医師ブログ

2019.10.17更新

皆さまこの度の台風の影響はいかがでしたでしょうか。私の八王子の実家は大丈夫でしたが、近くの川があふれ、最寄り駅が水没してしまうなどの影響があったようです。
またこの台風を境目にだいぶ気温が下がってまいりました。今後かぜが流行りやすくなると思われますのでお気を付けください。

今回はそのかぜに対して、抗生物質(正しくは抗菌薬といいますが)を使うことの是非についてです(呼吸器内科医はその業務の特性上、抗生物質について考える機会が特に多く、だいたいの人がここら辺にこだわりを持っています。なので少々長くなりますがご容赦を)。

以前にも書いたように、かぜとは一般的には病原菌が上気道(のどや気管など)に感染して起こる病気のことで、そのほとんどの原因はウイルスです。

抗生物質は細菌をやっつけるためのお薬ですので、ウイルスは全くの無力です。

しかし難しいのは、一見かぜに見える、細菌性の感染症の存在です。たとえば肺炎もいつも急に重い症状が出るわけでなく、徐々に悪くなっていくケースがあります。いわゆる「かかりたて」の頃には、ちょっとした咳、ちょっとした鼻水、微熱と、いわゆるかぜの状態と見極めがつかなくなることはしばしばあります。
また高齢者の方では、ウイルスが原因だったとしても、それによって弱った体に細菌が感染する「2次感染」の問題が起こり得ます。
これらの場合は抗生物質が必要なこともあります。

じゃあ、見極めがつかなければ、とりあえず抗生物質使っておけばいいんじゃない?

となりがちなところなのですが、この弊害が昨今大きなテーマとなっています。

まずは抗生物質の使い過ぎによる、「耐性菌」の問題です(つい本日も、多剤耐性菌による院内感染死亡のニュースが流れました https://medical.jiji.com/news/25260)。
抗生物質にもいろいろな種類があり、ターゲットにできる菌が比較的少ない「狭域」の抗生物質、多くの種類の菌に効く「広域」の抗生物質があります。
だったら広域のほうがいいじゃないかと思われるかもしれませんが、広域の抗生物質は、薬価が高く副作用が多い上に、耐性菌を作りやすいことが知られています。
これは患者さん個人にとっても、地域社会にとっても(もちろん国にとっても)大きな問題となります。特に日本は広域抗生物質の使用量(特にセフェム系、キノロン系といわれる薬剤)が際立って多いといわれており、ヨーロッパなどに比べて耐性菌が多い国の一つです(実際国の報告では、国内で年間延べ40万人が耐性菌に罹患し、そのうち10000人が命を落としているという統計が出ています)。
そのため国も以下のようなキャンペーンを張り、5年間で国内の抗生物質使用量を3分の1削減することを目指しています(AMRとはAntimicrobial Resistance つまり薬剤耐性のことです。ガンダム使っているのはちょっとしたダジャレなんですね)。

AMR

 

次が抗生物質の副作用の問題です。
抗生物質は下痢、吐き気をはじめとして、さまざまな副作用を引き起こしやすい薬剤です。
かぜに対し抗生物質と偽薬を使った患者さんを比較したところ、抗生物質は偽薬に比べて80%も副作用が増えたと報告されています。一方もともと元気な方が、かぜ症状の時に抗生物質を投与することにより、投与しないときと比べて期待できる効果はほんのわずかしかないというデータもあります。

薬の効果と、それに対する弊害のバランスがあまりよくないのです。

また例え細菌性であったとしても、抗生物質の投与をせずとも良くなる感染症が思いのほか多い(というか抗生物質を使っても結果に差があまり出ない)ということも報告で多く上がっています。

これらを考えると、やはりかぜに対する抗生物質の使い過ぎはあまりいい点がなさそうです。

ただし前も書いたように、かぜをかぜと見極めることは容易ではありません。
ただ昨今は抗生物質が必要な状態かどうかを見極める問診、診察ツールもありますし、「なんとなくこの方には抗生物質を出しておかないとヤバそうだな・・・」という医師のカンが働くときも確かにあり、必要時には躊躇なく処方します。
はっきりしない場合は、少し経過を見ることでわかることもあるので、可能な範囲であえて少々待って様子を見させていただくケースもあります(やみくもな薬の処方で、むしろいろいろな面での弊害が大きくなるのを避ける意味合いもあります)。

やはり抗生物質は我々(一応)プロが、正しい知識で大事なところで使用すべき「限りある資源」だという考え方が私はしっくりくるように思います。

というわけで、当院での治療の際は、上記に基づき必ずしもご希望の抗生物質の処方ができるとは限らないことをご理解いただければ幸いです。

もちろん疑問点には外来でしっかりとご納得いただけるようご説明いたしますし、かぜにはその他にもいろいろと対策法があるので、そのうちそちらもご紹介しようかと思います。

 

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

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