医師ブログ

2020.04.30更新

新型コロナウイルスの感染者の増加はようやくやや頭打ちになってきたようです。
ただ相変わらず収束にはほど遠い状況で、接触を減らすstay homeが必要な状況です(我が家も先日の休みの日に、息子主催の家族ゲーム大会を開催し、パパはビリでしたが大いに盛り上がりました)。
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国内、県内ではPCR検査を増やすように舵を切っています。茅ヶ崎市でも先週より、医師会と市が連携し、ドライブスルー方式の検査センターを立ち上げ、今までよりも検査数を増やせる体制を整えました。

なぜ今まで検査を絞り、今になって拡大しているのでしょうか。

以前検査の解釈、意義についてお話ししました。そこではやみくもな検査には弊害が伴う可能性があることを述べました。
ただ現在は前回執筆時点(2月)からの状況変化があります。

まずは新型コロナウイルスの蔓延状況です。
現在首都圏では累計患者数が6000人を上回っていますが、実際の累計患者数はおそらく数倍以上ある可能性があります(今後抗体検査が始まると、より実態に近づいた数字がわかるかもしれません)。

初期段階より有病率が上がっていると考えられます。

もう一つは、2か月前と比べて少しずつですが新型コロナウイルス感染症の症状の知見が積み重なり、曲がりなりにもコロナ感染症であるかの見立てが以前よりもしやすくなっています。

つまり、医師の診察により、以前よりもだいぶ検査前確率を上げられるようになってきたということです。
有病率が上がったうえに検査前確率を上げることができると、以前のブログでいう「読書好きを見つける」検査に近づけられているということが言えます。

またPCRの検査の感度(病気の人を正しく拾い上げられる確率)は70%程度とやはり低めなのですが、特異度(病気じゃない人を正しく否定できる確率)は99%かそれ以上とかなり正確であることがわかってきました。

これらより、以前よりも、病気じゃないのに陽性と出る確率はかなり下がっており、陽性と出れば、その人はかなり高い確率で本当に感染していると言える状況になってしました(ただ依然陰性と出てもその人が本当に感染していないということは言い切れない状況に変わりはありません。陰性でも症状が残っている場合は絶対に他人とは接触しないで下さい!)。
少なくとも病気ではない人が病院のベッドを占有する可能性は以前より低くなりました。
検査を多く行ってもそれ自体が医療崩壊につながるという図式ではなくなり、むしろできるだけ多くの感染患者さんを隔離でき、蔓延を防止するメリットがもたらされる状況になっています。

ですので蔓延期である今、積極的にPCR検査を増やすというのは理にかなっています(蔓延期にいつから突入したかということの判断時期が正しかったかどうか、今の検査数が十分なのかという評価は、ここでは行いません)。

 

なのですが、このような状況の中で今私が非常に心配しているのが、楽天株式会社さんが発売したPCR検査キットの存在です。

 

このPCR検査キットは通常の医療用と大きく精度が変わらないそうです。でもやはり問題があるのです。
では何が問題なのでしょうか。

まず、このキットは医療機器ではないとのことで、医師の診察なしに使用するもののため、医師による新型コロナ感染症であるかどうかの診察をしていません。
すると検査前確率を上げる作業をしないこととなります(つまりゴキブリ好きを見つける検査に近づきます)。

楽天キット

次に検査をするときの手技の問題です。PCR検体は鼻粘膜の奥をしっかりとこする必要がありますが、綿棒を挿入するとき、鼻中隔が曲がっていたりするとうまく挿入できないことがあります。慣れている医療者は微妙に角度を調整し挿入するのですが、経験のない非医療者には難しいと思います。またかなり奥まで挿入することなるのですが、非医療者ではどこまで挿入すればいいのかが不安で、手前で引き返してしまう例が増えるのでないかと思います(実際初期研修医でも最初のうちはかなりビビってしまう人が少なくなく、研修医にとってこの手技は、しばらくの間は上級医の指導を要するものなのです)。

これで感度が下がります(また手技が未熟なことにより検査をする人の感染リスクも上がってしまいます)。

楽天キット

そして取った検体を正しく扱わないと、不純物が検体についてしまう可能性があります。するとこれがコロナウイルスの遺伝子と誤って検出される可能性があります。
特異度が下がる可能性が出てきます。

楽天キット

これら得られる検査結果は、例えキットが医療で用いられるものと同様の精度があったとしても信頼性がかなり下がってしまいます。
加えてこの検査キットは診断には使用しないこととなりますので、不正確に行った検査結果に基づき、結局陽性と出た人が診察を求めて医療機関に殺到します。これによりクラスター、院内感染が発生する可能性が高まります。

当然陰性だから安心していい訳でもありません。先ほども書いたように、もともと感度は高くない検査なのですから。

PCR検査は確かに増やさなければならない時期です。しかし正しく運用される検査である必要があります。決して不安を解消するための検査であってはなりません。
例えキットの精度が保たれていたとしても、なぜこのような検査方法をやるべきではないのか、今回は皆さんに知ってもらいたくてあえてやや辛口で書いてみました。

パンデミックの戦いはチーム戦です。皆さん一人一人が様々な局面で賢明な判断をしていただき、これ以上の医療崩壊を抑える手助けをしていただけることを願っています。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.04.16更新

当院には喘息の患者さんが多数お見えになります。

喘息の患者さんが今心配されていることは、喘息で新型コロナウイルスにかかりやすくなるのか?重症化するのか?といったことだと思います。
現時点(2020年4月16日時点)では、喘息があることで、または喘息の治療をしていることで新型コロナウイルスにかかりやすくなるというデータはありません。また感染した場合に重症な新型コロナウイルス肺炎になりやすくなるということに関しては否定的な論文が1本出ており、それ以外にはデータがありません。(Clinical characteristics of 140 patients infected with SARS-CoV-2 in Wuhan, ChinaAllergy. 2020 Feb 19.)
つまり現時点では、通常の喘息が新型コロナウイルスの感染や増悪に関与するとは言えないとは言えると思います。

ただし喘息の調子が悪くなる原因として一番に挙げられるのは風邪を始めとする感染症です。
そして喘息の増悪は治療が不十分だとより起こりやすくなり、その増悪もより重症となりやすいことは以前からわかっています。新型コロナウイルスに感染し呼吸状態が悪化した時、同時に喘息発作を起こしてしまうと更なる呼吸状態の悪化につながるリスクはあり得ると思います。
ですので、喘息の方にとって、今回のことで一番のリスクになりうることは、治療が不十分であったり、中断されていたりで(一見症状がないとしても)しっかりとコントロールされていないこと、ということになります。

 では「喘息がコントロールされている」、とはどのような状態をいうのでしょうか。

よく「時々咳が出たりヒューヒューしたりすることがあるけど、我慢できるから大丈夫」とか、「苦しくなることがあるけど発作止めを使えば治まるから大丈夫」などという方がいらっしゃいます。
また「吸入薬を使ったら治ったから吸入を止めた」というようにお話しになる方も実に多くいらっしゃいます(喘息は基本的に治る病気ではなく、見えなくても気道の炎症は常に起きており、常に炎症を抑え続ける必要がある病気です)

これらはすべて治療が不十分な状態であり、今回の新型コロナ禍でも十分ハイリスクになりうる状態です。

喘息のコントロールを簡単に把握する質問票として「喘息コントロールテスト(ACT)」というものがあります。これは普段の症状や生活状況に関する5項目の質問票に答えることで判断できるものです。
25点満点で評価しますが、基本は一年中25点であることが必要です(1点でも減点があると完全なコントロールとは言えず、増悪のリスクは高まります)。

 喘息コントロールテスト(ACT:アクト)

喘息コントロールテスト(ACT)

こちらから環境再生保全機構のACTチェックのページに飛ぶことができます

また喘息の治療の基本薬は吸入ステロイド薬です。
これに関しても時々「ステロイド」との響きで怖がる方がいらっしゃいますが、ステロイド薬の副作用は主に体内のホルモンバランスを崩すことで起こるものであり、これは全身投与(内服や注射)を長期に(約2週間以上)続けることで出てくるものです。
吸入薬ではステロイドの量が内服に比べて非常に少ない上に、薬剤は肺でとどまりほとんど血中には届かないため、通常の使用でまず問題になることはありません。指示通りにしっかりと吸入治療を続けましょう。

なお、吸入ステロイドの中で、シクレソニド(商品名:オルベスコ)という薬剤が新型コロナ肺炎3例に対して有効であったという報告が日本から出されており、これを確認する臨床試験が日本と韓国で始まっております。

ただこの薬剤に予防の効果は検討も検証もされていません。
この薬剤は粒子径が非常に小さく、肺の末梢に喘息の炎症が強い方や声枯れの出やすい方に非常に有用な選択肢として使用されています。
しかしもともとそれほど流通量のある薬剤ではなく、需要が高まると容易に供給不足に陥り、本来必要とされる患者さんに届かなくなる危険性が高くなると考えられるため、医療側も患者側も安易な薬剤選択は厳に慎むべきです。

 

他に注意すべき点としては、現在ネブライザー治療はエアロゾルを広げるリスクがあるため、感染が蔓延している現在ではやや感染の危険度が上がります。
ご自宅でネブライザーを使用されており多少でも感染が否定できない場合は、可能なら薬剤を変更するか、どうしても症状をコントロールするために使用しなければならないときは窓を開け換気をよくしてなるべく空気の流れを作り、使用する方以外はできるだけ離れていたほうがいいでしょう。

また重症な喘息の方で、内服のステロイドを連日使用している方は免疫力の低下を来すので、感染を起こすリスクは高くなるかもしれません(数日など短期の使用はそこまでリスクにはならないと思います)。
吸入など通常の治療を「正しく」治療を行っていても症状がコントロールできていない場合は、生物学的製剤や気管支鏡を用いた治療もあるので、ステロイド連日内服の前に検討すべきかもしれません。専門医に相談しましょう。

喘息の治療はここ数年も常に進化を続けており、新しい治療も多く出ております。また他の疾患と違い、薬の使用法のコツをつかむことが治療結果に大きく影響します。
ACTが常に25点でない方は、現状の治療のままでも、何かしらの改善点を知り実行することで状態が良くなることが少なくありません。

少しでも気になる方は主治医の先生や、より喘息に詳しい呼吸器、アレルギー専門医に相談してみましょう。

追記:その後わかってきた知見について
→2021.1.17 コロナと喘息について、今わかってきたこと(2021年1月版)

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.04.07更新

本日にも緊急事態宣言が出される見込みであり、皆さんも不安な日々を送られていると思います。当院にも感染したかどうかのご不安でお問い合わせ、ご受診いただくケースが増えております。
まず今まで申し上げている通り、感染症が疑われる場合は帰国者接触者相談センターにご連絡いただき、指示を仰いでいただくようにお願い致します。(2021年4月追記:現在は医療機関か相談センターに連絡頂くこととなります)

→当院の発熱外来について

ただその前に,これからは皆さん一人一人がしっかりと普段からの健康管理をしていただくことが大事となってきます。

新型コロナウイルス感染症の症状として、2019月12月から2020年2月までに中国で発症した1994人のメタ解析(いろんな論文を組み入れたもの)データが出ました。
その中では以下の症状の頻度が報告されています(ただし、おそらくここには極めて軽症や無症状の人はあまり入っていないと思われるので、そこに注意して解釈する必要があります)。
 発熱:88.5%
 咳:68.6%
 筋肉痛・筋疲労:35.8%
 喀痰:28.2%
 呼吸困難:21.9%
 頭痛・めまい:12.1%
 下痢:4.8%
 吐き気・嘔吐:3.9%
COVID-19 patients' clinical characteristics, discharge rate, and fatality rate of meta-analysis. Li LQ et al. J Med Virol. (2020)


ということで、やはり発熱の頻度が多くなっていたのは以前お話しした通りです。これが現在の相談基準の一つである「4日間の37.5℃以上の発熱」の根拠にもなっていると思われます。
ですので、まずは自分の体温を把握することは体調管理上大事になってきます。


しかしこの「自分の体温を知るためには,注意しなければならない点がいくつかあります」というのが今回のテーマです。


10代~50歳前後までの日本人の健康な人の腋窩体温の平均値は36.89℃で、36.6~37.2℃に約7割の方が入るというデータがあります(日新医学44:12,1957;635-638)

また、65歳以上の高齢者においてでも、午後1時から4時までに測った体温の平均値は36.66℃で、36.2~37.1℃に約7割の人が入るとされています(日老医誌 12:3,1975;172-177)

平均体温

 

ところが患者さんにアンケートを取ると、平均36.2℃と回答したという報告があり、実際の体温より低く把握しているケースが多いことが考えられています(臨床体温23:1,2005;35-38)
外来でも「平熱が34℃台や35℃台前半だから、36℃台でも自分にとっては熱が高くて心配だ」という方が少なからず見えます。この方たちの全てが間違っているわけではないと思いますが、やはりこの機会ですので、正しく自分の体温を把握するきっかけにしていただければと思います。

 

まず体温には1日のリズムがあり午前3時から7時頃までが一番低くそこから徐々に上昇し、午後2時から6時ごろが一番高く、その変動差は最大0.8℃程度あることが報告されています(J appi physiol.65(1988),1840-1846)食事後や運動後、入浴後も体温は上昇します。
加えて女性では、月経周期で排卵が起こる前(月経が始まる2週間ほど前)からは高温期に移行し、低温期より0.3~0.5℃上昇します。

体温変動


このように体温は1日の中でも、数日の周期でも、変動するものなのです。


なので自分の体温を知っておくためには、1日数回(理想的には起床時、昼食前、夕食前、就寝前の4回)、日をおいて数回測ってみて記録してみることが役立ちます。また外気温にも影響されるので(高齢者では特に影響されやすいです)、気温や季節も考慮しておくといいでしょう。

 

次は体温の測り方についてです。

体温は基本的に腋窩で測って頂ければよいですが、体温計の先端の位置が重要です。

腋窩で一番温度が高いのが、腋窩のくぼみの真ん中です。ここに体温計をしっかり差し込むためには、斜め下30~45度くらいの角度でしっかりとくぼみに差し込むことが重要です。
真横からや、斜め上から差し込むと、センサー部はくぼみの下側に達し、体温が低く出てしまいます。
わき汗をかいていると十分密着しないので、汗は拭きとってから測りましょう。

体温の測定方法

また本来腋窩の体温は10分間密着しないと測れませんが、現在の体温計は「予測式」といって、温度の上昇するスピードから実際の体温の予測値を計算して出す機種が主流です。
このタイプは15~30秒で体温が測れるため便利なのですが、気を付けないといけないのは、2回測るときは、体温計がしっかりと冷えていること(測り始めが35℃以下になっていること)を確認しないと間違った値が出るということです。

 

以上を把握できると、より正しい自分の体温を知ることができます。
体温だけで自分の体調をすべて知ることはできませんが(食欲,だるさ,息苦しさなど全体的な視点も大事です)、体温は一番わかりやすい指標でもあるので、ご自身の体調管理の一つのツールとして活用しましょう。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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