医師ブログ

2020.02.29更新

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、色々とマスコミでも大騒ぎになっています。その中で、「PCR」というウイルスの有無を調べる検査をするべきかどうかということが多くのメディアで議論の対象になっています。
新型コロナウイルスのPCRを今どの程度行うべきかということの議論に関してはここでは述べません。が、「検査」というのは本来どのような性質を持ったもので、どのように解釈すべきなのかということを知らないと、誤った議論になってしまう危険性があります。

このことを一部のメディアは説明をしてくれてはいますが、やはりなかなか一般の方には理解が難しいのではないでしょうか。
そこで今回は、よりなじみやすい形で説明してみることにチャレンジしてみたいと思いますのでお付き合いください(あくまでここに出している数字は説明のためのものであり、架空の数字になります)。
この考えは今回の新型コロナに限らず、インフルエンザの検査や腫瘍マーカーの検査など、すべての検査に応用ができる知識です。

まず前提として、検査というものは、数値などの連続性のあるものを、一番都合のいいところで区切ってそれより大きい(もしくは小さい)ものを異常としようとするものです。
100%完璧に異常とそうでないものを見分けられる検査は存在しません(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症など、人為的に値を区切ることで決める病気は別です)。
そして、陽性者を取り逃さないような設定をすると,陰性者を多く拾ってしまうし、陰性者をなるべく除外できるように設定をすると,陽性者を多く取り逃してしまうという、お互いトレードオフの関係があります。

検査1

今回は検査を調査に置き換えて考えてみます。
「1000人の学校の中で読書が好きな人を見つける」調査をしてみましょう。
いろいろな方法が考えられますが、今回は「所有している本の冊数を調べる」という調査方法にしてみましょう。
ここでは「読書が好きな人」が「病気を持っている人」の例え、「所有してる本」が「検査データ」の例えです(決して読書好きが病気だと言っているわけではありません、念のため)。

おそらく本好きな人は本をより多く持っているでしょう。となれば何冊以上持っていたら読書好きの可能性が高いかを決めます。
まずはそのラインを300冊にしてみましょう。結構多い冊数ですよね。読書好きじゃない人を確実に外せる可能性は高まりますが、読書好きの人を見逃す可能性が高くなります。
また10冊にするとどうでしょう。今度は読書好きの人をカウントできる可能性は極端に高まりますが、読書好きじゃない人もカウントしてしまう可能性もが同時に高まります。
ということで、間をとって50冊にするとバランスがよくなりそうなので、ここをボーダーラインとして設定することとしてみましょう。

さて、学校の中で読書が好きな人の割合はそれほど少なくないでしょう。それを60%としてみましょう。
50冊をボーダーラインと置くと、読書好きを70%の割合でカウントでき(感度70%)、読書好きじゃない人を90%の割合でカウントから外せる(特異度90%)とします。
読書好きは600人のうち、50冊の本を持っているのは420人持っていないのは180人です。また読書好きじゃない400人のうち、50冊持っていないのは360人50冊以上持っているのが40人です。
すると、50冊以上持っている460人の中で本物の読書好きは420人(正しく選べた率:陽性的中率91.3%)50冊未満しか持っていない540人の中で本当に読書好きじゃない人は360人(正しく選べた率:陰性的中率66.7%)との結果が出ました。
逆に言うと、読書好きじゃないのに本をいっぱい持っている人(=病気じゃないのに検査で陽性 → つまり偽陽性)が8.6%読書好きなのに本をあまり持っていない人(=病気なのに検査で陰性 → つまり偽陰性)が33.3%いたことになります。

偽陽性、偽陰性
陰性だと読書好きではないというにはやや不安ですが、陽性なら読書好きといえる可能性はまずまず高いとは言えそうです。

ところが、これを「ゴキブリ好きな人を見つけるために、家にいるゴキブリの数を数える」としたらどうでしょう(気分を害した方、すみません・・・)
ゴキブリが好きな人って相当珍しいですよね。家にゴキブリが多くても好きで飼っている人なんてほとんどいないでしょう。でも1%くらいはそのようなマニアがいて、見つけても退治せずに共生している、むしろ集めている(?!)と仮定しましょう。
同様に例えば50匹をボーダーラインとすると、ゴキブリ好きの70%をカウントでき、ゴキブリ嫌いを90%カウントから外すことができるとしましょう(感度70%、特異度90%であり、読書好きを見つける検査と精度は同様です)。
50匹以上家にゴキブリがいる106人中、本当にゴキブリが好きな人はたった7人でした。正解率(陽性的中率)はたった6.6%であり、実に93.4%の人をカウントし間違えました(=病気じゃないのに検査で陽性 → つまり偽陽性)。一方50匹以下しか家にゴキブリがいない993人のうち99.6%である990人は本当にゴキブリ嫌い(=陰性的中率99.6%)で、ゴキブリマニアなのにゴキブリが家にあまりいない人(=病気なのに検査で陰性 → つまり偽陰性)はわずか0.3%です。こちらはとても正確に調べられたようです。

偽陽性、偽陰性

 

でもやっぱり数字が羅列して難しくなってしまいます・・・
なので、もう少しビジュアルに訴える絵も作ってみました。

確率2

というわけで何が言いたいかというと、その集団での有病率が極端に低いとき、つまり検査前から確率が非常に低いと予想されるときは、同じ精度の検査をしても、病気のない人を間違って陽性と出してしまう可能性が極めて高くなるのです。
ですので、その患者さんの検査前に考えられる確率によって検査結果の解釈は変えなければなりません。
例えば新型コロナの話でいえば、武漢、ダイヤモンドプリンセス、今の日本の街中で、PCR検査の考え方、検査の解釈はそれぞれ変えないといけないわけです。今の日本の街中は「ゴキブリマニア発見検査」に近い状況であると考えられ、コロナじゃないのに検査陽性となる人が多く出る危険性があります(もちろんダイヤモンドプリンセス同様、ある町や学校、会社などで特に流行しているなど特定の集団で有病率が変わる場合があれば、それは考慮しなければなりませんし、今後全体の有病率が高くなってくると当然状況は変わってきます)。

またより正しい検査の解釈に近づけるには、対象の人が病気である確率を高めることが出来れば、「ゴキブリマニア発見検査」の例から「読書好き発見検査」の例に近づけることが出来るようになります(これを「検査前確率」を高めるといいます)。
逆に無症状であったり、コロナウイルスとの接点がないなどの状態では「検査前確率」は低くなり、ますます偽陽性が増えてしまいます(裏を返せば、このように検査前確率を低めていけば、検査が陰性と出た場合にコロナではないと言い切ることはしやすくなります)。
この検査前確率を高めたり、低めたりする手法が「問診」であり、「診察」であり、「他の検査」であるというわけです。
検査の解釈は「検査前確率」の高さ、「感度」、「特異度」によって変えなくてはならず、上に書いた通り、いくらかの情報は必ず犠牲になります。犠牲になるはずの情報を取り入れてしまうと、解釈を誤り、かえって混乱を招く可能性をあげさえしてしまうかもしれないというわけです。

長い・・・

やはり私の能力でこれ以上この話をまとめてわかりやすくお伝えするのは難しい・・・ですが、多少の理解にでもつながるきっかけになっていただければ嬉しいです。

(2020.3.13追記 文章、図中に一部誤っている箇所がありました。お詫びして訂正いたします)

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.02.25更新

新型コロナウイルス騒ぎがまだまだ収まらないようです。前回ブログでは今回は花粉症の続きを書こうと思っていると書きましたが、世間的にはこちらのほうが心配ごとかと思われましたので、今回は今からでも覚えていただきたい「感染対策」について書いてみようと思います。花粉症の続編については近々に再度アップしますのでお待ちください。
今回のウイルスは初期症状が普通の風邪とほとんど変わらないと言われているため、初期段階では見分けがつかず、それが世の中に大きな不安をもたらしているようです。
現時点ではまだ咳、熱があってもほとんどの場合は普通の風邪なのだとは思いますが、やはり前々回にお話ししたように普通の風邪にせよ、新型コロナにせよ、基本的には飛沫感染接触感染の予防になります。

まずは咳をしている方は、できればマスクをして、周りへの飛沫の飛散を軽減することが大事です。
マスクは当然のことながら鼻を口とを覆い、鼻部分にワイヤーの入っているタイプのマスクでは、しっかりと鼻の付け根にワイヤーを押し付けて、鼻の上のスキマをできる限り狭くします。

マスクの付け方
ただ現在はどうしてもマスクが手に入りにくいため、やむを得ずマスクなしで咳をする場合には、ティッシュやハンカチで口をおさえて咳をします。とっさの時は手のひらでなく、腕で口を押さえます。
そして周りの人はできれば2m程度の距離を取ることが望ましいです。

そして大事なのはとにかく手のひらを守ることです。
手のひらは一番モノと触れる部分であり、手のひらからモノへ、モノから手のひらへウイルスは移っていくので、「人にうつさないようにする」、「人からうつらないようにする」、これらのどちらにとっても重要なことになります。
そのためにはこまめな手洗いを行い、できる限り消毒用エタノールで消毒することが大事なのは前々回述べた通りです。

ちなみに手を洗うときに洗い残しやすい部位をお示ししてみます(私はICD:インフェクションコントロールドクターという資格を持っており、赴任先の各病院でも感染対策部門を担当していましたが、プロの医療職である職員の手洗いチェックしても、やはり多くの人に下のような傾向がみられました)。
手洗いの洗い残し

こちらのデータからは、実際にやはり手のひら以外のところは洗い残しが多い傾向があり、特に指先と指の間は残りやすいと言われています。
指先は指の腹は比較的洗いやすいのですが、がかなり洗いにくく要注意です(爪を切るのも大事です)。
また盲点になりやすいのは手のひらのくぼみの部分と、手首の部分です。ここは普段意識しないと気を付けない部分でもあると思いますのでよく気を付けて洗ってください。

手洗いの方法を載せておきます(サラヤさんの資料を引用させていただきました)

手洗いの方法

自分が接触感染の対策が出来ているかの考え方として、「手に小麦粉をまぶしたところ」を想像してもらうといいと思います。
この「小麦粉」は洗うと落ちますが、しばらくするとまた手につくものと想像してください。
この「小麦粉」が、1日のどこかで鼻や口についたらアウトです。

手の粉
たぶん私も意識していないと、家に帰ったころには顔中小麦粉だらけになっていると思います(笑)

というわけで現在当院では、発熱があるなどで感染症が疑われる方は何ヵ所かの隔離ブースにてお待ちいただくようにしております。症状のある方にはできるだけマスク、アルコール消毒剤を使用して頂くようにお願いさせていただいておりますので、ご協力をよろしくお願い致します。
ご不明な点やご心配な点がありましたら何でもご相談ください。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.02.11更新

ここ数日は冬らしい寒さになっていますが、それでも少しずつ花粉が飛び始め、症状を訴えられる患者さんも当院にお見えになるようになってきました。来週あたりからは気温も上昇し、本格的にスギ、ヒノキの花粉が飛散しそうです。

人間の体には異物を除去するための免疫機能が備わっています。
このうち、免疫グロブリンという、血「液」や体「液」の中にある武器を利用して異物を除去する免疫を「液性免疫」と言います。
この免疫グロブリンにも種類があり、通常は体にとって有益な仕事をしてくれます。

ところが、IgEとよばれる免疫グロブリンはちょっと困った免疫グロブリンで、これを使った免疫反応が起きてしまうと、体には起こってほしくない反応が起こってしまいます。これがアレルギー(正しくはⅠ型アレルギー)症状です。

花粉症は簡単に説明すると、体にとっての異物である花粉を排除しようとしたときに、残念ながら有害なタイプのIgEによる免疫反応が起こってしまうことで起きます。
花粉症の方は、このIgEによる免疫反応が起こりやすい体質を持った方と言えます。

ですので、治療としてはこの有害反応を起こりづらくして、症状を抑えることが目的になります。
まずは花粉を寄せ付けない対策(つるつるした生地の服の着用、帽子やマスク・めがねの使用、帰ったら玄関で花粉を落とす、家の窓を開けすぎない、など)が大事です。また薬による治療ですが、症状が出てから始めるよりも、シーズン開始の2週間くらい前から始めたほうが効果的ともいわれています。

花粉症の治療は、まずは抗ヒスタミン薬と呼ばれるタイプの抗アレルギー薬が使われます。この薬も近年さまざまな特色を持った薬剤が出てきているので、症状や体質、その方の生活や体質に合った薬剤を使用することで効果的な治療が可能になってきています。
また鼻づまり(=鼻の粘膜のむくみ)に関しては、これを引き起こすロイコトリエンという物質を抑える、抗ヒスタミン薬とは違った抗アレルギー薬(ロイコトリエン受容体拮抗薬)の飲み薬が有効です。
さらには鼻の粘膜に直接効かせる点鼻薬(点鼻ステロイド薬や、場合によっては短期間の点鼻血管収縮薬)も有効となってきます。
一方眼に対しても抗アレルギー点眼薬、症状が強いときはステロイド点眼薬などを用いて症状を抑えます。
また別の観点から、漢方による症状の緩和もかなり有効とのデータが集まってきているようです。

花粉症の症状があると、仕事の効率が落ちたり、睡眠がとりにくくなって疲れやすくなったりと、日常生活に与える影響が大きくなります。なのでガマンしてもあまりいいことはなく、しっかりとアレルギーに詳しい医療機関(内科や耳鼻科、眼科など)で診てもらって症状をコントロールしたほうがいいと思います(し、患者でもある私は実感しています)。

それと!実は花粉症に代表されるこれらのアレルギー反応が、近年咳にも大きく関与していることがわかってきました。次回はそのお話をしようと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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