いよいよ、今年も残りわずかとなってきました。
今年1年も大変多くの患者様にご来院いただきました(今年は初めて、当院に来院頂いた患者様が年間延べ3万人を超えました)。
改めて、咳や呼吸のことでお悩みの方がこれほども多いものかと、改めて実感した一年でした。
今年も茅ヶ崎内科と呼吸のクリニックをご愛顧いただき、誠にありがとうございました。
インフルエンザはようやく一段落してきましたが、やはりそのあとに続く咳の方などで、当院へのご相談は引き続き非常に多くいただいております(ご予約は混雑状況を見ながら適宜開けていますので、一度確認されたときにご予約枠が無かった場合も、時間を開けて後ほど再度予約サイトを覗いていただければと思います)。
咳が続く原因には、喘息、後鼻漏、胃酸の逆流など色々あるのですが、そんな中、最近は“意外なところ”に原因が潜んでいる方もご来院されています。
その一つが、「睡眠時無呼吸症候群」です。
「いやいや、いびきの話でしょ?」
「咳とは関係なさそうだけど…?」
と思われるかもしれません。
でも、これがなかなか侮れません。
実は、咳と睡眠時無呼吸症候群は、「見えないところでつながっていることがある」のです。
今日は、その意外な関係をお話してみましょう。
そもそも睡眠時無呼吸症候群って?
一言でいうと、「寝ているあいだに、呼吸が止まったり弱くなったりする病気」です。
特に、仰向けに寝たときに、舌の根元がのどに落ち込んでしまうことによって、気道が塞がれてしまうのが一番多い原因です。
通り道が狭くなると、狭い通路を空気が勢いよく通るので、周りの組織が震えてしまい大きないびきをかいてしまいます。
その狭くなった通り道が完全にふさがれると、その間呼吸が止まってしまうのです。
夜中に呼吸が止まると、体や頭に酸素が行きわたらなくなり、いろんな場所が「酸欠状態」になります。
すると、まるで何度も全力疾走をしているような負担が全身にかかり、朝起きたときに疲労感が残る、頭痛が起こる、よく寝た感じがしないという症状があらわれます。
それに当然眠りの質が落ちるため、昼間に強い眠気を感じるなどの症状が起きてしまいます。
生活習慣病も悪化させる
また血圧も上がります。
一晩に酸欠状態が何十回~何百回と繰り返して起こることで、体の中には炎症が生じ、その結果血管を傷つけ、動脈硬化を引き起こします。
また体を興奮させる「交感神経」が刺激されることも合いまって、血圧が上がってしまいます。
加えてインスリンの効きが悪くなったり、体の中の糖をうまく使えなくなるということも起き、糖尿病の悪化因子となります。
睡眠時無呼吸症候群は、日中の眠気だけではなく、生活習慣病を悪化させる原因にもなるのです。
と、ここまでが一般的な睡眠時無呼吸症候群のお話しです。
しかし、今回の本題はここからです。
では、どうして、そんな睡眠時無呼吸症候群は「咳」と関係してくるのでしょう?
睡眠時無呼吸症候群で咳が出る理由3つ!
咳と睡眠時無呼吸症候群は、次のような「つながり」があります。
① 無呼吸で“気道が引っぱられる”
無呼吸が起きている間、体は酸素が欲しくて必死に胸を動かします。
でも気道は塞がれたままなので、その吸いこもうとする力で、気道に強い陰圧がかかることになります。
これが意外と刺激的で、気道の粘膜が敏感になり、咳をしやすい体質に変わってしまうのです。
② 胃酸が逆流しやすくなる
睡眠時無呼吸症候群では、無呼吸のたびに息を大きく吸おうとします。
すると、体は横隔膜を下げて肺を広げようとしますが、実際は気道がふさがれているので空気が入ってきません。
すると、横隔膜から上の領域(胸腔といいます)に強い陰圧がかかります。
そうなると、その領域にある食道にも陰圧がかかり、胃にある胃酸が食道に吸い上げられてしまい、食道に胃酸が逆流しやすくなるというわけです。
胃酸が食道に上がると咳が出やすくなります(そのメカニズムについて詳しくはこちら)。
そんな時は、朝の咳、声枯れなどもよくみられます。
「夜中から朝方にかけて咳がひどい」「朝起きると喉が変」という方は、この仕組みが影響しているかもしれません。
③ 気道の免疫が落ちてしまう
睡眠時無呼吸症候群では、深い眠りがとれず、体が休まりません。
睡眠の質が落ちると、粘膜のバリア機能や免疫が弱くなり、いつもより気道が“刺激に反応しやすい”状態になります。
すると、感染症や冬の乾燥した空気、エアコンの風、花粉やハウスダストなど、咳を誘発しやすくなる因子に触れると、とたんに咳が悪化してしまうというわけです。
“こんなサイン”があれば無呼吸かも?
睡眠時無呼吸症候群は、なかなか気づかれにくいところが厄介です。
そんな中で、「こんな症状があったら疑ってもいいかも」という事柄を挙げてみましょう。
・家族に「呼吸が止まってたよ」と言われた
・寝ているのに、なぜか疲れが取れない
・起床時に頭が痛い
・日中ぼーっとしてしまう
・就寝中に胸やけがある
・体重が増えて、首が太くなってきた
などという方は「いびきはあまりないけど…?」という方でも、実は睡眠時無呼吸症候群だったということは珍しくないのです。
そして、残念ながら「睡眠時無呼吸症候群で咳が悪化する」ということは、世間のみならず、一般内科の医師の間でもほとんど知られていないのが現状です。
そのため、睡眠時無呼吸症候群が咳の原因だった場合、いろんなところでドクターショッピングを繰り返してしまい、長期にわたり解決できないケースが非常に多いのです(私の外来でも、10年以上原因不明の咳として扱われていた方が、当院で睡眠時無呼吸症候群によるものと診断し、一発でよくなった方もいらっしゃいました)。
治療で「人生」が変わることも
睡眠時無呼吸症候群は、しっかりと治療をすれば、症状をかなり改善することができます。
代表的なのはCPAP(シーパップ)という治療で、寝ているあいだに少しだけ空気を送り、気道が閉じないようにします。
このCPAPの機械には加湿機能があり、これによって乾燥に弱い気道の加湿を促すことができるのです(特に乾燥する冬の季節は特に有効です)。
これによって、長いこと悩んでいた長引く咳が大きく改善することも、実は少なくないのです。
だるさ、眠気、長引く咳という、体力を余計に消耗してしまう状態を改善させることで、思った以上に“人生が軽くなる”という感覚を実感することができます。
長引く咳に悩んだら、一度視野を広げてみましょう
睡眠時無呼吸症候群は、「いびきの病気」、「日中の眠気、だるさ」というイメージが強いですが、実は長引く咳とも深くつながる病気です。
特に中年以降で、咳とともに
「昼間なんだかなるいなあ」とか、
「朝起きるとやたら疲れているなあ」とか
「最近体重がふえたなあ」とか
「血圧も最近なんだが高いなあ」
ということを感じている方は、一度「夜間の呼吸」を振り返ってください。
“咳の原因はのどや肺だけではないかもしれない”
そう視野を広げてみると、改善のヒントが見つかることがあります。
ぜひそんなときは、様々な角度から咳を分析できる、呼吸器専門医に頼ってみてください!








