
逆に、発熱から半日〜1日たつと陽性になりやすくなります。

そのため、あまりに早いタイミングでの検査は正確性が下がってしまうことは知っておくとよいでしょう。

しかし、だからと言って、「陽性になるためにわざと受診を遅らせる」というのはよろしくありません。

治療は早く始めたほうが効果は高いわけです。
検査の結果が診断の全てと考えてはいけないのです。

次はそのことに触れてみましょう。


検査の「感度」と「特異度」

人間の体に行うすべての検査は、病気をすべて陽性として拾い上げ、病気でない状態をすべて陰性と出せる検査は残念ながら存在しません。

そのため、検査は「感度」「特異度」という指標で、その正確性を表現します。

この「感度」と「特異度」は、やや話が複雑なので、詳しくはこちらのブログ「2020.2.29 「検査」を正しく理解するには ~ 難しいけどなるべくわかりやすくしてみます ~をご覧ください。

カンタンにまとめると、「感度」とは、感染している人を正しく“陽性”と判断できる割合「特異度」とは、感染していない人を正しく“陰性”と判断できる割合となります。

これをもう少しわかりやすく言い換えてみます。

「特異度」が高い場合、感染していない人を、ほぼ正しく(-)と出すことができます。
逆に言えば感染していない人を(+)と出すことはほぼありません。

つまり、(+)と出れば、感染していると確実に言えるということになります。


一方「感度」が高い場合、感染している人を、ほぼ正しく(+)と出すことができます。
逆に言えば感染している人を(-)と出すことはほぼありません。

つまり、(-)と出れば、感染していないと確実に言えるということになるというわけです。


抗原検査は、感染者を見逃す可能性がある検査

さて、インフルエンザ抗原検査では、感度はおよそ60%、特異度はほぼ99%とされており「特異度」がとても高い検査です。

言い換えると、この検査で(+)と出れば、インフルエンザに感染していることはほぼ間違いないと言っていいわけです。

一方、この検査で(-)と出た場合はどうでしょう。

感度が60%ということは、感染している人のうちの60%しか(+)と出せません。

つまり感染している人の4割は見逃す可能性があるということです。


ここからちょっと難しい話を

ただ、話はもっと複雑です。

検査は、誰にやっても同じように結果が出る訳ではありません。
当たり前の話ですが、症状がある人は(+)になる可能性は高いですし、症状がない人は(-)になる可能性が高いです。

実際の臨床現場では「その状況がどれだけインフルエンザ“っぽいか”(もしくは“っぽくないか“)」という「事前確率」が重要になります。

そこには「尤度比」という指標を使うのですが、ここは詳しく説明するととんでもなく複雑で長くなりそうなので、はしょりながらも独り言として今からぶつぶつしゃべります。

「尤度比」は「陽性尤度比」「陰性尤度比」があり、これらは以下の式で求めます。

陽性尤度比=(感度)/(1-特異度)
陰性尤度比=(1-感度)/(特異度)

この意味合いは

陽性尤度比:病気でない人に比べて、病気の人は、何倍(+)になりやすいか?
陰性尤度比:病気でない人に比べて、病気の人は、何倍(-)になりやすいか?
という指標です。

一般的に陽性尤度比が10以上であれば、確定診断に優れ、陰性尤度比が0.1以下であれば除外診断に優れる検査と言えます。

インフルエンザの抗原検査の場合、上の数字(感度60%、特異度99%)を使うと、陽性尤度比は60、陰性尤度比は0.4になります。

つまり抗原検査はやはり「確定診断」に優れた検査であると言えるわけです。

また、
検査前のオッズ×尤度比=検査後のオッズ

という式が成り立ちます(これを「ベイズの定理」と言います)。

オッズとは、(病気の確率)/1-(病気の確率)という数値で、病気の確率が25%なら0.25/(1-0.25)=0.25/0.75≒0.33、病気の確率が80%なら0.80/(1-0.80)=0.8/0.2=4となります。

もし、検査前の確率が25%なら、先ほどの式からオッズは0.33。すると、もし検査で陰性なら陰性尤度比は0.4なので
0.33×0.4≒0.13
つまり、0.12/(1-0.12)がおおよそ0.13となるので、12%の確率でインフルエンザ、すなわち88%の確率でインフルエンザではないと言えます。

一方、検査前の確率が80%なら、オッズは4。すると、もし検査で陰性なら陰性尤度比は0.4なので
4×0.4=1.6
となり、0.62/(1-0.62)がおおよそ1.6となるので、すなわち検査では陰性にも関わらず、62%の確率でインフルエンザの可能性が残ってしまったと言えるわけです。

つぶやき終わり!


検査前に「インフルっぽいか」を見極めろ!

つまり、何が言いたいのかというと・・・

「検査前に、インフルエンザである確率がどれくらいありそうか」というのを見極めることが、検査の解釈の精度を上げるにはとても大事なのです。

つまり「この状態はたぶんインフルエンザじゃないだろうな」と思ったら、検査で(-)の結果を予想して検査するわけです。
そして実際(-)なら、インフルエンザ以外の原因だと言いやすくなるということです。

一方「この状態はたぶんインフルエンザだろうな」と思ったときに検査で(-)の結果が出ても、インフルエンザを否定するには不十分ということになり、結局インフルエンザは否定しきれない、つまり、検査が(-)でも、インフルエンザの診断にすることはあり得るということです。

(これはこの検査が感度がいまいちな検査だからです。特異度はめちゃくちゃいいので、インフルエンザっぽいときはもちろん、インフルエンザっぽくなくても、(+)なら、その見立ては大きく覆り、おそらくインフルエンザと言い切っていいということになります)。


検査結果をしっかり解釈するには

これが、私たち医師が行う診察の重要性ということになります。

つまり、流行状況、周りの状況、感染リスク、症状の特徴、身体に現れる所見などで、「検査前の確率」をしっかり見極めることが、正しい診断、適切な治療に大きく影響するということになるわけです。

ですので、やはり確度高く、確実に治療を成功させるためには、このことをしっかり理解している医療機関で診療を受けて頂きたいところです。


今後年末にかけて、感染リスクはおそらく急上昇します。
(当院もできる限りの対応はしておりますが)感染状況がひっ迫すると、医療機関もなかなか受診しにくくなってしまいます。


まずは早めのワクチン接種で、しっかりと予防対策を!

そして体の異変が出た時は、できるだけ早めに私たちなど医療機関にご相談ください!



さいごにお知らせ!

先日の「エクセレントドクター」に続き、今度は株式会社WeBridgeさんが運営されているWebメディア「医師道」に、私のインタビュー記事が掲載されました。
私がこのクリニックを継承するまでの経緯や、今抱く診療への想い、今後の展望などについてお話ししています。
ご興味のある方は、ぜひご一読を!

▼ インタビュー記事はこちら

▼ 本企画の運営元
運営元:株式会社WeBridge
HP:https://webridge.co.jp/

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.10.16更新

永遠に続くと思われたクソ暑い夏もようやく終焉を迎え、朝晩はだいぶ涼しくなってきましたね。
夜にエアコンがいらない生活は、本当にホッとします。

しかし・・・!

呼吸器、アレルギーを専門とする当院では、この10月以降から、調子を崩す患者さんが増えて、新患の方や、予定外の受診を希望されるかかりつけの方で急激に予約が埋まってしまうのが毎年この時期の風物詩です・・・。
(ただし、今年は医師が増えたことにより昨年よりもだいぶ枠に余裕ができたことで、新患の方や予約外受診の方の受け入れが幸い比較的スムーズにいっています。よかった・・・)

秋にアレルギーが悪化する理由はいくつかあります。

例えば秋の花粉ブタクサなどイネ科の雑草など)、気温の低下、それに台風の襲来など・・・


しかし、一番大きな原因でありながらもあまり知られていない、秋のアレルギーの主役がいるのです。


それが「ダニ」です。

(ちなみに「ハウスダスト」とは文字通り、家のホコリのことで、ダニだけではなくヒトの皮屑、衣類の繊維、カビ、花粉、細菌なども全て含みますが、一番含有量が多いのがダニ抗原で、結局はダニとほとんど同じ結果が出るため、ほぼ同じものとして捉えてしまってもよいと思います。)

ダニアレルギーは、アレルギー性鼻炎や結膜炎、アトピー性皮膚炎、それに気管支喘息の原因としてよく知られていますが、実はその症状のピークは、意外なことに夏ではなく、今、この秋なのです。


でもダニって一年中いるし、むしろ暑くなる夏に増えそうな気もしませんか・・・?

そんな疑問にもお答えするべく、今回は、「ダニアレルギーのピークが秋である」その理由と対処法を、医学的な視点から紐解いてみたいと思います。

 

夏の「繁殖期」が秋の「ピーク」を生む

ダニの代表種である「ヒョウヒダニ」は、気温25〜30℃、湿度60〜80%という高温多湿な環境を好みます。

つまり、日本の夏はダニにとって最適な繁殖環境です。
特に寝具や布団、カーペット、ソファなど、ダニが一旦絡まったら飛んでいかないような場所では、ダニが急速に増殖してしまいます。

研究によれば、7〜8月にかけて家の中のダニの数は一番増え、1平方メートルあたり数千匹にも達することがあるのです(環境アレルゲン学会報告 2018)


ところが、9月以降、気温と湿度が下がるとダニは急速に死んでしまいます。
つまり「ダニの死滅期」を迎えるわけです。

ここに重要な点があります。

実は、様々なアレルギー症状を引きおこす最も強力なアレルゲンは、このような死んだダニの死骸やフンなのです。


アレルゲンとしての「死骸」と「フン」

ダニの体内には、アレルギーの原因、つまりアレルゲンとなるタンパク質が含まれています。
これらはダニの消化酵素の一種で、体の中やフンに多く存在します。

秋になるとダニは死んでしまって死骸になるのですが、死骸になると乾燥して軽くなります。

乾燥したダニの死骸、ダニのフンは簡単に砕けてしまうので、舞い上がるのは、実はダニの死骸のかけら、フンが粉状に分解したものなのです。

ダニの体の大きさは0.3mmくらいで、この大きさだと鼻毛に引っかかり気道には入らないのですが、砕けたダニの死骸やフンは0.01~0.04mm程度と非常に小さくなってしまい、しかも軽くなって空気中に漂うため、容易に吸い込んで気道に入り込んでしまいます。

そうして吸い込むと、その破片に含まれたアレルゲンが気道や鼻粘膜で免疫反応を引き起こし、「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」いった、アレルギーの炎症を強く起こす物質を放出させることで、鼻炎や喘息症状が出現してしまうのです。


つまり、「生きたダニ」ではなく「ダニの死骸とフンが乾燥して細かくなったもの」がアレルギー反応を引き起こしているというわけです。

そして、9〜11月は、夏の繁殖期で増えたダニの大量死が重なりなることで、これらのアレルゲン量が年間で最も高くなるため、「ダニアレルギーのトップシーズン」と呼ばれるわけです(日本アレルギー学会誌, 2016)


「乾燥」と「環境の変化」が後押しする

ダニが死滅期を迎えることが、秋にピークを迎える理由ですが、他にも秋特有の環境が、その「あと押し」になります。

まずは秋になると外気が乾燥し、ダニの死骸やフンの乾燥をより進めてしまいます。

また徐々に寒くなってくると窓を開ける機会も減り、換気量が少なくなるので、室内のハウスダストが滞留しやすくなります。

このような物理的環境の変化も、アレルゲンの濃度上昇をさらに助長してしまいます。


ヒトのカラダも秋に変化が

また、秋は一日や日ごとの寒暖差が大きくなり、特に気温低下が気道に刺激を与えます。

加えてその温度差、秋雨前線や台風の襲来が、自律神経のバランスに崩れをもたらし、鼻や気道粘膜の防御機能が低下しやすくなってしまいます。

粘膜バリアが弱ることで、少量のアレルゲンでも炎症反応が起こりやすくなってしまい、結果的にアレルギー症状が強く起きてしまうとも考えられています。


また免疫の観点からも、秋にアレルギー反応が強まりやすい理由があります。

人間のカラダは、アレルギーを引き起こす物質にさらされ続けていると、「感作」という現象によって、よりアレルギー症状が起きやすくなります。

夏の間に増えたダニに体が曝露され続けると、免疫系が「感作」されやすくなり、「ダニ成分に対して過敏に反応する体質」になりやすくなるます。

そして、その状態で秋を迎えると、死骸やフンといったアレルゲンを吸い込んだ際に即座に免疫反応が起こり、アレルギー症状が強く起こってしまうという訳です。

つまり秋は、アレルギー反応を起こしやすいように「準備されたカラダ」が、大量のダニアレルゲンに一気に反応してしまいやすい季節と言えるのです。


住環境も原因です

また、ダニアレルギーは近年ますます増えているとも言われています。

現代の住宅環境は気密性が高く、室内のアレルゲンがそのまま留まってしまいやすい環境です。
またカーペットやラグ、ぬいぐるみなど、ダニの好きな場所も以前より多い家が多く、ダニアレルギーを吸ってしまうリスクが増していると言われています。


まずはしっかり掃除を!

では対策に話を移しましょう。

秋のアレルギー、つまり「ダニアレルギー」に対する一番の対策は、その「ダニの死骸、フンを取り除くこと」です。

具体的には以下のことに気をつけて掃除しましょう。

 ①寝具をきれいに

布団や枕は、ダニの温床です。
週1回の天日干しや、布団乾燥機の使用が効果的です。
さらに、布団カバー、枕カバーも定期的に洗濯するようにしましょう。

 ➁掃除機は「ゆっくり」「こまめに」

ハウスダストは軽いため、すぐに舞い上がってしまいます。
掃除機をかける際は、ゆっくりと時間をかけて吸引しましょう。

また、物の影や部屋の角の床は、手が届きにくい場所です。
物をなるべく床におかないようにしましょう。

 ③カーペット・ソファの見直し

布製のカーペットやクッションにもダニが繁殖しやすいです。
まずは出来る限り掃除しますが、可能であればフローリングやレザー素材への切り替えも検討を。

 ④カーペットだけではなく、フローリングにも注意!

フローリングはダニの隠れる場所がなく、ダニが増えにくい環境です。
ただその分、ホコリが動きやすく、容易に舞い上がりやすい環境でもあります。

フローリングの掃除も定期的に行いましょう。

 ⑤空気清浄機の活用

HEPAフィルターを搭載した空気清浄機は、ダニアレルゲンやホコリを効率的に除去できます。
特に寝室に設置することで、夜間の吸入を減らせます。


治療も先読みを!

とはいえど、100%アレルゲンを除去することは不可能です。
現実的にはある程度のダニアレルゲンと共存する必要があります。

アレルギーの治療は「天秤」「綱引き」の関係とも言われます。

「その人が症状を起こすアレルギーの環境」を「治療の強度」が上回っていれば、症状をしっかりと抑えることは可能です。


また、アレルギーに限らず、炎症は起きた炎症を抑えるより、炎症が起こらないようにすることの方がずっとエネルギーが小さくて済みます。

悪化する季節を予想して、先回りして治療を行うことが非常に効果的なのです。

秋のこの時期に向け、あらかじめ抗アレルギー薬を飲み始めたり、ステロイド点鼻薬、アレルギー点眼薬などを準備しておき、悪化時にはすぐに開始できるようにしておくことも、重要な対策の一つです。

また、副作用を我慢しながら治療を続ける、困っている症状があまりよくならない、薬の飲み方が自分の生活リズムには合わないなどということが起きると、治療を続ける事は難しくなり、結局シーズン中に症状をコントロールすることができません。

シーズンの間、無理なく治療を続けていくために、自分に合った薬をしっかり選ぶということも大事です。

また気管支喘息の方で、秋に症状が悪化しやすい方に関しても、悪化しやすい時期に向けて、あらかじめ吸入薬の強さを上げたりする「事前の調整」を行うことが有用です。

とはいえ、いつ頃から、どの程度の治療を始め、どの程度治療を上げ、どこで戻していくかといった細かい「さじ加減」は、なかなか自分の判断では難しいところです。


やはりその方に一番合った「オーダーメード」の治療を行うには、その方のバックグラウンドや、その年のアレルギー状況の傾向を熟知している呼吸器専門医、アレルギー専門医に任せて頂きたいと思います。


舌下免疫療法による根本治療

ダニアレルギーは、スギ花粉症と並んで、舌下免疫療法が保険適用で行える疾患の一つです。

舌下免疫療法とは、そのアレルゲンエキスを毎日少量ずつ舌の下に投与し、体を少しずつアレルゲンに慣らしていくことで、長期的にアレルギー反応を弱める体質を作る治療法です。

効果が出るまで時間はかかりますが、継続することで根本的な体質改善が期待でき、秋のピーク時でも症状が軽くなっていくため、是非考えて頂きたい治療です。



正しい知識と適切な対策で、快適な秋を!

秋は過ごしやすい季節である一方、ダニアレルギーを持つ人にとっては症状が悪化しやすい「要注意の季節」です。

でもその背景を正しく知り、対策を取ることによって、しっかりと症状をコントロールすることができます。

しっかりとその対処法を知り、必要時には私たちプロに頼って、気持ちいい秋を過ごしましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.10.03更新

さて、前回はインフルエンザワクチンを接種したい時期についてお書きしました。

神奈川県も昨日、1医療機関当たりの週の感染者数が流行開始の目安となる1.0人を超え、1.24人に達しました。
前回のブログでもお書きしたように、かなり速いペースで流行がはじまってしまっているようです。

そんな中、今回はその時の予告の続編、今年から当院でも取り扱いを始める、鼻にスプレーするタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト」について、お話ししてみようと思います。


フルミストとは?開発の経緯と仕組み

フルミストは「生ワクチン」に分類されます。
生ワクチンは、インフルエンザウイルスそのものを使用しますが、とはいっても病気そのものを引き起こすのではなく、病原性を弱くして、実際に症状が出ない「ワクチン仕様」に改良されたインフルエンザウイルスにして使います。

弱毒ウイルス

これを鼻の奥にスプレーすると、ウイルスは上気道の粘膜でほんの少しだけ増えます。
その結果、そのウイルスを追い出そうと体は免疫反応を示します。

抗体反応

その免疫反応によって、身体にインフルエンザの「抗体」が出来上がり、本物のインフルエンザウイルスが入って来たときに、すでに作ってあった抗体がウイルスを排除してくれるという仕組みです。
そして、鼻からスプレーして、鼻の粘膜から吸収されるフルミストは、鼻やのどの粘膜で抗体を作ってインフルエンザを食い止める「粘膜免疫」として働くという特徴をもっており(後でお話しをするように)この部分がちょっと有利な一面をもっているのです。

このワクチンはアメリカで先に開発され、2000年代から広く使われてきました。
WHO(世界保健機関)や米国CDCも「注射ワクチンと並ぶ選択肢」として位置づけています。


効果はどのくらいあるの?

「新しいけど本当に効くの?」と心配になる方も多いと思います。

実際の研究をみると、年や流行したウイルスの型によって効果の強さに多少のばらつきがあります。
過去にはH1N1型のシーズンで効果が弱かった時期もありましたが、その後株の改良が行われており、その後の研究では既存のワクチンと遜色ないものとなっています。

最近のメタ解析(複数研究をまとめた分析)では、フルミストの有効率は 61.9%に対し、注射ワクチンは 45.7%
フルミストに軍配が挙がったという報告があります。

ただ別の研究では逆に注射の方がやや効果が高かったという報告もあり、完全に「フルミストが圧勝」とまでは言えません。

総合すると、フルミストと注射の効果はそれほど変わりはないのでは、と考えてよいのかなと思います。


メリットは?

フルミストの最大のメリットは、注射をしなくていいことです。
注射じゃない

お子さんで「注射が怖いからワクチンは嫌!」というケースは少なくありません。
でも、フルミストなら鼻にスプレーするだけなので、心理的ハードルがぐっと下がります。

さらに、先ほどお話しした「粘膜免疫」が働くというのもメリットです。
インフルエンザは通常、鼻やのどの粘膜から体内に侵入しますが、「粘膜免疫」が働いている状態では、その侵入経路の入り口である粘膜に多くの抗体があります。
「門番」として抗体が力強く働くことで、感染そのものを防ぐ力も期待でき、保育園や学校など人との接触が多い場面では理にかなった方法ともいえます。


どんなふうに打つの?

片鼻に1回ずつ、両鼻にスプレーします。
スプレーした時に鼻からゆっくりと吸い込んでもらいます。

フルミスト

対象年齢は 2歳から18歳までですが、当院では6歳以上の方を対象とさせて頂きます(いかんせん、小さい子の扱いは医師、看護師ともに慣れていないクリニックですので、お子さんにご迷惑をおかけしたくなくって・・・)。

鼻水があるようなら、打つ前にしっかり鼻をかんでおくことが重要です(鼻水だらけだとうまくワクチンが吸収されません)

鼻をかむ

また接種当日の入浴・洗顔は可能ですが、接種した鼻や顔を直接こするような洗浄は避けてください。
また激しく鼻をかむのも避けたほうがいいです。


鼻水、鼻づまり、くしゃみ、のどの痛みなど、風邪のような軽い症状がたまに起きることがあります(ウイルスが多少増えるときに、ごく軽く反応するためです)。

軽い発熱やだるさが出ることもありますが、数日で自然に治まることがほとんどです。

ただし注意が必要な方もいます。
症状がたびたび出るなど、症状の重い喘息の方は、喘息が悪化する可能性があるため避けたほうが無難です(症状がしっかり抑えられていれば心配はいりません。というかしっかり症状を抑える治療ができていることがそもそも大事です)。

喘息発作

弱毒ウイルスとはいえ生ワクチンなので、それに打ち勝てない可能性のある、免疫不全の病気をお持ちの方、免疫を抑える治療を継続的に行っている方も、避けたほうがいいでしょう。

こうした場合はフルミストは使わず、従来型の注射ワクチンを選んだほうが安全です。

また、接種後はしばらくの間、鼻やのどから弱いウイルスが排出されることがあります。
そのため、免疫不全の病気のある家族と一緒に暮らしている場合には注意が必要です。


どんな人におすすめ?

フルミストをおすすめしたいのは、

注射が怖くて接種をためらってしまうお子さん
注射嫌い

保育園や学校など、感染のリスクが高い集団生活をしているお子さん
集団生活

1回で接種を終わらせたいお子さん
フルミスト

といったところです。


まとめ

フルミストは「痛くないインフルエンザワクチン」として、新しい選択肢を提供してくれる存在です。
効果も注射のワクチンと遜色なく、特に「注射が嫌で接種を避けてしまう」ケースでは大きな意味を持ちます。

ただし、生ワクチンならではの注意点もあるため、接種するかどうか迷ったときには、ぜひ医師と相談し、自分やご家族の状況に合った方法を選んでください。


とにかく何より大切なのは、「毎年きちんと接種すること」
注射でもフルミストでも、続けることが最大の予防につながります。

流行が始まりつつある今、皆さんとご家族、周りの方のため、お早めの行動をお願いします!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.09.24更新

まだ9月だというのに、当院の発熱・感染症外来ではインフルエンザ陽性の方が出続けています。

インフル感染

コロナ禍の前までは、インフルエンザは12月から3月にかけて流行のピークを迎えることが常識でしたが、コロナ禍で一旦インフルエンザがこの世の中から消え、そしてそのコロナ禍が明けてからは、何だがインフルエンザウイルスの秩序が大きく変わったかのように見えます。

インフルエンザ流行

 


神奈川県衛生研究所HPより


具体的には、感染対策が緩んできた2022年~2023年の冬に流行が再開した後、その流行が翌年秋まで1年間収まることない、異例の展開となりました。

その後2023年9月から再度大流行し、またその流行が5月ごろまで続き、GW過ぎまでインフルエンザに感染する方が出続けました。

そして昨年年末は、1999年の統計開始以降最多の患者数を記録する大流行へとつながっていきました。

その後も、この夏場に至るまでインフルエンザ陽性の患者さんが定期的に見られるなど、もはや「インフルエンザは冬の病気」だという認識を改めなきゃいけないのかもと感じています・・・

夏のインフル


なぜ季節外れの流行が起きているのか

コロナ禍の前までは、インフルエンザの流行は明らかなパターンがありました。
そのため、そのパターンに合わせてワクチン接種の時期を決めるなどの対策も取りやすい状況でした。

しかし、コロナ禍以降の今は、このパターンが崩れているようにも見えます。

インフル

この現象の背景には、いくつかの要因が考えられているので、まずはそれをいくつか見てみましょう。


免疫の“空白期間”ができた

コロナ禍では、マスク・手洗い・人との接触制限が徹底され、多くの呼吸器ウイルスが姿を消しました。
このことは(特にこの頃のコロナは感染する重症化する株でしたので)とても有意義で必要な事ではありましたが、一方その間に、本来なら毎年少しずつ感染して免疫をつけていた子どもたちが、ウイルスに出会わずに成長してしまうという側面もあったのは事実です。
インフル

これを「免疫ギャップ」「免疫の借金」と呼ぶことがあります(Baker RE et al. Science 2020; Li Y et al. Lancet Infect Dis 2021)

接触制限が緩和され、ウイルスが再び伝播しやすい状況となったあと、この数年分の“借金”が一度に返済されるように、流行が大きく、しかもいつもと違うタイミングで起こるようになったと考えられています。


ウイルス同士の駆け引き

実は、ウイルス同士にも“なわばり争い”のような関係があります。

あるウイルスにかかると、しばらく別のウイルスにかかりにくくなることがあり、これを「ウイルス干渉」といいます(Nickbakhsh S et al. Proc Natl Acad Sci USA 2019; Jones N. Nature Reviews Microbiology 2023)

ウイルス干渉

たとえばコロナ禍前はインフルエンザとRSウイルスの流行が微妙にずれたりしていました。
これも「ウイルス干渉」の影響があると考えられています。

しかし、コロナ禍のあと、この力関係がリセットされ、流行時期のズレや重なりが目立つようになったのです。


行動や生活習慣の急激な変化

コロナ禍では学校が休校になったり、職場も在宅勤務が増えたりしました。

人の集まり方や移動の仕方が一時的に大きく変わり、その後一気に元に戻ったことで、感染症が流行する「きっかけ」や「広がり方」が乱れました(Shi T et al. Nat Commun 2022)

人の流れ

流行の立ち上がりが例年より早かったり遅かったりする背景には、こうした社会のリズムの変化も影響しているのではと言われています。


ウイルス自体の進化

インフルエンザウイルスは新型コロナウイルス同様、ウイルスそのものも少しずつ姿を変えています。

ウイルス変異
型の違いや変異によって、感染しやすさや広がる速さが変わることもあります(WHO FluNet 2023; Vatti A et al. Vaccines 2023)。


これらの要因が重なって、流行のパターンをさらに不規則にしているのです。

 

今シーズンは早期から流行するかも?

コロナ禍明けの近年は、インフルエンザ流行開始が前倒しになり、かつ急激に感染が広がる傾向があります。

局所的ではありますが、この暑い盛りの9月に、全国規模でインフルエンザ流行による学級閉鎖がすでにみられているようなのです(全国で9月8日~14日に学級閉鎖になったクラスは88か所あったそうです。コロナ禍以前はこの時期は多くても10未満でしたので、やはりこの面から見てもウイルスの秩序は変わったのでしょうね)。

実際、当院でも9月上旬からインフルエンザ陽性者が確認されており、これがいつ本格的流行になってもおかしくない状況と言えます。


それに長期化する可能性も・・・

そして、近年は流行期間の長期化が見られ、今年も同様に懸念されています。

コロナ禍以降は、以前のように完全に収束することなく、ダラダラと流行が続くことが増えており、今年もこの秋から冬、そして来春まで、断続的に流行が続く可能性があるのです。


ですので、ワクチンの接種推奨時期も、今までの常識にはとらわれない考え方が必要となるのです。

インフルエンザの有効性については、今年の元旦のブログで触れました(2025.1.1 インフルエンザワクチンって効果あるの? ~論文の読み方からも考えてみよう)。

それでは、インフルエンザワクチンは、今までの知見上有効であるという前提に立って、ではいつインフルエンザのワクチンを打ったらよいかを考えてみましょう。


ワクチンの効果が続く期間

インフルエンザワクチンを接種すると、免疫ができるまでに2週間程度かかります。そしてその効果は 4〜5か月程度続くとされます。

ワクチン

つまり、まずは流行のリスクの高いシーズン(12月〜翌年3月ごろ)をカバーできるようにしておきたいところです。


でも、早めの接種も考える必要あり

例年なら「11月に打てば間に合う」と考えられてきましたが、先ほどのお話しのように、最近は 9月や10月から流行が始まるケースが目立っています。

このため「従来のペースで11月に接種したら、すでに流行が始まっていて間に合わなかった」という状況もあり得るのです。


接種時期の考え方

このような背景から、接種のおすすめ時期は人によって少し変える必要があるのです。
次は接種時期をパターン別に考えてみましょう。


高齢の方、基礎疾患をお持ちの方

高齢者

高齢の方は、インフルエンザにかかると肺炎や心不全、脳梗塞の誘発など、合併症のリスクが急上昇します。

入院や死亡の大半を占めるのは高齢者層で、特に 65歳以上では致死率が小児や若年成人よりも桁違いに高いと報告されています。

それに一般的に効果は接種後4〜5か月とされますが、仮にさらに流行が春先まで長引いても、その効果は「まったくゼロになる」のではなく、重症化予防効果はある程度残ることが分かっています。

つまり「早めに接種して初期流行を防ぐ」メリットの方が、春に効果がやや弱まるデメリットを上回るため・・・

 →10月中の早めの接種がお勧めとなります。


受験生の方

受験生

受験生の方は若いため、重症化のリスクは低いですが、本番前の数週間にインフルエンザでダウンすることは絶対に避けなくてはなりません。

発熱で試験を欠席する、体力を落として本来の力が発揮できない──れを避けることが最優先になります。

効果発現までに2週間かかること、効果は4〜5か月持続すること、12月〜2月の受験シーズンをしっかりカバーすることを考えると・・・

 →10月中に接種すれば、12月〜2月の本番期をしっかり守れます。


また、秋の模試や学校行事に影響したくない場合は、より早めの9月下旬〜10月上旬に接種するのが安心です。

インフルエンザにかかると 1〜2週間は回復に時間がかかるため、追い込み期に発症してしまえば受験勉強のラストスパートに大打撃になります。

リスクを下げるためにも必ず接種しておいていただきたいところです。


一般の方

一般の方

リスクは上記の方と比べると低めではあるので、例年通り接種すれば、シーズン全体をしっかりカバーできる可能性が高まります。
つまり・・・

 →10月中旬~11月がベストと言えるでしょう。

但し、ご自身のイベントによって、どうしても抑えたい時期は人によって変わるかと思います。

接種から2週間で効果が出て、4~5ヵ月間は効果が続くと考え、自分に一番合った接種時期を考えて頂ければよいかと思います。

 

12歳以下のお子さん

子ども

12歳以下のお子さんは、2~4週空けて2回接種が必要です。
学校は特に流行をしやすい環境であり、早めに流行が始まる可能性もあります。

すると本格的に流行が開始する可能性のある11~12月までには、2回目の接種を終わらせておきたいところです。

となってくると、効果が上がってくるまでの2週間、そこから1回目接種の時期を逆算していくと・・・

 →9月下旬~10月中旬くらいまでには1回目接種を行っておくのがベストだと考えます。


さてそんな中、昨年から日本でも、鼻から噴霧する、針を刺す必要のないワクチン「フルミスト」が認可されました。

フルミスト

このワクチンはお子さんでも1回で接種が終了するという優れモノ!
ただ、注意点もいくつかあります。

今年から、当院でも6~18歳の方を対象に、接種受付を開始します(接種は予約制とさせて頂きます)

その「フルミスト」についての効果や特徴、注意点についての記事を、次回はお話ししてみようと思います!



★お知らせ!★

前回発表させて頂いた、平塚新クリニックの新院長をご紹介します!

新クリニックの院長は、現在金曜午後に診療を担当している池田秀平医師が就任します。

池田秀平

池田先生は、横浜市立大学医学部卒業後、茅ヶ崎市立病院、横浜医療センター、横浜市立大学附属市民総合医療センターなどで内科、呼吸器、アレルギー診療のメソッドを徹底的に叩き込まれ、現在は呼吸器専門医を取得して横浜栄共済病院で多種多様な呼吸器疾患に対峙しながら中心的役割を果たしながら、当院でもそのスキルを発揮していただいています。

呼吸器専門医として、広く、かつ深い視野で症状の原因を的確に見抜くと同時に、診察の際の物腰は非常に穏やかで、とてもきさくで話しやすいと評判の先生です。

私が考えても新クリニックの院長を任せるには彼以上の適任はなく、彼の決断のおかげもあり今回満を持して平塚院の院長に就任していただくことが叶いました。
池田新院長を、今後ともよろしくお願いいたします!


今後も新クリニックの詳細、最新情報につきましては、これから随時本ホームページやLINE公式アカウントなどでお知らせいたします!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.09.13更新

突然ですが、本に載せていただきました!

産経新聞生活情報センター企画さんから出版された「信頼のエクセレントドクター 2025年版」に選出いただき、先日全国で発売されたとのことです。

エクセレントドクター

エクセレントドクター


「呼吸器領域の専門医として、地域で質の高い呼吸器診療を行いながら、ブログなど積極的に患者のニーズに沿う情報発信を行っていること」
が、今回選出していただいた理由とのことでした(なんだか自分で書いててこっぱずかしいのですが・・・)

私が呼吸器科に進んだ理由や、目指していきたい診療スタイル、そして今後の展望、などなどを取材頂き、10ページもの記事を作成していただきました。

大きな病院さんなども掲載されており、そんなところに載せて頂いており、なんだかおしりがこぞばゆい・・・

ですが、せっかく選出していただきましたし、この名に恥じぬよう、これからも精進していきたいと思います!

本は全国書店の他、Amazonや楽天ブックスなど、主要オンライン書店でも取り扱われております。

Amazon販売ページ

楽天販売ページ

また当院には抜粋版をご用意しております(出版社のご厚意で戴きました)ので、もしよろしければお手に取っていただければ嬉しいです。


記事の内容は以下からもご覧いただけますので、ご興味のある方は是非ご覧ください!


特設ページはこちら!

 

さて今回、その記事の中でも公表させて頂いた、当クリニックにとっての重大発表を、本日は行いたいと思います。


「2026年春、平塚に、駅直結の新たなクリニックを開設します!!」


おかげさまで当院は2020年に現院長が加藤医院を継承後、多くの患者さんにご愛顧いただき、1日平均140名を超える患者様にご来院頂くまでになりました。

そして患者さんは茅ヶ崎市内のみならず、市外からも多くいらっしゃっております。

この状況は大変ありがたいことではあります。
が、その分、院内の混雑は年を追うにつれて増してきており、せっかくお越し頂いている患者さまにご迷惑もお掛けしている状況です。


また、当院には(県西部に呼吸器専門の医療機関が少ないこともあり)、特に平塚以西より患者さまが多くいらっしゃっている状況もありました。


そこで、今回、平塚駅直結の駅ビルに、新たなクリニックを開設することになりました!

こちらの平塚新クリニックでは、茅ヶ崎の本院と同様、「長引く咳の専門医」のコンセプトの元、一般内科に加え、質の高い呼吸器専門診療を提供する予定です。

(以下の写真はすべて完成予想図CGです。完成時には仕様が異なる可能性がありますのでご了承ください。)

平塚内科
  受付

茅ヶ崎本院の1.6倍の敷地に、4つの診察室を備え、茅ヶ崎本院と同様、採血やレントゲン、各種呼吸機能検査などの検査機器を取り揃えます。

更には80列マルチスライスCT(肺を4秒で撮影出来て、しかも放射線量も少ない超高性能機です)を導入し、今まで以上に精密な呼吸器診療が提供できる体制となります。

平塚内科
  CT、レントゲン室

そしてこのCT導入によって、茅ヶ崎本院でCT検査が必要になった方も、早ければ当日中にこちらの新クリニックにお越しいただき(何てったって改札から徒歩1分ですので、茅ヶ崎の本院からドアtoドアで最短10分で到達可能です)、その日のうちに結果をご説明できるようにもなります。

加えて、新クリニックでは、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)に加えて、下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)も導入します。
今まで茅ヶ崎の本院では行えなかった大腸カメラを、胃カメラとともにワンストップで行うことができるようになり、飛躍的に利便性が向上する見込みです。

平塚内科
  内視鏡室


平塚に開院する新クリニックは、まずは現在茅ヶ崎本院に来ていただいている、多くの平塚以西の方にとって、今よりも近く、気軽に受診できるクリニックとなります。

また新クリニックは駅ビル内ということもあり、駅まで到達すればそこはもうクリニック!
東海道線辻堂以東や相模線、小田急線沿線の方も、東海道線平塚駅まで来て頂ければ、クリニックは改札から1分、雨にも濡れずにお越し頂ける立地ですので、こちらの方面の方にとってもお越し頂きやすいクリニックとなります!

平塚アクセス

そして、こちらの新クリニックの開院によって、茅ヶ崎本院も混雑緩和、待ち時間短縮などの効果が期待でき、今までよりも、より快適にご利用いただけるようになると思われます。

それに、お越しになりたくてもなかなかご予約がお取り頂けなかった長引く咳の方も、今より格段にご来院頂きやすくなると考えています。


新クリニックの詳細、最新情報につきましては、これから随時本ホームページやLINE公式アカウントなどでお知らせをします。

私たちは、これからも内科、呼吸器専門診療を通して湘南地域のカラダのお悩みのゲートキーパーとして、そして長引く咳の最後の砦として、精一杯頑張ります!


以下にその他の完成予想図をいくつか掲載します(先ほどもお話ししたように、完成時には仕様が異なる可能性があります)。

平塚内科
  受付から待合

平塚内科
  待合(診察室側から)

平塚内科
  待合(診察室側に向かって)

平塚内科
  処置、検査室

平塚内科
  診察室


最新情報は今後、HP、LINE公式アカウント公式instagramなどで随時掲載予定です(instagramはしばらく更新をお休みしておりましたが、今後積極的に運用を再開します!)


是非平塚新クリニックの完成、開院を楽しみにお待ちください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.08.24更新

前回のブログ(①原因編)はこちら!

さて、お盆も終わり、夏の甲子園もフィナーレを迎えました。

甲子園も、初戦で(我が)金足農業を下した沖縄尚学が見事優勝で幕を閉じました。

日々熱戦が繰り返される甲子園、見ていたらなんだかうずうずしてきて・・・

私もやりたくなっちゃいました(笑)

という訳で、およそ1年ぶりに、草野球チームの試合に参戦してきました(高校同期で25年前に創設したチームで、一応私も創設メンバーではあったのですが、仕事の忙しさもありほぼ幽霊部員状態です・・・)。

久しぶりに打席にも立ち、何とかヒット1本は打ち、(肉離れ覚悟で)全力疾走し、先制点のホームも踏みました。
野球

 

野球

当院の運用サポートに入っていただいている有友さんも(人数不足でしたので)急遽助っ人として参戦。
40代、多忙にも関わらず、毎週地元の草野球チームでキャッチャーを務める「猛者」です。

野球

試合は残念ながらサヨナラ負け・・・でしたが、まあ、当日試合の行われた府中市の気温は37℃、昼12時からの試合ということもあり、とにかく無事に帰宅できたことが一番の結果です(皆さんも熱中症にはくれぐれもご注意ください!)。


ここからが本題です!


さて、前回は、鼻やのどが原因で起こる咳について、その原因についてお話ししてきました。
今回は、その見極め方や治療、自分でできる対処法について引き続きお話ししてみようと思います。

まずは見極め方です。
鼻やのどが原因で咳が起こる場合、そのパターンは人それぞれですし、鼻症状と他の病態が合併することも良くあることなので、その症状だけで見極めるのは難しいものなのですが、ある程度の傾向はあるので、ここではそれをお話ししてみようと思います。


後鼻漏では夜と朝の、痰の咳

後鼻漏による咳では、鼻水が喉に落ちてくることによって咳が出るため、痰を伴う咳になることが多いですが、喘息ではしばしば痰の伴わない咳になることがあります(もちろん喘息でも痰を伴うことは珍しくありません)。

 

後鼻漏による咳では、比較的夜間から寝る前までの咳が多くなってきます。
また、朝起きがけの時に増える咳も特徴的です。

20250828

ただ、夜中に咳で起きてしまったりするケースは少ないようです(寝ているときに咳が出るケースは実はよくあるのですが、どういう訳か本人は咳をしていることに気づかず、周りだけが気にしているというケースが多いです)

一方喘息でも夜にかけて悪化するのですが、寝ている時(特に夜中3時頃)に咳が悪化して起きてしまうのが一番特徴的です。


後鼻漏は仰向けで咳が出る

姿勢による症状の変化も参考になります。

後鼻漏による咳の場合、流れ落ちる鼻水が増えると咳が悪化します。
そのため、夜寝るときに仰向けで寝ていると咳が悪化しやすい傾向があります。

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後鼻漏の咳は急に出て、止まる

咳の出方についても、後鼻漏による咳は、喉に一定量の痰が溜まるとそれを排出しようと咳が出るので、一度出ると止まらず、一旦出切るとピタッと止まる「発作性咳嗽」の形を取りやすいです。

一方喘息では、症状の出やすい夜や、環境の悪いところにいるタイミングなど、症状が悪化しやすい環境では割とコンコンと続けて咳が出るケースが多いようです。


喘息みたいにヒューヒューはしないけど・・・

喘息では気管支が狭くなると、特に息を吐いたときにゼーゼー音が鳴ることがあります。

一方後鼻漏による咳では気管支は狭くならないのでゼーゼーすることはありません。
ただし、後鼻漏によって声帯がうまく開かなくなることがあり、この場合息を吸ったり吐いたりしたときに低いゼーゼー音が鳴ることがあります。

一方喘息でも、気管支がそこまで狭くならずにゼーゼーとはならないケースは少なくなく、音のあるなしで後鼻漏と喘息を見極めることは、素人判断では難しいのかなと思います。

私たち呼吸器科医は、まずは症状の特徴をお伺いし、傾向を見極めながら、採血や呼吸器の検査(スパイログラム、呼気一酸化窒素検査、モストグラフ)、それにレントゲンや、必要に応じて肺、それに鼻や副鼻腔のCT検査を行うことで見極めていますので、ここら辺の判断は我々にお任せいただければと思います。


さて、後鼻漏による咳とわかれば、それに合わせた治療を行うことになります。
続いては治療法についてお話ししてみましょう。


副鼻腔炎に抗菌薬は慎重に

アレルギー性鼻炎であれば、そのアレルギー反応を抑えるべく、抗アレルギー薬の飲み薬に加え、粘膜の炎症を抑えるステロイド点鼻薬などを使用します。

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また、細菌による鼻炎や副鼻腔炎があり、そのせいで膿がたまっているようであれば、その排除がとても大事になります。

副鼻腔にたまっている膿に対して、それを出しやすくする去痰薬や、細菌をやっつける抗生物質(本来は抗菌薬という言葉を使いますが、広く知られている抗生物質という言葉で説明します)などを考えます。

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ただし、副鼻腔炎は繰り返したり慢性化したりすることも少なくない病気ですので、毎回抗生物質を使ってしまうと、徐々に細菌が抗生物質に強くなってしまい、「耐性」を獲得し効きにくくなってしまいます。

20250828

すると他の抗生物質に変更することになるのですが、これを繰り返していると、徐々に効果のある抗生物質が少なくなってしまい、治療がどんどん難しくなってしまいます。

抗生物質は「使うべき時に」「使うべき種類の薬を」「正しい量と正しい期間」で使っていただくことで、耐性化を防ぐことができます。
何かと抗生物質に頼る治療法には注意をする必要があります(余った抗生物質を使ったり、他の人に出された抗生物質を使うことは避けましょう)


あえて抗生物質を少なく、長期に使う特殊な方法もある

一方あえて、あるタイプの抗生物質を長期間使用することで、慢性的な炎症を抑え込めるケースがあることもわかっており、病態によってはこの治療を選択することもあります(耐性化は覚悟の上ですが、そのデメリットよりも病状コントロールできることによるメリットが大きい時に選択します

いずれにせよ、抗生物質の治療は安易に行うことなく、治療に詳しい主治医の先生とよく相談されることをおすすめしています。


他には・・・?

副鼻腔炎は、アレルギー性鼻炎によって鼻の粘膜がむくんで、それによって自然口がふさがれてしまっておこるケースもあり、この場合は鼻の粘膜のむくみを取るために、アレルギー性鼻炎と同じ治療ステロイド点鼻、抗アレルギー薬など)を加えることもあります。

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また、症状を抑えるには漢方を使用することも少なくありません。
鼻水の性状や、症状、体質によって細かく使い分ける性質のものですので、こちらも主治医の先生とよくご相談のうえご使用ください。


スギ花粉ダニが鼻炎症状の原因となっている場合は、根本的に炎症を置きにくくする「舌下免疫療法」を行うことも有用です。



最後に自分でできる、生活上の注意点についてお話ししましょう。


まずは空気をキレイに!

まずは室内にいる花粉やダニ対策の対策を行いましょう。


アレルゲンには、まず掃除機などで寝具を定期的に掃除し、なるべく取り除きます。
布団乾燥機で寝具を熱処理をすると、ダニの除去には効果的です。

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またHEPAフィルターを備えた空気清浄機加湿器による湿度管理も行い、アレルゲンがなるべく空気中に舞い上がらないように対策を行いましょう。


鼻うがいは多めの生理食塩水で

また鼻うがいも有効です。

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生理食塩水を用いた鼻うがいは、アレルゲンや分泌物を洗い流し、鼻腔内の環境を整えるセルフケアとして大変有効です。
市販の鼻うがいキットで手軽に実施できます。

150~200ml以上の、比較的多量の生理食塩水でしっかり洗い流せるキットを選んでください(当院でも取り揃えております)。


水分摂取、禁煙もして、鼻に優しい生活を

脱水状態になると、分泌される鼻水や痰の中に含まれる水分が少なくなり、粘り気が強くなって排出しにくくなってしまいます。
十分な水分補給(1.5~2L/日)を粘膜の潤いを保ち、鼻水や痰を排出しやすくしましょう。

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タバコは気道の刺激になり、後鼻漏であってもその咳を悪化させる原因になります。
禁煙は気道炎症の根本改善に欠かせません。

最後に十分な睡眠とストレスケアで抵抗力を高めましょう。


以上、長引く咳と、鼻やのどの症状との関係について、2回にわたってお話をしてみました。

長引く咳の方では、鼻やのどの要素が(患者さんによっては数年以上も・・・)見過ごされ、なかなかすっきりと治らないケースが少なくない印象があります。


一方、鼻炎、後鼻漏による咳であれば、一見何に対しても効きそうな「咳止め薬」の効果があまりない一方、咳とは全く無関係に見えるこれらの治療で咳がよくなってしまうので、患者さんも不思議がることが少なくありません。

「一通りの治療をしてもらってもなんだか咳がスッキリしないな・・・」と感じた場合は、私たちのような咳の専門医に、是非ともご相談ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.08.05更新

いよいよ8月になり、夏の甲子園も始まりました。

私は東京出身(東京って言っても八王子だろ!高尾だろ!!カッペが都民気取るなっ!!!というツッコミはどうぞご遠慮願います)なのですが、大学が秋田だったこともあり、甲子園ではつい秋田代表を気にしてしまいます。

7年前の甲子園で金足農業が金農旋風を巻き起こしましたが、今年はまた金足農業が秋田代表!そして7年前の金農メンバーの弟世代がこぞってメンバーに入っていたこともあり、新・金農旋風!ということで大いなる期待を持っております!

8/7追記:残念ながら0-1の善戦も1回戦敗退でした・・・(沖縄尚学さんおめでとうございます!)


そして、医学部の体育会系部活にもこの時期、1年の目標となる大会があります。
医学生の体育系部活はこの時期、東日本、西日本と分かれ、全国大会を行うのです。

その名も東・西日本医科学生総合体育大会
通称「東医体」「西医体」

私は大学時代野球部で主将として(勉強そっちのけ?の)部活生活を送っていたので、やはり母校の後輩たちは気になります。
昨年は久しぶりの東日本3位入賞、そんな後輩たちが出場する今年の東医体野球競技が、今年は神奈川県開催で、しかも今日の朝10時から中井町で1回戦だという連絡をもらい・・・

居てもたってもいられず、午前診療が終わってから午後診療までの時間を使い、中井町に約15年ぶりに応援に飛び出しました。

野球


序盤先制して有利に試合を進めているとの連絡をもらっていましたが、到着するとすでに8回、逆転されて5点のビハインド。
相手も130kmをコンスタントに投げる好投手で、母校を必死に応援しましたが、終盤反撃するも結局力及ばず・・・

野球

野球

残念ながら今年は1回戦敗退となってしまいましたが、私の時と変わらぬユニフォームを着ながら、必死に戦う後輩の姿は、何よりもカッコよく、輝いてみえました。

野球


そういえば俺も真夏のグランドを元気に駆け回っていた時代があったなあ
今じゃゴルフでもカート必須なのに・・・(;´∀`)


ここからが本題です!


さて、お盆休みも近づき、当院は夏期休診前の大混雑でてんやわんや状態です。
本日火曜は、当院史上はじめて、1日に200人以上の方にご来院頂きました。
(おかかりつけで症状に少しでも変化のある方、お薬がなくなりそうな方、お盆前に診察しますので、遠慮なくお知らせくださいね!)


そして、相変わらず市内外から多くの「長引く咳」にお困りの新患の方も、毎週新たに50人以上いらっしゃっています。

当院では、すでに長く治療されているのにもかかわらず、なかなか症状が改善しない咳のためにお越しになる方も多く、すでに数週間~数カ月以上(場合によっては年単位で)咳にお困りで途方に暮れた末にお越し頂いている方も少なくありません。

ですので当院では、初診の時から詳しくお話をお伺いし、なるべく早期に原因を特定し、長引く咳を治療しています。

そのような診療の中で、私たちが診る長引く咳の原因として、やはり多いのは「喘息(咳喘息も含む)」なのですが、私の印象でも、本当に喘息と診断できる長引く咳の方は、せいぜい50~60%前後との印象です。

その他の40~50%の方の長引く咳の原因のうち、大きな割合を占めるのが、この前ご紹介した「胃・食道逆流」、それに鼻汁が喉に落ち込むことが原因になる「鼻の炎症による咳」の2つです。

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そう、気管支や肺ではなく、遠く離れた鼻や副鼻腔、さらには喉のアレルギーや炎症が引き金となり、慢性の咳を誘発することは、実は少なくないのです。

そこで今回は、原因として少なくないにも関わらず、しばしば見逃されやすい、鼻症状による咳について、その理由、対処法をお話ししてみようかと思います。


鼻の咳の原因「後鼻漏」

鼻が炎症を起こすと、鼻水(医学的には鼻汁といいます)がでてきます。

通常鼻水は鼻の穴から出てくることが多いのですが、前ではなく後ろ、つまり鼻の奥から喉の後ろの壁にかけて鼻水が垂れ込んでしまうことがあります。

これを後鼻漏といいます。

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後鼻漏によって咳が出る理由

喉に鼻水が落ちてくると、その物理的な刺激によって咳が出てきます
(これは落ちてきた鼻水=痰を排出させるための仕組みでもあります)。

それだけでなく、その鼻水は炎症の結果起こっているものですので、鼻水には炎症性の物質を多く含んでいます。
その物質が喉の粘膜を刺激すると、喉にある感覚神経を刺激して、咳反射を起こしてしまいます。

またアレルギー反応によって生じた鼻水には、ヒスタミンロイコトリエンなどのアレルギー反応を引き起こす物質が含まれていることもあり、これが喉の粘膜に働きかけると、その粘膜にもアレルギー反応を引き起こし、喉がむずむずかゆくなるという症状を引き起こすこともあります。


そして、この状態が長く続き、感覚神経に刺激が加わり続けると、感覚神経の過敏(以前こちらこちらでお話しした咳過敏症症候群の状態です)を引き起こすこともあり、こうなるとなかなか治らない、長引く咳になってしまうわけです。


咳を起こす鼻の病気は?

では、どんな病気が後鼻漏を引き起こすのかを見てみましょう。

まずはアレルギー性鼻炎です。
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アレルギー性鼻炎は水っぽい鼻水が後鼻漏に

たとえば、花粉症やダニアレルギーに代表されるアレルギー性鼻炎では、花粉やハウスダストなどのアレルゲンに対するIgE抗体が鼻粘膜で反応を起こし、ヒスタミンロイコトリエンといった化学伝達物質が放出されるアレルギー反応です。

この炎症によりくしゃみや鼻水、鼻づまりが生じると、余分な鼻汁がのどの奥へ流れ込み、後鼻漏となります。
そしてこの鼻水はさらさらしている、水っぽい鼻水であることが多いです。

後鼻漏が咽頭の粘膜を刺激すると、咳中枢が反応して「しつこい咳」を繰り返す原因となり、また鼻水に含まれるヒスタミンロイコトリエン喉のむずむず、いがいがを引き起こします。



次に、副鼻腔の炎症を見てみましょう。

副鼻腔炎ではドロッとした鼻水が後鼻漏に

鼻の周りには「副鼻腔」という、いくつかの空洞が分布しています。

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その空洞上に何らかの理由で細菌やウイルスが入り込み、炎症が起きると、「副鼻腔炎」になってしまいます。
副鼻腔炎が起こると、副鼻腔に「膿」を伴った濃い鼻水が溜まり、これが喉の奥に落ちてくると、黄色くドロッと粘っこい痰を伴った咳になってきます。

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膿の鼻水が出ていかないと慢性化する

ただ通常はここに炎症が起こっても、副鼻腔炎と鼻の間には「自然口」という狭い通路があり、ここから膿を排泄することで治癒に向かいます。

しかし、何かしらの理由で「自然口」が塞がってしまうと、膿の逃げ場がなくなってしまい、副鼻腔炎が慢性化してしまうことがあります。
すると副鼻腔の線毛機能が低下し鼻水を排出しにくくなるので、より膿性分泌物がたまりやすくなります。

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そしてこの濃厚な膿が喉へ流れ込み続けると、これが刺激になり続け、長引く咳に発展してしまうのです。


副鼻腔炎が慢性化したときに考えるべき病気

そんな副鼻腔炎が慢性化しているときには、いくつか考えるべき特殊なケースがあります。
それを挙げていきましょう。

① 副鼻腔気管支症候群
鼻と気管支はつながっているために、副鼻腔炎などの鼻の炎症が気管支に波及してしまう事もあり、慢性副鼻腔炎により慢性的な気道の炎症が起こってしまうことがあります。
「副鼻腔気管支症候群」と呼ばれ、こうなると、気管支の炎症が生涯残存し、咳が慢性化するという事態になってしまうこともあるのです。


② 様々な特殊な副鼻腔炎
副鼻腔炎には他にも、上あごの虫歯によって歯の根元から副鼻腔に菌が入ってくるタイプのもの(「歯性副鼻腔炎」といいます)や、カビによるもの、癌などのできものによるものなど、いろんな原因があります。
症状の重さや鼻の形から、手術で治してしまった方がいい副鼻腔炎もあります。

このような場合は耳鼻咽喉科の、手術ができる先生とのコラボレーションも重要になります(当院は近隣の各総合病院の耳鼻咽喉科とも綿密に連携を取っております)。


③ 好酸球性副鼻腔炎
副鼻腔炎の中で、鼻にポリープができ(鼻茸といいます)、強い副鼻腔炎の症状をきたしながら、喘息の症状も強く出る病気があります。
「好酸球性副鼻腔炎」といって、治療がなかなかやっかいな病態です(国の難病指定もされています)。

とはいえ、この病気も、診断さえつけば耳鼻咽喉科の専門医の先生と我々呼吸器内科の専門医が連携を取りながらであれば、今では十分症状コントロールできる時代になりました生物学的製剤を使用することができます)。

しかし実は、何年もの間、この病気が見抜かれずに、ずっと苦しんでいる方も少なくありません(当院に来院される方でもやはり見つかることがあります)

副鼻腔炎と喘息が両方ともある場合は、なるべく早めに呼吸器専門医、もしくは耳鼻科専門医にご相談ください。


喉のアレルギーで咳が出ることも

鼻だけでなく、喉の粘膜自体もアレルギー反応を起こすことがあります。

アレルゲンや後鼻漏、空気の乾燥などが原因で、喉頭の感覚神経が過敏になり、ちょっとした刺激で強い咳反射が起こるのです。

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アレルギー性鼻炎や、アレルギー反応の関わる副鼻腔炎が起きると、喉の粘膜も一緒にアレルギー反応を生じて起こってしまうことも少なくありません。

「のどがむずむずする」「のどに異物感がある」「痰が絡む感じが抜けない」という症状が出ることがあり、なかなか治らない咳に発展することがあります。

これらのように喉から上の炎症で咳が起こる場合、喉の下である気管支の炎症を抑える、喘息の吸入薬のような治療をしても、当然症状は良くなりません(ただしアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎は喘息と合併することがあるので、この場合ば部分的に効果が出ることもあります)。

また痰が絡んでいる咳になることが多いため、無理やり咳止めを使うと、かえってたまった痰を出すことができずに、息が苦しくなってしまうことも少なくなく、薬をずっと使っているのに症状がなかなか改善しない「長引く咳」になりやすい原因の一つと言えるのです。

さて次からは、これらの見極め方や治療についてお話を進めようと思いますが、だいぶ長くなってきましたのでまた次の機会に。


P.S.こちらが続きのブログです!
2025.08.24 鼻やのどが原因で起こる咳 ➁対処編  ~夏は!やっぱり!野球の季節だよね!~ 


投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.07.21更新

いやぁ、暑いですねぇ・・・

今年の夏も記録的な猛暑が続き、多くの家庭やオフィスでエアコンがフル稼働しています。

エアコン

もちろんこのような環境、エアコンは絶対必要不可欠です。
しかし夏の到来、エアコンの利用とともに、咳が止まらなくなったという方のご相談が増えています。

日本の夏を快適に過ごすためには欠かせなくなったエアコンですが、実は咳や喘息の症状を悪化させる要因になることが少なくありません。

喘息

快適と思われる室内環境が、なぜ呼吸器にダメージを与えてしまうのでしょうか・・・?

今回は「エアコンと咳」との関係とその対策について、掘り下げてみましょう!

 

エアコンで咳が悪化することがある!

夏のエアコンは、室温を素早く下げる一方で、屋外との温度の差、湿度の差を生み出します。
この温度差、湿度差が、気道に大きなストレスを与えることがあるのです。
その理由について、少し詳しく見ていきましょう。


冷たい空気はなぜ咳を起こす?

まず、私たちの気道(のどや気管支)には、異物や刺激をキャッチする小さなセンサー、「機械受容器」が無数に張り巡らされています(前回の逆流性食道炎と咳のブログでも触れました)。
いつもはホコリやウイルスを検知すると、「余計なものが入ってきたぞ」と脳の咳中枢に信号を送り、異物を吐き出す咳反射が働きます。

ところが、冷たい空気も、このセンサーに「低い温度」という刺激を与えます。
冷たい空気がセンサーに触れると、「温度が急に下がった!」という強い信号が咳中枢へ伝わり、防御反応としての咳が起こりやすくなるのです。


気道は乾燥にも弱い

次に、エアコンには除湿効果もあります。
そのため、エアコンの冷気は湿度も低く乾燥してきます。

その結果、気道表面を覆う粘液の量が減ってしまいます。
具体的には湿度が40%を切ると、粘膜表面は潤いを失ってしまうと言われています。

本来この粘液は、粘り気のあるゼリー状で微細なゴミや微生物をからめ取る役割を果たし、繊毛という小さな毛がゆっくり動くことで、口から外へ運び出します。

しかし、空気が乾燥する粘液の水分が失われ、ゼリーがかたまりやすく繊毛の動きも鈍くなってしまいます。

その結果、本来なら自然に流れ出すはずの異物がなかなか気道から出て行けず、体は咳を使って排除しようと頑張ってしまうわけです。


冷気は気道の血流も悪くする

さらに、冷たい空気は気道にある血管にも影響を及ぼしてしまいます。

冷気を吸うと、気道の粘膜の下にある細い血管がギュッと縮んでしまい、局所的に血流が悪くなります。
血流が減ると、傷ついた粘膜を修復するための栄養や酸素が届きにくくなり、バリア機能が落ちてしまいます。

すると、気道の粘膜に炎症が起こりやすくなって、余計に咳が誘発されるという悪循環に陥ってしまうのです。

 


エアコン内部の湿気で「カビ」が・・・

また、エアコンを使用する上では「カビ」「ホコリ」なども大きな問題になります。

カビ

エアコン本体は、熱交換器(エアコン内部の金属フィン)とファンでできています。
この中に、「アスペルギルス」や「ペニシリウム」「トリコスポロン」といった、呼吸器に症状を起こしやすいカビが繁殖することがあるのです。

まず、冷房運転中は熱交換器が冷やされ、そこに室内の水蒸気が触れると結露が生じます。
この結露水熱交換器や結露水を受け止めるトレーにたまりやすく、湿気が好きなカビにとって絶好の“水分環境”ができあがります。
エアコンを連日使用すると、毎日のように結露が発生し、水分がずっと居残るので、カビの増殖リスクが高まります。


フィルターの汚れも悪影響!

フィルター汚れ

次に、エアコンは空気中のホコリや花粉、皮膚のフケなどをフィルターで捕まえますが、フィルターの目をすり抜けた微細な汚れは熱交換器やトレーの表面に到達します。
これらの有機物は、カビにとって栄養源になるため、これらの汚れが溜まるほどカビのエサが豊富になります。
特にフィルター清掃をサボっていると、内部に送り込まれる汚れが増え、カビの増殖がさらに加速してしまいます。


「カビ」はエアコンの中が大好き!

さらに、エアコン内部は光が届きにくく、暗所となっています。
カビは暗い場所を好む性質があり、昼間の太陽光や室内照明が届かない熱交換器内部は、カビの繁殖に適した環境です。

加えて、運転停止後は、冷えた熱交換器内部の温度が温かい室温に近づきつつ、湿度だけは残ってしまうため、カビは夜間やオフシーズン中にも育ち続けることがあります。


これらの「結露による水分」「ホコリなどの栄養源」「暗所」「暖かさ」という、カビが大好きな条件がそろうことで、エアコン内部はカビにとって非常に繁殖しやすい場所になります。

エアコンのカビ

これらのカビが、エアコンを運転することによって冷気と一緒に部屋の中にまき散らされると、咳の原因になってしまうのです。

 


喘息があると、もっとしんどい

これらの原因によって、エアコンを使用すると、呼吸器に負担がかかりやすい状況になります。

そして、喘息をお持ちの場合、これらの反応がより起こりやすくなることがしばしばあるのです。

喘息

喘息の方は、気道過敏性といって、気管支が刺激に敏感になるという特性をもっているので、喘息の無い方に比べて、冷たく、乾いた空気への反応がとても敏感になり、咳が出やすくなります。
さらには喘息の方の場合、この気道の冷却、乾燥によって気管支平滑筋が収縮してしまうため、気道が狭くなることで息苦しさを招いてしまうのです。

また喘息の方は、ホコリやカビに対するアレルギーを持っているケースが少なくありません。
ですので、エアコンによってまき散らされたホコリやカビによって気道にアレルギー反応が起こると、これもまた喘息の発作を誘発しやすくしてしまいます。

喘息の方がエアコンで症状が悪化するのは、このような背景によるものなのです。


高齢者、お子さん、免疫の低い方も要注意!

また、高齢者の方お子さんは、体温調節機能が未熟あるいは低下しており、温度差や湿度変化に弱い傾向があります。

子どもの喘息

また、免疫抑制状態(ステロイドや免疫を抑える薬を飲んでいる、がんや糖尿病などを持っているなど)の方も、微量なカビが気道に入ることで、体がカビを排除しきれずに肺の中で繁殖してしまうリスクがあり、エアコンの使い方を誤ると症状が急変することがあります。

該当する方は、エアコンの管理に注意する必要があります。

 


呼吸に優しいエアコンの使い方

では、どのように対処したらよいのでしょうか?

まずはエアコンの使い方からお話ししてみましょう。

まず設定温度外気温との差を5~7度に抑え風量「中」や「弱」に設定して急激な冷却を避けます。

リモコン
また冷気が直接気道に入らないように風向きを設定して、直接冷風が体に当たらないようにすると良いでしょう。
サーキュレーターで部屋の温度を均一にすると、温度のムラがなくなり、設定温度を高く設定しても快適に過ごすことができます。

室内湿度50~60%を目安に設定し、湿度が低くなりすぎるようであれば加湿器や濡れタオルなども活用してみましょう。

マスクを着用すると呼吸時に気道に取り込まれる空気の温度差、湿度差を緩和でき、気道への刺激を軽くすることができます。
またHEPAフィルター搭載の空気清浄機を併用すると、ホコリや花粉、カビ胞子などの微粒子を効率的に除去できます。

 


自分でできるエアコン掃除

次にエアコンの掃除についてお話ししてみましょう。

自分でできる掃除としては、まずはフィルター掃除です。

フィルター掃除
フィルターはできるだけこまめに(最低でも月に一度は)掃除しましょう。

またエアコン内部に水分が溜まり続けないことも大事です。
エアコンの室外機の近くに「ドレンホース」という蛇腹状の細いホースがあるのですが、このホースは内部の結露水を室外に排出する役割があります。

ドレンホース
ドレンホースは長年使用していると詰まってくることがありますので、時々外に出て、ドレンホース内にゴミが溜まっていないか見ておき、詰まりそうな場合は、汚れを取り除きましょう。

また、吹き出し口も結露からカビの黒ずみが生えてくることがあるので、見つけたら早めに掃除してしまいましょう。


年に1度は専門業者にお掃除を!

しかし、一番カビが付着しやすい熱交換器内部は、自力の掃除ではなかなか手が届きません。

年に一度、エアコンを使用し始めるシーズンの前に、専門業者に依頼し、内部ユニットを分解して徹底的にクリーニングしてもらうことが、そのシーズンを快適に過ごせるようにするにはとても効果的です。

エアコン清掃


旅行先や外出先でのエアコン対策

外出先のエアコン使用環境は自宅と異なり、設定温度や湿度管理が適切でない場合があります。
バスや電車の冷房も温度差、湿度差が大きくなりやすいので移動中や宿泊先ではマスクを活用するのが無難です。

マスク
旅行先でも、お部屋が乾燥するようであれば、加湿器を貸してもらったり、濡れたタオルを干したりして、部屋の過度な乾燥を防ぎましょう。

 


喘息の方が夏を切り抜けるには?

エアコンを使用すると喘息が悪化しやすい傾向のある方は、この時期にあらかじめ喘息治療を強めることも効果的です。

喘息は、症状が悪化してから対処するより、症状が悪化する前に予防的に対処するほうが、はるかにコスパがよく、また苦しい思いもしなくて済みます。

まずは、症状がなくても、必ず吸入などの治療は医師の指示通りに続けましょう。


主治医とのコミュニケーションが一番のカギ!

また、その方の1年間の傾向をよく理解してくれる、喘息診療に詳しい主治医の元であれば、症状が悪化しやすくなる時期をあらかじめ先取りし、治療をアップダウンしてくれます。

毎回の受診時に、前回受診時から生じた細かい症状の変化も、隠さずしっかりと主治医に伝えることで、主治医も症状の変化を予測しやすくなります。

主治医とのしっかりしたコミュニケーションが症状コントロールのカギなのです。

コミュニケーション


また、しっかり治療していても症状が悪化することも少なからずあります。

悪化「しそうに」なったら、なるべく早めに発作治療薬(メプチン、サルタノールなど)を使用しましょう。
「苦しくなる前に使用する」ところがミソです(詳しい発作止めの使い方はこちらもぜひ!)

また、発作止めを使用しても苦しい場合は躊躇なく医療機関を受診してくださいね。

 


エアコンを正しく使って猛暑を乗り切る!

毎年続く猛暑、エアコンは欠かせないもののひとつです。
熱中症を防ぐためにも、エアコンは呼吸器に過度な負担をかけないように適切に使用する必要があります。

これらの対策をしっかり行って、過ごしやすく、かつ呼吸器にも優しい夏をお過ごしください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.07.07更新

当院はおかげさまで咳にお困りの患者さんが一年を通していらっしゃいますが、その中でも4~6月はやや来院される患者さんの数が落ち着きます。

4月から池田医師永山医師、6月から中島医師の診察が始まり、当院はここ数年にはなかった、ご予約の取りやすい状況になっています(昨年同時期に比べて、当院にご来院頂く患者さんの数はおかげさまで8%近く増えてはいるのですが)。


ただこれからは、例年8月のお盆に向けて、混雑が徐々に始まる時期でもあります(なお今年の当院の夏期休診期間は8月10日~8月18日の9日間です。ご不便をおかけしますが、私たちにも少し休みをください・・・)。


この時期、咳の症状にお悩みの方は、お早目の受診がお勧めです。

お気軽に当院にご相談ください!



さて、当院が治療を得意とする「長引く咳」。
その原因として、皆さんもよくご存じなのは「喘息」「咳喘息」です。

また鼻炎による「後鼻漏」によって咳が長引く方も少なくありません。

しかし、「長引く咳」の原因としてもう一つ、頻度はかなり多いながらもしばしば見逃される「ある原因」があるのです。

それが「胃酸の食道への逆流」、すなわち「胃・食道逆流症」です。

逆流性食道炎

「逆流性食道炎」といえば、皆さん一度は聞いたことのある病気だと思います。
でも、胃、食道といった消化器系の病気が、なぜ呼吸器系の症状である「咳」を引き起こしてしまうのでしょうか?



今回は、そんな「長引く咳」の隠れた3大要因の一つ、「胃・食道逆流症」を、「咳」の観点からお話ししてみましょう。

 

「胃・食道逆流症」ってなに?

まずはキホンから。
「胃・食道逆流症」とは?というところからお話ししてみましょう。



胃が胃酸に強いワケ

胃は、口から食べた食べ物を溜めて、消化する器官です。
食べ物を消化するために、「胃酸」が常に分泌されています。

「胃酸」の主成分は皆さんが小中学校でも習った「塩酸」、これはいわゆる「強い酸性」の物質です。

人間の体は通常「酸」には弱いのですが、いつも胃酸にさらされる胃は、そんなことは言ってられません。

胃壁には「ムチン」という粘液と「重炭酸イオン」などからできたゲル状の層に覆われています。

「重炭酸イオン」「アルカリ性」の物質で、胃酸を中和することができます。
そして「ムチン」という粘液は胃壁に効率よくこびりつき、重炭酸イオンを胃壁にずっととどめておくことができるのです。

また、胃壁の構成成分である胃粘膜も酸に強く出来ています。

加えて、この粘膜の下には豊富な血流があり、ここには「酸」によって損傷した組織を、すみやかに修復する栄養や酸素が流れています。
これによって、例え胃粘膜が傷ついても速やかに傷を修復できるという仕組みを持っています。

胃粘膜


というわけで、この3つのしくみによって、胃壁は胃酸からしっかりと守られているのです(このバランスが崩れると胃炎胃潰瘍になってしまうというわけです)。


でも食道は胃酸には強くない・・・

ところが、その上にある「食道」には、このような機構がありません。

ですので、何かしらの原因で胃酸が食道に逆流してしまうと、食道は容易に傷ついてしまうのです。


胃酸が逆流してしまうワケ

では、なぜ胃酸が食道に逆流してしまうのでしょうか?


①食道を閉じる筋肉が弱くなる

胃と食道の境界には横隔膜があり、その近くには「下部食道括約筋」という輪状の筋肉があって、本来は収縮して食道と胃の境目を閉じることで、胃内容物の逆流を防いでいます。

しかし、この括約筋の力が弱まってしまうと、本来閉じているべき場所がゆるんでしまい、胃酸や胃内容物が食道へ逆流しやすくなります。

さらに、胃のなかに食べ物やガスがたまって過度に膨らむと、下部食道括約筋が一時的にゆるんでしまうことがあります。
本来は嚥下と連動してのみ緩むはずの下部食道括約筋が、この過剰な膨張刺激によって無関係に弛緩してしまうと、胃の内容物が逆流しやすくなるのです。

下部食道括約筋


②胃の動きが悪くなり、奥に中身が流れない

また、胃の働きが悪くなり、内容物の排出が遅れても、逆流のリスクが高まります。
糖尿病や自律神経障害などで神経機能が落ちてしまうとこのようなことが起きやすくなります。



③腹圧が高くて内容物が押し戻される

加えて、肥満妊娠などで腹圧が高くなると、物理的に胃内容物を食道側へ押し上げる力が強くなり、逆流が起こりやすくなります。



④「食道裂孔ヘルニア」が生じる

そして、この腹圧によって胃が押されたり、横隔膜が加齢で弱くなったりすると、胃が横隔膜を超えて上側に飛び出してしまうことがあります。

これを「食道裂孔ヘルニア」といい、これが生じると、常に非常に逆流が起こりやすくなってしまうのです。

食道裂孔ヘルニア



「逆流性食道炎」?「胃・食道逆流症」??

ところで、今回私は胃・食道逆流症」と書きました。

皆さんには「逆流性食道炎」という名前が良く知られています。

わざわざあまり知られていない言葉を使ったのは、呼吸器科医師の分際で消化器の病気も知ってるよーってイキってみよう!と思ったから。
では、もちろんありません・・・。


胃カメラで何もなくても・・・

「逆流性食道炎」
は、胃酸が逆流して食道の粘膜にただれを起こすため、胃カメラで内視鏡で直接確認することができます。

しかし、「非びらん性逆流性食道炎」という病態があります。
これは、胃酸が食道に逆流しているにもかかわらず、粘膜に明らかなただれがない状態です。

実はこの状態でも、酸が逆流する回数や時間は、「逆流性食道炎」とほぼ同じか、それ以上の場合があり、咳や胸やけを誘発します。

しかし、食道が荒れていないため、胃カメラで問題ないと言われてしまうことが珍しくないのです。

「胃・食道逆流症」は、胃酸が食道に逆流していることを指すので、食道が荒れていようがいまいがかは関係ないという訳です。

胃カメラで異常がないからと言って、必ずしも「胃・食道逆流症」は否定ができないという点は、診断の上ではとても大事な点になります。



「胃・食道逆流症」の咳は、診断が難しい

しかし、「胃・食道逆流症」は、咳の原因として、しばしば見逃されてしまっています。
その原因として、まさか呼吸器の症状が胃や食道から来てるとは思わないと、医師も患者も考えてしまうということがあります。


加えて、「胃・食道逆流症」他の病気と被ることも多いのです。

例えば、喘息や後鼻漏、長引く感染症などで咳が続いた時、その咳によって腹圧がかかってしまうことがあります。
するとその腹圧によって胃酸が逆流して、先ほどの原因と併せてダブル、時によってはトリプル以上の要因によって咳が止まりにくくなることが珍しくないのです。


喘息や後鼻漏などと診断されて治療してもなかなか良くならない咳の中に、このようなパターンが潜んでいることがあるのです・・・

 

「胃・食道逆流症」が咳をおこすしくみ

さて、「胃・食道逆流症」が咳を引き起こすしくみを見ていきましょう。

咳の刺激の伝わり方

咳は、のどや気管にある「センサー」が刺激を受け取って脳の咳中枢に伝え、反射的に咳を出す流れで起こります。

詳しく見てみましょう。

最初に食道やのど、気管などにある受容器(センサー)が、何かしらの刺激を感じ取ります。
次にその情報は、神経の線維を上って行って脳へ伝わり、脳の「咳中枢」に届きます。
刺激を受け取った「咳中枢」は、この状況を判断し、咳を起こすかどうかを決定します。

「咳をする」と脳が決めた時、咳中枢の指令は、今度は神経線維を下って胸や腹の筋肉、声帯など、様々な場所に送られ、これらを協調的に動かして激しい空気の流れを作り出し、異物を押し出すのです。


胃酸が食道の神経を刺激する

受容器(センサー)には主に2種類あります。

一つが、酸や炎症性の物質に反応する「化学受容器」で、もう一つが、圧力や引っ張りに反応する「機械受容器」です。

のどや気管には「化学受容器」が張り巡らされており、胃酸が逆流すると、「化学受容器」がこの酸の刺激を拾ってしまいます。
ここからの信号は、「迷走神経」の中の「上咽頭枝」という細い線維を上って「咳中枢」へ送られて、咳が出てしまうという訳です。



刺激を受け続けると、どんどん過敏に!

またこのような胃酸逆流が続いてしまうと、「化学受容器」が慢性的に興奮し、迷走神経線維の先端で、炎症性の物質(サブスタンスPやCGRPなど)が作られるようになります。

これによって、今度は神経そのものが炎症を起こしてしまいます「神経原性炎症」といいます)。

炎症を起こした細胞から放出された物質はさらに受容器を刺激し、神経線維全体の敏感度を高めます。

その結果、ちょっとした温度変化や香り、水分の飲み込みなど、普通なら咳が出ない刺激でも咳反射が暴走しやすくなることがあるのです。

さらに、「咳中枢」のある脳幹でも、長期間絶え間なく刺激が届くことによって咳中枢が過敏になってしまい、わずかな刺激でも過剰な咳命令を出すようになります「中枢感作」といいます)。

 逆流性食道炎

こうして末梢(体の末端)と中枢(脳幹)の両面から神経が「咳モード」にロックされ、治りにくい長引く咳へとつながるわけです(この状態を「咳過敏症症候群」といい、コロナ感染とかでも神経が傷ついてこうなったりすることがあります。こちらについては以前こちらのブログ 2023.7.16 コロナの後に続く咳・・・なぜ?どうしたらいい?? で詳しく触れていますので、ご興味のある方はどうぞ!)。



胃酸は声帯にも影響する

また、胃酸がのどに到達すると、のどにある化学受容体が感応してしまうのですが、この際に反射的に声帯が閉じてしまうことがあります。
併せて胃酸の酸そのものが声帯を傷つけてしまうことも相まって、声帯の機能が低下してしまうことがあります。

これによって「声がれ」が出ることが少なくないのですが、これに合わせて「のどのいがいが」や、声帯が閉じることによって生じる「のどのつまり感」が生じることがあり、これらの症状が伴う咳は、「胃・食道逆流症」によるものの可能性が高くなります(この状態を「声帯機能不全」といいますが、これは私たちの世界では最近ちょっとアツい話題ですので、今後改めて詳しく触れてみようかと思います)。



他の原因の咳と、どこが違う?

「胃・食道逆流症」による咳は、他の疾患が引き起こす咳と比べて次のような特徴があります(必ずしもすべてが当てはまるわけではない点には注意が必要です)。

①発作のタイミングと誘因

「胃・食道逆流症」の咳では、食後すぐや、就寝中など、横になったときに咳が増えることが多いのが特徴です。
特に夕食後に横になると逆流が起きやすく、また就寝中は夜間から早朝にかけて咳で目が覚めるケースが目立ちます。

咳の性状

「胃・食道逆流症」の咳は、神経を刺激する咳なので、乾いた空咳が中心で、痰を伴わないことが多いです。
ただし、喘息や後鼻漏など、他の要因による咳と被ることがあり、その時には痰を伴うことは珍しくありません。

③随伴症状の違い

「胃・食道逆流症」では、胸やけ呑酸(酸っぱい液の逆流感)を自覚する人がいますが、これも実は半数程度と言われていて、残りの半数は出ないことが分かっています。

先ほどお話しした、「のどのいがいが感」「声がれ」、「のどの詰まる感じ」も起きやすいのですが、のどのアレルギーや長引く喘息でもこのような症状をきたすことはあるので、やはり診断は一筋縄ではいきません・・・

さらに、先ほどお話ししたように、ダブル、トリプルの要因があると、症状の特徴が大きく様相が変わることがあるので、診断が難しい場合は、専門医にお任せしちゃった方が無難です。


生活習慣の改善ポイント

さて、「胃・食道逆流症」による咳と診断されたらどう対処しましょうか?

まずは生活習慣から見直してみましょう。

咳を抑えるための基本は、胃酸の逆流を防ぐことです。以下のポイントを参考にしてください。


①食事の工夫

1回の食事量を減らし、1日5~6回に分けると、満腹にならずに腹圧の上昇を抑えることができます。
また、脂っこいものや刺激物(コーヒー、チョコレート、炭酸飲料、アルコール、ミントなど)胃酸分泌を促進してしまうので、摂りすぎは避けましょう。
あと、食後すぐに横にならないことや、夕食を遅くとりすぎないことも重要です。

②就寝時の姿勢

咳が止まらない時は、食道への胃液の流入を抑えるため、頭を10~15センチ上げて寝ると効果的です(枕の下に板や枕、タオルなどを入れて対処します)。
仰向けで寝ると逆流しやすい場合は、左を下にして横向きで寝るのも効果的です(胃はは体の左側にあるため、左を下にすると胃が食道より低くなり、逆流しにくくなるのです)。

逆流性食道炎

③体重管理

肥満は腹腔内の圧力を上げ、逆流を助長するので、体重が重い方は減量が効果的です。
適度な運動(ウォーキング、ストレッチ、軽いジョギングなど)は減量に効果がある上、胃を積極的に動かし、内容物を胃の先の十二指腸まで送り届けやすくなるというメリットもあります。

逆流性食道炎

④衣服や生活環境

きついベルトやウエストの締め付けは腹圧を上げるので避けましょう。
喫煙は下部食道括約筋を弛緩させてしまって、逆流を悪化させるため、できるだけ避けたいところです(もちろん「咳」の観点からのまず最初に対応すべき箇所です)。
ストレスは胃酸分泌を増やすため、リラックス法(深呼吸、ヨガ、趣味の時間)を取り入れても良いかもしれませんね。

逆流性食道炎


薬の使い方

これらの対策と合わせ、薬を使っていくこととなります。
症状が軽い場合は市販の胃薬でも一時的に逆流症状を抑えられますが、長引く場合は病院での処方薬のほうがベターでしょう。

胃酸分泌を強力に抑える「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」「カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)」などに加え、胃を動かして内容物を奥に送り届けてしまう「消化管運動亢進薬」を併用することもあります。

前者が「ネキシウム」「タケプロン」「オメプラール」「タケキャブ」など、後者が「ガスモチン」「ガナトン」などが代表的な薬です。


これらによって2~4週間まずは様子をみて(神経過敏があることがあるので、適切な診断、治療でも改善までずいぶんと長引くことが珍しくないのがイヤらしいところです・・・)、その後の症状の変化具合でさらに見立てを進めていく、というのが、一般的な治療の流れになるかと思います。


なかなか良くならないときは咳治療に詳しい専門医へ!

と、今回もついつい長くなってしまいましたが、胃・食道逆流症による咳は、ここまでお話ししたように診断、治療が簡単でない上に、他の疾患と被るケースが少なくなく実際に適切に診断、治療するのはかなり難しく、私たち呼吸器専門医でも悩ましく思うケースもあるほどです。

やはり長引く咳でなかなか良くならない時は、一度深く掘り下げてみないと見えてこない原因が隠れていることが多いものです。

ぜひそんな症状の時は、私たち呼吸器専門医を頼ってみてください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.06.21更新

ついこの前まで寒さが和らいだと思ったら、急に真夏になってしまいました・・・
連日熱中症になりそうな猛暑が続いており、カラダのバランスを崩してしまう方が後を絶ちません。

この時期外で体を動かす際は、是非とも熱中症には気を付けてほしいと思います。

と同時に、実はこの時期の運動は、熱中症だけではなく、喘息など呼吸器のトラブルが起こりやすいことはあまり知られていません。

実はこの時期、「地上オゾン」「PM2.5」と呼ばれる大気汚染物質が増えやすい季節なのです。
これらの物質が呼吸器にいろんなトラブルを引き起こすことがあるのです。

呼吸器

季節外れのクソ暑い今回は、「暑い夏に運動することによる“呼吸器”のトラブルとその対策」について、触れてみようかと思います。


「地上オゾン」って何?

そもそもまず、「地上オゾン」とは何でしょうか?

オゾンというと、上空の成層圏にある「紫外線をさえぎる層」を思い浮かべる人もいますが、地上近くでできる「地上オゾン」は、成層圏オゾンとは別物です。

「地上オゾン」とは別名「悪玉オゾン」とも言われ、自動車の排ガスや工場から出る「窒素酸化物(NOx)」と、塗料や溶剤、ガソリンなどに含まれる「揮発性有機化合物(VOC)」が、太陽の強い紫外線を浴びて化学反応を起こすことで作られる気体です。

呼吸器


夏は「オゾン」が溜まりやすい

夏は紫外線が強く、日射時間も長いため、これらの化学反応が起きやすくなります。
また温度も高くなると、化学反応の速度も上がってしまい、結果としてオゾンがたくさん発生します。

加えて、夏は風が弱いために大気がよどみやすく、風が弱い日が続くと、汚れた空気が山や海を越えて流れることができなくなり、そのまま街中にとどまって濃度がさらに上がってしまうのです。


オゾンはカラダを傷つける・・・

「オゾン層」は、環境破壊によって地球上から減っていることはよく知られています。
ですので「オゾン」というと、いかにもキレイな気体を想像してしまいます。

でも実は「オゾン」は強い酸化作用を持ち、細胞を傷つけてしまうため、高濃度の状態で私たちの周りにあると、カラダを傷つける、実は恐ろしい物質なのです。

オゾン

「オゾン」を吸って気道に取り込んでしまうと、私たちの気道の内側にある粘膜の細胞に小さな傷をつけます。
細胞膜には「脂質」が含まれているのですが、「脂質」「オゾン」と結びつくと、脂質が酸化される(錆びついてしまうような感じです)のに加えて、「活性酸素」という物質を作り出します。

「活性酸素」他の物質を強く酸化させる作用を持っています。

そのため、体内にできた「活性酸素」は、いろいろな細胞成分を酸化させることで細胞を傷つけ、炎症を起こします。
炎症が起きると、体は炎症をくい止めようとして白血球を集め、「サイトカイン」という伝達物質を出します。

気道の細胞は「活性酸素」によって炎症が起き、気道のむくみや痛み、咳、息苦しさを引き起こしてしまうのです。

 

では、「PM2.5」とは?

では次に「PM2.5」について触れてみましょう。

「PM2.5」は直径2.5μm以下、髪の毛の太さの約30分の1ほどの微粒子です。
その非常に小さい大きさ故、鼻やのどを通り抜け、肺の奥深くにある「肺胞」まで到達してしまう特徴を持っています。

PM2.5


「PM2.5」が夏に増える理由

「PM2.5」には、工場の排煙や自動車の排気ガスから直接出る「一次粒子」と、大気中のガス(先ほど出てきた「窒素酸化物(NOx)」や「揮発性有機化合物(VOC)」など)が光化学反応など酸化されて粒子に変化した「二次粒子」があります。

このうち、夏の高温、高湿度に加え、紫外線が強い環境では、「二次粒子」への変化が起きやすい環境で、他の季節と比べて「二次粒子」が多くなる傾向があります。


また昼間は車の排気ガスや工場からの排出などで「PM2.5」が活発に作られますが、高気圧に覆われやすい夏の昼間は風が弱いことが多く、作られた「PM2.5」が拡散しないでその場にとどまりやすくなることが多くなる傾向にあります。

また、中国大陸で発生した工業排出物を含んだ「一次粒子」である「PM2.5」が、偏西風に乗って日本にも飛んできます(日本ではこちらの方が有名ですね)。
主に春に飛んでくるのが有名ですが、工業排出物に由来する「PM2.5」は、実は1年中飛来しており、夏にも多く飛んでくることがあるのです(黄砂に由来するPM2.5は、春以外はあまり飛んでこないようです)。

加えて、雨が少ない日が続いたり、暑さで地表が乾燥しやすくなると、地上のホコリや花粉などが舞い上がる現象も起こり、これらから「PM2.5」が作られてしまうこともあります。


「PM2.5」が引き起こすカラダの炎症

ではこれらの「PM2.5」を吸い込んでしまうとどうなるのでしょうか?

先ほどお話ししたように、「PM2.5」非常に小さな微粒子で、一旦吸い込むと気管支の奥深くにある「肺胞」まで届いてしまいます。

「肺胞」は、酸素と二酸化炭素を交換する「肺の主役」ともいえる場所ですが、そこに「PM2.5」が沈着すると、体は「異物が入った!」と判断して、肺胞の周りに白血球やマクロファージ(掃除をする細胞)をたくさん集めます。

これが続くと肺胞に炎症が起き、正常なガス交換が妨げられ、息切れや呼吸のしづらさを生じます。

また、「PM2.5」には微量の重金属や化学物質がくっついていることがあり、これらが肺胞に到達した後に溶け出すと、全身に炎症が広がり、疲れや頭痛、アレルギー症状の悪化を招くこともあります。

呼吸器


「夏の運動」は汚染物質を吸いやすい状況!

こうした反応は、たとえ持病がない健康な若い人でも、長時間または繰り返し汚染物質を吸い込めば起こりえます。

特に運動中は呼吸が速く深くなるため、「オゾン」や「PM2.5」の濃度が高い状況では、通常よりたくさんの空気を肺に取り込むことで、ダイレクトに影響を受けやすくなるのです。


じゃあ、どうすればいい?

夏場はもちろん「熱中症」に気を付けなければなりません。
しかしこのような「オゾン」「PM2.5」などの大気汚染物質も、実は夏場には気を付けなければならない、手ごわい敵なのです。

では夏に活動する際、私たちは、何をどのように気を付けたらよいのでしょうか?


大気汚染情報をこまめに確認する

環境省が提供する「そらまめくん」(大気汚染物質広域監視システム)、「地上オゾン」と「PM2.5」の濃度をチェックしましょう。
最近は(主に海外系の)気象系アプリでも大気汚染情報が提供されていることがあるので、こちらを活用することも有用かと思います。

光化学スモッグ注意報が出ているときは、運動を控えるか、時間帯を変えましょう。


朝か夕方に運動時間をずらそう

「地上オゾン」日射が強い正午~午後3時頃に高くなるので、午前5~7時、または午後5時以降の涼しく、かつ紫外線が弱まった時間帯に体を動かすとリスクを減らせます(もちろん熱中症を防ぐにも重要です)。

「PM2.5」は交通量の多い朝夕のラッシュ時間にも増えやすいので、症状が出やすい方はこの時間を避けたほうが良いでしょう。

運動


運動後のケアで呼吸器を守る!

帰宅後はすぐにうがいや鼻うがいをして、気道に残った微粒子を洗い流しましょう。

食事では、ビタミンCやEを含む野菜・果物、ナッツ類を積極的に取り入れ、体内の酸化ストレスを減らすことも有効です。

栄養


大気汚染物質に気を付けて快適な活動を!

「地上オゾン」も「PM2.5」も、目には見えないのですが、呼吸器に影響を与え、炎症を引き起こすことがあります。

特に夏は高温や紫外線の強さ、大気の停滞などの影響で、他の季節よりリスクが高まる時期です。


この時期は熱中症だけでなく、「空気の質」にも気を配り、安全で快適な夏のアクティビティを楽しみましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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