医師ブログ

2025.12.26更新

いよいよクリスマスも終わり、今年も残りわずかとなってきました。

今年1年も大変多くの患者様にご来院いただきました(今年は初めて、当院に来院頂いた患者様が年間延べ3万人を超えました)。

改めて、咳や呼吸のことでお悩みの方がこれほども多いものかと、改めて実感した一年でした。

今年も茅ヶ崎内科と呼吸のクリニックをご愛顧いただき、誠にありがとうございました。


インフルエンザはようやく一段落してきましたが、やはりそのあとに続く咳の方などで、当院へのご相談は引き続き非常に多くいただいております(ご予約は混雑状況を見ながら適宜開けていますので、一度確認されたときにご予約枠が無かった場合も、時間を開けて後ほど再度予約サイトを覗いていただければと思います)。

咳が続く原因には、喘息、後鼻漏、胃酸の逆流など色々あるのですが、そんな中、最近は“意外なところ”に原因が潜んでいる方もご来院されています。


その一つが、「睡眠時無呼吸症候群」です。

「いやいや、いびきの話でしょ?」
「咳とは関係なさそうだけど…?」

と思われるかもしれません。

でも、これがなかなか侮れません。
実は、咳と睡眠時無呼吸症候群は、「見えないところでつながっていることがある」のです。
SAS

今日は、その意外な関係をお話してみましょう。


そもそも睡眠時無呼吸症候群って?

一言でいうと、「寝ているあいだに、呼吸が止まったり弱くなったりする病気」です。

特に、仰向けに寝たときに、舌の根元がのどに落ち込んでしまうことによって、気道が塞がれてしまうのが一番多い原因です。
睡眠時無呼吸症候群

通り道が狭くなると、狭い通路を空気が勢いよく通るので、周りの組織が震えてしまい大きないびきをかいてしまいます。
その狭くなった通り道が完全にふさがれると、その間呼吸が止まってしまうのです。

夜中に呼吸が止まると、体や頭に酸素が行きわたらなくなり、いろんな場所が「酸欠状態」になります。

すると、まるで何度も全力疾走をしているような負担が全身にかかり、朝起きたときに疲労感が残る、頭痛が起こる、よく寝た感じがしないという症状があらわれます。

それに当然眠りの質が落ちるため、昼間に強い眠気を感じるなどの症状が起きてしまいます。

睡眠時無呼吸症候群

 


生活習慣病も悪化させる

また血圧も上がります。

一晩に酸欠状態が何十回~何百回と繰り返して起こることで、体の中には炎症が生じ、その結果血管を傷つけ、動脈硬化を引き起こします。

また体を興奮させる「交感神経」が刺激されることも合いまって、血圧が上がってしまいます。

加えてインスリンの効きが悪くなったり、体の中の糖をうまく使えなくなるということも起き、糖尿病の悪化因子となります。

つまり睡眠時無呼吸症候群は、日中の眠気だけではなく、生活習慣病を悪化させる原因にもなるのです。


と、ここまでが一般的な睡眠時無呼吸症候群のお話しです。

しかし、今回の本題はここからです。

では、どうして、そんな睡眠時無呼吸症候群は「咳」と関係してくるのでしょう?


睡眠時無呼吸症候群で咳が出る理由3つ!

咳と睡眠時無呼吸症候群は、次のような「つながり」があります。

① 無呼吸で“気道が引っぱられる”

無呼吸が起きている間、体は酸素が欲しくて必死に胸を動かします。
でも気道は塞がれたままなので、その吸いこもうとする力で、気道に強い陰圧がかかることになります。

睡眠時無呼吸症候群

これが気道に刺激を与えてしまうことで、気道の粘膜が敏感になり、咳をしやすい体質に変わってしまうのです。


② 胃酸が逆流しやすくなる

睡眠時無呼吸症候群では、無呼吸のたびに息を大きく吸おうとします。
すると、体は横隔膜を下げて肺を広げようとしますが、実際は気道がふさがれているので空気が入ってきません。

すると、横隔膜から上の領域(胸腔といいます)に強い陰圧がかかります。

そうなると、同じくその領域にある食道にも陰圧がかかり胃にある胃酸が食道に吸い上げられてしまい、食道に胃酸が逆流しやすくなるというわけです。

睡眠時無呼吸症候群

胃酸が食道に上がると咳が出やすくなります(そのメカニズムについて詳しくはこちら→2025.7.7 「長引く咳」の隠れた要因 ~「胃・食道逆流」や「逆流性食道炎」で、なぜ咳は出ちゃうの?~)。

そんな時は、朝の咳、声枯れなどもよくみられます。

「夜中から朝方にかけて咳がひどい」「朝起きると喉が変」という方は、この仕組みが影響しているかもしれません。


③ 気道の免疫が落ちてしまう

睡眠時無呼吸症候群では、深い眠りがとれず、体が休まりません。

睡眠の質が落ちると、粘膜のバリア機能や免疫が弱くなり、いつもより気道が“刺激に反応しやすい”状態になります。

睡眠時無呼吸症候群

すると、感染症や冬の乾燥した空気、エアコンの風、花粉やハウスダストなど、咳を誘発しやすくなる因子に触れると、とたんに咳が悪化してしまうというわけです。


“こんなサイン”があれば無呼吸かも?

睡眠時無呼吸症候群は、なかなか気づかれにくいところが厄介です。
そんな中で、「こんな症状があったら疑ってもいいかも」という事柄を挙げてみましょう。

・家族に「呼吸が止まってたよ」と言われた
・寝ているのに、なぜか疲れが取れない
・起床時に頭が痛い
・日中ぼーっとしてしまう
・就寝中に胸やけがある
・体重が増えて、首が太くなってきた

などという方は「いびきはあまりないけど…?」という方でも、実は睡眠時無呼吸症候群だったということは珍しくないのです。

睡眠時無呼吸症候群

そして、残念ながら「睡眠時無呼吸症候群で咳が悪化する」ということは、世間のみならず、一般内科の医師の間でもほとんど知られていないのが現状です。

そのため、睡眠時無呼吸症候群が咳の原因だった場合、いろんなところでドクターショッピングを繰り返してしまい、長期にわたり解決できないケースが非常に多いのです(私の外来でも、10年以上原因不明の咳として扱われていた方が、当院で睡眠時無呼吸症候群によるものと診断し、一発でよくなった方もいらっしゃいました)。


治療で「人生」が変わることも

睡眠時無呼吸症候群は、しっかりと治療をすれば、症状をかなり改善することができます。

代表的なのはCPAP(シーパップ)という治療で、寝ているあいだに少しだけ圧をかけながら空気を送り、気道が閉じないようにします。

このCPAPの機械には加湿機能があり、これによって乾燥に弱い気道の加湿を促すことができるのです(特に乾燥する冬の季節は特に有効です)。
これによって、長いこと悩んでいた長引く咳が大きく改善することも、実は少なくないのです。

だるさ、眠気、長引く咳という、体力を余計に消耗してしまう状態を改善させることで、思った以上に“人生が軽くなる”という感覚を実感することができます。

睡眠時無呼吸症候群


長引く咳に悩んだら、一度視野を広げてみましょう

睡眠時無呼吸症候群は、「いびきの病気」、「日中の眠気、だるさ」というイメージが強いですが、実は長引く咳とも深くつながる病気です。

特に中年以降で、咳とともに
「昼間なんだかなるいなあ」とか、
「朝起きるとやたら疲れているなあ」とか
「最近体重がふえたなあ」とか
「血圧も最近なんだが高いなあ」

ということを感じている方は、一度「夜間の呼吸」を振り返ってください。

“咳の原因はのどや肺だけではないかもしれない”

そう視野を広げてみると、改善のヒントが見つかることがあります。

ぜひそんなときは、様々な角度から咳を分析できる、呼吸器専門医に頼ってみてください!

投稿者: 茅ヶ崎・平塚 内科と呼吸のクリニック 理事長 浅井偉信

2025.12.08更新

今回はご報告です。

この度、私が、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル米国版の特集記事で取り上げられました。

wall street journal

ウォール・ストリート・ジャーナルは、アメリカを代表する新聞であり、世界の政治・経済だけでなく、社会や文化、テクノロジーなど幅広い分野を取り上げる国際的メディアです。

wall street journal

アメリカ国内で最大の発行部数を誇っているということであり、しかも今回は(日本語版ではなく)本国の英語版とのことで、完全に私のような場末の医師には極めて縁遠いメディアのはずなのですが・・・

今回は“Next ERA Leaders”という、「次の時代を形づくる可能性を持つ人物」という企画に取り上げられました。
なので、「医師」という肩書ではありながらも、いつもとちょっと違う立場での掲載で、ちょっとおしりがむずむずしています・・・(笑)

今回は特に「医療とAI」「AIではできない人間の医師としての医療の形」というテーマをメインに話してきました。
記事のリンクは一番下に用意しておりますので、後ほどご覧頂くとして、今回はそこからもう少し話を拡げて「AIが、そして人間の医師が医療でできること」について、私なりの考えをお話ししてみようかなと思います。


AIの知識に人間は敵わない

AIの登場以来、AIは毎年目覚ましい進歩を遂げ、医療の現場もAIにより大きく変わろうとしています。
近い将来、AIが人間の医師を駆逐するのではといった過激な論調もあります。

確かにAIは診断には非常に役立ちます(私も最大限活用しており、ChatGPTもgeminiも有料版に入り使い分けています)。
知識の面においては、いくら医師が知識を詰め込もうとも、やはりAIによる「集団知」の前においては、到底かなうはずもありません。



診断で大事な、正しい「インプット」

「診断」という行為は、患者さんから得た症状などの情報に対して、私たち医師がその情報をもとに推測しながら答えを見つける作業です。
患者さんから情報を得ることが「インプット」となり、医師が導き出した答えが「アウトプット」ということになります。


「圧倒的な知識量」を誇るAIは、「正確な情報のインプット」に対しては、実に正確なアウトプットを出してくれます。


しかし実際は、診療の場では、患者さんから正確なその「インプット」情報を導くことが、実は非常に難しいのです。



正しい「インプット」って、意外に難しい・・・

実際の診察では、患者さんが「何がわからないのかわからない」といった場面に、よく出くわします。

例えば、診察を始めた時に、患者さんは「自分が重要だと思っていること」をお話しになります。
しかし、私たち医師は、診断の見当をつけるために、患者さんとは違った視点で見ていくことが少なくありません。

患者さん自身が「まさか重要だとは思っていなかった」診断に不可欠なエピソードを、話を進める中ではじめて聞き出すことができることもあります。
そして、それが診断に決定的な影響を与えることもあるのです。


しかし、相手がAIだと、それらの情報はすべて患者さん自身が打ち込まないとなりません。
今の時点では、AIは、患者さんの表情や、話し方から見える性格などを参考にすることはできません。

すると、そこで導き出されたアウトプットがずれてしまうということが起き得るわけです。
加えて、その目の前にある答えが、ずれているかそうでないのか、患者さん側からは、それを判断することも難しく、「ブラックボックス」の状態ともいえる訳です。


つまり、その「インプット」を正確に聞き出す、ということが、私たち人間の医師の存在価値なのだと思うのです。



「治療方針」と「キャラクター」

また、ある病気に対して治療法がある場合、「その治療法が患者さんのキャラクターに合っているか」どうかというのも、治療を継続してそのメリットを患者さんが漏れなく享受するにはとても大事なことです。


例えば、喘息の治療をする場合、吸入薬を使いますが、吸入薬にはそれぞれメリットとデメリットがあります。

1日1回で済む吸入薬、調子の悪いときに追加で使用できる吸入薬、吸ったことを確認しやすい吸入薬、声がれの出にくい吸入薬・・・

人によってどれを重視すべきかは様々です。
その方の考え方、性格、職業、生活リズムなどなどによっても最適な吸入薬は変わるわけであり、最適な薬を選ぶことができるのは、その方の特性の理解が欠かせないのです。

私たち医師は、そんな患者さんのキャラクターまで見て、治療を考えているのです。


「答えがない」問題に答える

また、医学にはまだはっきりとはわからないことも少なくありません。
データだけでは見えないものというのも、確実にあります。

特に呼吸器分野は、症状がデータで測れないことが非常に多いのが特徴でもあります。
咳の代表的な原因である喘息は、採血やレントゲンでは異常が見られないのが普通ですし、喘息の診断に有効な呼気一酸化窒素試験でも数字が上がってこない喘息は山ほどあります。

データとして何も出ていなくても、実際症状がある場合、診断は困難を極めます。
こんな時、やはり医師としての経験に基づく「直感」が診断に結び付くことも、まだまだあるものなのです。

私もどうしても診断に迷ったときにチャッピー(→chatGPTのことね)に聞いてみることもあるのですが、結局自分の直感と合わないなって感じた場合、結果的にはAIの診断より自分の直感が当たっていたということの方が多いものです。


それに医学は「必ず答えがある」学問ではありません。

数年前まではどうにも治療できなかった「難治性の咳」の原因も、そのメカニズムがこの数年で解き明かされました。
でもおそらく、まだわかっていない咳の原因も、おそらくはまだたくさん残っています。

そのような「答えのない」状況でも、人間の医師はより患者さんにとって「ベター」な状態を目指して、患者さんと相談しながら方針を立てていきます。

そのような「マニュアル」的な対応は、まだAIには難しいところでしょう。


人間の医師しかできないこと

現時点のAIは、やはり典型的ではないインプットに答えられるだけの臨床推理はまだ難しいのなと思っています(あくまで「世間に公表されている集合知のまとめ」というそのAIの性格上、それは仕方がないことなんじゃないかと思っています)。


やはり、そこをカバーする「人と人の関係」が、正しい診断にはとても大事だったんだということを、これだけ進化した今の時代のAIを使って思いました。

そうした“人と人との間に生まれる気づき”は、どれほどAIが進歩しても廃れるものではないものだと日々感じています。

逆に言えば、今後そのような関係性を築こうとしない医師は、AIに取って代わられる存在となりうるわけです。
そのような医師は、そう遠くない未来に、AIに駆逐されてしまうのでしょう。

私たちは常にそのことを肝に銘じておかなければならないと思っています。



「平塚」でも大切にしたいこと

当院はこれまでも、気軽に立ち寄って、話していきたいと思っていただける雰囲気を大切にしてきました。

「こんなことで来ていいのかな」と迷われている方にも、気兼ねなく来ていただけるクリニックでありたいと、ずっと思っています(そういいながらも予約が取りづらくなってしまっていることが大変心苦しいのですが・・・)。

今回の平塚の新クリニックの設立も、そのようなコンセプトをより広げ、より多くの方に頼ってほしいとの思いで動き出したプロジェクトです。


そのような中で、患者さんとの濃密なやりとりを通して問題を解決するという姿勢が幸いにも周りに伝わっていたことが、ひょっとしたら今回の紹介につながったのかな、なんて考えています。


人とAIが「最高のコラボ」をするために

AIなどの新しい技術は、医療に限らず、社会のいろいろな面を支えてくれる大切な存在になるでしょう。

ただ、それを一番メリットの大きい形で使いこなすのは、やはり人の役割、人と人とのコミュニケーションなのだと思います。

技術だけでも、人の気持ちだけでも十分ではなく、その二つがうまくコラボレーションすると、最も良いものが生まれる ーーー

それの最たる分野が医療だと思っています。


記事はこちらからどうぞ ↓↓
ウォール・ストリート・ジャーナル
ただし英語版となりますので、日本語訳も用意して頂きました。


日本語訳はこちらからどうぞ!

投稿者: 茅ヶ崎・平塚 内科と呼吸のクリニック 理事長 浅井偉信

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