今回はご報告です。
この度、私が、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル米国版の特集記事で取り上げられました。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、アメリカを代表する新聞であり、世界の政治・経済だけでなく、社会や文化、テクノロジーなど幅広い分野を取り上げる国際的メディアです。
アメリカ国内で最大の発行部数を誇っているということであり、しかも今回は(日本語版ではなく)本国の英語版とのことで、完全に私のような場末の医師には極めて縁遠いメディアのはずなのですが・・・
今回は“Next ERA Leaders”という、「次の時代を形づくる可能性を持つ人物」という企画に取り上げられました。
なので、「医師」という肩書ではありながらも、いつもとちょっと違う立場での掲載で、ちょっとおしりがむずむずしています・・・(笑)
今回は特に「医療とAI」「AIではできない人間の医師としての医療の形」を主に考えを話してきました。
AIの登場以来、AIは毎年目覚ましい進歩を遂げ、医療の現場もAIにより大きく変わろうとしています。
近い将来、AIが人間の医師を駆逐するのではといった過激な論調もあります。
確かにAIは診断には非常に役立ちます(私も最大限活用しており、ChatGPTもgeminiも有料版に入り使い分けています)。
いくら医師が知識を詰め込もうとも、やはりAIによる「集団知」の前においては、到底かなうはずもありません。
そのような性質を持つAIは、「正確な情報のインプット」に対しては正確にアウトプットを出してくれます。
しかし、実際そのインプットを患者さんが正確にできることは、実は非常に難しいのです。
実際の診察では、患者さんが「何がわからないのかわからない」といった場面に、よく出くわします。
そのため、不十分なインプットの結果出てきたアウトプットが、本当にその方に対して正しい判断を下しているのか、はたまたインプットのずれの影響で、答えもずれてしまっているのか。
そのことを判断するのは、医学的知識をもっていない一般の方にはとても困難なことなのです(一般の方が医療分野でAIを使用する際に、このことを知っておくことはとても大事なことです)。
そして、その「インプット」を正確に聞き出す、ということが、私たち人間の医師の存在価値なのだと思うのです。
例えば、実際の診察では、最初は控えめに話していた方が、ふっと本音を話してくださる瞬間があります。
その一言で、治療の方向性が大きく変わることもありますし、長く続いていた不調の理由が見えてくることもあります。
また、ある病気に対して治療法がある場合、「その治療法が本人に合っているか」どうかというのも、治療を継続してそのメリットを患者さんが漏れなく享受するにはとても大事なことです。
教科書的には合っている治療法も、その方の生活や置かれている状況、性格にあわなければ、長く続けることはできません。
私たち医師は(まともであれば)、そんな患者さんの状況、内面まで見て、治療を考えているのです。
また、医学にはまだはっきりとはわからないことも少なくありません。
データだけでは見えないものというのも、確実にあります。
特に呼吸器分野は、症状がデータで測れないことが非常に多いのが特徴でもあります(咳の代表的な原因である喘息は、採血やレントゲンでは異常が見られないのが普通ですし、喘息の診断に有効な呼気一酸化窒素試験でも数字が上がってこない喘息は山ほどあります)。
こんな時、やはり医師としての経験に基づく「直感」が診断に結び付くことも、まだまだあります。
私もどうしても診断に迷ったときにチャッピー(→chatGPTのことね)に聞いてみることもあるのですが、結局自分の直感と合わないなって感じた場合、結果的にはAIの診断より自分の直感が当たっていたということの方が多いものです。
現時点のAIは、やはり典型的ではないインプットに答えられるだけの臨床推理はまだ難しいのなと思っています(あくまで「世間に公表されている集合知のまとめ」というそのAIの性格上、それは仕方がないことなんじゃないかと思っています)。
やはり、そこをカバーする「人と人の関係」が、正しい診断にはとても大事だったということを、これだけ進化した今の時代のAIを使って思いました。
そうした“人と人との間に生まれる気づき”は、どれほどAIが進歩しても代わりにはならないんだなあと日々感じています。
当院はこれまでも、気軽に立ち寄って、話していきたいと思っていただける雰囲気を大切にしてきました。
「こんなことで来ていいのかな」と迷われている方にも、気兼ねなく来ていただけるクリニックでありたいと、ずっと思っています(そういいながらも予約が取りづらくなってしまっていることが大変心苦しいのですが・・・)。
今回の平塚の新クリニックの設立も、そのようなコンセプトをより広げ、より多くの方に頼ってほしいとの思いで動き出したプロジェクトです。
そのような中で、患者さんとの濃密なやりとりを通して問題を解決するという姿勢が幸いにも周りに伝わっていたことが、ひょっとしたら今回の紹介につながったのかな、なんて考えています。
AIなどの新しい技術は、医療に限らず、社会のいろいろな面を支えてくれる大切な存在になるでしょう。
ただ、それを一番メリットの大きい形で使いこなすのは、やはり人の役割、人と人とのコミュニケーションです。
技術だけでも、人の気持ちだけでも十分ではなく、その二つがうまく寄り添うと、最も良いものが生まれる。
それの最たる分野が医療だと思っています。









