医師ブログ

2025.10.16更新

永遠に続くと思われたクソ暑い夏もようやく終焉を迎え、朝晩はだいぶ涼しくなってきましたね。
夜にエアコンがいらない生活は、本当にホッとします。

しかし・・・!

呼吸器、アレルギーを専門とする当院では、この10月以降から、調子を崩す患者さんが増えて、新患の方や、予定外の受診を希望されるかかりつけの方で急激に予約が埋まってしまうのが毎年この時期の風物詩です・・・。
(ただし、今年は医師が増えたことにより昨年よりもだいぶ枠に余裕ができたことで、新患の方や予約外受診の方の受け入れが幸い比較的スムーズにいっています。よかった・・・)

秋にアレルギーが悪化する理由はいくつかあります。

例えば秋の花粉ブタクサなどイネ科の雑草など)、気温の低下、それに台風の襲来など・・・


しかし、一番大きな原因でありながらもあまり知られていない、秋のアレルギーの主役がいるのです。


それが「ダニ」です。

(ちなみに「ハウスダスト」とは文字通り、家のホコリのことで、ダニだけではなくヒトの皮屑、衣類の繊維、カビ、花粉、細菌なども全て含みますが、一番含有量が多いのがダニ抗原で、結局はダニとほとんど同じ結果が出るため、ほぼ同じものとして捉えてしまってもよいと思います。)

ダニアレルギーは、アレルギー性鼻炎や結膜炎、アトピー性皮膚炎、それに気管支喘息の原因としてよく知られていますが、実はその症状のピークは、意外なことに夏ではなく、今、この秋なのです。


でもダニって一年中いるし、むしろ暑くなる夏に増えそうな気もしませんか・・・?

そんな疑問にもお答えするべく、今回は、「ダニアレルギーのピークが秋である」その理由と対処法を、医学的な視点から紐解いてみたいと思います。

 

夏の「繁殖期」が秋の「ピーク」を生む

ダニの代表種である「ヒョウヒダニ」は、気温25〜30℃、湿度60〜80%という高温多湿な環境を好みます。

つまり、日本の夏はダニにとって最適な繁殖環境です。
特に寝具や布団、カーペット、ソファなど、ダニが一旦絡まったら飛んでいかないような場所では、ダニが急速に増殖してしまいます。

研究によれば、7〜8月にかけて家の中のダニの数は一番増え、1平方メートルあたり数千匹にも達することがあるのです(環境アレルゲン学会報告 2018)


ところが、9月以降、気温と湿度が下がるとダニは急速に死んでしまいます。
つまり「ダニの死滅期」を迎えるわけです。

ここに重要な点があります。

実は、様々なアレルギー症状を引きおこす最も強力なアレルゲンは、このような死んだダニの死骸やフンなのです。


アレルゲンとしての「死骸」と「フン」

ダニの体内には、アレルギーの原因、つまりアレルゲンとなるタンパク質が含まれています。
これらはダニの消化酵素の一種で、体の中やフンに多く存在します。

秋になるとダニは死んでしまって死骸になるのですが、死骸になると乾燥して軽くなります。

乾燥したダニの死骸、ダニのフンは簡単に砕けてしまうので、舞い上がるのは、実はダニの死骸のかけら、フンが粉状に分解したものなのです。

ダニの体の大きさは0.3mmくらいで、この大きさだと鼻毛に引っかかり気道には入らないのですが、砕けたダニの死骸やフンは0.01~0.04mm程度と非常に小さくなってしまい、しかも軽くなって空気中に漂うため、容易に吸い込んで気道に入り込んでしまいます。

そうして吸い込むと、その破片に含まれたアレルゲンが気道や鼻粘膜で免疫反応を引き起こし、「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」いった、アレルギーの炎症を強く起こす物質を放出させることで、鼻炎や喘息症状が出現してしまうのです。


つまり、「生きたダニ」ではなく「ダニの死骸とフンが乾燥して細かくなったもの」がアレルギー反応を引き起こしているというわけです。

そして、9〜11月は、夏の繁殖期で増えたダニの大量死が重なりなることで、これらのアレルゲン量が年間で最も高くなるため、「ダニアレルギーのトップシーズン」と呼ばれるわけです(日本アレルギー学会誌, 2016)


「乾燥」と「環境の変化」が後押しする

ダニが死滅期を迎えることが、秋にピークを迎える理由ですが、他にも秋特有の環境が、その「あと押し」になります。

まずは秋になると外気が乾燥し、ダニの死骸やフンの乾燥をより進めてしまいます。

また徐々に寒くなってくると窓を開ける機会も減り、換気量が少なくなるので、室内のハウスダストが滞留しやすくなります。

このような物理的環境の変化も、アレルゲンの濃度上昇をさらに助長してしまいます。


ヒトのカラダも秋に変化が

また、秋は一日や日ごとの寒暖差が大きくなり、特に気温低下が気道に刺激を与えます。

加えてその温度差、秋雨前線や台風の襲来が、自律神経のバランスに崩れをもたらし、鼻や気道粘膜の防御機能が低下しやすくなってしまいます。

粘膜バリアが弱ることで、少量のアレルゲンでも炎症反応が起こりやすくなってしまい、結果的にアレルギー症状が強く起きてしまうとも考えられています。


また免疫の観点からも、秋にアレルギー反応が強まりやすい理由があります。

人間のカラダは、アレルギーを引き起こす物質にさらされ続けていると、「感作」という現象によって、よりアレルギー症状が起きやすくなります。

夏の間に増えたダニに体が曝露され続けると、免疫系が「感作」されやすくなり、「ダニ成分に対して過敏に反応する体質」になりやすくなるます。

そして、その状態で秋を迎えると、死骸やフンといったアレルゲンを吸い込んだ際に即座に免疫反応が起こり、アレルギー症状が強く起こってしまうという訳です。

つまり秋は、アレルギー反応を起こしやすいように「準備されたカラダ」が、大量のダニアレルゲンに一気に反応してしまいやすい季節と言えるのです。


住環境も原因です

また、ダニアレルギーは近年ますます増えているとも言われています。

現代の住宅環境は気密性が高く、室内のアレルゲンがそのまま留まってしまいやすい環境です。
またカーペットやラグ、ぬいぐるみなど、ダニの好きな場所も以前より多い家が多く、ダニアレルギーを吸ってしまうリスクが増していると言われています。


まずはしっかり掃除を!

では対策に話を移しましょう。

秋のアレルギー、つまり「ダニアレルギー」に対する一番の対策は、その「ダニの死骸、フンを取り除くこと」です。

具体的には以下のことに気をつけて掃除しましょう。

 ①寝具をきれいに

布団や枕は、ダニの温床です。
週1回の天日干しや、布団乾燥機の使用が効果的です。
さらに、布団カバー、枕カバーも定期的に洗濯するようにしましょう。

 ➁掃除機は「ゆっくり」「こまめに」

ハウスダストは軽いため、すぐに舞い上がってしまいます。
掃除機をかける際は、ゆっくりと時間をかけて吸引しましょう。

また、物の影や部屋の角の床は、手が届きにくい場所です。
物をなるべく床におかないようにしましょう。

 ③カーペット・ソファの見直し

布製のカーペットやクッションにもダニが繁殖しやすいです。
まずは出来る限り掃除しますが、可能であればフローリングやレザー素材への切り替えも検討を。

 ④カーペットだけではなく、フローリングにも注意!

フローリングはダニの隠れる場所がなく、ダニが増えにくい環境です。
ただその分、ホコリが動きやすく、容易に舞い上がりやすい環境でもあります。

フローリングの掃除も定期的に行いましょう。

 ⑤空気清浄機の活用

HEPAフィルターを搭載した空気清浄機は、ダニアレルゲンやホコリを効率的に除去できます。
特に寝室に設置することで、夜間の吸入を減らせます。


治療も先読みを!

とはいえど、100%アレルゲンを除去することは不可能です。
現実的にはある程度のダニアレルゲンと共存する必要があります。

アレルギーの治療は「天秤」「綱引き」の関係とも言われます。

「その人が症状を起こすアレルギーの環境」を「治療の強度」が上回っていれば、症状をしっかりと抑えることは可能です。


また、アレルギーに限らず、炎症は起きた炎症を抑えるより、炎症が起こらないようにすることの方がずっとエネルギーが小さくて済みます。

悪化する季節を予想して、先回りして治療を行うことが非常に効果的なのです。

秋のこの時期に向け、あらかじめ抗アレルギー薬を飲み始めたり、ステロイド点鼻薬、アレルギー点眼薬などを準備しておき、悪化時にはすぐに開始できるようにしておくことも、重要な対策の一つです。

また、副作用を我慢しながら治療を続ける、困っている症状があまりよくならない、薬の飲み方が自分の生活リズムには合わないなどということが起きると、治療を続ける事は難しくなり、結局シーズン中に症状をコントロールすることができません。

シーズンの間、無理なく治療を続けていくために、自分に合った薬をしっかり選ぶということも大事です。

また気管支喘息の方で、秋に症状が悪化しやすい方に関しても、悪化しやすい時期に向けて、あらかじめ吸入薬の強さを上げたりする「事前の調整」を行うことが有用です。

とはいえ、いつ頃から、どの程度の治療を始め、どの程度治療を上げ、どこで戻していくかといった細かい「さじ加減」は、なかなか自分の判断では難しいところです。


やはりその方に一番合った「オーダーメード」の治療を行うには、その方のバックグラウンドや、その年のアレルギー状況の傾向を熟知している呼吸器専門医、アレルギー専門医に任せて頂きたいと思います。


舌下免疫療法による根本治療

ダニアレルギーは、スギ花粉症と並んで、舌下免疫療法が保険適用で行える疾患の一つです。

舌下免疫療法とは、そのアレルゲンエキスを毎日少量ずつ舌の下に投与し、体を少しずつアレルゲンに慣らしていくことで、長期的にアレルギー反応を弱める体質を作る治療法です。

効果が出るまで時間はかかりますが、継続することで根本的な体質改善が期待でき、秋のピーク時でも症状が軽くなっていくため、是非考えて頂きたい治療です。



正しい知識と適切な対策で、快適な秋を!

秋は過ごしやすい季節である一方、ダニアレルギーを持つ人にとっては症状が悪化しやすい「要注意の季節」です。

でもその背景を正しく知り、対策を取ることによって、しっかりと症状をコントロールすることができます。

しっかりとその対処法を知り、必要時には私たちプロに頼って、気持ちいい秋を過ごしましょう!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2025.10.03更新

さて、前回はインフルエンザワクチンを接種したい時期についてお書きしました。

神奈川県も昨日、1医療機関当たりの週の感染者数が流行開始の目安となる1.0人を超え、1.24人に達しました。
前回のブログでもお書きしたように、かなり速いペースで流行がはじまってしまっているようです。

そんな中、今回はその時の予告の続編、今年から当院でも取り扱いを始める、鼻にスプレーするタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト」について、お話ししてみようと思います。


フルミストとは?開発の経緯と仕組み

フルミストは「生ワクチン」に分類されます。
生ワクチンは、インフルエンザウイルスそのものを使用しますが、とはいっても病気そのものを引き起こすのではなく、病原性を弱くして、実際に症状が出ない「ワクチン仕様」に改良されたインフルエンザウイルスにして使います。

弱毒ウイルス

これを鼻の奥にスプレーすると、ウイルスは上気道の粘膜でほんの少しだけ増えます。
その結果、そのウイルスを追い出そうと体は免疫反応を示します。

抗体反応

その免疫反応によって、身体にインフルエンザの「抗体」が出来上がり、本物のインフルエンザウイルスが入って来たときに、すでに作ってあった抗体がウイルスを排除してくれるという仕組みです。
そして、鼻からスプレーして、鼻の粘膜から吸収されるフルミストは、鼻やのどの粘膜で抗体を作ってインフルエンザを食い止める「粘膜免疫」として働くという特徴をもっており(後でお話しをするように)この部分がちょっと有利な一面をもっているのです。

このワクチンはアメリカで先に開発され、2000年代から広く使われてきました。
WHO(世界保健機関)や米国CDCも「注射ワクチンと並ぶ選択肢」として位置づけています。


効果はどのくらいあるの?

「新しいけど本当に効くの?」と心配になる方も多いと思います。

実際の研究をみると、年や流行したウイルスの型によって効果の強さに多少のばらつきがあります。
過去にはH1N1型のシーズンで効果が弱かった時期もありましたが、その後株の改良が行われており、その後の研究では既存のワクチンと遜色ないものとなっています。

最近のメタ解析(複数研究をまとめた分析)では、フルミストの有効率は 61.9%に対し、注射ワクチンは 45.7%
フルミストに軍配が挙がったという報告があります。

ただ別の研究では逆に注射の方がやや効果が高かったという報告もあり、完全に「フルミストが圧勝」とまでは言えません。

総合すると、フルミストと注射の効果はそれほど変わりはないのでは、と考えてよいのかなと思います。


メリットは?

フルミストの最大のメリットは、注射をしなくていいことです。
注射じゃない

お子さんで「注射が怖いからワクチンは嫌!」というケースは少なくありません。
でも、フルミストなら鼻にスプレーするだけなので、心理的ハードルがぐっと下がります。

さらに、先ほどお話しした「粘膜免疫」が働くというのもメリットです。
インフルエンザは通常、鼻やのどの粘膜から体内に侵入しますが、「粘膜免疫」が働いている状態では、その侵入経路の入り口である粘膜に多くの抗体があります。
「門番」として抗体が力強く働くことで、感染そのものを防ぐ力も期待でき、保育園や学校など人との接触が多い場面では理にかなった方法ともいえます。


どんなふうに打つの?

片鼻に1回ずつ、両鼻にスプレーします。
スプレーした時に鼻からゆっくりと吸い込んでもらいます。

フルミスト

対象年齢は 2歳から18歳までですが、当院では6歳以上の方を対象とさせて頂きます(いかんせん、小さい子の扱いは医師、看護師ともに慣れていないクリニックですので、お子さんにご迷惑をおかけしたくなくって・・・)。

鼻水があるようなら、打つ前にしっかり鼻をかんでおくことが重要です(鼻水だらけだとうまくワクチンが吸収されません)

鼻をかむ

また接種当日の入浴・洗顔は可能ですが、接種した鼻や顔を直接こするような洗浄は避けてください。
また激しく鼻をかむのも避けたほうがいいです。


鼻水、鼻づまり、くしゃみ、のどの痛みなど、風邪のような軽い症状がたまに起きることがあります(ウイルスが多少増えるときに、ごく軽く反応するためです)。

軽い発熱やだるさが出ることもありますが、数日で自然に治まることがほとんどです。

ただし注意が必要な方もいます。
症状がたびたび出るなど、症状の重い喘息の方は、喘息が悪化する可能性があるため避けたほうが無難です(症状がしっかり抑えられていれば心配はいりません。というかしっかり症状を抑える治療ができていることがそもそも大事です)。

喘息発作

弱毒ウイルスとはいえ生ワクチンなので、それに打ち勝てない可能性のある、免疫不全の病気をお持ちの方、免疫を抑える治療を継続的に行っている方も、避けたほうがいいでしょう。

こうした場合はフルミストは使わず、従来型の注射ワクチンを選んだほうが安全です。

また、接種後はしばらくの間、鼻やのどから弱いウイルスが排出されることがあります。
そのため、免疫不全の病気のある家族と一緒に暮らしている場合には注意が必要です。


どんな人におすすめ?

フルミストをおすすめしたいのは、

注射が怖くて接種をためらってしまうお子さん
注射嫌い

保育園や学校など、感染のリスクが高い集団生活をしているお子さん
集団生活

1回で接種を終わらせたいお子さん
フルミスト

といったところです。


まとめ

フルミストは「痛くないインフルエンザワクチン」として、新しい選択肢を提供してくれる存在です。
効果も注射のワクチンと遜色なく、特に「注射が嫌で接種を避けてしまう」ケースでは大きな意味を持ちます。

ただし、生ワクチンならではの注意点もあるため、接種するかどうか迷ったときには、ぜひ医師と相談し、自分やご家族の状況に合った方法を選んでください。


とにかく何より大切なのは、「毎年きちんと接種すること」
注射でもフルミストでも、続けることが最大の予防につながります。

流行が始まりつつある今、皆さんとご家族、周りの方のため、お早めの行動をお願いします!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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