医師ブログ

2020.08.04更新

今日の午後、いつものように診療をおこなっていたところ、数名の患者さんから「イソジンってコロナに効くんですか?」という質問を立て続けにお受けしました。
そんな話は聞いたこともなかったので、頭の中が「???」となりました。
でも何故にみなさん聞く??

後になりニュースを見て納得。
どうも大阪府の吉村知事が「ポピヨンヨードによるうがいがコロナのPCR陽性率を減らす。ポピヨンヨードによるうがいを励行する」といった内容の記者会見を行ったようです。

診療終了後家に帰り、その会見を詳しく見てみました。
曰く、“コロナ陽性の軽症患者さんにポピヨンヨードで1日4回うがいをしたところ、うがい前の唾液で行ったPCRで陽性率が40%から9%に大幅に減った。もしかしたら重症化も抑えられる「かもしれない」のではないか“とのこと。

私が最初に思ったこと。「そりゃ陽性率は減るだろうね。んで?」

ポピヨンヨードは抗微生物作用があります。抗ウイルス効果もおそらくはあるでしょう。
今回は唾液でPCRを行った研究とのことで、うがいにより口腔内のウイルス量は減る可能性があることは十分にありえるとは思います。その結果PCRも陰性になりやすくはなるでしょう。

ただし、これが何を意味しているかということを冷静に考える必要があります。

前回のブログでも書いたように、ウイルス感染症は基本的には全身感染症です。
鼻や気道、口、もしくは目などの粘膜から細胞内に侵入し、そこから全身に広がっていきます。
ですので、症状はもともとの侵入経路の部位だけでなく、全身倦怠感、関節痛、肺炎など全身に、多種多様にわたることが多いのです。

ですので、うがいにより口の中のウイルス量は減るかもしれませんが、全身のウイルス量が減ることとは当然イコールになりません。

また例え全身のウイルス量が減ったとしても、それが病気の予後を改善するとイコールであるとの確証も全くありません(今回はうがいにより重症患者が減ったという研究結果ではなく、重症化予防との因果関係はまだ何もわかっていません)。

ここまでで、現時点で言えることは

・イソジンは、軽症コロナ患者の唾液によるPCRの陰性化を促すことはできるかもしれない
・イソジンが、コロナの重症化を抑える根拠は何もない

ということです。

次に、今回の会見では「飛沫感染の頻度の低下の可能性」についても述べられていました。

感染者に関しては、確かに唾液内のウイルス量が減ることで「他者へ感染させる危険性」が減る可能性はあるかもしれません(しかしこれもあくまで推論です。裏付けるデータは何も出ていません)。
ただ、うがいをすることにより、「他者からの感染の可能性」を減らせるかということに関しては、今回の情報からは何もわかりません(というよりも何も検討されていません)。
また、ポピドンヨードのうがいによる感染予防に関しては、いままで否定的なデータも出ています。
水によるうがいに比べて、ポピドンヨードによるうがいでは風邪を防ぐことができなかったというデータがあります。Am J Prev Med 2005;29(4)

口の中は常に細菌が大量にいます。
これらはすべてが有害ではなく、無害な菌も多いのです。体の中はこのような場所が多くあり、有害な菌、無害な菌がバランスよく存在することで均衡を保ち(これを正常細菌叢「せいじょうさいきんそう」といいます)、粘膜の防御機能を保っています。
ポピドンヨードはこれらを一気に排除します。
一時的には菌もウイルスも減るでしょうが、そのような環境では正常な粘膜の抵抗力が失われてしまうケースがあり、これがむしろウイルスの侵入経路となってしまう可能性があるのです。
殺菌、殺ウイルス効果が、粘膜機能低下よりも強く出るとは示せなかったというのが、この試験の結果だったということになるわけです(今回の会見で知事が「決してうがいは害になるものではない」と何度も言及していましたが、必ずしもそうとは限らない、ということですね)。

ここから考えると、

・イソジンは、他者への感染を減らす効果はあるかもしれないが、まだわからない
・イソジンは、感染予防効果があるかどうかは全くわからない(むしろ不利になる可能性も否定できない)

ということが言えると思います。

あわせて、気を付けなければならないのが、このうがい薬を使わないほうがいい人もいることです。
まずは甲状腺機能低下症の方。この状態の方は、ヨードの過剰摂取でホルモン産生が減ってしまい、症状を悪化する可能性があります。
また妊娠中の方も、ヨードを過剰摂取することにより、ヨードが胎児に移行することで赤ちゃんの甲状腺機能低下症をおこし得るため、頻繁には使用しないほうがいいでしょう。
これについても触れられている報道はほとんどなかったため、該当する方は注意が必要です。

・イソジンは甲状腺機能低下症の方、妊娠中の方はあまり使用しないほうがいい

というのも押さえておきましょう。

会見を全て見ると、同席した医師により、これらのうちいくつかは言及されているようです。
ただほとんどの報道は(時間、紙面の制約もあるのでしょうが)これらを全てカットしており、かなりミスリードされやすい状況であったことは否めないかと思います。実際ドラッグストアでは、報道の数時間後にはすでに売り切れていたようですし、当院でも夕方に薬局から「ポピドンヨードの仕入れができなくなり、新たに仕入れるメドも立たない」との連絡が来ています。コロナに関係なく普段から使用している患者さんの処方箋も受けられなくなってしまったとのことです(というわけで当院でもしばらくは出せないかと思われますのでご了承ください)。
今後研究が進み、さらにいろいろなことが分かると、もしかしたら新型コロナ蔓延抑制の突破口になるのかもしれません。是非そうなってほしいのですが、この段階でのこの形式の発表は、社会の影響を考えると(知事のはやる気持ちはわかるのですが)やはりやや不用意、拙速であったかもしれません。

コロナ禍で様々な報道が飛び交う昨今、皆さんも、あらゆる報道に振り回されることなく、常に一つ一つの情報が信頼に足るものかを考えて、行動していただけるとうれしいです。

投稿者: 加藤医院 院長 浅井偉信

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