医師ブログ

2020.03.09更新

新型コロナウイルスの影響でマスクなどの入手が困難となっており,今年は花粉症の方にはつらい年になってしまいました.
また咳などの症状にも敏感になっている世の中なので,なおのこと肩身の狭い思いをされている花粉症の方も多いのではと思います.


前回花粉症に代表されるようなアレルギー性鼻炎と呼吸器系疾患の関係についてお話ししました.
花粉症の対策,治療をしているにもかかわらず症状が残ってしまうような方は,まずは今の環境の改善に合わせて,よりご自身に合う薬に変更したり,咳などの合併症を同時にしたりとの治療法の再検討をする対策があげられるかと思います(もちろん本当にその症状が花粉症かどうかを考え直してみることが必要なこともあります).
その結果適切な治療を行っているにも関わらず症状が改善しなかったときに挙げられる方法として,今回は生物学的製剤による治療法を取り上げたいと思います(その他手術療法などもありますが,これに関しては耳鼻咽喉科にご相談ください).

生物学的製剤というのは,体に有害な反応を起こしている体内の物質の働きをブロックするために作られた,「人工的な抗体」という物質のことです.
この系統の薬剤は重症な喘息の方で多く使われていますが,今年から重症花粉症に対し「オマリズマブ」商品名:ゾレアという薬剤が使えることになりました.

体内に入った際に,体は異物を排除しようとして抗体という物質を作ります.
主にはIgMやIgG,IgAといったタイプの抗体を作って排除しようとしますが,特定の物質が入ってきたときにIgEという形の抗体を作ってしまうことがあります.
このIgEは我々人体にとってはあまり異物排除の方法がお上手ではなく,これによって様々なアレルギー症状が出てきてしまいます(このようなアレルギーを1型アレルギーと呼び,その人に対しIgEを作りやすい異物をアレルゲンと呼びます).

ゾレアはこのIgEをブロックする注射薬で,今でもIgEの関わる喘息で使われておりますが,今回IgEがかかわることの多いスギによるアレルギー性鼻炎でも使えるようになったというわけです.喘息と違い,花粉症ではゾレアをシーズンの時だけ使えばいいとのことになっています.

現在のところゾレアを花粉症で使う場合は,その前にしっかりと内服や点鼻などで治療を行っていること,血液検査でスギに対するIgEが高いことが使用の条件になっています.
また投与する量も血液中のIgEと体の大きさによって決まり,3割負担で8000円から120000円と幅はありますが比較的高額です.もちろんある程度以上の負担が生じた時は国からの高額医療制度に加え,様々な健康保険組合,医療保険などで使用できる補助,給付などがあり,ご自身の状況を詳しく調べていただければ思いのほか手頃に治療できる可能性もあります.


花粉症の症状が強いことによって起きる様々な不利益を天秤にかけていただき,既存の治療でも生活に支障が出てしまう場合には有力な選択肢になるかもしれませんね.

なおかつて注射1本で花粉症を治せるという触れ込みで行われていた,ステロイドの筋肉注射薬による治療が行われていたこともありましたが,この治療はこれとは全く異なるものです.
この治療はステロイド薬が体内に1か月以上残る薬剤であるため,ステロイドによる副作用のリスクも高く,アレルギー学会や耳鼻咽喉科学会でもできるだけ避けるように勧告されています(なお吸入ステロイド治療,点鼻ステロイド治療とは薬の量,生じるリスクなども全く異なりますので,混同しないようにしてください).

そして重症花粉症に対しては,ゾレア以外にも免疫療法というものがあり,特に舌下免疫療法が注目を集めています.今回も長くなってしまいたので,これについてはまた次回.

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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