医師ブログ

2022.12.04更新

ワールドカップ、日本代表の目覚ましい活躍で、患者さんも寝不足の人だらけですね(笑)

私もそりゃ見たいと思っていますが、朝4時に起きて見てしまうと間違いなく臨床能力が落ちてしまいます・・・
応援できる方は、精一杯画面の向こうにパワーを送ってください!

そういえば、数年前、元日本代表の岡崎慎司選手が「アスリート喘息」であることを告白したことが話題になりました。
他にも有名どころではフィギュアスケートの羽生弓弦選手、レスリングの吉田沙保里選手などがこの病気をお持ちのようです。

 

そしてこの時期は、体育や部活,運動などで苦しくなるということで受診される方が増えるのです。

 

そこで今回はこの「アスリート喘息=運動誘発性喘息」にフォーカスを当ててみたいと思います。

喘息はこちらでも書いている通り、気管支が敏感になることで咳が出やすくなり、気管支の壁がむくんだり、炎症の結果痰が多く分泌されるようになるために空気の通り道が狭くなり、ゼーゼー、ヒューヒューいったり、息苦しくなる病気です。

喘息模式図

その喘息が起きるにはいろいろな原因があります(アレルギー、感染症、環境などなど)が、その中でも「運動」が原因となる場合があり、これを「運動誘発性喘息」と呼んでいます。

運動誘発性喘息は気道に乾いた、冷たい空気が多く入ってくることによっておこると言われています(一方、喘息を持たない人が、運動の時だけ同じような症状が起こることがあり、これは「運動誘発性気管支攣縮」とよばれています)。

具体的には、乾いた空気が入ることで気管支表面の細胞から水分が失われ、それが刺激となっていろいろな炎症が起こるのではないかと言われています。
冷たい空気は温かい空気に比べ、含まれる水分量が少なくなるため、より細胞の渇きが強くなっていまい、寒く、乾燥するこの時期に症状が出やすくなってしまいます。

また当然運動量が増えると口呼吸となります。
口呼吸は
、副鼻腔で加温・加湿された空気を取り込める鼻呼吸と比べて、冷たく乾いた空気が入ってきやすくなる上、「鼻毛」というフィルターを通さない分、様々な異物・刺激物を通過させてしまうため、気管支の刺激になってしまいやすいのです。

 鼻呼吸、口呼吸

そしてこの現象は、より冷たく乾いた空気が多く入る、マラソンサイクリング、走る距離の長いサッカースキースケートなどのウインタースポーツで起きやすいと言われています(今回のワールドカップでも鎌田大地選手は初戦のドイツ戦で12km以上走ったそうです。野球部だった私には到底想像できない運動量です・・・)。

一般にはあまり知られていない病気のため、このような状態になっているのに気づかない方もいらっしゃいます。
最近急にパフォーマンスが悪化した、成績が急に落ちたということで、心配された監督やコーチから医療機関を受診されて診断できたケースも少なくありません(他に、特に女性の場合なら貧血なども原因として考えておく必要があります)。

さて、このような運動誘発性喘息が起きた時、一番皆さんが心配されるのは、「私は運動をしてはいけないの?」といったことです。
実際、当院に来院される方のお話しでは、他の医療機関や学校で運動を避けたほうがいいとずっと言われていたため、体育を何年も休んでいたという方もいらっしゃいました。


結論から言うと、運動をあきらめる必要はないのです!あきらめてはいけません!

しっかりと対策をすればほとんどの場合、症状はしっかりとコントロールができるからです。

事実、運動誘発性喘息、つまりアスリート喘息は、一般の方よりアスリートの方に有病率が高いと言われています(より激しい運動で誘発されやすくなるので、当然と言えば当然です)。

しかし、しっかりと対策をしてパフォーマンスを維持できた多くのアスリートが輝かしい実績を残すことが出来ているのです(上記に挙げた3人はいずれも世界トップクラスの実績を残しましたよね)。
「正しい治療」を行った場合、そのパフォーマンスに影響は出ないことがわかっていますImmunol Allergy Clin North Am. 2018 May;38(2):205-214

 

ではどのような治療をすればいいのでしょうか?

 

まず、一番有効性が高いのが、運動をはじめるちょっと前(5~20分前)に、気管支拡張薬の吸入薬(サルタノールとかメプチン)を使用することです。
これは効果がすぐに現れ、2~3時間効果が続くとされています。

また「キプレス」「シングレア」「オノン」などの、ロイコトリエンという炎症性物質の働きを抑える薬も有効性が高いというデータも出ています。

そして喘息についてはしっかりと吸入ステロイド中心とした喘息予防薬を使用しつづけることが大事になります(運動誘発性喘息ではなく単なる気管支攣縮なら必要ありませんが、喘息は診断まで数年の間ずっと見逃されていた例にしばしば出会いますので、喘息がないという判断はかなり慎重に行う必要があります)。

喘息のコントロールが悪いと、当然ながら運動時に症状は明かします。

さらには、薬剤を使用しない方法も試してみたいところです。

例えばウォーミングアップとして、運動強度を10~15分かけて徐々に強めることで、気管支の炎症反応を起こりにくくする効果があるとされ、こちらは結構データがそろっています。Am J Respir Crit Care Med. 2013 May 01;187(9):1016-27

また肥満がある場合はやせることで気管支の炎症が起こりづらくなることもわかっています。Respiration. 2015;89(6):505-12

他にもマスクを着けた運動なども有効性が考えられていますが、そもそもマスクだと強度の高い運動はしづらくなるので、やはりしっかりと薬剤を使用したほうがよさそうです。

レベルの高いアスリートだと、ドーピングなども気にしなければいけないことになりますが、基本的に吸入ステロイドを基本とした長期管理目的の吸入薬は、ほとんどが全く問題なく使用できます(エナジア、アテキュラのみまだ使用できず、特例申請が必要です。レルベア、テリルジーは2020年まで禁止でしたが、2021年から使用可能となっています)。

「発作止め」に当たる吸入気管支拡張薬については、サルタノールは申請なく使用可ですがメプチンは通常使用できず、どうしても使用しなければならない場合、特例申請が必要となります(もちろんメプチン錠、メプチンミニ錠など、メプチンの内服薬も使用できません。そもそも現在の治療で、どうしてもこの薬がないといけない場面は、私はほとんどないと考えていますが・・・)。

内服薬もキプレスなどのロイコトリエン受容体拮抗薬、それに抗ヒスタミン薬(いわゆる花粉症の薬ですね)は申請なく使用できますが、よく巷では使用される「ホクナリンテープ」は通常使用ができないので注意が必要です。

内服のステロイド薬(プレドニン錠、デカドロン錠、リンデロン錠など)はもちろん使用できません。
(なおこの情報は2022年時点のものになりますので、最新情報は都度ご確認ください)。

喘息治療薬とドーピング

 

という訳でなんだか最近運動すると苦しいなと感じられた方、まずはお近くの呼吸器内科(お子様なら小児科)に、お早めにご相談ください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.07.03更新

いやあ、暑いですね・・・


今年は梅雨があっという間に駆け抜けてしまい、6月らしからぬ猛暑にぐったりでした。


梅雨時に気を付けるべきアレルギーについて書こうと思っていたのに、どうもタイミングを逸してしまったか・・・と思ったら、またジメジメした天気が戻ってきそうな雰囲気もあり、このスキに前回の続きを書いてみようと思います!

 

さて前回は、「梅雨時に気を付けたいアレルギー」として、カビのことを書いてみました。今回はその他にもこの時期に気を付けるべきアレルギーとして、いろいろな草木を挙げてみたいと思います。


スギ、ヒノキの花粉が終わる時期に飛散が始まるのが、イネ科の花粉です。


イネ科というと、田んぼに生えそろっている稲をとうしても想像してしまいますが、実際に人々に影響を及ぼすのは、空き地や庭に生えている雑草であるイネ科の植物です(田んぼの稲はあまりアレルギー性は強くないと言われています)。

ですので稲作地域ではないここ茅ヶ崎でも、多くの方がイネ科の花粉に悩まされています。


カモガヤというイネ科の植物があります。これは空き地や河川敷などの荒れ地に多く繁殖する雑草です。
またイネ科にはオオアワガエリという雑草もあります(英語ではチモシーと呼ばれ、こっちの名前をご存知の方も多いかもしれません)。

これも空き地や河川敷、土手などの荒れ地に生えることが多い植物です。
いずれも繁殖力が強く、よく目にする植物です。


花粉は5月くらいから飛び始め、6月ごろが一番多く、7月ごろまで続くこともあります。
症状としては鼻や目の症状が主ですが、咳や喘息悪化の原因になることも少なくなく、もともと咳が出やすい方や喘息を持たれている方は特に注意が必要です。

スギやヒノキの花粉は山から数十kmの距離を飛散しますが
イネ科の花粉は数百ⅿ程度しか飛散しません。
ですので、この時期はなるべく草むらに近づかないこと、家の周りにそのような環境がある方は、外の花粉を家に入れないようにすることが重要です。

またこの花粉症を持っている方は、反応が強く起こることが少なくありません。
一般的に運動をすると、アレルギー反応が強くなることが少なくありません。
ですので、これらの植物が多く生えているところでランニングやサイクリングなどをするアスリートの方に、アナフィラキシーなどの強いアレルギー反応が起こることがあるので、該当する方はより一層注意が必要です。


次に挙げるのがキク科です。

代表的なのがブタクサです。
結構ブタクサアレルギーを自覚される方は多い印象で、統計学上もアレルギー性鼻炎の方の10~20%がブタクサに感作されていると言われています。

時期は8月から10月、夏からが本格的なシーズンになります。

またヨモギキク科の草で、こちらはややブタクサより早く、7月から飛散が開始します。
お餅に混ぜたり、おひたしにしたりとおいしいイメージのあるヨモギですが、こちらもアレルギー性鼻炎の方の15~25%が感作されているという、夏から秋の花粉症の重要な原因となってしまっています。

また時期はもう過ぎてしまっているようですが、カバノキ科の花粉もあまり知られていないものの、喘息の方には結構悪さをすることが知られています。

関東など温かい所ではハンノキオオバヤシャブシという木がそれにあたり、北海道や本州でも標高の高いところではシラカバもその仲間です。

時期はヒノキと被る4~5月ごろで、スギやヒノキがあまりない北海道では、花粉症の一番大きい原因となっています。

前にも書いた通り、カバノキ花粉症、イネ科花粉症では、果物や野菜の食物アレルギーを合併しやすいという側面も持っており、花粉症の時期に食物アレルギーの症状が出やすくなるということもあるので、そのことに気づけるかも重要になります(大人の食物アレルギーは残念ながらあまり広くは知られていないため、長年にわたりこのことに気づかれない方も少なからずいらっしゃるのが実情です)。


あとは花粉症の後にもしつこく残るアレルゲンとしてはダニやペット、それに昆虫が挙げられます。次回以降は、これについても触れてみたいと思います。

 

さて、当院では7月4日から新型コロナのワクチン接種を開始します。
回は4回目が主になっていますが、当院では1~3回目の方も受付いたします(4回目接種についての情報はコチラ)。

当院予約システム、および茅ヶ崎市ワクチン予約ページから、それぞれ枠をご用意しています。
居住地、当院での接種歴や受診歴は問いませんし(茅ヶ崎市外に在住の方は茅ヶ崎市の予約ページはご利用いただけませんので、当院予約システムからご予約下さい)、お手元に接種券が届いていない方も、予約日が接種可能な日時なら(4回目接種は3回目接種から5ヵ月経過後となっています)、接種当日に前回接種日が分かるものがあれば大丈夫です。

また以前からお伝えしているように、当院は8月7日(日)~8月25日(木)まで2週間半の間、改装工事のためにお休みを頂きます。
当院かかりつけの方は受診時にお薬がなくならないように適宜調整を致しますし、病態によってはこの時期に悪化を極力避けられるよう、治療内容の調整を行うこともございます。

ご不明な点、ご不安な点がございましたら、お気軽に外来受診時に私など医師にお申し付けください!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.06.16更新

6月に入り、だいぶ発熱の方、風邪症状の方も減ってきたように思います。

当院でもコロナ陽性者は週に2〜3人出るかどうかというところまで減ってきており、いよいよアフターコロナが見えてきたのではないか、というように思えるような状況です。

 

一方、ここ最近は3〜4月ごろから咳が増えて止まらないという、風邪というには長すぎる咳の症状でお悩みの方が増えてきております。

いわゆる「花粉症」が終わった頃から咳が出るパターンの方が少なからずいらっしゃいます。

 

今年は当院も名称変更を行い、やはり例年より咳の患者さんが多いなあと感じていたそんな折、ケーブルテレビのJCOMさんから取材の依頼を頂きました。
内容は「梅雨時期に気をつけたいこと」というお題です。

 

クリニック勤務となってから、多くの取材を受けてきましたが、今回は初めての映像。

今までの幾多の経験上、セリフを覚えて話そうとすると100%噛むという揺るぎない自信があったため、あえてカメラには目をくれず、何も考えずに一発撮りで話してみることとしました。

 

JCOMさんはケーブルテレビですので、加入していない私はあいにく自分の醜態を直接目にすることはできなかったのですが、我が元祖ブロガー兼受付の深田さんがありがたくも動画を撮っていてくれていましたので、そのキャプチャーを晒してみたいと思います。

JCOMインタビュー

結構カメラ目線じゃん(笑)


と言うわけで、この取材でアレルギー専門医の私が話した、この時期、皆様に気をつけていただきたいことを、今回はもう少し深めて今回のブログネタにしようと思います。

 


スギやヒノキの花粉症の時期も終わり、一般的にはアレルギーの方はホッとする時期という印象を持たれる方が多いのですが、春から夏にかけてのこの時期は、実はさまざまなアレルギーの原因が出現する時期でもあります。

例えば、この時期一番思い浮かぶ厄介者としては、カビが挙げられると思います。

 

特に喘息を悪くさせやすいものとしては、アスペルギルスというカビが挙げられます。
これは温かく乾燥した場所に多く発生するカビで、ホコリの中や畳、寝具などに多く生えます。
空気中に飛散しやすく、このアレルギーがあるとかなり厄介な喘息になることが知られています。

 

一方クラドスポリウムというカビも厄介です。
これはいわゆる「黒カビ」で、温かくジメジメしたところに多く生えます(皆さんが一番想像するカビでしょうか)。
湿気が多い風呂場や水回りに多く生息し、このカビも大量の胞子を空気中にまき散らし、咳の悪化の原因になります。

 

またアルテルナリアというカビもいます。
これは「ススカビ」とも呼ばれ、やはり湿気の高いところを好み、浴室や水回り、押し入れの奥や台所や床下収納によく生えてきますが、胞子になると乾いたところにも出現し、空気中に舞ったり、畳や寝具からも検出されます。

 

それに面白い、といっては何なのですが、クラドスポリウムやアルテルナリアは大雨や雷雨が降ると、屋外に飛散している胞子が割れて細かく飛散し、より吸い込まれやすくなる現象がおき、これを吸い込むことによって喘息が悪化する「雷雨喘息」という病態もあります。
花粉も同じ条件で細かくなることも知られており、天気が良くなったタイミングで咳や喘息が悪化する方が増える方は実際多い傾向にあります。

 

そしてこれらのカビはプラスチックの表面にも住み着くことができます。そのため、エアコンの内部に繁殖しやすく、しばしばエアコンを使い始めるこの時期から大きな影響を引き起こします。

エアコンは吹き出し口、フィルターなどが目立つため、ここの掃除はされる方が多いのですが、我々素人が届かない内部にも当然カビは届いています。
そのため古いエアコンを使っていたり、長く内部クリーニングをされていなかったりした場合は、エアコン使用開始とともに空気中にカビの胞子が飛散し、咳が止まらなくなったり、喘息が悪化したりするケースが少なくありません。


エアコンを使用する前であるこの時期、しばらく内部クリーニングをされていなかった方は、是非業者さんにお願いしてクリーニングをしていただくといいかもしれません。

 

 

そのほかにもこの時期に原因になりやすいアレルゲンとしては、6月くらいから9月ごろにかけて増えるダニ(おもにその死骸やフン)、道端や空き地に多く生える雑草、家の内外で影響を及ぼし得る昆虫、それにペット(特にネコやイヌ)など、実にバラエティ豊かです

 

これらのアレルゲンに関しても、今後詳しくお話ししてみようと思いますが、なかなかボリュームがあって長くなりそうですので、また次回。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2022.04.20更新

当院は、2月から花粉症の患者さんが増え始め、それに伴いこの時期から咳が止まらなくなった方がこの3~4月ごろに多くご来院頂きます。

この時期から出る咳は、やはり花粉症と関連をしている咳の割合が非常に高くなります。

そのような咳の原因としては、のどの粘膜や気管にアレルギー反応が起こる喉頭アレルギーアトピー咳嗽(ちなみに「気管」は、のどから、左右に気管支として分かれるところまでを指します)、アレルギー性鼻炎副鼻腔炎、それによる後鼻漏などなど、様々な原因が考えられています。

しかし、やはり私の印象では、この時期の咳は喘息が原因であることが一番多いように感じます。

以前のブログでお伝えしたように、花粉症などのアレルギー性鼻炎と喘息には、密接な関係があります。

鼻と気管支はよく見ると1本の管としてつながっており、鼻のアレルギーがあるときに、気管支でも同様にアレルギー反応が起こることはよくあることです。

また、この時期に長引く咳で来院される方は、いままで他の病院で治療を受けたものの改善しなかったために来院される方が多く、当院で初めて喘息と診断される方の割合が非常に大きな気がします。

当然そのように診断された方は、ステロイドの吸入薬がよく効くため、次に来院されたときは症状が良くなっている方がほとんどです(よくならなかった場合は、診断が間違ってしまったか、診断はあっていたものの他の要因が重なっていたというケースで、この場合は更なる検査や治療の追加を必要とすることが多いです)。

こちらにもお書きした通り、喘息の場合は、その治療をある程度長く続けていかなければなりません。が、症状が良くなったあと、多くの方が私の目の前から消えてしまいます。

そしてしばらく経ち、症状がぶり返した後に再度お目にかかれることが多いのです(もちろん一度止めてしまって悪化してしまった方、私はそんなことで怒ったりなぞしませんので、気兼ねなくご相談ください!)。

という訳で、このような方に喘息の治療を続けてもらうことの重要性をよりご理解いただくために、いままで落書きしかしたことのなかったiPadで、初めて絵をかいてみました(クリニックのサイネージでもお出ししていますので、ご興味のある方は是非どうぞ!)。

さて、喘息では、その「体質」により、気管支に慢性的な炎症がおきています。

そこで今回は気管支を草原、炎症を火で表現してみます。

 

まず草原である気管支では、慢性的に「種火」がくすぶっています。

喘息1

これは「体質」ですので、なかなか改善することは出来ません。

しかしこの状態では大火事(=強い炎症)は起こっていないので、強い症状は感じません。
が、火が少し大きくなったり、また小さくなったりすることで、時に咳などの症状が出てきたり、また治まったりすることもあります。

これが、日照りや強い風が吹くなど、「ある出来事」をきっかけとして急に燃え広がることがあります。
この状態はいわゆる「発作」の状態です。
喘息でのこの「ある出来事」とは、風邪などの感染症、気候(台風や季節の変わり目など)、アレルギー、温度差、ストレスなど、さまざまです(そしてこれを「トリガー(=引き金)」と呼びます)。

喘息2

この状態になると消火活動が必要になりますので、消防士がやってきて水をかけます。

これが喘息でいう「吸入ステロイド薬」になります。
吸入ステロイド薬は、炎症である炎に水をかけ、消火、つまり炎症を抑える作用をします。

喘息3

水をかけ続けたことで、ようやく火の勢いは収まりました。

もちろんあたりは水浸しです。

喘息4

この状態で、水をかけることを止めてしまった場合でも、火はすぐには広がらないことも少なくありません。
落ち着いたと思って吸入ステロイドを一度止めてみても、すぐには症状が悪化しないことも珍しくはないのです。

しかし喘息では、種火は常に残っている状態です(先ほども述べたようにこれは「体質」なので、なかなか根本的に種火を取り去るのは難しい問題です)。

ではこの状態でこのまま放置するとどうでしょう・・・

喘息5

徐々に水が乾いてきました。だんだんと再度燃え広がってしまう条件がそろってきます。

そして・・・

喘息6

あーあ、また「トリガー」をきっかけに、乾いた草原に火が燃え広がってしまいました。

大きく燃え広がると、なかなか消火にも時間がかかる状態となります。
症状が出てしまってからでは遅いのです。

ではどうしたらいいのでしょう??

喘息7

カンのいい方ならお気づきかと思います。

種火にずっと水をかけ続ければいいのです。

喘息
そうすれば、火を直接抑えるだけでなく、周りへの延焼を防ぎ、大きな火事になることを防ぐこともできるわけです。


さて、ここで振り返ってみましょう。

4番目の絵のように、びしょ濡れの原っぱではすぐに火が燃え広がらないように、吸入をやめても、すぐには悪くならないことは珍しくありません。
これは一見いいことにも思えますが、実はこの時に、患者さんは喘息が「治った」と勘違いをしてしまいがちになるのです。

ところが実際は常に消えない種火があるので、「治って」はいません。
「落ち着いて」いるだけです。

患者さんはこのことに気づけないと、症状が悪化したら治療を行い、良くなったらやめてしまうという無限ループに陥ってしまうことになります。

さらに悪いことに、何度も症状の悪化(つまり延焼)を繰り返していると、草原は黒こげとなり、焼け野原になってしまい、元の草原に戻らなくなってしまいます。

気道でも同じことが起きえます。気道も炎症を繰り返すと元に戻らなくなり、症状が治りにくくなってしまいます。

焼け野原にしないためにも、種火が常にある草原には、常に消火用水をかけ続けたほうがいいというわけです。

しかし、吸入ステロイド薬もいいことばかりではありません。

もちろん非常に治療には有効な薬なのですが、不必要に使用すると、口の中が荒れたり、声が枯れたりすることが増えます(ステロイドと聞くと、もっとひどい副作用を想像される方も多いですが、吸入ステロイド薬においては、全身に薬が回るわけではないのでこの点はあまり心配はいりません。その理由はまたいずれ書いてみます)。
もちろん続けることでお金も手間もかかります。

そこで我々喘息治療医は、できるだけ少ない薬で、種火を広がらせないギリギリのラインを常に狙って治療します。


喘息の方には、それぞれ固有の「トリガー」が起きやすい状況があります(風邪をひきやすい冬、花粉の影響を受けやすい春や夏、ハウスダストや台風の影響を受けやすい秋、それに環境や気候、仕事で忙しくなりやすい時期などなど・・・)。

これらを見越して、かけるべき水の量を事前に予測して調節できると、非常に炎がコントロールしやすくなります。

われわれ喘息治療医はこの調節を、毎回患者さんにお会いした時に、アレルギーの有無や環境変化、前年までの同じ時期の経過などを考え、一人ひとり予想を立てながら、かけるべき水の量を調節していっているのです。

ですので、治療期間が2ヵ月、3ヵ月と空いてくると、長期の予測となりその一気に精度が落ちるため、途端にコントロールが悪化するケースが増えてしまうのです。

やはり喘息は状態が安定していてもしっかり定期的に診察をし、種火が拡がる兆候がないか、注意深く経過を見ていかなきゃいけないと、私は思っています。


そして最後に、「喘息治療のやめ時」もこのモデルで考えてみましょう。

この種火は、年齢の経過や長い時間をかけて徐々に弱くなる場合もあります。
またもともと種火の勢いが弱く、めったなことでは燃え広がらないこともあります。

その場合、消火活動をやめても(=吸入薬をやめても)、めったには延焼(=炎症)を起こさないケースも確かにあり得る話です。

すると消火活動を続けることと、やめることのどっちがデメリットが大きいかで、治療の止め時を決めていくことになります。

ただ未来のことは誰にもわかりません。

どれくらいの種火になったら絶対燃え上がらなくなるか、そんなこともやってみないとわからないのです(そもそもその種火の大きさを客観的に知ること自体、かなり喘息治療に精通していないと見当がつけられません)。


一方、年を経るに従い、種火が強くなるケースもあります。

子供の時に喘息があった方は、大人になり完全に治るケースは多くあります。が、一旦落ち着いた後に大人になってからまた種火が大きくなることも珍しくありません。
また前の年まで小さな種火でその存在に気づかなかった程度のものが、今年になり急に大きくなったということもあり得ます。

ですので、治療を止めていいかどうか、というのは、これら不確実な未来を予想しながら考えなければならないことなのです。
これは我々でも常に悩む、非常に難しい作業なのです。


という訳で今回も長くなりましたが、まとめると、

「勝手に治療はやめないでね♡」

ということでした。

皆さんの心にこの絵が伝われば幸いです!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.11.01更新

前編はこちら!
2021.10.13 喘息の吸入薬は続けるべき?

 

ようやくコロナも落ち着き、ここ加藤医院のある茅ヶ崎、そして雄三通りにも活気が少しずつ戻ってきています。

ただ、ありがたいことなのですが、その活気は当院院内にも及んでいます。

この時期は季節の変わり目で、咳など呼吸器症状でご来院いただく患者さんも非常に多く、数日前からずっと予約枠が埋まってしまう状態が続くなどご利用いただく患者さん方にご迷惑をお掛けしてしまっています・・・

先週からまたスタッフを増員するなどできるだけの対策は打ってはいます。
が、やはり当院は主に咳という判断の難しい症状を主に診察している手前、どうしても患者さんからお話を伺う時間が長くなったり、また症状が悪化してしまった方にも細かく状況をお伺いしたり対処法をお話しさせていただいたりと、診察にお時間が必要となるクリニックです。

現在スタッフの増員の他にも、システムやフローの抜本的見直し、新しいシステムへの設備投資などを可及的速やかに行っており、まだ道半ばの状態です。

まだしばらくはご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんが、少しずつ改善の兆しも出ています。今しばらくお待ちいただけるようお願い致します。

なお受診枠が埋まってしまい、なお早急な受診をご希望される際は、可能な範囲でなるべく早めに診察できるようにスタッフが受診調整をさせて頂いておりますので、遠慮なくお電話でご相談ください。


というわけで、私も多忙を極めていましたのでなかなかブログの更新ができませんでした・・・
ようやく時間を作った今午前0時、何だか目もギラギラしてるので、執筆に取り掛かろうと思います。


さて、前回は喘息という病気を続けることの難しさについて書いてみました。

今回は、じゃあ喘息の人はどうしたらいいの?ということについて、少し考えを書いてみたいと思います。

まずは喘息の治療をしている方が、この治療をいつまで続けたらいいかの判断についてです。

まずその根拠として考えるのは、その方の喘息という診断が本当に正しいかどうかの確認です。

以前もお話しした通り、喘息には「数字」がありません。
ですので、通常は症状や背景、歴史などから総合的に判断するしかないのが現状です。

そして、これが結構難しいのです。

私の外来にもいままで喘息と言われて治療をしていたものの、いろいろ診察してみたら実は喘息でなかった方という方が時々いらっしゃいます。
その場合、真の原因の治療を行うことで症状が出なくなれば、治療の終了は当然可能となります(ただ真の原因があっても、そこに喘息が合併していたという可能性は常に考える必要がありますが)。

次にやはり症状の原因が喘息であった場合、その症状の原因が明らかになっている場合は、その原因の除去にトライしてみます。
例えば長く使用していた家具や寝具などにアレルギーの原因であるダニが多くいたりペットを飼っていることで症状が起こっていたりなどという場合です。
その原因を除去したら全く症状が出なくなるケースがあるので、その場合は治療中止が可能かもしれません(ペットを手放すことはなかなか難しいのですが・・・)

しかし、原因を完全に除去できることは、正直あまり多くはありません。
また取り除けない原因(花粉やカビ、自宅や職場の環境、温度差や湿度の変化など)も多くありますし、そもそも原因がはっきりしない、もしくは全くない場合も少なからずあります。

このような場合は、やはり簡単には治療を中止できません。

前回も書いたように、喘息は、患者さん自身が症状が落ち着いていると感じていても、実際には気道に炎症が残っており夜だけの咳とか、天気の変化による咳とかといった多少の症状が残っていることが少なからずあります。
この場合は、何かをきっかけとして症状の悪化をきたすリスクがあります。そしてこの状態を繰り返すと、炎症はだんだんと治まりにくくなってしまいます。

炎症が続いている場合は、しっかり治療を続けることに異論の余地はありません。


一方、しっかりと吸入を続け、症状を完全にコントロール(24時間まったく咳がないのが続く状態です)し続けられている場合を考えてみます。
その場合、ずっとその吸入を続けなさいというのは簡単なのですが、患者さんには「とは言っても、症状もないのにいつまで続ければいいんだろう・・・?」という疑問が必ずわきます。

症状がなくなったら、治療はいつまで続ければいいものなのでしょうか?

これに対する正解は、実はまだありません(先月出された最新の「喘息予防・管理ガイドライン2021」でも、その中止の基準はないとはっきり明記されています)。

そこは患者さんの状況や考え方と、我々医師の考え方のすり合わせで決まっていくものなのです。


そこでここからは私個人の考え、やり方を書いてみます。

私は、まずしっかりと正しい治療を行い、症状がなくなっていることを2-3か月確認したら、少しずつ治療レベルを下げてみます(吸入薬のレベルを下げたり、内服薬をやめてみたりします)。
またしばらく見て大丈夫そうなら更に治療レベルを下げ、できるだけ低い治療レベルまでもっていきます。

その状態でどのシーズンも悪化してないことを確認したら、やめてみることはできるかもしれないと考えています。


また近年、新しいデータも出てきました。


吸入薬である「シムビコート(吸入ステロイドと気管支拡張薬のハイブリッドの薬です)」は現在、1日2回の定期的な吸入に加え、症状が悪くなった時にも追加で吸入できるという使用法(SMART “スマート” 療法)ができます。
シムビコート

これを、軽症の喘息の人に対し「定期的な吸入をせずに、症状が悪化した時だけ吸入をする」という使い方をさせたところ、通常の「毎日吸入ステロイドを使い、悪化時に発作治療薬を使う」使い方と比べて、悪化の頻度を変えなかったという研究結果がでました。N Engl J Med. 2018:378(20):1877-87.  N. Engl J Med. 2019;380:2020-30.
実際、喘息の国際ガイドライン(Global Initiative for Asthma;GINA)では、軽症の喘息の患者さんにはこの治療法が一番勧められている治療法になっています。

ただこれにも問題点があります。

まずはこの治療法が、今のところ日本では保険上認められていないということです。

実はこの研究には日本人が含まれていませんでした。
治療というのは人種差がでることがあり、確かに日本人で同じ結果になるという保証はなく、まだ大っぴらにはこの治療をおすすめすることはできないのが実情です。

二つ目が、前にも述べたように、どう「軽症な」喘息であるということを判断するかということです。

症状が軽くても、たびたび出てしまうような方では、「軽症」とは言い切れないのでやはりこの治療法は好ましくありません。

また、この治療法を行っているときに、本当に患者さんの状態が安定しているかどうかは大事な点です。
本当はもっと悪い状態なのに、本人にその自覚がない場合は、それを患者さんとのお話だけで見抜くのは簡単ではありません。

とはいえこの治療法も、患者さんの状況によっては有力な選択肢となるかもしれません。
少なくとも患者さんにとって、「症状があるときだけ使えばいいよ」と言われること、将来的にはそのような状態になりうる期待ができうることは、精神的にはずいぶん楽になるのではと思います。
「将来的には」ひとつの良い選択肢にはなり得るかもしれませんね。(「現在は」保険適応はありませんが、うまくやれば・・・なにをすめr

ちなみに症状があるときだけ発作治療薬(メプチンやサルタノール)のみを使う治療に関しては、気管支の炎症を悪化させること、悪化、入院の頻度を増やしてしまうことから、最新の国際ガイドラインで否定されています。
このような治療法は、今はよほどの軽症でない限り、基本的にはおすすめできないと思います。

とにかく、喘息の治療はいろんな面で主治医とのコミュニケーションが大事な病気です。
よーく主治医と話し合って、お互いが納得できる治療法を選択していきましょう。


というわけで、午前3時半になりました。ギラギラです。ランナーズハイです(笑)

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.10.13更新

ようやくコロナも落ち着いてきて、緊急事態宣言も解除されました。

10月に入り、当院でもほとんどコロナ陽性の方を見ることはなくなっています。
ワクチンも行き渡りつつあり、重症者も大幅に減っているようです。

ウイルスの動きはまだわからないことも多くあり、日本よりワクチン接種が先行している他国でも、患者数が一旦極端に減った後にまた増加に転じてしまった国が多くあるようですので、やはり油断はできません。

とはいえ、ゼロリスクが必ずしも正しい戦略ではありません。
今だからこそ、羽目を外しすぎず、ちょうどいいくらいの感染対策をしながら、少しずつ経済を回すべき時期に来ているのかもしれませんね。


というわけで今回は、久しぶりに落ち着いてきたコロナから少し外れて、当院が診療しているメインターゲットの一つである、喘息について触れてみます。
なかでも、外来でよくあるご質問に「喘息の治療って、いつまで続けるんですか?」というのがあります。
今回はそのことについて考えてみたいと思います。

まずは喘息とはどんな病気か、考えてみたいと思います。

喘息は、ここにも書いた通り、慢性的に気管支に炎症が起きてしまうという病気です。
そして様々な悪化要因(花粉やダニなどのアレルギーや、天候、寒暖差、ストレスなどなど・・・)によって悪化します。
この炎症に対しては、基本的には吸入ステロイド薬を用い火消しにかかります。

ただ一方、それらの悪化要因がなくなると、薬がなくても症状が自然に軽くなることも少なくありません。
実際には「喘息が治った」わけではないのですが、この時患者さんはしばしば「喘息が治った」と思ってしまいます。

喘息は治ったわけではないので、ここで治療を止めてしまうと次に悪化要因にさらされたときに、当然また症状が悪化してしまいます。
ですので、悪化要因にさらされたときにも悪くならないように、治療を続けて悪化を防ぐ必要があるわけです。

そしてこれは、喘息になってしまう「体質」のために起きます。
「体質」というのはそう簡単には変えられないものです。
喘息「体質」が変わらない以上、喘息という病気は、基本的には一生付き合っていかなければならないものとなります。ですので、治療は基本的には続けて頂くのが「正解」です。

よく考えるとこれは、治療を続けることで悪化を食い止めている高血圧や糖尿病などの病気と、本質的には同じな訳です。


ところが喘息は、高血圧、糖尿病などと比べ、患者さんが途中で治療を止めてしまいやすい病気でもあります。
どちらも、治療を続けることで悪化を食い止める「慢性疾患」であるのに、です。

血圧の薬に比べ、喘息の薬は実際に服用されている率が半分以下になってしまうデータもあります。
薬剤アドヒアランス
つまり喘息の患者さんは、同じ慢性疾患である高血圧や糖尿病の患者さんと比べ、治療を続けてくれる割合が非常に低いということになります。

 

ここで喘息治療でよくある日常の外来風景を、それぞれの心の中を代弁しながら見てみたいと思います(うちの外来の話、というわけではなく、あくまで一例です。こうじゃない展開も実際はたくさんありますので悪しからず)。

患者さん「最近咳がとまらないんです、以前から風邪ひくと咳が長引くんです」(また風邪ひいちゃったな、風邪ひくといつも厄介になるから早めに薬もらおう
医師「なるほど、咳がとまらないんですね」(咳も長いし何度も繰り返してるから、風邪だけじゃないっぽいなあ

 診察、検査後

医師「喘息だと思います、吸入治療を始めてみましょう」(やっぱり、風邪の咳がこんなに長く続くはずないもんな
患者さん「私、喘息なんですか。わかりました」(風邪だと思ってたのに・・・聞いてないよぉー

 治療後

患者さん「咳がだいぶ止まってきました」(やっと治ってきたよ。でも吸入治療って薬飲むのと違ってメンドくさいな・・・
医師「良かったですね。喘息は治療を続けることが大事ですから、良くなってもやめないでくださいね」
患者さん「わかりました」(えっ、もう症状ないのにまだ止めちゃダメなの!?)「いつまで続ければいいんですか?」
医師「基本的にはずっと続けてください」
患者さん「・・・わかりました」(風邪かと思ってたのに喘息って言われて、症状何にもないのにこんなメンドくさいことずっと続けるなんて、やってられないよぉ・・・

とまあ、こんな感じで患者さんの胸の内はもやもやしたまま、何度か通院した後に治療を止めてしまうパターンは少なくありません。

 

では、それって全部喘息の患者さんが悪いのでしょうか?

 

私は、喘息には特有の、治療を続けにくい病気としての特徴があるからではないかと思っています。

その原因を挙げてみます。

・吸入がいろいろとメンドくさい

やはり、吸入治療の煩わしさがまず挙げられます。
飲み薬と違い、アクションが多かったり、うがいを必要としたりと、まずは手数が多いことはデメリットです。
それでもしっかり使用して効果があれば使おうと思えるのですが、吸入はコツがいることが多く、このコツを知らないとうまく薬が気管支に届かないため効きません(そして、そのコツを教えてくれるところが非常に少ないのも問題です・・・)。
また、声がれ口内炎なども問題となりますが、これも避けるためのコツを教わったり、声がれのしにくい薬の種類に変えてもらったりしないと、吸入薬を使用している限り続いてしまいます。

症状が(正しい使い方ができずに)十分に改善しないにも関わらず、声がれや口内炎によって日常生活に支障が生じると、患者さんは当然吸入治療を止めようと考えてしまいます。

 

・喘息がいろいろとわかりにくい

風邪と喘息は全く異なる病気です。
しかし、どちらも咳をきたします。
また、喘息は風邪がきっかけで起こることも非常に多いです。
すると、喘息は「風邪がこじれてなるもの」と考えられてしまうことがあります。
風邪は治ったらそれで終わりなので、喘息も同様に治ったら終わりと考えられてしまうことがあるのです。

また幸か不幸か、治療を自己判断で止めてしまった後も、症状が悪化しないこともしばしばあります(悪化要因がなくなっていたり、治療による効果がしばらく続いたりするためです)。
それでもしばらく経ってから(場合によっては数年経ってから)、またその悪化要因にさらされることで症状が再発することもあります。
でも患者さんには、一旦治療を止めても(一時的にですが)悪くならなかったという成功体験が残っています。

すると悪くなったらまた治療をはじめて、良くなったら止めればいいやいう考え方になりやすくなってしまうのです。

・喘息には数字がない

高血圧や糖尿病などは、その時の状態が数字で出てき、患者さんもその数値を気にしてしっかりと治療を続けていこうとする意志が働きやすくなります。
一方、喘息にはそのような簡便な数値がありません(ピークフローという器具もありますが、患者さんによって適切な数値が違ったり、器具の使い方の巧拙で数値が変わったりと、うまく活用することはなかなか簡単ではありません)。
上のわかりにくさともつながりますが、患者さんが客観的に「良くなった」と感じる目安がなく、自分に起きた症状からのみでしか判断できなくなり、良くなったらやめてもいいかなと思ってしまいがちなのです。




と、このように喘息とは、どうしても患者さんが治療を続けにくい要素を多く抱えた病気なのです。
決して患者さんばかりが悪いわけではないと私は思います(医療者の関わりが非常に重要な病気ともいえます)。


それではいっそのこと、症状のないときは治療せずに、症状のある時だけ治療するという考え方はどうでしょうか。

でも、これに対する答えは、やはり基本的には「NO」です。

やはり「体質」で起こっている病気である以上、一見症状がないときにも気管支に軽い炎症は起こっている場合があります。
また小さな症状が起こっても、通院していない場合、多くは治療再開に至ることはありません(喘息は患者さんが自分の症状を過小評価しやすい病気です)が、その時には気管支の炎症はしっかり起きている状態になります。

そしてそのような状態が続くと、だんだんと炎症が固定化してしまい、症状が治りにくくなってしまいます(リモデリングと言います)。
またさらに悪いことにこの変化は遅いので、患者さんが症状が治りにくく悪くなっていくことに気づかずにいつのまにか進行し、治しにくくなってしまうことも起こります。

ですので、基本的にはできれば吸入治療を続けたほうがいいということの正しさは揺らぎません。

とは言っても現実問題、先ほど述べた声がかれる、口が荒れる、金がかかる、メンドくさいなど、吸入治療を続けることによるデメリットは確かにあります。

臨床家としてはここにも目を向けなければなりません。


「正解」だけ振りかざしても、実際の診療はうまくいかないのです。

となると、どこかで落としどころを探る必要が出てきます。

この落としどころに正解はなく、答えを出すのには悩ましいところなのですが、近年そのヒントとなる面白いデータも出てきています。
じらすようで申し訳ありませんが、長くなりましたのでそれに対する答えは、次回探っていこうかと思います。

後編はこちら!
2021.11.01 で、喘息の治療は、いつまで続けたらいい?

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.06.27更新

世の中は高齢者の方へのワクチン接種が佳境に入ってきており、当院でも1日最大42人のペースで接種を続けております。
とりあえず当院で接種予定の高齢者の方は、7月第3週までには何とか1回目が終わりそうです。また集団接種で接種されている方もちらほらいらっしゃり、少なくても当院の周りでは接種は順調に進んでいるようです。

また若い方からも、職域接種などによる接種の予定のお話を多く伺うようになりました。
これに合わせ、接種についての不安点、疑問点をお聞きいただく方も増えてきております。
こちらのブログも参考にされつつ、少しでもわからないこと、不安なことがありましたら、お気軽にお聞きいただければと思います。


2021.2.21 いよいよ新型コロナワクチン接種開始! ~ところでコロナワクチンってどんなもの?~

2021.4.18 「私、ワクチン打っていいの?」にお答えします。


当院の若年者へのワクチン接種も、茅ヶ崎市や医師会からのゴーサインが出たら速やかに予約を開始しますので、ご希望の方は以下のページを随時ご確認いただきます様よろしくお願い致します。

一般の64歳未満の方への新型コロナワクチン接種について

このようなご時世で世の中はまだまだコロナだらけですが、我々はコロナ以外の病気もおろそかにはできません。
当院には咳が続いて、風邪なのかそうでないのかを心配される方が多く来院されます。

日本においては慢性咳嗽の原因の最多は喘息(咳喘息を含む)とされています(欧米では後鼻漏逆流性食道炎の頻度が日本よりは多いようです)。ともかく喘息は、実に多くの方が持っている病気ですので、当院だけでなく多くのクリニックで適格に診断、治療する必要性が高い病気です。
ですので少しでもそのお手伝いをすべく、先日一般クリニックの医師向け講演会の座長をして参りました。
岐阜県で、全国に吸入指導の啓発活動をされている大林浩幸先生を(リモートで)お迎えし、吸入薬の使い方に関する講演をお手伝いさせていただきました(この界隈ではかなり有名な先生です)。
講演会

その中でもやはり患者さんご本人が思いのほかうまく吸入薬を使えていないことが少なくないとのことであり、その実例を多くご紹介いただきました。
その中には、私の診療中にも出会ったうまく使えていない方の例と類似のケースも多く、やはり患者さんが間違えやすいポイントを我々医療者がしっかりとお伝えしないと、せっかくの薬剤が患者さんのためにならないんだなあと改めて実感しました。

というわけで、おそらく半年以上ぶりの吸入薬の落とし穴シリーズ第4弾、エアゾール製剤について今回は書いてみましょう。


エアゾール製剤と言いましたが、簡単に言うといわゆる「スプレー」のタイプの吸入剤です。
現在吸入薬にはパウダーを自分で吸う「ドライパウダー」タイプの吸入薬が多くありますが、それと一線を画するものとなります。

スプレータイプの吸入薬は、まず何よりもわかりやすいことがメリットです。
押せば霧が出てきますし、それを吸えば吸入したこともわかりやすいので(何となく吸入薬のイメージというとこれを想像される方は多いのではないでしょうか)、この点が使いやすいポイントの一つです。

ただ、やはりこの吸入薬にも落とし穴があるのです。

まず吸入薬については、ボンベの中が分離する薬剤があるので、これらは使用前に振らないといけません。以下のものが振るべきものとされていますが、わからなければ何でも振っちゃって大丈夫です(笑)
吸入器を振るべきかどうか
そして次は持ち方です。
先日の講演でも例があり、私も出会ったことがあるものですが、ボンベを逆さまに持ってはいけません。

とはいってもどっちが逆さまか・・・

ヘアスプレーや殺虫剤は噴射口が上に来ますが、吸入薬は噴射口が下です。噴射口が上、つまりヘアスプレーや殺虫剤と同じ向きにすると逆さまになってしまいます。
このことは大林先生の講演にもありましたが、結構違いやすいポイントなのかもしれません・・・

次は吸入の仕方です。
このタイプの吸入薬は、パウダータイプのものと比べて、それほど吸入をするのに強い力はいりません。
ただ、粒子径が比較的小さいため、奥まで深く吸い込み、それを沈着させることが必要になります。
ですのでこのタイプの吸入薬は、ゆっくり、深く大きく吸って最低5秒程度、息止めをする必要があります。浅いと吸いきれないですし、小さく吸ってすぐ吐くと、薬が肺に沈着しないでそのまま外に出て行ってしまうと考えられています。

次に、このタイプの吸入薬は、吸入力はあまり必要ないものの、タイミングを合わせる必要があります。
タイミングは押してから直後に吸い始める、です。これが合わないと、口からスプレーのミストが漏れ出てくるのが分かります。
こうなっていないか、周りの方や、おひとりの時は鏡などで確認されるとよろしいかと思います。

最後に、当然ボンベは押さないと出てこないのですが、握力が弱かったり、手を痛めていたりしていると、ボンベが固くて押せないケースが時々あります。
その場合は写真のような補助器具が無料で使え、力が半分ぐらいで済みます。
通常の調剤薬局なら準備があるはずなので、処方薬をもらう際に薬剤師にご相談ください。

吸入補助具
以上、今回はスプレー剤であるエアゾールについて書いてみました。
あと吸入薬のメジャー処では、COPDや比較的重症の喘息に使われているレスピマットが残っています。
コロナに関しては旬なネタがいろいろ出てきますが、コロナの話題ばかりだといささか食傷気味にもなるので、コロナの話題の合間にまた書いてみようと思います。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2021.01.17更新

年が明け、1月7日からまたここ神奈川にも緊急事態宣言が発令されました。
当院でも発熱外来を行っていますが、年が明けてからはやはり発熱や咳症状の患者さんが増えてきている実感があります。新型コロナの診断となる方の数も増えてきており、茅ヶ崎でも拡がっていることをひしひしと感じます。

しかし、病気はコロナだけではありません。このようなご時世でも、治療を続けなければならない多くの病気の治療を止めてしまうことは好ましくありません。

それは当院が治療に力を入れている喘息でも同じです。
喘息は油断して治療を止めてしまうと、いずれまた悪化してしまいます。そのため平時でも、症状がよくなったからといってもやめないで、適切に治療を続けてもらうことが必要な病気です。

 

それをふまえた上で、今回は喘息と新型コロナについて、前回の記事からいろいろとわかってきたことも増えたので、そこについて触れてみたいと思います。

 

喘息と新型コロナについては、昨年4月にブログに記事を書きましたが、その後いろいろと新しいデータ、知見が出てきています。

その中でも、やはり喘息を患っていることと新型コロナが重症化してしまうことにはあまり関連がなさそうなデータがいくつも出ているようです。Chhiba KD et al. J Allergy Clin Immunol. 2020; 146: 307-14.

それ以上に、どうも新型コロナに感染した人の中には、喘息を持っている人が割合少なく、喘息の方はむしろ新型コロナにかかりにくい(もしくはかかっても重症化しないために見つけられない率が高い)可能性も考えられています。Matsumoto K et al. J Allergy Clin Immunol 2020; 146: 55–57.

 

それにはどうもいくつかの理由があるようです。

一つは喘息の方が起こすアレルギー反応がむしろ役に立っているという仮説です。
新型コロナウイルスはACE2という受容体を足掛かりに体内に入ってきますが(こちらの記事をご参照ください →2020.5.21 コロナと喫煙、そしてCOPD)、このACE2受容体がどうも喘息などのアレルギー反応を起こしやすい人だと減っているようなのです。Jackson DJ, et al.J Allergy Clin Immunol. 2020 Jul; 146(1):203-206.e3
そのためウイルスの足掛かりが少なくなり、ウイルスが体内に入ってきにくくなるのではといわれています。
ちなみに喫煙は逆にこのACE2受容体を大きく増やす作用を持っているとされており、喫煙はやはり新型コロナの重症化の大きな要因になるだろうと考えられます。
コロナが怖ければタバコは止めましょう。 

→COPDについて
→禁煙外来について

 

またいくつかのデータでは、喘息でちゃんと治療を行っている人の方が、そうでない人よりも重症化しにくいことも示唆されています。Eur Respir J. 2020 Dec 17;2003142. doi: 10.1183/13993003.03142-2020.

喘息治療で用いる吸入ステロイドは、気管支の炎症を抑え、空気の通り道を広げる作用を持ちます。
新型コロナに感染し重症化すると、肺へ空気が入りにくくなってしまいます。一度潰れた肺胞は再度膨らむことが難しくなり(一度完全にしぼんだ風船をがんばって膨らます状態と一緒ですね)、このことがより肺の状態を悪くしてしまいますが、吸入ステロイドはこれに対し効果を示すのかもしれません。

また吸入ステロイドは気道のACE2受容体(さきほど出た、新型コロナウイルス侵入の足掛かりでしたよね)を減らしてくれるという研究も示されており、ウイルスの侵入経路を減らす効果があるかもしれません。

具体的なデータはまだ出てはいませんが、普段から吸入ステロイドをしっかり使っていることで、新型コロナに感染しづらくなったり、感染したときに重症化を抑えたりできる可能性があります(ただ以前話題になったオルベスコという吸入ステロイドは、すでになってしまった新型コロナにかかってしまった後の治療という面では、現時点では有効性を示せなかったというデータが出ています。とはいえ死亡率や重症化率も上げることはなかったとのことであり、この結果の解釈はまだ難しいところです。いずれにせよ安易な自己判断での治療開始、治療中止は避けるべきでしょう

 

また内服薬に関しても、モンテルカスト(キプレス®やシングレア®という商品名です)が高齢者において、内服していた人の方がそうでない人より新型コロナ感染率、重症化率が低かったというデータもでているようです。Khan A, et al. Montelukast in hospitalized patients diagnosed with COVID-19. 2020. doi:10.21203/rs.3.rs-52430/v1.

 

これらから、喘息の人はやはり必要以上に新型コロナを恐れる必要はなく、今まで通りしっかりと治療を続けるのが一番だということが言えそうです。
そしてしっかりと通院を続けて薬を正しく使い続けることが、結局は新型コロナから自分の身を守ることになるということが言えると思います。 

→喘息の治療について

 

またこれからは春に向けてスギ花粉のシーズンが始まります。喘息の症状が悪化しやすい時期にも入ってきます。

なにより喘息の悪化による咳と新型コロナによる咳は、私たち専門医でもすぐには簡単に見極めることができません。
この時期、咳が続くとなにより患者さん自身が不安になり、日常生活を送る上での妨げとなってしまいます。 

→2020.3.1 花粉症と咳のただならぬカンケイ

 

せっかくいい治療法がある現在、喘息患者さんには、感染対策がしっかりとられている信頼できる主治医のもとで、しっかりと吸入、内服治療を続けていただきたいと切に願っております。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.11.03更新

ここ1か月ほどブログがご無沙汰になってしまいました。

理由は2つ。一つはインフルエンザワクチン接種で多くの方にご来院いただき、非常に多忙となってしまったためです。
今年はワクチンの入荷が早く、また早期から接種を希望される方が非常に多かったため、10月のワクチンの接種数が例年よりもかなり多くなりました(当院でも10月は、昨年の約5倍の方にワクチン接種を行いました)。
大変申し訳ありませんが、当院のワクチン在庫も例年とは傾向が異なっているため皆様のご希望に沿えない場合もあるかもしれませんが、最新情報は逐一こちらのページで発信致しますのでご参照ください。


もう一つが講演会の準備でした。10月30日に茅ヶ崎寒川薬剤師会とコラボをして、吸入指導連携セミナーの講演をしてまいりました。少数の医師、薬剤師の先生方に現地でご来場いただいた上で、その他の多くの先生にはオンラインでご視聴いただきました。

茅ヶ崎寒川吸入指導連携セミナー

今回は新しい試みとして、いろんな種類の吸入器具を大量に現地に持ち込み、吸入薬の使い方のコツ、患者さんがミスしやすいところを実演し、それをオンラインで配信するという方法でやってみました。回線速度に限界がありやはりやや見にくい面はあるようでしたが、予想以上の人数の先生方にご視聴いただき、また講演後はありがたくもご評価の声を多く頂くことができました。
現地にご参加いただいた先生方、オンラインでご視聴いただいた先生方、この場を借りて御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

講演1

講演2

 

さて、今回はその吸入薬の中で、ブリーズヘラーについて取り上げてみましょう。吸入薬の落とし穴シリーズ第三弾です。

ブリーズヘラーは、今までは主にCOPDの治療に用いられている「ウルティブロ」「オンブレス」「シーブリ」に用いられる器具です。ここにこの8月、喘息に用いられる薬剤として「エナジア」「アテキュラ」が加わり、全5種類となりました。
特に「エナジア」は、ステロイドと、β2刺激薬という気管支拡張薬の配合に加え、新たに抗コリン薬というタイプの気管支拡張薬も一緒に配合された、本邦初めての3種配合の喘息治療薬となります(他にも3種配合の吸入薬はすでにありますが、現時点ではCOPDのみに使える薬剤です)。
1日1回の吸入で済むこともあり、今後なかなか症状のコントロールが難しい重症喘息の方に良い選択肢になるのかなって思います。

ただ、やはり何度もこちらで触れている通り、吸入薬は使い方が大変重要です。間違って使ったらどんなにいい薬でも効きません。
さて、この吸入器具にはどんな落とし穴が待っているのでしょうか。

この薬剤は下のような器具にカプセルを入れて、横のボタンを押すと出てくる針でカプセルに穴をあけ、それを吸い口から吸うという薬剤になっています。

ブリーズヘラー

まずはカプセルを取り出すときの注意点です。実は上の5種類の薬剤で、「オンブレス」という薬剤だけは通常のフィルムと同様、押し出してカプセルを取り出します。そしてその他の薬剤は、フィルムを剥いて取り出します。このカプセルの取り出し方を間違うとカプセルが潰れてしまい、使えなくなってしまうので、よく説明を確認して取り出しましょう。

ブリーズヘラー

また器具の中にセットした後、横のボタンを押して、それによって出てくる針でカプセルに穴を開けるわけですが、穴を開けずに吸ってしまったら全く薬は出てきません。
それと、ボタンは左右ともあるので、両方とも押すことでカプセルの左右両方から針が出てきて穴を開けられます。しかしか片方しか押さないと穴も片方しか開かず、中の粉がうまく出てこなくなります。
一方吸入するときにはボタンを離さなければなりませんが、ボタンを押したまま吸入すると、当然カプセルは串刺しのままになるので全く薬は出なくなってしまいます(実際に時々見かける落とし穴です)。

ブリーズヘラー

あとは、この器具は、吸うとカプセルが中でカラカラ音を立てて回りながら中の粉末が気道に吸われていくので、そのカラカラカプセルが回る音が鳴ることがうまく吸えた合図になりますが、その音が鳴らないまま吸入を終えてしまうと粉が出てきません。
うまく吸うには少しコツがいる場合がありますので、うまくいかない場合は、処方した医師や薬剤師に相談しましょう。

ブリーズヘラー


最後に、このカプセルは当たり前ですが飲んではいけません。他の内服薬とつい一緒に飲んでしまわないよう、間違わないようにしましょう。

いままでご紹介した他の器具に比べ、吸えていることが自分で確認できるなど、わかりやすさを追求した吸入器ですが、やはり落とし穴はいろんなところに散りばめられています。
わからないことは何でも遠慮なく聞いて使用するようにして下さい!

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

2020.10.07更新

10月からインフルエンザの予防接種を開始しております。
今年のインフルエンザ予防接種はいつもの年とは運用が変わっております。
昨年と大きく変わっていることでいろいろとご不便をおかけしているとは思いますが、なるべく院内での密を回避し、安心してご受診いただけるようにとの策です。どうかご理解いただきますようよろしくお願い致します。

さて今回は吸入薬の落とし穴シリーズ第二弾、タービュヘイラー編をお送りします。

タービュヘイラーは、主に喘息の治療薬であるシムビコート、パルミコート、COPDに対するオーキシスに使われている器具です(シムビコートの後発品であるブデホルという薬剤も、タービュヘイラーに近い器具ですが、厳密には異なるもののようです)。
ここではおそらく一番使っている方が多いであろうシムビコートに焦点を絞ってお話ししてみます。

シムビコート

まずタービュヘイラーの使い方です。

この器具もエリプタと同様、パウダーを吸うタイプの薬剤です。
下の丸い円盤を一度半回転させ、それを戻すことで(クルッカチッ)1回分の薬が充填されます。充填された薬剤を勢いよく吸い込むことで薬剤が肺へ届きます。

この吸い方のコツ、落とし穴はエリプタと共通しています。すなわち吸入する力が弱かったり、吸入時間が短いと、しっかりと肺に薬剤が届きません(シムビコートはパウダーの粒が比較的小さく、一度吸い込むと肺の末梢まで行き渡りやすいといわれているので、すべての方の息止めは必須ではないようです)。

次に円盤の回し方です。
円盤の回し方
この薬剤は円盤を回すと上のタンクから薬剤が1回分落ちてくる仕組みなのですが、しばしば図のように傾けて回してしまうことが少なくありません(これ、自分でもやってみたのですが、立てて回すのって結構意識しないとできないもので、無意識にやると誰もが傾けたり倒したりしながら回すだろうなあと思いました)。

傾ける
傾けると当然1回分の薬剤が充填されない可能性があるので、治療不足に陥ってしまうリスクが出てきます。

またシムビコートはステロイドと気管支拡張薬のパウダーが配合された薬剤です。
同じものに前回お書きしたレルベアやアドエアなどがあります。レルベア、アドエアは症状の強さによって、それぞれ強さの異なる剤型が用意されています。
一方シムビコートは1種類しかありません、ではどのように症状の強弱によって調整するのかというと、1回の吸入の回数を増減することによって行っています。

そこでときどき起こる勘違いです。
例えば1回に2吸入してくださいと指示があった場合、正しくは一度円盤を充填してから(クルッ、カチッしてから)吸入するという動作を2回繰り返すのですが、クルッ、カチッを2度続けてから吸入する方がいらっしゃいます。
2度クルッ、カチッとやると、1回目に充填された薬剤はキャンセルされてしまうので、治療不足に陥ってしまいます。

また、タービュヘイラーには上下部に吸気口があります。

吸気口位置
吸ったときにここから外気を取り入れることで空気の流れを作るのですが、吸うときに指で下部吸気口を塞いでしまうとうまく薬が流れません。

吸気口塞ぐ
一方吸うときに唇を浅く加えると、十分な吸気になりませんが、逆に深く加えすぎると、今度は上部にある吸気口を唇で押さえてしまうことがあり、この場合も薬が出なくなってしまいます。

くわえ方


最後に、この器具、振るとシャカシャカ音がします。
これは薬の音ではありません。中に乾燥剤が入っているためです。
ですので薬を使い切って空になってもシャカシャカ音がしますので、これを「薬が残っている」と勘違いしないように気を付けましょう。

この器具は吸入が一見簡単そうに見える器具なのですが、落とし穴も少なからずちりばめられています。不安な場合はぜひ処方医や薬剤師にお聞きください。

投稿者: 茅ヶ崎内科と呼吸のクリニック 院長 浅井偉信

前へ