医師ブログ

2020.05.11更新

おかげさまで、最近はこのブログを全国の多くの方にご覧頂いているようで、さまざまなご意見、ご感想を頂くようになってきました。
多少なりとも皆さんの疑問や不安の解消の一助になっているとのお応えを多くいただいており、ありがたい限りです。今後も診療の合間に、できる範囲でわかりやすい情報発信を続けていきたいと思います。


ただこのブログの記事が引用されている某掲示板などでは、やや誤った解釈などもされてしまったようでもあり、今回はそのことについて触れようかと思います。
3月29日の記事 →「新型コロナウイルスによる肺炎とは?他の肺炎と何が違うの?」が引用されている書き込みで、この肺炎が間質に起こりやすいだろうということを書きましたが、「間質性肺炎は致死率100%の病気である」などという記載が付け加えられてしまっている記事が散見されています。
確かに「間質性肺疾患」というのは非常に複雑でわかりにくい病気であり、専門家の間でも数年に一度は定義が変わっているほどです。
今回はこれを少しかみ砕きながら説明してみようと思います。

まず「間質性肺疾患」という病気ですが、これは当時の記事で述べた通り、肺の間質(肺胞の壁や肺胞と肺胞のスキマにある構造物、そこを走る血管の壁など)に炎症が起こり、肺胞から血管への酸素の移動に障害が生じるという病気をひとくくりにしたものです。

 

正常な肺の状態

正常肺

 

間質性肺炎の状態

間質性肺炎

(いずれも3/29記事より再掲)

これはいろいろな分け方がありますが、その分け方の一つとして原因がはっきりわかっているものと、原因がはっきりとわからないものに分ける方法があります。

原因がはっきりわかっているものとしては、感染によるもの(今回の新型コロナウイルスの他に、サイトメガロウイルス、インフルエンザ、麻疹、水痘などのウイルスや、マイコプラズマなどの一部の細菌が原因になることもあります)の他に、薬剤の副作用による「薬剤性肺炎」、膠原病によって起こる「膠原病肺」、特定のアレルゲンを吸い込むことで起こる「過敏性肺炎」、粉塵などを吸い込んで起こる肺炎(例としては職業性肺疾患)、癌が間質にあるリンパ管を進んで起こる「癌性リンパ管症」、それに肺を始めとして全身に「肉芽腫」という組織が出来てしまう「サルコイドーシス」などが挙げられます。

一方原因がはっきりとはわからないものは、「特発性」間質性肺炎といわれます(よく間違えられますが「突発性」ではありません)。
この中には肺胞の破壊が年単位で進み、肺が強く線維に置き換わってしまうために治療が難しい「特発性肺線維症」、肺胞に慢性的な炎症が起こりフィブリンという物質が肺胞にたまりつつ、隣り合う間質にも炎症を引き起こす「特発性器質化肺炎」、原因不明ながらも急速に間質に炎症が起こり多くは救命困難な「急性間質性肺炎」、そのどれにも分類できない一群である「非特異性間質性肺炎」など、現時点では合わせて9個の疾患群が含まれています。

で、当然のことながら「間質性肺疾患」にはいろいろとあるため、これらの予後というのも原因や病型によって様々です。

たとえば間質性肺炎の代表として語られることの多い「特発性肺線維症」は、致死率は確かに低くない病気です(しかし現在では肺の線維化を抑える抗線維化薬が出ており、以前と比べて治療方法が出てきてはいます)。一方「特発性器質化肺炎」は治療(内服や点滴のステロイド薬)の効果が高く、致命的になることはあまりありません。

一方原因がわかる間質性肺疾患では、例外はあるにせよその原因が取り除かれることで改善できることも多いものです(膠原病肺であれば膠原病の治療により小康状態となるケースは多いですし、急性過敏性肺炎はそのアレルゲンから離れるだけで改善するとされています)。

一般的に肺の炎症が長期化し線維組織に置き換わってしまうケースでは、元の正常な肺組織に戻ることはないため、間質性肺疾患の予後は悪くなるとされています。
しかし今回の新型コロナウイルスによる間質性肺炎も軽症の場合は自然に改善する場合が多いと報告されており、いわゆる肺が線維化を起こしやすいとまでは言えない病気ではないかと思っています(ただ重症化、長期化することで肺が線維に置き換わってしまうケースはあると思います。その場合は慢性呼吸不全などの後遺症が残る可能性はあるかもしれません)。

というわけで、決して「コロナは間質性肺炎だから致死率が100%である」という事実はありません。

玉石混交のさまざまな情報が飛び交う今の世の中ですが、是非とも常日頃「デマ」には振り回されず、お気を付けて頂ければ幸いです。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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