医師ブログ

2020.03.18更新

まだまだ新型コロナウイルスの騒ぎが止む気配がありません。
当院にも連日風邪症状で新型コロナウイルス感染症を心配される方がいらっしゃいます。
呼吸器専門医としては、一見風邪の症状をきたす様々な病気をしっかりと見極めて治療することが存在意義であり、正直全力で診断、治療をしたい気持ちに駆られます。しかしインフェクションコントロールドクターとしての立ち位置に立ち返ると、やはり病院と比べて感染対策が十分には取れない「クリニック」という環境でやみくもに診療をしてしまうと、周囲の他の患者さんや私たちスタッフに感染をするリスクが高まり、皆さまにご迷惑をお掛けしてしまうことになることもあります。

というわけで現状では、患者の皆様にもご協力を仰がねばならない状態と考えています。


現在国からは「帰国者・接触者相談センター」が設置されており、以下の方はまず帰国者・接触者相談センターに相談をお願いします。

・風邪の症状が4日以上続いている方
・37.5℃以上の発熱が4日以上続いている方、もしくは解熱剤が4日以上必要な方
・強いだるさがある方
・息苦しさがある方
65歳以上の高齢者、糖尿病・心不全・COPDをお持ちの方、抗癌剤、免疫抑制薬(内服ステロイドなどを含む)内服中の方は、4日を2日に読み替える必要があります。また妊婦の方も早めの相談が勧められています。


こちらに相談の上で、当院にかかってもよいとされた場合は、必ずマスクをしたうえで受付でその旨をお話しください。
当院は現在呼吸器感染症が疑われる方に対し、通常とは別ルートでのご案内をいたしております(詳しくはこちら)。他の患者さんと極力動線が交わらないようにするための処置ですので、ご理解いただけますようよろしくお願い致します。

 

なお、現時点で考えられている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の特徴を、私の備忘録も兼ねて記しておきます(これらは2020年3月18日時点で私がpubmedから発表論文を引っ張ってきて得たものです。知見が蓄積されていくにつれ、今後変わっていくことがあることをご理解ください)。

疫学

・現時点では接触感染、飛沫感染が主であり、空気感染は通常起こりがたい(つまり同じ空間にいるだけではうつらない。咳エチケットと手指の衛生管理がとっても大事)
・感染者の約8割は他人に感染させておらず、感染を広げているのは感染者のうち2割であり、その多くは換気の行き届いていない閉鎖空間(客船、バス、ライブハウス、スポーツジムなど)(新型コロナウイルス厚生労働省対策本部クラスター対策班の調査)
・重症化率は50代から増加し、年齢が高くなるにしたがって重症化率は高くなる一方、若い方には感染しても症状を示さない例が少なくない。*
・しかし無症候例から感染したという報告も出ている。N Engl J Med, 382 (10), 970-971
・また無症状の患者でも、CTで肺炎が見られるケースが報告されている。Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet Infect Dis. 2020.

症状

感染後平均4-7日程度の潜伏期間を経て発症する。Early Transmission Dynamics in Wuhan, China, of Novel Coronavirus-Infected Pneumonia. N Engl J Med. 2020.
・発症すると発熱が90%以上、咳が70%程度と頻度は比較的高いが、SARSに比べると発熱を呈さない例が比較的多いと言われ(SARSは98%程度)、発熱の有無だけで判断すると見逃す可能性がある。また発症初期は発熱の程度も軽い例が多い(38℃未満が約8割)。*
・軽症で済む場合は約1週間で改善し、重症化する場合は発病から1週間から10日経ってからが多い。*
・咳は空咳が起きやすい傾向があり、痰は比較的多くない。*
・鼻水、鼻づまりなど、鼻の症状はあまり多くなさそう。*
・リンパ節もほとんど腫れることはない。*
・下痢の頻度は3%程度と低い。*
糖尿病、高血圧、COPD、慢性心不全を持っている患者は発症した場合、重症化するリスクが高い可能性がある。*
・一方喘息が新型コロナウイルスによる肺炎の重症化因子となっている報告は今のところない(もちろん感染によって喘息の悪化につながるリスクは十分にあると思われます)。Clinical characteristics of 140 patients infected with SARS-CoV-2 in Wuhan, ChinaAllergy. 2020 Feb 19.

検査所見

・発症例ではCTで86%に異常が認められるが、レントゲンでの異常は59%にとどまり、レントゲンでは一定数見逃してしまう可能性がある。
CTでは当初は両側の肺の下葉に淡い影(すりガラス影)をきたす例が多い。重症化すると影は濃くなり(浸潤影)、肺全体に広がってくる。A Systematic Review of Imaging Findings in 919 Patients. AJR Am J Roentgenol.
白血球はあまり上がらず、発症者の平均は4700/μl程度。10000/μl以上に増加しているのはわずか6%の一方、4000/μl未満に低下しているのが33%とむしろ白血球は低下傾向を示す。*
CRPは40%で1mg/dl未満。*

・AST、ALT、CKなどの肝酵素が上昇する例は少ない。*

治療

・現時点で有効性が証明された薬剤はない。ただいくつかの薬剤で有効である可能性は示唆されており、いろいろと試されている段階。この中で比較的手近にあるのが喘息吸入薬であるシクレソニド(オルベスコ)だが、治療効果はともかく新型コロナウイルスの予防効果についてはまったく検討されていない(もちろん喘息予防薬としては効果は証明されています)。

* Clinical characteristics of coronavirus disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020.

今後も大きな変化があれば、またこちらに書いてみたいと思います。

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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