医師ブログ

2023.03.23更新

WBC、いやぁすごかったですね!


当院でも、午前診療が終わったタイミングでちょうど9回表の大谷選手登板の場面となり、会計をお待ちの患者さんには少しお待ち頂いて、患者さんとスタッフで一緒にテレビにくぎ付けとなりました。
そして大谷選手がトラウト選手を三振に斬って取ったところで院内も大歓声!(Twitterのトレンドにも「病院の待合室」というワードがトレンド入りしたようで、当院のような光景は、他の全国各地の医療機関でも同様に繰り広げられたことでしょう)


35年間プロ野球を、そして30年間メジャーリーグを見続けていた私にとっては、「日本野球」がアメリカの地で、本気の「アメリカンベースボール」を決戦で破った場面は、なんとも感慨深い瞬間でした。

そのような感慨深い貴重な時間を頂くことができ、会計をお待ち頂いた患者さんには感謝です。

 

そういえば、当院の待合室でみんなでテレビに注目したのは、新元号「令和」発表の時以来でした。みんなで新元号発表の瞬間に盛り上がったことを覚えています。
思えばあれはコロナ前。そして今回はいよいよ(このまま落ち着いてくれれば)コロナ後で、何か久しぶりの世の中の盛り上がり、一体感とともに夜明けを見た気分です。

このまま夜が明け、明るい時代に突入することを切に願っています。


さて、前回に引き続き今回もアレルギーを題材にします。

前回も触れたように、今年の花粉飛散量は例年よりもかなり多くなっており、今年は今まで花粉症がなかったにもかかわらず今年から発症した方、また数年ぶりに久しぶりに発症した方も多くいらっしゃいます。
その中には「花粉症の検査をしたことがないから自分が花粉症かがわからなかった」とお話になる方が多くいらっしゃいます。

また「花粉症の検査をして陽性だったけど症状がなかった」、一方「逆に陰性だったけど症状が辛かった」などという、今までの検査結果と今の状態のギャップに戸惑っている方も多くいらっしゃいます。

 

そこで今回は、「採血でのアレルギー検査」についてお話をしてみようと思います。

 

通常、採血でのアレルギー検査は、アレルギーの抗体であるIgEを測ります(自由診療の領域で「遅延型アレルギー検査」としてのIgG検査を行っている医療機関もありますが、この検査は各国のアレルギー学会でその意義が否定されており、当院としてもおすすめしていません)。
IgEは前回も触れた通り「ちょっとおバカさん」な抗体で、アレルゲンが入ってくるとからだの中で「活躍」し、アレルギー反応を引き起こしてしまいます(詳しい説明は前回のブログからどうぞ)。

このIgEが体内に多いとアレルギー反応が起きやすいということになりますので、このIgEの量を測ることでその人のアレルギーの起こりやすさを推定することができるという訳です。

また、このIgEも一つ一つ細かく見ると、それぞれある特定の物質とだけ結合できるという性質をもっています。
たとえばスギ花粉症とだけくっつくことができるIgEは「スギ花粉特異的IgE」ダニの死骸やフンとだけくっつくことができるIgEが「ダニ特異的IgE」といった具合です。

そしてそれらを一つ一つ細かく見たものが「特異的IgE検査」というものになり、皆さんが良く見る「スギ」「ヒノキ」「ダニ」など各種アレルゲンに対し、0~6の7段階で示されている報告書に記載されている検査となります。

このIgE検査は「吸入系アレルギー」「食事系アレルギー」「接触系アレルギー」などに分けられ、花粉症や喘息、食物アレルギー、それにアトピーなどの皮膚アレルギーの原因を調べる際に良く用いられています。
1回の採血でさまざななアレルゲンを調べることができ、非常に便利な検査ではあります。

 

ただ、この検査には注意点があります。

 

まずこの検査で陽性の場合でも、アレルギー反応が起こっていない場合があり、この時はアレルギーが成立していると言ってはいけないということです。

先ほどもお話ししたように、IgEはそれぞれのアレルゲンに特有の形があり、一見その結果はそのままアレルギーの存在を表しているようにも見えます。
しかし、前回ブログでも言ったように、アレルギー反応は、IgEがマスト細胞」にくっつきながら、アレルゲンをとらえてマスト細胞を刺激することで起きますので、マスト細胞にくっついていないIgEは悪さをしないこともあるのです。

すると数値は上がっているのに症状が出ないと言ったことが起こり得るということになるのです。

また食物系アレルギーの検査では、より注意すべき点があります。

食物は基本的に体内で消化酵素で分解されます。また熱して食べることも多いものです。
すると、もとの食物に含まれているたんぱく質の構造が、体に吸収、消化されるときには変わってしまっているということが起き得ます。

ですので、検査の結果が必ずしも実態を反映しているわけではないということが起こり得ます(この問題を解決するために、最近ではその食物の中で特にアレルギー症状を引き起こすたんぱく質だけを抽出して、それに対するIgEを検査する「アレルギーコンポーネント検査」を行うことが推奨されています。ただ残念ながら正直専門医以外にはその検査の存在はほとんど知られていないのが実情です・・・)

食物アレルギー検査を行うにあたって大事なのは、この検査の数値が出ても症状がなければ摂取制限はする必要がないということです(中には症状が出ないにもかかわらず検査の結果で自分は食べられないと信じてしまい、数年にわたって制限をされてしまった方もいらっしゃいました・・・)。

 


一方IgEが陰性の場合でもアレルギー症状が出ることがあります。

これにもいくつか理由があります。

まず根本的に、アレルギーにはIgEが関わるアレルギーIgEが関わらないアレルギーがあります。
IgEが関わらないアレルギー(例えば薬剤アレルギーや皮膚アレルギーの一部など)に対しては、この検査は無力です。

また検出したIgEが少なくても症状が出てくるパターンです。

一見IgEの数値の大きさは、アレルギー反応の強さに関連しているように見られます。
しかし、実は値の大きさは症状の強さと必ずしも比例するとは限らないとされており、我々はむしろその数値を「アレルギーを持っている可能性が高いかどうか」の指標にしています。
検出レベル以下の微量なIgEが、アレルギー症状を起こすことがあり得るということもあるのです。

また、検査に用いたアレルゲンが、症状を起こしているアレルゲンと微妙に異なるケースもあります。
この場合、検査で用いたアレルゲンで測ったIgEが陽性でも、実際は症状がでないということは起こり得ます(もちろんその逆もあり得ます)。

もう一つ、花粉症などのアレルギー性鼻炎については、全身の血中のIgEが上がっていなくても、鼻や目などの局所の粘膜だけで反応が起きていることがあると報告されていますPowe DG, et al:Clin Exp Allergy. 2003;33(10):1374-9.
この場合、血液中のIgEが検出されなくても症状が生じるということになることがあるのです。

 


ということで、広く行われている採血アレルギー検査、額面通りに受け取れない場合もあるということをくどくどとお話をしてしまいました。
やはり、「アレルギーがあるかないかの判断」は、結構難しいものなのです。

生活の質を落とす「アレルギー」は、正しい対策を取ることで、比較的容易に生活の質を引き上げることができます。
そのためには検査はやりっぱなしでなく、しっかりと正しい解釈をして、正しい対策につなげることが大事になってくるのです。

いままでアレルギー検査で「モヤっ」としていた方、一度しっかりと相談して、その「モヤっ」とを解消して快適な生活を送れるようにしましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2023.03.09更新

やはり今年は花粉の飛散がハンパないですね・・・


当院にもあまりの症状のツラさにたまらず受診される患者さんでいっぱいです(ご予約がずっと先まで埋まってしまいなかなかお取りできずに申し訳ありません・・・)
一方当院におかかりの方の中には、当院が初期治療(2023.1.21ブログ)を行っていることもあり、周りが苦しんでいるのにもかかわらず自分だけ無事という方も多くいらっしゃいます(治療している自分自身が初期治療の力に少しビビってますw)。

そして、昨日は外来中に「注射のお薬で花粉症って治るんですか??」というご質問を何人もの方から頂きました。

スタッフに聞いたところ、どうも前日夜の日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」の中で、花粉症の治療が取り上げられており、その中でその注射の治療が取り上げられていたようです。

例年にない強い症状で、皆さんワラにもすがる思いでお過ごしなんだなって改めて実感しました。

今回はこの花粉症の注射療養「ゾレア(一般名:オマリズマブ)」について、触れてみたいと思います。

その前に、アレルギーってどうして起こるのか?ということについて、まずは少し説明してみたいと思います。

アレルギーを語るにあたり、まずはIgEというものを説明する必要があります。
IgEとはなんぞや、なのですが、IgEとは人間の体がもっている「抗体」の一種です。
他にも人間の体を守るためのIgA、IgM、IgG、IgDなどの「抗体レンジャーズ」があり、IgEはその一員です。

ただ通常「抗体レンジャーズ」は異物を体から追い出すために頑張ってくれるのですが、このIgEはその中では残念ながら少しおバカさんなのです・・・

抗体レンジャーズ

そして異物である花粉(これをアレルゲンと呼びます)などが体内に入ってくると、樹状細胞にとらえられ、その情報がT細胞、B細胞というリンパ球に受け渡されます。
そしてB細胞から、その異物にだけくっつくIgE(特異的IgE)が産生されます。

一方、体の中には「マスト細胞(肥満細胞)」という細胞があります。
このマスト細胞その中にアレルギー反応を起こす「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」などの物質を(これを「ケミカルメディエーター」と呼びます)を大量に蓄えています。

IgEは体内でマスト細胞めがけて進んでいきます。
そしてマスト細胞に到達するとIgEはマスト細胞にくっついて待機しています。
そして、体内に再度アレルゲンが入ってくるとケミカルメディエーターが大量に放出されてしまい、体にいろんな症状を引き起こしてしまうのです。

で、これを踏まえて治療を考えていきます。

一般的にアレルギーの薬とは、マスト細胞から飛び出してきたケミカルメディエーター、つまり「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」が働かないように、それらを邪魔するお薬となります(つまり「抗ヒスタミン薬」「抗ロイコトリエン薬」と呼ばれる薬です)。
またそれらのケミカルメディエーターによって起きてしまった粘膜の炎症を強制的に抑え込むのが「ステロイド」という薬になります(目の炎症であればステロイド点眼薬、鼻の粘膜の炎症であればステロイド点鼻薬、気管支の炎症であればステロイド吸入薬を使用するわけです)。

もちろんこれらはアレルギー治療の基本となる薬剤であり、とても重要な薬剤です。

ただ症状が強い方であると、これらの薬では効果が足りないこともあるのです。

そこで、今回紹介した注射薬「ゾレア(オマリズマブ)」の登場となります。

この薬はもともと喘息の治療薬でしたが、今から3年前の2020年3月に花粉症に対しての保険が適応となりました(実はその時に一度このブログでも触れたことがありました。この時よりはだいぶ安くはなりました)。

この薬は、IgEそのものの働きを止めてしまう薬になります。
つまりマスト細胞からそもそもケミカルメディエーターが放出されなくなることを狙った薬になるため、いままでの薬に比べて根本的な部分に対処することができるという訳です。

ゾレア作用機序

オマリズマブを花粉症で使う場合は、通常の抗ヒスタミン薬などの内服薬、点鼻薬などに上乗せして、シーズン中(最大3か月)のみ使用することとなります。
1回だけで花粉症が完治するというお話をを伺うことがあるのですが、あくまで「強力な対症療法」であり、「根治治療」ではないことは知っておいてほしいと思います。

先ほどもお話ししたように。この薬はもともと喘息に対して適応があったということもあり、喘息の方、花粉症の方をあわせて当院ではすでに20人以上の方がこの治療をされています。
いずれの病気も、私の感覚では70~80%の方には劇的に効果が表れている印象です(残念ながらアレルギーは複雑なので、100%とはならないところが難しいところなのですが)。

一方、この薬剤にも難点があり、それは「注射の回数」「お金」、そして「できる施設の少なさ」の部分となります。

まず「注射の回数」の部分です。
この薬は、先ほど説明したIgEの血中濃度体重の2つのパラメータで決まります。
ゾレア投与量
IgEが高いほど、そして体重が重いほど、使用する薬剤量は多くなります。
この薬は1本が150mg(もしくは75mg)なので、少ない人では1か月に1本ですが、多い人では2週間ごとに4本の注射を皮下に打たないとなりません。

多い本数になってしまうとなかなか気が引けてしまうのもわかります・・・

次に「お金」の部分です。

上でお話しした通り、この薬は使用量が人によってさまざまで、その幅は3割負担の方で1か月あたり約4400~70000円の幅となります(1割負担なら約1500~23000円となります)。
ゾレア値段

 ノバルティスファーマHPより

高額療養費の制度や、個々で入ってらっしゃる医療保険、それに職場の健康保険組合などにある独自の助成を組み合わせて負担を減らすことはできますが、それでもまあまあいい値段はしてしまうのが実情です。


とはいえ、この治療により生活が劇的に改善するのであればそのためのコストとして考えて頂くことも必要なのかなと思います。

最後に「できる施設の少なさ」なのですが、番組でも触れられていたように、花粉症は耳鼻科で治療をされることが多いのですが、すべての耳鼻科で治療を行っているわけではないようです。
やはり注射で直接免疫の根本を調節する治療であること、花粉症に使用できるようになってからまだ3年しかたっておらず耳鼻科の先生の中にはまだなじみが薄い薬であることが要因なようです。

対して内科は喘息に対してこの薬を10年以上使用しているので、その扱いに慣れているという面もあります。
ただこの薬剤を大人の花粉症に使用できる医師側の条件が、一定期間アレルギー領域、もしくは耳鼻科の専門研修を行った医師であるというのがあり、事実上内科でも当院のような呼吸器やアレルギーを専門に行っている医師がいないと(例え総合病院でも)使用できないという面があります。

私達呼吸器内科医も、慣れない耳鼻科の先生がゾレアをお使いになるときにのフォローをすることがあります。
できれば使える施設がもっと増えてくれて、必要な方により治療が届きやすくなればとは思っていますが、現状はまだまだというのが実情なようです。

ただアレルギーの治療法は一昔前とは全く変わり、大きく進化を遂げています。
そして毎年のように新しい治療法も出てきております。

アレルギーにお困りの方は、是非とも専門医のもとで、一度は最新のアレルギー治療に触れて頂きたいと思っています!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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