医師ブログ

2025.10.03更新

さて、前回はインフルエンザワクチンを接種したい時期についてお書きしました。

神奈川県も昨日、1医療機関当たりの週の感染者数が流行開始の目安となる1.0人を超え、1.24人に達しました。
前回のブログでもお書きしたように、かなり速いペースで流行がはじまってしまっているようです。

そんな中、今回はその時の予告の続編、今年から当院でも取り扱いを始める、鼻にスプレーするタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト」について、お話ししてみようと思います。


フルミストとは?開発の経緯と仕組み

フルミストは「生ワクチン」に分類されます。
生ワクチンは、インフルエンザウイルスを使用しますが、とはいっても病気そのものを引き起こすのではなく、病原性を弱くして、実際に症状が出ない「ワクチン仕様」に改良されたインフルエンザウイルスにして使います。

これを鼻の奥にスプレーすると、ウイルスは上気道の粘膜でほんの少しだけ増えます。
その結果、そのウイルスを追い出そうと体は免疫反応を示します。
その免疫反応によって、身体にインフルエンザの「抗体」が出来上がり、本物のインフルエンザウイルスが入って来たときに、すでに作ってあった抗体がウイルスを排除してくれるという仕組みです。
そして、鼻からスプレーするフルミストは、鼻やのどの粘膜でインフルエンザを食い止める「粘膜免疫」として働くという特徴をもっているのです。

このワクチンはアメリカで先に開発され、2000年代から広く使われてきました。WHO(世界保健機関)や米国CDCも「注射ワクチンと並ぶ選択肢」として位置づけています。


効果はどのくらいあるの?

「新しいけど本当に効くの?」と心配になる方も多いと思います。

実際の研究をみると、年や流行したウイルスの型によって効果の強さに多少のばらつきがあります。
過去にはH1N1型のシーズンで効果が弱かった時期もありましたが、その後株の改良が行われています。

最近のメタ解析(複数研究をまとめた分析)では、フルミストの有効率は 61.9%に対し、注射ワクチンは 45.7%。フルミストに軍配が挙がったという報告があります。

ただ別の研究では逆に注射の方がやや効果が高かったという報告もあり、完全に「フルミストが圧勝」とまでは言えません。

総合すると、フルミストと注射の効果はそれほど変わりはないのでは、と考えてよいのかなと思います。


メリットは?

フルミストの最大のメリットは、注射をしなくていいことです。

お子さんで「注射が怖いからワクチンは嫌!」というケースは少なくありません。
フルミストなら鼻にスプレーするだけなので、心理的ハードルがぐっと下がります。

さらに、先ほどお話しした「粘膜免疫」が働くというのもメリットです。
インフルエンザは通常、鼻やのどの粘膜から体内に侵入しますが、「粘膜免疫」が働いている状態では、その侵入経路の入り口である粘膜に多くの抗体があります。
「門番」として抗体が力強く働くことで、感染そのものを防ぐ力も期待でき、保育園や学校など人との接触が多い場面では理にかなった方法ともいえます。


どんなふうに打つの?

1回あたり片鼻0.1mLずつをスプレーします。スプレーした時に鼻からゆっくりと吸い込んでもらいます。

対象年齢は 2歳から18歳までですが、当院では6歳以上の方を対象とさせて頂きます(いかんせん、小さい子の扱いは医師、看護師ともに慣れていないクリニックですので、お子さんにご迷惑をおかけしたくなくって・・・)。

鼻水があるようなら、打つ前にしっかり鼻をかんでおくことが重要です(鼻水だらけだとうまくワクチンが吸収されません)

また接種当日の入浴・洗顔は可能ですが、接種した鼻や顔を直接こするような洗浄は避けてください。また激しく鼻をかむのも避けたほうがいいです。
副作用と注意点

鼻水、鼻づまり、くしゃみ、のどの痛みなど、風邪のような軽い症状がたまに起きることがあります(ウイルスが多少増えるときに、ごく軽く反応するためです)。

軽い発熱やだるさが出ることもありますが、数日で自然に治まることがほとんどです。

ただし注意が必要な方もいます。
症状がたびたび出るなど、症状の重い喘息の方は、喘息が悪化する可能性があるため避けたほうが無難です(症状がしっかり抑えられていれば心配はいりません。というかしっかり症状を抑える治療ができていることがそもそも大事です)。

弱毒ウイルスとはいえ生ワクチンなので、それに打ち勝てない可能性のある、免疫不全の病気をお持ちの方、免疫を抑える治療を継続的に行っている方も、避けたほうがいいでしょう。

こうした場合はフルミストは使わず、従来型の注射ワクチンを選んだほうが安全です。

また、接種後はしばらくの間、鼻やのどから弱いウイルスが排出されることがあります。
そのため、免疫不全の病気のある家族と一緒に暮らしている場合には注意が必要です。


どんな人におすすめ?

フルミストをおすすめしたいのは、

注射が怖くて接種をためらってしまうお子さん
保育園や学校など、感染のリスクが高い集団生活をしているお子さん
1回で接種を終わらせたいお子さん

といったところです。


まとめ

フルミストは「痛くないインフルエンザワクチン」として、新しい選択肢を提供してくれる存在です。
効果も注射のワクチンと遜色なく、特に「注射が嫌で接種を避けてしまう」ケースでは大きな意味を持ちます。

ただし、生ワクチンならではの注意点もあるため、接種するかどうか迷ったときには、ぜひ医師と相談し、自分やご家族の状況に合った方法を選んでください。


とにかく何より大切なのは、「毎年きちんと接種すること」。
注射でもフルミストでも、続けることが最大の予防につながります。
流行が始まりつつある今、皆さんとご家族、周りの方のため、お早めの行動をお願いします!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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